摩訶不思議なパラレルワールドに飛ばされた三馬鹿。
そこで出会った者達は、かの曹操の子孫らしい神牙にとってはショック極まりない者達ばかりだけど、慣れというものは恐ろしいものであり、この世界のご先祖である曹操が金髪少女っぽい見た目だった事を知り、白目を剥き、泡まで吹いて気絶してしまったのをピークに、一々驚く事はなくなった。
それよりも神牙が懸念しているのは、このパラレルワールドが史実とは違う歴史を歩み始めてしまっている事であった。
それは自分達というイレギュラーのせいなのも否定は出来ないにしても、やはり心配にはなるわけで。
例えば、そろそろ蜀としての基盤を固めてもおかしなくないというのに、天然女性にしか見えない劉備は全くその気配が無く、寧ろ少数精鋭の傭兵のように各地を転々として、今で言うボランティア活動に精を出している。
本人は、お上から虐げられている民の為に戦う覚悟こそあれど、その民達を集って軍にするというのは違う気がすると思っているらしい。
それもひとつの考えだし、否定する気にはどうしてもなれないのだが、それでも神牙は思うのだ。
大丈夫なのだろうか……色々と。
「俺達は
互いの故郷を棄て、この星と一体となる
そこには、故郷も思想も、全てが無となる。
俺達は必要とされている場所へ赴き、俺達の為に戦う。
それは国の為でも、政府の為でもない!
俺達は必要とされているからこそ戦う、そして持てぬモノ達の『抑止力』となる!」
劉備の夢の手伝いをする内に、こんな事まで喋ってしまっている事を含めて……。
「だが、綺麗事だけでは生きてはいけない。
時には俺達は『金』で買われる事になるかもしれない、様々な犯罪や反乱に手を貸してしまうこともあるかのかもしれない。
そうだ……俺達はきっと地獄へと落ちる」
元の時代への帰還の為に。
「しかし今の俺達にこれ以上の生き方があるか?
さぁ、自分の隣を見ろ! 理想の為、悲願の為に集った俺達にとって、この繋がりは切っても切れぬもの。
そしてこの生き方は『地獄への道』でもあり、『天国』でもある。
だから決してこの繋がりだけは裏切るな! そしてこの繋がりだけは何があろうとも大切にせよ!
裏切らぬ限り、俺達はお前達の盾となることをここに誓う!」
そして繋がりの為に……。
「お見事です、神牙様」
「あ、うん……」
この世界の未来が暗いものへとなろうとも、何故か関羽に崇拝されちゃってる事も含めて……。
(や、やってしまった……。つい一誠とヴァーリに乗せられてしまった)
暗闇の荒野に、進むべき道を切り開かなければならない覚悟をしなければならないのだ。
結局は放浪者のような暮らしから脱却することなく、傭兵派遣のような真似をする日々は過ぎていく。
そして史実とは違い、自分達の戦いを見て共に戦わせてくれと志願する者達には殆どお断りのお返事をしてしまうせいで、軍の欠片も出来上がらない。
もっとも、明らかに腕に覚えのある者からの志願は『試験』をしてみたりするわけで……。
そんな試験を経て仲間になった者は確かにいる。
例えば、諸葛亮や凰統がそれに当たる。
この二人の場合、まだ完全な放浪状態だった劉備達が偶々村を襲っていた盗賊を追い払った際に目にして――具体的には赤い鎧を左腕に纏った青年が盗賊達をぶん投げている姿に何かを感じ取ったからだったりするのだが、とにかく今現在の劉備軍はとても軍とは呼べぬ、完全少数精鋭の小部隊状態なのである。
本人の意向なので仕方ないのだが、その代わり、少数精鋭だからこそその結束の固さは凄まじい。
最近、その結束の固さが仇になってしまったようだが。
「ヴァーリィィィィッ!!!!」
「イッセェェェェッ!!!!!」
とはいえ、この少数隊の状況が決して良くはないという訳ではないというのがかの有名な諸葛亮孔明こと真名を朱里、鳳統士元こと雛里の考えである。
確かに大義を果たすにはあまりにもちっぽけだし、実際この数の少なさでは劉備こと桃香の掲げる『夢』を叶えるのは難しい。
世の平定が乱れ始めた今の世だからこそ、軍を組織し、世に名乗りあげた方が良いと思うこともあるにはある。
しかし自分達の目的はあくまでも『持てぬモノ達の抑止力となる』事である。
虐げられる弱者を守る為に、虐げられた者達を使って軍を作り上げるのではなく、『己の意思と強い覚悟』を持った者達が結束し、先への道を切り開く。
それを示したのが、天ではなく未来という場所から現れた三人の青年。
異質で異常……各々が一騎当千の先を行く力を持つこの三人の青年が見せる『身勝手』とも言える自由な生き方こそが桃香が抱いた夢の体現者だ。
それを知っているからこそ、義姉妹の契りを交わした関羽こと愛紗と張飛こと鈴々はついていく決意を固めているし、そんな綺麗事にも聞こえる理想に朱里と雛里も協力したいと抱いた。
「ごはっ!?」
「ぐあっ!?」
「相変わらず凄まじい戦いですね……」
「定期的にああやって喧嘩するのがあの二人の楽しみみたいなものだからな」
「あ、あらら……二人して笑いながら殴りあってるや……」
「あわわ……! お二人の手からびゅーんって!」
「はわわ! ぶつかり合うだけで物凄い衝撃です……!」
「頑張れー!」
このやり方が正しいかはわからない。
けれど各地を放浪し、虐げられる者達を守る今の生き方が少しだけ心地良い。
青年三人と出会った彼女達はそう思うのだ。
「くっくっくっ」
「ふっふっふっ」
「くくくくくっ!」
「ふふふふふっ!」
「「はっはっはっはっ―――
――――――はーっはははははははァ!!!!」」
出会い、親友同士となった今でも続くこの喧嘩の勝敗はほぼ五分と五分であるのだが、今回は互いの拳がクロスカウンターのように相手の顔面を叩いたことによる引き分けとして幕を閉じた。
「あいたた……ヴァーリのやつ、ここに来てもサボってはなかったか」
意識を失い、しばらくしてから目覚めた一誠は、顔や身体を痣だらけにしながら、引き分けで終わった今回の喧嘩に少し悔しそうにする。
そんな一誠の治療の手伝いをしているのが、見た目とは裏腹に実は一誠より実年齢が上だったりするチビッ子達こと鈴々と朱里と雛里だった。
「聞いちゃいけない音が一誠とヴァーリから聞こえてたけど、本当に大丈夫なのか?」
「腕とかも曲がってはいけない方向に曲がってましたけど……」
「いつものことだよ、暫くしたら治る」
「何時もながら凄まじい治癒力です……」
天では無く未来から来た三人の青年の内の一人で、一番軽薄で、一番女にだらしない。
されど、妙に波長が合うせいか、あれよあれよと仲良くなった三人は、実は年下の一誠にたいして、互いの年齢が発覚して以降は妙に年上ぶろうとしている。
それは、本人が筋金入りの年上女好きだから……というのもあるが、元々精神年齢が悪ガキのそれ程度に一誠が低いせいなのもある。
先日、とある村をお助けした際に長から貰った傷薬を塗ってあげる三人にとって一誠とはそういう存在なのだ。
それに、以前お助けした集落の長から貰ったお酒を飲めないと言って飲もうとはしなかった一誠が間違って飲んでしまって事による一騒動以降は特にである。
「よし、こんな所なのだ」
「一誠くんなら暫くすればすぐに治りますからね」
「でも暫くは安静ですからね?」
「はいはい」
治療を終え、三人は一誠にそう言うとそのまま一緒になって穏やかに流れる時間を過ごす。
実は現在桃香達は例の金髪曹操が納めている、割りと統率のとれた町の簡易宿に宿泊中だったりする。
どこにも属さず、しかも軍などは無い単なる放浪者な為、門番から通されさえすれば単なる旅人として色々な場所に行けるのは強みである。
「やはり曹操さんの統治する地域はかなり整備が整っていますね」
「これも曹操さんの統率力の強さによるものでしょうか……。
同等なのが洛陽くらいですね」
「食べ物も美味しいのだ」
「伊達に並行世界の神牙のご先祖さんじゃないって事なんだろーぜ。
てかその神牙とヴァーリはどこだよ? 愛紗さんと桃香さんもいねーけど」
「二人なら其々桃香姉者と愛紗とで、見物に行ったのだ」
「どれほど整備されているのか調べてみたいからと言ってましたが……」
「主にそれぞれ桃香さんと愛紗さんがヴァーリさんと神牙さんを無理矢理連れ出していましたけどね?」
「あぁ……そういうことか、ちぇ、ちょっと羨ましいなおい」
若干ふて腐れる一誠。
まあ、年が足りないにせよ、『女性』とデートじみたことをよにりもよって二人に先んじられてしまった悔しさがあるわけで。
「羨ましいのか?」
「そりゃあな。だって……なぁ?」
「「む……」」
それに比べて自分は実は年上だったけど、見てくれが完全な子供三人とこんなのほほんとしている。
それが悪いことととは思わないにせよ、微妙に負けた感がすると思っていると、顔を見て察したのか、鈴々も朱里も雛里もムッとした顔をする。
「いい加減子供扱いはやめるのだ」
「そうですよ……! 一誠くんのほうが年下なのに!」
「立派な女性ですよ!」
「うーん……」
ふんすと胸を張る三人だが、どう見ても背伸びしたがる子供にしか見えない。
もっとも、泥酔していたとはいえそんな三人にやってしまった以上は強くも言えないのだが。
「あれ? そーいやここ最近仲間になりたいって志願してた――えーっと、誰だっけ? 趙雲って人はどうなったんだっけ?」
これ以上つつくと面倒と思い、話題を逸らす事にした一誠は、ここ最近加入を希望してきた変わり者の存在がその後どうなったのかを質問する。
「ああ、趙雲なら試験の相手をして一誠に指一本でのされてからは姿を見せなくなったのだ」
「わざわざうちのような放浪者よりも、趙雲さん程の腕ならば正規の軍に入れるでしょうし……」
「多分そちらの方に行ったのではないでしょうか?」
「ほーん……? まあなんでも良いけど」
どうやら一誠にのされたせいで入隊しなかったらしい。
それはつまり自分のせいなのか? と一瞬思ったりもしたが、雛里や朱里の言うとおり、あの腕ならちゃんとした軍に入れるし、そっちのほうが良いと思うことにした。
………どこかで聞いた名前だった気がしないでもないけど。
「………気になるのか?」
「いや別に?」
「見た目は一誠くん的にどうなのですか?」
「へ? ああ、見た目ねー……まあ、アリだったかなぁ?」
「……一誠くんのスケベ」
「それが俺だしな! なっはっはっはっ!」
「「「むぅ……」」」
こんな日常。
「あの夜、鈴々達にあんなことしたのに……」
「あの夜、子供みたいに私たちに甘えてきたのに……」
「赤ん坊みたいに私たちの胸にあんなことしたのに……」
「なっはっはっはっー! …………………そ、それを蒸し返すのはやめてほしいぜ」
終わり
おまけ、そんな日常(執事)
別のパラレルワールドでは、コミュニティ能力が終わっている悪魔の執事が居る。
困った事にそんな執事が一人でぶっとばされてしまった世界において、飛ばした元凶への報復と帰還の為に奮闘するわけだが、培ってきた力の大半が失われてしまっているに加えて、泣きたくなるコミュ障のせいで全く上手くいかず、結局劉備を名乗る女性を頼りにせざるを得なかった。
しかも最悪な事に、うっかり飲んでしまった酒のせいで、かつてやらかした以上のやらかしをしてしまった。
「その……なんだ日之影。
俺は良いと思うぞ? いつも見てても相性とか良さそうだったし……」
「…………………………」
「そ、そりゃあきっかけこそアレかもしれないけど、桃香は寧ろ望んでた事っぽかったし……」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「ま、まあ二人でよく話し合うべきだぜ! ははっ、はははー!」
そもそも女とどうかするという事自体興味無しで、あくまでも執事の野望は、自分よりも先の領域に立つ魔王を超える事であった。
だからこそ甘んじてこんな小間使いの真似事も受け入れてやってきた。
だがふざけた姿の存在に無理矢理この世界に飛ばされた挙げ句、甘ったれた性格をした――それこそ根本的に自分とは相容れないなんて思っていた相手とそんなこんなのあんなになってしまったなんて――
同じく未来から来た青年こと北郷一刀の愛想笑いを背に、フラフラとお部屋を後にした執事は、軽い自殺願望を増幅させながら宛もなくフラフラとしようとしたのだが、こんな時に限って現状一番会いたくはなかった相手―――――つまり桃香と鉢合わせしてしまう。
「あ……い、一誠くん」
「う……」
流石に何時もはおおらかというか呑気というか、ほんわかとしている桃香も執事との予期せぬ鉢合わせには軽く動揺してしまうようで、暫く互いに向かい合いながら気まずい空気が流れる。
「あ、あの……さ、お外で少しお話しない?」
が、やがて勇気を出した桃香の提案で外で話をすることになり、執事も状況的に逃げることはできずに頷く。
そして外へと出て外れの場所まで歩きながら桃香が口を開いた。
「ご、ごめんね? そ、その……私のせいで……」
「……いや、この件については間違いなくアンタのせいじゃない。
それくらいは俺にだってわかる……」
「で、でもあの時ちゃんと私が説得していたら……」
「説得したところで多分聞く耳持たなかったろうよ……」
「ま、まあ……本当にあっという間に連れ込まれちゃったのは間違いなかったけどさ……」
「……………」
物凄くぎこちない会話をする二人。
そんな時だったか、町外れまで出た途端、執事が頭を下げるのは。
「…………悪かった」
謝って済む問題ではないとはわかっているが、これしかできないからこその本気の謝罪をする執事。
「アンタには世話になってた。
なのに俺は、それを仇で返すような真似をしてしまった……」
「一誠くん……」
そんな執事に桃香はそれは違うと首を横に振る。
「違うよ。
あの夜……私はなんの抵抗もしなかった。
それは心のどこかで、一誠くんとそうなれたらなって思っていたらで……正直、私は今も幸せに感じる。
だから謝らないで……?」
そう、ー刀が義姉妹やらなにやらと夜なると色々と励んでいるのを何度か見てしまってから桃香は執事とそんな未来が来ないかと思っていた。
それが偶々泥酔してしまった時になっただけで、桃香はそれでも幸せな気持ちだった。
「その、一誠くんが未来の世界で大切に思っている人達には悪いと思う。
でも……私、一誠くんが好き」
「……え」
「い、一誠くんは全然私の事をそんな風に見てないし、迷惑にしか思わないと思う。
で、でもね? 嫌そうな顔しながらも私の事をずっと守ってくれたし、色々な事を教えてくれた。
きっと、悪魔って人達はそんな一誠くんが好きなんだろうなって思えば思うほど、私も好きになっていって……」
「……………………」
「だ、だからその……! 私はあの夜の事はずっと――――――あ、あれ? 一誠くん……?」
「………………………………………」
「きゃ!? い、いい、一誠くん!? こ、こここ、ここお外なんだよ!? べ、べべ、別に一誠くんがそうしたいなら良いけど………って、一誠くん? 一誠くん!?」
「…………………」
「き、気絶してる……?」
そして、執事によって凄惨な現実を知っても尚前に進もうとする覚悟をした強さが、執事を少しずつ認めさせたのだ。
気持ちを正直に、まっすぐに打ち明けた瞬間、桃香にもたれ掛かるように気絶をしてしまった執事を抱きながら支える桃香はもうひとつの夢を持ったのだ。
「………………………ぅ?」
「あ、起きた?」
「こ、ここは?」
「私達のお部屋だよ? さっき気絶しちゃったから運んだの……」
「……………………………………………………それはわかったが、この状況はなんだよ?」
「え? あ、えっと……せ、折角だしと思って……ダメ?」
執事と歩む未来を……。
そしてその未来の先は……。
「ねーねー、お父様」
「……なんだ?」
「お母様のどこが好きになったの?」
「………………は?」
「お母様に聞いたら、不器用だけど優しいところだって言ってた。
それでお父様はお母様のどこが好きなのかなって」
「…………。ある意味折れない所かな」
「ふーん? だってさお母様?」
「あはは、改めて言われると恥ずかしいなぁ~」
「…………」
終わり
補足
どこぞの国境なき軍隊化していて、しかもかなりの少数のまんま。
まあ、戦力が三馬鹿居る時点で釣りきちゃうし……。
その2
ちらっと前にやった執事とそれ。
多分だけど、一度でも『愛情』を持ったら、一番中学みたいな恋愛し始めるタイプではある。