色々なIF集   作:超人類DX

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なんてこった。
始まらん!


月がまんまるなまんま

 遠い昔の記憶。

 幸せであったかもしれないし、トラウマでもあったかもしれない遠い過去の記憶。

 

 その記憶があるからこそ、今の己を形成した。

 

 そんな過去があるからこそ、世界そのものと敵対する意思を持った。

 

 準備は進めた。

 

 万全を期したつもりだった。

 

 後はその時が来るのを待つだけであった。

 

 

 しかし、運命というの名の障害は皮肉にも再び彼女の前へと立ちはだかった。

 

 遥か彼方に存在しているのかもしれないどこぞの誰かが自分の意思をほくそ笑むかのように現れた強大な障害。

 こことは違う世界において、世界そのものに喧嘩売り、世界をあるべき姿にひっくり返した存在。

 

 そんな存在が現れたせいで、完成寸前であった意思は悉く挫かれた。

 アホで間抜けな三人お馬鹿な青年達によって……。

 

 積み上げてきたものを下の方から無神経なまでにボカスカと壊してくる腹立たしい小僧共。

 そんな小僧共によってこの世界には存在しない力の一端を知ってしまう事で、これまでの適合者達とは違う『進化』を掴み始めてしまった装者達。

 

 完全なるイレギュラーの発生によって、掴みかけた野望という名の道を破壊されてしまった。

 人であるかも最早疑わしい――馬鹿でアホで間抜けな怪物達に……。

 

 無論、思い付く限りの排除策は施した。

 

 だがお馬鹿達は、こちらの予想の斜め上を悉く行くように無自覚に弾き返してくる。

 特にあの黒髪の男には色々な意味での恥辱を今現在の時点で178回も受けた。

 

 なので取り敢えずその男は八つ裂きにしてやることは確定している。

 これでもかと踏みつけてから『生きていてすいませんでした』くらい言わせてやるのも決まっている。

 

 つまる所、三馬鹿というイレギュラーがあまりにもお馬鹿にやるせいで、シリアスなラスボスその1枠であったとある女性――というかフィーネは今現在開店休業状態に追い込まれていたのだ。

 

 まったくその事に自覚をしていない三馬鹿達のせいで。

  そして――

 

 

『轟天!!!』

 

「わっ! 神牙君の鎧と同じくらいの金ぴかなお馬さんだ!?」

 

「なんだろう、最近お前らが何しても驚けなくなってきたんだが」

 

「よくあることだろ?

それにしても妙に張り切ってるな神牙の奴」

 

「そもそも鎧自体神牙の切り札だし、わざわざ召喚する必要だってないのにな」

 

 

 その特に腹立つ男が纏う黄金の鎧や、黄金の馬で駆け抜けながら出現するノイズを切り伏せていく姿を見ているともっと腹が立つ。

 その未知すぎる力と、そんな力があるくせにアホなのが。

 

 

 

 

 

 

 後にルナアタック等と呼ばれる大騒動がある。

 そのルナアタックがある意味で後々枝分かれするような騒動になる。

 

 だがしかし――そのルナアタックを目論んでいるフィーネが神滅具を保持する三人のイレギュラーによって悉く邪魔をされてしまい、今現在まったくもって平和であった。

 

 この世界の月は少々複雑な事情があるのだけど、フィーネは現在そっちよりも頭を悩ませる存在をどうにかしないといけないことに時間を割いている訳で。

 

 

(いっそ、あの馬鹿三人をけしかけて月を消し飛ばすとか……? 確かド変態男――神牙が言うには、フルパワーで力を放てば星くらいならなんとか破壊できるなんて嘯いていたし……)

 

 

 櫻井了子として組織にまだ潜伏中のフィーネは、完全に止まりっぱなしである己の野望達成について考える。

 あの三人の言う全力フルパワーがどの程度がまだ見たことは無いし、流石に嘘に思えてならないが、ゴムボールサイズの光弾でビルを粉砕できるパワーがあるのは見たので知っているので、もしかしたら本当にフルパワーを解放すれぱ星を破壊できるのかもしれない。

 

 それはつまり、月を完全にぶち壊せる可能性があるという事になるのだが……。

 

 

(いやいやいやいや、これでは私があのアホ共に敗けを認めたと同じじゃない。

これだけは自分の手でやらなければ意味がないのよ……)

 

 

 ちょっと前のフィーネならば、平気でけしかける為に動いていたのだが、何度も苦汁を舐めさせられた悔しさというか、神牙からの事故セクハラに対する恥辱による子供じみた変な対抗心がここで芽生えてしまったのか、この考えは即座に却下した。

 

 もっとも、けしかけた所で三馬鹿は多分……

 

 

『えー? おつきみしながらお団子食えなくなるから嫌だ』

 

 

 とでも言って断る筈なので破綻している。

 理由があまりにもしょうもないのだが、本人達はとにかく食い意地が『育ち』のせいか張っている。

 

 かといって食い物で釣れるかと言われたそれも微妙な所だし、何度も言うが、よしんば三馬鹿を寝返らせる事に成功したところで、こっちが媚びてる気がして嫌だというのが今現在のフィーネの気分だった。

 

 とどのつまり、フィーネはちょっと意固地になっているのだ。

 あんなお馬鹿達に自分の野望が潰されてしまっているのと、三馬鹿の一人たる神牙にセクハラ事故かまされまくってるせいで。

 

 

(幸いクリスはまだ使えるから、引き続きあの赤龍帝とかいうスケベ馬鹿を押さえ込んで貰って、白龍皇とかいう天然のアホは――まあ、一番私に害は無いから放置。

やはりあの男をどうにかするしかないわね……)

 

 

 とにかくあの三人を悔しがらせてやりたくて仕方ない櫻井了子状態のフィーネは。

 三人の脅威の格付けをしていく。

 

 どうやら彼女の中ではヴァーリが一番脅威度としては低く、次にクリスに押さえ込ませるつもりの一誠――そしてやはり神牙が一番高かった。

 まあ、毎日一度は必ず変な事故が起きるのだからフィーネ的には一番なんとかしたいとは思って当然だし、今も考え事に集中し過ぎてうっかり前方不注意だった彼女は、廊下の曲がり角で鉢合わせするのだ。

 

 

「「…………」」

 

 

 憎いあんちくしょうこと黒髪の青年・異界において曹操の末裔である神牙と。

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 モップ片手に作業着を着ているからしてどうやらバイト中らしい。 

 鉢合わせしたことに内心舌打ちをする櫻井了子としてのフィーネだが、余計に腹立つのは神牙の方が寧ろ自分と鉢合わせするなり、ぎょっとした顔をするのだ。

 

 

「その顔の意味はなんでしょうか?」

 

「い……いやー……あはははー……」

 

 

 あからさまに嫌そうな顔をしているのがバレバレなので、嫌味たっぷりな笑みでも浮かべて問い掛けてみると、神牙は然り気無く後ろに下がりながら誤魔化すように笑う。

 セクハラの被害者であるのは自分なのに、出会すなり逃げるようなリアクションをするのか……という意味では割りと腹も立つ。

 

 あまりにも腹が立ちすぎて、この前ついつい素でコキ使ったからなのか? どちらにしても何だかムカつくので、壁際に張り付くように道を開ける神牙をジトーっと睨みながら―――本当によせばいいのに脛に蹴りでもいれてやろうと近寄る。

 

 

「よ、よせ! アンタだってこれまでの馬鹿げた事を忘れてる訳がないだろう? 俺に近寄るべきじゃないぞ!」

 

「そうですね。

それは承知していますが―――お前からやっておきながらそのリアクションは違うと思わない?」

 

 

 最近、腹が立ちすぎて普通に神牙へは素になることが多くなってきた櫻井了子ことフィーネはそう言いながら射程距離へと入ると、『ひぇ……!』とビクビクしながらモップを抱えるように持つ神牙の無防備な向こう脛目掛けて渾身の一撃をくれてやろうと脚を振り上げ――

 

 

「あっ!?」

 

 

 つるんと滑った。

 そう、今神牙がこのエリアの床の掃除中だったということはつまり、床が洗剤で濡れていて非常に滑りやすく……少しでも仕返ししてやることに頭がいっぱいだったフィーネは見事なまでに――それはバナナの皮に滑ってしまうかの如くつるんと滑ってしまったのだ。

 

 

「!」

 

 

 中途半端なサマーソルト状態で宙に一瞬飛んだフィーネはそのまま重力に従う形で床に落下しようとする。

 だが基本的に三馬鹿は『敵と断定しない存在』に対しては揃ってお人好しな部分がある。

 

 なので櫻井がひっくり返ったと思うが早いか、反射的に動いた神牙は彼女の手首を掴み、支えようとするが、思いの外勢いがよかったせいで巻き込まれる形で仲良く床にひっくり返ってしまった。

 

 

 

「ぐぇ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 

 それが項をそうしたとか別にして、何時振りすら忘れたが、妙に可愛らしい声を放ちながら上手い具合に神牙を下敷きにして床にひっくり返ったフィーネと、のし掛かられた状態で潰れた蛙みたいな声を出す神牙。

 

 

「お、重い……」

 

「は? 重い……だと?」

 

「ばっ!? ち、違う! これはそういう意味では……ぐぇぇっ!?」

 

 

 余計な一言が地味に多い癖がここで発動してしまい、ついのし掛かれて重いと呟いてしまった神牙に、イラッとしたフィーネは取り敢えずグーでシバいてやった。

 

 

「や、やめてくれ! こ、今回に限っていえばアンタのせいだろ!?」

 

「だから? 元々アナタをボコボコにしてやりたかったし、ちょうどいいわ」

 

 

 勿論抗議する神牙だが、フィーネは妙に今の状況を普段の仕返しへのチャンスであると考えつつ、何だか面白いので嫌がる神牙をバシンバシンと叩きまくる。

 

 

「おい、すげー音がしたけどどうかし……た……?」

 

 

 

 楽しすぎてつい色々と忘れてしまうほどに。

 だからこそだろう、大きな音が聞こえて何事かと思ってやって来た地味に一誠と同じ色の作業着を着ている駒――つまりクリスに思いきり見られてしまった。

 

 

「…………」

 

「いやあの……この馬鹿が……」

 

「ほ、本当に重い。あ、アンタ一体何キロ――ごぼっ!?」

 

 

 そっちの事に対してかなり初なクリスは、こんな場所で何をしてるんだ的な意味で真っ赤っかだった。

 

 

「あ、アタシは何も見てないからなっ! み、見てないったら見てない!!」

 

 

 なので神牙が悪いと言い訳しようとしたのだが、その前にクリスは逃げるように走り去ってしまった。

 

 

「し、しまった! 雪音に見られたということは自動的に一誠に知られる! ぐっ、アンタのせいでまた面倒な事になるじゃないか!」

 

「だから?」

 

「だからじゃない! 早くどいてくれ! 重いんだよ! 体重何キロだ!? 運動不足で太りぎみ――ぎょえ!?」

 

「さっきから重い重いやかましいわっ! アナタが単に貧弱なだけでしょうが!!」

 

「一誠とヴァーリに比べたら身体能力が一番弱いのは認めてやるが、それでもアンタは普通に重いぞ! 年か!? 年のせいで燃焼が――いたたたた!?」

 

「こ、この小僧め……!! 今日という今日は!!」

 

 

 神牙にのし掛かったまま、しばらくギャーギャーと言い合いをする。

 見事なまでに三馬鹿に引っ張れてしまっているのであった。

 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

「おう、どうした雪音?」

 

「な、なんでもない……」

 

「なんでもない――って顔じゃねーだろ。

具合悪いのか? 別に無理しなくてもこのエリアは俺だけでも終わらせられるぜ?」

 

「だ、大丈夫だよ…………あぅ」

 

「いやいや、全然大丈夫に見えねーっての。

ちょっといいか?」

 

「な、なんだよ、本当にだいじょう―――ぶ……?」

 

「うーん、熱はねーな。

でもちょっと休んどけよ?」

 

「……………」

 

「おーい?」

 

「…………………ばか」

 

「は?」

 

「ばーか……ばーか! ばーーか!!! 馬鹿ー!!!!」

 

「のわっ!? な、なんだよ!!? やっぱさっきから変だぞ!?」

 

「う、うるさいうるさい!! お前のせいだ!」

 

「なんのことだよ!?」

 

 

今日も賑やかなバイト風景だった。(ルナアタックの気配ゼロ)

 

 

 

 

 

 

嘘な少しの先

 

 

 F.I.S.に対抗する為に悪乗りで結成されし男性限定グループ。

 センスは80年代から90年代。

 

 とあるライブで宣戦布告をしてから発足され、ネット動画を中心に変な広まり方をした結果、そのF.I.S.の面子達も彼等が歌って滑って踊っている動画を視聴するわけで……。

 

 

「古い……ですね色々と」

 

 マムと呼ばれし老女の感想はそんな感じだし、周りも同意する。

 しかしその動画を――具体的には赤い鉢巻をしながらバク宙をしている茶髪の青年を食い入るように見ている者がチラホラ。

 

 

「わ、私、この彼にいきなり『声帯潰すぞボケ』って言われたのだけど……」

 

 

 戸惑った様子の女性の声は、あの悪魔の声にそっくりだった。

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 

 それとは別でちょうどクルクル回っている茶髪の青年をガン見する少女が二人。

 やがて動画の終わりが近づくと、締めの挨拶の場面に……。

 

 

『えー、この度サイン会とか握手会……? みたいな事をします。

興味のある方は動画の概要欄に場所を載せておきますので来てください。

特に20代中盤以降の女性とか来てください! ついでに俺のチェリー……いだだだだ!?』

 

「余計な事を言うな!」

 

 

 どうやらサイン会が開かれるらしい。

 茶髪の青年が説明し、最後の方に白髪の少女に耳を引っ張られながら退場する場面で動画が終わったのだが……。

 

 

「どこデスか?」

 

「日本、◯◯駅前」

 

「「………よし!」」

 

「え、何故によし……?」

 

 

 何故か行く気満々の少女二人に戸惑う老女。

 というかこの変態集団にも見えるグループに妙に詳しい。

 

 

「彼はイッセーくんデス」

 

「趣味は食べること。

最近の動画ではゲームの実況をしていた……ちょっと下手っぴだったけど」

 

「え…? えっ……??」

 

「み、見てたの? 他の動画も?」

 

「あのライブ以降から一応……」

 

「この人は面白いし」

 

「「………」」

 

「サインってどこにしてくれるのかな?」

 

「握手もしてもらう」

 

「それにしても他の動画にもちょくちょく出てくる例の装者二人ともう一人の女が邪魔デス」

 

「うん、何時も台無しにする」

 

「「………えぇ?」」

 

 

 ふざけてるように見えて意外と対抗できているのであった。

 

 

 

 

 

「へーっきしっ!! ずずっ……20代中盤のお姉さんからのファンレターが一切俺だけに無いってなんでだよ……」

 

「全部小学生とか中学生くらいの子達からだもんね?」

 

「お前があまりにもガキっぽいからだろ」

 

「だからって一通も無いって……でも一応くれたから返してあげないとな」

 

「そういう所は本当に律儀ですよねイッセーさんって……」

 

「そうかぁ? うーん……? あれ? 暁切歌と月読調……? どこかで聞いたような名前だけど……なになに? …………………………………………………………………―………Oh」

 

「? どうしたの?」

 

「いや……多分悪戯だと思うんだけど、ごちゃごちゃ書きなぐり過ぎて読めないし、本人達の自撮りっぽい水着写真が大量に入ってた」

 

「はぁ? …………って! コイツ等この前のF.I.S.の一味の装者じゃねーか!?」

 

「本当だ! な、何で一誠君にファンレターを……?」

 

「悪戯だとは思うが……えーっと、立花響と雪音クリスは敵だ! ……だってさ」

 

「「えぇ……?」」

 

「それ、もしかして単なるファン目線じゃ……」

 

「はぁ? 無いだろ、だって俺あの時連中に向かって中指立てながら『ファッキュー、ぶち殺すぞ虫けらめが』って罵倒しまくったんだぜ?」

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴの声が死ぬほど嫌いだからって理由だったよな……」

 

「言われた本人はポカンとしてたけどね」

 

「だからありえねぇし、これは多分、ビッキーとクリスに対する宣戦布告じゃね? 装者的な意味で」

 

 

 予告・修羅場なサイン会――――――始まらない。




補足

6割は三馬鹿に引っ張られてポンコツ化中のフィーネ様。

事故セクハラも200回目記念を目前だ!


その2
それを見てしまってあわあわしてたクリスさんをただただ普通に心配したら逆に怒られてしまう。

仕方ない。だってコイツ、デコにぴとってやりやがったんだもん。


その3
全部嘘だよ。こればかりはな

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