色々なIF集   作:超人類DX

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続き。

レッツゴーしとります


過去から未来へ

 戦いを前にして後の人生をも揺るがしかねないやらかしをしてしまった三馬鹿は緊急会議を行った。

 

 

「俺は今程酒なんざ飲むものじゃないと後悔して憚らないんだぜ」

 

「ああ……」

 

「まったくだ……」

 

 

 たった一回の失態が、退路を絶たれる事態に発展してしまった。

 一誠もヴァーリも神牙も、その失態について今更になって後悔をするのだけど、やらかしてしまったという現実は変わらない。

 

 

「どうするんだよ……? 最初にあれだけ『情だけは持たない』って念を押してきた筈なのに……」

 

「ここまで帰れる手立てが見つからなかったからというのもあったが、そもそも途中からは無理があったとしか言えないだろう……」

 

「ああ、彼女達は変わり種が過ぎる」

 

 

 ズーンとしたどんよりオーラを放ちながら肩を落とす。

 当初の予定では、さっさと帰れる方法を見つけて親しくなる前におさらばをする筈だったのが、気付けば見つからないままお世話になり続けてしまうというグダグダっぷりに陥り、そして今回のやらかしをしてしまった。

 

 

 

「てかヴァーリってさ」

 

「なんだ?」

 

「…………。俺と神牙でこっそり話した事があってさ、お前って全然女の子に興味持ってなかったからてっかりEDか何かだと思ってたんだけど……」

 

「ちゃんと反応できるんだな……?」

 

「…………。殴るぞお前等……それを言うなら神牙だってそうだろうが」

 

「俺はそこそこ人並みには持ってたよ。

……別にこれを望んでいた訳ではないけど」

 

 

 

 どんな形であろうと、このやらかしに関してはそう簡単に逃げることはできないし、そもそも余計に彼女達が逃がしてくれそうにもない。

 ED疑惑のあったヴァーリですらはっちゃけさせてしまうとは、酒は実に恐ろしい液体である。

 

 

「つーかお前等は良いよな。

キレーなおねーさん相手にさぁ……」

 

「お前はこの期に及んでまだそんな事を言うのか?」

 

「逆を言えば一誠が一番犯罪ちっくだろう……? だって小蓮にまで――」

 

「言うんじゃねぇ! お、俺はロリコンじゃねぇ! 俺は絶対にロリコンじゃねぇ!!!」

 

 

 元の世界の、三馬鹿達にとって親しい者が聞いたら大爆笑でもされそうな状況。

 特に二人に言われた瞬間盛大に狼狽えながら否定しながら頭を抱える一誠の場合は元の世界ならば見事にお縄になってしまう事をやらしている。

 

 

「……まあ、お前は酒でワケわからなくなっていたとはいえ、一応合意なんだから大丈夫だろう? だから落ち着けよロリコン一誠? ―――ぷくくっ!」

 

「ああ、元々小蓮はお前を好いていたのだし、ここはそんな法など存在しない過去の世界だ。

今の時代ならば小蓮くらいの歳で結婚する事も珍しくはないんだろう? だから元気を出せよロリコン一誠? ――くくくっ!」

 

「……………喧嘩の話の時間だゴラァ!!」

 

 

 お陰で元気付けてあげようと見せかけてニタニタとしてるヴァーリと神牙のせいでラウンドゴングが一誠の中で鳴り響き、ストリートファイトが勃発してしまったのは――まあ仕方のないことなのかもしれない。

 

「一片やってやろうと思ってた所だ……!」

 

「聞きましたヴァーリさん? あのロリコン男は図星突かれて逆ギレしていますよ?」

 

「困ったものですよねぇ? ロリコン男は短気で困りますよ」

 

「…………ぶっ殺す!!!!」

 

 

 

 

 

 どうにもならないまま、各々の生活に一旦戻る事になった。

 結局いくら話し合った所で手を出してしまった現実から逃げられる訳ではないし、何度も言うがここの女性陣達がそう簡単に逃がしてくれるとは思わない。

 

 困った事に、三人とも弱体化してしまっているし、逆に彼女達は其々三馬鹿達のお陰で進化をしている。

 

 つまり数で掛かられたら割りと抑え込まれてしまうし、下手に逃げたら監禁でもされそうだ。

 

 つまり徹底的に嫌われて捨ててもらう様に仕向ける事ぐらいしか手がないのだが、成功する確率は限りなく低い。

 

 

「二人にからかわれたからって喧嘩するなんて……」

 

「いてて……! だ、だってアイツ等が……!」

 

「だっても何も本当の事だろうが」

 

「よりにもよってアイツ等に言われるのが腹立つんだよ……いつつつ」

 

「お顔が腫れちゃってるね……」

 

 

 幸い、やらかしてしまった相手である蓮華や思春や小蓮は何時も通りに接してくており、逆ギレ戦闘の際に二人がかりで押さえ付けられてしまい、怪我をしてしまった一誠を介抱してくれている。

 

 

「ちくしょう、二人がかりで殴りやがって……」

 

「大事な戦いを控えているのだぞ、そんな時に馬鹿な真似をするんじゃない」

 

「わかってるよ、ちょっと頭に血が昇り過ぎたって反省してるよ……」

 

「その『ろりこん』って言葉はどんな意味なの?」

 

「シャオの事だってのは何となくわかったけど……」

 

「………あんまり言いたくない」

 

 

 既に大まかな傷は常人からすれば引くレベルでの『自然治癒』を完了しており、軽い治癒だけで済んだ一誠はがっくりと肩を落としながら本拠地の離れの縁側めいた所で腰を下ろしている。

 これも途中で知った事なのだが、どうにもこの世界の一部技術は史実よりも大分進んでいる傾向がある。

 

 建築物やら、特に衣服なんかは現代でも見かける気がしないでもないデザインのものがチラホラあるのだ。

 ちょっと扇情的なデザインが多い気はしないでもないにせよだ。

 

 つまりコンビニやら携帯やらといった完全なる現代利器が無いことを抜かせばそこそこ順応が出来るし、最近はその不便さも軽く慣れてしまっている。

 

 

「あのさ、確認の為に聞くけど、俺って本当にキミ達に――その……」

 

「「「……………」」」

 

「…………。あ、うん……そうだよね。マジかー……」

 

 

 そういった生活に順応し、更に言えば初めて酒を飲んでしまったことが、潜在的なタガをはずしてしまい、このような事を引き起こしてしまった。

 酒を飲んだ直後の記憶が消し飛び、意識が戻ってみれば寝室で全裸で寝ていて、ふと左右に視線を落としてみれば、同じく全裸の娘さん達が……。

 

 

「俺初めてだったんだよな……」

「それは私達も同じだ。

酔ったお前に無理矢理連れ込まれて、よ、よりにもよって信じられない程に戯けているお前なんぞに……」

 

「や、やっぱり覚えてないの?」

 

「悔しいくらいにね……」

 

「シャオははっきり覚えてるし、絶対に忘れないよ? ふふ、一誠がずっと甘えん坊さんだった事も」

 

「え、えぇ……? 酔った俺ってなんなんだよ?」

 

 

 心臓が口から飛び出そうにもなったし、起きた娘さん達の態度とごちゃごちゃしていた寝具で全てを悟らされた時はパニックにすらなった。

 けれど、何度も述べるが、どうパニックになろうとやらかしてしまった現実だけは変わらない。

 

 

「…………」

 

「そんなに私達と寝た事が嫌だったのか……?」

 

 

 情を持ってしまえば別れが辛くなる。

 そう思っていたからこそ……というか、性格的に絶対にこんな事をするような関係にはならないと踏んでいたのに、蓋を開けたら責任案件。

 

 正直自分でもどうしたら良いのかわからずに、俯く一誠を見ていた思春が、珍しい声色で一誠に訊ねてくるので、ちょっと驚きつつも首を横に振る。

 

 

「キミ達が嫌だって事じゃないんだよ。

寧ろこんなろくでなしがキミ達の純潔をかっさらっちゃった事への罪悪感が強いというか……」

 

「私はアナタと共に出来た事を嬉しく思っているわ。だから罪悪感なんて持たないで?」

 

「シャオも。

思春もなんだかんだで拒絶なんてしなかったし」

 

「……。なんでそんなに優しいんだよキミ達は」

 

 

 最初は性格的に蓮華や思春とは絶対に相容れないと思っていた。それなのに……。

 彼女達――否、孫呉の者達のあり方が三馬鹿達に似ているからこそなのか、やはり居心地が良いと思ってしまう自分がいることに気づかされてしまう一誠は痛々しく笑ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと身体動かしてくる』と言って一人で鍛練に出掛けていった一誠を着いていかずに敢えて見送った蓮華、思春、小蓮は、一誠の現在の精神が揺れまくっている事を察知していた。

 

 

「どう思う?」

 

「完全に動揺していて色々な意味で隙だらけででした」

 

「どうしたら良いのか自分でもわかってないって感じだったかも」

 

 

 唐突だったとはいえ、あの夜の出来事は嘘でも幻でもなんでもない。

 酔っ払った一誠が結構な甘えん坊だったのと、別に拒む理由も無くついつい揃って受け入れた訳だけど、後は如何にして一誠に完全なという意味で受け入れさせるかだ。

 

「一誠は何れは元の時代に帰らないといけないと思っているから受け入れられないのかしら……?」

 

「それに関してはシャオ達もついていけば解決なんだよお姉様。

一誠達がこの場所に来れたのなら、シャオ達が逆に一誠達の世界に行けないなんてことはないでしょう?」

 

 

 と、例え帰る先が地獄の世界であろうとも付いていこうとする気満々な小蓮の言葉に蓮華は確かにと思う。

 すると、実は一番一誠の事を複雑な眼差しで見ていた思春が口を開く。

 

 

「………………。かつて一誠を見捨てた者達が関係しているかもしれません」

 

「一誠を捨てた――確か『悪魔』といった者達のこと?」

 

「ええ、アイツの口からはそれほど語られやしませんでしたが、どうもその悪魔とやらは女のようです」

 

「女……ねー?」

 

「何度か寝坊するアイツを叩き起こそうとした時に、その悪魔と思われる者達の名前を苦しそうに呼んでいました」

 

「………。そういえば私もあるわ。

確か――『りあす』と呼んでいたわ」

 

 

 ヴァーリや神牙と比べても頑なに帰ることを口にする理由について、そして何かに迷っている理由が、何度か話で聞いたことのある、元の世界における一誠にとっての縁のある者達。

 その者達が理由で自分達を受け入れる事を躊躇っているのではという思春の推察に、蓮華や小蓮は納得したように頷く。

 

「それが『思慕』からなのか、それはわかりません。

ですが、帰ろうとする理由のひとつではあると私は思います」

 

「そうね。

思慕でなかったとするなら、見捨てられた時の心の傷がずっと癒えていないから……」

 

「……」

 

 

 この考えが当たっているのならば、どうにかして…してその悪魔とやらとは違って何があろうとも裏切らないし見捨てもしないという事を信じて貰わなければ先に進む事ができない。

 

 お調子者で、女にだらしなくて、アホでスケベなのかもしれない。

 けれどそんな彼だからこそ、知れば知るほど惹かれていったのだ。

 

 

「というより、やっぱり思春もそういう気持ちがあったのね?」

 

「………。蓮華様に秘め事はしないと誓ったので白状します。

ええ……ああいう戯けた者は嫌いでしたが、知れば知るほど心の底から嫌いになることはできませんでした」

 

「ちぇ……シャオだけの一誠だと思ったのになー」

 

 

 裏切られ、見捨てられた事へのトラウマを心の底に持ち続ける寂しがり屋に借り続ける借りを返す為に。

 何よりも惹かれたため……。

 

 『進化』を果たし、『覚悟』をした彼女達の心に少しずつ三馬鹿達と同じ『火』が灯るのだ。

 

 

「間違いなく雪蓮姉様や冥琳達は『行動』を起こすわ。

だから私達も……」

 

「はっ……!」

 

「承知だよ蓮華姉様ー!」

 

 

 

 

 

 さて、異世界にてまさかの脱チェリー化を果たしてしまった三馬鹿なのだが、ここに来てまさかの展開に遭遇した。

 

 

『やっと俺の声が届いたか、待たせすぎだぞ』

 

「ド、ドライグ!?」

 

 

 そう、これまで――この世界に飛ばされてからは弱体化の影響もあって一切意思疏通が出来なくなっていた相棒のドラゴンことドライグとの意思疏通が突如として蘇ったのだ。

 

 

『ヴァーリの奴も今ごろ白いのの声が聞こえているだろうし、神牙の奴も黄昏の聖槍の『変化』を復活させている筈だ』

 

「な、なんでたって突然?」

 

『理由は知らん。

だが、敢えて言うならお前らが酒飲んで泥酔した時の夜が一枚噛んでいると俺は思っている』

 

「は!? よ、夜ってその……」

 

『今更そこを詳しく掘り下げる気無い。

しかし、お前があの小娘達と交わった直後から塞き止められていた『無神臓』が解放され、少しだけ力を取り戻したと見て良い』

 

「だ、脱童貞だけでそんなパワーアップなんて……」

 

 

 久々の相棒の声は相変わらず渋い声で、ちょっとした安心感を覚えるのだが、甦らせた原因が脱童貞というのには微妙に納得ができない。

 

 だがドライグの言うとおり、無くしたとすら錯覚していた神器とは違う我の力たる『無神臓』の特性が蘇っているのは事実だった。

 不覚にも、ドライグに指摘されるまでは気づかなかったが。

 

 

『それで? お前の力をある程度復活させてくれ、俺もこうして出てこられるようにしてくれた小娘共はどうする気だ? 俺としてはお前を受け止めてくれた事に是非礼が言いたいのだが……』

 

「よ、よせよ。

第一あれは殆ど事故というか……」

 

『が、悪い気はせんのだろう?』

 

「………」

 

 

 流石一誠に宿るだけあって、思っている事を見抜いているドライグ。

 

 

『……。それともお前はまだ奴等へのトラウマのせいで無理だと?』

 

「違う! 今更あんな連中に思う事なんて何一つ無い! ただ俺は――」

 

『再び見捨てられるのが怖い……か? それとも自分が裏切るかもしれないと怯えているのか? ―――お前の場合はどっちもか』

 

「く、くそ、ドライグには隠せるわけないか。

ああそうだよ……! 怖いさ、またあの野郎が現れた時みたいに、それまでの全部が無かった事にされたばかりか、存在否定までされることが怖いさ! それに何時までもウジウジと怯えてるせいで、あの子達を信じることができないのも!」

 

 

 かつての『張りぼて以下の元主と仲間連中』とのトラウマを吐露する一誠。

 ヴァーリや神牙との違いは、このトラウマが残り続けているからに他ならない。

 

 

『………。俺は元々あの連中は奴が出現する前から信用ならんと思っていた。

奴等はお前では無く、お前が宿す俺の力と無神臓に利用価値があると見ていて、決してお前自身を受け入れていた訳ではなかったからな』

 

 

 そんな一誠にドライグは元から一誠の元主だった悪魔達のことは信用できなかったと言う。

 

 

『そうでなければあんなにアッサリと、何の力が働いたにせよ、奴に惹き付けられる事はなかった。

証拠にあの変人天使は奴が何をしようが一切全く揺れなかっただろう?』

 

「…………」

 

 

 ドライグに言われ、変人天使(女性)の事を思い出す一誠。

 確かにドライグの言うとおり、目が覚める程の美女で、ド悪人顔で敵勢力の幹部である堕天使に何百年単位で恋をし続けている彼女は文句無く変人だが、それ以上に誰よりも一途で、誰よりも強い心を持っていた。

 

 それこそ、元主と違ってどんな精神的なにかをされても一ミリたりとも心が揺れなかった程に。

 

 

「だけど、あの子達があの人と同じとは限らないだろ……」

 

『当たり前だ、あの女天使が異常なだけであって、小娘達が同じな訳がない。

だが、少なくともあの悪魔のガキ共とは違ってお前の力をただ利用せんと甘言を吐いてはいない』

 

「…………」

 

 

 トラウマ故に根っこで人を疑う一誠に、親のように話すドライグ。

 

 

『お前とヴァーリが、白いのとの因縁がくだらないものだったと目を覚まさせてくれた。

そしてお前は神器としての封印を克服させてくれた――故に俺にとってお前は最後の宿主であり、死を共にすると決めた。

そんなお前があんなカス共のせいでウジウジする等、見るに堪えんのだ。

克服し、進化するのがお前だろう? それがお前の『無神臓』だろう? それならいい加減前を見ろ……そしてカス共に言わせてくれ―――『貴様等が見捨てた一誠は最早どう喚こうが永遠に手の届かぬ領域に到達した、ザマァ見ろバーカ!』――とな?』

 

 

 その声色は父親のように優しく。

 

 実の親にその異質さ故に捨てられ、信じようとした者達にも裏切られ、心にトラウマを残し、真の友でも癒せぬ傷を克服してこそ本当の進化があり、酒に酔った事で完全なる素となった一誠を受け入れてくれた彼女達とならば、克服することができる。

 そう相棒として信じるドライグの言葉に、一誠は左腕に赤き龍帝の証たる籠手を纏うと、この世界に来てからは不可能だった力を解放する。

 

 

「っあぁぁぁぁっ!!!!!』

 

『そうだ、吐き出せ。

心に残る傷汚れを全部この場で吐き出せ……!』

 

 

 ドライグとの意思疏通が復活したとはいえ、それでも本来の力の半分にも満たない。

 しかし一誠が内に秘める感情と共に吐き出される赤き力の闘気の奔流は大地を震わせ、天を震撼させる。

 

 

「ガァァァァァッ!!!!」

 

 

 やがて力の奔流が極限まで達した時、一誠は地を蹴り、空へと飛び立つ。

 そして天に向かって拳を突き上げ――

 

 

「龍拳・爆撃ィィィッ!!!」

 

 

 封じ込めていた感情を龍の形しながら空へと放り捨てるのだった。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ………」

 

『どうだ? 少しは楽になれたか?』

 

 

 放つオーラが龍の形となり、天へと昇って消えていくと、地面へと着地した一誠は肩で息をしながらその場に座り込んだ。

 

 

『が……やはりまだ本来のお前には程遠いか』

 

「ぜぇ、ぜぇ……こんなマジになったのなんて久々だったからだぜ……」

 

『神牙とヴァーリとの鍛練も互いに本気を出せなかったからな。

しかし今ので少しはスッキリしただろう?』

 

「ふぅ、ふぅ……ふー……まぁね」

 

 

 『ナニか』によって塞き止められていた本来の力の一部を解放することが出来たし、ドライグの指摘通り、少しは気分もスッキリした。

 

「全く……とことん儘ならない人生だぜ。やっぱ奴等を中途半端に生かしたのは間違いだったのかな……」

 

『お前が直接殺してやる価値等あのカス共にありはしない。

それに、精神的な意味では既に殺してやったも同然だろう?』

 

「どうだろうねぇ。

昔から図太い性格してた気するし、案外今ごろケロっとしながら生きて――ちくしょう、何だか段々腹が立ってきたぜ」

 

 

 この地に迷い込んだ事で欠けてしまった『欠片』のひとつを取り戻した。

 

 

「決めた。やっぱり俺は元の時代に帰る。

ヴァーリと神牙が残るって言うなら――まあ仕方ないとは思う。

けど、俺にはまだあの世界でやることが残ってるんだ」

 

 

 そして、当初とは違う意味で改めて『帰還』する事を決めるその目は、以前とは違った『覚悟』の炎が灯っている。

 

 

『あの小娘達はどうするつもりだ?』

 

「……………。その事も今考えたよ。あの子達は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 天変地異の前触れを思わせる巨大な地揺れと共に感じ取れた、今まで一度も感じたことの無かった巨大な力の気配―――一誠の気配を私達は近くに居たからこそ感じた。

 

 そして感じた方向の空には、赤い龍のような光が天へと昇っていくのが見えた。

 

 

「今までで一番強い力を感じたわ」

 

「はい……もしや一誠に何かあったのでは……?」

 

「探しに行こう……!」

 

 

 小蓮の言葉に私と思春は無言で頷き、最後に一誠の気配を感じた場所への走る。

 困った事に、最近は馬より自分で走った方が速くなってしまっていた――一誠に鍛えられたお陰で。

 

 

「あ、一誠!」

 

 

 そんな調子で走り続けていると、近くの山の入り口から山を降りてきたと思われる一誠を小蓮が先に見つける。

 

 

「? どした?」

 

 

 小蓮の声に気づいた一誠は、私と思春も揃って走って来たせいなのか、目を丸くして少しだけ驚いていた。

 ……って、驚いてるのはこっちなのだけど。

 

 

「どうした? じゃない。

さっき天に向かっていった輝く龍のような光はお前がやったのだろう?」

 

「え? あ、うん」

 

「突然どうしたの? 今までと比べても一際強い力だったけど」

 

 

 我ながら滅茶苦茶な会話だと思うわ。

 気配だの、力を感じたなんて……。

 これも一誠が鍛えてくれたからなのよね……一切速度を落とさずに走ったけど疲れないし。

 

 

「ああ、ちょっとだけど『力』が戻ったっぽいから、軽く試運転してたんだよ。ほれ……」

 

 

 最初の方、まだ私が一誠とは根本的に合わないと思っていた時に、一誠が半笑いで言ってた『人って割りと限界越えられるぜ?』って言葉を思い出しつつ、ふと私達にとっても見慣れた一誠の力の源である左腕の赤い籠手を見せてくる。

 すると突然赤い籠手自体が薄く輝いたかと思ったら……。

 

 

『俺が一誠の相棒の赤い龍だ。よろしく頼む』

 

 

 こう、威厳を感じる男の声が聞こえた。

 

 

「「「え………」」」

 

 

 あまりにも突然過ぎて、前に一誠から教えて貰っていた赤い龍の事が頭から消し飛んでしまった。

 

 

「「「こ、籠手が喋った!?」」」

 

 

 だって急だし、つい先日まで一誠は自分の身体に宿る龍とは今現在も話せないって言っていたのよ? それなのにそんなの嘘でしたみたいな感覚で喋りかけて来られたら驚くわよ。

 小蓮と思春も同じように驚くのも無理無いわ。

 

 

『? 確か俺の存在は一誠から教えられてやしなかったか?』

 

「……! あ、そ、そうか! つまりえっと、貴様は一誠の身体に宿るとされる龍とやらだな!?」

 

「か、軽く忘れてた……」

 

 

 大丈夫よ二人とも、私も忘れていたわ。

 

 

『まあ、お前等からすれば非現実的な話だし仕方ないか。

色々あって宿主たる一誠とのリンク――あー、つまり繋がりが切れてしまっていたのだが、此度の件でやっと少しだけ繋がりが戻ったのだ』

 

「な、なるほど……」

 

「此度の件?」

 

『此度の件だ。具体的に言うと泥酔したコイツとの……』

 

「そ、そんな理由なの?」

 

『そんな理由だったらしい……まあ、ある意味コイツらしいといえばらしいと俺は思ったな』

 

 

 それにしても、結構普通に話せるのね、この龍らしい声の主は。

 

 

「つまり一誠の力が少しだけ元に戻ったって事なのね?」

 

「まあ……」

 

「それであんな揺れを起こしたのか……。全く、人騒がせな」

 

「えっとごめん」

 

「むー……直接見たかったなー?」

 

「また今度な? ほれ、背中に乗りな?」

 

 

 結果的に、特に危ないことをしていたって訳ではないとわかり、私は安堵しながら小蓮を背負った一誠と一緒に帰る事に。

 

 その道中、恐らくはヴァーリと神牙も同等程度の力を取り戻していると思うという話に耳を傾けていると、先程一旦別れる前と今とで少しだけ様子が違うことに気づき始めた所で語り始めた。

 

 

「昨日の事について色々と考えたんだけどさ」

 

「「「!」」」

 

 

 一誠の言葉に私は胸の中が締め付けられた気がした。

 

 

「…………。俺はどうしても元の時代に帰らないと行けないんだよ」

 

「「「…………」」」

 

 

 その言葉に私……きっと小蓮と思春も同じ気持ちを抱いたと思う。

 

 

「俺はまだあの時代で『やり残している』事があるんだ」

 

 

 やり残している事。

 それは三人で話し合った事が当たっているのだとするなら、きっと――

 

 

「…………。悪魔とかいう女達の事か?」

 

 

 耐えきれなくなったのであろう思春の言った通り。

 何度か一誠の口から――そして寝言で何度も聞かされた悪魔という者達の事。

 

 

「ん、そうだよ」

 

 

 違うと言って欲しかった。

 けれど一誠は何時ものふざけた様子が一切無い、真剣な表情で思春に頷いた。

 その瞬間、一誠におぶさって貰っていた小蓮が強く一誠に抱き着き、思春は表情にこそ出さなかったが、どこか寂しそうで……。

 

 私は……改めて自分の抱いた気持ちに強く気付かされた。

 

 

「そう、か。

お前はやはりその女達に未練があるんだな?」

 

「おう、あると言われりゃあある」

 

「なんでよ……? 向こうから捨てた相手にどうして……?」

 

「捨てられたからこそだ」

 

 

 捨てられてしまったからこそ、抱いた思いは強かったらしい。

 そうなのね……私達では勝てないのね……。

 

 

「今でもその悪魔……リアスって女が好きなのね?」

 

 

 以前、口にしただけだ憎悪を向けられた事があった。

 それは裏を返せばその想いを踏み込まれたくなかったと今なら思える。

 ああ、どうしましょう……今すぐにでも泣きそう――

 

 

「そうそう、好き―――――は?」

 

 

 え?

 

 

「?? ちょっと待った、なんでそうなるんだ?」

 

「は?」

 

「へ?」

 

「え?」

 

 

 さっきよりも更に目が丸くなっていて、心底意味が解りません的な表情の一誠に、私達も訳がわからなくなる。

 

 

「お、お前がそこまで元の時代とやらに拘るのは、そのリアスとやらに思慕の感情があるからではないのか? 良いんだぞ、今更私達に気なんて使わなくても――」

 

「は? 俺がアレに今でも? 無い無い無い無い無い!! ありえないから!」

 

 

 …………。軽くしどろもどろな思春の言葉に、一誠は途端に――それも全力で首を横に振りながら否定した。

 

 

「そゃあガキの頃の初恋相手という黒歴史ものの気分は持ったさ。

けど今そんな気分は欠片も無いし」

 

「でも今その女の為に帰るって言った……」

 

「それは奴等にちゃんとした『仕返し』が出来てなかったから、とことんやったるぜって意味でだし、小さい野郎と思うかもだけど、それをしないと先に進めない気がしたからだよ」

 

「なによそれ……」

 

 

 好きか嫌いかで言えば、蹴り飛ばしたいくらいには嫌いというのはわかったけど、裏切りへの報復の為だけに帰ろうとするというのはやはり納得ができないわ。

 

 

「……初恋の相手なんだなやはり」

 

「本当に出来るなら忘れてしまいたい過去の話しだぜ。

……てか、思春さんも意外と気になるんだなそういう話」

 

「ばっ!? か、勘違いするなよ!? 私がじゃなくてお前のその妙な拘りのせいで蓮華様や小蓮様を悲しませるのが許せんだけだ! 私自身はお前がどうなろうが知らん! 知らんったら知らん!!」

 

「あ、可愛い……」

 

「かわっ!? 私を馬鹿にしてるのか!!!?」

 

「のわあっ!? 馬鹿になんかしてないっつーの!」

 

 

 飛びかかろうとする思春から、小蓮を背負ったまま器用に避ける一誠。

 

 

「そうしたいならシャオは反対しないし、結局どうなろうとシャオは一誠から離れる気は無いよ」

 

「ん、おう……。

ホント、一番変わってる子だよ小蓮ちゃまは」

 

「ほら、思春も落ち着いて……?」

 

「はぁ、はぁ……あ、後で覚えておけよ……」

 

 

 ある意味では安心したけど、かといって私達を受け入れている訳ではないのよね……。

 そんな事を考えていると、思春が少し落ち着いた頃に一誠は言った。

 

 

「だから、俺は元の時代に帰るつもりなんだけど……」

 

「ふ、ふん! お前なんか帰ってしまえば良いんだ! 私達に手を出して責任も取らない最低男として――」

 

「………………。何となく俺の性格はわかってると思うけど敢えて言うよ。

俺は死ぬほど重い性格なんだよ」

 

「む……」

 

「重い?」

 

「そ、一回『好き』と思った相手に対する執着っていうのかな。

ドライグに指摘されて自覚するようになったんだけど、俺は重いんだよ」

 

 

 自らを重い性格を揶揄しながら、小蓮を徐に下ろした一誠は、足を止めていた私達より何歩か前を歩いてから振り向いた。

 

 

「例えば、好きになった相手が誰とも知らねぇ他人にベタベタされてるのを見ると、そいつを八つ裂きにしたくなる。

好きになった相手が俺を嫌いになった離れようとしたら、俺は多分地の果てまで追いかけ回す。

――――な、すげー重いだろ?」

 

「「「………」」」

 

 

 両目を妖しく赤く輝かせながら、薄く微笑む一誠に私達は目を奪われる。

 危険だけど……胸が早鐘するその姿に。

 

 

「つまり、俺に好きだなんて言われた日には死刑宣告も同然なんだ。

その上で敢えて言うぜ? 俺、キミ達の事好きになったぜ」

 

「「「…………」」」

 

 

 そしてこの時私は、今までの生の中で一番の幸福を感じた瞬間だった。

 

 

「だからここから先は何があろうとも、キミ達の事は絶対に離さないぜ?」

 

 

終わり

 

 

 

 過去から未来へと目を向けることが出来たその瞬間から、失われつつあった異常性は更なる進化をあたえる。

 

 というか、与えすぎてヒャッハーしてしまったのはご愛敬。

 そして宣言通り、ケジメの為の元の時代へ帰還を果たすのだ。

 

 

「い、一誠先輩? 今までどこに!? 私達、ずっと探してて……」

 

「ああ、キミかぁ。

いやー、俺も実はキミ達に会いたかったんだよねー?」

 

「え! そ、それってもしかしてまた私達と一緒に――」

 

「ほら、アザゼル先生のお陰で取り出せた兵士の駒なんだけどよ……これ返すわ」

 

「……………え」

 

 

 真に守るべき者達との未来の為に。

 

 

「これでアンタ等とは完全な意味で縁が切れるって訳だ。

いやー良かった良かった、アンタ等も俺が邪魔になってたみたいだし、お互いにとって良いことだろ?」

 

「そ、それは違う! イッセーだってわかっていたでしょう!? 私達はあの男のせいで正気じゃなかったって!」

 

「そら知ってますよ? その言い方からして正気とやらに戻れてるみたいですけど……」

 

「それならアナタを陥れる者は居ないし、今度は何があってもアナタを見捨てたりはしないわ! だから――」

 

「無理っすねー。

俺も俺であれから自分の生き方ってのを見つけましたんで」

 

「自分の生き方? ………それは先輩の後ろで赤ん坊を抱えてる方々が関係あるのですか?」

 

正解(イザクトリィ)! その通りでございます」

 

「……。誰なんですかその人たちは? それに生き方というのはベビーシッターのアルバイトかなにかですか?」

 

「ベビーシッター? いや違うけど?」

 

「じゃあいったい――」

 

「えーっと、三人とも嫁さんで、三人の嫁さんとできた子供っす」

 

『…………………………え?』

 

 

 前に進む為に。共に歩む為に。

 

 

 

「ぶわーっははははっ! 傑作過ぎるぜアイツ等のツラ!」

 

「どんだけツボ入ってるんですかアザゼル先生は……」

 

「だってお前、根拠もねーのにお前と元鞘に戻れるとか自信満々にほざいてたから余計に笑えるわ! なぁコカビエル?」

 

「どこまでも滑稽だったというか、結局あのガキ共はお前ではなくてお前の進化の異常を手元に置いておきたかっただけだ。自分自身で進化する事を放棄してな」

 

「そういうことだ。

なぁに心配すんな、お前らの嫁の世界とこの世界を繋がれる簡易扉も完成したし、今後は自由にこっちと向こうを行き来できるぜ」

 

 

 無敵のバックアップ付きで。

 

 

終了




補足

派生が恋ちゃまルートなんで、基本的に根に抱いてるのは一緒。

そして覚悟が強い方が救うのである。


その2
で、一回でも完全に内側に入れてしまった瞬間、180°彼は変わります。

具体的に性癖に関して騒がなくなる。
割りと献身的になる。

 ………死ぬほど重い。

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