色々なIF集   作:超人類DX

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こうして彼は希望を抱きながら、知らずに棘の道へ……。


棘の道の始まり

 種族としての限界を越える。

 

 余りにも単純な発想を至極真面目に実行しようとするのが彼等の強味であるとリリルカ・アーデが知ったのは、元は一誠が純粋な人間である事を知った時からである。

 

 小人族という種族であるリリルカにとって――そして冒険者としての才能に恵まれなかった彼女にとって、そう簡単に誰しもが壁を越えることなんて不可能だと当初は思っていた。

 

 だが確かにリリルカは冒険者としての才能は低かったのかもしれない。

 サポートとしての適正こそ高く、何時かその才を役立てる日が来たのかもしれない。

 

 けれど、それよりも早く『種としての限界を越えた者達』と出会ってしまった事により、その運命は大きく――そして決して開くことなどあり得なかった扉を開くことになる。

 

 

 種の壁を越える扉を……。

 

 

 

 ヘスティアは晴れて『例外』ではない眷属を迎え入れる事になった。

 イッセーが連れてきた小人族の少女で、当初は他の神と眷属だったのだけど、ヘスティアが少なくとも『面白くはない気分』にさせられる程度には『やる気満々状態』の一誠が、リリルカの主神であるソーマと『とても平和的なお話し合い』をした結果、殆ど略奪に近い形でリリルカを改宗させる事になった。

 

 その時の一誠のやる気に満ち溢れた顔たるや、最早そこいらのチンピラ同然であり、向こうが頷こうが殴るし、胡麻すりしても蹴り飛ばすしと、久しく見なかったスイッチの入った一誠だったとヘスティアは思う。

 だからこそ、スイッチを入れさせる程度にはリリルカに対して何かしら思うところが一誠にはあるという点が、地味にヘスティアには面白くなかった。

 

 冒険者にはなれず、ギルドからも出禁を言い渡されている一誠達の事は既に知っていて、このままついてきた所で冒険者としては絶対に大成はしないと忠告はしたのだが、どうにもリリルカはあくまでも一誠自身のサポートをするつもりらしい。

 

 それも正直いってヘスティアには面白くなかった。

 

 とはいえ、四六時中リリルカが一誠の傍に居るお陰で、間抜けなナンパが物理的な意味で少なくなった事に関しては良いことだとは思っているが。

 

 

 そんな一誠専属サポーターであるリリルカは、今後の為にと一誠が直接自衛の手段を教え込んだせいか、冒険者としての才能には恵まれなかったのが嘘だったように、別の才能を開化させていくことになった。

 

 一誠――そして一誠の仲間達が持つ神の恩恵ではない力。

 個々の精神の力を具現化させた心のスキル。

 

 感情のある生物ならば誰しもが開化させる可能性を持つが、殆どがそれに気づかずに生涯を終えると言われる能力を……。

 

 そんな力をも手にしたリリルカは、ますます一誠の傍を離れない。

 ………まったくもってヘスティアには面白くない事であった。

 

 

 しかし、そんな面白くないという気分に支配されぎみだったヘスティアは出会う事になる。

 田舎から上京して冒険者を志す少年と……。

 

 

 

 

 ベル・クラネルは祖父の残した言葉通り、冒険者となる為にこのオラリオへとやって来た。

 故郷の田舎よりも活気のある街並みや様々な人種達を前に当初ははしゃぎ回っていた彼であるが、よりにもよって出会ってしまった相手が人外魔境チームの一人であり、例外中の例外であるファミリアだった。

 

 

「ボクは他の所に行けるなら行った方がいいと思うよ。

意地悪とかじゃなくて、ウチは色々と例外過ぎるんだ」

 

「で、でも色々と訊ねてみましたが、門前払いにされてしまいまして……」

 

 

 白髪赤目の少年ことベルは、外観とは裏腹に中は見たこともない道具や設備が揃っている快適空間ななんちゃって廃教会にて、恐らくは最後の砦であろう女神ヘスティアに眷属にさせてくれと売り込み中だった。

 

 たまたま今日の買い出し担当だったガブリエルとコカビエルが、金欠と普通に迷子で泣きかけていたベルを発見し、取り敢えず保護する形で連れ帰ったのが出会いの始まりだったわけだが、ヘスティア的には彼は将来性があると見込むからこそここには置けないと考えていた。

 

 何せここには他の神に対して中指立てながら喧嘩を平気で売れるようなクレイジーな面子しかいないし、つい最近正式に加入したリリルカでさえ、最初はそんなクレイジーな面々にドン引きしていたというのに、今では順応してしまっている。

 

 

「お金や泊まる所が無いなら、しばらくここに居て良いよ。

けど、キミが冒険者になりたいと思っている以上は眷属(かぞく)としては迎え入れられない。

ここはボクを含めたはみ出しものしか居ないんだから」

 

「………」

 

 

 そうでなくとも、さっきから子供が見たら間違いなく初見だと泣かれる程度には悪人顔のコカビエルが、出会ったその時点でベルにびびられているのもお構い無しとばかりにジロジロとベルを品定めしてるものだから、精神衛生的にもよろしくない。

 それに気付いたガブリエルが、コカビエルの頭を軽く小突いて止めるものの、この時点でベルがあくまでも『普通』の感性を持っているのだ。

 

 間違いなくここに順応等できない――これはヘスティアなりの彼への慈悲なのだ。

 

 

「一応、伝は何個かあるからボクから口添えくらいはできるよ?」

 

「ど、どうしてもダメなんですか?」

 

「夢を持ってオラリオにまでやって来た少年の夢を壊したくはないんだよボクは……」

 

 

 本来ならやっとできた眷属だと即日採用していたヘスティアだが、生憎既に化け物共に囲まれ続けてしまったせいで、一般人はなるべく自分達には関わらせない方が良いと思うようになってしまったのだ。

 

 そうでなくても、リリルカの件で面白くないというのに、そんな気持ちを抱いたまま未来に希望を抱く若者の面倒を見たら雑になってしまう。

 

 そんな割りと真面目な事を考えた上での判断だ。

 

 

「お、お願いです! 雑用でもなんでもしますから、僕をここに置いてくださいっ!!」

 

 

 しかしベルは今時珍しいくらいに食い下がり、頭を床につける勢いで懇願する。

 

「どうしてそこまでウチに拘るんだい?」

 

 

 弱小というか、チームとしてなら全く世間に知られちゃいないレベルの零細ファミリアだと教えても、尚そこまで入りたがるのがヘスティア的には解せないし、裏を感じたので質問してみる。

 

 その近くのソファーでは、街の妙齢一般女性の写真を眺めてニヤニヤしている一誠から写真を取り上げてるリリルカや、満足そうな顔でラーメンを食しているヴァーリ、怪しげな薬を調合中のアザゼル、ハンバーガーなるサンドイッチみたいな食べ物を自作しては、何故か当たり前のような顔をして一緒に食べてるアイズという、割りとカオスな光景が広がってたりする中、顔を上げたベルは――――

 

 

「それは、い、居心地が良さそうだからです!」

 

「…………」

 

 

 目を輝かせながら神牙作のハンバーガーを食しているアイズと――――ガブリエルを見ながらそれらしい事を宣っていた。

 

 

(嘘だろ……?)

 

 

 その時点で本音を見抜いてしまったヘスティアは、怒るとかよりもベルのよりもよってな人選に対して逆に同情してしまった。

 ご覧の通り、ベルが気になって仕方なさそうなアイズとガブリエルは――まあ、アイズは別としてもガブリエルに関しては普通に無理な案件だ。

 

 容姿もスタイルも間違いなく美女であるガブリエルはジーッとベルを見ている悪人顔の堕天使に永遠にお熱なのだから。

 

 

「ごめんよ、傷つく前に言っておくけど、多分ここに居ても余計現実を知って絶望するだけだと思うよ?」

 

 

 だからヘスティアはとても優しく諭すようにベルに忠告するのだが、ベルはそれでも退かない。

 こうしてヘスティアは、子供の抱く恋心のしつこさをここにきて体験する事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

「――――という訳で、非常に困った子に目をつけられてしまったみたいなんだ」

 

 

 取り敢えずテコでも動きそうになかったベルを部屋に通して寝かせたヘスティアは、全員を部屋に集めさせると、ベル・クラネル少年をどうするべきかの意見を求める事にした。

 

 

「マジかよ……!? これって良い趣味してんじゃんって誉めるべきなのか?」

 

「いや、憐れに思うべきだろ。

アイズはまだしも、ガブリエルは最初から不可能なんだしな」

 

「ははは! おいコカビエルと神牙? ここに来てまさかのライバルの出現じゃねーか!」

 

「いや、コカビエルはともかく、俺は別にあの娘さんとはそういう関係ではないんだが……」

 

「ライバルか……あんな貧弱な小僧が果たして俺を脅かしてくれるのだろうか?」

 

「そういう意味じゃないですよコカビエルさん……。

はぁ、ガブリエルさんが愚痴るのもわかりますよこれじゃあ……」

 

 

 一応しれっと居座っているアイズとガブリエルには内緒に、リリルカ以外は正直相談する相手としては最低の部類である、悪戯男共に意見を求めるヘスティア。

 

 案の定当人ではない一誠、ヴァーリ、アザゼルは面白半分に微妙な顔をしている神牙と、そもそも解釈すら間違えているコカビエルを煽り始める。

 

 唯一まともな反応なのが新参のリリルカだ。

 

 

「でもヘスティア的には普通の眷属が欲しかったんだろ? だったら入れてやりゃあ良いじゃん」

 

「イッセー君がリリルカちゃんに教えたせいで扉開いたみたいに、君たちが色々と変な事を教え込んだ結果、スケベな戦闘大好きマッドサイエンティストになっちゃうのが不安でしかたないんだよ。

だったらまだロキの馬鹿の所とか、ヘファイストスかフレイヤ―――いや、フレイヤは無いけど、ともかく普通の冒険者を抱える所にいれて上げた方が良いと思うんだ」

 

「確かにウチはまともな冒険者どころか、その資格すら最初から持ってない奴しかいねーからな。リリルカが入るまでは」

 

「私も暫くはギルドにすら立ち寄らなくなりましたし、半ば休業状態ですね」

 

「今のリリルカがギルドでステイタス更新したら、大騒ぎになりそうだな」

 

 

 ヴァーリが五杯目のラーメンを啜りながら言った通り、今のリリルカは単純な戦闘能力でいえば、人外に片足をいれている状態だ。

 ソロで相当下の下層にスキップしながら行ける程度には……。

 

 

「大騒ぎどころか、適当なファミリアに単身で喧嘩ぐらいは売れるぜ。俺が直で叩き込んだからな!」

 

「内容は鬼畜そのものでしたけどね……」

 

 

 それは、ヘラヘラ笑いながら手持ち無沙汰気味にリリルカの頭をポンポンやってるイッセーが、リリルカの過去を聞いた事への軽い罪悪感による変な気合いの空回りによってそうなってしまったからに他ならない。

 

 リリルカもそれを鬼畜だったと語るが、最後まで付いていったその根性があったからこそである。

 

 だから、己が認めた相手を引き上げるという副産物的な特性を持つイッセーにより、リリルカはその覚悟もあって急激な進化をしている真っ最中なのだ。

 

 

「ガブリエルの事はなんとか諦めて貰いつつ、アイズならフリーだと教え、上手いこと誘導してアイズからロキの所に加入できるように口添えして貰うというのはどうだ?」

 

 

 そんな中、意見を出すのは神牙だった。

 

 

「えー……?」

 

「割りと酷いな神牙……?」

 

「アイズさんの意思は無視ですか?」

 

「何がだ。

元々俺とアイズには何にもないし、付きまとわれているに過ぎないんだ。

これを期に綺麗さっぱり関係を絶てるのなら、それに越した事はない」

 

 

 イッセーとヴァーリと……ついでにリリルカのジト目に神牙は毅然と返す。

 散々アイズに対してやらかしてきた男の言える台詞ではないが、これ以上やらかしてしまう前に物理的な意味でも距離を置きたいという神牙の気持ちもわからないでもない。

 

 そう簡単にアイズがはいそうですかと頷くかは別にしてもだ。

 

 

「まあ、本当に冒険者になりたいんなら、ウチは論外だし、試してみる価値はあるな……」

 

「ああ、出来ることなら俺を脅かす程の領域に成長してもらいたい」

 

「じゃあ、一時的にウチで面倒を見るって形にするね?」

 

 

 そんな訳で、秒で破綻する未来しか見えなくもない作戦を立てたヘスティア達は、暫く見習いとしてベル・クラネルの面倒を見ることになった。

 

 翌日、その話をベル本人にしたらベルは飛び上がって喜び、ガブリエルは良かったですねとのほほんとベルにお祝いの言葉を送り、普通にやって来たアイズも良かったねとベルを祝福した。

 

 

「…………。俺、神牙の目論見が失敗するに二倍賭けしても良いわ」

 

「ベルさんも不運ですよね……」

 

「ガブリエルちゃんとアイズちゃんに惚れるのはどっちも棘の道過ぎるよベル君……」

 

 

 そんなベル達を一誠とリリルカとヘスティアは、果てしなく同情するのだった。

 

 ベル・クラネルの明日はどこへ……。




補足
なんてこったい……ベルきゅんっならナンテコッタイ!!



その2
最早普通にコンビニ感覚で居座り始めてるアイズちゃま。

下手に曹操君が、親切にしちゃうもんだから普通に懐かれ続けている。


その3
最近、リリルカちゃまのお陰で、ナンパ回数が抑制されている模様。

 でも隙見てナンパには行こうとするのは変わらない。

が、大体見つかって怒られる。

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