………いや続きかなこれ?
頑張ろう魔法先生!
ただ自由を勝ち取る為に集ったチーム。
苦楽を共にし、絶望の淵に追いやられても支え合いながら戦い続けたのチーム。
無謀であったとしても、決して下ではなく上を共に見上げ続けた最良のチーム。
例え種族が違えど、同じ道を見続けながら走り続けた最高のチーム。
それが兵藤一誠の過去であり、今である核のすべて。
そして唯一今を生き続ける者……。
エヴァンジェリンに弟子入り云々以前に、まずは基礎的な体力を強化すべきだろうという一誠のそれっぽい理由により、古菲や楓等といった者達と暫く体力作りに励む事になったネギ。
今すぐにでも強くなりたいネギにとってはまだ10歳であるのもあり、少々不満に思わなくもなかったのだが……。
「とまぁ、これが俺の朝のトレーニングだ」
「あ、アンタ……こんな事を毎日してるの?」
「そうだぞ? ガキの頃に比べたら大分手を抜いちゃってるけどな」
「こ、これで大分なのか……」
「………」
試しに深夜2時には起きて朝までトレーニングをしているらしい一誠のトレーニングに同行させて貰った所、本人は『昔と比べたら大分サボってる』等と宣っているとは到底思えないベリーハードなトレーニング内容に、ネギに同行したアスナは勿論、身体能力に自信のあった楓や古菲ですら音を上げるレベルであった。
具体的にはウォームアップに全力疾走で学園外を合計100㎏になる重りを身体に巻き付けながら走り続け、その後休憩無しで朝まで筋トレやシャドーなんかを続けるといった内容だ。
そんな内容のトレーニングを今のネギがやれば、間違いなく強くなる以前に身体が壊れる。
故にネギの目標はこの一誠の基礎トレーニングについていけるだけの体力を手に入れる事だった。
だがそういった強さを求める事も重要ながら、きちんと故郷の卒業試験も行わなければならない訳で……。
つまるところ、今現在のネギはそこそこのハードな毎日なのである。
修学旅行を経て一誠の持つ異質な強さと、その精神を垣間見た古菲。
一時は敵に対する残虐ファイトにちょっとしたショックを楓共々受けなかったといえば嘘になる。
けれどどんな過去が一誠にあったからだとしても、そこで折れる程古菲は弱くはなかった。
何よりも一誠は古菲の思う通りの『自分よりも強い
「フッ、どいつもこいつも弱すぎるネ。もっとマシな奴は居ないアルカ?」
そんな古菲も現在基礎体力向上の為に楓と一緒にネギの面倒を見るようになるのと平行して自らの進化を目指している。
とはいえ、毎朝一々挑戦してくる連中を何時も通りなぎ倒すのが修行ではない。
「流石お強いですね古菲さんは……」
「
だからああいう輩達からの挑戦が後を絶たないのでござる」
「なるほど……」
中国武術で挑戦者達を薙ぎ倒していく姿を見るネギはただただ感嘆する。
結局本日も他の格闘系の研究会やら部からの挑戦者達に勝利した古菲だが、どうやら余程負け続けて悔しかったのか、空手愛好会の男子がよろよろと立ち上がりながら口を開く。
「ま、まだじゃあ……。
俺達は負けたが、いくらお前でもこの人には勝てない……!」
「?」
「この人?」
妙に勝ち誇った顔をする空手愛好会に古菲と一緒になって首を傾げるネギ達。
だがその答えはすぐにわかる事になる。
「せ、先生……! 出番ですじゃあ……」
「口調がめちゃくちゃだぞお前……」
そう……どよめきと共に人の波から現れたのが、あの一誠だったのだから。
「っ!?」
「兵藤先生……!?」
めんどくさそうに……されど何故かその手に大量の1000円札を握りしめながら姿を現した一誠に古菲達は息を飲む。
そう……数多の挑戦者達が古菲に勝てないのと同じく、古菲はこれまでの一度も一誠に勝てた事は無かったのだから。
「せ、先生……お願いします……!」
「それは良いけど金出せよ?」
「わ、わかりました。2000円じゃあ……」
「まいどー。
ちゅーちゅーたこかいな………っと、へへ、全部で二万か。
よくわかんねーけど儲けたぜ……!」
「い、イッセー君……」
「よお古菲。
なんか知らねーけどコイツ等が一人千円出すからお前に勝てとかいうからよ? 悪いがちょっと付き合えよ?」
2000円を渡すと同時に力尽きる空手愛好会の男を見向きもせずちょっとホクホク顔の一誠がパキパキと指を鳴らす。
その瞬間、ギャラリーの者達の間に軽いどよめきが立つ。
「金にあっさりと釣られたのでござるな……」
「エヴァンジェリンちゃんに財布握られてるからってこれは無いわぁ……」
「だ、大丈夫でしょうか古菲さんは……?」
「ま、まあ流石に手加減すると思いますがね……」
子供先生と同じ時期に教師として中等部に赴任した若き男性教師の不敵な笑みに、期待半々な眼差しのギャラリー達を横に不安な気持ちなネギ。
だがそんなネギとは裏腹に、古菲はといえば待ってたとばかりに本気の構えを取る。
「とんだ朝のご馳走にありつけるなんて……運が良いアル!」
そう、古菲にしてみれば目の前の男性は自分の遥か先に君臨する者であり、全力でぶつかれる相手。
そして何よりも………。
「勝負!!!」
初めて――それでいてきっと最後となるであろう、心惹かれし人。
故に古菲はただ純粋に笑って――先程までがお遊びであったとばかりに全力でポケットに札をねじ込んだ一誠に飛びかかる。
「破ッ!!」
並の人間相手に使えば即死しかねない一撃を放つ古菲。
しかしそんな一撃ですら一誠は文字通り人指し指一つで止める。
「あ、あの人、指一本で止めてるぞ……!?」
「あの噂は本当だったんだ! 菲部長を負かした元学園用務員!」
ただただ古菲を文字通り子供扱いする中等部教師にいろいろな意味で大盛り上がりのギャラリー達を他所に、古菲は一切縮まらぬその差に更なる高揚感を感じていく。
「もっと、もっとネ!!」
「金積まれたからつい乗ってしまったせど、あんま騒ぐと怒られるんだよな……」
「嫌アル! すぐには終わらないし終わらせないアル!」
フェイントを織り混ぜても、気を拳に最大限集約させての一撃をも指一つで捌かれてしまう。
けれど古菲はこの絶望的な差を示す目の前の男とのある意味で二人だけの時間をすぐには終わらせまいと攻撃の手を決して緩めない。
「完全に遊んでるなイッセーの奴は」
「文字通り古との差はそれほどなんでしょうよ。
それに、古相手にアイツが修学旅行の時みたいにはならないでしょうしね」
「でも、本当に強いですね……」
古菲と人差し指ひとつで打ち合う度にギャラリー達のテンションが上がっていく中、ネギ達は改めて一誠の君臨している領域が途方もない場所であるのだと認識させられていく。
そんな二人の打ち合いが激しさを増し、そろそろ周囲に被害が降りかかりそうになってきた頃、最後の一撃を真正面から額で受けきった一誠のカウンター気味のデコピンが古菲の額を捉え、ゴムボールのように地面を何バウンドもしながら吹き飛ばされる所で勝負は決した。
「く……ぅ―――うっ!?」
「はいおしまーい」
吹き飛ばされ、軽い脳震盪で視界が定まらない古菲の喉元に突きつけられる一誠の人差し指によって勝負は決したのだ。
これによりギャラリー達がギャーギャーとハイテンションで大騒ぎする訳だが、古菲は自分の喉元に人差し指を立てていた一誠がそのまま手を差し伸べてきたので、黙ってその手を取り、まだ足腰に力が入らないがなんとか立ち上がる。
「うぅ、頭がクラクラするヨ……でも楽しかったアル」
「俺も楽しかったぜ? 何せこれでエヴァに内緒のヘソクリが手に入ったからな………ふっふっふっ」
「今エヴァンジェリンの話は聞きたくないアル……もぅ」
軽くモヤッとはしたが、手を握ってくれているので今だけは許せる気分な古菲は、わーわー言ってるギャラリー達の輪から抜け、ネギ達と合流しながら中等部の校舎へと向かうのであった。
「さっき表でバカ騒ぎをしていた際、金を手にいれていたらしいな? ………出せ?」
「ま、待てよ! こ、これはイザという時……というかナンパした相手との大人の休憩所代――――わ、わかったよ、ああ、俺の合計二万円が……」
教室に入った途端、エヴァンジェリンに普通に没収されるというお約束も忘れずに。
「つまり朝見た通り、イッセー君は完全に我流アル」
「そりゃあ見てればわかるわよ。
完全に相手を力で捩じ伏せるって感じだし」
「言うならば完全な喧嘩殺法でござるな」
エヴァンジェリンにヘソクリが即座にバレてしまい、即座に取り上げられてテンションが駄々下がりのまま放課後になって職員室へと行ってしまった一誠を見送った後、教室に残っていたネギはアスナと楓と古菲の三人と一誠の野獣じみた強さについての考察なんかをしていた。
「エヴァンジェリンさんは、兵藤先生に膝を付かせたら弟子入りを認めると言っていましたが……」
「今のネギ坊主じゃ一億年掛かっても無理アル」
「で、ですよね……」
「裏金を渡して加減して貰うって手も……エヴァンジェリンちゃんに釘を刺されているだろうから無理でしょうし」
唯一の弱点である年上女性かお金で買収しようにも、基本的にエヴァンジェリンに言われたら何でもホイホイ聞いてしまっているので不可能。
つまるところ、今現在の時点で一誠に正面きって戦いを挑んでも膝なんてつかせられないのだ。
「魔法にしても、アイツ確か前にネギの魔法を蝿でも追っ払うかのように片手で弾き飛ばしてたし……」
イッセー絡みとなると、基礎IQが何故か微妙に向上する傾向のあるアスナでも、今のネギでは到底イッセーに膝をつかせるなんて不可能だと言っている。
「えーなになに? 内緒話?」
そんな四人の作戦会議の中身を知らない他の生徒達が、興味深そうに話に入り込んできた。
「内緒話って訳じゃないわよ。
ちょっとイッセーについてね……」
「兵藤先生? そういえば午後からやけに低いテンションで授業してたけど……」
ネギの事になると盛り上がるが、一誠に関しては其れほどでも無い空気となる。
が、それでも興味があるというか、浮いた話が基本的に好きな連中ばかりというか、特に早乙女ハルナ辺りは、内緒話をしていた面子と話題が一誠であった事からひとつの結論に至ったらしい。
「ああ、エヴァンジェリンさんにくーちゃんが恋愛バトルに勝利する為の作戦会議って所ね!?」
『ああ……』
ハルナのやけに悪のりしたテンションに、割りと全体的にそんな空気を掴んでたらしいクラスメート達は納得をした模様。
「ち、違うヨ! た、確かにエヴァンジェリンには負けたくは無いけど、そういう話じゃ無いアル……」
『お、おぉ……』
古菲は違うと言うが、あのバカレンジャーの一人にてイエローの称号を持ち、基本的に色気よりも食い気キャラである筈の彼女が、軽くもじもじとしながら言うものだから、事情を深くは知らないクラスメート達は何故だかはわからない変な敗北感を感じた。
しかし早乙女ハルナは『修羅場』といった場面がお好きな困った子だった。
「なるほどー……くーちゃんもちゃんと女の子してる訳かぁ。
ああ、そういえば楓も……」
「なっ!? せ、拙者は違うでござる! ほ、本当だぞ!? 決してイッセーに『お前がもし俺より年上だったら多分毎日口説いてたわ』なんて言われてから気になり出したとかそんな事も無い――」
『…………』
わたわたと慌てる楓だが、全部ぶちまけてるのも同然であり、クラスメート達からの生暖かい目に晒されてしまう。
「なるほど、くーちゃんのみならず楓もエヴァンジェリンさんに……と。
「ち、違うのに……」
「こうして見ると、案外モテるのね兵藤先生って……」
「確かに。
この前も高等部の女子に声かけられまくってたの見たし」
「な、なんだと!? それは何時の話でござ――」
『……………』
「ぁ………」
結果、古菲に続いて楓もクラスメート中にバレる事に。
「よし、こうなったら手始めに先生を今度のお休みの時にデートに誘ってみなさい!」
「や、イッセー君は休みの日になると駅に行ってナンパしに行くアル」
「そして間違いなくふて腐れながら帰ってきて愚痴るか、金を騙しとられたと大騒ぎするでござる」
「あ、あっそう……。
まだそんな事をしてるのあの人?」
気づいたら膝つかせの件ではなく、イッセーをどうにかしてデートに引っ張り出すか的な話に変わっていた。
「は、話が完全に変わってしまいました……」
「仕方ないわよこれは……はぁ」
そんな状況にネギとアスナはため息を吐くのだった。
余計な金を持たすと、碌なものにしか使わないということをよく知っているからこそ没収し、少しずつ渡していこうと考えているエヴァンジェリン。
金銭面に関しては完全にアドバンテージを取っている訳で、当初こそ恨めしそうに睨まれたが、ここ最近するようになった『アレ』についてを引き合いに出せば、一発で一誠は黙った。
「う、うぐぐ……!」
「ふっ、だから言っただろう? 私は悪の魔法使いだとな? 故に『ミロ』だって目を閉じて飲んでやる」
「よ、よせ落ち着けエヴァ!! そ、それだけはしちゃダメだ!」
「昨日録画しておいた『今日の料理』という番組だって観てやる……!」
「ひぇっ!?」
「『鼻セレブ』でテーブルを拭いたりもするぞ!」
「や、やめろぉぉっ!!!?」
「なーっはっはっはっ!」
勝ち誇るエヴァンジェリンと絶望に膝をつく一誠。
そんな二人のやり取りを見ている同居人達はといえば……。
「ナンツーカ、ご主人モ程好クアホニナッチマッタナァ……」
「一誠もあんなんじゃなかったんだがな……」
「でもお二人とも見てください! マスターとイッセー様があんなにも仲良く……!」
「コノ妹モドッカポンコツニナッチマッテルシ……」
「確かにな……」
チャチャゼロと人形状態のドライグは何故かほんわかしてる気がする茶々丸やらイッセーやエヴァンジェリンのポンコツ化に呆れていた。
これが今現在のエヴァンジェリン家の日常だ。
悪の基準が大幅に下がったりもしつつ、更なる領域へと進む……。
「真面目な話、ネギ先生はまだ弟子入りを諦めてないみたいだぜ?」
「お前に膝を付かせたら考えても良いとは思ってはいるさ。
わざとお前が坊やの肩を持ったりしなければ、な」
「別に持ちはしないけど……」
「別に持っても構わんぞ……その代わり二度としてやらんけどな」
「あ、うん。絶対にしないよ……約束するぜ」
それが今のエヴァンジェリンの生きる意味。
程度は違えど、人でありながら人でなしとなった彼のこの先を近くで見続ける為に……彼の領域へと進む。
「この空間なら現実空間に影響が無いとはいえ、お前の本気は空間が下手をすれば壊れるな……」
「ああ、悪い……」
「いや、良い。
その分作りを強化してみせるさ。
なにより全力のお前に追い付く事こそが、今の私の目標みたいなものだしな?」
「良いのかよ? 余計後ろ指差されるぜ?」
「今更その手の悪意には慣れっこさ……ふふん」
種の限界を越えた超越者――否、異常者に。
そして……。
「すーすー……」
「オーオー、幸セソウニ寝テヤガルゼ……ケケッ」
「今更ながら何故私なんだ? コイツの性癖と真逆だろうに私は……」
「コイツニトッチャソウイウ問題ジャネーンダロウゼ? ソーナンダロドライグ?」
「昔の仲間達と死に別れた事で人肌の繋がりを失っていたのもあるが、ただ単純に好みは別にしてもお前に好意があるからだな」
「ダッテヨーご主人?」
「……………好みは別にが余計だ。
じゃあ何か? 私は都合の良い女か何かか?」
「そうではない。
仮にこの先、お前が何かの拍子で力を封じられたりして捕らえられたとか殺されそうになったりすれば、コイツは間違いなくお前を救う為に世界そのものに喧嘩を売る程度にはお前に好意を抱いているさ」
「それはイッセー様のかつてのご友人と同じ……でしょうか?」
「どっちが上かは知らん。
だがそれに近いのだけは保証してやる」
「…………ふん」
「すーすー……ふふっ♪」
「まったく、ガキみたいな寝顔だな……」
小さく、されど確実に強くなる繋がりを決して離さない為に……。
「む……お、おい……!? 今日は何時にもまして――っ!? こ、コラ!! 仕方なく抱き枕代わりになってやっても良いとは言ったがそこまで許した覚えは――ほ、本当は起きてるだろバカイッセー!?」
「んん……」
「オオット!? アリャナンダドライグ?」
「さぁ? 俺も知らんし初めて見るぞ」
「じーっ……」
「お、お前ら見てないで助け……ひゃあ!?」
「……。コリャオレ達ハオ邪魔ミテーダナ?」
「その様だ。おい茶々丸……ここからはプライベートなのだし、撮ってやるな」
「はいわかりました。ではごゆっくり……」
「そ、そうではなーい! このエロアホを叩き起こせ――んぁっ!? や、やめろ!? ど、どこに顔を……」
「頑張レヨゴ主人? ケケケケッ!」
「一応立場上は教師と生徒だし、避妊くらいはしとけよ?」
「じーっ……」
「ちがーう!! そもそもまだ早い――じゃなくて、このアホに土下座されたら考えてもやらんこともないが、こんなアホみたいな理由で――あぅっ!?」
終わり
補足
今の彼は死ぬほど金に吊られやすいです。
ただし、エヴァにゃんに不利な何かを金で釣ってやらせることは無理だし、何なら聞いた瞬間スイッチが切り替わります。
具体的には、どんなに好みのタイプだろうがぐちゃぐちゃにする程度のスイッチが……。
その2
くーちゃんとにんにんさんと彼絡みだと何故かIQが軽く上昇するアスナさんとで基礎体力のトレーニング中なネギ先生。
本来ならライバルとなる人材が軒並みアレになってるので、微妙に伸び悩み中。
その3
エヴァにゃんは相変わらずの悪っぷりだった。
ただし、悪いことし過ぎて逆襲(例のそれ)された模様。