色々なIF集   作:超人類DX

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人の成長は、未熟な過去に打ち勝つということ……。


……的な始まり。


克服への始まり

 立花響にとって、ここ数ヵ月の出来事はきっとこれからもまだある人生の中でも普通に濃くて劇的なものだったといえよう。

 

 それなりの日常から、ラーメン代が無くて軒先で店主に土下座噛ましている三人の青年との出会い。

 シンフォギアに選ばれてしまった事。

 

 慣れぬノイズとの戦いの際に『ラーメン代を貸してくれたから』と乱入してきた青年三人組が、シンフォギアとは似て非なる力を持っていて、ノイズ達をインスタント食品感覚で捻り潰す姿を目の当たりにしたこと。

 

 暴れすぎて組織に取っ捕まっても、カツ丼やらラーメンやらバーガーをデリバリーしろとのたまうふてぶてさを見たこと。

 

 結果清掃員としてアルバイトすることになったのを聞いた事。

 

 まだツンツンモードだった先輩の翼に認められるにはどうしたらと悩んでいた時期、鍛えてくれた一誠との始まりの事。

 

 赤き龍の力を始めて分け与えて貰った時に起きた死ぬほど恥ずかしいアレコレだったり。

 

 親友に秘密にすべきなのかと思っていたたら、一誠が平気な顔で親友に自分がここ最近に起きた事を喋ってしまって微妙な空気になったこと。

 

 心配した親友までギアを持っている訳でもないのに一誠に鍛えて貰うことになり、一緒にトレーニングをするようになったこと等々。

 

 

 実に中々濃い時間を過ごしてきた響は、一誠に鍛えられた影響によって、信じられぬ速度の成長をしていた。

 ガングニールを纏うけど、基本素手でノイズをぶっ飛ばす姿は、実に一誠と似たスタイル。

 

 皮肉にも、何度もアームドギアの生成に失敗してきた本来の時間軸の響と似ているのだが、その意味はまるで違う。

 

 赤き龍の籠手を左腕に纏うあの姿を。

 

 全身を覆う赤き龍の鎧姿を見てきたからこそ、立花響はその左腕に纏うのだ。

 

 大分スケベで、ふと目を離すといっつも20代中盤以降の女の人に鼻の下を伸ばしているだらしのない彼の……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、今日も待ってるみたいよ?」

 

「本当に毎日決まった時間になると門の前で待っているのよねぇ。

何度か話をしたこともあるけど、妙に犬っぽいというか……スケベだけど」

 

「そうそう! まるで飼い主を待っている飼い犬って感じよねー?」

 

「い、犬って……」

 

「……。まあ、ある意味当たらずも遠からずって所ね」

 

 

 されど妙に律儀な彼との不思議な時間はまだ続くのである。

 

 

 

 

 

 

 

 今にして思えば、普通にしょうもなかった理由の大喧嘩によって別世界へと飛ばされた三馬鹿に帰還の目処はなかった。

 そもそもパラレルワールドという概念こそ人外によって教えられていたので知ってはいたが、自分達がそんなパラレルワールドに迷い混むとは思わなかったし、帰るのがこんなに難しいとも思わなかった。

 

 それこそ力技で強引に次元を抉じ開けるという方法が無くもないが、それをしたらこの世界に多大な影響が与えられる可能性もあるし、何より罷り間違って自分達の世界とこの世界が繋がってしまったらそれこそカオスになりかねない。

 

 ただでさえ元の世界は色々とめちゃくちゃになってしまったのだ。

 自分達が元の世界に帰る為だけに無関係な世界を巻き込んでしまうわけにはいかない。

 

 そんな訳でスマートに帰還する方法を一応は模索中の三馬鹿なのだが、基本的に揃って脳筋タイプなので見つかるわけもなく、ズルズルとこの世界での生活を過ごしていった。

 

 

「禁手化・赤龍帝の鎧+硬度10ダイヤモンドパワー!!」

 

「禁手化・白龍皇の鎧+硬度10ダイヤモンドパワー!!」

 

 

 その存在により、とある者達の運命がそこそこごっそりと変わっていることを全く知るわけもなく。

 ノリと根性と安心院なじみからかつて渡され、読みふけった結果模倣してみた技術でノイズ達を元気にブチのめしている。

 

 

「千兵殲滅落としぃぃぃっーーー!!!」

 

「地獄の断頭台ぃぃぃーーーっ!!!」

 

「ゲゲェーッ!? ノイズがバラバラになったー!?

 

「きゅ、急にどうした立花?」

 

「――――ハッ!? い、いや、なんとなくリアクションしなくちゃいけないのかって思いまして……」

 

「ていうか、アイツ等無駄に引き出しが多すぎだろ……」

 

 

 其々神器の基本形態で鍛え続けたことで禁手化や覇龍形態といったものをほぼ使わなくなった一誠とヴァーリは、珍しく禁手化の鎧を纏い、更に安心院なじみにかつて読ませて貰った超人プロレス漫画から拝借した技術を盛り込み、結果鎧状態でなら硬度10ダイヤモンドパワーを再現可能にしたらしく、現在そのパワーを使ってノイズ達にド派手な超人必殺技をぶちかましていた。

 

 

「アロガント・スパーク!!」

 

「輪廻転生落としーっ!!」

 

 

 

 それを見て何故か響がソッチ寄りのリアクションをしてしまうのはご愛敬である。

 というか、これまで結構どっぷりと一誠に鍛えられてきたせいで斜め上の成長をしてしまっている響も響で割りと滅茶苦茶な戦い方になっているのもご愛敬である。

 

 そんな三馬鹿達がこの地で迷子になってから約三ヶ月。

 

 困ったことに、ある日を境にフィーネが活動を停止してしまったお陰で、月がぶち壊されるといった事が無くなってしまい、割かしの平和な状況が続いていた。

 

 皮肉にも、存在しない筈の三馬鹿の出現が完全な抑止力となってしまっているのもそうだし、三馬鹿の一人である神牙とのToLOVEるの連続のせいで、すっかり野望が神牙への仕返しに変わってしまった――という事実を知っているのは、雪音クリスのみ。

 

 そのクリスも、当初はパーソナルカラーが丸かぶりしているという訳のわからない因縁をつけてきた一誠の滅茶苦茶さに巻き込まれていく内に、二課に保護され、アルバイトすることになってしまった訳で……。

 

 

「はぁ? 風鳴さんのマネージャーの手伝いだぁ?」

 

「ああ、頼まれたんだ。

やってくれたらお小遣いをくれるっていうから……」

 

「………まあ、お前が嫌じゃなければ良いと思うぞ」

 

 

 

 

 

 

 ぎぇぇっ!? ち、違う! 俺はただ…――

 

 

 

 

 

「あの神牙(バカ)もあんな感じだしよ」

 

「またやったのか? 最早呪われてるとしか思えんぞ」

 

「………」

 

 

 正直、このままの方がフィーネが怖くなくなる。

 そんな事を密かに思うクリスは、今日も元気に櫻井了子として神牙との事故で大騒ぎする声をBGMに、せっせと床の掃除をするのであった。

 

 

 

「おい、こっちは終わったぞ」

 

「ん? おお、そうか。

それじゃあ残りは俺たちでやっておくから、雪音は先に上がって良いぜ」

 

「残りは男子トイレや更衣室だからな」

 

 

 当初は何で自分がこんな場所で掃除仕事なんてしなければならないのかと思いもしたが、今現在はそこそこ順応をしている。

 三馬鹿がアホなのに、仕事となれば結構真面目にする姿を見て意外性を感じたのもそうだが、特に一誠がどれ程に忙しかろうがきっかりしっかり仕事を終わらせて、響を鍛える為にわざわざ学校まで迎えに行く妙な律儀さを知ったからなのもあるだろう。

 

 

「お前も先に上がれ。

今日も立花を迎えに行くんだろう?」

 

「へ? 良いのかよ?」

 

「ああ、10分もあれば終わらせられるからな」

 

「んじゃあ頼むわー」

 

 

 ヴァーリに言われ、一誠も一足早く上がる。

 きっとこの後は何時もの通り響の居る学校に向かうのだろうが、クリスは最近その行動に対して微妙にモヤモヤとしたものを感じる。

 

 何故響にそこまでしているのかとかそういう意味で。

 

 

「~♪」

 

「……………」

 

 

 逆に響達もクリスにそう思っているのでお互い様だったりはする。

 軽く鼻歌を歌いながら清掃道具を片手に去ろうとする一誠の背中をじーっと見ているクリスに気づいていたのか、ヴァーリが声をかける。

 

 

「気になるならついていけば良いと思うぞ?」

 

「は? べ、別に気になってねーよ」

 

「そうか? なら良いが立花が更に強くなっても知らんぞ?」

 

「………」

 

 

 それはそれで確かに悔しいかもしれない事を言ってくるヴァーリにクリスは口をへの字にしながら………一誠と同じ方向へと歩いていく。

 

 

「まったく、皆して子供みたいに意地っぱりな奴ばかりだな」

 

(子供って、お前にだけは言われたくはないだろよ……)

 

 

 そんな友人達をヴァーリは子供と評するが、言ってる本人が一番ガキっぽいと、相棒のアルビオンは思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 今日も元気に勉強したりご飯を食べたりと、実に有意義な学生生活を営む響と未来は、それに加えてトレーニングという日課が加わり、ここ三ヶ月は地味に健康的な生活になっていた。

 それもこれも、一誠の不思議かつ鬼畜トレーニングのお陰であるのだが、当初こそ本当に死ぬかもしれない程に辛かったトレーニングも今では実は楽しみな時間であったりする。

 

 律儀に学校まで迎えに来てくれるせいで、周りから何故か彼氏疑惑を持たれてしまっているが、最近は否定しても信じてくれないので適当に流すことにした。

 

 だからなのだろう。

 

 

「ひ、響、未来! 今日も彼氏くんが来てるけど……」

 

「?」

 

「一誠さんがどうかしたの?」

 

「見たことない女の子連れてるわ……」

 

「「は?」」

 

 

 ここ一ヶ月、敵同士として何度かぶつかり合ったクリスが保護されてからは、それに至るまでの過程を含めて響と未来を妙なモヤつきを抱かせた。

 なのでクラスメートの言う『見覚えのない女の子』という言葉を聞いた瞬間、それがクリスであると理解した二人は、クラスメートと一緒に窓から正門を見てみる。

 

 すると予想通り、学年主任の女性教師に鼻の下なんか伸ばしながらナンパを仕掛けようとしている一誠と、そんな一誠を後ろからドロップキックして止めているクリスが居た。

 

 

「き、きれいに女の子のキックが背中に入ったわ」

 

「その隙に主任の先生が逃げたわ」

 

「……あ、彼氏くんが怒って女の子と喧嘩――って、アレ止めないとヤバイんじゃないかしら?」

 

「「…………」」

 

 

 何も知らない人達からすれば止めないと危ないやり取りだが、何度か――いや、何度も見たことのある響と未来は最近現れる心のモヤモヤが更に増していく。

 

「うん、止めないと……行こう未来」

 

「そうね……まったくもう」

 

「え、ちょ、待って二人とも、まさかここから飛び降り――あっ!?」

 

 

 正門前で思いきり取っ組み合いの喧嘩をする二人が、響と未来には仲の良いじゃれ合いにしか見えない。

 だからこそ響と未来ぎょっとしているクラスメートのリアクションにも気づかずに窓を開けてそのまま数十メートル上の階から飛び降りると、ギャーギャー言いながら取っ組み合いをしている二人の元へと静かに近づくのだった。

 

 

「なにしてるの二人とも?」

 

「普通に迷惑ですよ?」

 

「う……」

 

「だ、だってコイツがいきなり蹴り入れてきて……」

 

「お前が馬鹿やるからだろ!?」

 

「馬鹿じゃねー! 脱童貞への試練だ! あの先生と回転するベッドのあるお部屋で素敵な夜を過ごす為の試練だ!!」

 

「ど、童貞って……で、デカい声で言うんじゃねー!」

 

「うるせー!!」

 

「「…………」」

 

 

 一旦は止まるも、またしても言い合いから取っ組み合いを再開する。

 何故かこのやり取りをする二人が仲良く見えて仕方ない響と未来は、其々二人を無理矢理にでも引き剥がすのであった。

 

 

「いい加減にしてよ? なんだかムカムカしてくるし」

 

「く……わ、わかったよ。

確かにここじゃ迷惑だもんな」

 

「ほら、落ち着いて?」

 

「っ……!?(こ、この女……! あ、アタシをこんな軽々と……!?)」

 

 

 おおっ……! と窓から見ていた学院の女子生徒達が響と未来に感心するような声を出している辺り、割りとこの学院の者達も変な意味で緩い所があるのかもしれない。

 

 

「着替えてくるから喧嘩しないで待っててよ?」

 

「うぃ……」

 

「雪音さんもね?」

 

「お、おう……」

 

 

 一旦ジャージに着替える為に寮へと戻る二人に釘を刺され、大人しく待つ一誠とクリス。

 だがクリスは、装者ではない一般人の――見るからに普通の女子にしか見えなかった未来のフィジカルの異常な高さにただただ驚く。

 

 

「……あの立花の友達もお前が鍛えたのかよ?」

 

「え? そうだけどそれが?」

 

「いや……あんな華奢そうな見た目なのに、アタシを簡単に押さえてきやがったから……」

 

「ビッキーとほぼ同じ内容のトレーニングを一切音もあげずにやったからな」

 

「トレーニングって言ったってまだ三ヶ月くらいしかしてないんだろ? そんな簡単に強くなれるのかよ? 前に見た限りじゃ普通のトレーニングにしか見えなかったし……」

 

「やる気の問題なんだよ、俺達の場合は」

 

「……………」

 

 

 やる気があるだけでそんな短期間で強くなれたら苦労しねーよと、何かを隠している言い方の一誠に内心不貞腐れるクリス。

 こうなったら一誠もそうだが、この短期間で別次元ともいうべき成長をしている二人の秘密を探ってやると密かに決めつつ、ジャージに着替えた二人がやって来るのを待つのであった。

 

 

 

 響に危険な事に誘っている悪い人。

 

 当初小日向未来の一誠に対する印象は、普通に悪かった。

 明け方と放課後の数時間になると現れては響を連れて怪しげな廃工場に連れていっては鬼畜なトレーニングをさせている。

 

 響が大切な存在だからこそ、一度は真正面から一誠に対して響を変な事に巻き込むなと啖呵を切った。

 けれど結局この件は全て響が自ら望んだ事であり、そして何故こんなトレーニングをしているのかの全てを、一誠がポテチを食べながらあっさり喋ってくれたので、響が危険な事をしているのには反対ながらも、身を守るためには必要な事なのだと納得するようになった。

 

 しかし自分には戦える力はないが、響を支えられるようになりたいと思うようになり、やがては一誠に懇願する形でトレーニングに参加するようになる。

 

 鬼畜トレーニングをするには今のままではまず先に身体が壊れるので、響もしたらしい『ある事』を一誠にして貰うことになったのだけど……正直今思い出しても恥ずかしいので出来れば思い出したくはない。

 

 今でも夜寝る時にうっかり思い出すと、全身が熱くなるし特に下腹部が大変な事になって寝られなくなるので。

 まあ、響も当初同じ気持ちだったのでなんとか堪えられる。

 

 ともかく、響への想いだけで一誠の鬼畜式トレーニングに耐えきった未来のフィジカルは、聖遺物無しだとしてもとんでもない領域へとたった二ヶ月半で到達した。

 

 流石にその特性上、ノイズとは戦えないが、仮にもしノイズに触れても問題なくなるなにかが手に入れば、未来は瞬く間に戦力となる。

 

 現に、今日は軽い組み手を響としているのだが、それこそまるで漫画のような高速戦闘をしていて、見ていたクリスをドン引きさせている。

 

 

「………。なあ、立花の友達は普通の人間なんだよな? 聖遺物も無いんだよな?」

 

「なんだよ?」

 

「……。普通に分身しながら立花と拮抗してるのが信じられないんだよ」

 

「ビッキーを守る為なんだとさ。健気な子だよねぇ?」

 

「………」

 

 

 引いてるクリスに気付かず、親友との今まで以上の強いコミュニケーションは響に置いていかれていないという意味でも安心する。

 全力で真っ直ぐにぶつかってくる響を受け止められる自分が未来は嬉しかった。

 

 

 

「よーし、一旦休憩にしようぜ」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ふぅ……はぁ……」

 

 

 

 そういう意味では、聖遺物等なくても大丈夫という事を教えてくれた一誠には感謝をしている。

 スケベだけど別に響や自分にセクハラは一切しないし、普通に面倒見も良い。

 

 これであの露骨な好みへのだらしなささえなければ、そこそこモテるのでは……と思うが、わざわざ教えてあげる必要は無いので黙っておく。

 

 だってそうした方がこの時間をもっと長く過ごせるから。

 

 

「そういえば来週のこの日はアルバイトはお休みですよね?」

 

「? そうだっけ? ちょっと待て、今携帯で予定表を――――おう、確かに休みだわ」

 

「どうしたの未来? 一誠くんの休みの予定なんて聞いて?」

 

 

 だからほんの少しだけ最近は思う。

 響から一誠がクリスに対して妙に対して気にかけていると聞くと感じる。

 

 

(小日向だったか? 何でコイツが一誠の休みの日を知ってるんだ……? 一誠だって来週休みなのを忘れているのに……)

 

「何かあるのか?」

 

「いえ、実はライブのチケットが一枚余ってしまったので、良かったら要りませんかと思いまして……」

 

「ライブ? 何のだ?」

 

「ライブというよりは音楽の祭典なんです、この――」

 

「あー! QUEEN of MUSICの事!? 未来チケット取れたの!?」

 

「うん。本当は響とと思ったけど、響は来週任務があるんでしょう?」

 

「そうなんだよ。

良いなぁ……今回は翼さんや物凄い勢いでオリコントップになったマリア・カデンツァヴナ・イヴも出場するって話だし……」

 

「??? マリア・カデンツァヴナ・イヴ??」

 

 

 だから少しだけ響には悪いけどと思いつつ未来は密かに入手していたチケットを一誠に渡した。

 真横から何か言いたそうな顔をしているクリスが見ているが、そこは気づかないフリだ。

 

 

「えー! 一誠くん知らないの!? たった二ヶ月で世界に名を広めた凄い歌手なんだよ!」

 

「テレビとかほぼ見ないし、雪音は知ってるのか?」

 

「一応聞いたことはあるが……てかネットにでも最近しょっちゅう出てるだろ」

 

「ネットなんてエロサイト巡りにしか使わないからなぁ。そんな有名なんだ?」

 

「え、えっちなサイトを見るなんてダメだよ!

ほ、ほら私の携帯で見せてあげる! 確かライブの動画があるから――」

 

 

 本当は響とも一緒に行きたかったけど、お仕事があるから諦めるしかないと、思いながら響が見せてくる動画内で歌っているマリア・カデンツァヴナ・イヴとその歌声を聞いた一誠は―――――

 

 

「……………………………………………」

 

「ど、どうしたの一誠くん?」

 

「すっげー顔……」

 

「?」

 

 

 その顔を物凄い嫌悪に歪めていた。

 

 

 

「……………………。もう良いよ、動画切って」

 

「へ? あ、う、うん」

 

「なんだよ突然……?」

 

「いや……なあ小日向ちゃん? 悪いけどちょっと無理かも」

 

「え……?」

 

「な、なんで? 凄いんだよ?」

 

 

 急な変わり様と、断りの言葉に若干ショックな未来になんでと問う響に一誠は言った。

 

 

「このマリア・カデンツァヴナ・イヴ……だっけ? これは単なる個人的な感想だけどよ―――――俺、この声死ぬほど嫌いだわ」

 

「「「え?」」」

 

 

 それはもうハッキリとした理由を。

 

 

「声が嫌い……?」

 

「なんだそりゃ?」

 

 

 当然響達からしたら意味がわからないが、どう見ても床を走り回るゴキブリか何かでも見たような顔をしている一誠は珍しくマジなトーンだった。

 

 

「一応年齢は21で、年上のお姉さんですけど……」

 

「いや、年上だろうがなんだろうがちょっと無いわ。

いやほんと、さっきの歌ってる動画もこれ以上見てたら、携帯へし折りそうになったし」

 

「そ、そこまで!? なんで!?」

 

「声が無理なんだよ、マジで受け付けねぇ……。

んなもん生で聞いたら、脊髄反射的に八つ裂きにしかねないかもしれないくらいに」

 

「穏やかじゃねーな。その理由はなんだよ?」

 

「なんだって良いだろ。悪いけど小日向ちゃん……他の子誘いなよ?」

 

 

 基本的になんでもかんでもホイホイ聞くような一誠が、ここまで頑なに――そして見たこともないような嫌悪に顔を歪めるとは思わなかった三人は、その理由を語ろうとしない事もあって、互いに顔を見合わせながら首を傾げた。

 

 だが後に知ることになるのだ。

 

 確実に会ったこともないマリア・カデンツァヴナ・イヴに対して異常なまでの嫌悪と拒否反応を示したその理由を……。

 異常なまでの力を持つようになったその過去を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狼狽えるな!!我ら武装組織フィーネは、各国政府に対して宣戦布告を―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビンゴォ!!!!! 明日の朝刊載ったぞテメェェェェッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「―――ふぇ? キャアッ!?」

 

 

 

 

 

 

 本能に刷り込まれた嫌悪の過去が甦りし時。

 

 

 

 

 本当の意味での『克服』の試練が始まるのかもしれない。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 声が理由で減給確定ものの大暴れをかましてしまった一誠は、ふざけているとしか思えない理由でF.I.S. への対抗馬になるためのアイドルグループのメンバーになった。

 

 あの祭典の日、ノイズをぶちのめし、マリア・カデンツァヴナ・イヴにビンタかまして吹っ飛ばした映像が動画サイトやらSNSで拡散された事もあって、色々と炎上したこともあったが、一誠個人がチビッ子達から絶大な支持を持ったのと、その動画内でノイズを叩きのめしながら女の子を(未来)を守っていたのがチビッ子達のツボを抑えたらしい。

 

 本人は主婦層からの支持を受けたかったのにも拘わらずだ。

 

 

 そしてそんなこんなで握手会が開始されたこの日、主婦層やら女子大生からの人気があるヴァーリ。

 

 地味に男性ファンから兄貴呼ばわりされる弦十郎。

 

 癖がありそうなファンに囲まれつつ、金髪の女性と握手した瞬間ビビり始める神牙。

 

 

 と、其々が握手会をしている中、一誠はといえば待てど暮らせど主婦層ファンに握手を一切求められず、子供に囲まれまくっていた。

 そんな子供面子の中では比較的年長と見えた、帽子とグラサンとマスクで顔を隠している怪しい三人組がファーストシングルのCDを片手にやって来た。

 

 

「あ、握手……!」

「そ、それとサインも……!」

 

「…………」

 

「はいはい……えーっと、ちなみに聞きますけどおいくつですか?」

 

「じゅ、14歳……」

 

「15歳デス……!」

 

「あ、そっかー……だよな」

 

「………………」

 

「で、そちらは?」

 

「に、にじゅう―――」

 

「! じゅ、17歳!」

 

「この人は17歳デス!」

 

「!? !?!?!!!」

 

「なんか挙動不審だぞその人……?」

 

「き、緊張してるから……!」

 

「凄く楽しみにしてましたデス!」

 

「ふーん? てか、やっと年の近い子が俺の前に来てくれたのか……。はぁ、なんでヴァーリばっかりなんだろ」

 

 

 どう見ても怪しさしか感じない謎の三人組を前にしてもマイペースに握手やサインをしてあげる一誠。

  そして……。

 

 

「………………」

 

「あ、ちょっと待った。靴紐ほどけてるぜ?」

 

「っ……!?」

 

「大丈夫か? ほらそのまま動かないで。両手に荷物抱えてるし、俺が結んでやるよ」

 

「っっっ!?!?!?」

 

「「…………」」

 

 

 まさか聞いただけで脊髄反射的にスイッチの入る相手とは知らずに、さらに同い年で年齢的に外れているのもあるせいか、無駄に紳士に靴紐を結んであげる。

 

 まさか嫌悪を向けられている相手にこんな事をされるとは思わなかったし、さっきから仲間二人からの視線が痛い。

 

 

「ほれできた」

 

「………」

 

「あ、あの……だ、抱っこしてください……!」

 

「わ、私も!」

 

「は? 別に良いけど、これ子供にせがまれたからやってただけで――まあ良いや」

 

 

 

 それから――

 

 

 

 

「握手どころか写真まで撮ってくれた…!」

 

「お姫様抱っこもしてくれたデス!」

 

「ちょっと!? なんで17歳なんて彼に嘘言うのよ!?」

 

「だってマリアだってバレたら大変だし……」

 

「この前みたいにビンタされまくって握手どころじゃなくなるデス」

 

「だからって……! も、もしかして二人とも、彼の好みの異性が年上だからってわざと……」

 

「さぁ?」

 

「なんのことやら?」

 

「くっ……ま、まあ私とバレて騒がれても困るのは確かだわ。

それにしても何故彼は私を……? ―――――ハッ!? こ、これはもしかして日本の恋愛ドラマにあった『好きな娘をついいじめてしまう男の子』的な精神が―――」

 

「それは無い」

 

「世界が滅びてもそれは無いデス」

 

「わ、わからないでしょう!?」

 

 

 

 動いても即時に日本の装者と共に潰されてしまうせいなのと、約二人が敵対組織の悪乗りで結成した男性なんちゃってアイドルグループのメンバーの一人にド嵌まりしてしまったせいで、中々上手くいかない。

 

 それどころか、こうして握手会にすら来ちゃうし……。

 

 

「あ、一誠君デス……!」

 

「これから帰るのかな? どっちにしろプライベートの姿はレア――」

 

 

 

 

 

「結局主婦層が一人も握手に来なかった……クソ」

 

「予想通りじゃねーか」

 

「でも子供からは凄く人気だったし、良かったじゃない?」

 

「ボロも出ませんでしたしね?」

 

「なんでヴァーリばっか! 神牙の野郎も金髪のお姉さんが来てたのに!」

 

(その女ってフィーネなんだよなぁ……)

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

「靴紐結んでくれた……」

 

「「黙ってて」」

 

「…………はい」

 

 

「くっ、それにしても、また奴等が……」

 

「動画にたまに出てる女達デス。

ぐぬぬ……! 仲良さそうにご飯を……!」

 

 

 なんかストーキングもされる。

 

 

「あっ!? あの白髪女が一誠君の食べかけのハンバーグを食べた!?」

 

「い、一誠君も白髪の人のパフェを……!?」

 

「靴紐結んでくれた時、笑ってくれた……」

 

「「ぐぬぬ……!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……? なんか視線を感じる気がする――ってそれは俺のポテトだ! 返せコラ!」

 

「アタシのケーキ食ったお返しだ!」

 

「け、喧嘩しないでよ……」

 

「ホントに仲いいね……ハァ」

 

 

 

嘘でした





まあその……マリアさんは泣いても良いと思う。

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