……ちょっとどころじゃなくふざけてます。
これは陸上部女子にばかり優しい兄貴分にぐぬぬする弟分と妹分の、追い付こうと走り続けるお話。
その1・乱神モード・霧島一誠
「風紀委員会と関わるなんて、一年の時のゴタゴタ以来だったな。
確かに入学初日に女教師にナンパしまくって謹慎食らった事についての落ち度は認めてやるが――――――「―今回に関しては笑っていられる程俺はできた人間じゃねぇぞ、ガキ共ォ……!!」
初めて出会った時から近いけど遠いその背を追い続けた。
「地獄の九所封じその一・大雪山落としィィッ!!」
「その二と三! スピン・ダブルアームソルトォ!!」
「その四と五! ダブル・ニー・クラッシャー!!」
「その六・兜割りィィィッ!!」
「その七・ストマック・クラッシュ!!」
「あ、アレは中学時代の俺も喰らった事のある、悪魔将軍の地獄の九所封じ……!」
「めだかちゃんのアキレス健を押さえるつもりで一誠を封じようとした風紀委員会が有明先輩を襲ったのがそもそもの間違いなんだよなぁ……」
「ああなると一誠は女子供でも一切容赦しなくなるからな……」
「え、えげつない……」
自分達がどんな我が儘を言っても、笑って受け止めてくれる彼が大好きだ。
だからこそ人吉善吉と黒神めだかは、支えられるだけではなく支える側にもなろうと努力をしてきた。
「その八……! って、おいおいおい? テメー等から喧嘩売っておきながら、おねんねするのは早いだろうが? 起きろボケ」
「がふっ!?」
「よしよし、それじゃあラストワン……!!」
「ら、ラストワンだと……? 中学時代の俺は四と五の時点で終わったから無事だったが、あのままだと雲仙君が本当に死ぬぞ!!?」
「いや、一応死なない程度には加減しますよ? ……死んだ方がマシだと思う程度に生かした方が1番の報復になるって昔から言ってたし」
「しかし阿久根書記の言う通り、流石に止めなければ一誠が退学になってしまう。
……行くぞ善吉」
その道は決して正しい道ではないだろう。
決して胸を張れるようなものでもないだろう。
しかしそれでも善吉とめだかは一誠と同じ道を歩みたい。
そして間違っていたのなら止めたい。
「じゃあな坊主、地獄の断頭台・改! 神威の―――
「「そこまでだ一誠……!」」
それが黒神めだかと人吉善吉の覚悟。
だからこそ二人の心はある意味で強靭だ。
その覚悟の前では例え負完全であろうと、人外でありうとも揺るがす事は叶わない。
「『久しぶりだねめだかちゃん!』『僕だ―――
「一誠! 有明二年生ばかりにおんぶはずるいぞ!」
「そーだそーだ! 俺達にもしろよ!」
「なんでだよ! つーか仕方ないだろうが、俺のせいでこんなゴタゴタにありあが巻き込まれちまったんだから!」
「べ、別にただ時計塔の地下に連れて来られただけで何もされてないから大丈夫だよ……?」
「『…………』」
「ん? 誰かと思えば貴様はもしや球磨川か?」
「本当だ、何でアンタがこんな所に居るんだよ?」
「『………………』『転校したんだぜ』『それで理事長室を探してて』」
「なっ!? て、転校だと!?」
「ほうそうなのか」
「なんだよ、まだめだかちゃんに構って欲しいのかよアンタは?」
「『べ』『別にそういう訳じゃ』」
覚悟の方向が一切ブレなさ過ぎて負完全がガン無視されてしまったり……。
「生徒会戦挙になってしまった訳だが……」
「マジで相変わらずめだかちゃんに構って欲しいみたいだな球磨川の奴……」
「い、いやいやいや!? 中学の時もおかしいとは思っていたが、二人とも冷静すぎるだろう!? 相手はあの球磨川禊なんだぞ!?」
「あの球磨川禊と言われましてもね。
俺は中学時代からずーっと球磨川の事は『ただの構ってちゃん』としか思ってませんし……」
「一誠から貰ったヘアゴムを壊された時ぐらいだったな、奴に底知れぬ怒りを抱いたのは。
それ以外は基本的に『無害』だろ?」
「え、えぇ……?」
その負完全がちょっと意地になってめだかに会長解任の請求をして、選挙編に突撃することになってものほほんとしているし、二人して無害だろと言い切る始末。
その言葉通り、一誠という質の悪い『区別主義者』によって成長――進化をし続ける善吉とめだかは楽々と過負荷達に勝利してしまう。
そしてその間に霧島一誠は――
極稀に変な夢を見る事がある霧島一誠。
その夢は、自分が中学時代の学ランを着ていて、中学時代の教室に居て。
中学時代に『ああ、そういや居たなー』的な印象しか持ってない女子生徒がドヤ顔で居て、何かベラベラと喋りかけてくるという変な夢。
そんな変な夢の一部を本日はご紹介しよう。
「やあ、ガードが固すぎて暫く入り込めなかったけど、今回は上手くキミの夢の中に入り込めたよ」
「……………?」
極稀に見せられる変な夢と、その変な夢に現れるほぼ見知らぬ女子。
世間的には実に受けの良さげな容姿をしているその女子生徒は、中学時代に球磨川禊がめだかに対してしつこい程ちょっかいをかけていたのと同じく、しつこい程一誠に絡んできた――という印象しかないのだが、夢の中の彼女はいかにも親しい人でございますな態度で馴れ馴れしい。
別に一誠は彼女を嫌っては無い。
無いのだが彼女は何時だって一誠に対して間が悪かった。
「高校生になってめだかちゃんや人吉君へ相変わらずキミにべったりみたいだけど、一誠君は有明さんって子が気になるようだ。
有明さんを見ているとまるで中学時代の僕を――」
「おい」
「思い出させる………へ?」
余程精神のガードが固い一誠の中へと侵入出来たのが嬉しいのか、さっきからドヤドヤァとしまくりながら、あること無いことをベラベラ喋る女子こと安心院なじみは、嘘みたいに気を良くしていたせいでうっかり気付いていなかった。
一誠の顔が明らかに不機嫌だったことに。
「えっと……どうした?」
中学時代の自分と、今の有明ありあが、一誠にとても紳士的に優しくされていて重なる――なんてあること無いことをドヤ顔で演説していた安心院なじみは、どう見ても不機嫌でありますな一誠の顔を見て首を傾げた。
はて、彼は一体どうして不機嫌なのだろうか? この平等なだけの人外である安心院なじみちゃんが、この在り方とセオリーを無視して霧島一誠だけを構ってあげているというのに、なんでそんなに不満なのだろうか? と、人外だからか何なのか、あくまでも自分に絡まれてきっと一誠は嬉しいはずだと思い込んでいる様子の安心院なじみに、一誠は言った。
「Fuck you――ぶち殺すぞゴミめ……!」
「……」
某希望の船のホールマスターと同じような台詞を。
明らかに不機嫌極まりない態度の一誠は、次いで中指まで立てており、安心院なじみは一体どうしてそんなに不機嫌なのかわからなかった。
「俺はな、今さっきまで20代後半の外資系OLのお姉さんに囲まれてとても良い気分な夢を見てたんだ」
そんな安心院なじみの疑問に答えるかの如く一誠は語り始めるが、その中身はある意味で一誠らしいといえばらしいものだった。
「え、うん……」
「そしたらその夢がいきなり消えたかと思えば、こんな所に居て、意味わかんねーのが目の前でベラベラとくっちゃべってる――なぁ? どうしてくれる訳?」
「どうしてくれる訳って……」
霧島一誠の性癖は実にわかりやすいく、どうやら直前まで一誠にとってはとても楽しい夢を見ていたらしい。
それを自分が妨害してしまった――だから機嫌が悪いというのは安心院なじみも理解し、取り敢えず謝っておく。
「なるほど、それは悪いことをしてしまったね」
とはいえ友達感覚の謝り方なのが安心院クオリティであり、やはり平等なだけの人外故なのか、余計な事もつい言ってしまう。
「でもこの安心院なじみちゃんと二人きりになれたんだから、寧ろお釣りが来るんじゃないかな?」
「……………………」
それが火にガソリンをぶちこんでいるとは……多分知らずに。
「平等なだけの人外である僕が、一誠くんにはそのセオリーを無視してあげている程特別扱いしているんだ。
つまりキミは――」
「……………………」
「―――あ、うん。すまん」
再びドヤァっとする安心院なじみに対して一誠は何を言うでもなく、ただひたすらに安心院なじみに冷めた目を向けた。
これには安心院なじみも言葉が止まってしまうし、ここまであからさまな顔をされてしまうのも有史以来初の事だったので、素で謝る。
「前から思ってたけど、善ちゃんとめだかちゃんじゃねーが、本当にオメーはクマー先輩みたいだぜ。
勝手に近寄ってきたかと思えば意味不明なことばかりベラベラベラベラベラベラとメンヘラ電波か?」
数多の世界のような『ファーストコンタクト』の方法を完璧にミスった相手への暴言そのものみたいな事をハッキリと言い切る一誠。
もっとも、相手は安心院なじみなのでそれしきの事でへこたれる訳はない。
「言ってくれるじゃないか。
僕はある意味キミの一番の理解者なんだぜ? キミ自身の忘れている事も僕は知っているし、教えてあげられる事だってできる」
「だから? 少なくともオメーからは教えられることなんてねーな?」
「……。今まで出会した者達にここまで言ってくる奴なんて居なかったぜ。
言っておくけど、いくら人外でも傷つく時は傷つく――」
「つーか今何時だ? 今日は陸上部の朝練が無くて、ありあと学校に行くから、絶対に寝坊はできねーぜ」
「…………また有明さんかよ?
めだかちゃんと人吉君じゃないが、なんでそこまで彼女に拘ってるのかが不思議でしかたない――」
「少なくとも、目の前で頼んでもねーのにベラベラと電波丸出しな事をほざいてる奴より何千倍もありあは良い子だからな。それに、俺の大事な友達だ」
安心院なじみより
「ねえ、僕のことキライ?」
「好きとか嫌い以前に、興味がない」
「僕一応結構な時間を生きてきたんだぜ? つまり年上だぜ? だから――」
「無駄に年だけ喰って中身が伴ってないからお前を年上とは思わないな。
あーくそ、そう考えるとありあが年上だったらガチで口説いてるのに……本当に惜しい子だぜ」
「」
一度懐いた相手にはとことん優しくなれるのに、それ以外にはとことん塩な対応なのが霧島一誠。
安心院なじみに対する一誠の認識は見ての通りの塩――つまりどうでも良い存在。
「あーあ、せっかく良い夢見てたのに、電波な女に邪魔されるし、マジでうぜーわ」
「……」
安心院なじみは……ちょっと失敗してしまったのだ。
そして時は流れ、球磨川禊が構ってちゃん気質をめだかに爆発させたけど返り討ちにされた事でちょっとだけ復活したのだが……。
「僕は安心院なじみ、平等なだけの人外――」
「『おおっ!?』『また僕が王様だ!』『よーし』『じゃあ4番と1番がハグしながら王様ゲームだ!』」
「こ、今度こそしくじるなよ球磨川!」
「よ、4番と一番は誰だ!」
「えっと、あたし4番……」
「俺が1番だな……」
「「球磨川ァァァァッ!!!」
「『僕のせいじゃないよっ!?』」
「……」
安心院なじみと悪平等達はなんやかんや仲良くなり始めている過負荷達と生徒会達の王様ゲームのせいで開幕からスルーされていた。
「」
「『……』『ねぇ霧島ちゃん』『向こうから安心院さんが僕からしたらびっくりする半泣き顔で見てくるのだけど』」
「は? ……ああ、あの時の電波さんか」
「一誠を逆ナンしてはスルーされていた奴だろ?」
「逆ナンは許せんが、一誠が相手にもしてなかったから、私は特にどうとも思わん」
「凄く可愛らしい人だけど、一誠くんの知り合いなの?」
「中学時代に絡んできた変な女だけど、別に親しくないぞ」
「へ、変な女って……。確かに何で全身に大きな螺みたいなのが刺さってるけど」
「あれをファッションと思ってる時点でやべーだろ?」
「『や』『あの螺子は僕の却本作りなんだけど』」
どれだけ壮大な事を言って意識して貰おうにもスルーされ……。
「実は既にこの学園には
「おい一誠! また有明二年生と楽しそうにしていたらしいな! ずるいぞ!」
「そーだそーだ! 不公平だ! 不平等だ!」
「何がだよ……。昨日昼飯の弁当を忘れた時にありあに分けて貰ったから、そのお礼をしただけだっつーに……」
「だが目撃者――というか、キミ達のクラスメート達と証言によると、有明さんと二人でひとつの箸で食べていたと……」
「ああ、割り箸を食堂まで貰いに行くのも面倒だったから確かにそうだったけど……」
「夏休みの一件から、霧島先輩と有明先輩の噂って更に知れ渡っちゃってるみたいだよ? 付き合ってるとかどうとか……」
「所詮噂だから気にしない事にしたよ俺は。
本当だったとしても俺は気にしない――」
「「気にしろ!!」」
「………」
「『安心院さんにしては随分と霧島ちゃんに拘るよね?』『どうしてだい?』」
「………別に」
クマーこと球磨川にすらそのスルーされっぷりに、軽く同情され。
「ねぇ、あなたってよくあの霧島と友達なんてやれるわね? アタシと名瀬ちゃんの事をそれぞれゴリラ女だ包帯お化け女ってひどい事ばかり言う奴なのに」
「そ、そうなの? 普段の一誠くんってもっと優しいけど……」
「……。なるほど、黒神と人吉がギャーギャー喚くのも納得だし、オメーの事に関してはあの馬鹿は直ぐにマジになるからな。
フラスコ計画を潰された時も、オメーを人質に取った瞬間、時計塔と地下施設を破壊し尽くす程暴れまくってたし……」
「多分だけど、あのガサツ男は間違いなく有明が好きだね」
「え!? で、でも私年上じゃないし……」
「奴の性癖的に違うけど、例外なんだろうよ。でなきゃ安心院なじみを悉くスルーしてるような奴が、オメーにそこまでしてやるわけがない」
「そーそー、多分霧島的に安心院さんみたいな変な絡み方しかしてこない人は嫌いなんじゃない?」
「オレと古賀ちゃんの事も最初は顔合わす度に舌打ちしてきやがったからな。
それすら通り越してる安心院なじみは最早リカバリー不能だぜ」
「………僕居るんだけどな?」
ガールズトークでも軽くディスられ。
「ふふん、流石にこうすれば一誠とて無視は――」
「んだよ、なんで俺が中坊共の面倒なんぞ見なきゃいけねーんだっつーの。
こんな事してる暇あんなら、人妻ナンパしてたほうが有意義だっつーに」
「まあまあ、1番暇してそうなのが霧島先輩だから……」
「先輩ー、私お腹へったー!」
「トランプがしたいです」
「阿久根殿を完封できるその強さを学びたいです!」
「安心院さんが涙を堪えながら私達をガン見してマス……」
末端にすら構われ度で負け。
「気付いたら安心院なじみが生徒として転校してきたのだが、結局奴は何を企んでいたのだ?」
「わからないが、見てた限りじゃ一誠に構って貰おうと騒いだだけにしか見えなかったぜ?」
「『その霧島ちゃんは最後まで安心院さんをスルーし続けたし』」
「最後の方なんて、色々とかなぐり捨てて霧島先輩に泣きながらこっち見ろって言ってたよね?」
「霧島はなんでそこまで彼女を無視するんだい?」
「構って変な電波撒き散らされても困るだろ? 頼んでもねーのにこっち覗いてくるし」
「………………………」
「うわぁ……全部聞こえたせいか、また半泣き顔で一誠を見てるぜ」
「あそこまで拒否される者も珍しいぞ」
「『というか』『あの人もああいう感じで泣くんだね』『スカートの裾掴みながらプルプルしてるし』」
平等なだけの人外は可哀想なことになっていくのだった。
「あ、有明二年生! な、何故貴様の膝に頭を乗せて一誠が寝ているのだ!?」
「わ、私も驚いてるんだよ? 急に眠そうな一誠くんが寄りかかってきて……」
「ぐ、ぐぬぬ……! 一誠に頼りにされるなんて羨ましいっす……!」
「あ、あはは……」
「…………………」
「球磨川さん、安心院さんがリアルに指を咥えながら有明さんを見ているのは言わないほうが良いのでしょうか?」
「『多分ね』『というより』『あんな顔もするんだねあの人も』」
以上、嘘予告
補足
有明さんに被害が来た瞬間、スイッチオンするのがこの霧島一誠。
容赦無く地獄の九所封じのフルコースやったり、完璧超人始祖奥義もぶっぱします。
主に、零式・壱式・弐式・陸式・拾式辺りを。
その2
そんなわが道行きすぎな生き方している彼を小さな頃から追っかけてきたせいで、異常も過負荷も悪平等も全部纏めて『ふーん? それで?』と身も蓋もないリアクションしかしない善吉君とめだかちゃん。
十三組編の時点でめだかちゃんは完成を完全に覚醒させているばかりか、既にその先の領域に突入してますし、善吉君も何気に改神モードくらいなら可能にしてます。
彼のせいで……。
その3
まあその……どこかの末っ子お姫様じゃないけど、ファーストコンタクトミスったせいで割りと無視される人外さん。
無視されすぎて意地になったあげく、最近よくプルプルしながら泣くことが多くなったとか……。
それを見ていたクマー先輩は内心『僕のほうがマシだなって思える日がくるなんて……』とか思ってたり。