色々なIF集   作:超人類DX

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執事とママンがToloveる世界に飛ばされたという、前のネタのボツにした小話。


―――無駄に長いだけで放置したのだ。


執事と憑依と
執事イッセーのとらぶるな憂鬱


 ある出来事を切っ掛けに、悪魔のヴェネラナ・グレモリーと共に完全なパラレルワールドに迷い込んでしまった、シトリー家執事長兼、グレモリー家副使用人長の日之影一誠は、最悪自分は無理でもヴェネラナだけは元の世界に帰そうと、この世界にて衣食住の世話となっている宇宙の医者こと御門涼子の情報や伝を使いながら模索するが、今現在帰れる目処は無い。

 

 この世界がある意味で平和な世界かつ平和な地球であるので、ヴェネラナの身の安全についてはそれほど神経質になる必要は無いにせよ、何時までもこの世界に居座る訳にはいかないと思う訳で。

 

 様々な宇宙人や人間達と知り合っていく一誠は今日も異界の地で燕尾服に袖を通すのだ。

 

 

 

 

 

 さて、そんな執事こと日之影一誠は、本来の兵藤一誠とは真逆のコミュ障である。

 どれくらいコミュ障かというと、基本的に他人の前では上手く喋れないし、下手をすればリアルに胃に穴を開けて吐血する程度である。

 

 それは長年悪魔達の執事をしていても直らなかったし、異世界であるこの地でも当然直るわけも無かった。

 

 まあ、自分を一誠兄さまなんて呼びながら慕ってくるミリキャス・グレモリー(♀)のお陰で、子供と認識している者にたいしてはある程度のコミュニケーションは可能らしく、現に宇宙人経由でそこそこ話せる間柄になった結城リトの小学生の妹である結城美柑辺りとは料理や家事なんかを教えていく内にそこそこ仲が良くなってはいる――――ミリキャスが見たら泣きながら美柑にズルいと言いそうな程度には。

 

 他には、ビックリテクノロジーのアイテムを作れる――当初元の時代に戻れるキーマンとして見ていたデビルーク星人のララの妹の片割れも、気付いたらなんか話ができるようになった。

 

 別の世界では嫌悪通り越して殺意すら抱く程度には毛嫌いしていたのに、この世界では談笑くらいは出来るのは、『タイミングとファーストコンタクト』に失敗しなかったせいだろう。

 その少女の名はモモというのだが……本日の日之影一誠の小話は、ヴェネラナや涼子、それから美柑やももいった者達の不器用なコミュニケーションではなく、実は一方的ながらも一誠のコミュ障気質の形成する壁をぶち壊して来ようとする者達との――珍騒動である。

 

 

 

 

 

 

 古手川唯にとって、結城リトとララは心底なトラブルメーカーであるので常に彼等の同行には真面目気質故に目を光らせている。

 

 だがそれ以上に唯がその動向を常に見張っているのが、二度も留年していて自分と同学年の学生として彩南学園に通う、無口・無表情・無愛想の三拍子が服着て歩いているような男子こと日之影一誠である。

 

 

(……。今日の日之影君は顔色も良さそうね……)

 

「……………」

 

 

 自分の座る席から離れた窓際の席に座って、休み時間であろうが誰とも会話することなく、次の授業の教科書を読んでいる一誠の顔色を見て具合の判断をしている唯は、人知れずホッとする。

 

 何故唯が一誠の具合を一々見ているのかといえば、それは彼女が初めて一誠と目の前で向かい合った日に、目の前で真っ青な顔で吐血するのをバッチリ見てしまったからなのだ。

 

 事前の情報では日之影一誠とは、不良過ぎて塀の中にお世話になったせいで留年してしまった筋金入りのアウトローであると聞いていて、規律を重んじる性格の唯としては何としてでも一誠に問題を起こさせないさせるのだと燃えていた。

 

 が、目の前で血を吐かれた挙げ句、血走った眼で『誰かに言ったら山奥に埋める』的な脅しをされてしまい、加えて普段は決して血を吐くほどの重病人ではないと振る舞いながら、本当に彼は手の付けようのない不良だったのかと疑いたくなるほどの模範生徒をしていた。

 

 なので唯は思ったのだ。

 きっと不良になったのは、血を吐くほどの病気であるからゆえに人生を投げてしまって自暴自棄になってしまったのだと。

 

 それからの唯はといえば、一誠の具合を密かに伺いつつ、身体に良さそうな漢方薬なんかの情報を調べてはこっそり一誠にプレゼントするようになった。

 

 ……誤解の無いように説明しておくと、一誠は別に病気ではないし、吐血したのも胃に穴が開いたからであって、数時間後には普通に治っている程度の馬鹿げた再生能力がある。

 

 しかし唯はそれを当たり前だが知らないし、信じる訳もない。

 なので、気づけば一誠は常に唯に見張られてしまっており、正直鬱陶しいことこの上なかった。

 

 

「あ、また唯がイッセーを見てる」

 

「先輩曰く、誤解だと説明しても信じて貰えなかったんだってよ……」

 

 

 そんな唯の隠れた伺い方については、一誠は勿論のこと、ララやリトといった者達にも普通にバレバレであったが、誰もからかうことはしなかった。

 

 こう……微笑ましそうな感じでは見守ってはいるが。

 

 

(あ、日之影君がノートをとっているわ。

ちゃんとまとめられているのかしら?)

 

(チッ、何時まで見てやがる、あの堅物女は……)

 

 

 元来優しいからこその心配なのだが、一誠にとっては無言のプレッシャーでしかないという、哀しきすれ違いがそこにはあった。

 

 

 さて、そんな何時もの学園生活を割りと真面目に送ってはいる日之影一誠と愉快なクラスは本日イベントが発生していた。

 

 

「では……女子が先に席の番号が書かれたクジを引いてください……」

 

 

 転んだらそのまま昇天しそうな担任の骨皮先生が説明した通り、本日席替えを行う事になった。

 思春期の男子――というか、言ってしまえば本来の人生を歩んだ一誠のような性格をした者が数多く在籍するこのクラスの男子達は、気になるあの子と是非隣同士に――なんて念じながらクジを引いていく。

 

 その中には中学時代から片想いをしている西蓮寺春菜と隣に――と、念じているリトが居たりする中、一誠は正味誰とも隣にはなりなくないので無表情でクジを引いていく。

 

 

「では次は女子の皆さん……」

 

 

 男子が引き終わり、今度は女子がクジを引く。

 無論、殆どの男子が気になるのはララが引いた番号である。

 そんな中、ちょうど春菜の後にクジを引く事になった唯は、ふと窓の外をボケーっとした顔で眺めている一誠の引いた番号がなんとなく気になった。

 

 

(日之影君は何番なのかしら? 出来ることなら彼の隣だったら――って、これはあくまで日之影君が悪さをしないように見張る為に思っている事であって他意は無いわ!)

 

「……? 古手川さん? アナタの番ですよ?」

 

「はぇ!? あ、は、はい!」

 

 

 一人頭の中で言い訳に没頭し過ぎてしまった唯は、思わず変な声を出しながら咄嗟にクジを引く。

 そして運命の席順の公開になる。

 

 

「えっと、8番……」

 

「あー! 私も8番だよ! リトと一緒だ」

 

「そ、そうか……。(は、春菜ちゃんじゃなかったか……。ま、まあ席自体は前より近くなったし……)」

 

 

 まずリトは案の定ララと席が隣同士だったらしく、喜んだララに飛び付かれ、それを見た男子達から睨まれていた。

 こんな調子で次々と席が決まっていく中……。

 

 

「きゅ、9番……うっぷ……!」

 

 

 一誠はちょうどリトの真後ろの席となる。

 人前で声を出すのすら緊張して吐きそうになるその顔色は既に青い。

 

 

「あ、イッセー先輩が後ろっすね」

 

「あ、ああ……そう、だな……」

 

「やっぱり慣れないんすね……」

 

「大丈夫イッセー?」

 

「だ、大丈夫だ……五分もすれば治る……うっぷ」

 

 

 今にもリバースしそうな顔の一誠にリトは苦笑いを浮かべつつララと一緒になって背中をさすってあげる。

 

 

(具合が悪そうだけど大丈夫かしら……?)

 

 

 そんな一誠の様子を見て心配になった唯が見ながら、ふと持っていた自分のクジの番号を見て……。

 

 

「女子で9番の方はいますか?」

 

「…………………」

 

 

 その書かれた数字を見て、目をぱちくりとさせる。

 9と書かれたそのクジを……。

 

 

「おかしいですね……9番の方は――」

 

「わ、私です! 私が9番です!!」

 

 

 まさか自分が一誠の隣の席になるとは思わなかった驚きもあって、珍しく変なテンションになって手を挙げる唯に、周りは驚いている。

 

 

「あ、イッセー先輩、古手川みたいっすよ? 隣の席………」

 

「げ……嘘だろ……」

 

 

 そんな唯のテンションを横目に、蹲っている一誠にリトが教えてあげると、少し落ち着いた顔色に戻った一誠が、あからさまに嫌そうな声を出す。

 

 

「な、なによその顔は!? い、嫌なの!?」

 

 

 どうやら唯にバッチリと聞かれてしまったらしく、ぷんすかと怒りながら一誠に詰め寄り始める。

 

 

「お、落ち着けって古手川!」

 

「落ち着けですって!? これが落ち着いていられる訳――」

 

「…………………ハァ」

 

「あ! い、今ため息を吐いたわ! なによ! そんなに私が嫌いならもっとハッキリ……」

 

「別に嫌いじゃねーよ……。

テンションがおかしいキミがよくわかんないだけだよ……ハァ」

 

「ひ、人の気も知らないで……! 頭に来たわ! この私が隣の席になったからには、もっとアナタを監視するわ! 妥協なんてしないで!」

 

「………………………………………このガ――」

 

「先輩、古手川にハッキリ言うのは多分逆効果っす……」

 

「唯は元気だねー?」

 

 

 リトが後ろから唯には聞こえないように一誠にアドバイスをするも、別の意味で張り切ってしまった唯は止まりそうもなく、一誠のテンションは更に下がるのであった。 

 

 

 こうして授業中だろうが、なんだろうが監視をバシバシしてくるようになった唯をかなりウザいと思いつつ、学生生活を送るようになった一誠。

 

 

「日之影君、この字の書き順が違うわ」

 

「日之影君、このノートのまとめ方では後でわからなくなるわよ?」

 

「日之影君、頬杖はよくないわ」

 

「日之影君、舌打ちはしないで」

 

「あのね日之影君? そんな怖い顔をして睨んでも私は怖くなんてないわよ?」

 

「ぅ……ひ、日之影……君? な、なんでそんなに私を見るのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………」

 

「先輩、そういえばどうしてあんなに古手川に目を付けられてるんですか?」

 

「誤解されたままな事があってな……」

 

「でも最近の唯はとても楽しそうだよ?」

 

「ヴェネラナのババァまでとは言わないが、ああいうタイプは苦手なんだよ俺は……」

 

 

 そして数日が経過し、ストレスとまではいかないがやめては欲しいと思う一誠は、唯が席を外している隙に机に突っ伏し、微妙に同情しているリトと、同性故か唯から何かを感じとっているララと話をしている。

 

 

「あ、あのー……ララさんの言う通り、確かに最近の古手川さんは前よりキツい言い方をしなくなったと思う……」

 

「そうそう、確か日之影の事をガン見するようになってからだわ」

 

「ある意味防波堤になってくれて助かるよ?」

 

「……………」

 

 

 すぐ近くで聞いていた春菜達も会話に加わり、最近の唯は前よりツンツしなくなったと言うが、その違いなんて一誠にはわからないし、何の慰めにもならない。

 

 

「逆に聞くけど、日之影はどう思ってる訳?」

 

「ただの小うるさいクラスメート」

 

「そうじゃなくてさぁ……これ、あくまでも勘だけど、古手川さんって単に日之影を監視するためにとやかく言ってるだけじゃないと思うんだよねー?」

 

「つまりなんだ?」

 

「いやだから、ひょっとして日之影の事が――あ……」

 

「あ?」

 

 

 急に黙る春菜の友人二人の視線につられて後ろを見ると、唯がそこに居る。

 

 

「…………」

 

「チッ、もう戻ってきやがったか……」

 

 

 まずい、聞かれていたか? と思って身構えるが、唯は黙って席に座るだけだったのでホッとし、一誠は小さく舌打ちをする。

 結局誰にも人の胸の内はわからないものなのである。

 

 

(な、何をバカな……。べ、別に日之影君の事なんてどうとも思ってないわ! ぜ、絶対によ!)

 

 

 まあ、聞いてしまって実はテンパってたのは秘密なのだ。

 

 

(無いわ、あり得ないわ! 私が日之影君を……!? ぜ、絶対無いわ!)

 

 

 しかし動揺というか、変な意識をさせるには十分だったらしく、これ以降は寧ろ一誠が怪しむ程に煩くなくなった唯は、一人ひたすらモヤつきながら帰宅する。

 

 当然ながら放課後のチャイムと共にさっさと一誠は帰ってしまった訳だが、今日に関しては却って助かった感が唯の中では否めない。

 

 

(籾岡さん達が変な事を言うからだわ! きっと一時的なもので、明日になれば何時も通り――)

 

 

 きっと一時的な混乱だと自分の中でなんとか整理をつけようとする唯は、今日は早く家に帰ろうと歩くペースを早めようとしたその時だった。

 

 

「え、ひ、日之影君……?」

 

 

 タイミングが良いのか悪いのか。

 丁度帰宅する為に通る住宅街を歩いていた唯は、向こうからいつぞや廊下を走っていた時を彷彿とさせる物凄い速度で走ってくる……燕尾服を着た一誠を発見する。

 

 

(え、う、嘘……? 日之影君の事を考えていたら本当に日之影君と会うなんて……)

 

 

 これではまたしてもしなくても良い意識をしてしまうではないかと、唯は近づいてくる一誠にアタフタしていると、一誠も唯に気付いたのか、目の前に停止する。

 

 

「……なんだキミか。

学校の制服だから、あのドリル金髪の下僕女かと……」

 

 

 どうやら別の人と勘違いしていたらしく、珍しく唯だと認識するとホッとした顔の一誠。

 

 

「え、ええっと、まずは何故そんなに急いで走っているのかしら?」

 

 

 燕尾服を着た一誠の事は実は何度か見たことがあるので、別に驚かないが、燕尾服姿の一誠を見ているとちょっとだけドキドキするのは内緒である。

 

 

「ああ、夕飯の買い出しをしていたら、あの金持ち金髪が現れて、夕飯に招待するから車に乗れと抜かしてきてな。

それを断ったら追いかけまわしてきやがった……」

 

「天条院先輩ね……?」

 

「そうだよ。

クソが、なんで金髪の女ってのはどれもこれも人の話を聞かねーんだ……?」

 

「それは単なる偏見よ、天条院先輩がかなり変わっているだけで……」

 

 

 こうして見るととても重病人とは思えないが、普段はそれを隠しているのだと勘違いしたままの唯は、燕尾服の襟を直す一誠の愚痴に気付けば付き合っていた。

 

 

「ハァ……別の店で買い物しないとな」

 

「大丈夫なの? 結構走っていたけど、身体の方は……?」

 

「あ? あのな、キミはずっと勘違いしているようだから言っておくが、俺は――」

 

 

 当然、直前まで猛ダッシュしていた一誠な体調が心配になる唯に一誠はずっとされっぱなしの誤解を解こうと今一度説明しようとした時だったか……。

 

 

「一誠?」

 

 

 一誠を呼ぶ女性の声が背後から聞こえ、唯と一緒に振り向くとそこには長い亜麻色の髪を持った、人外めいた美貌の女性―――つまりヴェネラナがタートルネックのセーターとロングスカートという出で立ちで立っていた。

 

 

「あ、日之影君のお母様……」

 

「あら、アナタはそう、確か古手川唯さんでしたね?」

 

 

 一誠の母――というにはあまりにも若いし美人のヴェネラナにやや緊張気味に挨拶をする唯。

 それに対してヴェネラナも以前会ったこともあるしわある意味で覚えている唯に挨拶を返す。

 

 

「一誠とは仲良くして頂けている様で……」

 

「い、いえいえ! こちらこそお世話になっておりますです!」

 

「………………。なんでババァがここに居るんだよ?」

 

 

 何をテンパっているんだよ? と唯を横目に、ヴェネラナに訊ねる一誠。

 

 

「ちょっとしたお散歩よ。

ほら、この前モモちゃんのお母さんとちょっとした喧嘩をしてしまったじゃない? その時少し運動不足気味だと思ってね」

 

「ああ……」

 

「け、喧嘩……?」

 

 

 納得したような顔の一誠と、ヴェネラナの出で立ちからして喧嘩という単語とは無縁なイメージだったので驚く唯。

 一体何があったのかと微妙に気になる所ではあるが、クラスメートの母親にまでやかましく言う程唯は図々しくは無かった。

 

 

「今帰るの?」

 

「まあ……ちょっとしたトラブルがあったが」

 

「そう、古手川さんは?」

 

「あ、いえ、私は偶然日之影君とここで会っただけで、私もそのまま家に帰ろうかと……」

 

「あらそうなの? てっきりデートでもしているのかと……」

 

「んなっ!? デ、デデッ、デート!?!?」

 

「んな訳あるかよ……」

 

「そうかしら? アナタが学校のお話をする時は決まって彼女の事ばかりじゃないの?」

 

「わ、私の事!?」

 

「そりゃあババァが聞いてくるからだし、それしかネタがねーからだよ……」

 

 

 横でビックリ人形みたいな反応の唯から目を逸らす一誠。

 本人が聞いたら切れそうな事ばかりヴェネラナとか涼子に言いまくってたので、微妙に罪悪感があるのだ。

 

 

「あ、あの! 日之影君は一体私についてなんと……?」

 

「! お、おいババァ! 絶対に――」

 

「ふふ、一々小うるさいし、一々お節介だし、何を考えてるのか全然わからない子……って言ってますよ?」

 

「……………………。日之影君っ!?」

 

「だ、だって事実だろうが!

オメーは気が一々強いし、第一俺の性格知ったら近寄ろうなんて普通なら思わねーだろ!? 意味わかんないんだよ!」

 

「あ、アナタが口下手で何時も近寄るなオーラばっかり出すからでしょうが! 私だって別に――」

 

「そうそう、その気の強さは大したものだって誉めていましたね。

ふふふ……この子は気の強い女性がタイプですからねぇ?」

 

「へ……?」

 

「ちげーよババァ! 勝手な事言ってんじゃねーよ!!」

 

 

 思いきり強く否定する一誠だが、何時もの一誠の否定の仕方と違って、ムキになってる感が強いせいで、逆にヴェネラナの言葉の方に信憑性があると、それまでの怒りが一気に失せてしまう唯。

 

 

「え、あの……気が強い人がタイプなのですか?」

 

「ウチの娘達が総じてそうなのですが……ふふ、アナタは気の強さだけならそれ以上ですよ? 多分一誠の素を一番引き出せているのではないでしょうか?」

 

「そ、そうなんです、か……」

 

「……チッ」

 

 

 不貞腐れたようにそっぽを向く一誠のそれ以上否定しない態度に、唯はちょっとだけ嬉しい気分になる。

 

 

「これからも一誠をよろしくね? あぁ、先に言っておくと、この子――――案外モテるわよ?」

 

「い、いえ別に私は……」

 

「ケッ!」

 

 

 色々と改めて一誠の事を知った唯。

 そしてヴェネラナの一声により家の前まで一誠に送って貰う事になった。

 

 

「ハァ……」

 

「あ、あの……ごめんなさい、わざわざ……」

 

「別に。

暗くなってきていたし、一般人のキミ一人で帰るのも心もとないだろうからな……」

 

「一般人って……。

前々から思っていたけど、日之影君ってもしかしてララさんのような宇宙人……?」

 

「違う。俺とババァは間違いなく地球人だよ……間違いなくな」

 

「そ、そうなの……? たまに日之影君が体育の時のララさんみたいな信じられない動きをするみたいだけど……」

 

「それ見てるくせに、俺がマジで病人だと思ってるキミって……」

 

「え、でも病気とその非常識な身体能力は関係ないじゃない? 今日だって顔色が突然悪くなっていたみたいだし……」

 

「……もう良いやそれで」

 

 

 思いの外軽快なトークが成立していることに内心唯は驚きながらも、学校に居るときとは違った素の一誠の横顔を見る。

 

 

(あの執事服というのかしら? それを着ているせいなのか、雰囲気が違うわ……。

こう、キリッとしているように見えると言うか、ちょっとカッコ良――じゃ、じゃなくて! ま、真面目に見えるというか……)

 

「…………」

 

 

 普段とは違う一誠の面を改めて見てそんな感想を抱くのと同時に、やはりどう考えてもグレて少年院に入れられた過去があるとは思えなかった。

 というかそんな男が執事の服なんて着ないし、料理の腕があんなに良いとも思えない。

 

 家庭科実習の時なんか、唯を含めた女子達のプライドを粉砕した程度には一誠の料理の腕はプロ並なのだ。

 

 

「日之影君ってその燕尾服を着ているけど、執事なの?」

 

「今はババァと一緒に御門の家に厄介になってるから実情御門のそれって解釈で良い」

 

「そ、そうなの……」

 

 

 ふと思えば、自分は殆ど一誠の事を知らず返ってくる答えも初めて聞くようなものばかりだ。

 改めて自分は一誠を何も知らないのだと思いながら、徐々に近づく自分の家までの道を――よくよく確認すると自分の歩幅に合わせて歩いてくれているのだと気付きながら歩いていると――

 

 

「日之影さん!! やっと見付けましたわよ!!」

 

「!?」

 

「なっ!? て、天条院先輩だわ!」

 

 

 お高そうな目の前に車が横向きに道を塞ぐように止まり、中から金髪の縦巻きというステレオ全開な髪をした少女が勢いよく現れた。

 それは一誠が無関心な金色のヤミなんか寧ろ無害なだけマシに思える程に苦手な天条院沙姫であった。

 

 

「今日こそ日之影さんのお母様も交えた食事会をしましょう! さ、どうぜお乗りに……!」

 

「「…………」」

 

「ふ、ふざけろクソアマ……! しつこいんだよボケが!」

 

(あ、ああ……これは本当に苦手なのね彼女が……)

 

 

 直ぐ様盾にするように唯の背中に隠れた一誠は、キラキラした眼差しの沙姫に向かって暴言を吐いて追い払おうとする。

 その時点で沙姫を崇拝しているお供女子二人が、今にも刺し殺してやりたそうな眼で一誠を見ていることを含めて、唯は一誠がこの沙姫を真面目に苦手にしているのだと改めて悟る。

 

 

「そんな事をおっしゃらずに……! 日之影さんはきっと私を誤解していますわ! ですからゆっくりお話を――」

 

「だ、黙れ! その喋り口調からなにからあの焼き鳥族の女を思い起こすから嫌なんだよ!」

 

(焼き鳥族……? 誰かしら?)

 

「日之影さんのお母様が仰っておりました、レイヴェル・フェニックスなる女と私は違いますわ!!」

 

「なっ!? あ、あのババァ! また余計な事を……!」

 

 

 唯を軸にグルグルと追いかけっこをする沙姫と一誠。

 焼き鳥族とは、どうやらレイヴェル・フェニックスなる名前らしいが、多分女なのは唯もわかったし、ヴェネラナの言う通り、確かに一誠は意外とリトみたいにモテるらしい……。

 

 と、そろそろ二人に怒ろうかと思っていた唯は一誠の行動に固まる事になる。

 

 

「チッ……!」

 

「キャア!? ひ、日之影君!?」

 

 

 何と突然一誠が唯を横抱きに抱え始めたのだ。

 これには唯もビックリだし、沙姫はそういえば何気に二人で歩いていたであろう唯を悔しげに睨む。

 

 

「アナタは、日之影さんのクラスメートの小うるさい方……! 何故日之影さんにそのような羨ましい抱えられ方を……!」

 

「し、知りませんよ!? 日之影君が突然……!」

 

 

 ぐぬぬ…! と唸る沙姫に、抱えられた状態でアタフタする唯だったが、突然一誠が――最早人間ではない跳躍力で空へと跳んだせいで最後まで言えなかった。

 

 

「ひっ!? な、何事!? な、なんで空に飛んでるのよ!?」

 

「仕方ないだろ……ああでもしないと何時までも引き下がる気配が無かったんだ。

それに、一応キミを家の前まで送るって仕事もあったし……」

 

「だ、だからってこんな非常識な…………………あ、で、でも綺麗な景色……」

 

「舌噛むなよ……?」

 

 

 スーパーマンみたいなジャンプに巻き込まれて当初はパニックになった唯だが、家やビルを見下ろせる景色を一誠に抱えられながら見ることで、そのパニックもすぐに落ち着き、暫く限定的な空の旅を体験した。

 

 

「んで、キミの家はどこら辺?」

 

「あ、え、えーっと……あそこら辺よ」

 

 

 しかしそんな旅も長くは続かず、一誠に聞かれるがままに答えた唯は、そのまま自宅のすぐ近くに着地し、下ろして貰う。

 

 

「ここだわ……え、えっとその……ありがとう」

 

「ん」

 

 

 そしてそのまま普通に歩くよりも遥かに早く家に到着し、辿々しくお礼を言う。

 それに対して一誠は短く返事をすると、そのまま帰ろうと背を向けて歩き出す。

 

 

「ひ、日之影君!」

 

 

 そのまま見送るべきか迷った唯だが、無意識に呼び止めると、一誠は立ち止まり、肩越しに軽く振り向く。

 

 そんな一誠に唯は10秒ほど声が出ずにちょっとした間が空いてしまったが、小さな深呼吸をした後に言った。

 

 

「また明日学校で……遅刻してはダメよ?」

 

 

 実に唯らしい別れの挨拶に、一誠は小さく笑う。

 

 

「な、なによ?」

 

「ホント……ブレないというか気が強いなキミは」

 

「わ、悪かったわね。どうせ可愛げなんて無いわよ……」

 

「いや……大した根性だよ、ここまで来ると」

 

 

 目をつけられてから今まで本当に小うるさかった。

 が、ここまで来ると最早別の意味で尊敬すら覚えてくると一誠は小さく笑い、手を軽く振る。

 

 

「ああ、また明日もキミの小言を聞く事にするよ――じゃあな古手川?」

 

「ぁ……」

 

 

 初めて唯を苗字で呼んだ一誠は、そのまま去っていく。

 そして呼ばれた唯はそんな去っていく一誠の背中を見えなくなるまでずっと見ていた……。

 

 

「キミとかお前とかじゃなくて初めて呼ばれた……苗字だけど……。それに……笑ってた……」

 

 

 彼のその小さな笑みを心の奥底に刻みながら……。

 

 

終わり

 

 

 

 




補足
時系列は割りと滅茶苦茶だったり。


その2
執事を封殺させられる条件。

子供か死ぬほど気の強い方。

もしくはママン


その3
逆に金髪キャラはマジで苦手です。

逃げる程度には苦手です。

ヤミさんですら未だに名前も通り名も覚える気ゼロ。


その4
古手川さん、気が強い上に一誠に一切ビビらない胆力の持ち主。

そしてガン見し過ぎてクラスの皆にバレバレという可愛げもある。

………多分強い。

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