壁が大きすぎて停滞してしまう呪い……と、オマケにふざける。
子供が乗り越え様とするにはあまりにも高すぎる『壁』を前に、それでも足掻こうとするネギは今日も基礎体力を補うトレーニングを協力者となってくれている
古菲や楓、アスナ達と勤しんでいる。
しかしつい先日からどういう訳かこの面々の中に混ざってトレーニングをする者が一人。
名を佐々木まき絵という……ネギ達と比べたら極々普通の少女である。
一体全体どうしてまき絵がネギ達の自主トレに参加したのかというと、彼女も彼女なりの『伸び悩み』があるからであるとの事。
「ああ、新体操の演技が子供っぽいって聞いたからそんなへったくそな化粧してた訳ね」
「へ、へったくそって言わないでよー!」
そんな伸び悩み同士のシンパシーが理由で自主トレに参加するに至ったまき絵だが、エヴァンジェリンの徹底的な金銭管理によって万年金欠気味の副担任こと一誠が偶々そんな事情を聞いたらしく、大人な演技を目指して努力の方向を間違えかけていたまき絵に呆れた顔をしていた。
「誰が言ったんだが知らないけどな、ガキが無駄に粉なんて塗りたくってんじゃねーよ。
そんな付け焼き刃な事した所でナリがガキっぽいんだから意味がねーっつーの」
「ガ、ガキじゃないし!」
「言い方が悪かったな。
無理に大人になろうとして焦るんじゃないって事だよ」
「で、でも……!」
「良いからとにかくその下手くそな化粧を取れ」
「うぶぶっ!?」
色々とやり方を間違えたまき絵の顔面のメイクを無理矢理落とす一誠は、取り敢えず努力の方向性を軽くねじ曲げる原因――といえば語弊があるのかもしれないが、迷走モードを走らせる一言を言っていた顧問の先生に報告しておくことに。
その際、何故かしずなも居て声を掛けられた気がしたけどスルーしたし……。
「てな訳で先生。
佐々木に対するそれとないフォローと今晩オレとデートを――」
「あ、あのー兵藤先生? 私もなにかお手伝いを――」
「テメーの知った事かバカヤロー」
「」
「――――あ、しまった。つい脊髄反射的に。
ああ、ごめんなさいごめんなさい、ええ、別に源先生のお手伝いとやらは要りませんのでお気遣いなく」
「はい……」
(彼が用務員の頃から嫌われてるわねしずなは……。何故か知らないけど)
相変わらずしずなには塩対応だったという。
源しずなは自分でもまったく以て身に覚えが無いというのに、明らかに去年用務員から中等部の体育教師にクラスチェンジした兵藤一誠から避けられていた。
というのも一誠は分かりやすいレベルで……そして絶望的なまでに女性にだらしが無く、用務員時代は自分を抜かした学園の女性教師が一度はナンパをされている。
だというのにただの一度も自分がナンパをされたことはない。
いや、されたら困るのは間違いないのだが、一切自分だけは見向きもしないというのもそれはそれで納得ができないというのが人間の心理である訳で。
子供先生ことネギをフォローする形で同じ教師となった以上は連携的な意味でもなんとかこの距離感を……ほんの少しだけ縮めてみようと、しずななりに頑張ってはみたのだが……今現在その差は一切縮まらないばかりか、うっかり二ノ宮との会話に割って入った時、初めてでそれでいて多分暫く忘れられそうにない『ウザいものでも見るような蔑んだ目と顔』で暴言まで吐かれてしまった。
一体自分が何をしてしまったからそこまで毛嫌いされてしまったのか。一切の覚えがないだけにしずなは戸惑うばかりだった。
「ナンパに行こうにも金も無いし、マジで伸び悩んでるっぽいから手伝える事は手伝うぜ。
……まあ、新体操とか全然わかんねーけど」
「そこまでハッキリ本音言われると逆に腹も立たないな。
というか、先生はダンスとかしないの?」
「お前くらいの歳にほんの一瞬だけブレイクダンス擬きをやってたくらいかなー」
「へー? 今でもできるの?」
今回一誠曰く『脊髄反射的に口から出てしまった』らしい暴言には素直に傷ついてしまったしずな。
一体全体何故ここまで嫌われなくてはならないのか――と段々逆に腹立たしくもなってきたので、同僚の二ノ宮とまき絵の件の話をしてからさっさと去ってしまった一誠の後をコソコソと付いていって見ることに。
すると一誠はナンパの事しか頭に無いかと思いきや、意外と真面目にまき絵の伸び悩みの相談に乗ってあげている様だった。
「よっと……!」
「わっ凄い! ちゃんとストリートダンスしてる!」
「5年振りでも覚えてるもんだな」
どうやらブレイクダンスを見せていたらしい。
あまり縁は無いのだが、それでも単純に凄いという感想を抱くしずなを他所に、一誠はまき絵のダンスを見ている。
………制服姿なので下着とかもろ見えになってしまっているのだが、一誠の表情がピクリとも変わらないで割りと真剣に体操を見ているので、本当に自分より年が下の異性には興味がないのだろう。
「こ、こんな感じなんだけどどう?」
「えーっと、素人目で悪いけど普通に良いんじゃないの?」
「うん、ありがとう。
でも二ノ宮先生は私の演技には大人力が足りないって言ってて……」
「まあ確かにそう言われたらそう思えなくもない……か?」
「や、やっぱり……」
(…………)
考えてみれば、しずなは生徒と接している一誠を見た事がなく、おちゃらけもせず生徒の相談に乗っている姿に妙な新鮮さを覚える。
「自然に身体も成長するだろうし、今焦ってもしゃーなくねーか? 焦って自分の演技の『核』をブレさせたらそれこそ本末転倒だぜ? 素人目だけど」
「そうだけど、それでも……」
「そうか、確かに気持ちはわからないでもないが……」
「最近のネギ君達を見てると余計思うし……」
「ああ……」
「ネギ君達から聞いたよ? 先生に膝を付かせるとかなんとか……」
「あー……うん、なんかそんな話になったね」
わかったことは、自分の好みから外れている異性だとか子供には意外に思える親身さがある。
新体操についてのデータが自分の中に一切無くても、無いなりに割りとまともな意見を言ってあげている姿など、しずなにしてみれば驚きものである。
「だから、何かヒントになるかと思ってネギ君の練習に参加させて貰ってて……」
「うーん……佐々木は基礎体力は高い方だしなぁ」
(…………)
だというに何故自分はこんなに毛嫌いされているのか? ますますわからず、そしてやっぱり納得できないしずななのだった。
そして最近まき絵もトレーニングに参加するようになったネギ一行。
今日もそのトレーニングに勤しもうとしたら、何故か一応今現在は敵というか、壁である筈の一誠がまき絵と一緒になって現れた。
「いや、新体操の事はさっぱりなんだけど、割りとマジでお悩みしてるっぽいからさ……アホの子なりに」
「アホの子は余計だよ!!」
この意外な程の面倒見の良さを知っている古菲や楓達にしたら理解はするけど微妙に納得はできない。
「まき絵に随分優しいアルな?」
「は?」
「いや、なんとなーくそう思ったのでござるよ? 別に他意は無い」
「???」
なのでついちょっと意地の悪い言葉が出てしまうが、本人は何の事だかさっぱりわからないと首を傾げつつ、ついでとばかりにネギのトレーニングに参加するのであった。
「…………」
「ねぇイッセー? あそこに居るのってしずな先生じゃ……」
「ああ、さっきから変なのが見てるとは思ってたけど別に興味もねーからほっといてるんだよ」
「……アンタ相変わらずしずな先生には当たりがキツいわね。
何かあったわけ?」
「別に? ただただ興味がないだけ」
終わり。
ネギ達魔法使いが行う仮契約は当たり前ながら一誠には存在しない概念である。
然るに仮契約に近い何かがあるとするなら……それは
「黄昏の聖槍……最初の神滅具で神牙ってやつが最後の所有者だった」
「それがどうして私に……?」
「さてな、ただアイツを夢に見たんだろう?」
「うん……イッセーくんを頼むって言ってたアル」
「だったらそれはお前の力だ」
決して諦めること無く縮まらぬその差に追い付こうともがき続けた結果先代によって認められ、そして受け継ぐ異界の力。
「なよなよとした半吸血鬼に私はこの眼の力を渡された」
「アイツか……ま、エヴァなら間違いなく使いこなせる筈さ」
その力が認められし異界の者達に引き継がれていくその時、かつてのチームは甦るのかもしれない。
終了
オマケ。
用務員続行ルート。
人目につくことなく淡々と仕事だけを行う用務員。
それが彼であり、彼がこういう仕事をしている理由は雇い主の金払いが割りと良いのと、同学園で彼女が保険医をしているからに他ならない。
しかしここ最近の彼は今までは間違いなく学園の生徒にその存在すら悟られずに仕事をしていたのに、徐々にバレ始めてしまった。
結果、彼の秘密裏に用意されていた用務員室に押し掛ける者が彼女以外に増えてしまったのだ。
「エヴァンジェリンさんが血眼になってイッセーさんを探していましたし、リアス先生や私たちに詰め寄ってくるようになっちゃって……」
「一応しらばっくれてはおいたけど……」
「ちょっと心配……」
「……………………」
ある日の用務員室。
いつもの業務をしている彼――つまりイッセーはつい先日泣くほどぼこぼこにしてやった正体吸血鬼の女子生徒が血眼になって自分を探し、彼の関係者やそれに近い者達に詰め寄っているという話を聞く。
その瞬間、無言で立ち上がったイッセーは、情報をくれた宮崎のどか、早乙女ハルナ、綾瀬夕映の三人に『棚に菓子があるから好きに食って良い』とだけ言うと、そのまま出ていってしまった。
そして10分後、右拳と作業着に本人は『ただの赤いペンキ』と言い張るなにかを付着させた一誠が戻ってくる。
「もう二度とアレに絡まれないと思うから安心しても良い。悪かったな、へんな事に巻き込んじゃって」
『…………』
その言葉にペンキじゃないと察してしまった三人。
普段は頭にボールを当てられても、小汚いとバカにされても平然としているのだが、一度スイッチが切り替わると徹底的にその相手を潰しにかかる苛烈さがあることを、ここ最近の『今までの常識が覆る現実』を知っていった三人の少女は、エヴァンジェリンという正体が吸血鬼のクラスメートがどうなったかをお察しした。
「そ、そんな乱暴な事は……」
「バラバラにはしてないよ。
……両手の骨くらいはへし折ってやったけど」
「Oh……クレイジー」
無論、一般人出であるこの三人の少女…特にのどかはあまり乱暴な事はしてほしくはないと思っている。
もっとも、自分達がされた事にたいして即報復に出撃してくれる程度にはイッセーに認識されていると思うと密かに嬉しかったりもするわけで……。
次の日に妙に顔が青い担任の子供先生から、エヴァンジェリンが一週間の病欠を報告した事を考えれば、言った通り本当に加減はしたとは思えるのだから。
そんな用務員は基本的に保険医の彼女――つまりリアスしか見ることがない。
そしてそんな用務員の事を師と呼び、そして弟子を自称する者が居る。
ちょうどのどか達と同じクラスに所属する桜咲刹那がそれに当たる。
「エヴァンジェリンが泣くまで――いえ泣いてもボコボコしたというのは聞きましたが」
「仕方ないだろ、あの子達やリアスちゃんにまで絡み始めたとなれば、先手は打たないと……」
「それは否定はしませんが、宮崎さん達の為にわざわざ師匠が動いたというのが微妙に納得いきません」
「知るか」
その人の為ならば一切の躊躇をしない生き方に憧れを抱いて数年。
認めた訳ではないのに弟子を自称し、半人半鳥なのに犬みたいに刹那はイッセーに懐いていて、最近その仲を取り戻した親友の近衛木乃香もまた犬みたいに懐いている。
故に木乃香もそうだが、ここ最近イッセーと知り合い、そして懐いていると思われるのどか達のことは微妙に面白くはないのだ。
「ネギ先生はすっかり師匠に恐怖してしまいましたよ。
まあ、紛いなりにも先生の師をやっているらしいエヴァンジェリンが目の前で泣くまでボコボコにされてしまえばああもなるでしょうけど……」
「余計に知るかよ。
俺はあの小僧とは関わりが薄いんだし」
「寮のお部屋が同じ木乃香お嬢様にも最近よそよそしくなってしまったようで……。まあ、お嬢様は一切気にも止めていないようですけどね?」
「あ、そ」
淡々と物置小屋の壁にペンキを塗りたくる一誠の反応はそっけない。
だがそんなそっけなさも刹那的にはそこそこ慣れたものであるらしく、特に不満な様子はない。
ただ、やり方があまりにも極端なせいで、ここ最近は要らない恨みばかりを買っている師が――強さ云々ではなくて心配なのだ。
現に刹那のルームメートである龍宮真名も一誠に対しての報復心を抱き、最近はちょっと拗らせている。
「龍宮もリアス先生をストーキングして、色々とメモを取っていただけで師匠にジャーマンスープレックスされて泡吹いてしまいましたし……」
「ありゃつい反射的にやっちまったんだよ。
それに一応謝ったぞ……」
「知ってますよ。同じ寮部屋ですからね……ただ、部屋で最近ブツブツと師匠について言ってるのに危機感を覚えます」
「なんのだよ……」
つまり、リアス馬鹿に加えて『知り合い以上のライン』を越えた者を過剰に守ろうとする性格のせいで敵を量産しまくる。
それが刹那の師である一誠の性格なのであった。
「だから今日もお願いしますね師匠? ふふん、今日はリアス先生もこのちゃんも宮崎さん達も居ません。
つまり今だけは私だけの師匠です……!」
「誰がだ……小娘が」
「いつまでも小娘のままじゃありません!」
終わり
補足
脊髄反射的にしずな先生を避けたがる。
そして絡まれると脊髄反射的に言ってしまう。
しずな先生はマジギレしても良いと思う
その2
逆にベリーハード経由だと徹底的にエヴァにゃんが可哀想なことになるという……。
知り合い以上のラインを越えた者達に絡むだけで無言襲撃噛ます程度には。
お陰で敵量産中。