それがこの一誠ですが……
俺は悪くない。
何かヤバイ事になったとしても俺は悪くないし、寧ろヤられそうになりましたと訴える事も可能だぜ。
まあ、告訴しても何故か100%俺が負けるからしないけど。
「一般小市民だから、キミに睨まれると怖くて心臓麻痺起こしそうなんだけどなぁ?」
「……」
駆動音が喧しいけどよく冷やしてくれる古い冷蔵庫から取り出したサイダーをゴクゴク飲みながら、俺はギラギラとした金色の瞳で睨んでくる少女に、警戒心を持たれないよに笑顔をみせる。
人に殴られないように媚びる様な演技は昔からやってきた事なので割りと自信があったりするんだが、目の前でジロリと親の仇みたいに睨んでくる少女は一切の警戒を崩しちゃくれないので、俺は段々と笑顔を嘲笑に変化させてみせる。
「ちぇ、自分の妹と仲が拗れたのは俺のせいじゃないのに八つ当たりは止めて欲しいもんだね。
何だっけ、悪魔の主をぶっ殺して犯罪者だっけ? 知らんしそんなもん」
「むかっ……!? そ、その人を小馬鹿にした言い方……前と全然変わっちゃないにゃ……」
「事実じゃん。それでその間に俺が小猫……いや、白音ちゃんとオトモダチになったのが気に入らんなんて言われてもねぇ? そこの所、どう思います白音ちゃんや?」
なんていうかね、ぶっちゃけ正直実はこの目の前で睨んでくる黒い少女……そう、えっと黒歌さん? って人は嫌いじゃあ無い。
というのも、その黒歌さんの隣に座ってる、というよりは座らせられてる白音ちゃんと同じで何故か俺を気持ち悪がないで真正面から関わってくるからってのもある。
変わり者の姉もやっぱり変わり者なのか……ま、どうでも良いか今は。
「先輩は確かに無能で駄目な人ですが……」
ラチが明かないと判断して、取り敢えず少し前に見られたあの絵面についての弁護を依頼してみれば、相変わらず可愛くない余計な一言を交える白音ちゃんは隣でハラハラしながら見てくる自分のお姉さんと、対面に座る俺を其々一瞥してからゆっくりとあの時の状況についての説明をしようと口を開いた。
「先程姉様が見た状況はそのままの意味ですよ。
考えてみてください、人間である先輩が私を力尽くでどうのこうの出来るとでも?」
「うっ……た、確かに……」
「ふっ……」
これ程までに人間で良かったと思う日は無いね。
滅茶苦茶に顔を歪めながらも納得させられてる黒歌さん見ればよーく感じるぜ。
「決まったね。そういう訳で『俺は被害者だ。』」
「で、でも……!」
「でも……何だい? ん、まさか俺がそうさせるようにとか思ってる? おいおいおいおい、勘弁してくれないかな。
何度も言うぜ白音ちゃんのお姉ちゃん…………『俺は悪くない。』」
まあ、あのままキミが来なかったら恐らくそういうことになってただろうし、俺も仕方ないと思ってたけど、それでも俺が被害者なのは変わり無いのよ。
「ぐぬぬぬ!」
「そんなに嫌だったんだですか? 私とは……」
「別に? ただ、それでキミが死にでもしたら俺は多分発狂して手当たり次第で
ま、どちらにしてもキミも俺もまだ早いんだよ。餓鬼だからな」
「……」
前に夢の中をうろちょろしている悪平等の彼女曰く、俺は受け入れた存在を失うのを極端に恐れているなんて言っていた。
言われてみれば確かにと思うところはあるし、現に小さい頃初めて好きになったツインテールの女の子が突然沸いて出た兄者に靡いて俺を一切見なくなった時は、
その時は夢の中に出てくる彼女が元に戻してくれたから事なきを得たが、次そうなったら…………うん、考えるのはよそう。
その為に白音ちゃんを悪魔に転生したという現実から逃げて、白音ちゃんを記憶している全ての存在からも逃げて、持っていた柵を取り壊したんだもんね。
後は彼女の好きな通りに生きるのを見てられるだけで良いんだよ……。
「で、キミは結局何しに来たの? キミが此処に居るなんてあの悪魔さん達にバレたら大変なんだけどな」
「き、決まってるにゃ! お前が白音に手を出さないようにと……」
「それなら今さっき解決したでしょう? 俺は悪くない。
はい、だから帰って結構ですよ」
「ぐにゅ……ま、まだにゃ! お前の持ってるその変な力についてだにゃ!
お前が何かしたせいで白音は悪魔じゃ無くなったのも、リアス・グレモリー達が白音を綺麗サッパリ忘れているのも私は分かってるんだにゃ!」
相変わらず語尾ににゃーを付けても滑稽にしか見えないというか……まあ良いか。
とにかくこの黒歌さんは興奮した面持ちで高くは無いけど壊して欲しくないガラス製のテーブルをバシバシ叩いてチラホラ前に見せちゃった
「白音ちゃんが悪魔に転生していたって現実から、そしてこの子を知り、記憶しているキミと俺以外の全ての存在から逃げただけだよ。
だからこの子は元の純粋な猫妖怪の種族になったし、悪魔さん達も覚えてないのさ……………で、ソレが何? 少なくとも妹に危険はほぼ無くなったんだから、キミは泣いて喜んで俺に
そうだよ、お尋ね者と化した黒歌さんの妹だって、悪魔連中からすれば犯罪者扱いされてたあの現実からは少なくとも逃げられたんだからな。
妹の身が心配な姉としては寧ろ喜ぶべき事だろ? なのに何でそんな怒ってるのかが理解出来ないし、白音ちゃんは呑気にお茶飲んでるし……ほら、何で何時も俺が悪いみたいな流れになるんだろうね。
「逃げたって……そんな力……只の人間が持ってる訳……」
「あるから現にそうなってんだろ? 何でも良いからさっさと納得して帰ってくれないかな? 俺そろそろ寝たいんだけど」
前にキミと会った時も同じ事を聞いて来て、律儀に答えてあげたのにもう忘れたのかよ。
「格好といい、だからキミは残念ビッチなんだよ」
「だからビッチじゃ無い!」
ビッチと言うと思い切り怒るのを前で知ったので、鬱陶しそうにしながら言ってやると、顔を真っ赤にしながら否定する黒歌さん。
どうにもビッチと言われたくないらしいが……。
「此処に来ても召し物着崩して裸チラ見せしてる時点で俺からすれば只のノータリンかビッチですわ。はい、ビーッチ! ビーッチ!!」
傷口に粗塩刷り込むのが俺のやり方なので、敢えて言ってやる。
自分より強い奴をやり込めるのは楽しいからね。
「ビッチじゃないにゃ……! ビッチじゃ……………ふぇ」
あっはっはっはっ! 終いには泣きに入ったぞ! デコピンで俺を殺せるこの黒歌さんが泣いてまーす! イェヤ!!
「あらら? 泣いちゃったよ。俺より強い癖に無能の代表に選ばれつつある俺に泣かされてますよー?
ね、悔しい? 今どんな気持ち?」
うーん、勝つってこんな気分なのかね。
なるほどなるほど……こりゃ確かに良いかもしれないね……くっくっくっ。
「先輩……もうそこまでにしてあげてください。
本気で姉様が怒ったら面倒なんですから」
ポロポロと涙流してる黒歌さんに今の心境を聞こうとした矢先、流石にと思ったのか白音ちゃんが止めに入ってきた。
「へーいへい。
白音ちゃんに言われりゃあ止めるしかないね」
「ヒック……しろねぇ~!」
「………はぁ」
取り敢えず人を性犯罪者扱いしてきた事に関しての仕返しは十分にしたので、これ以上追い込み掛けるのは止めてサイダーを飲みながら、白音ちゃんに泣きながら抱き着き、それを若干鬱陶しそうにしながらも受け入れてる猫妖怪の姉妹を10秒程眺めながらそろそろお開きにしようと落ち着き始めた黒歌さんに話掛ける。
「それじゃあそろそろ帰ってくれないかな? さっきも言った通り、そろそろ寝たいのよ俺」
「お前キライ」
「あ、そう。嫌われる事は慣れてるから今更だね。だから早く帰れ」
「………………」
嫌いなら早く帰れば良いのにね。
そうすれば嫌いな俺の顔を見ることも無いのに、何故か黒歌さんは帰ろうとしないで白音ちゃんを抱き締めたまんま動こうとしない。
「嫌だ。白音を一緒にしたままだとお前が何時白音に手を出すか解らないにゃ」
「は?」
「……。(苦しい……)」
手を出す……………って、ハァもう。
「あのさ、キミの脳ミソは鳥以下か?
手を出したら殺されると分かっててんな真似出来ねぇっての。
ていうかさ、別に俺は白音ちゃんをそういう目で…………は、まあ多少あるけどそれでもほぼ無いから」
ついさっき白音ちゃんから話をされた事を忘れてるのかどうかは知らんけど、涙目のまま俺を睨む黒歌さんにそろそろ呆れて来た。
「第一、そうなったらなったで何だっての? 俺が白音ちゃんを逃げさせる事が無ければ会いに来る事すら出来ねぇお尋ね者の分際でさ?」
「っ……」
「先輩」
「あぁ、後で怒られるからこれだけは言わせてくれや白音ちゃん」
止めに入ろうと俺を呼ぶ白音ちゃんに手を軽く挙げながら、ゆっくりと立ち上がって俺を見上げる様に睨む黒歌さんに対して、ヘラヘラとした笑みを浮かべながら言った。
「俺が信用出来ないなんてのも解るよ、そもそも俺もキミなんて単なる白音ちゃんのお姉ちゃんってだけの認識で、話すのは好きかもだけど、キミ自身はどうだって良いよ正直。
目の前で捕まって処刑されようが犯されようが知ったこっちゃない。
それとも何だ? 何処かで沢山展開してる『お話』みたいに『キミを助けて姉妹と仲良くハッピーエンド』なんて望んでる訳? うん………………………笑わせるなよバーカ」
「っ………く………!」
トモダチでも何でも無い、只の姉ってだけの奴に俺が何かする訳が無い。
白音ちゃんの要望が無ければ、このエセ猫姉が白音ちゃんを記憶している現実から逃げてたんだ。
話す分には、馬鹿にしてやる分には楽しいかもしれないが、所詮そこまでの相手でしかないのさ。俺にとってはな。
だから俺は何にもしない。はぐれ悪魔だという現実を否定し、普通の猫妖怪姉妹だという幻実に逃げる手伝いもしない。
言っただろ? 俺は弱い奴と馬鹿の味方はするけど、この目の前で顔を歪めてる奴は明らかに強いからね。だから味方になんかならない。
だから引き続き逃亡生活を続けてくれや。俺は白音ちゃんと楽しくやってくからさ。
「SSはぐれ悪魔だっけかキミは? さぞかし大変だろうね。
同情はしてあげる……
「………………」
「それともこのまま白音ちゃんを連れて行く? あーぁ、折角キミと白音ちゃんが姉妹だって事を知るのは俺ら三人だけなのに、また振り出しだろうね?」
「うぅ…………」
まあ、そんな真似したらそれなりの報いを受けさせるけどな。
勝手な話、トモダチは絶対に離さない主義だからね。例えその身内だとしても許さねぇ。
「一誠先輩……もう十分です。そこまでにしてあげてください」
「ん、うん……はいはい。白音ちゃんに言われたら仕方ないや」
黙って俯いてしまった黒歌さんを見て、白音ちゃんが再び止めに来た。
この時点で言いたいことは取り敢えず言えたので大人しく言うことを聞き、ベッドに寝っころがりながら後の事を白音ちゃんに任せる事にして二人たから背を向けて目を閉じる。
「姉様は……もしかして先輩に助けて欲しかったから来たのではないのですか?」
「…………」
「前に会った時と聞きましたが、その時に先輩のスキルを見て……」
「そう、だにゃ。
でも、私はどうにもアイツに嫌われてるみたいだにゃ……。
いきなりビッチって言われたし……」
「それはアレです。先輩は性格が悪い上に友達が居なくて、更には他人とまともに話が出来ない人なんですよ。
だから人を馬鹿にした言い方でしか構って貰う方法を知らなーー」
「へいストップよ白音ちゃん」
うとうとし始めた矢先、何か白音ちゃんが勝手な事を言い出していたので、ついつい姉妹の方に寝返り打って話を止める。
「俺は単に思った事を正直に言っただけで、別に構って貰いたいからとかじゃ無いからね?」
「あ、そうですか。
それでですね姉様……先輩の言動は基本的にイラッとしますが、それでも怒らずに『ああ、こういう言い方しかしない人なんだな……』と思って付き合ってあげると、極微量に良いところが見つかります」
「う、うん……」
「あれ、無視されてるし……」
何やら俺との付き合い方を黒歌さんにレクチャーしとる白音ちゃん。
この前は『ねぇ、この下着は大人向けだろ? 何でキミが持ってるの?』って聞いたら二もなくシバかれたんだけどなぁ。
めっちゃ怒ってたんだけどなー?
「つまり、素直にお願いすれば大概聞いてくれますよ」
「わ、わかったにゃ……。
え、えっと……助けてほしいにゃ」
そうこうしてる内に話が纏まったのか、何か知らないけど黒歌さんが頭下げて助けろと言ってきたので、俺は思い切り首を横に振る。
「嫌だ。強い癖に弱者に助けを求めないでくれないか?」
「………」
ふざけやがって、嫌なこった! と半分意地みたいな気分でプイッと背を向ける。
冗談じゃないね、俺は便利屋じゃ無いしスキルだってそんな都合良く『他人の為に~』なんて使い方は出来ねぇよ。
『他人の嫌がること』なら無制限だけどな。
「だ、駄目だったにゃ白音……」
「ふむ……それなら姉様。…………と言ってみてください」
「え? ……………う、うん」
ふん、いくら悪知恵働かせても無駄無駄。
大人しく引き続き逃亡生活でもやってろ、このエセ猫めがーーーー
「助けてくれたら……は、裸エプロン? ってのになるにゃ。だから助けーー」
「しょーがないなー! 白音ちゃんの大事なお姉ちゃんの為だ! 一肌脱いでやるぜ!!」
人助け……うん、俺は人助けする為に生まれて来たからな! やってやんよ!
「………………」
「ね、言ったでしょ?」
「や、やっぱりスケベにゃ……」
ベッドから飛び起き、右手に釘、左手に杭を持って飛び跳ねる一誠の姿を見て、黒歌は妹の身がやっぱり心配になったのだという。
「約束は守ってね? 良いか、は・だ・か・エプロンだからね? 中に水着は無しだからな?」
「わ、分かったにゃ……。(凄いいい笑顔……)」
「変に色仕掛けに弱い先輩で良かったです。
まあ、これが終わればその弱さも矯正させますが」
補足というか結論。
結局色仕掛けには弱かったという訳です