スイッチがママン関連か地雷踏まないと切り替わらない程度には。
それから少しの時が経った。
相変わらず元の世界に戻れる目処もないヴェネラナ・グレモリーと日之影一誠は、引き続き彩南学園の保険医こと御門涼子の世話になっている。
「凄いわね、アナタの細胞を上手く利用できれば、癌細胞も死滅させられるし、アルツハイマーの治療薬も夢ではないわ」
「あっそ」
「あらゆる環境や状況に適応して独自に進化する異常とは言い得て妙だわ」
無論、涼子の世話になっているだけではなく、その対価はきちんと支払ってはいる。
涼子本人は『別に払わなくてもいい』と言うのだが、人に借りを作るのが嫌というか、根がどうしても律儀な一誠はほぼ一方的ながらも支払い続けている。
具体的には『自身の細胞』をサンプルとして提供するという形で。
涼子曰く、パラレルワールドとはいえ地球人でありながら強靭すぎる肉体と馬鹿げた再生力は宇宙でも貴重らしく、更に言えば一誠の細胞はそのスキルによって状況に応じての適応力と進化の特性がある。
つまり上手いことその細胞を利用しての新薬なんかも開発できる訳で、一誠の細胞があまりにも強力すぎて常人が取り込めば瞬く間にその細胞に殺されるという致命的すぎる欠点さえ除けば、とてつもない価値があるのだ。
もっとも、涼子自身は興味こそあれど一誠の細胞を利用して一山儲けようとなんて考えはこれっぽっちも無いのだが。
「まあ、アナタの細胞を他人に与えるのはその人がアナタに近しいレベルの頑丈さが無いと細胞によって殺されてしまうから、所詮は夢の話でしかないけど」
「……」
「でもこれだけ頑丈なのに、ストレスで風邪をひいたりするのだから、不思議よねぇ?」
「…………」
野良犬みたいに警戒心が強くて、誰彼構わず吠えて威嚇する癖に、変な所に弱い一誠自身を見てる方が涼子的には面白いのだから。
「ところで、第二世代の生物兵器と会ったって話は本当なの?」
「? 第二世代……? なんだそれは?」
「
イヴ――ではなくて、金色の闇がこの前調整に来た時に言ってたわよ?」
「……………………? ああ、あの褐色肌の金眼チビか。いきなり現れて人の飯を食い散らかす乞食かなんかだと思ってたわ」
「……。アナタらしい認識ね。
少し前に金色の闇が暴れたのをアナタが黙らせた時も、その第二世代が仕込んだのよ?」
「それが?」
「…………。あのね、私もアナタがヴェネラナさんに直接害が無いと無関心なのは知ってたわよ? けどもう少し関心を持ったらどうかしら?
あれから彼女――ああ、金色の闇は『自分の事は虫以下でも見るような目で一言も喋らない癖に、あの性悪とは話をしているなんて理不尽です』なんて怒ってたわよ?」
「知るか。
あのうざってぇ金髪を毛根ごとひきちぎらないだけありがたいと思えボケ……とでも言っとけ」
「………どれだけ金髪の人が嫌いなのよ? あの子もオリジナルの彼女も可哀想ね……」
「あ? オリジナル……?」
威嚇する野良犬なんて表現される日之影一誠だが、基本的にコミュ障なので自分から誰彼構わず噛みつく訳ではない。
彼が野良犬化するのは、ヴェネラナにどんな些細なことでも『害』になると判断した場合に、スイッチが入るのだ。
まあ、相手の特徴が金髪だったらヴェネラナ云々抜かして辛辣なのは事実ではあるものの。
「イッセーさん、決してネメシスには気を許してはいけません。
彼女は危険ですから」
「ネメシス……?」
「この前からイッセーさんの作る料理を奪って食べる人の名前です。
彼女はメアという配下を連れて良からぬ事を企んでいます」
「メア……? それはひょっとして、赤髪のガキの事か?」
「え……あ、会ったのですか?」
「いきなり話しかけて来たばかりか、人様の心の中にズカズカ入ってきたから、追い出した後に呼吸だけをする物体にしてからドブ川に流してやったんだが……」
「Oh……。思いの外クレイジー……」
そんな野良犬執事こと一誠は、先日からちょいちょい人の作った弁当を横取りしては食べてしまう褐色金眼の少女の危険性についてをモモから教えられていた。
モモの説明は大体涼子から教えられたものと同じであるのだが、正直一誠的にはヴェネラナに下手な真似さえしなければどこで何をたくらもうが知ったことでは無い。
もっとも、その配下だったらしいメアなる赤髪の少女は『殺戮スイッチON』の対象者にめでたく昇進したようだが。
「チッ、確実に消滅させてやれば良かったな……」
「既にそこまでされたのなら、暫くメアは動けないとは思います。
後はネメシスですが……」
「要は関わらなきゃ良いんだろ? 別に俺は元々関わってないし、絡んできても無視してるから問題ないぜ」
妙にネメシスを危険視しているモモに、一誠は内心『あんなののどこが危険なのかがよくわからない』と、安心院なじみの分身的な
「ところでイッセーさん、どうでしょうか? 私も彩南学園の制服に袖を通す事になりましたが……」
「……? ああ、良いんじゃないの?」
「………。あ、やっぱりそういう反応ですよね。
ええ……どうせ私なんか悪魔の方々と比べたら単なる小娘でしかありませんもんね……」
「な、なんだよ急にネガティブだな……?」
どちらにせよ、一誠の線引きは『ソレ』か『ソレ以外』なのだ。
本来よりもかなり早い段階で実体化を完了させた不思議生物ことネメシスは、物凄い早い段階で配下のメアが使い物にならなくなってしまったことに結構困っていた。
「ご、ごべんばばいマブター……! あ、あのじぎゅうじん……ご、ごわじゅぎまじゅ……!」
「だろうな。だが私はお前に
「じょ、じょっとぎょうみぼんいで……」
「なら仕方ない、貴様の自業自得だ。
奴には慎重になれと言った筈だ」
「うぅ……」
本当に容赦無くズタズタにされたメアを回収し、取りあえず喋れる程度には何とか修復させたが、最早呂律はおかしいし、全身は包帯でミイラだしと……なんというか、これはそのまま死んでしまった方がマシなのではなかろうかとネメシスは思う。
「それで? 奴の精神に少しは干渉できたのだろう? 他の地球人とはどう違った……?」
「ご、ごんぽんできにぢがっでだ。
おおぎぐで、とほうもなぐで……」
「ふむ……」
つまり、やはりただの地球人ではないらしい。
ギドと真正面きって二度戦い、二度とも引き分けて短時間で全快できる時点で最早地球人であることも疑わしくなっているが、本人が地球人を自称している以上は暫定的に地球人として見るしかない。
しかし、だからこそ余計に興味もあるし、あのスカした顔を悔しげに歪ませて膝を付かせられたらさぞ気分が良いに違いない……なんて思う辺りはネメシスもSである。
「仕方ない、今後は私が奴に直接接触するしかない。
幸い、お前と違って決定的な敵意は抱かれてはいないしな」
ダークネスの件は最早後回しと考えるようになってしまったネメシスは行動を起こす。
願わくは下僕にできたらいいなー……みたいな事をちょっぴり思いながら……。
「えーっと奴は明け方になるとあの場所で鍛練をしている筈だから……」
明け方になると何時も町外れの森の中で鍛練をしている事を既に知っているし何度も見てきたネメシスは、早速とばかりにその場所に赴いてみると、やっぱり彼がそこに居た。
「…………」
(地球人は手からビームなんて出せない筈だが、アイツは相変わらず当たり前のように出しているな……)
正確にはビームではなくて、魔力なのだが、ネメシスがそれを知る訳も無く、木から落ちてくる木の葉を指先に生成した消滅の魔力で消し飛ばしたり、氷の魔力で凍らせたり、水の魔力で水圧カッターの要領で切り刻んだりしているイッセーを見て実に興味深そうに覗きつつ……。
(む、今日も食事を用意しているのか……)
恐らく朝食のつもりで用意してあったお弁当箱が一誠から少し離れた木の影においてあることを突き止めるネメシスは、まずはあの食料をどう食ってやろうかとか、今日はどんな料理なのだろうか……なんて思いながらコソッと近寄っていく。
「テメーは泥棒猫か?」
もっとも、刹那でバレてしまい、警告の意味合いでネメシスの目の前の地面を消滅の魔力で消し飛ばされてしまったが。
「チッ、そう簡単にはいかないか……」
バレてしまっては仕方ないと、開き直った態度で仁王立ちするネメシスに、ここ最近ずっと付きまとわれていた一誠はうんざりした顔だ。
「知り合いから聞いたが、お前には油断しない方が良いらしいな」
「モモ・ベリア・デビルークからの入れ知恵か? 私の下僕がお前に世話になったようだが……」
「チッ、やはり生きていたか、あのカス……。
あの趣味の悪い真似はテメーの差し金か?」
「さてな……? しかし、そうだと言ったらどうする?」
モモに警告された事もあるしメアの一件のせいで、何時も以上に刺々しい態度の一誠に、ネメシスはおどけてみせつつ、ちゃっかり弁当箱――というよりはバスケットを強奪する。
「む? これは以前も食べた事のある――確かサンドイッチとやつだな? どれどれ……」
「…………………誰がテメーに食えって言ったゴラ?」
「固いことを言うなよ? こっちは貴様の料理のせいで他の食い物が舌に合わなくなってしまったのだ。
ふむふむ……やはり腹が立つくらいに私の舌に合うぞ……」
「チッ……」
バスケットの中に入っていたサンドイッチをひとつ頬張り始めるネメシスに、『こんなガキにしか見えないのが本当に危険なのか? あの雌狐とそのメスガキの方が余程危険だろ……』と、元の世界の金髪を思い出しながら、無害にしか見えないネメシスを見る一誠。
「ところでお前、みたらし団子は作れるのか?」
「みたらし団子だ? そんなもん作った事なんざねーよ。つーかこっちの質問に答えろ、あのカスの悪趣味についてはテメーの差し金なのか?」
「いいや、お前に上手いこと接触して私では引き出せそうもない情報を引き出してみろと言っただけで、お前に
というか、お前は精神支配の類いは通用しないと思っていたからな」
「…………」
気づけば半分も食べてるネメシスの言葉に、一誠はジーッとムシャムシャしている姿を見つめる。
「む、なんだ?」
「チッ、いっそ命令していたと言えばテメーを粉々にしてやってたんだが……どうにもそんな気が起きねぇ。
アホらしいってな」
「金色の闇を暴走させたのは私なんだが?」
「あんな金髪が暴れようが知った事じゃねぇ。
……まあ、もしババァが巻き込まれたら全殺しにしてやってたが……」
「ヴェネラナ・グレモリーか。
あの女もただの地球人とは思えんが……。というか名前からしてどう考えてもお前達に血縁関係があるとは思えないぞ?」
「……………」
結局完食したばかりか、水筒のお茶まで図々しく飲み始めるネメシスは、誰もが思ったら突っ込んだら怖いことになりそうだったので誰も突っ込まなかったことを訊ねてみる。
「当たり前だろ、あのババァと俺に血の繋がりはねーし、そもそもあのババァにはちゃんと息子と娘と孫が居るんだ」
「孫? …………あの顔でか?」
「まぁな……。俺はただの他人だよ」
「なんだか、ますます気になってきたぞ」
気付けば内心一誠自身も驚く程度にネメシスと世間話をしている。
どうもヴェネラナをネメシスが意図的に避けてるせいで脅威には感じれないらしい。
それに、ヴェネラナとの関係性についてネメシスに何故かベラベラと喋ってしまっている自分に、一誠は内心驚いている。
「整理すると、お前とヴェネラナ・グレモリーは血の繋がらない親子で一応地球人。
お前は金髪を凄まじく苦手に思っていて、金色の闇も例外無しと……って、何故私はこんな割りとどうでも良いお前の情報に満足感を感じてしまっているのだろうか?」
「知るか」
この状況をモモに見られたら何故か怒られそうな気がしてきた。
はて? と首を傾げるネメシスに一誠はため息を溢すのであった。
そして―――
「やはり奴は金髪が嫌いらしいぞ? それとお前の事はカス呼ばわりしていたな」
「か、カス……」
「やはり
ふむ、お前はもう奴に近寄るのはやめた方がいい。
次お前の姿を見たら、今度は間髪いれずに殺す気満々だったからな?」
「そ、そんな他人事みたいに言わないでよ……」
呂律も何とか回復したメアは、どうでも良すぎる化け物地球人の情報をドヤ顔で語りつつの事実上の死刑宣告に、毎日ビクビクするはめになってしまったのだった。
ちなみに――
「ね、ネメシスと明け方に会っていたですって!? そ、それでネメシスは!?」
「俺が用意してた朝食を勝手に食ったら満足そうなツラして帰ったぞ」
「な、なるほど……! イッセーさんの朝食を――って、なんですかそのほのぼの一幕は!? 何時ものイッセーさんならボコボコにするでしょう!?」
「め、飯を強奪されるぐらいで実害が無いからさ……。
俺もさすがに実害が無い奴を問答無用で潰す気にはなれないし……」
「い、いやでも本当に危険なんですって! というか私の勘がそれ以上の危険信号をキャッチしてますし!」
「う、うーん……。もしババァに何かするってんなら今すぐにでもこの世から消すんだけど……」
双子の姉のナナと共に本日から彩南学園に編入することになったモモに普通に会ってたのがバレて怒られていた――というより美柑の手伝いで朝食の準備をしていた最中にうっかり口を滑らせてしまった。
それを聞いた美柑もついでにジト目になるし、リトは苦笑いだし、ララとナナは美味しそうにご飯を食べていた。
「イッセーさんってさ、意外と酷いよね?」
「ひ、酷い?」
「うん、ヴェネラナさんや御門さんな事でスイッチが入ったらワイルドになるくせに、入らない時はリトよりある意味で酷いと思う」
「俺関係なくね!?」
「そりゃあ結城君は俺の一億倍まともでいい奴だろ……。
確かに俺にはあんな逮捕案件な事故なんて起こせないし、起こしたくもねーけども」
「そ、その事には触れないでくださいよ!?」
「ちょっとリトは黙ってて、そうじゃないよイッセーさん……。
あーあ、リアスさん達の気持ちがよーくわかるなー……?」
「は、はぁ? 何でそこでリアス達なんだよ? 会ったこと無いだろ?」
「いえ、多分この事をお話すれば秒で彼女達と握手が出来る自信がありますよ?」
「なんじゃそら……? ホントわっかんねー……」
リアス達に始まり、異性の気持ちなんて欠片も考慮しないイッセーは、ジト目のモモと美柑にちょっとだけ小さくなるのだった。
終わり
校長がアレなので、ララと同じく14歳なのにあっさりと高校生になったモモとナナは瞬く間に男子の人気者になった。
「あの双子って確かまだ中学生くらいの年齢よね? 何故高校生に……?」
「この学校の校長がどうしようもないからだろ」
「………。非常識だわ」
そんな騒がしい状況に唯は頭を抱えるし、リトは更にトラブルを発生させるしと学校は余計騒がしくなっていく。
しかもその直後にあのネメシスまでも入り込み、何でか知らないけど生徒会を乗っ取って真・生徒会なんて訳のわからないものを発足したりと中々にカオスと化していく。
「メアは置いてきたぞ、この戦いにはついていけそうもないからな……」
「……」
「おい、わざわざお前に会いに来てやったのに無視するな」
そのお陰で余計目立ち始めて胃が大変な事になったり……。
「やめなさいネメシス! イッセーさんは人前で上手く話せないでストレスを溜めてしまうと具合が悪くなってしまうのよ!」
「ほほー? つまりそれがコイツの弱点という訳か……。
意外というか……あれ? では普通に会話が成立している私はそこら辺の連中よりはまともに認識されているのか?」
「アナタがしつこく日之影君につきまとったせいだわ!」
「な、何でアナタとは会話をするくせに私は相変わらず塵でも見るような目をされなくてはいけないのですか……!」
「………………」
「とんだ縁ができちゃったみたいね?」
「最悪の縁だこんなもん」
「まあまあ、ヴェネラナさんもイッセーにお友だちが出来て嬉しいと言っていたし、アナタ自身も前と比べて人前でテンパる事も少なくなってきたじゃない?」
「…………」
そして時は流れ――
「いーちゃん!! やっとおば様と戻ってきたと思えば、誰よこの子達は!?」
「………」
「お母様と行方不明になってやっと帰ってきたかと思えば……こんなに女の子を引っ掛けるなんて酷いわ!」
「そ、そうよ! あのモモとかいう子なんて、私の胸を見た途端鼻で笑ったのよ!? 失礼じゃない!!」
「兄さま……僕よりあの美柑って子のほうが良いの?」
「そ、そんな……イッセー先輩がツンデレ好きだったなんて……!」
「しかも私に色々とキャラが被る人間と仲良くなるなんて……!」
「………………………………………」
なんて事になる日が……来るかもしれない。
「ず、ずるいですよ! 胸も背も自在に大きくできるなんて!? 縁を切った私の姉に肌の色以外被ってるし!」
「知るか。それにお前の姉がどんなのかは知らんし興味も無いが、お前より深かーい所までアイツとはイッてるから心配するな?」
「イ、イッてる!? イッてるってなに!?」
「さぁ……教えたくないから教えんよ? クックックッ!」
「……。何故私は嫌がられてるのにアナタはそこまで嫌がられていないのでしょうかねぇ?」
「さぁ? 押しが足りないでは? おーっほっほっほっ!」
終了
補足
メアさんは犠牲になったのだ……。
サイコダイブという特殊能力の犠牲にな……。
その2
きっと無神臓の余波を軽く浴びたせいでお手軽にネメちんは復活できたんでしょうね……。
その3
そんなネメちんを単なるお魚咥えるどら猫認識していて、どうもスイッチが入らない模様。
何せ来ては飯を集って、ドヤァするだけだから力がどうしても抜けるらしい。
その4
セラさん筆頭にこの状況の執事知ったら大騒ぎしそうだよね……。