色々なIF集   作:超人類DX

676 / 1034
このまんま、誰の障害も無く互いに切磋琢磨していけばこうなると思いたい……的な話


とある日のペア

 昔、ただの堕天使であった頃。

 

 戦う事。殺し合う事。命の削り合う事を何よりも愛した堕天使は知った。

 

 本当の超越者――人外の領域を。

 

 どれだけ手を伸ばそうとも、触れさえも出来ない領域は、堕天使に対して徹底的な挫折と絶望を与えた。

 

 だが、それで終わる彼では無かった。

 

 屈辱と挫折を知り、糧とする事を覚悟した事が、恐らくは彼の岐路であったのかもしれない。

 

 今はきっと届かないのかもしれないが、必ずその領域に突入し、いつの日か確実に踏み越えてやる。

 

 挫折と絶望を糧とし、必ず到達してやる。

 

 筆舌に尽くしがたい鍛練と、妥協無き強さへの渇望と共に遮二無二走り続けたその堕天使の名はコカビエル。

 

 知った事で。体感した事で。叩き落とされた事で後天的にその領域へと踏み込んだ堕天使。

 

 彼の目的はただひとつ……。

 

 今でもその領域から見下しているであろう人外をその頂から引きずり落としてやる事。

 

 誰よりも力を求め、壁を乗り越える事に喜びを見出だす堕天使の力はまだ発展途上なのだ。

 

 だから、種族間による小競り合い等退屈でしかない。

 くだらない争いに付き合うくらいなら、新たな領域に突き進む方が余程楽しい。

 

 だが彼は出会うのだ。

 

 かつての自分が陥った絶望と挫折を、自分の手で与えられた者との邂逅を。

 種族としては敵同士となるその天使が、自分と同じくその絶望と挫折を糧に這い戻ろうとする覚悟の炎を燃やした時から、コカビエルはその者を『好敵手』と認めた。

 

 それから年月は経ち……。

 

 

 一応当時は敵同士ということもあって、こっそり会っては切磋琢磨をしていた堕天使と天使は、互いに所属していた組織を抜け、どこまでも自由に生きていた。

 

 

「復讐がしたいから、俺に力を貸せ――貴様等はそう言いたいのか?」

 

 

 フリーとなり、報酬次第で敵にも味方にもなる傭兵紛いな事を生業にして。

 そんなコカビエルはかつての――名前すら知らないし正味どうでもいい同胞に訪ねられると、とある者への復讐に力を貸して欲しいと懇願されていた。

 

 

「裏切り者の堕天使と、それに与する人間に復讐したいのです」

 

「……………。そのナリは、その堕天使と人間にやられたという訳か?」

 

「……………はい」

 

「「……」」

 

 

 相棒が今留守となっているコカビエルのいくつか人間界に所有しているセーフハウスを突き止め、やって来た下級もしくは中級の――あちこちに包帯を巻いている堕天使達に頭を下げられているコカビエルは、復讐の為に自分の力を借りたいと宣う彼女達に対して内心鼻を鳴らす。

 

 

(くだらんな。復讐を望む割りにはコイツ等からはその者への『恐怖』で折れている。

つまり、俺を利用してより強さを獲得するではなく、俺の力を傘にソイツ等に復讐をして心を満たそうとしている訳か……。まったくもって話にならん)

 

 

 自分を利用してまで力を求めるのなら骨を感じたが、このレイナーレだドーナシークだカラワーナとかいった名前の元同胞共にはその気概をまるで感じない。

 

 つまり、どれだけ金品を積もうが、コカビエルは付き合ってやる気にはならなかった。

 

 

(が、コイツ等を叩きのめしたとされる堕天使と人間には興味がある。

聞けばコイツ等はその者達に叩きのめされて動けなくなった所をその地域を管理していた悪魔共に捕まり、そして脱走してきたとの事だが、何故コイツ等を殺さなかったのか……? その者達なりの考えがあるのだろうが……)

 

 

 下級や中級とはいえ、人間がそれらを殺さない程度に捻り潰す程の力を示している。

 神器使いであろうとも、相当使い慣れて戦い慣れているということである。

 

 そういう意味では、この目の前の木っ端連中等どうでもいいが、その者には些かの興味を抱いたコカビエルは、卑屈な様子で頭を自分に垂れる堕天使達の願いを『聞いて』やることにした。

 

 

「良いだろう。

一応は同胞である貴様等の屈辱を晴らす手助けをしてやろうではないか」

 

「! こ、コカビエル様……!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ああ、しかも悪魔共から逃げ仰せて辛かっただろう? 部屋と風呂と食事を提供してやる」

 

「な、なんて慈悲深いのだ。

噂とはまるで違う……!」

 

 

 但し、コイツ等の為では談じてなく……。

 そうとは知らずに感激に打ち震えている下級と中級堕天使をそれ以降見ることなく、この場から下がらせた。

 

 

「やつらを裏切った堕天使と、それに与する人間か……」

 

 

 部屋を出ていく直前まで頭を下げ続けていた堕天使達の気配が消えると、コカビエルは椅子に深々と座りながら小さく呟く。

 

 何故か引っ掛かる。

 単なる裏切り者と単なる神器使いでしかないのに、何故かコカビエルには予感を覚えさせている。

 

 

「どちらにせよ直接見ればいい」

 

 

 この予感が気のせいであろうが無かろうが、一応連中の話に乗った以上はそれなりに付き合うつもりだと考えを切ったコカビエルは、自分の腰かける椅子のすぐ隣にある小さなテーブルに置いてあるグラスに手を伸ばし、口を付けようとするが、中身が無いことに気づく。

 

 

「む……」

 

「お酒ではなくお茶で我慢しなさい」

 

 

 注ぎ直そうとワインのボトルに手を伸ばしたコカビエルだが、そのワインのボトルが虚を切ると同時に、先程までその場に姿が無かった女性の姿が現れた。

 

 取り上げたワインボトルを抱えながら、代わりにお茶を差し出す緩いウェーブの掛かった金髪の美女。

 

 コカビエルにとっては付き合いの長い好敵手にて仕事仲間。

 

 

「ガブリエルか。今までどこに行っていた?」

 

 

 ガブリエル。

 本来ならば堕天使であるコカビエルとは敵対――というよりは現在冷戦状態となる天使をルーツに持つ美女に対し、彼は今まで姿を見せなかった理由を問う。

 

 

「先程の堕天使の方達にアナタと共に居る姿を見られたら、驚いて騒ぎになって依頼内容が聞けなくなるからと判断したまで。

それと、彼女達とは別の依頼についての調査を軽くしていたの」

 

「別の? ――ああ、聖剣がどうとかと言っていた人間の老いぼれの件か。それで?」

 

「そうね、あまり気持ちの良い内容ではなかったわ。

どうも彼は聖剣そのものにとり憑かれてしまっているようで……」

 

「フリーである俺に聖剣を奪い取らせ、七つに分かれた聖剣を再び一体化させるのが目的らしいが……」

 

「私としては受けて欲しくないわ。

余計な敵が増えるだけで此方にメリットが無いもの」

 

 

 どうやら先程のレイナーレ達とは別にあった依頼について、主に依頼主の素性を調べていたらしく、然り気無く棚からカップを取り出し、コカビエルにお茶を入れて差し出して貰ったガブリエルは、上品に飲みながら受けるべきではないと言う。

 

 

「メリットとデメリットによる損得計算をするようになったんだなお前も……」

 

「慈悲や加護でご飯が食べられるのなら、苦労なんてしないと教えたのはアナタでしょう? 少しは現実的になったって褒めて欲しいくらいよ」

 

「ふむ……」

 

 

 かつては天使のお手本みたいな性格だったガブリエルだが、コカビエルというよりにもよってなタイプの堕天使と知り合い、その生き方に付いて行った結果、わりとシビアな考え方をするようになったらしい。

 

 しかも、当初こそ気を抜けば即堕天しかけていたというのに、現在はその概念を超越したせいか、何をしようとも墜ちる事は無くなった。

 

 

「いっそ、先程の連中も利用してみるか? ミカエルとアザゼルの両方に貸しを作れるし」

 

「どうかしらね。二人共、そういった貸しを反故にしそうな気がしてならないわ。

あの二人、仲こそ悪いけど似た者同士だし」

 

「確かに。

だが俺はさっきの連中が言っていた、裏切り者の堕天使とそれに与する神器使いの人間がどうにも気になってな」

 

「何故?」

 

 

 ガブリエルに注いで貰ったお茶を飲むコカビエル。

 

 

「わからん。

しかし何故か気になる……」

 

「……。ちょっと妬けてきました」

 

 

 だがガブリエルはそんなコカビエルの意識が、会ったことも見たこともない二人組に向いている状況に、プクッと頬を膨らませる。

 

 長年好敵手として切磋琢磨し、更なる領域の為に立場を捨てたコカビエルを追うように、自らも天使としての立場の全てを捨てたガブリエルは、コカビエルに対して単なる好敵手以上の感情を抱き続けている。

 

 それこそ、コカビエルがちょっとでも他の――まあまあ強い女性やなんだに興味を持つだけでムッとする程度には。

 

 

「何故お前が一々妬く必要がある?」

 

「だ、だって……」

 

「気になる理由は、俺――いや、俺達の進化の糧としての性能をもしかしたら持ち合わせているのかもしれないと思っただけだ。

別に此方側に引き込むつもりも無い。相棒はお前一人だけだ」

 

 

 そんなガブリエルの本心を知ってか知らずか、ただ純粋に人外の領域のさらに上を目指すコカビエルは、最も信頼する最良のパートナーだとガブリエルを評する。

 

 

「お前には助けられているという自覚もしているし、俺の背中を預けられるのは最早お前だけだ」

 

「コカビエル……」

 

「これまでも――そしてこれからも」

 

 

 一人では不可能でも、彼女となら可能にできる。

 其ほどまでの信頼をガブリエルに対してしているし、ガブリエルもまた同じ。

 

 

「フッ、俺に対する対抗心だけでここまで到達してみせるとは――本当にお前は『良い女』だよガブリエル」

 

「そ、そうさせたのはアナタよ。で、でも……嬉しい……」

 

 

 もっと強く、更に先の先へ。

 

 二人でなら不可能な事なんてありはしない……。

 

 ちょっと互いに対する認識がズレてるだけだけど、それはきっと些細な事だろう。

 

 ………ガブリエル的にはそうではないだろうが。

 

 

「え、えっとコカビエル……。

そ、その……私たちってパートナー……ですよね?」

 

「? 当たり前だろ?」

 

「パ、パートナーだったら……あの……そ、そういう事もするというか、もっと仲を深められるのではないかしらというか……」

 

「? 鍛練でもしたいのか?」

 

「ち、違うっ!! そうではなくて! こ、こう繋がるというか、お互いに全てをさらけ出す行為といいますか……」

 

「……………ああ、意味がわかった。

しかしガブリエルよ、お前の程の女ならもっとマシな男なんて簡単に捕まえられるのではないのか?」

 

「わ、私はそんな軽い女じゃないわ! アナタが……顔は怖いかもしれないし、周りにその生き方を理解されずに狂人呼ばわりされてるアナタが良いの!」

 

「わ、わかったわかった! もう何も言うなガブリエル……」

 

「うう……! この鈍感……!」

 

 

 何時か彼の方から求めてくれる事を夢見る天使にとって、堕ちた天使の中でも異常者と呼ばれた孤高の堕天使は何よりも大切な存在なのだ。

 

 

「ミカエル達に知られたら、俺を殺しに来そうだな」

 

「だ、大丈夫よ。その時は私が守ってあげるから……!」

 

「………本当に良い女になったよお前は」

 

「ぁ……。コカビエル……」

 

 

 人外の存在を知った堕天使が、外から転生した存在に殺されなければありえたかもしれない現在(イマ)

 

 

「好きよ……コカビエル」

 

 

 この今を守る為……粗暴ながらも不器用に優しく抱いてくれる幸せの為に―――――彼と共に、天使もまた進化をするのだ。

 

 

(恥ずかしかったけど、幸せ……。だから、絶対にこの幸福だけは守ります。

どんな事をしても、コカビエルを守ります……!)

 

 

 永遠に尽きぬ愛情をも強くさせて。




補足

何でも屋みたいな稼業で生計を立ててます、ガブリーさんと。

殆どの者達はガブリーさんとの関係なんて知りません。

知ったら大騒ぎになるから。



そしてきっと、関係性は他より一番進んでるかもしれん。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。