色々なIF集   作:超人類DX

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英雄に憧れた前向きな青年は、親友や仲間達と出会う事で本当の英雄になる。


英雄の子孫から本物の英雄になった青年

 何故俺達が生き残れたのかは、俺達にもわからない。

 

 あのクソみたいな神が俺達を生き残らせるなんてまずあり得ないし、道連れ同然に世界をぶっ壊した俺達なんか寧ろ殺してやりたいとすら思っていた筈だ。

 

 けれど俺達は今を生きている。

 

 空気を吸い、物に触れ、食いたいものを食い、誰に怯える事もなく堂々と生きている。

 だとするなら、俺達の次の目標は死ぬまで死なない事だ。

 クソッタレ共をぶちのめしてやったからといって慢心はしねぇ。

 俺達はまだまだ強くなれる――とコカビエルの奴が言っていた通り、俺達に限界は無ェ。

 

 

 神が蔓延るどこぞの世界であろうとも、俺達は変わらない。

 どんな事があろうとも、俺達の決めた道は曲げやしねぇ。

 

 

 

 

 なんちゃって廃教会を根城に、一応のファミリアの長でもあるヘスティア。

 真顔で神に対して泥団子を投げつける様な態度しかしやしない、手に負えぬ怪物チームを押し付けられ、大人しくなったと思ったら今度は押し付けてきた神々が挙ってその怪物達にアプローチを仕掛けて来た時から、ヘスティアは意地でも彼等を他所には渡さないというある意味での覚悟を決めている。

 

 ヘスティア自身が神らしさが無いという意味もあるお陰で、彼等もまたそんな連中の戯言には一切耳を貸さないという時点でも、彼等なりにヘスティアは他の神々とは違った認識をされている証拠だろう。

 

 まあもっとも、彼等一人一人の力があまりにも凶悪過ぎる為に、神々の戯れには一切参加できないのだが、ヘスティア的には別にそれでも構わない気分なので、割りと問題ではなかった。

 

 寧ろ、身勝手に行動する彼等に手を焼かされるのに忙しいのだから。

 

 それに、基本的に表舞台には一切出ない事もあってか、人間界ではヘスティアも彼等の名も殆ど知られてはいない。

 なので、名前すらほぼ知られちゃいないこのチームにわざわざ入りたいと申し出てくる好き者もこれまで一度も現れなかったし、よしんば現れた所で、この身勝手の塊みたいな面子の前では三日と持たずに逃げ出すに決まっている――とヘスティアはほぼ諦観しているのだ。

 

 

「なぁ、相手の長にクレームを入れるのはアリだと思うか?」

 

「ああ、昨日イッセー君と偶々見てたよ。

神牙君、クレームを入れられたら入れてやりたいけど、キミの場合はそれ以上に相手に対してやらかし過ぎなんだよ」

 

「お前って本当に毎度やらかすからなぁ……」

 

「そ、そうは言うがな一誠! 俺は毎度近づくなと言ってるんだ! 第一そもそも、あんな目に逢わされてる癖に俺に近づこうとする方がおかしいとは思わないかっ!?」

 

「まあ、俺が女なら二度と神牙には近づきたくはないな……」

 

「そうだろうヴァーリ!? それなのに俺を見るなり笑いながら全力疾走しながら街中を追いかけ回してくるんだぞ!? 向こうの頭がおかしいとしか思えないぞ!」

 

 

 大体各々が持ち込むトラブルの対処で忙しいヘスティアは、先日一誠を手伝わせたバイト中に見てしまった神牙の――彼等にとって何時も通りすぎるトラブルについての話題で一応盛り上がってか居た。

 ……神牙本人は心底困惑した様子だが。

 

 何故か特定の女性に対して、最早セクハラとしか思えない事故を高確率でやらかしてしまう、本人にとっては要らぬ体質を持つ曹操こと神牙。

 

 アホみたいに前向きで、どれほどに壮絶な過去を生きようともめげる事なく前を歩き続けた結果、ある意味で本物の英雄になることが出来た黒髪の青年の唯一とも言えなくもない弱点がこれだった。

 

 

「まあ、相手のその女っつーか小娘には嫌われてはいねーんだろ? なら別にほっとけば良いだろ?」

 

「聞けば、強さを求めてるのだろう? ならお前なりに育てて、戦える相手を増やせば良い」

 

「うーん、昔の私を思い出します。ね、コカビエル?」

 

「お前は大分変わってたからな」

 

 

 そんな神牙のお悩みは、チームの大人達も殆ど相手にしないという始末。

 結局神牙は、なるべく街中でその者と出会さないように行動するしか無いのだった。

 

 

 

 

 少女が最初に英雄(ジンガ)を知ったのは、まだ彼女が冒険者となったばかりの幼い頃に遡る。

 

 冒険者となったのは、まだ7歳の時で。

 僅か1年でLv.2にランクアップした事で当時のオラリオを騒がせた。

 しかしあまりにも怪物(モンスター)に対する容赦の無さと、復讐心もあり相当当時は荒れていた。

 

 しかし、報復心が強さへの執着へと繋がる中、彼女は知るのだ。

 

 神をも笑いながらぶっ飛ばせる人を超越した人間を。

 

 

 冒険者ではなく、またそのあまりの強さ故に冒険者にはなれない者達。

 

 

『ハハハァッ!! まだだ、まだまだ俺達は強くなれる!!』

 

『ただし、俺が一歩先に進んでやるぜ!!』

 

『いや、俺だ!!』

 

 

 災害のような激しい戦いだった。

 

 心底楽しそうに、傷つきながらも笑い合いながら戦う三人の青年。

 それは『絶対に関わるな』と長である女神に言われた通りに、途方も無い力同士のぶつかり合いだった。

 

 しかし少女はそんな力をぶつけ合う光景を見て思うのだ……美しいと。

 

 左腕に纏う真っ赤な籠手で殴り抜く青年。

 

 白き翼を背に迎え撃つ青年。

 

 そして黄金に輝く槍で突撃する青年。

 

 

 長年連れ添った親友同士みたいに楽しそうに、災害のような戦いとは裏腹に、まるで遊んでいるような光景は、言葉にこそ表せないが、少女には体験の無い未知の光景で、ただ見惚れるように眺め続けた。

 

 

『『禁手化(バランスブレイク)!!』』

 

『チィッ!!』

 

 

 その内、二人の青年がそれぞれ赤と白の鎧を纏い始めた頃だったか。

 ただひとり生身のままだった槍を持った黒髪の青年が、二人に殴り飛ばされ、岩を破壊しながら地面へと落下する。

 

 

『こ、この暴れん坊共め……!』

 

 

 隠れていた少女の目の前に落下し、ちょっとフラフラしながらも立ち上がる黒髪の青年は、見上げた先で赤と白が戦っているのを見据えながら、持っていた槍を地面に突き刺す。

 

 

『俺はまだ脱落しちゃいない……!』

 

 

 そして虚空から灰色の鞘に納められた細身の剣が現れ、青年の手に収まると、青年は勢いよく鞘から剣を抜く。

 

 そしてここからが少女にとって今でも鮮明に覚えている光景。

 

 剣を抜き、その場で一回転しながら剣を掲げれば、赤く輝く光の輪が青年を照らす。

 その輝きはどこか冷たく、どこか重苦しさを感じさせる光であり、その光を浴びた青年の全身は……赤と黒の鎧に包まれていた。

 

 

『………………』

 

 

 見たこともない力だった。

 獲物を狩らんとする力強い狼を思わせるフェイスはも。

 すべてを切り刻まんと輝く、赤身の両刃剣も……。

 

 そして何より、その背に広がる漆黒の翼も……。

 

 

『ハァァァッ!!!!』

 

『『っ!?』』

 

 

 突き刺した槍と剣を両手に持ち、飛び立った赤黒の狼騎士。

 それが少女の初めてにて、忘れられぬ光景だった。

 

 

 それから月日は経ち……。

 

 死ぬほど彼等との接触を反対する長を半分程無視して、街中を時には仕事中だったりフラフラしている黒髪の青年に対して弟子にしろと懇願しては断られるか逃げられる追いかけっこの日々が幕を開けた。

 

 15を過ぎた辺りから、変な事故が発生してその青年と密着する事が多々あるようになったけど、少女は今日も元気に―――

 

 

「ジンガ、見つけた……」

 

「げっ!? な、何で此処がわかった……!?」

 

「イッセーとヴァーリが教えてくれたから……」

 

「あ、あの馬鹿二人ィ!」

 

「ロキ達は絶対にあの人達に関わるなと言ってたけど、皆親切……」

 

「親切なのは面白半分にやってるだけだ!」

 

 

 

 英雄を追っかけるのだ。

 

 

 

 

 基本的にヘスティアチームは冒険者ではなく、街の歯車のひとつとなるお仕事に精を出している。

 だから事情を知らぬ他の眷属達には『ああ、存在してたねそーいや』的な認識ばかりされているし、本人達もそう思われていた方が気楽だった。

 

 しかしここ数年になって特に神牙は、数ある冒険者の中でも結構名が知れてしまっている少女に絡まれてしまっていた。

 

 それがこの金髪金眼の――アイズなる少女だ。

 

 

 何をどこで間違えたのか、幼い時期のアイズに突然『強くなる方法を教えて』等と何故か神牙が言われ、イッセーとヴァーリは困惑する神牙を半分にやつきながら『やべぇ、神牙がロリコンになっちまっただヴァーリさ』だとか、『ああ、まさかそういう趣味があるとは俺も驚きだ……』とからかうものだから、正直神牙はこのアイズには絡まれたくもないのだ。

 

 

「何度来ても無駄だ、この前だってキミの所の仲間達からクレームが来てるんだ。

教える柄でも無いし、他を当たってくれ」

 

 

 ただでさえ、ヘスティアにとっては気にくわない神の一人の眷属なのだ。

 余計な真似をしてヘスティアが少しでも不利になる状況だけは避けたい神牙としては、お断り案件である。

 

 けれど、アイズはそんな神牙の言葉はほぼ無視だ。

 

 というか、結構キツい言葉で拒否してもアイズの目が輝くだけでなんの意味も無い。

 

 

「ガブリエルさんとアザゼルさんは、ジンガが照れていて素直になれないだけって言ってた」

 

「ま、また変な入れ知恵をあの二人は……!」

 

「コカビエルさんは『精々強くなって見せろ』って応援もしてくれた」

 

「あのオッサンはそればかりだからなっ!!」

 

 

 味方さえも寧ろアイズを焚き付けてるせいで、今のところアイズを諦めさせられていない神牙の取る行動はひとつ―――

 

 

「いい加減俺に付きまとうな!!」

 

「あ………」

 

 

 逃げるであった。

 流石に敵意の欠片もない相手を傷つけるタイプではなかったりする神牙は、逃げるが精一杯なのだ。

 

 しかし、当初こそそれで煙に撒けていたのだが、アイズもまたそんな神牙に追い付こうと努力をしてしまったが為……。

 

 

「これもジンガの修行……!」

 

「げっ!?」

 

 

 普通に追い付けてしまう程になってしまっていた。

 

 チーム内では己も自覚する通り、身体能力が一番『弱っちぃ』神牙だが、それはあくまでチーム内での話であり、他から見れば十分に人間を辞めているレベルである。

 そんな神牙の割りとマジな逃走に何故かニコニコしながら普通に付いていけているアイズもまた進化している証だろう。

 

 

「こ、このっ!!」

 

「! まだまだ……!」

 

 

 最近、オラリオ内で必死の形相で逃げる青年と、それを追いかける剣姫の噂されている。

 お陰で、変な意味でそこそこ顔が割れてしまった神牙にしてみればとんだ災難だ。

 

 

(ま、また速くなっているだと……!? くっ、こうなったらイッセーの言っていた『デビルバットゴースト戦法』で一気に――っ!?)

 

 

 そして、街の露店地点を一気に突き抜けようとした際、目の前に幼い子供がボーッと突っ立っている事に気づいてしまった神牙が急ブレーキをして止まり、丁度真後ろを追いかけていたアイズも驚いて急ブレーキをかけようとするが間に合わず――

 

 

「ごばっ!?」

 

「あうっ!?」

 

 

 アイズの全身タックルで神牙は果物が立ち並ぶ露店に突っ込み、反射的に神牙がアイズの腕を掴んだせいで、アイズまでもが屋台に突っ込んでしまった。

 

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「事故か!?」

 

 

 この大騒ぎに街の住人達が集まり、破壊された屋台の中に人影が居ると気づく。

 

 

「ぐ……お、俺としたことが……」

 

「……」

 

 

 屋台を破壊してしまった事への賠償金の事ばかりに意識が向かってしまっている神牙は、大きな怪我もなく頭を振りながら立ち上がろうとするのだが………何故か目の前が暗い。

 

 

「な、なんだ? 真っ暗?」

 

 

 顔面が妙に温いし、妙にやわっこいぞ? と手を頼りにその温くてやわっこいフニフニとした感触を触る。

 

 

「……………………」

 

「………………………」

 

 

 

 それがまさか、自分を追いかけ回す少女の成長し続け気味の胸だったと気付くまで残り二秒。

 

 

「…………………………」

 

「え、えっと、くすぐったいよジンガ……?」

 

 

 状況を完全に把握し、全身から嫌すぎる汗が流れ出るまで0.5秒。

 

 

「…………。ウチの屋台を壊してくれたばかりか、昼間っからこんな場所でおっぱじめる気かい……?」

 

 

 そしてヤバイ迫力のおばちゃんが、指を鳴らしながら戦闘体勢に入っているのに気付くと同時に、神牙はボコボコにはっ倒されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはははははっ!! お前らしいな神牙!」

 

「お、おっかけ回されたあげく、追い付かれてそのままやらかしたのかよ!? お前やっぱスゲーよ!? ガハハハハ!!」

 

「わ、笑うんじゃない!! 子供が目の前に居たから止まる他なかったんだ!!」

 

 

 アイズの分までしこたまシバき倒されて顔中青アザぁらけでヘスティアのホームに帰還した神牙は、事情を話した途端、ゲラゲラと爆笑するヴァーリとイッセーに憤慨する。

 

 

「あ、あの……すいません。私がぶつかったから……」

 

 

 そんな神牙に悪いと思っているのか、何気についてきたアイズが謝る。

 

 

「気にすんな嬢ちゃん。

神牙は馬鹿だが、こんな事で怒りゃしねーよ」

 

「ふむ、寧ろ俺達の中で一番身体能力が貧弱とはいえ、神牙の速力においつける程度には成長したのか。

ふふ、これは先が楽しみだ」

 

「それで? 神牙に押し倒された後はどうしたのですか!? そのまま意識させるぐらいはできましたか!?」

 

 

 謝るアイズに大人組が気にするなとフォローする。

 若干一名、同じ金髪で女性のガブリエルだけが違う意味でわくわくした顔をしている。

 

 

「よ、よくわからないですけど、胸に顔を……」

 

「わお……」

 

「お前、何時かこの子とベッドの上で全裸の朝を迎えるとかやらかしそうだな……」

 

「そ、そんな訳あるかっ!!」

 

 

 何故かアイズにだけ、訳のわからない嘘みたいな事故をやらかす神牙の変な運が、ますます上昇している事に、イッセーが割りと真面目な顔をして心配する。

 

 そんな中、一応ホームに入れて上げはしたヘスティアはといえば、微妙な顔でアイズに話しかける。

 

 

「えーっとさ、キミが昔から神牙君に弟子入りしたいってのは知ってるわけだけど、彼等はそもそも冒険者ではないんだよ。

多分、既にロキのアホ辺りに彼等の事は聞いてる筈だし、関わるなとも言われてる筈なんだけど」

 

「え、あ、はい……、ロキには言われてます。

ジンガ達は例外で関わるとろくなことにはならないからと……」

 

「うん、じゃあ何でキミはずっと神牙君に拘るのかな? キミ自身はもう既に冒険者としては上位のレベルなんだろ?」

 

 

 あんまり拘わられると、ロキがやかましいんだよね……と出来れば絡むのは控えてほしそうなヘスティアの言い方に、アイズはしゅんとなってしまう。

 

 これがもしアイズの絡む相手がイッセーだったら、こんな理性的な言い方はしないのだが、そこは置いておこう。

 

 

「別に構わねーだろ、あの貧乳神が喚いた所で、この子が神牙の所に行くのを止める権利なんざねーしよ」

 

「アザゼルの言うとおりだ。

この小娘には見所がある」

 

「貧乳は失礼ですが、アザゼルの言うとおりです」

 

「いや、別にボクも正味ここまで根性出されちゃったら、駄目とは言いたくは無いんだけどさぁ。ロキがウザイし……」

 

 

 ヘスティアにとっての問題がロキなる女神らしく、個人的にアイズを嫌っている訳ではないらしい。

 

 

「じゃあ俺が貧乳神を説得してやろうか? 最近永続効果のある豊胸薬を開発したから、それを餌に……」

 

「なぬっ!? あ、アザゼル先生! そ、その薬の事を詳しく――もがっ!?」

 

「いいから黙ってろイッセー」

 

 

 アザゼルことアザえもんの開発薬について目ざとく反応しようとしたイッセーをヴァーリが押さえ込む。

 

 

「えー?」

 

「まあ、あの貧乳神の体型考えたら普通にアンバランスな気はするが、少なくとも首は縦に振れさせるだろ?」

 

 

 それでも騒ごうとするイッセーの背中をヘスティアがのし掛かるようにのし掛かりつつ渋る。

 

 そんな光景を微妙な顔をして見てる神牙と、反対にロキに認めさせられるかもしれないとキラキラした眼差しのアイズ。

 

 そして結局――

 

 

 

「よぉ貧乳神? そういう事だから、オメーんとこの嬢ちゃんとウチんとこの神牙の付き合いを認めろ? な?」

 

「な、なにが『な?』じゃワレェ!! 全員して土足でウチに入ってきて開口一番が貧乳神呼ばわりするオチャラケ堕天使の言うことなんて聞けるかっ!!」

 

「お願いロキ。

神牙も皆も親切だよ……?」

 

「だ、騙されんなやアイズ! ソイツ等は鬼畜なんや! 下天する前は何度やられてきたか……!」

 

「お前等が面倒事をヘスティア一人に押し付けた挙げ句、俺達が大人しくなったら掌を返したからだろ? つーか、オメーを半殺しにしたのは俺じゃなくてイッセーじゃねーか?」

 

「じゃあかしぃ! フレイヤのドアホを精神的な意味でもズタズタにしたことだけは認めてもええがな!」

 

「貧乳の僻みでヘスティアに絡んだテメーの面にイラっとしただけなんだけどなー?」

 

「僻みやないわボケェ!!」

 

 

 わざわざ全員でロキ・ファミリアのホームに出撃し、ビクビクしているロキの眷属達を他所に、アザゼルが代表してロキの説得を行うが、散々目の前の化け物連中に煮え湯をがぶ飲みさせられてきたロキは思っていた以上に頑なであった。

 

 

「帰れ! アイズはウチからもちゃんと言い聞かせるから、二度とこの敷居を跨ぐ――」

 

「なんだ、認めてくれたら永続効果のある豊胸薬を分けてやろうと思ったんだけどなー?」

 

「―――な、なぬっ!?」

 

 

 しかし、アザゼルが切り札を切る事で状況は一変してしまう。

 

 

「ほ、豊胸やと? ん、んなアホな? 神族にそんなちゃちなもんが――」

 

「効くぜ? この前ヘファイストスに交換条件で実験させて貰ったら、ワンサイズ上がってたし」

 

「あー、ヘファイストスは『肩が凝るんだけど……』って言ってた程度には効果あったし、切れる様子もなかったかな」

 

「な……ななっ!?」

 

『…………』

 

 

 明らかに興味を示している長の態度に、気づけばヴァーリとイッセーを交えてカードゲームをし始めていたロキ眷属の面々の視線が冷たくなる。

 

 そして――

 

 

「……………。ど、どんくらいで効果が出るんや?」

 

「ヘファイトスは飲んで五分後には効果あったから、多分そんくらいだな」

 

「ほ、ほーん? なるほどなー? しゃーない! 得体の知れんもんをオラリオにばら蒔かれたらかなわんし、まずはウチが試そうやないか!」

 

 

 そう言ってアザゼルが持ってた薬の入った小瓶を奪い取ると、躊躇いもなくグビグビと飲み干した。

 普通ににやついている事には敢えて皆は触れずに。

 

 しかし……。

 

 

「…………変わらない」

 

「変わってない」

 

「見事なまでに無だ……」

 

「可哀想なくらいの無乳のまんまだ……」

 

 

 ロキのお胸はまっっっったく変化無しだった。

 これに憤慨するのは飲んだ本人のロキだ。

 

 

「な、なんでやねん!? 薬が偽物ちゃうんかい!?」

 

「いや、交渉なんだから本物に決まってんだろ」

 

「じゃあなんでや!? なんでウチの胸は……」

 

「不思議だ。俺も想定していない事だ……ふーむ」

 

「なにメモっとんねん!!」

 

 

 他の神には効果があったのに、ロキには一切効果が無い。

 それが研究者気質のアザゼルに火をつけたのか、急に真面目な顔でロキの絶壁を見ながらメモを取りはじめる。

 

 

「あればあるで不便なんだけどねー?」

 

「ええ。

まあ、全く無い方からしたら嫌味にしか思えないでしょうが……」

 

「ぶっ飛ばすぞ無駄乳女神と化け物天使!!」

 

 

 そんなロキの悲しみを煽るように、悪乗りしたヘスティアとガブリエルにロキが激怒する。

 

 

「やべぇ、ここに来てまさかの未知に遭遇できるとはな……! おいロキ!」

 

「な、なんや!」

 

「お前を調べてーから、ちょっと全裸になれ!」

 

 

 そしてアザゼルはそんな意味は皆無で変な事を言い出す。

 それによりロキは怒りなのか羞恥でなのか自分でも訳がわからなくなる程に顔を真っ赤にしながら、アザゼルに殴りかかった。

 

 

「死ねスケベ堕天使! 死んでしまえ!!」

 

「頼むぜ、お前の身体はある意味俺にとって未知と化したんだ、マジで調べたいんだ」

 

「や、やかましい! 妙に良い声で言うなや!!」

 

 

 

 

 

 

「アザゼルってのが来ると何時もああなんだよロキって……」

 

「あんたら、女神時代のロキの事を知ってんだろ? 何があったんだ?」

 

「え? ええっと、最初ロキってのを見たアザゼルが『俺達の知るロキと同じで男なんだな』って呟いてマジギレさせたとか?」

 

「胸が無いことを地味に気にしてる様子を見たアザゼルが、冗談で『豊胸の手伝いでもしてやろーか?』って軽く触れて殴りかかられた事もあったな」

 

 

 そんな二人のやり取りを、イッセー達の持ち込んだカーゲームに嵌まってしまい、何だか普通に楽しんでいるロキの眷属達と共に眺める。

 

 

「て、テメェ! アイズに近づきすぎなんだよっ!」

 

「誤解だ。俺ではなくた彼女がだな……」

 

「言い訳してんじゃねー! 今すぐ俺と勝負しや――」

 

「ジンガ、ガブリエルさんに言われた通り、膝枕ってものをしてあげるけど、どう?」

 

「は? ま、またあの人は余計な事を――のわっ!?」

 

「死にさらせぇぇぇっ!!!」

 

 

 そして神牙は、天然娘に余計な入れ知恵ばかりする大人達のせいで振り回されるのだった。




補足

誰も彼も年齢不詳です。

だから、普通にロリコンにさせられます。

その2
地味においかけっこのお陰で、速度の壁を乗り越えてるアイズちゃま。

しかもガブリエル様に自分がコカビーにするアプローチ方法まで教えられてるせいで、困ったちゃんにもなったぜ!


その3
アザえもんでも不可能な無乳神様の脱無乳。

……これは世の理なのである。

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