色々なIF集   作:超人類DX

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帰還後カオスフラグの始まり


執事と彼女の始まり(ある意味で)

 『外からの干渉』における『破滅』を防ぐには、並の力では足りない。

 それこそ、神をも屠る程の絶対的な力がなければ、均衡を保つことはできない。

 

 

 だからこそ目をつけた。

 

 外からの干渉により道を外され、されど外れたからこそ掴んだ存在を。

 そして神をも屠る可能性を持つ力を覚醒させた存在を。

 

 永久の進化という異常さを持つ青年を。

 

 ………いや、正確には青年の持つその力だった。

 

 故にある者達は彼とコンタクトをとった。

 

 そして彼の持つ無神臓の一部を手に入れ、それで終わりになる筈であった。

 しかしある者達の内の一人が彼を招くという誤算が生じた。

 

 それにより、この外史の行く末が完全に分からないものへと変わっていく。

 力を取り戻し、その元凶となった自分達への報復心を抱く青年の存在が……。

 

 

 

 

 

 個性を失った自分には価値すらも無い。

 力の大半を失い、そしてその力の源である無神臓すらをまともに機能しなくなっている現状は、彼にとって憎悪と嫌悪を増幅させるに十分な理由であった。

 

 そして彼は気づくのだ。

 自分が力の大半を失い、何故未だに取り戻せないのかを。

 

 何者かに奪い取られたのではないのかと……。

 

 

「…………………」

 

「いつぞやに私に対してふざけたことを言ってくれた男ね……。

ふっ、『アレ』が言っていた事が本当ならば、お前を殺せば私の覇道は永遠のものになる……!」

 

「っ……! い、一誠くんと同じ感覚がする……!?」

 

「へぇ? アナタも少しは感じるようね劉備?

ええ、そう……私のコレはこの男の持つ本来の力。

ある理由で私の中に入ったものよ」

 

 

 そしてその答えを知った時――

 

 

「アナタの中にある残り全てを手に入れることで、私は永遠となる……!」

 

「…………………」

 

 

 執事にとっての最大の敵になる――

 

 

「やっとわかった。

何故俺がこんな所に飛ばされたのか。

全ては……俺の無神臓を奪う事だったか」

 

「普通に 喋れたのね……? でも――」

 

「誤算だったのは、俺からスキルを奪うだけだったのが、俺をこの世界に飛ばしてしまった事か。

いや、あのクソ変態カマ野郎が意図的にそうさせたのか……」

 

「……。ちょっと無視は――」

 

「まったく、随分とくだらねぇ事に巻き込んでくれた。

だが解ってなかったな――俺の個性が俺の中から離れた時点で、それはもう個性じゃねぇ。

そして俺の個性は――――――――俺が死ぬまで消えない」

 

 

―――――――――――――――――か、どうかは わからない。

 

 

 

「俺は確かに『本来の俺』ではなくなったのかもしれない。

だが、今となってはそれも最早どうでも良い。

そうなったからこそ今の俺になった……そして後悔はねぇ。

教えてやるよ、 俺本来の無神臓(アブノーマル)を……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを知り、全てを取り戻す戦いが始まるまだ前。

 

 極限の精神状態にならなければ異常性が出てこない事を学習した日之影一誠は、その極限状態をものにする訓練をしている。

 十全発揮できず、欠片にも満たない程までに薄くなってしまったとしても、それでも並の者は叩きのめせるのは呂布等といった武将達を相手に殺し合った時点で知った。

 

 後はそのきっかけを手に入れられる事ができれば……。

 

 

「………」

 

 

 己を知り、そして受け入れる。

 これが個性(スキル)という存在について教えてくれた人外からの第一歩だった。

 だからこそ全てを失った頃へと原点回帰する事で、当たり前であった己の無神臓(アブノーマル)と改めて向かい合う。

 

 

「……………………」

 

 

 サーゼクスやヴェネラナといった悪魔達に対抗する手段――いや、追い付くための唯一の手段。

 人間としての枠を超越して初めて彼等悪魔と同じ土俵へと上がることができると思っている一誠にとって己の個性は切り離せない己そのものである。

 

 この世界がどうなろうが知ったことではない。

 あくまで自分の目標は帰還と壁を乗り越え続けること。

 その為に改めて己と向かい合う事にした一誠は、静かに目を閉じ、どちらかと言えば苦手な精神統一に時間を費やしていた。

 

 

「……………」

 

 

 何故苦手のかというと、元々身体を動かす鍛え方のほうが好きだからというのもある。

 しかしそれ以上にこうしていると余計なことばかり頭の中に浮かび上がってしまうのだ。

 

 例えば、元の時代の事だったり。

 元の時代で関わりの深い悪魔の者達だったり。

 

 

「……」

 

 

 執事としての仕事ならばこういった雑念は無く、必要ならば三日三晩その場から動かずに居るという芸当も可能なのだが、何故かこういった事をすると雑念が多い。

 

 ましてや最近は妙に桃香の顔が浮かんでくる。

 

 

「チッ……」

 

 

 結局精神修行は打ち切ることにした一誠は舌打ち混じりにその場から立ち上がり、全身の関節をポキポキとならす。

 何故一々桃香の姿が頭の中に出てくるのかはイマイチわからないが、多分この世界において最も深く関わってきた相手だからなのだろうと無理矢理納得することにして、修行場その一である山を降りる。

 

 

「くそ、前はババァとかセラフォルーのツラがちらついてたのに、最近はあの女のツラがちらつきやがる……」

 

 

 降りる最中、ぶつぶつと言っている一誠。

 どうやらちらつくようになったのはここ最近の事らしい。

 

 

「そういえば前にサーゼクスとかジオティクスのおっさんが言ってたな。

その人物への想いが強くなると、四六時中頭の中に浮かんでくるとか……」

 

 

 その昔、一誠がまだ10歳くらいになった頃にサーゼクスやジオティクスといった男衆に言われた事を思い出す。

 

 

「つまり、俺はババァやセラフォルーに何かしらの想いを抱いていて、最近はあの女に………?」

 

 

 

 その教えを飲み込むのだとすれば、一誠は現在桃香に何かしらの感情を持っているのだと自己分析をする。

 

 

「……………。って、アホらしい。

ババァもセラフォルーもあの女も単に『アホ』だからってだけの事だろ。くだらん……」

 

 

 だが、即座に否定をする。

 力があるからこそ見捨てられずにいるだけである。

 

 何もないただのガキだったら今頃とっくに――

 

 過去のことがあって力こそが全てと思う一誠は情を否定しながら山を降りる。

 すると山の入り口に人が立っている事に気づいた。

 

 

「おかえりなさい、一誠くん。

修行は終わったのね?」

 

「……………」

 

 

 その人物は桃香だった。

 この世界では唯一一誠の行動パターンを把握している人間故に、どこでどうしているのかの予想はある程度できるようで、待っていたらしい。

 

 

「? どうかした?」

 

「いや……」

 

 

 うん、ないない。

 確かに割りと取り返しのつかないことが五度程あったかもしれない。

 しかしこれはそういう意味じゃないはずだ……。

 

 

「もしかしてあまり上手くいかなかったの? 修行」

 

「……………。普通だ」

 

「ふーん?」

 

 

 実は自分より年上だと以前知った訳だが、どうも年上にはあまり見えない桃香が不思議そうな表情で首を傾げながらも隣を歩く。

 

 

「今日は町の――」

 

「…………」

 

 

 相変わらず隙だらけにしか見えない女だと、呑気な声で話しかけてくる桃香を見て思う一誠。

 しかしここに来てふと気づいた。

 

 

「その後はー……」

 

「おい」

 

「え? どうしたの?」

 

 

 もしかして、いや、確実にそうかもしれない。

 そう思った一誠は少々乱暴な声で桃香に話しかける。

 

 

「………………。体調でも悪いのか?」

 

「!」

 

 

 そう、何時もより……ほんの少しの違いでしかないが桃香の顔色がすぐれない。

 そして歩く速度も心なしか遅い――いや、歩くこと自体が辛いというものを感じ取った。

 

 だからつい声に出してしまう一誠だが、桃香は一瞬だけ驚いた顔を見せただけで、そんな事は無いと首を横に振った。

 

 

「そんな事ないよ? 今日も何時も通りだよ!」

 

「…………」

 

 

 少しオーバーに元気ですアピールをする桃香。

 しかしその時点で完全に嘘と見抜いた一誠。

 

 

「ほ、ほらこの通り………ぁ……」

 

「! チッ!」

 

 

 案の定次の瞬間にはフラリと倒れそうになる桃香を、即座に抱えて支えた一誠。

 

 

「あ、あれ? どうしたんだろう……?」

 

「チッ、そんなザマで何で――」

 

「だ、だって一誠くんの居場所は私しかわからないし……」

 

 

 熱は無いが顔色が悪い。

 流行り病の類いとは違うのだけはわかったが、とにかくこのまま歩かせるわけにはいかないと判断した一誠は、そのまま桃香を横抱きに抱える。

 

 

「クソが……!」

 

「あ、ご、ごめん……」

 

「そうじゃねぇ、アンタの体調の悪さをすぐに見抜けなかった自分(テメー)にむかついただけだ……!」

 

 

 謝る桃香にそれだけを言うと、一誠は今持ちうる力を全開にして町へと走り出した。

 そして町へと戻り、門番を無視して一刀達が住まう宮廷的な建物の扉を蹴り破りながら侵入する。

 

 そして今で言う書類仕事のようなことをしていた一刀達のいる部屋へとたどり着く。

 

 

「ひ、日之影!? ど、どど、どうした!?」

 

「と、桃香様……?」

 

 

 当たり前だが、ほとんどこの場所に寄り付かない一誠が桃香を抱えながら扉を蹴り壊してきた事に驚くのだが、そんなリアクションを待たずして一誠は言う。

 

 

「医者はこの町にいるのか?」

 

「え……」

 

「だから医者はどこだゴラァ!!!」

 

「どわっ!?」

 

 

 この時点でお察しの通り、一誠は現在かなりテンパっていた。

 テンパりすぎて行動が過激なものへとなってしまっており、書類の山を机ごと蹴り壊しながら医者の存在の確認をする。

 

 

「お、落ち着け日之影! わ、わかった医者だな!? た、たしか町に住んでいたから呼んでくるぞ!」

 

「早くしろぉぉぉっ!! 間に合わなくなっても知らんぞぉぉぉっ!!!」

 

「ひぇっ!? わ、わかった! あ、愛紗! 星! 大至急癒者を呼んでくれぇ!」

 

「は、はいっ!!」

 

「な、なんなんだ……?」

 

 

 

 こうして折角建てた蜀の宮廷の一部を破壊されてしまった一刀は、町に住む医者的な住人を呼ぶと、早速別室で桃香を見て貰う事に。

 

 

「……………………………………………………」

 

 

 桃香が倒れたとなれば一大事な為、現蜀の主要な面々が部屋の前に集結しているのだが、彼女達がなによりも驚いているのは、あの一誠が落ち着きもなくうろうろと部屋の前を行ったり来たりと歩いているのだ。

 

 

「お、落ち着けって日之影。

別に命に別状はないみたいだし……」

 

「疲労が原因かもしれないって言っていましたし……」

 

「姉者は皆が見ていないところでも一生懸命だったのだ。

疲れても仕方ないのだ」

 

「……………………………………………………」

 

「………だ、ダメだこりゃ」

 

 

 飼い主レスな犬みたいに落ち着かない一誠に声をかけても悉く無視をされてしまい、お手上げになる。

 

 

「アレだけ感情をむき出しにした日之影は初めて見たぞ……」

 

「やっぱ桃香様の事、大切に思ってたんだな――って、どうしたんだよ二人とも?」

 

「…………いえ」

 

「別に………」

 

 

 素面状態なら即座に否定していただろう言葉すら今の一誠には耳に入らず、若干二名がすさまじく複雑な顔をしていたことにも気づかない。

 

 そんな微妙にカオスな空気が現在時間で40分程経った頃、町医者が部屋から出てくる。

 

 

「どうやら疲労のようで、劉備様の命に別状はございません」

 

「そうですか! だ、だってよ日之影! よかったな!」

 

「……………………」

 

「え、ええ……? さっきまであんな落ち着いてなかったのに……」

 

 

 予想の通り、単なる疲労の蓄積だったらしく全員がホッと胸を撫で下ろす中、一番テンパっていた一誠はそれを聞いた途端、『は? テンパってませんけど?』みたいな態度になっていた。

 

 

「ですが……これはどうやらただの疲労ではないようです」

 

「へ?」

 

「………?」

 

 

 だが、町医者はまだ言いたいことがあるらしく、一誠を含めた一刀達は医者に視線を向けた。

 

 

「恐らくではありますが――」

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――劉備様は子供を宿しております」

 

 

 そして町医者は告げたのだ。

 

 

『……………………』

 

 

 沈黙する一同。

 

 

「…………」

 

 

 目が丸くなる一誠。

 

 

「ですので、今後は無理をさせないほうが懸命かと……」

 

 

 そう言いながら疑惑ありな一刀を見る医者だが、即座に一刀は否定する。

 

 

 

「ち、違うぞ!? お、俺じゃない! だ、大体桃香とそうなった事なんて無いぞ!?」

 

「あらそうですか……? 一刀様はお若いのでてっきり……」

 

「そ、そりゃ色々と否定はできないが、桃香とは――」

 

「わかっております……。

町の住人達もそうではないかとは噂になっておりましたからね」

 

 

 そう言いながら医者は一誠を見る。

 

 

『………………………』

 

 

 そして全員が一誠を見る。

 そう、最早考えられる要因が彼のみなのだから。

 

 

「………………………………………」

 

 

 見られてしまった一誠は動かない。

 

 

「………。うむ」

 

「えーっと、はい」

 

「だってさ?」

 

「えっと、おめでとう?」

 

「「……」」

 

 

 次々と一誠に送られる言葉は微妙なものばかりだった。

 だが、その微妙に生暖かい視線が却って現実味を与えたらしく……。

 

 

「………え、俺?」

 

 

 コミュ障が一時的に消し飛ぶ事になってしまうのであった。

 

 

「………………」

 

「ばっ!? な、縄で自分の首を括ろうとするな!! 全員で日之影を止めろ!!!」

 

 

 

 そして初めて一誠は『責任』という言葉の意味と重さを知るのだった。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 自殺も阻止され、そのまま一誠だけ部屋に通されて中に入ると、横になっていた桃香と目が合ってしまった。

 

 

「………」

 

「一誠くん……」

 

 

 本人もどうやら気づいていなかったらしい。

 少し困惑した眼差しだった。

 

 

「えっと、もう聞いたと思うけど……」

 

「………ああ」

 

 

 互いにかなり気まずかった。

 しかし黙っていても解決なんてしないので、一誠は思いきって訊ねた。

 

 

「どうする……?」

 

 

 何をもってどうするなのかは自分でもよくわからなかった。

 

 

「私は……産みたいよ。

切っ掛けはどうであれ、一誠くんと私の子供だもん……」

 

「そう、か……」

 

 

 意思の強い目に一誠は何も言えなかった。

 

 

「悪い、俺のせいだ……」

 

「違うよ。だって、酔った時の一誠くんは絶対に無理矢理でも乱暴にもしなかったもん。

多分、私が嫌だって言ったら一誠くんはなにもしなかった。

でも……でもね? 私は嫌だって言わなかったし言いたくなかった。だから……」

 

「…………」

 

 

 桃香の言葉を一誠は黙って聞くことしかできなかった。

 

 

「………。余計、死ねない理由ができてしまったか」

 

 

 だけど、この借りだけは一生をかけて返しても返せない。

 それだけは理解できた。

 

 

「私もかな……? あはは、やっぱり私、一誠くんの事好き。

生き方も考え方も真逆で一誠くんはそんな私のやり方を嫌うかもしれないけど、それでも――」

 

「何度も言うなよ……恥ずかしいだろうが」

 

 

 足りない何かを手に入れ、本当の進化を果たす刻が……。

 

「なぁ……」

 

「なに……?」

 

「俺はその……子供が生まれる前までには必ず完全に力を取り戻す。

まだ俺には元の時代に戻らなければならない理由があるんだ」

 

「うん」

 

「それでその……もし、その……もしだ。

その時嫌でなかったら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――いや、多分嫌だといってもアンタを……いや、桃香を俺の時代に連れていく」

 

「え……」

 

「解らないけど、アンタだったらそれでも良いと思うんだよ……クソ、アンタの生き方も考え方も大嫌いなのによ……」

 

「そ、それって……」

 

 

終わり




補足

なんてこった! 帰ったら本当に大変だ!!


ただ、執事の場合完全に受け入れた相手に対して反転して凄まじく大事にする可能性は大。


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