もう二度と奪われまいと最後の最後まで諦めはしなかった。
無くした自由の為に抗い続けた。
共に生きると誓った相手との未来の為に……。
どんな理不尽があっても。
どんな現実を突き付けられても。
それでも抗い続け、戦い続け……そして走り続けた。
自由の為に。
自由を奪われた自分を助けてくれたのは、その存在すらも全否定されても尚生きようとする執念の炎を燃やした彼だった。
最初は自分の境遇が似ていからという同情心からだったと彼は話してくれた事もあったけど、私にとって始めの理由が何であったかなんてどうでも良かった。
ただの同情だけで、今後のリスクを承知で世間を知った気でいただけの世間知らずであった私を守り続けてくれた。
私の自由を奪おうとする者達と戦い続けてくれた。
そして私と一緒に地獄の底へと堕ちても彼は一切変わらなかった。
だから私は彼に惹かれた。
だからもう一度だけ前を向けるようになれた。
どんな事があっても彼を信じ、愛し続ける事ができた。
それはこれまでも―――――――そしてこれからも決して変わらない。
私が見つけた正真正銘の気持ち。
一度壊れてしまった繋がりはそう簡単に治すことは叶わない。
それでも誇りの為に戦い抜いた戦友が自分達には居た。
友情の為に全てを敵に回す覚悟を当たり前のようにしていた戦友も居た。
ただ惚れた者を支える為に堕ちる覚悟をしていた戦友
も居た。
絶望の底へと落とされた妹と共に這い上がった戦友にて義弟が居た。
そんな戦友達と共に抗い、戦い抜いた事で昇華していった悪魔の青年は、自らと自らの娘を裏切った妻への未練を共に断ち切る事で前へと進んだ。
自らを導いてくれた人外であった者と共に。
その先に何があろうと恐れる事は無いと……。
それが例え奇妙なやり直しをすることになろうとも、超越者を越えた到達者である青年は変わらないのだ。
同じ運命になることを回避する為の準備は当然怠らない。
故に彼はまず後の妻となる者との関わりを徹底的に避けた。
それにより、娘が生まれなくなるという歴史に変わる事になるだろうが、彼にとってそれは問題ないのだ。
何故なら既に彼には娘が居るのだから。
人外であった者によって立派になってくれた自分と彼女の娘が……。
加えて妹と妹が愛した彼も居てくれたし、戦友達とも秘密裏に再会することが出来た。
となれば怖いものなどありはしない。
前世で裏切った者達が余計な真似をしてくるが、彼はその悉くを無視してやった。
今更自身の種族なんぞに誇りなんて抱けないのだから。
「元々キミという存在そのものに興味なんて無かったし、見ての通り僕には妻も娘も居るんだ。
周りに何を言われたのかは知らないけど、相手にして貰いたいなら僕以外の誰かにするんだね」
「……………」
それに、前世で妻であった彼女への未練も……。
魔王なんて役職に最初からやる気等無いものの、今の妻との正式に一緒になる条件を飲ませる形で就いているサーゼクス・ルシファーにとって、今世ではほぼ避けていた筈の前世における妻であったグレイフィア・ルキフグスの存在は実に鬱陶しい。
「サーゼクスよ。グレイフィアさんがお前に辛辣にものを言われたと泣いていたのだが……」
「相変わらず甘いですね。
あの女がその程度のことで泣くようなタマではありませんよ。
どうせ周りからの同情でも買うためです」
「しかし……」
「しかしも何もありませんよ。
どうや周りのバカ共は純血同士である私とあの女を一緒にさせたいようですが、くだらないにも程がある」
「「………」」
普段は人当たりの良い青年であるサーゼクス。
しかし特定の人物の事になると一気に冷徹さが浮き彫りとなる。
それは妹以外の肉親ですら例外では無く、特に先の戦争で敗戦派閥に属し、人質という形でサーゼクスの――名目上は眷属となるグレイフィア・ルキフグスに対しては辛辣を通り越して嫌悪すら示している。
その理由は誰にもわからず、グレイフィア自身も『何か思い当たる節』を持っている様だが決して語ろうとはしない。
サーゼクスの現在の妻と娘――特に妻に対して嫉妬と憎悪を向けているのだけは間違いないのだが……。
「それで? 今日は非公式ながらもリアスの初ゲームです。
そろそろ私はあの子の顔を見に行きたいのですがね」
「「…………」」
どうしてそこまで……。
サーゼクスの両親達にもわからないのだった。
色々と変えてきたものの、前世からの『呪い』のような運命だけはどうしてもこびりつくものなのだと理解しているサーゼクスは、前世とは違い、現在も悪魔として生きている妹が、前世とは違って逃げずに、己の愛する者達と戦って勝利する姿を見て頬を緩める。
「こうなって当然の結果だね。
今の三人ならあの程度の連中は片手間にもならないよ」
「そうだね。
それでもちょっとは心配だったから、これでやっと安心したよ」
「よかった、リアスお姉ちゃん達の勝ちだ……!」
ゲームの対戦相手を片っ端から片付け、完全勝利をする姿を会場中継のモニターを隣に居る女性とその女性に膝枕される赤髪の少女と共に眺めるサーゼクス。
そんな三人の後ろから一応は眷属という体で存在しているグレイフィアが憎悪のこもった目で彼の『妻』となる女性を睨んでいる。
「………」
「何時までキミはそこに突っ立っている気なのかな? 早いところ終了のアナウンスをしてあげないと、一誠がフェニックスの三男を殺しちゃうよ?」
「………………………」
それに対して元人外の女性は軽く流している様子だし、娘の方は目すら合わせず、サーゼクスはただただ淡々と自分の仕事をしろと女性を睨むグレイフィアに言う。
「何故私がこんな目に……!」
全てをやり直せると信じていた夫には冷淡に。
娘には完全に避けられ。
それもこれもこの人外の女のせいだと、己がやってしまったことを棚に上げて憎悪を募らせていく。
何をしようともやり直すことは既に不可能であるというのに……。
かつてとは違い、眷属もまともに揃える事は無かったリアスは、今回もあった婚約話を真正面から捩じ伏せて破談させることに成功した。
相手のライザー・フェニックスには気の毒だが、一誠が最初から全力状態で挑んだ時点でどうしようもないのだ。
「これでこういった話も二度と無くなるぜ」
「ライザー・フェニックスは二度とステーキが食べられなくなっちゃったわね……」
「一誠が気絶していた奴を、サーゼクスの元嫁のアナウンスが入るまで徹底的に殴り続けていたからな」
リアスは現在を生きるに辺り、眷属を二人しか持っていない。
だがその二人の眷属が異質なまでの力を保持しており、更に言えば各々が二天龍を宿している。
つまり戦力という意味でならこの二人だけで完成をしてしまっており、またリアス自身が他人に対して壁を作るような性格があるため、中々新たな眷属が加入することはない。
そんな娘や息子の現状に対して両親はあまりいい顔はしない。
「私なんかはまだいいわよ。
お兄様の方が面倒な事になっているでしょう? ヴァーリの言うとおり、記憶を持ったあの人が眷属にされちゃってるんだから」
「徹底的にあの女を避けたつもりなのに、押し付けられたと愚痴を溢していたな」
「ドロドロしてんだろうなぁ……」
ドス黒い念を抱いているのが丸見えな姿のグレイフィアと少しだけ顔合わせをしたことがある三人はサーゼクスにちょっとだけ同情しながら、冥界を後にする。
「記憶といえば、ソーナ・シトリーやらリアスの眷属だった連中もそうだったな。
……いきなりリアスに駆け寄ってやり直したいって宣った瞬間、間髪入れずに一誠のスイッチが入ってしまって、軽い殺戮現場化してしまったけど」
「理由はあったにしても、流石にやり直したくはないわ……」
「大人しく俺達の関係ない所で無駄に生きりゃなんもしねーさ」
冥界から人間界へと帰還し、現状リアスが管理を一任されている街である駒王町内にて寝泊まりの為に借りているマンションに帰宅する。
「ただいまー」
とある理由により、少し大きめの部屋を借りており、その理由とは、ただいまと言いながら部屋へと入る三人を出迎える者達が理由であった。
「うーむ、今年の嫁売カイアンツの野菅は中々良いピッチングをする……」
「本坂も調子良いみたいだぜ?」
「ほら、三人が帰ってきたのですから、TVばかり見ないでください」
TVを見ている浴衣のような出で立ちをした男性二人に、注意をしながら料理を運んでいるエプロン姿の金髪の女性。
リアス、一誠、ヴァーリにとっての同族を越えた信頼関係を持つ者達。
「よぉ、その様子じゃ余裕だったみてーだな?」
「当たり前だろ、今更コイツ等がぬくぬくと生きてきただけのガキ共相手に遅れなぞ取る訳がない」
軽薄そうな出で立ちの青年と悪人顔の男性。
それぞれ名をアザゼルとコカビエルという名の堕天使である。
「寧ろ相手を殺してないかが心配です。
リアス、一誠は相手を……?」
「えーっと……二度と物が食べられなくなったりはしましたけど、生きてはいるわ……うん」
「まあ、ゲーム終了のアナウンスが後数秒遅かったら死んでたかもしれないがな」
「調子こいてリアスちゃんにベタベタしようとしたんだ。死んでねーだけありがたいと思って欲しいぜ……」
「やはりそうでしたから……まったく、アナタはリアスの事になると熱くなりすぎですよ?」
「いやー、ガブリエルさんだって似たようなもんでしょうに……」
「失礼な、私は状況に応じて感情を爆発させるだけです」
ウェーブのかかって金髪のこの美女の名はガブリエルで、なんと天使である。
つまり今この場には世間的には三大勢力と呼ばれ、冷戦状態な筈の三種族が揃っている事になっている。
しかもそれに更にあの三人――
「はぁ、そろそろ魔王の地位とか捨てたい気分だよ」
「ダミーを置いてきたから暫くはサボれるぜ?」
「僕、もうあそこに戻りたくないかも……」
サーゼクス、娘のミリキャス――そして別に正式ではないが事実上のサーゼクスの再婚相手であり、この面々がひとつのチームとなることが出来た核の元人外の安心院なじみ。
堕天使、天使、悪魔、神滅具の使い手というドリームチームの集結である。
「おお、元嫁を撒いてきたのかサーゼクス?」
「やめてくれ、元嫁じゃないよアザゼル。
ここでは僕は彼女とはなんの関係も無いんだから」
「向こうはそうとは思っていないのだろう? 記憶もあるようだしな……」
「今更なんだよ全部が。
『なじみ』に逆恨みをしてるのがズレてるとしか言えない」
誰かが見たら仰天するであろうドリームチーム。
かつて世界そのものに抗い、戦い続けた者達。
チームT×G
「それでアザゼル、例の装置の開発は進んでいるのかい?」
「もうちょい調整が必要だが、大体は完成しているぞ」
「完成すれば、俺達は誰も俺達の事を知らない地に渡れるって奴か……」
「ああ、誰も俺達を知らなきゃ、鬱陶しい柵も無くのんびりと余生が過ごせる。
そうすりゃあガブリエルとコカビエルも堂々とガキの8人や9人は作れるってもんよ」
「素晴らしいですよアザゼル! 是非完成を楽しみにしています!! ね、コカビエル?」
「いや……8人は無理があるだろ……」
「流石にのらりくらりは無理だとわかったんだな、俺の師というかコカビエルは……」
「本当にガブリエルはぶれが無くて、尊敬するわ」
「それを言ったら一誠お兄ちゃんも大概だと思うけど……」
「だな、コイツもコイツで本当にリアスしか見やしない」
「当たり前だぜ」
終わり
オマケ
人外と魔王
別に劇的な理由があった訳ではないのだけど、自然とそんな関係になっていたサーゼクスと安心院なじみ。
一京という途方もない個性がかつての戦いにより100以下にまで失われてしまった彼女と、妻を寝取られ、娘を守ろうと奮起した魔王。
「すーすー」
「ミリキャスは寝たのかい?」
「うん、近くに居たグレイフィアちゃんから離れたことで、緊張が抜けて眠くなっちゃったみたい」
「そうか……。早くミリキャスを安心させてあげないといけないな」
当初はグレイフィアの事を引きずりまくっていた彼だが、彼女がミリキャスを自分共々あの男に売ろうとした瞬間からかつてのグレイフィアは完全に死んだと悟り、そして戦うべき相手と覚悟した。
その覚悟をした時から……いや、その前から安心院なじみはミリキャスの傍に居てくれた。
故に当初は感謝と恩義を彼女に持っていたサーゼクスは、やがて互いに助け合いながらミリキャスを守り続けていく内に、お互いに、つい何と無くな感覚で一緒になった。
それは、ヤムチャを振った後のブルマが寂しそうに見えたベジータとついなんとなくでそんな関係になったのと同じように。
「結局、僕のスキルは戻らなかった。これじゃあもう平等なだけの人外である安心院なじみちゃんにすらなれなくなっちゃったぜ」
「……キミのかつての相棒の不知火って男が居たらなんとかなったのかもね」
「どうかな。あくまでも僕のバックアップみたいな存在だったし。
それにあの時世界に閉じ込められた時点で僕は悪平等ですらなくなった。
キミ達が居なかったら完全に僕は詰んでたと思うと笑えないぜ」
「逆にキミが居なかったら僕たちはひとつのチームとして戦えなかったよ」
寝付いたミリキャスを起こさないように、ベランダへと出た二人は、夜空を眺めながらこれまでの思い出を語り合う。
「本当に良いのかい?」
「……? 何が?」
「これはある意味でチャンスなんだぜ? 正気に戻ったグレイフィアちゃんとやり直せる」
色々あった。
個性を失い、大幅に力を失った事で死にかけた事は一度や二度ではなかった。
だけど、リアスを守るために進化をし続けていた一誠の様に、サーゼクスもまた進化をしてきた。
ただ、ミリキャスを守ってくれた安心院なじみへの恩を返す為に。
「良いも悪いも無い。
ここでは彼女とは何の関係の無い他人だ。
だからやり直すもなにもない……それに、あの男と一緒になってキミとミリキャスにしたことを無かったことにするなんて僕にはできない」
「でもそれってさ、あの男に――」
「一誠も言っていた。
じゃあ、洗脳されていたからって自分の仲間だった相手を傷つけて良いのか? 正気に戻ったからってそれを信じられるのか? ………僕の結論は後者だ。
いくら正気だなんだって言われても、あの時された事だけは絶対に忘れられないし、許したくない」
「……………」
慈愛のグレモリーなんてどうでも良い。
かつてされた事を忘れて再び慈愛とやらを向けられる程、サーゼクスもリアスも大人ではない。
「だから完全に縁を切る。
それで僕たちは本当の意味で前を歩ける」
名誉も地位もなにもかもを捨て、本当の意味でのリトライを果たせた時こそが自分達のゴールである。
そんな覚悟の炎が目に灯るサーゼクスの言葉に、安心院なじみはやれやれと肩をすくめた。
「これじゃあ僕がグレイフィアちゃんからキミを寝取ったみたいじゃあないか」
「あはは! じゃあ僕はキミに洗脳されてメロメロになった男かな? ふふふ、それも良いかもね」
個性のほとんどを失い、かつて球磨川禊によって封印された時の様と同じ白髪と化した彼女と赤髪の青年は互いに笑いながら、つい何と無く肩を寄せ合う。
「あーあ、平等なだけの人外って自称していたのも返上だ」
「もし完全に取り戻せていたらどうしていたんだい?」
「んー……さぁ? 行く宛もないしどっちにしろキミ達と居たかも? どっちにしろ――」
「……!」
「――――口移しはサーゼクス専用になってたと思うぜ?」
そしてつい何と無く不意打ち気味にサーゼクスへキスした安心院なじみはふふんと笑っていた。
「キミには敵わないなぁ……」
そんな不思議な彼女にサーゼクスは笑うと、彼女にされた時と同じように――影を重ねるのだった。
終わり
補足
最強チームの後日談というかなんというか。
この後は、アザえもんの装置でどこかに旅立ち、ルーンファクトリー的な世界でほのぼのと生きる的な。
その2
そしたらカブに執着しまくりな方に白龍皇さんが振り回されたりする……かは知らん。
その3
多分どこかの世界のサーゼクスさんは発狂するんじゃないかしら?