……やばい、リアスさん達のキャラが濃すぎてわけわかんねー……。
チッ、一時のノリに身を任せると破滅するとは誰が言った言葉だったか。
俺の場合は破滅までとはいかんものの、あの夜の出来事から例の赤髪悪魔達から露骨にマークされるようになってしまった。
「おーいイッセー。
今日は小猫たんと黒歌ちゃんがお前を見てるぞ」
「知らん」
「昨日はグレモリー先輩と姫島先輩で、一昨日は性別ギャスパーと木場と来た。お前ホント何したん?」
「だから知らん」
昼休みだろうが、放課後だろうがお構いなしの代りばんこで例の悪魔軍団が俺を監視してるつもりか何かのせいで、ぶっちゃけムカつく。
監視するならもっと上手くやれねぇのかよ……という意味合いも若干込めつつだが。
「いいなー枯れ果てイッセーにまさかのモテ期かよー? しねよー」
「………」
「ちょー恨めしいんですけどー?」
「………………」
いっそ一発ひっぱたいてやろうかと何度か思った。
が、それは今の状況でやるには俺が不利になるので出来ない。
てのもだ、この学園は実の所あの赤髪悪魔の身内が密かに経営してるとかしてないとからしく、アーシアちゃんをこの学園に転入させる形で通わせるには、奴等に下げたくない頭を下げなければならないのだ。
「…………。おい」
「っ!? な、なんですか! た、体育倉庫で滅茶滅茶ですか!? そうなんですか!?」
「せ、せめて白音は見逃して欲しいよ! 私が代わりに滅茶滅茶されるから!」
「いえ私が姉さまの代わりに滅茶滅茶にされます!」
「……………」
だが、部下含めて頭のネジが数本吹っ飛んでる様な連中に頭を下げたくないとどうしても思ってしまう。
今だって教室の入り口から揃って白髪のチビと黒髪な女に話し掛けた途端、意味の解らん事をほざいてるし。
これ、ホント一発ぶん殴ってやろうかな……。
「お前等のボスに話があるから、放課後部室に行かせて貰う……と言っとけ、そして何もしないからとっとと失せろ」
「え? あ、は、はい……わかりました」
「む……リアスかよー? 何か納得いかないなぁ?」
「ガタガタ言ってると本気でぶっ殺すよ?」
だが怒らず下手にだ。
アーシアちゃんの為と思えば、下げたくない相手にもこの頭を下げてやるよ……。
本日放課後のオカルト研究部の部室は、異様に慌ただしかった。
「んっん、ようこそオカルト研究部へ、歓迎するわ……悪魔としてね――で、はい皆翼を広げる!」
『はい!』
あの赤龍帝の兵藤一誠くんから、我々と直にお話がしたいというコンタクトを取ってきたのだ。
何やかんやで監視していた間も意図不明だったし、出来ればお仲間になれたら楽しいかなー……なんて思ってたりしちゃってる私――いえ私達としては、彼をおもてなしするに当たって、前口上の練習も抜かり無いわ。
ふふん、この前口上さえ成功すれば、きっと兵藤一誠くんは――
『惚れた、下僕にしてください』
と言うに決まっているわ! そうしたら……えっと、ええっと……お茶とか毎日しましょう! そして皆と仲良く平和にのほほんと――
「部長、兵藤一誠君がおいでです」
む、もう来たのね。
それにしても急に彼から話があるなんてどういう事なのかしら?
………………ハッ!? ま、まさかこの私の美貌に見惚れて結婚を申し込まれるとか!? ど、どうしましょう……彼ならもしかしたらグレモリー家のリアスでなくて一個人リアスとして想ってくれるかもしれないし吝かでもな――
「趣味悪っ……何だこの異空間は気持ち悪っ!」
「いきなり失礼ね! 私の力作デザインにケチ付けるなんて!!」
……。うん、やっぱり気のせいね。
こんな失礼な子に結婚を申し込まれても上手く行かないわ。
「部長、部長! 挨拶をしないと……!」
「む……」
まぁ良いわ。
どうであれ彼と敵対する理由も無いし、ここは年上……そう、年上の私が一つ大人な態度で大きく受け止めれば良い話なのよ!
だからそんな『ここでミスしたら僕の友達候補がおじゃんになる』って、必死こいた顔をしないで頂戴祐斗。
「お、おほん! ま、まぁ冗談はこれくらいにして、ようこそ兵藤一誠君。アナタのご来訪を歓迎するわ――悪魔とし――ぴっ!?」
「は?」
「い、いひゃい……し、舌ひゃんは……」
例え小生意気でもおおらかに、器を大きくを頭の中で何度も繰り返しながら練習した口上を言おうとした私だったが、あろうことか最後の辺りで思いっきり舌を噛んでしまって大失敗してしまった。
「ぶ、部長!?」
「い、痛い! 血とか出てない!?」
「出てないですけど、これは後々口内炎になりますね」
何て事。あれだけ皆で練習したのに、結局失敗するなんて……。
「……」
「まずいです部長、兵藤先輩が既に呆れを通り越してミジンコを見ているような目をしてます」
「正直ゾクゾクしちゃう辺りが、才能を感じるにゃ」
小猫と黒歌が耳打ちをしてきた通り、兵藤一誠くんが完全に私達全員を『哀れな捨て狸を見るような目』で見てきており、直ぐにでも帰りそうな空気を放ってすら居た。
「要件だけ言ったら帰るからよーく聞けよボンクラ共」
「ぼ、ぼんくらって……しどい」
「何てハッキリ言う殿方なのでしょう……ゾクゾクしてきました」
椅子にも座らず、入り口に突っ立っていたまんまだった兵藤一誠くんの冷酷な表情と声による罵声の言葉に、私は地味に傷つき、ドSでありながらドMである
ここ数日の観察の結果、彼は自分達に対して一般の生徒と違って一切興味がない様で、だからあんなにも辛辣な態度が出来るんだなと納得はしていたのだけど……。
「黙ってアーシア・アルジェントを裏口転入させるように、本来の経営者に根回ししろ。
良いか? これは決して対等な取引でも無ければ、懇願でもない単なる命令だ。
故にリアス・グレモリー……貴様の返事は『はい』か『yes』か『よろこんで』だ」
これは中々私を新鮮な気持ちにさせるわ。
何せ私に対して此処まで横暴な態度を示す男の子なんて居なかったから余計に……。
「ま、待ちなさい。アーシア・アルジェントというのはこの前の神器使いのシスターね? 転入させるのは構わないけど、一つだけ条件というかお願いを聞いてくれてもバチは当たらないんじゃないかしら?」
しかしだからと言って……さっきから超冷酷フェイスの命令口調な兵藤一誠くんに、心臓がドキドキと謎の激しい動悸に苛まれている訳だけど、ホイホイと無条件で聞いてしまったら悪魔の名折れだ。
故にハイ……と言いつつ条件を出す形に何とか持ってくる。
「………………」
一瞬ビンタが飛んできて、『ハイ、だろ雌悪魔が』と罵倒されるのかなー……とかちょっと期待――じゃなくて心配をしたけど、どうやら杞憂だったらしく、無愛想な表情のまま『言ってみろ』と頷いた兵藤一誠くんに、私は当初の目的を……ほぼ博打覚悟で切り出した。
「アナタ――悪魔にならない?」
何か余りにも揃いも揃って頭のネジが抜け落ちてる間抜け軍団だったせいで変に毒気が抜かれた俺は、条件をおっかなびっくりで切り出してきたリアス・グレモリーに、笑ってしまいそうになった。
「駒による転生をしろと?」
「や、やっぱり知っていたみたいだけどそういう事。
ちなみに悪魔になった時のメリットは盛り沢山なのよ?」
父さんと母さんの知り合いの娘……だと知ったのはつい最近だが、本人は父さんと母さんの事も知らんだろうし、ましてや向こうの親からも聞かされちゃ居ないだろう。
俺を悪魔に転生ね……。
「まず一つ目は……朱乃!」
「一般生徒達の憧れ、オカルト研究部の部員になれますわ!」
「……………」
駒だか何だかを使って、転生させるらしいが……果たしてそのシステムが俺に適応されるのかどうかも解らんのに、それを知らんリアス・グレモリーは部下の一人である黒髪女に命じてフリップを用意させると、一つ目のメリットとやらを口にしたと同時に、予め作ったっぽい絵を俺に見せてきた。
そこには俺……と思われる男が万歳しながらオカルト研究部に入部して喜んでる絵が描かれていた。
「む……ノーリアクションか。なら二つ目!」
「はい……寿命が凄い伸びる」
「私達とずっと一緒に和気藹々にゃん!」
アーシアちゃん以上にアホだなこの軍団は……と呆れて声も出ない俺に何を勘違いしたのか、次のメリットとやらを白髪ともう一人の黒髪の女と一緒に語る。
だが寿命が伸びるとか伸びないかなんてものは、俺にとって何のメリットも無かった。
だってぶっちゃけ、餓鬼の頃から父さんと母さんに……。
『二十歳過ぎたらそのまま不老不死確定だから』
なんて言われてるしな……。
メリットもクソも無い。
「…………。ハァ」
「う!? こ、この程度じゃ駄目? よ、よーしそれならアレよ! 男の子の夢のハーレムも頑張って悪魔としての地位を上げたら可能に――」
「興味ねぇ」
惚れた腫れた自体経験したこともないのに、ましてや父さんと母さんのやり取りを見たくもないのに見せ付けられた俺としてはそのハーレムとやらの意味が分からない。
従ってだ……フリップまで用意してくれて悪いが。
「全部興味が無い。というかそもそも聞いた話じゃ、王の器を越えた生物の転生は不可能なんだろ? アンタ如きが俺を転生させられるとは思えないな」
ならんし、なれん。
俺を凸ピンで捻り潰せるだけの力を持っているのであればイザ知らず、高々パワーバカになる乱神モード程度でビビってる様な女に俺は御せないよ。
「む!? そ、そんな事は無いわ!」
一瞬顔を歪めたリアス・グレモリーだったが、意地なのか何なのか、根拠の無い強がりを言ってきた。
何をそんな俺に拘っているのかは知らんが、もう一度現実を教えてやるのも親切かもしれん。
「そんな事は無い……か。実に良い台詞だね。だが無意味だ」
―我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり―
―無限を超越し、夢幻を平伏せん―
―我、全てを喰らい、全てを糧とし永遠の進化を遂げる無神臓と化し汝を滅ぼさん―
「うっ!?」
「ちょっ、こ、こんな所で龍帝の力を……!?」
「あ、あれ? おかしーな白音……何処が地雷だったんだろ?」
「さ、さぁ……でも激しそうですね色々と……ふ、ふふふ」
「い、いやいやいや!? これ本気でマズイですって!」
「うわ、空気がビリビリしてますぅ!」
俺は……俺は、誰の指図も受けない。
俺に命令できるのは俺より強い奴か、俺が好きだと思った人達だけだ。
別に貴様等が嫌いって訳ではないが……好きでもないんでな。
だから俺は、血塗られたオーラをその身に纏い、わからず屋共に現実を叩き込む為に敢えて見せてやる。
歴代唯一例外の能力を持つが故に至った俺だけの答え。
それが――
「龍帝――
『Welsh Dragon infinite zero mode!!』
歴代の怨念すらぶちのめしてブチ消した先に獲た、俺だけの覇龍。
余計なオーラは撒き散らさない。
余計な装飾品は全部無い。
只の生身で、只の人の姿を維持した……俺のスキルとドライグの力を完全に融合させそこから永遠に進化させ続けるってだけの細やかな力。
「もう一度聞くぞリアス・グレモリー
貴様は俺を御せるのか? え?」
父さんと母さんの息子だと胸を張って宣言できる証を見せ付けながら、俺はあの時以上に絶句している悪魔共に問い掛けた。
恐怖でひきつる表情になるのは分かりきっていたので何も言うつもりはない。
ただコイツ等が俺をどうこうするなんて不可能だと理解できれば良いのだ……。
そう…………ただ一言。
「げ、下僕じゃなくて友達になってください! お茶のみ仲間でも可!」
「冷たい声で罵倒するのもアリですね!」
「体育館裏に呼び出して、無垢な私を滅茶滅茶にしてもオーケーです!」
「妹の代わりに身体を張る姉は好き?」
「マ○ク一緒に行こうよ!!」
「か、可愛いお洋服を一緒に選んでくれたら嬉しいです!」
そう……消えろ化け物と――
「は?」
『………。単なるバカなのか、それとも大物なのか?』
言われなかった……? 何で?
「うんうん、そんな凄いオーラ出さなくても最初から解ってから良いわよ別に。ちょっとお漏らししそうだったけど、ますます逃がしたくなくなったというか、アナタを越えれば良いんでしょ? やってやるわよ私!!」
「その調子ですわ部長! もしお仲間に出来たら是非罵声して貰えるようにお願いしましょう!」
「だから姉様の代わりに先輩に滅茶滅茶にされる健気な妹の方が燃えます」
「いーや違うね! 妹を守るために身代わりになる姉の方が想像力を掻き立てるにゃ!」
「マックよりモス○ーガー派かな? どう思う?」
「僕はロ○テリア派だと思いますけど……」
あ、ドライグの言う通りバカなんだ。
補足
神外モード。
乱神、改神、廃神、終神、矛神、壊神全てを兼ね備えた文字通り人外化するスタイル。
覇龍と無神臓を完全融合させ、歴代赤龍帝の思念達を黙らせる事により至った歴代例外の一誠流の覇龍であり、その力は一見すると何にも感じない。
いや、あまりにも高次元過ぎて感じ取れないといった方が正しいか……。
が、それでもとーちゃんかーちゃんに負けるので、まだまだ発展途上な訳だが。
基本は徒手空拳であり、この兼ね備えにより黒神めだか力と獅子目言彦力のコラボレーションが可能になってたりするが、本人にその自覚はまるでない。
その2
リアスさん達のメンタルはある意味鋼を通り越した何かです。
とにかく一誠くんとお茶のみ仲間になりたくて仕方ない様子……若干邪な思考なのは気のせいだ。