コンセプト、歴代最弱で終わっている赤龍帝と――」
歴代の宿主の中には、確かに外れと呼べる宿主は居た。
だがその外れの中でも今回の宿主は、自身が外れだと思っていた宿主達に可能だったら土下座でもして誠心誠意謝罪をしてあげたくなる程に――終わっていた。
何故なら、その宿主は外れ以前に人間として終わっている。
笑えぬ不幸や事故に遭遇し、理不尽な不運に見舞われるという体質も当初は人間らしく絶望していた。
しかしそれはやがて宿主自身を決定的に『割りきらせて』しまった事が終わりを悟らせた。
どんな不幸にあっても。
どんな理不尽な暴力に晒されても。
どんなありえぬ事故に遭遇しようとも、終わっている宿主の少年は不気味にヘラヘラと笑って受け止めてしまうようになったのだ。
状況を改善する気はまるでなし。
そして己の不幸を他人にまで伝染――引きずり込む性質。
人の世界生みだした欠陥人間……それが赤い龍の見た今回の宿主たるイッセーと呼ばれし少年だった。
この分では対であり、宿敵である白い龍との宿主を介した戦いは考えるまでもなく負けるであろう。
そう悟った龍はむしろこの少年が早死にすることを望み始めた。
そうなれば別の人間に宿る事ができるから。
当然力は貸さないし声なんて聞かせもしない訳で。
だが赤い龍は別の意味で絶望することになる。
笑いながらすべての不運を受け止め、そして逃避してきた少年が、出会ってしまったのだ。
人の世が生み出した欠陥人間である少年と、おぞましくも同等の……。
――悪魔の世が生み出してしまった欠陥悪魔の少女と――
その出会いのせいで、宿主の少年の
互いの欠陥を補い合い、より終わっている結果を作り上げるという形で。
故に不運や不幸に遭遇しやすい癖に、ゴキブリを思わせる生命力と歪なナニかによって生き永らえてしまう少年に、赤い龍は密かに絶望をするのだった。
兵藤一誠は生まれてこのかた、勝負というものに勝った事がなかった。
何をしても負ける。
どう足掻いても負ける。
そして日課のように理不尽な目に遇わされる。
例えば拾った財布が怖いおじさん達のお財布で、拾っただけなのにスリをしたと言われて山に埋められたり。
道を歩いていたら大型トレーラーに体当たりされてしまったり。
ちょっと素敵だなと思ったクラスの女の子に勇気を出して声をかけたら、悲鳴を上げられた挙げ句石を投げつけられしまったり。
後日その女の子かクラス中に言ったせいで、男子達に虐められるはめになったり等々……。
もはやそんな星の下に生まれてしまったとしか思えない程の終わっている少年は、そんな理不尽な不幸を受け入れた上でヘラヘラと笑いながらしぶとく生きてやる――という、微妙に前向きだけど周りからしたら嫌悪にしかならない意思で生きてきた。
そして成長し、思春期らしく女の子に興味がでてくるお年頃になってきた高校入学の春。
少年は運命と出会った。
「あ、ごめんなさい――」
「いえ、こちらこそ――」
普通の生物なら吐き気と嫌悪を催す――されど少年にとってはとても綺麗で、魅力的な目をしたひとつ年上の先輩と。
「「……あ」」
それはどうやら相手も同じだったようで、生まれてこの方肉親や同族にすら自分と同じ存在は居なかったと思っていた少女に歓喜を与えるほどの――おぞましくて素敵な新入生の男子だとすぐに思った。
「お、お名前は?」
「兵藤一誠です……! え、えっと、貴女は?」
「支取――いえ、ソーナ・シトリーです。そ、その――」
「あ、あの――」
「「と、友達になってください!!」」
早い話が、容姿云々吹っ飛ばして、互いが互いに一目惚れをしたのだ。
その
これが出会いであり、始まりであった。
支取蒼那……と、人間界の学校で学生をしている間は名乗るようにしていたソーナ・シトリーは早い話が悪魔である。
だがソーナは生まれながらにして悪魔としては説明不能な欠陥があった。
その欠陥が何なのかは誰にもわからないが、とにかく肉親や同族達は彼女を欠陥と揶揄するのだ。
そんな言われ方を幼い頃さらされてくれば、普通に心に傷を負い、暗い少女になってしまう筈なのだが、生憎彼女は変な所で無駄に前向きならぬ後ろ向きだった。
簡単な話、己の欠陥を受け入れた上で一切の制御をせず、全くもって自分に正直に生きてきたのだ。
そのせいか、彼女は適正年齢に達していても眷属を持つことを許されなかったまま、お隣のグレモリーさんの所の娘さんと違って常に日影を這い寄るような生活をしてきた。
この人間界の学校に通っているのも、ほぼほぼ厄介払いのようなものであり、一応支援こそ実家からはされているが、同じくこの学校に通うグレモリーさんの所の娘さんみたいに眷属共々人間達に持て囃されている事も無く、寧ろ気味悪がられている。
だから……だからこそ、廊下の角で軽くぶつかったのが最初の出会いとなる彼を見た瞬間、ソーナ・シトリーは彼に惚れた。
何故なら同族や多くの人間達にすら存在しなかった『自分と同等に退化した存在』と会えたから。
そしてなにより、彼の放つ雰囲気はソーナの好みど真ん中だった。
生まれて初めてともいえる幸運な事に、どうやら彼の方も自分に一目惚れをしてくれたらしい。
つまるところ、ソーナ・シトリーは今現在、死ぬほど不幸に幸せである。
「授業中に前の席の人が消ゴムを落としたのを見て拾ってあげたら、まさかの顔面に一発貰っちゃったんですよー」
「仕方ないわ、きっとありがた迷惑だったのよ」
そんなイッセーとソーナは、其々が二学年と三学年に進級した現在、こうして旧校舎の一教室で毎日堂々と逢い引きしてはイチャイチャとしていた。
この旧校舎はソーナの知り合いで同じように悪魔のリアス・グレモリーがオカルト研究部の部室として使っていたりするのだが、ソーナが直でそのリアスと交渉した結果、使ってない教室だった場所をひとつ貰える事になったらしい。
「殴られた時に当たりどころが悪くて、目が潰れちゃいましてね? 取り敢えず痛かったから殴ってきたその人に『目が痛いんだけど』って傷口見せたらその場で吐いて大騒ぎになっちゃいましてね? いやー、余計な親切なんてするもんじゃないなって改めて思いました」
「それは大変だったわね? ふふ、ほらおいで? 慰めてあげるから」
「わーい、だからセンパイの事好きなんですよ俺!」
わざわざこんな所で会わずとも、最早出会ってから今まで学校だろうが放課後だろうが常に一緒に居るのだが、本人達曰く、雰囲気とシチュエーションにこだわりたくなるお年頃とのことらしい。
だから笑いながら両手を広げるソーナと抱き合うのも何時も通りらしい。
自分を見て驚いた顔をする名前なんて覚える気もない男子生徒が、イッセーとイチャイチャするのを邪魔された事もあったけど、『永遠に死に続ける終わりのない終わり』にしてやったこともあったらしい。
逆にイッセーを見て何故か驚く女子生徒、ソーナとイチャイチャしてる姿を見て嫉妬か何かでソーナに変な力で殺そうとした時は、イッセーが勝てはしなかったもののその女子生徒の『現実』のひとつを否定して二度と近寄れなくしてやったこともあったらしい。
「私も大好きよイッセー
アナタは誰にも渡さないわ……赤龍帝だからなんて関係ないし、アナタは誰にも渡さないわ」
「あはは……そんな事言ってくれるのはセンパイだけだよ」
互いの欠陥を補い合い、相手を引きずり込む。
それが出会ってしまった二人のマイナスの最悪な性質であり、離れることのない繋がりだった。
誰にも切れない……。
「………。抱き合ってます」
「や、やっぱり? そうよね……この前なんてキスしてたし……」
そんなマイナスの別に張っているつもりな無い蜘蛛の巣に引っ掛かる『素養』持ちの者達がもしかしたら居るのかもしれないが、二人は何時もの通りイチャイチャやるのだ。
補足
ドライグ、絶望。
話にならない上に無駄にポジティブに加えたソーたんのせいで余計死ぬ気配がしないから。
その2
ソーたん。幼い頃からこれだから最初からフルスロットルに加えて、自分達に変な真似をする相手を無限ループに叩き込む。
その3
原点とは違い、もしかしたら受け入れられなかった者達が……えーっと、ある意味救われる可能性はなきにしもあらず――みたいになる。