復讐の為に生き続けた赤き龍を宿す少年は、同じ傷を持った悪魔の少女と出会う事で、生きる意味への光を見出だすことができた。
堕天使である師を失い、墜ちぬ天使と情熱き義父の堕天使と共に復讐することを誓った白き龍を宿した少年は、同じ志を抱いた友と出会うことで更なる領域へと到達した。
共に抗い、共に切磋琢磨し、そして共に奪われたものを取り返す為に戦った。
そして全てに決着をつけた先に待ち受けていたものは―――ほんの小さな寄り道な冒険だった。
殺された両親の仇討ちと奪われた悪魔の少女の為に走り続けた赤龍帝。
自由と殺された師への仇討ちの為に飛翔し続けた白龍皇。
ねじ曲げられた世界によって皮肉にも同じ志を抱き、そして皮肉な事に本来よりもかなり早い段階で長きに渡る二天龍を宿した者の宿命を終わらせた少年二人は、世界そのものを破滅させる程の壮絶な戦いによる傷がまだ癒えない状況の最中、二人で肩を支え合いながら見知らぬ大地を歩き続ける。
「ここはどこなんだよ、まさかの迷子かよ……?」
「お互いにこのザマで、アザゼル達の気配すら感じられない……。
これは客観的に考えても俺達のピンチだな……」
「呑気に言っている場合かよ? 折角あのクソッタレ野郎を消し飛ばして、リアスちゃんを自由にできたってのに、こんな所で死んでられないぜ?」
「ああ、それには同感だ……」
全身が傷だらけで、着ている服の所々から血が滲んでいる茶髪の少年と銀髪の少年。
まさに壮絶な殺し合いの後ともいうべき出で立ちである彼等は、『殺し合い』を制した直後に気を失い、気が付いたらこの全く見知らぬ場所で目を覚ました。
「身体がガタガタだ……」
「正直立っているのもやっとだ……」
肉体のダメージが強すぎてまともに歩く事も儘ならず、更に言えば二人にとって共通する仲間達の気配を辿る事もできない。
故にまずは体力と傷を回復させようとこの見知らぬ平原を歩くのだが、人の気配はしないし街のような場所も見えてこない。
「ダメだ……ちょっと休もうぜヴァーリ? ダメージが大きすぎてこれ以上はもう歩けないよ……」
「ああ、実は俺もそろそろ限界だったんだ。
仕方ない、今日はこの場所でキャンプだ」
結局どれだけ歩いても何も見えなかったので、ダメージの深刻さもあって取り敢えずその場で今晩を凌ぐ事に。
「嘘だろ、本当にどこなんだよここ? 携帯の電波が圏外って出てるんだが……」
「確かによくよく周りを見渡したら電波塔のような類いも見えない。これは奴との戦いの最後の大爆発に巻き込まれたけいで、相当な田舎に吹き飛ばされたのかもしれない」
「どこの国の田舎だよ? アフリカか?」
「さぁな……アフリカという感じの気候ではないとは思うが」
その場に二人して大の字で横になり、星空を見つめる。
「皆は大丈夫かな……?」
「大丈夫だと信じたい」
壮絶な殺し合いの果てだったこともあり、二人は他の仲間達の事を心配に思いながらもすぐに眠ってしまう。
そして数時間後の明け方。
「よっし、本調子じゃないけどどうにか回復できたぜ」
「やっとまともに動ける……。
まずはアザゼル達を探しにいこう」
全体の3分の1程度ながら体力を回復させた二人は、再び仲間達の捜索の為に動き出す。
だがしかし、仲間達の気配を一切感じる事ができず、代わりにこの場所が人間界である事なのは把握できた。
理由は、二人にしてみれば前時代も甚だしい格好をした集団が、これまたド田舎としか思えない集落を襲っているという場面に出くわしたのだから。
「マジか、このご時世にリアル世紀末な光景を見ることになるとは思わなかったな。
つーか、あの山賊装備してるのって人間だよな?」
「特別な気配は感じないから恐らくは……。
しかしなんだあの格好は? 今時のマサイ族ですらあんな格好はしないぞ? 知ってるか一誠? 最近のマサイ族は普通にスマホやらPCを扱うらしいぞ」
「ああ、前にどっかで聞いたな。
俺達がイメージする格好をする時は観光客を相手にする時だとかなんとか……。
でもヴァーリよ? そのマサイ族よりやばい格好してる連中はどうみてもマジに襲ってるぜ?」
「ああ、しかもあんなボロボロな刃物やら槍やら持ってな……一体いつの時代の人間なんだろうか」
その光景があまりにも時代錯誤すぎて、思わずテレビの映像でも見ているような感想を二人して言い合う中、略奪者達は次々と演技ではない形相で街の人達を襲ったり金品を強奪している。
「えーっと、どうする? どう見てもガチでやってるぜありゃあ……」
幸い略奪者達はこちらに気付いてはいないらしく、一誠は少々困惑しながらも相方であるヴァーリに訊いてみる。
「どうすると言われてもな。正直俺達には関係ないし……」
「だ、だよな? よくわからないし、マジで阿鼻叫喚な構図でお気の毒と思うことにしてこのまま見なかった事にするか?」
「少し後ろ髪を引かれる気にはなるが、無駄な体力を使う訳にはいかないから……」
その結果、満足に体力が回復できていない現状を踏まえてスルーを決め込む事にし、二人して『俺は何も見なかった……!』と言いながら背を向けたのだが……。
助けてという子供の声が聞こえた。
子供だけは助けて欲しいと懇願する母親の声が聞こえた。
「「………」」
聞こえてしまった。
無力であった頃の自分がフラッシュバックしてしまう。
そして気付けば赤き龍帝と白き龍皇は――――
「何だテメー等――あぎゃっ!?」
「邪魔する気か!? だったらお前らも――めぎょ!?」
「ここ数日の俺達は大変でな、頗る機嫌が悪いんだ」
「は、はぁ? 何を言って――おぼべ!?」
「つまり、運が悪かったのさ……キミ達は」
残る体力を全開にして略奪者達をメタメタのグチャグチャにしてやるのであった。
力と心を極めし二つの龍の化身が降り立ちし時、汝の矛と盾となり、混沌の世に平定をもたらすであろう。
そんな噂がどこかの占い師によってこの混沌となりつつある世界に広まり始めた時から、眉唾であるとは思いつつも其々の中に野望を秘めている者達はその行方を追った。
そしてその占いも所詮は眉唾でしかなかったのだと残念な気分になりはじめた時…………ある者は見た。
『こんにゃろめ!!』
『げぎゃ!?』
『よっしゃ――うぐっ!? やっぱまだ完全には回復できてないぜ。
ヴァーリはどうだ!』
『俺もだ。しかしコイツ等を追い払う程度はできる……!』
薄汚れてはいるが不思議な格好をした二組の男が、小さな集落を襲っていた賊の類いを、凄まじい力で粉砕している光景を。
背に輝く翼を広げて飛翔する男と、左腕に赤き装甲を纏い、地を駆ける男。
それはまさに例の占い師が口にしていた特徴そのものであり、何より二人とも手から謎の輝きを放って賊を吹き飛ばしているではないか。
まさかこんな所で占い師の言った通りの龍の化身と出会すとは思わなかった。
故に、賊を完全に追い払い、疲れたようにその場に座り込んだその機を見計らい――
「ぜぇぜぇぜぇ……せ、折角少しは体力回復できたのに、また振り出しだよ。
くそー、リアスちゃんの料理が食いてぇ」
「いや、まだ終わりではないらしい……」
「なんだと? ま、まだ残っていたのかよ。
しかも今度は女の子か……? ぜぇぜぇ、ちょっとマジにキツくなってきたぜ」
「いや待て……。
さっきの連中と比べたら身なりがまとも………か?」
龍の化身と思われる二人の男に接触し、後の運命を変えていく事になる。
これは悪魔の少女一筋過ぎる赤龍帝と、死の果てから帰還した師の嫁天使やらリアスという女性陣と共に戦ってきたせいで、実のところ理想が高すぎてしまっている白龍皇の寄り道冒険記録。
「へー……そっかぁ、つまりここって俺達からしたら過去の世界なんだね」
「どうりでさっきの略奪者達の身形がおかしかった訳だ……」
「貴殿等の言っていることが本当ならば……」
またしても体力が尽きて逃げられなくなってしまったので、そのまま捕まり、話を聞かされていく内に発覚する状況。
「龍の化身だって?」
「その占い師というのは何者だ?」
「それが私達にもよくはわからないのだ。突然現れては大陸のあちこちでそういった予言をして回っていたらしい」
「すっげー怪しいんですけど」
簡単に言えば自分探しの旅に出ているらしい女性とこれも何かの縁ということで、この世界について教えて貰うという意味でも暫し行動を共にすることになったり。
「趙雲……? 変わった名前だねというか、なーんかどこかで聞いた事があるような」
「思い出せん……」
名前を聞いても二人してまともな義務教育を受けていなかったのでリアクションが薄かったり。
「真名? 真名ってなんだ?」
「真名を知らぬのか……? 別世界から来たって話も段々と信用できたぞ。
真名というのは―――」
真名なる制度を教えられたり。
「つまり俺にとっての真名は一誠って訳だな」
「俺はヴァーリか……」
「え……!? あ……す、すまない。私はてっきり字かと思って呼んでしまってた」
「ああ別に良いよ。
君達と違って俺達は重要視してないし」
「好きに呼んでくれ」
「そうはいかぬ。これもやはりなにかの縁だと思うし、二人に私の真名を……」
なんやかんやと世話になったり。
「私は己の武を振るうに値する主を探すために放浪をしているのだが、恐らく二人の正体を知られれば騒ぎになると思う」
「それは困るかもしれないぜ。ここに来たのも偶発的な事故みたいなものだし、何より元の時代に帰らないといけない」
「申し訳ないが、俺達はこの世界の為になにかをするという気は無いぞ」
「わかっている。どうやら待っている者達がいるようだからな……」
世話になり、体力を完全に取り戻したり。行動する為の指針を決めたり。
「どうやらもうひとつの予言が広まったようだ。
なんでも天から現れる御使いらしい」
「……………天ねぇ」
「怪しさ満天に思えてしまうのは、奴の事があったからなのだろうか……」
他にも未来と思われる場所から誰かが現れたとの情報に脊髄反射な警戒を持ったり。
「幽州の太守のもとに暫く厄介になる事にしたぞ。一応二人の事は私の同志と伝えていて、正体については伏せている」
「この期間に帰れる手立てを探さないとな」
優秀ではあるがどことなくネガティブ思考な将のもとへと転がり込んだり。
「た、大変だ!」
「? そんなに慌ててどうかしたんすか?」
「私の昔の学友が突然現れたかと思ったら、天の使いと一緒だったんだ!」
「………ほほぅ?」
慌てる将さんを余所に、飛んで火に入る夏の虫感覚で、キーマンっぽい存在かが現れて早速こっそりその天の使いとやらを見てみたが……。
「うーん……普通の学生って感じだったな」
「ああ、思ってたより遥かに普通の人間だったな」
二人が想像していたのとは真逆の普通の男性で力も非力であったとわかり、密かに安心する。
しかし二人とは正反対に、今現在の雇い主となっている太守の女性は割りと大きめのダメージを負わされていた。
「わ、私の隊の半数以上がアイツ等に加わると出て行ってしまった……」
「ああ、そう言えばヤケに人が少ないなとは思ってましたけど……」
「引き抜きをされたのか? アンタも運がないな……」
「昔から自覚はしていたさ……はははは――はぁ」
割りと落ち込む太守さんを取り敢えず世話になっているので元気付けてあげたり。
「趙雲の奴も天の使いの男に誘われていたぞ?」
「へー?」
「そうなのか。まあ、天の使いに危ないものは感じなかったし、良いんじゃないか? 彼女は元々自分に合った主探しをしていたしな」
「え、そ、そんな薄い反応をされるとは思わなかったけど……」
旅を共にしてきた者が引き抜きされたらしいと知ってもリアクションが薄かったり。
「確かに天の使い殿には誘われたが、断ってしまったぞ?」
「は?」
「何故だ?」
「何故と言われてもな……。彼等に仕えた自分を想像した所、どうも刺激が足りなさそうだったからだが」
「刺激って……」
「うむ、どうもお前達という理解の外に立つ者を先に知ってしまったからだな……!」
本人はどうやら普通に断ってしまったらしくて。
「はぁっ!? じゃ、じゃあお前達が天の使いの前に予言された龍の化身だというのか!?」
「化身っていうのは語弊があるんですが、まあ一応?」
「お、驚いたどころじゃないぞ。
けど何故今まで隠していたんだ?」
「俺達はこの世界の平和の為に現れた訳じゃないし、あくまでも目的は元の場所に戻る事だ。
だから一々俺達は龍の化身ですだなんて触れ回る意味が無いし、あまり目立ちたくもないんだ」
「な、なるほど……。
しかし何故今になって急に私にだけ?」
「いや、相手が学友だからと引き抜きされても大目に見てあげていたその妙なお人好しさのある貴女なら誰かに言いふらしたりはしないかなって」
「それに世話になっているしな」
「……………………………………」
「え……!? ど、どうしました!?」
「急に泣き出したぞ……」
「ぐすっ……い、いや……人に信用されるってこんなに嬉しいものなんだなって思ってな……」
「そんな事を泣きながら言うとは、本当に不運な方だな貴女は……」
そして微妙に運が無い器用貧乏さんにお礼がてら引き抜かれた分の空きを埋めるお手伝いをしてあげたりとか。
「星さんまで付き合う必要はないぞ?」
「いや、あんな心のそこから嬉しそうに頭まで下げる公孫賛殿を見ているとどうにも放っておけなくなってしまって……」
「確かに。
手伝いを申し出ただけであんな嬉しそうに笑うとは思わなかったぞ」
そのまんま器用貧乏さんの為に働き始め、流れで器用貧乏さんの真名を教えてもらったり。
大規模な賊討伐の為に各地の太守クラスが集められた際に、引き抜き相手と再会したり。
「ぱ、白蓮ちゃん。
あの人たちって何者なの?」
「背中から翼のようなものを生やして飛んだと思ったら、妖術のようなもので賊を一瞬で吹き飛ばしてましたが……」
「私の直の配下だよ。
以前から星……あー、趙雲と一緒に旅をしていたんだ」
「そうなの? ねぇご主人様は天の知識であの人たちの事は知っているの?」
「い、いや……あ、あんなのは知らないし、存在するわけがないんだが……」
何気に最近二天龍ではなくて三天龍を目指し始めている趙雲も一緒になって二人と暴れ倒している光景を前に、当たり前だが誰かなんてわからずに困惑する天の使い君だったり。
「じゃあキミ達も未来から来たのか?」
「うん」
「早く元の時代に戻らないといけないのだが、依然として手がかりがなくてね。キミはなにか知っているかい?」
「いや、俺も突然この世界に来たから……」
同じ未来人と知ってコンタクトをとってきたり。
「リアス? その者は一誠の何だ?」
「俺の大好きな子。
早く戻って会いたくてさ……」
「な、なるほど……そういうことだったのか」
「??? どうかしたの星さん?」
「な、なんでもない……」
そこそこ有名になってきてしまい、そこそこ女性に所謂逆ナンめいた事をされても刹那で断りまくる理由を知って割りと凹んでしまう子龍さんだったり。
「ああ、だから女に声を掛けられても断ったりしていたのか」
「一誠の行動原理が全てリアスに関する事だからな。
リアスを裏切る真似だけは絶対にしない。するくらいならアイツは間違いなく死を選ぶ」
「それほどまでなのか……。お前にはそういう相手は居るのか?」
「いいや。
ただ、俺にも理想はあるぞ。
俺の師の嫁やリアスのような女が良い」
「会ったことは無いが、それはもしや理想が高すぎるんじゃないか? というより、お前からしたら私なんかそこら辺に生えている雑草以下なのか……」
「本当にネガティブだなアンタは。
別にアンタにそんな事を思ったことなんてないぞ」
「そ、そうか? うーん……」
片割れの異性に対する理想の高さに、ひょっとして自分はただの雑草としか思われてないのかと不安になる器用貧乏さんだったり。
「それでリアスちゃんの赤い髪はとても綺麗だし、俺よりひとつ年上なんだけど、ちょっとだけ甘えん坊なところがあって、そこもまた可愛くて――」
「わ、わかった! わかったから取り敢えずやめてくれ! な、泣きそうになってくるから……!」
「? なんで?」
「な、なんとなくだ! うぅ……」
ブレぬ龍の帝王と、理想高すぎ問題を抱える龍の皇の寄り道冒険はこうして進むのだ。
「一誠、安心院なじみに教えられたアレをやるぞ」
「え、またあの変なポーズをやんの!? ……まあ、やらないとヤバイよなやっぱ?」
そしてその冒険の果てにたどり着いた光景は――
「「フュー………ジョン!! ハッ!!!」」
「一誠とヴァーリが……」
「一人になった……」
『俺は一誠でもヴァーリでもない……。俺は貴様を越える者だ……!』
更なる進化となる。
「ただいまリアスちゃん! 遅くなってごめんな!」
「イッセー……ヴァーリ……! 二人とも無事でよかった……!」
「これで全員集合か……少しばかり遠回りになってしまったぞ」
「ああ、それがいいけどよ、お前らの後ろにいる娘二人は何だ?」
「? ああ、話せば長くなるんだが、俺と一誠が戻ってくるまでの間世話になった人達なんだ」
「え、ええっと……?」
「お初にお目にかかる。貴女の事は散々一誠やヴァーリから聞いた……。なるほど……はは、これは勝てないなぁ」
「ええっ!? ちょ、ちょっと大丈夫!?」
「だ、大丈夫さ……あはははー」
「ああ、すっかり私より後ろ向きな考え方になってしまって……」
「後ろ向きって一体……」
終わり
補足
ベリーハードの二人です。
片方はリアスさん馬鹿
片方は師の嫁やらリアスさんといった者達と肩を並べて戦ってきたせいで、異性への理想が高すぎる。
結果……ほぼ揺れませんでした。
その2
子龍さんが二天龍と出会してしまったもんだから後の運命が変わってしまう。
器用貧乏も、そんな二天龍に同情されたから運命が変わってしまう。
幸なのか不幸なのかはわからない。
その3
髪の色が似てるだけで、別に子龍さんはたっちゃんポジじゃないよ?