色々なIF集   作:超人類DX

732 / 1034
声を聞いたその瞬間、そのスイッチは壊れる


スイッチON

 突如として出現した三人の青年は、本人達の知らぬ所ながらも『奇跡の存在』として見なされていた。

 

 聖遺物に一切頼らずに災害を破壊する力。

 人智を越えたフィジカル。

 

 その力は少しずつ各国の所謂偉い人達に知れわたり、知らぬ間にそんな人材を抱え込んでいた二課に対する日本政府からの要請も何度となくあった。

 

 

『彼らの素性・力の源――その全てを解析せよ』

 

 

 はっきり言えば彼等の存在は可能性の宝庫である。

 だからこそ解析をする事に拘る者達は多くいるし、その中に紛れ込んでいる者の一人は、三人の青年達に『英雄』の素質を見出だしたりもした。

 

 だが三人の青年に英雄というのもへの情景はまるでない。

 あるのはただ、毎日気儘に好きな事をしたり、バカな理由で喧嘩したり、肩を組ながら笑い合う日々だけ。

 

 

 その為だけに――その自由の為だけに戦い続けた事を。

 世界そのものと戦い、勝利したチームのメンバーである事も……まだ誰も知らない。

 

 

 

 そして………。

 

 

 

 

「私の名はフィーネ、終わりの名を持つ者」

 

 

 

 

「我ら武装組織フィーネは、日本政府に要求する――」

 

 

 

 

 

 

 

「神滅具というものを宿す三人の青年の身柄を!!」

 

 

 

 この瞬間、三人の青年の内の一人がこれまで封じ込めていた恐怖と憎悪を蘇らせる引き金を引いてしまう事で、彼等というこの世にとっての『害』というものが獣のような咆哮と共に解放されるのだ。

 

 

 

「引き渡してくれたら人質は解放―――え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日の朝刊載ったぞテメェ……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真の意味での過去に打ち勝つ『試練』が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ――そして仲間と呼べる者達にとって、ここ二ヶ月の間に日本に現れた謎の三人組は確実に邪魔となる者だった。

 だからこそ、逆に彼等を取り込むことさえできれば、世界を相手に宣戦布告をしても屈服させることも出来ると思った。

 

 思ったからこそ、今回のライブを利用して世界に向けて決起めいた宣言と共に彼等へのアプローチをしたのだが、まさか何度か顔写真つきのデータで見たその人物の一人がこの会場に居るとは思わなかったし、何なら何故か――鬼のような形相でステージへの階段をゆっくりと上がってきた。

 

 これにはマリア本人もびっくりだった。

 

 

 だがそれ以上に―――――

 

 

 

「ぶべがっ!?」

 

「ひゃーっはははははっ!!」

 

 

 何故自分はシバき倒されているのだろうか? 聞いていたものとはまるで違う――それこそ血餓えた野獣のような形相で殴り飛ばされたマリアは、痛いとかよりもただただ疑問でしかなかった。

 

 

「な、なんで彼がここに!?」

 

「そういえば立花の友達の小日向という子に誘われたらしい。

しかし一度は断った筈だが……」

 

「え、そ、そうなの? いやそれよりマリア・カデンツァヴナ・イヴが……」

 

「ああ、見事にシバき倒されてるな……」

 

 

 そのあまりにもシバかれっぷりに、突如出現したノイズ達に大騒ぎになっていた一般人オーディエンスも、気付けば、黒いガングニールを纏ったマリア・カデンツァヴナ・イヴに、某スタンドラッシュをのような速度の拳をぶちかましている謎の青年に注目してしまうし、なんなら一般人達を囲んでいたノイズ達も心なしか青年に引いてしまっているように見えた。

 

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!」

 

「ひぎぃ!? や、やめ――」

 

「ドラァ!!!」

 

「おごっ!?」

 

「ドララララララララララララララララァーー!!!!」

 

「ぎぃっ!? こ、この――おぼっ!?」

 

「無ゥ駄ァ無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!」

 

「ひぎゃぁっ!!!」

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYー!!!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーー!!!!」

 

「ヤッダーバァアァァァァアアアアア!!!?」

 

 

 

 もう、引くほどボコボコだった。

 フェミニストに真正面から喧嘩でも売る程度にボコボコだった。

 世界に中継中なのにボコボコだった。

 

 

 ただただマリア・カデンツァヴナ・イヴは運が悪かったのだ。

 

 

「と、止めるべき……か?」

 

「俺が止めるさ。

そうか……そういえばそうだったな、あの女の声に似ていたから」

 

「声……?」

 

「ツバサはここに居ろ。有名になった今、目立つべきじゃないからな」

 

 

 

 その歌声――その声が封じ込めた彼の過去へのトラウマを復活させてしまったのだから。

 

 

 

「が……ぁ……!」

 

「おーやおやァ……? まぁだ生きてるのか? 案外しぶといなぁ?

クックックッ、ま、楽に殺さねぇ程度にはかなり手加減してやったから? まだまだ楽しい時間は続くぜ?」

 

「ひ……!」

 

 

 

 黒いガングニールごと拳のラッシュを叩き込まれてしまい、ステージの壁を破壊しながら崩れ落ちるマリアに、今までに見たことの無い憎悪の入り交じった凶悪な笑みを浮かべる赤き龍の籠手を纏う青年が既に動けないマリアへとゆっくり近づく。

 

 

(な、なんなのよ……! 聞いていたのと違う……! こ、コイツはたしか三人の中でも女にだらしなくてアホだって……!)

 

 

 一気に戦闘不能に追い込まれてしまったマリアは左腕全体に赤き龍の籠手を纏う青年――一誠が事前に把握していたデータとはまるで違う事への困惑と恐怖をただただ抱いてしまう。

 

 

「クックックッ……! クックックッ!!」

 

(こ、このまま……では……!)

 

 

 殺される。そう思って抵抗しようにも、先程まともにくらってしまったラッシュで全身を痛め付けられてしまい、満足に指すら動かせなくなってしまった。

 そしてそんな事などお構い無しに崩れ落ちるマリアの目の前までやってきた一誠は、殺意剥き出しな形相のまま左手に禍々しく輝く光の弾を生成し、マリアに向ける。

 

 

「ビッグバン――」

 

(せ、セレナ……)

 

 

 人間、死ぬ時は走馬灯が頭の中で流れると誰かが言っていたが、本当に流れるのだとここで理解したマリアは、血のように輝く光を向ける彼の力によって呆気なくこの世から―――

 

 

「やめて一誠さん……!」

 

「馬鹿が、周りが見えてなさすぎだ!」

 

「!」

 

(!)

 

 

 消えることはなかった。

 彼を止める第3者によって。

 そして、援軍として現れた彼女自身の仲間によって。

 

 

「マリアはやらせない……!」

 

「大丈夫デスかマリア!?」

 

 お小遣いをくれるからと翼のマネージャーのお手伝いをするようになったヴァーリと、折角チケットが手に入ったからと一人でやって来ていた未来に止められる一誠と、ズタボロにされたマリアを庇うように立ちはだかる見知らぬ装者の少女二人。

 

 

「なんだガキ共? 出で立ちからして装者らしいが、邪魔するなよ―――――コロスゾ?」

 

「が、ガキじゃない……!」

 

「馬鹿にするなデス…!」

 

「あっそう、それじゃあそのまま纏めて――」

 

 

 

 緊迫するこの状況でも一誠は止まらない。

 まるで何かに怖がっていて、その恐怖の元を確実に消し去らんするように。

 

 

「よく見ろ、声こそ似ているかもしれないが、その女はあの女悪魔(リアス・グレモリー)ではない。

ただの関係ない一般人だ……!」

 

「………っ!?」

 

「だから来ないってこの前言っていたのに、どうしてここに……?」

 

「……チッ」

 

 

 だがヴァーリと未来による説得と、確かに彼女は声こそかつてのトラウマの元と同じだが、違う存在であると理解はしたのだろう。

 漸く険かった表情が引っ込む。

 

 

「………」

 

「まったく、これは始末書どころじゃなくなったぞ?」

 

「多分世界中に知られたかも……」

 

「ああ……おいキミ達、なんの理由で騒ぎを起こしたのかは知らないが、一誠の気が変わらない内にさっさとその女を連れて去れ」

 

「「………」」

 

 

 本当はこのまま捕縛すべきなのだが、恐らく一誠が再びキレる可能性の方が高いので、一旦は見逃す事にする。

 

 そして一瞬でマリアが八つ裂きにされたのもあるし、状況からして確実に不利を悟った少女二人は、一気に冷めた顔をしている赤き龍とやらを宿しているらしい青年を一瞥しながら、マリアを抱えて退却する。

 

 こうして武装組織を名乗る者達の初陣はものの見事に滅茶苦茶にされてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 武装組織を名乗り、ノイズをばら蒔いたマリア・カデンツァヴナ・イヴを結果的には撃退したということを踏まえても、世界中継中にやらかしたせいでマリア・カデンツァヴナ・イヴのファンからの大炎上を買うことになってしまった一誠。

 

 が、それと同時に素手でノイズを叩きのめす映像も公開されたお陰で、微妙なリカバリーが出来たものの、彼の存在は一気に世界の一般層に知られてしまった。

 

 

「あの女悪魔って誰のことですか?」

 

「…………………」

 

 

 だがそれ以上にここ数ヵ月彼の近くで色々な体験をした者達にとって、ヴァーリが止める際に口にしたあの女悪魔――つまりリアス・グレモリーとは誰の事なのかと問い詰められてしまうことに……。

 

 

「声が嫌だってこの前も言っていたけど、マリア・カデンツァヴナ・イヴとそのリアス・グレモリーってやつの声が似てるって意味なのか?」

 

「……………」

 

「未来も言っていたけど、正直、あそこまで感情を剥き出しにしている一誠君は見たことがないよ……」

 

「……………………………………」

 

 

 だが本人は完全に黙秘を貫いている。

 一体リアス・グレモリーとは誰なのか。どんな関係だったからあそこまでの憎悪を――ただ声が似ているだけの赤の他人に向けるのか。

 

 それを未来や響やクリスは知りたかった。

 

 

「あの蜂起めいた宣言の直後に一誠がマリア・カデンツァヴナ・イヴを半殺しにしたせいなのか、その後フィーネなんて名乗っちゃっている武装組織の動きは無い」

 

「ある意味あの騒動のおかげで下手に動けなくなったのではないかって司令さんも言ってたね」

 

「………」

 

 

 本人が実はしれっと生きているのにフィーネを名乗る武装組織のその後は宜しくない状況との事だが、それよりもやはり何故マリア・カデンツァヴナ・イヴに対してああも殺意丸出しだったのかが知りたい。

 

 ヴァーリと神牙がその理由を知っているのだろうが、やはり本人の口から聞きたい訳で。

 

 

「そんなに言いたくないのなら別に聞かねーけどよ……」

 

 

 けれど、何時になく頑固に口を開こうとしない一誠に、相当な事があったのだろうと察した三人は聞くことを半ば諦めた。

 多分、聞かれたくないほどに強烈ななにかがあったのだろうと……。

 

 だからこそそのリアス・グレモリーという間違いなく女性である存在が――女悪魔という嘘みたいな単語含めて気になるのだ。

 

 

「ありゃあ相当だな」

 

「いつもはヘラヘラしてるのに、この話題になると決まってああなるもんね」

 

「近くで見てたけど、あの時の一誠さんの怒り方は異常だったわ」

 

 

 ツーンとしたままふて腐れたように背中を向けてしまった一誠に、クリス、響、未来は顔を寄せ合いながら小声で話し合う。

 どうにも一誠の過去が気になる者同士なせいか、ここ最近の三人は普通に仲が良くなっているらしい。

 

 

「元カノ……とか?」

 

 

 そんな話し合いの果てに響がボソッと呟いた時だったか……。

 それまでツーンとしていた一誠が急に口を開いた。

 

 

「おい、頼むから妙な勘繰りをやめてくれくれ。

元カノだぁ……? 冗談じゃねぇ、虫酸が走る……!」

 

「あ、ご、ごめん……そんなつもりじゃ……」

 

 

 心底嫌悪にまみれた顔で言われた響は謝る。

 

 

「…………いや、俺もごめん」

 

 

 だが何も知らない響に当たるべきではなかったと一誠も謝ると、大きなため息を吐き、嫌そうに口を開く。

 

 

「元カノじゃない。

ただ……ガキの頃ちょっとだけ好きになりかけた相手なだけだよ」

 

「「「…………」」」

 

「で、まあ色々あって嫌いになった――それだけだよ」

 

 

 好きになりかけたという言葉に、三人は「あ、やっぱりそんな感じなんだ」と納得する。

 恐らくその感情から何かが原因で一転して憎悪に変わったのだろうと。

 

 

「もういいだろ俺の事なんか。

思い出したくないんだよ」

 

 

 そしてその過去を避けているのだと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か……勝手に名前使われてるんだけど。

 

 と、自分の名前の武装組織に軽くイラッとするモノホンのフィーネは、妙にテンションの低いクリスを密かに呼び出し、愚痴っていた。

 

 

「名前の使用料とか払って欲しいわ」

 

「ああ……」

 

「ただ、『器』が居たのよねぇ……。

いや、でも本人ここに居るし……うーん」

 

「ああ……」

 

 

 妙に俗っぽいことを言うようになったのは、三馬鹿による影響なのだろう。

 使用料の請求がしたいだのなんだのとブツクサ言っているフィーネに生返事ばかりなクリス。

 

 

「………。どうしたのよ? あの赤龍帝についてかしら?」

 

 

 お陰で微妙に丸くなっているフィーネは、上の空状態のクリスに気づき、問いかける。

 元をたどれば自分が命じた事もあるので、容易にわかってしまう辺りは流石といえよう。

 

 

「神牙の馬鹿も言っていたわね、彼の過去のトラウマに直結する女の声に似ていると……」

 

「………は? 聞いたのかよ?」

 

「ええまあ……あんな憎悪と殺意を丸出しにする彼を見るのは初めてだったのでね」

 

「………それってリアス・グレモリーとかいう女のことだよな?」

 

「悪魔という種族の女らしいわね。

どうやらあの三人が生きていた世界は――この世界よりもはるかに混沌とした世界だったらしいわ。

あの反則じみた力も納得だわ」

 

「ちょ、ちょっと待て!? な、なんでそこまで聞いてるんだよ!?」

 

「? 教えろと言ったら結構普通にしゃべったわよ? ただ、アナタがお熱になっている赤龍帝の過去については知っていても教えるわけにはいかないと言っていたけど……」

 

 

 間違いなく喋ったのは神牙だろう。

 妙にドヤァと得意気になっているフィーネにクリスは微妙な気分になりつつも、三人が生きた世界がとんでもない所だったことを知る。

 

 

「悪魔・天使・堕天使・ドラゴン等々の生物が一般の人間には知られてないとはいえ生きているどころか、其々社会を形成しているらしいわ」

 

「マジかよ……」

 

「ちなみにあの三人の面倒を見ていたのが堕天使と天使らしいわね。

聞けば、あの三人よりも更に強いとか……」

 

 

 三人の反則じみた力の理由を知れた気がしたクリスには、あまりにも壮大すぎて少しだけ信じられない。

 

 

「まあ、今はそんな事よりも私の名を勝手に使っている連中からの使用料をどう徴収するかだわ」

 

「……」

 

 

 頑なに話そうとしない理由の一端を知った気がしたクリスは、あとで響と未来にも教えようと考えるのだった。

 

 

「―――てな訳で、アイツ等って思ってた以上に凄い場所から来たみたいなんだ」

 

「そうなんだ……」

 

「だからあんなに強いのね」

 

 

 早速響と未来に連絡を取って合流し、仕入れた情報を話すクリス。

 それを聞いた二人も流石に架空と思い込んでいた生物達がいきる世界に驚いたものの、よくよく考えたらノイズやらシンフォギアなんてものがあるこの世界も中々普通じゃないと割りと早めに飲み込んだ。

 

 

「ノイズが存在しない世界ってどんな世界なんだろうね?」

 

「曰く、一般の人間は悪魔とかの事は知らないで普通に生活しているんだと。

だからノイズが存在しないだけ平和なのかもな……」

 

「じゃあ一誠さん達は一般人ではないって事よね……?」

 

「そうなる……よな」

 

 

 そうでなければアレほどのパワーは持てないと思う。

 未来の言葉に小さく頷くクリスは、やはりリアスなる悪魔が気になる。

 

 

「どっちにしろ、一誠が武装組織に先制攻撃したおかげで、かなり活動を押さえ込めたらしいし、あれだけボロカスにやられちまってんだ。

暫くはまともに動けないだろうぜ……マリア・カデンツァヴナ・イヴは」

 

「なんとか穏便にできないかな……?」

 

「一誠さん自身が過去を克服しないと無理だと思う。

あれは相当根が深そうだったし……」

 

 

 未来の言葉に、響とクリスは無言で頷く。

 そう、結局のところマリアに関しては一誠自身が過去を克服しないかぎりは決して相まみえる事は不可能なのだ。

 

 

おわり

 

 

 

 ヴァーリは考えた。

 リアス・グレモリーに似た声のあの女――つまりマリアとかいう女と出会す度に一誠が暴走してしまうのを防ぐのと、あの騒動で彼女のファンから総スカンを食らっている状況を沈静化させるにはどうすべきか? そう、同じように有名人になればいいのだ。

 

 

 なんてよくわからん思考に到達した天然お馬鹿なヴァーリは動いた。

 

 

「あ、アイドル……?」

 

「ああ、お前に対する炎上を納めるには、奴等と同じ土俵に立ち、その上で勝つしかない」

 

 

 突拍子の無さは三人共通だけど、今回ばかりは意味がわからないと一誠は思うが、勝手にヴァーリは動いてしまっており、ここ最近な櫻井了子の軽い奴隷化している神牙やら弦十郎やらといった面子をかき集めると、彼は80年代後半のアイドルが着そうな衣装を渡す。

 

 

「取り敢えず地道に動画にして発信するぞ」

 

「だ、だっせぇ……」

 

「こ、これを着て歌って滑って踊るのか? この歳で……」

 

「何故センスが古いんだ……」

 

 

 勿論難色を示すが、妙に燃えているヴァーリに圧しきられてしまい、結局練習し、動画にして投稿してしまう。

 

 まあ、どうせ誰にも知られるわけもなくそのまま埋もれておしまいだろう……なんて思っていたのだが、どういう訳かSNSの口コミで徐々に広まってしまい、二度目の動画投稿の時点で800万再生という意味不明なバズり方をしてしまった。

 

 

「よし、今回は趣向を変えてゲーム実況をするぞ。まずは一誠だ」

 

「あ、ああうん……」

 

 

 その勢いに乗ってゲーム実況動画を作成。

 微妙に下手くそながらもちゃんとプレイしようとする姿が10代前半の子供層にバカウケし、300万再生を叩き出す。

 ヴァーリはラーメン屋巡りを動画にして年上の女性層にバカウケ。

 

 神牙はSっ気の強めの女性層にバカウケし。

 

 弦十郎はリーダー枠として老若男女関係なくウケた、

 

 

 結果、たった一週間で一気にブレイクしてしまった勢いそのままに風鳴翼との歌コラボ動画で更なるバズりに……。

 

 それは宣戦布告初日にズタボロにされて治療中の武装組織メンバーにも……。

 

 

「こ、この男よ……! この男に私はボコボコに……!」

 

「「………」」

 

 

 ズタボロにされて憤慨するマリアと、何故かじーっと見ている仲間の少女二人。

 ほぼほぼコイツのせいでこんな目にあったのだと怒るのも当たり前だし、復讐心すら燃やすのも普通のことだろう。

 

 

「ぜ、絶対に許さないわ……! 絶対に……!」

 

「「…………」」

 

「そうでしょう調! 切歌!」

 

「………え、うん」

 

「そう……デスね」

 

 

 弱体化中の武装組織の災難はまだ続く。

 

 

嘘です。

 

 

 

 

 そのトラウマがなんであろうとも、その両手を血に染めていようとも、この奇跡のような出会いはきっと運命のひとつである。

 そう思うからこそ、過去を克服できることを願う少女達がいる。

 

 未来にとって、響にとって――そしてクリスにとって、彼は今という繋がりを得ることできた存在なのだ。

 

 

「敵うとか敵わないとか、勝てるとか勝てないとかの問題じゃねぇ。

今ここでお前を止めなきゃ、アタシ達は死んでも死にきれねぇ……!!」

 

「偽善なのかもしれない、ただの自己満足なのかもしれない、要らないお節介なのかもしれない……!」

 

「けど、それでもアナタを止める……!」

 

 

 すべてを壊すことで試練に打ち勝とうとするのではなく、その過去からの恐怖を認めた上で克服して貰うために。

 

 本当の意味で自分の道を歩んで貰うために。

 

 赤き龍帝の系譜となりし少女達はその壁を乗り越える。

 

 

「そのための覚悟はとっくに入っている……! それがアタシの夢神臓(ゴービヨンド)だ!」

 

「私達の覚悟は! 暗闇の荒野に 進むべき道を切り開く事!!」

 

「そして、真実から出た真の行動は……決して滅びはしないっ!!」

 

 

 抱いた心の炎を燃やした時こそ、届かぬ領域へと到達するのだ。

 

 そして……。

 

 

「ちょ……っと、待て……! し、知らんぞ! 俺は知らねぇぞ!?」

 

「知らねーぞってお前……」

 

「これは知らんでは済まんだろ……」

 

「ほ、本当に知らないんだよ! つ、つーかあり得ねぇだろ!?」

 

「あり得ないどころか現状一番あり得るだろうに……」

 

「まったくだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うよな? いや無いよな? だって覚えないし俺……」

 

「…………………。正気じゃなかったのだけはわかるよ。

明らかにおかしかったしなお前……」

 

「ただ、うん……そのぉ……」

 

「痛かったなぁ……最初は」

 

「」

 

 

 

 盛大な大事故がどこかで勃発するかは知らない。

 

 

 

 

嘘です。




補足

鬼ラッシュのせいで死にはしなかったけどしばらく再起不能に……。

つまり、互いの印象は普通に最悪です。


その2
最早普通に神牙君に仕返しする日々の方が楽しくて仕方ない櫻井さんなのだった。


その3
前日の記憶がない……ここがミソ(嘘だけど)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。