色々なIF集   作:超人類DX

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473話からの小ネタの――続きみたいなそれです。


※※ちょっとだけ編のネタ

 常に反抗期みたいなヤサグレた子供は、成長しても素直にはなれないままだった。

 

 けれど、そんな少年の事を家族のように愛情をもって迎え入れた悪魔達は少年の素直になれない不器用な優しさを知っていた。

 

 その証拠に、その悪魔達の為に、少年はそれまで積み重ねてきた力や人格の全てを捨てる覚悟を当たり前のように示した。

 

 悪魔の母である彼女を救う為に。

 ちょっと騒がしい、年上としての威厳がイマイチ欠ける彼女の為に……。

 

 

 そんな少年の今は、記憶と人格の力を失った状態のまま、異界の地で生きていた。

 

 元の記憶の名残がそうさせているのか、年上好きな――まあ、年頃らしい少年として。

 

 

 もしも記憶を取り戻した時は、恥ずかしさで色々と発狂しそうな程度には素直な少年として……。

 

 

 

 

 凰鈴音が彼と知り合った切っ掛けは、小学5年に日本の小学校に転校してからだ。

 名の通り中華系の外国人であったからなのかは今にしたらどうでも良いのだが、転校したてだった当時はその小柄さもあって、クラスの男子からの苛めの標的にされてしまった。

 

 だが、そんな苛めっ子達から守ってくれたのが、同じクラスだった一夏と彼――一誠だった。

 

 その出会い以降……というか、割りと喧嘩慣れしてる気がしてならない一誠が、その苛めっ子達を叩きのめして以降は苛められる事もなくなり、鈴音自身も一夏と一誠と親しくなり、ほぼ毎日一緒に遊んだりした。

 

 その内千冬と知り合い、一誠の義母であるヴェネラナと知り合っていった訳だが、無意識に一誠に惹かれていくにつれて、千冬がどうやら一誠に対して理不尽な事をしているその本心を受信してからは、鈴音は千冬を強大な好敵手と認識する。

 

 だから一度家の都合で別れ、今回このIS学園での再会を果たした際に知った千冬の近況は、鈴音にとって非常に面白くない。

 

 昔から千冬の理不尽さに対して、嫌がりこそはするけど本当の意味での拒絶を一誠がしないことも知っているからこそ、このままでは千冬に大きく溝を空けられてしまうと鈴音は思ったのだ。

 

 故に鈴音は、同じような立ち位置になっていて、一夏にどうやら惹かれているらしい箒と無言の協定を結ぶ事になった。

 

 どうやら一夏も一夏で箒だけではなく、セシリアなる女子に惚れられてるらしいので、箒と一夏の仲を取り持つ手伝いをする。

 

 もっとも、一夏も一誠も呆れるほどに気づかないタイプなので、中々に苦労することになるのだが……。

 

 

 

 

 

 

 失う前の記憶が魂レベルで刻まれているせいなのか、全てにおいて優先されるのは義母であるヴェネラナだったりする一誠は、今日も元気に一夏達と授業に励み、ISの訓練にも参加し、記憶を失う前ならありえない普通の学生を満喫していた。

 

 

「セッシーちゃんと箒ちゃんがお前を狙い撃ちしまくりだったから楽にやれたぜ」

 

「何であの二人は俺ばかり……。二人を怒らせた覚えは全くないんだが……?」

 

 

 昔からモテモテ街道を爆走する友人が、今日も元気にモテモテ街道を走っているのを見るはめになった一誠は、一夏が全く的が外れた事を疲れた顔で呟いているのを見て、やれやれだぜと苦笑いをする。

 

 

「まあ、さっきので気付けるほうが無理があるがよ……」

 

「? 何の話だ?」

 

「その内後ろから刺し殺されるなよって言いたいんだよ」

 

「な、何だよ物騒だな……」

 

 

 既にクラスメートの女子達からは『イケテル男子』扱いされている一夏とは反対に一誠はといえば三枚目扱いだ。

 本人自身も好きな女性のタイプが一回り以上年上だったりするので全然一夏への嫉妬心は無い。

 

 

「それより、鈴が転校してきたって事は、一誠も千冬姉からもっと変な事を言われるんじゃねーか?」

 

「あの怪力ゴリラ女の理不尽さは何時も通りだし、チビ鈴と何の関係があんだよ?」

 

「…………いや、一誠こそ後ろから刺されないようにな?」

 

「は?」

 

 

 そして反対に一夏は自分のおかれてる状況にはまるで疎い癖に、目の前の親友の状況にだけは無駄に鋭く、自分の姉が単に一誠に対して理不尽な真似をしている訳ではない事をとっくの昔に知っているし、鈴音が一誠に対してそんな感情を持っていることも実は見抜いていたりする。

 

 だというのに、この目の前の親友はあまりにも年上好きが強すぎて全く気づかないのだから、弟として……そして幼馴染みとしてため息が漏れてしまう。

 

 

「お疲れ一夏に一誠。

飲み物持ってきてあげたわよ?」

 

 

 そんな会話をしながら着替えて少し休憩していると、扉が開き、鈴音が入ってきて飲み物を差し入れてくれた。

 

 

「サンキュー鈴」

 

「お、ちみっこの鈴にしちゃあ気が利くじゃねーの?」

 

「ちみっこ言うな! まったく……!」

 

 

 普通にお礼を言う一夏とは違い、若干からかい気味の一誠に鈴音は憤慨するも、久しぶりにそう呼ばれること自体はそこまで悪い気はせず、二人の座っていたベンチに座る。

 

 

「ふへー、生き返る……」

 

「これでグラマーなお姉さんが居たら最高なんだけどなぁ」

 

「ホント変わらないわね。

一夏のおっさんくさい所とか、一誠の性癖とか」

 

「不摂生はよくないぜ。

年取った後に苦労するしな」

 

「年上こそ至高だぜ……!」

 

 

 妙に年寄りじみてる一夏も変わらないし、相変わらず年上に変な理想ばっか抱いている一誠も変わってない。

 そんな二人にちょっとした安心をしつつも、鈴は一誠に問いかける。

 

 

「ねぇねぇ一誠、あたしが居なくて寂しかったりした?」

 

 

 あまり期待できる言葉は返ってこない事は承知で鈴音は一誠に訊ねる。

 その横で一夏が妙に生ぬるそうな視線を寄越している訳だが、一誠はといえば……。

 

 

「おう、俺も一夏も弾の奴も割りと寂しくて暫くぼーっとしてたぜ?」

 

 

 執事時代ならまず言うわけ無い事を平気な顔をして言う。

 

 

「そ、そっかー……へー? ふーん? 寂しかったんだー?」

 

 

 そんな一誠の素直さに、鈴音は思わずニヤけてしまう。

 ちみっこだなんだと子供扱いしてくる一誠だが、こういう素直な所が鈴音の好意を抱く理由である。

 

 確かに昔からしょっちゅう一夏と比べられて、その結果殆どの女子は一夏はカッコいいが、一誠は微妙だなんだと陰口を叩かれてきたのだが、鈴音にしてみれば容姿の良し悪しはどうでも良いのだ。

 

 こういう所が恐らく千冬も好いているのであろうと……。

 

 

「でもさ、千冬さんと寮の部屋か同じってのはどうなのよ?」

 

「だってあの人が決めちまったし、ごねても無駄なんだもん。

なぁ一夏?」

 

「千冬姉自身が寮長でもあるからなぁ。

覆すのは難しいと思うぞ?」

 

「くっ……! 一誠はどうなのよ? 千冬さんと同室なんて息が詰まるんじゃないの?」

 

「餓鬼の頃から散々無茶振りされてきたせいか、ほぼ慣れちまったよ。

世間じゃデキる女扱いされて大変だろうし、素になれる場所や相手が一人くらいいても良いだろ?」

 

「…………。ホント、変わってないわねそういうところは」

 

「怪力ゴリラ女に調教された男の末路だな! ははは」

 

 

 普通、あんな無茶振りばかり振られつづけたら嫌う筈なのに、一誠は言葉こそ千冬に対して乱暴だが、決して拒絶はしない。

 それは千冬と束がヴェネラナを慕っているからというのも大きいが、何よりも今の一誠が千冬を嫌いではないと思っているからなのも大きいだろう。

 

 それを鈴音も知っているからこそ、千冬に対して小さな嫉妬をするのだ。

 

 

「……。決めたわ!」

 

「んぁ?」

 

「突然どうしたんだよ鈴?」

 

「一誠が千冬さんと同室が許されてるのなら、そこにアタシが入っても問題無い筈よ!」

 

 

 でも鈴音は諦めたくはなかった。

 『冷たい雰囲気の一誠』の事を知っている上で、尚も小さく燃え続けるこの気持ちから逃げたくないから。

 

 何より、どう考えても一誠に色んな意味でもたれ掛かっている千冬を見ていると負けたくは無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 一誠は基本的に気の強い女にかなり弱い。

 

 これはヴェネラナ先生も言っていた事なのでまず間違いない。

 本来の記憶を持っていた頃からの一誠の性質は、早い話が、一誠の性質を上から封殺できる気の強さが必要不可欠という事。

 

 その条件を一応クリアしているらしい私と束。

 そして、一夏ではなくよりもよってアイツに惚れたらしい凰鈴音はこの条件に入っているといえば入っている。

 

 そうでなければ、寮部屋に居た私に向かってあんな言葉を吐くわけがないのだ。

 

 

「一誠の負担を減らす為に、私もこの部屋に入ります」

 

「お前が勝手に決める事ではない。さっさと自分の部屋に戻れ」

 

「権限を利用して一誠をコキ使う織斑先生も大概だと思いますけど?」

 

「………」

 

 

 実に痛いところを突いてくる凰を、黙らせる事自体は可能ではある。

 しかし正論ではある……。

 

 

「マジで来たのかよ?」

 

「当然でしょう? 昔から思っていたし、この際だから言わせてもらうけど、織斑先生はアンタが何だかんだで許すからって我が儘過ぎるわ」

 

「お、おいおい……。

それはハッキリ言い過ぎだって」

 

「……………」

 

 

 これも正論だ。

 そう、私は一誠が元の人格に戻る事で私たちの全てを拒絶する事を恐れている。

 だからこそ――まあ、色々と反発してくる今の一誠自身に対して骨があるとつい勢い任せにやらかしてしまうというのもあるが、凰の言っていることに間違いはない。

 

 取り敢えず私は、凰の言葉に顔色を窺うように私を気にする一誠を安心させる為、冷静に返す。

 

 

「実際そうだろうな。

が、コイツとはそんな程度で仲違いする程浅い関係でもない。悪いとは思う時もあるがな……」

 

「え……」

 

「む……」

 

 

 少しの本心で話せば、一誠が意外そうな顔をし、ちょっと感激した様子だ。

 

 

「な、なんだろ? 今の言葉はちょっと嬉しいかも……」

 

「ば、バカじゃないの!? チョロすぎるわよ!」

 

「だ、だってあの理不尽大魔王の言葉とは思えなくてよ……」

 

「ど、どんだけ無茶苦茶言われてきたらそう思うのよ!?」

 

 

 失礼な、言うほど無茶苦茶な事は言っていないし、させてもいない。

 ちょっと掃除を手伝って貰ったり、ちょっと飯を作って貰ったり、ちょっと肩のマッサージをさせたり、ちょっと酌をさせたり、ちょっとだけ私よりも更に年上の女教師に鼻の下を伸ばしていたから、注意してやってただけだ。

 

 凰にそんな目で睨まれる謂われも無い。

 

 

「いやまぁ、さっきもちみっこ鈴には言ったと思うけど、周りから世界最強だなんだって、デキる女扱いされてるこの人にも、素になれる場所や相手が一人くらいいても良いかなって思えば、ちょっとくらいの我が儘は別に良いと思うんだよ。

それに無茶振りって言っても、俺が出来る範囲の内だし」

 

「「………」」

 

 

 多分、本来の人格と記憶を持っていた頃から本心ではそう思っていたのだろう言葉に、私と凰は暫く言葉を発する事なく一誠を見つめていた。

 

 

「束さんもだけど、母さんの手助けをしてくれる人達だしな!」

 

 

 本当に性格こそ真逆であれ、こういう土台だけは同じだとヴェネラナ先生が言っていた通りだ。

 ヴェネラナ先生の本当の娘やその友人達や孫娘がそんな一誠を好いていたのも納得してしまう。

 

 

「でも、そろそろ家事くらいは一人でやれないと、マジで嫁の貰い手がなくなるぜ?」

 

「そうなったら、お前に養って貰うからどうでも良いな」

 

「えぇ? 流石に一生理不尽大魔王の手下は嫌だわぁ……」

 

「あ、アタシは家事できるわよ!?」

 

「ほら、ちみっこにまで負けてるんだぜ?」

 

「………」

 

 

 だからこそ、完全に一誠が元の人格と力を取り戻すことが怖い。

 私達を他人と見なしてしまうと思うと……。

 

 

終わり

 

 

 

 オマケ・もしもこれが三馬鹿だったら。

 

 

 

 例の如く、仲良くシバき合い対決をした結果、吹っ飛ばされてしまった三馬鹿は、運か良いのか悪いのか、日本のとあるお家に墜落した。

 

 そこは、代々政府と繋がりのある暗部の家系だとかなんとかで、そこの当主に拾われてしまう形でご厄介になる事になってしまった三馬鹿。

 

 行く宛もまるでないので、取り敢えず世話になることになった三馬鹿は、現当主の娘で次期当主候補となる少女と、その妹の遊び相手になったり、姉妹の従者として育てられた姉妹とも知り合ったりしながら、すくすくと育っていく。

 

 そして全員が成長し、世の中がISなるパワードスーツが騒がれていく時代に突入した中、三馬鹿は相変わらず三馬鹿のままであり、そんな三馬鹿に影響された娘さん達は絶好調に仲良く人間を辞めてしまっていた。

 

 

「………。わざと?」

 

「ち、違うぞ……?」

 

「わざとじゃないのだとしたら、天性の才能だと私は思うわ……」

 

「す、すまん……」

 

 

 次期当主となった少女は、前向きな青年のラッキースケベの被害をほぼ毎日受けたり……。

 

 

「またラーメンばかり食べて! きちんとバランスの取れた食生活をしてくださいとあれほど――」

 

「ラーメンこそ至高。

それに野菜ラーメンだって食べるし、ラーメンサラダも食べているから問題ない」

 

 

 その従者の少女は、ラーメンばっかりな青年の食生活を注意していく内にオカンみたいに世話焼きになってしまったり。

 

 

「ちくしょう、ISなんつーもんのせいで人妻にナンパしにくくなっちまった……!」

 

「実に良いことだよ」

 

「IS様々だー!」

 

 

 

 次期当主の妹は濃すぎる三馬鹿のせいか、別に姉と仲違いなんてする事もなく、従者の妹と共に、フラフラと年上女性にナンパしては失敗する青年に懐いたり。

 

 『誰もIS関連に関わる事なく、そのISを生身で封殺できる領域』へと三馬鹿のせいで到達した事で、暗部としてそこそこ平和に生きているのだ。

 

 

「それより男でISを起動したから、そのままその男がIS学園に入るってニュースでやってたね?」

 

「なぬっ!? それはつまりハーレムコースに自動突入って事か!? なんてラッキーボーイなんだ!」

 

「人の事言えないと思うけどー?」

 

 

 

 三馬鹿と暗部少女達……始まらない。

 

 




補足

記憶と人格と力を失ってるので、基本的に原典に近いキャラに戻ってます。

ただし、執事時代の時点で疑惑のあったマザコンですが。

その2
素直なので、大魔王の無茶振りにもちゃんと応えようと頑張ろうとします。

一人くらい、でっかく受け止められるような奴が大魔王さんにも居たって良いじゃないかと。





最後のオマケについて……


これは普通にふざけただけですので期待しないよーに。


設定としては、何時も通りです。

当主さんにラッキーセクハラかます神ノ牙くんだったり。

当主さんの従者にオカンされる尻龍帝くんだったり。

妹ズに懐かれる乳龍帝だったり……。


全員もれなく三馬鹿のせいで進化した結果、誰もISに関わる事なく暗部やってしまっているという、ナンテコッタイ状態。

政府の依頼によってちょろっと関わる事はあってもISには乗らないし、生身のほうが全員強いので関心も薄いという。

そして、暗躍してそうな組織はどれもこれも更地にされたとかなんとか……。

……ね、要らんでしょ?

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