色々なIF集   作:超人類DX

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一応続き。

きっとほのぼのだよ()


悔しい拗らせ魔法少女()

 皮肉という言葉があるとするならば、それはまさに自分にピッタリであると彼は悟った。

 

 散々毛嫌いし、散々嫌悪してきた存在と全く違わぬ存在へと成り下がったのだから、これを皮肉と呼ばすしてなんと呼ぶのか。

 

 すでに自分で自分を終わらせる事すらも不可能な領域へと到達してしまったのでこの苦痛から逃れる事もできない。

 あるのはただ、かつての自分と同じ嫌悪を抱く少女からの憎悪。

 

 だからこそ自分で終わることも出来なくなってしまった――守るべき存在との別れを経験した青年は、少女が憎悪を糧に己を終わらす領域へと到達することを待つ。

 

 悪となり、悪役らしく無様に消え去る最期を迎える為に……。

 この世界の『害』として排除されるその日まで……。

 

 

 

 

 姫島朱乃とその両親によって『道』を見つけ、がむしゃらに進化を続けてきた元風紀委員長の少年は、やがて彼女等と袂を別つ事で孤独になった。

 

 そして孤独のままこの世をさ迷う内に、異なる世界へと迷い混んでしまった青年は、根が己と似ている女性と、目を開けぬ少女と出会う。

 

 やがて青年は、かつて姫島朱乃とその母を一度目の前で失う事を切っ掛けに発現してしまった、現実そのものをねじ曲げる過負荷(マイナス)により、その母娘を取り巻く様々な柵を『否定』してしまう。

 

 その結果、確かに消え去る運命であった母娘は今を生きる事ができるようになった。

 だが、そのねじ曲げた現実によりこの世に戻った少女の複製の人生もねじ曲げてしまった。

 

 所詮青年の持つ異彩の片割れである幻実逃否(リアリティーエスケープ)は負の感情を土台としたスキル。

 決して誰かを幸せにするスキルではない。

 

 誰かがそれにより運命を変えれば、誰かが代わりに不幸になる。

 それがこの世に舞い戻った少女(アリシア)複製(フェイト)だった。

 

 

「ほんの少し速く動ける様になった程度じゃあ俺には勝てないなお嬢ちゃん?」

 

「くっ……!」

 

 

 元々フェイトは母――プレシア・テスタロッサにとってアリシアの代わりにすらなれないでき損ないと揶揄されてきた少女だ。

 フェイト自身はその出生を知らなかったし、アリシアというオリジナルの存在もその時はまだ知らなかった。

 

 

「あの人外師匠――いや、自称・平等主義者に借りた目で俺の視界から動きを読もうとしていたとしてもな」

 

 

 しかし母に愛されたかった少女は自身の出生の意味と、彼の存在を知ってしまった。

 母と自身のオリジナルの運命をねじ曲げる男の存在を。

 

 そして何よりも、その母が今も尚――自身よりも彼を信用している事を。

 

 

「まだ……! まだ終わってない……!!」

 

 

 それがフェイトには許せなかった。

 母が彼を――そのふざけた性格を抜かして信じていることも、オリジナルであるアリシアに至っては彼を全面的に信じている事を。

 

 横から肉親を奪ったこの男がフェイトは許せなかった。

 だからこそ、P.T事件と呼ばれる様になったあの事件以降、母とアリシアと共に逃亡している彼を捕まえる事がフェイトにとっての復讐となり、その道を歩みはじめた。

 

 人でありながら人でなしと呼ばれる怪物から肉親を取り戻す為に。

 

 

 

「重要なのは気配の強さや動きを掴む事だ。

キミは欲視力に頼り過ぎているから俺の動きに付いてこられなくなる――って前にも言ってやった筈だが、ちゃんと聞いていたのか?」

 

「う、うるさい!! アナタの指図なんて受けない!!」

 

 

 だけどその差はあまりにも大きすぎた。

 管理局が一度捕まえようと動いた時、彼はたった一人で抗い、そして返り討ちにしたのだ。

 その強さは人智を超越し、デバイスを使う事なく魔法のような力を行使する。

 

 赤き雷鳴を纏いながら……。

 

 

「アナタなんて……アナタなんて……!!」

 

「仕方ないな。

あの白い子じゃないけど――ちったぁ頭冷やそうぜ?」

 

 

 10年……。

 初めて見た時から全く変わらない青年との差はまるで縮まらない。

 基本的にふざけている性格なので、行方自体は簡単に掴める。

 

 だが捕まえられた事は過去の一度と無く、そしてその強さに近づけた事もなかった。

 全身から赤い電撃を纏う青年が両手から放電する黒い球体を生成し、フェイトに向ける。

 

 

「出直して来な! 雷撃・地獄玉!!!」

 

「うう……! うあぁぁぁぁあああっ!!!」

 

 

 あの時からまるで縮まらない差を思い知らすかのように放たれる電撃の力がフェイトの全身を覆い尽くす。

 

 絶望的な現実を突きつけられるように……。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 所々傷を負って倒れ伏すフェイトが生きている事を確認した青年・一誠は、そのまま踵を返して堂々と去る。

 かれこれ追う追われるな関係だけで10年近い付き合いのあるフェイトを殺す気等最初から無いし、こうすれはま更なる成長をするだろうと考えての事だが、果たして自分は本当に死ねるのか……微妙に不安だった。

 

 

「あら、帰ってたの?」

 

 

 さて、そんな一誠が元の世界からこの世界に迷い混んで早10年が経過している訳だが、彼は今絶賛の指名手配犯であった。

 その理由は、同じようにフェイトが現在籍を置いている組織に追われているフェイトの母であるプレシア・テスタロッサに手を貸したのが殆どの理由だった。

 

 彼女が用意した隠れ家のひとつに戻ってみれば、10年前よりも血色が良くなっているどころか、実年齢よりはかなり若く見える女性――プレシアがリビングのソファに座って何やら小難しそうな本を読んでいる。

 

 

「あ、おかえりイッセー!」

 

「おう」

 

 

 そしてもう一人――先程戦っていたフェイトにそっくりな少女が帰還してきたイッセーを快活な表情と共に出迎え、そのまま飛び付いてくる。

 

 

「どこ行ってたの? まさかまたスケベなお店に……」

 

「行こうと思ったけど、財布忘れてたから行ってはねーぞ?」

 

「ふーん……? じゃあフェイトと会ってたんだね?」

 

「いや……」

 

「………」

 

 

 フェイトと比べると子供っぽいアリシアは、微妙に鋭く、先程からプレシアが無言でイッセーに『アリシアとそれ以上そうしてたら殺す』的な視線を向けられるので、然り気無くアリシアを引き剥がしながら、イッセーは冷蔵庫から取り出した飲み物を一気飲みする。

 

 

「偶々出会したのは事実だけど、さっさと逃げてきた」

 

「へー……?」

 

「……………」

 

 

 割りと本当のことなのにアリシアの目はどこか疑っているそれだったが、それ以上追及しても意味はないとなんとなく思ったのだろう、アリシアは取り敢えず納得してくれたらしい。

 

 

「イッセーってフェイトに優しいからなぁ……」

 

「優しくしてるつもりは無いんだけど」

 

「そうかな? 会う度に色々と教えてるらしいし?」

 

「まあ……拗れさせたのは俺だし」

 

「………………」

 

 

 フェイトの事は基本的に無関心を通すプレシアを伺いながら、アリシアと会話するイッセー。

 流石に、自分を終わらせる領域まで引き上げさせているとは言わないし、言ったら厄介な事になるのはわかっている。

 

 何故なら、アリシア的にはフェイトが自分にとって何なのか分かっているし、出来ることなら姉妹みたいにななりたいと願ってはいるが、イッセーがフェイトに対してやけに構うのは面白くないのだから。

 

 

「…………」

 

 

 そんな一誠の声を耳にしながら、プレシアはただ黙って本を読み続ける。

 今さら複製でしかない存在なんてどうでも良いとばかりに。

 

 

 

 

 

 

「で、アレに期待したところで無駄だってそろそろ気付いて欲しいのだけど?」

 

 

 故にプレシアとしてはそろそろイッセーには諦めて貰う為、アリシアが完全に眠った時間を見計らい、イッセーを呼びつけた。

 

 

「アナタを殺す領域まで仮にアレが到達したところで、私の認識は変わらないわ」

 

「…………」

 

「アレがアナタに何を抱いているのかなんて事もどうだって良いけど、アリシアを泣かせたら許さないわよ?」

 

「………」

 

 

 フェイトを引き上げるつもりでこの10年の間に相手をしてきたイッセーの目論見はわかっていた。

 しかしフェイトが仮に今後イッセーを越えたところで、プレシアにしてみれば『だからどうした』としか思えない。

 アリシアが完全に蘇り、成長した今、最早複製がどう生きてようが関係ないし、最初から親子の情など持ち合わせてすらいなかった。

 

 

「アリシアはそうは思ってないぞ」

 

「そうかもしれないわね。

でもそうだとしても私は変わらないし、変えられない――それはアナタがよーく知っているんじゃないのかしら?」

 

「…………」

 

 

 ある意味外様で他人で血の繋がりなんて無いイッセーの方がプレシアにとって同意できる事が多いし、お互いに口には出さないものの気が合う事が多い。

 

 自分が一度でもこうだと認識してしまった事は変えられない等はまさに似ている。

 

 

「私の生き方は私が決めるわ。

誰かの決めた正しさ等には興味がない」

 

「……………ムカつくくらいわかる事言いやがって」

 

「ええ、私も腹が立つけど、アナタとはそういう意味では馬が合うし、だからこれまでそこそこ上手いことやれてきたんじゃない? ……………アリシアに懐かれててぶちのめしてやりたいって事以外は」

 

 

 運命をねじ曲げられる事で今を生きる母娘と、自分自身の存在を害と見なしている青年。

 その繋がりは単純なようで複雑なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 若干丸焦げでぶっ倒れていたフェイトは、親友の一人が管理局内で発足した六課の医務室で目を覚ました。

 

 目を覚ました時、友人や仲間達が心配したりしてくれたのだが、フェイトの心はまるで晴れなかった。

 

 

「あのやられっぷりからして、またあの男と会っとったんやな?」

 

「………うん、片っ端からスケベな顔して女の人をナンパしてるのを見つけちゃったから……」

 

「指名手配とは思えないね相変わらず……」

 

 

 隠しても意味はないので素直に白状すると、友人達なため息を漏らす。

 

 

「なぁフェイトちゃん? あの男が第一級の危険生物として認定されてから5年は経っとる。

一人で管理局の全部隊を壊滅に追い詰めるあの化け物じみた戦闘力相手に一人で捕まえようとするのはやめて欲しいんや」

 

「その、いくらあの人がフェイトちゃんには手加減するとはいっても危ないから――」

 

「手加減……?」

 

 

 フェイトがあの指名手配犯に並々ならぬ執念を燃やしているのは六課の面子達の誰しもが知っていた。

 だが単独で追おうとするというか、彼の姿を見ると頭に血が昇って暴走するのはなんとかやめて欲しいと思っての説得だが、親友の一人である高町なのはの悪気ゼロの一言にフェイトの目のハイライトが消え失せる。

 

 

「ぅ……! い、いやそうじゃなくて……!」

 

 

 しまったと慌てて弁解しようとするなのはだが、フェイトはハイライトの消えた瞳で自嘲気味に笑い始める。

 

 

「そっかー……手加減されてるってなのは達にも見えるんだ? そうだよね、真・ソニックフォームですら片手だけであしらわれたもん。

遊ばれてるだけだよね……? そう見えるよね?」

 

「せ、せや! せやからもう少し準備をしてからの方が……」

 

「ふふ……なんでかなぁ? 本当に差が縮まらないんだよなぁ? なにをしてもヘラヘラ笑いながら、子供扱いしてくるし、わざわざアドバイスなんてしてくるし……。

私なんてあの人にとったら道端の石ころなんだよきっと……。

挙げ句の果てには魔導師関連は私に分があるけど、『向こう側』の才能はアリシア姉さんの方が遥かにあるって言うしさー?」

 

「向こう側――魔法とは別の力の事か。

確か奴が危険生物として認定されたのは、あらゆる状況や環境に即時に適応して無限に自己進化することが出来るが故だった――」

 

「そう、シグナム達に鼻の下なんか伸ばしながらあっさり喋ってくれたソレの事だよ。

こっちが必死になってるのに、デレッデレとシグナムとかシャマルに……」

 

「う、うむ……」

 

 

 何時もの発作が始まってしまい、微妙に小さくなる仲間達。

 特にフェイトがムカつくのは自分の事を何時までも子供扱いするに加えて、シグナムやシャマル辺りの出会った時から大人である女性に対しては、アホ顔晒してデレッデレするのがムカついて仕方ない。

 

 

「ほら、これ見てよ? 私をまだ子供だと思ってるみたいでさ、気絶してる私の手に安い飴玉なんか握らせてるんだよ?」

 

「へ、へぇ?」

 

「あ、アカンわこれ……。

大分今回はおちょくられたみたいや……」

 

「ガキ扱いされるのが昔から嫌がってたからなフェイトの奴……」

 

 

 ハイライトが消えっぱなしな目でクスクス笑いながら、取り出した飴玉を口に放り込むフェイトに、仲間達な今回は割りとこっぴどくやられたのだと感じる。

 

 

「握らされてた飴は舐めるんかい……!?」

 

「ふ、複雑なんだよフェイトちゃんは」

 

「この前もアリシア・テスタロッサと堂々と街中を歩いてたのを見つけてしまった時は凄まじい形相だったからな……」

 

「アルフとこっそり地球で会ってるって発覚した時も大変だったしな……」

 

 

 

 

 

「こんな甘いだけの飴玉なんて……ああ、絶対に許さない……♪」

 

 

 コロコロと安物のアメを舐めながら復讐の決意を更に固めるフェイト。

 そんなフェイトの姿を仲間達は生温い目で見守るしかできないのは何時もの事であった。




補足

風紀委員長ベースなので赤龍帝ではございません。

代わりに鍛練の果てにバラキーとあけのんみたいな雷系の魔力を獲得してますので、基本的に異常・過負荷・破壊技術と併用した殺戮スタイルです。

必殺技・雷撃地獄玉

まんま元ネタが『電』撃地獄玉。


その2
追う執念の果てに魔導師としては地味に最強クラスにまで到達はしているフェイトさん。

欲視力も借りたままで併用可能。

けれど彼には基本的に子供扱いされたままという悲しみ……。


その3
アリシアさんは逆に魔導師としての才能は薄いけど、イッセー側の才能がヤバイらしい。

皮肉にも、フェイトさんとは互いに持たない才能を羨ましいと思い合う模様。

その4
プレシアさんは全くブレません。

拳骨煎餅よりも頑固です。

その5
噂によると、一応プレシアさんからデバイスは持たされてる模様。

バリアジャケットのデザインが例の先々代から受け継がれた改造長ランと先代の腕章という風紀委員時代こそれらしいが……。

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