※時間稼ぎ嘘予告
ライザー・フェニックスという、悪魔の青年が居た。
彼はその見た目で侮られがちな事が多々あった。
しかしながら実際の彼は根っこでお人好しであり、彼が抱える眷属達は彼のお人好しさに救われた者達であった。
故に、そんなお人好しな彼が、ただの知識程度の見解で仲間達を奪い去られてしまった時、深い絶望と哀しみの果てに到達してしまうのかもしれない。
「戦いに敗れ欲するものが手に入らなかった……それはまさに今の俺達の有り様を意味する。
今の俺達は、深い挫折感と敗北感を味わい傷つき…そして次なる戦いのとき「恐怖」を感じるようになる。
俺は「恐怖」を克服する事が「生きる」事だとあの戦いに敗けることで思った。
世界の頂点に立つ者はッ! ほんのちっぽけな恐怖をも持たぬものッ!! 分かるか一誠?」
悪の救世主としての精神が。
「取り戻すのではない、克服するのだ。
俺達は確かに敗けた……しかししぶとく生き永らえる事ができている。
つまりこれは「試練」なのだ。未熟な己に打ち勝つことで前に進めという『試練』なのだっ!」
燻り続けたその才覚が目覚める―――
「それはわかったけどさライザー―――
――――――――これからどうするんだ? というかそもそも此所って何処だよ?」
「……………………………………」
か、どうかはまだわからない。
これは地の底から這い戻り、そして再び地の底へと叩き落とされた『敗北者達』の記録。
「ここが何処なのかは何となくわかったけどさ……こりゃあ中々に辛いぜライザー?」
「今は生き残れた事を幸運と思うべきだ。
それにここは俺達の生きた時代とは別の時代。
つまり、ここでなら奴等に悟られる事なく再起を図れるというわけだ」
それまでの繋がりも、地位も、名も……そして力さえも失った悪魔と人間の青年。
「キミは、普通の人間にはない特別な力を持っているようだね? それをひとつ、俺達に見せてくれると嬉しいのだが……」
「…………」
再起する為には泥を食ってでも生き延びるという覚悟を。
越えるべき全てを越えるために。
取り戻すのではなく、超えて行く為に。
「マヌケが、知るが良い……! 全てを失った俺達が棄てる事で掴んだ新たな
石の下から這い出るミミズの様だと揶揄されようとも。
「俺の――俺達の『真実』はもう誰にも壊せない……!」
生き残ってしまった宿命の炎を燃やす。
所詮、自分のやって来た事など、『やった気になっていた』だけで何も変わらなかっただけであったと悟らされた。
失った事も、そこから獲た繋がりも、何もかもが似非でしかなかったし、便所のネズミの糞にも匹敵するくだらん『満足感』だった。
だからもう、二度と誰も信じない。
俺という存在のせいでライザーまで巻き込んでしまった。
だからこそもう二度と誰も信じない。
あるのはたったひとつだけ、シンプルな思想だけ。
ライザーを――俺のせいで全てを失ったこの男を無敵にすること。
それが俺のたったひとつの真実。
その為ならば、俺はなんでもしてやろう。
その為ならば、それまでの全てを捨ててやろう。
その為ならば俺は――
敗北し、絶望し、世界から追い出された二人の青年が居た。
間違いなく死んだと思われた二人の青年が居た。
しかし、二人の青年は死んではいなかった。
世界から追いやられ、それでも二人の青年は生きていた。
異なる世界において……。
「自分の前に立ちはだかる壁を乗り越えた時、新たな壁が現れる。
キミ達は今その壁を前に乗り越える事ができなかった。
それは深い挫折と絶望を抱き、やがては恐怖へと変わっていく。
だが、その抱いた恐怖をどうするかはキミ達次第になる。
そのまま目を逸らし、支配される続ける人生を送るか、それでも抗う事を選び、恐怖を克服するのかは自分の意思次第だ……」
全てを利用してでも……。
「人も悪魔も――感情を持つ生物は皆、誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる。
名声を手に入れたり人を支配したり、金もうけをするのも安心するためだ。
結婚したり友人をつくったりするのも安心する為。
確かキミ達に喧嘩を売ってきた者の勢力のひとつの……ええっと、誰だったかな? 名前は思い出せないが、その者は人のため役立つだとか愛と平和のためにだとか言っていたが、所詮それはすべて自分を安心させるためだ
安心を求める事こそが生物の本能だ」
悪に堕ちても……。
「これでわかっただろう? キミ達は敗北した。
何人かは別の勢力に渡ったようだが、それは抗う事を放棄してただの安心を獲る為だ。
だが、俺達の前に来たキミ達は違う。キミ達は抗い、乗り越え、克服した先の安心感を求めてやって来た。
今の俺達は力もなにも全てを失った敗北者だが、だからこそその恐怖はよくわかるし、俺達は克服することを目的にしている。
そしてキミ達の宿した『精神』こそ、俺達の求める『仲間』への絶対条件だ」
それでも恐怖と絶望と挫折を乗り越える為に……。
「待っていたよキミ達のような者を。
そして改めて聞こうじゃないか………キミ達の『欲しいもの』はなんだ?」
二人の青年は地に這いつくばりながらも生きるのだ。
本当の挫折と絶望を知った時、あの人達は私たちの前に現れた。
「キミ達の心の中に、大きく立ちはだかっている『乗り越えなければならない壁』が、俺には見える。
どうだ? ひとつ俺達と『友達』にならないか? キミが俺達に力を貸してくれるのなら、俺達はキミの乗り越えなければならない壁を越える手伝いをしてやろう……」
心の中心に忍び込んでくるような凍りつく蒼い眼差し。
黄金色の頭髪、透き通るような白い肌、男とは思えないような妖しい色気。
不思議で、それでいて何故か安心してしまうその方に、最初は私の親友は警戒した。
そして友達になろうと――とても魅力的に感じたその言葉を友達が突っぱねた。
それ以降、その男の人ともう一人――全てに対して無関心にしか見えなかった茶髪の男の人と会うことはなかった。
けれどあの戦に敗北した日。
全てを喪ったあの日。
仲間も散り散りになって、残ったのは私の親友だけになり、後は死を待つだけになって絶望をしたあの瞬間、彼等は火の上がる城の中をお散歩でもするかのように現れ、私達を城から連れ出した。
そして彼等にそのまま山奥の小さな小屋へと連れられ、話をする内に私達は彼に付いていく事にした。
もう私は世間では死んだ事になっているだろうし、何より私は弱く、何も知らなすぎた。
だからこの人達にひとつの希望を持ってしまったのだ。
それは全てを喪った私の友達も同じように……。
だから私達は名を捨てて彼に仕えることにした。
彼によってもたらされる安心感の為に……。
そしてこの恐怖を克服するために……。
それが私と――唯一傍にいてくれた友達の過去と今。
「ライザーが直でアンタ等に目をかけたから俺は今は何も言う気はない。
だけど、もしライザーを裏切る真似をしたら――俺がアンタ等を殺す」
「は、はい……」
「わ、わかってるわよ……」
「おいおい、怖がらせるなよ? 悪いな……一誠に悪気はないんだ。
ただ、少しだけ過敏になりすぎているだけでな? ほら、落ち着いて飯でも食おうぜ?」
「………ふん」
「「…………」」
意外なほどにこのライザーって方は優しいというか、知れば知るほど人が良すぎて損をする方なんだなって思い、逆に一誠という方は私と友達をとことん警戒している。
もっとも、野盗に襲われた時に助けてくれたりはするけど……。
「天の遣い……だと? その天の遣いとやらにキミ達は敗けたのか?」
「ええ、正確には天の遣いも居た連合軍にね。
アイツ等、月をとことん陥れたあげく……!」
「………。なるほどな、だ、そうだぞ一誠? 本当に、この子達はとことん俺達に似ているようだ」
「………」
「似ている、とは?」
「なに、俺達も過去に似たような事があって世界を追い出された身でね……お陰でこの様さ。
だがマズイな、その天の遣いというのがもし俺達の想像するような者だったら、今は確実に悟られないように行動しなければならん」
「何故よ? あんた達なら――悔しいけど、あの時点でアンタ達を仲間にしなかった事を後悔する程に強いアンタ達なら、天の遣いなんて倒せるでしょう?」
「いいや、俺達は今全盛期とは程遠い程に弱っている。
俺達の想像する存在がその天の遣いだとするならば、間違いなく俺達は殺される」
ライザー様とライザー様が右腕であり、弟同然とも仰る一誠様。
このお二人に暫く前から噂されていた天の遣いについてを話してみると、お二人は警戒していた。
曰く、今の自分達ではどうにもならないほどに強い存在だと。
「じゃあ、その天の遣いの所に恋が降ったのは危険かもしれないわね……」
「……? それは誰の事だ?」
「呂布よ。
かつて私達の勢力の中では抜きん出て強かった武官よ」
「呂布……? なるほど、フー……これは中々難儀だな一誠?」
「……チッ、こんな所で足踏みしている訳にはいかないというのに」
どうやら私達のこれからの道は険しいものになるのだと、お二人の様子を見て悟ってしまった。
でも、私達はそれでもこのお二人に付いていく。
それが例え善ではないにしても……。
「ね、ねぇ一誠? アナタの言う全盛期ってどんな――」
「……」
「む、無視しないでよ……」
「いやホント、悪気はないんだよ。
昔の一誠だったらもっと人当たりが良かったんだが、アイツ、俺の妹や友人を喪ったせいで余計拗れちまって……」
「それは――大変ですね詠ちゃんが……」
私達にとっては、夜空を照らす星のような小さな希望の光なのだから。
これは、失いし二人の義兄弟の再生録。
「ごふっ! く、クソが……! こんなガラクタ同然の武器で……!」
「け、怪我を……! ま、待って、今ボクが――」
「俺に触るなッッ!!」
「っ!?」
二度も喪ったせいで最早ライザーしか信じられなくなってしまった青年。
「これでいい、俺の種族としての特性で簡易的ながらも傷は癒える――命には別状はない」
「よかったね詠ちゃん! ……詠ちゃん?」
「…………………触るなって怒鳴られた」
「あー……いや、今の一誠は極度の人間不信になってて、決して――」
「わかってる……」
「…………………」
支えられることも、肩を並べられることも拒絶してしまう事でその精神は失われた。
「無神臓という精神を喪った。
今のお前は俺以上に――」
「わかってる、イザとなったら俺を見捨てても構わないし迷惑はかけない」
「馬鹿か、喪ったのは俺も同じで、お前は俺にとっての弟も同然だ。
だから何があろうとも俺はお前を見捨てやしない。
なぁに、嫌われ者兄弟としてしぶとく生きてやろうじゃあないか! わはははは!」
「…………」
力を失い、ぽんこつと化しても変わらないのはライザーだけだった。
しかし、だからこそ一誠は地に落とされた彼だけは再び這い戻されようと――その為ならばなんでもするという『黒い炎』を抱く。
その意思はやがて、無神臓ではない精神を宿らせ、そして月という少女を守る為ならば血に染まる覚悟を宿した少女にも似ていた。
「アナタの気持ちはわかわるわ。
ボク自身が弱かったから、月を守れなかった、だから今度こそ、それこそどんな手を使ってでも守る……!」
「………」
それはやがて漆黒の意思という炎へと変わり、ライザーと月にとっての『牙』と『盾』になる。
「一誠の心にボクの心が繋がった時、その力は『絶対』に『越えて行く』!!」
そして………。
「レイヴェルってどんな人だったの……?」
「…………………」
過去からの恐怖と今一度向かい合う時、無神臓を越えて行くのかもしれない。
「あ、いやその! べ、別にアンタが過去にどんな女となにしてたかなんてどうでも良いし? ただちょっとだけ気になっただけだから言いたくないなら言わなくて良いからね!」
「……………………………………」
始まりません。
補足
恒例の無神臓が消えるなにかがあったら的な話。
その場合、完全なる漆黒の意思が搭載されてしまい、絶対殺すマン的ななにかがオンになるやもしれない。
そしてライザーさんは声的にオーバーヘヴン化しちまうかも……。
その2
まあ、クロス先はマジに適当でした。
鳥猫のお人好しライザーならば気も合うかなぁと。
ちなみに、DIO様ムーブ化してますが、基本お人好しなのは変わってません。
その3
互いの漆黒の意思が融合することで、絶対殺すマンと絶対干渉されないマンが融合してヤバイ事になる……のかは誰も知らない。