目移りはするけど、目移りしてるだけ
三馬鹿の共通点のひとつとしては、其々が精神的な異質さを形にしている事である。
とある世界の物語では、その者達の事は総じて
それ故に決して普通とは言えない人生をこれまで送る事になった訳だが、そんな三馬鹿にとっての一番の幸福は先駆者に拾われた事。
そして同年代で同等の気質を持っていたということだろう。
使い方を学び。在り方を学び。其々が自分の決めた生き方に沿って生きる。
それが間違いかどうかは二の次に、己の決めた生き方を……。
そして其々が出会う者達もまた……。
リアス・グレモリーにとってすれば正味な所、自身の友人が5年だったか6年くらい前にいつの間にか知り合いになっていた少年には困っていた。
その異質極まりない力もそうなのだが、色々な意味で教育によろしくない人格なのだ。
正直何故そんな人格をしている彼と友人が仲良くできているのかが、友人の性格を考えても不思議でならない。
本人は『べ、別にただの知り合いだけど?』なんて言っているが、リアスから見ても友人のソーナは常に彼の動向を気にしているようにしか思えない。
ひょっとして騙されているのではないかと何度か心配にもなる。
ましてや、気づけば自分の眷属にそんな三馬鹿トリオの内の一人の彼にいつの間にか懐いたばかりか、彼のドスケベさに影響されたせいか、彼に下ネタ混じりでひっつこうとする子が出てきてしまった事を思うと……アザゼルが個人的に抱える懐刀の一人である事を加味しても不安でしかない。
「この三馬鹿トリオ共! ウチの生徒でも無いのに何しに来やがった!! 帰れ!!」
「リアス・グレモリーに呼ばれたから来たまでだぞ」
「ああ、先日の件がやりすぎだからだとかなんとか」
「なんか白音が渡したいもんがあるっていうから」
義務教育すらまともに受けないまますくすくと成長してしまったアホトリオを地味に警戒するリアスにとって、警戒以上のアホさ加減に頭を抱えたくなるのだ。
ノリノリで水戸◯門ごっこした挙げ句、アザゼルから頼まれた例の勝手行動中の堕天使一派を懲らしめてやった三馬鹿だったが、その場所が悪魔のリアス・グレモリーが管轄を任されている地域内かつ、ノリノリ過ぎてアジトに使われていた教会を更地に解体してしまったのはいくらなんでもやりすぎだという抗議をされてしまったので、取り敢えずそこら辺で買った安い菓子折りを献上しながら適当に謝っておいた。
「いやーすんません、つい水◯黄門ごっこに熱が入りすぎてしまいましてねー」
「黄門様の笑い声の再現には苦労したぞ――カーッカッカッカッ!!」
「それよりラーメンの出前を頼んで良いか?」
『……………』
三人なりの誠意を見せてるのだが、三人揃ってズレ過ぎてる事を宣うせいで、リアス達の目は辛辣なそれであった。
「反省の欠片も無いって訳ね……」
本当に何時見ても揃ってお馬鹿過ぎると、これまで受けた被害を思い返しながらジト目となる小猫を抜かしたリアス達。
「先輩にプレゼントです」
「何度も言うが俺はお前の先輩じゃないんだけど……これ何?」
「先輩だけの私のエッチな自撮り写真集です。
これでたくさん夜の自家発電に勤しんでくださいね? いえ、今見てムラムラしてそのまま体育館倉庫に私を拉致してください!」
「うーん……おっぱいがまるで足りん」
その小猫は、この学園の男子生徒が見たらトイレにでも駆け込むであろうヤバイ自撮り写真集を一誠に押し付けながらニコニコしている。
「………彼と話す時の小猫ちゃんってどうしてああなってしまったのでしょうか?」
「気づいたらああなってたのよ。
私が記憶する限りでは、小猫はこの三人の中でも一番彼を嫌ってた筈なのに――スケベな意味で」
「ええ、それは私も知ってましたわ」
彼――一誠を前にすると信じられない程に下ネタ連発をするようになってしまった小猫――というか白音にも頭が痛くなる。
これではどさくさに紛れて堕天使一派が騙して連れてこん神器使いの元シスター見習いを眷属にしても割りに合わなさすぎる訳で。
「あ、あの……この度は助けて頂いて――」
「? 誰君? 二人の知り合いか?」
「知らん」
「俺も知らんぞ」
「」
しかもその現場にこのアーシアという少女が居たことすらも気づいてないという。
三人揃ってアーシアを知らないと言うせいで、微妙にアーシアが傷ついているのだが――どうやら一誠的にアーシアは別にストライクではなかったらしい。
「てかグレモリーさんか姫島さんの写真集は?」
「そんなのあるわけ無いし、あってもアナタにはあげたくないわ」
「ええ、気持ち悪いですわ正直……」
「おっふ、辛辣ぅ~……」
「大丈夫ですよ先輩。このお二人に嫌われても私は先輩にめちゃくちゃにされたい気持ちは変わりませんから。
寧ろ世界中の女から嫌われてください?」
「ニコやかに言われると腹立つんだけど」
とにかく頼むから出てくる度に街のどこかを更地にするなと強く釘を刺された三馬鹿は一応生返事だけはしておき、解散となった。
「どうする? 帰りに何か食って帰るか?」
「ラーメンだな。駅前の」
「昨日食べたばかりだろう? 今日はハンバーガー系を――って、どうした一誠?」
「悪い、先行っててくれないか? 俺はもう少し用がある」
割りとリアス達に警戒されている状況をまるで気にせず、帰りの食事について話し合うヴァーリと神牙に、野暮用があるとだけ言った一誠は、そそくさと学園の出口とは反対の道を走っていった。
「ソーナ・シトリーと会う気だな?」
「一々隠さなくても良いのにな?」
「俺達にからかわれるのが嫌なんだろうさ。バレバレなのに」
「まあ、それでもからってやるがな!」
「違いない!」
「「HAHAHA!」」
その理由を簡単に見抜かれているとは知らずに、一誠は同年代の下校する高校生達と時おりすれ違いながら校舎を抜け、先ほどリアス達と会合していた旧校舎の裏側に足を踏み入れる。
「ん、来てくれたのね?」
「まあ、予定もありませんからね」
そこには眼鏡をかけた黒髪の少女ことソーナがおり、一誠に気づくと軽く微笑みながら手を小さく振る。
「それで? さっきまでリアス達に色々の言われたんじゃない?」
「えーっと、暴れる度に人間界の建物を一々破壊するなとかなんとか……」
「あらら、ド正論ねそれは……」
「別に破壊したくてしてるわけじゃないんだけどなぁ………」
出会ってから約六年。
最初の方は一誠が冥界にあるソーナのもとへと不法侵入しながらちょいちょい会っていて、人間界の学校に通う様になってからもこうして周りに隠れて会っていた。
「? その手に持ってる本は?」
「ああこれ? これはさっき白音に渡されたやつで……って、あ……」
「ふむふむ………。ふーん?」
「いや、あのチビ猫が勝手にやってたみたいで……」
「彼女、随分とオープンになったのね……」
「寧ろ毛嫌いされてたんだけどなぁ」
中身が『マル秘・白音たん写真集』であると知ったソーナの機嫌が悪い方向に流れていると察知した一誠は微妙に困った顔で笑ってみる。
事実知り合った当初はその下品極まりない性格に毛嫌いされていた筈だったのが、気づけばこんなことになっていたと一誠としても言い様が無いし身に覚えも無かった。
「ふっ、でも胸の大きさは私の方が上ね……!」
「でもアイツ、仙術のパワーを使うと一時的に体が成長するんですけど、確かかなり育ってたような……」
「ぬぐ!? ふ、ふんだ! そんなドーピングみたいな真似を私はしないわ!」
「アンタはドーピングしても貧乳だと思うけど……」
将来的に追い抜かれると言われて軽く凹むソーナの背中を無駄に優しく叩いてあげとく一誠。
「体型のバランスは私が一番良いもん……」
「………」
「な、なにか言ってよ!?」
「……………ドンマイ?」
「慰めにもなってないわよ!?」
あまりにも貧乳と言われ過ぎたせいか、言われる前はそこまで気にしてなかったソーナもすっかりコンプレックスになってしまった。
この目の前の女に頗るだらしのない少年のせいで。
「む、胸の話はどうでも良いわ! というか胸の話で時間が潰れるのはもったいないし」
「そりゃ確かに」
しかしそれでも自然と気が合うのは確かで、もっといえば三馬鹿で一番気安いやり取りも彼だけだ。
ましてや、可能性を示してここまで手を引いてくれたのは彼だけなのだから。
「だ、だからお詫びを要求します……!」
「お詫びって? 純金製のロレックスなんて俺買えないっすよ?」
「い、要らないし金品じゃないわよ……!
え、えっとその……時間までぎゅってするとか……」
「は? ……………嫌ですよ恥ずかしい」
だからこんな関係のままこれたし。
これからもそうであって欲しいとソーナは思う。
ちょっと恥ずかしいことを言い合ったり、ちょっとだけ喧嘩したり……そんな仲であることを。
「搭城さんにくっつかれても拒否しないくせに……」
「いや、割りと引き剥がしてぶん投げてますけど」
「私とじゃ……嫌?」
「………。うっわ、ずりーぞアンタ、そんな顔で言うなよ……」
それでいて、ちょっとだけ特別な関係になれたら……。
「ねぇ、やっぱり胸が小さいとダメ……?」
「今の時点だとダメではないかも……。あーちくしょう、こういう時のアンタってホント可愛いな」
「ふふ、じゃあもう少しこうしてても良い?」
「……うん」
散々貧乳だひんぬーだ言ってる相手の胸に抱かれ、それが結構悪くないと思う一誠とソーナの時間はゆっくりと流れていく。
補足
さくっとやり過ぎてまたしてもアーシアさんがモブ降格してしまう悲しみ。
その2
と、このようにこっそり会ってはこっそりいちゃついてる模様。
周りにはただの知り合いだと吹いてるけど7割りバレてます。