つまり……強すぎてニューゲームみたいなそれ
強引に――殆ど一方的な契約が原因で、摩訶不思議な世界へと飛ばされたとある三人の青年は、癪に思いながらも帰りたいので、契約通りに行動しようと当初こそは思っていた。
しかし、あの出会いにより三人の青年の運命は変わってしまい、結局三人の青年は契約通りの行動は不可能になってしまったばかりか、本来はその契約の要となる、同じく未来からやって来た青年からは完全に化け物だと恐れられてしまうし、挙げ句の果てには敵対するまでに至ってしまった。
その青年と敵対してしまった時点で、最早契約通りの帰還は不可能。
だが、三人の青年は『もう二度と帰ることは出来ないかもしれない』を覚悟で、出会った金髪の少女と彼女の仲間達の為に、戦う事を決めた。
その結果は、災厄だ世界の癌だと言われ続けた三人の青年の『全力』による蹂躙になった―――のかはわからない。
何故なら三人の青年達は、その世界に飛ばされる事で失っていた力を取り戻したばかりか、更に先の領域へと到達した事で―――早い話がゴリ押し気味に元の時代へと帰還する事ができたのだ。
そして結局は強引に契約を結んできた――青年達曰くの『筋肉モリモリマッチョマンの変態』の人選ミスでしたというオチで、無事に元の時代へと戻って来た三人の青年は動き始めた。
これまでの人生の清算の為に。
更なる領域へと、異世界にて出会った少女達と共に到達する事で超越した力を合わせ、ねじ曲げる事になったとある男への『ケジメ』を着けたのだ。
そして全ての清算が終わった後、青年達の人生は改めて始まるのだ。
今までと変わらない、馬鹿をやりながら自由気ままに生きていくに加えあの時別れた筈の少女と、少女の仲間達とのこれからを……。
意外と大きめの冒険を経て成長した、通称三馬鹿と呼ばれし神滅具保持者の青年達は、あまりにもねじ曲げられた世界にした元凶を永遠に葬り去った事で、本物の自由を勝ち取れた。
とはいえ、これからもやることは基本的に変わらない。
好きな服を着て、好きな場所で遊んで、好きなものを食べて、たまに喧嘩をする。
互いを親友と思う者同士で気儘に生きていくのが三馬鹿達の当初からのライフスタイルであり、その邪魔をする者は誰であろうとぶん殴る。
そんな本能の赴くままに生きている三馬鹿達だが、以前と少しだけ生活が変わっている。
それは、とある筋肉モリモリマッチョマンの変態によって飛ばされた『摩訶不思議な世界』で出会った、三馬鹿の内のひとりで神牙と呼ばれた青年のご先祖様の女性バージョン――としか説明のしようがない人物。
曹孟徳である少女とこれまた性別が全部逆転している仲間達との出会いと、過ごした日々――そして別れを経て、男として三馬鹿は進化を果たし、結果帰還後に全ての清算を行えたのだが、その清算後にまさかの事件が発生した。
早い話が、彼女達が今度は三馬鹿の様にこちらの世界に飛ばされたのだ。
曰く、筋肉モリモリマッチョマンの変態としか思えない奴に、『色々な意味でこの世界は終わってしまったから、貴女達をまずは彼等と同じ場所に連れていってあげる……』と、聞こえは良いことを言っているが、実際は契約を果たさないばかりか強引に帰り、更には彼女達をその筋肉男の贔屓にしている人物ではどうにもならない領域へと引き上げてしまった為、イレギュラーとして三馬鹿達に渡してしまえという、随分と身勝手過ぎる理由で飛ばされたらしい。
それを当初聞いて察した三馬鹿は、取り敢えずあの筋肉モリモリマッチョマンとその仲間らしい連中を八つ裂きにする事を誓いつつも、親しくなった少女達とこんな形になってしまったとはいえ再会出来たと喜んだ。
そして彼女達には、姓と名と字を封印させ、真名のみ名乗らせるように頼み込んで了承させると、まずは彼女達を三馬鹿達の保護者である堕天使の男に紹介する。
過去の異世界で性別が逆転した三国志の登場人物と知り合ったと、聞いていた堕天使の男は驚きつつも、彼女達を迎え入れてくれ、自身のポケットマネーで衣食住まで提供してくれた。
これにより、取り敢えず彼女達の生活は保証される事になり、現代の常識やら何やらを教えてていく。
それから、堕天使の男によって彼女達もある程度現代の常識を身に付けていったのだけど、そんなタイミングで今度は三馬鹿の一人……イッセーにトラブルが発生する。
それは、過去の清算を果たし、それによりある意味で解放された――三馬鹿と呼ばれるより前にイッセー自身が大切に思っていた者達が、既にイッセー自身が過去の因縁を振りきっているとは知らず、連れ戻しに来たと宣ってなだれ込んで来たのだ。
『自分達を助けてくれてありがとう、もうアナタを傷つける者は居ないわ!』
だの。
『今度は私たちがイッセー君を絶対に守ります!』
だとか。
『ごめんなさい、先輩を傷つけました。
でも、今度は間違えませんから……!』
とかとかとかとか。
主にかつて仲間だった悪魔の少女達が、まるで意識が幽閉されていた自分達をイッセーがそれでも助けてくれたと云わんばかりに、イッセーの顔が死ぬほど嫌そうなそれになってるのにも気付かず、一方的に帰ろうと言ってきた。
そもそもイッセーは彼女達を助けるつもりもなかったし、元凶の男を葬り去ったら元に戻るというのも知らなかったし、彼女達が所謂『正気』に戻ったのも単なる副産物で、今更言われても非常に困るだけでしかない。
何故なら、彼女達に裏切られて捨てられてから得た繋がりの方が遥かに強いし、まず神牙と三馬鹿の最後の一人であるヴァーリが、そんな悪魔達の主張にイラッとした顔をしているのだ。
勿論、イッセー本人も今更彼女達に思うことも無ければ戻る気もない。
ヴァーリと神牙と毎日気儘に馬鹿やってる方が楽しいし、何よりもそんな話を傍で聞いていた金髪の少女が許す筈もないのだ。
「ここの所好き勝手に押し掛けて来る様だけど、理由があるにせよ、一度自ら手放しておいて『戻れ』だなんて随分と勝手じゃないかしら?」
並行世界とはいえ、一度は三国の世を治めた覇者にまで到達した彼女はその器に相応しき圧力と覇気を放ちながら、イッセーの隣に立ち、悪魔達に言い放つ。
その気迫に、ただ者ではないと理解した悪魔達だが、見知らぬ女がまるでイッセーは自分のものだと云わんばかりの態度をするものだから、ムッとなりながら何者だと訊ねる。
そんな悪魔達を前に並行世界の曹操――真名を華琳は堂々と、それが当たり前だと云わんばかりに宣言する。
「王であることも、姓も名も字も捨てた今はただの華琳。
アナタ達が拘る一誠とは少なくともアナタ達よりも深い繋がりがあるわ。
早い話が、アナタ達が捨てた一誠を拾った者がこの私で、一誠は私のものって事よ―――おわかり頂けたかしら?」
『………!?』
「言い方が一々高圧的だけど、まあ否定は出来ないな……」
ふんすと、若干ドヤ顔気味の華琳の言葉に、苦笑いしながらも肯定する一誠。
その二人の言葉と態度を見た悪魔達は金縛りにあったかのように硬直し、そして絶望する。
あの男が滅茶苦茶にさえしなければ、将来は最強の兵士になるであろう潜在能力を秘め、更にはその力を自分達にも分け与えられる力を持った一誠の全てが、この訳のわからない金髪の碧眼の――フェニックス家の娘に胸以外はちょっと似てる女とその仲間と思われる者達のものなのだから。
冗談ではないと……悪魔――リアス・グレモリー達は喚いた。
ただでさえあの男を受け入れた結果、世界がねじ曲げられたと正気に戻った連中達から責め立てられているというのに、それを正面から黙らせるには、イッセーという――早い話が、英雄の一人がかつて身内であった事を示さなければならない。
そうでなければ、永遠に陰口をたたかれ続かれる――それだけは嫌だったからこそリアス・グレモリー達はしつこい程に一誠のもとへと訪ねたのに、こんなよくわからない女がその邪魔をする……。
「へぇ……? 英雄の一人である一誠をかつての身内として連れ戻せれば、アナタ達に向けられている堕ちきった評判を回復させられる―――ねぇ?」
「……は? なにそれ?」
「この悪魔……だったかしら? この女達の心の声が聞こえたのよ。
どうやらアナタ自身に対する情があるというよりは、アナタの名と力を利用して周辺の信用を戻すことが大切みたいね?」
「っ!? う、嘘よ! その女のデタラメよ! そんな事は思ってない――」
「ああ、グレモリーさん。
華琳は『近い未来を予知可能な程の察知』が可能なんで、アンタ等が何を考えてるのかも読めるんですよ」
「うっ……!?」
「いや、別に良いですし、打算無くわざわざ来る時点で何か裏があるとは俺も思ってましたし」
「ち、違う……わ、私たちは……!」
「残念ですけど、俺はもう転生悪魔の駒も抜けてますし、アナタの兵士ではございませんから。
協力はできませんし、する気もございません
意外とこれでも忙しい身ですからね」
「ええ、正式な契りも既に交わしているしね。
だからお礼は言うわ――
―――――――――恩にきるわ、アナタ達が一誠を手放してくれて?」
にっこりと、嫌味な程綺麗な笑顔で、最大の皮肉を吐いた華琳に打ちのめされたリアス・グレモリー達は、魂の抜けた表情で、ケタケタ笑っていたアザゼルが手に持っていた小型のリモコンによって強制的に転移させられてしまった。
意外と良い性格をしているアザゼルは、どうやらこうなることを読んでいたから敢えて放置していたらしく、楽しくて仕方ないとばかりにケタケタ笑いながら、華琳の部下の一人だった女性の背中をパンパンと叩いている。
「あっはっはっはっ! サーゼクスの妹のあの顔! 可笑しいったらありゃしねぇ! あっははははっ!」
「お、おう……。可笑しいのはわかったから、そんなに背中を叩かないでくれないか?」
「くくく、おっとすまねぇな。
つい近くに居たもんで……」
「別に構わんが……。
血の繋がりはないようだが、三人の性格によく似てるな」
笑いすぎて喉が渇いてるのか、お茶をガブガブ飲んで居るアザゼルに、背中を軽くたたかれていた、華琳と同じく姓と名と字を捨て、秋蘭という真名だけを名乗るようになった女性は、まだ笑っている三人が割りと高頻度で語っていた義父の男の良い性格さに軽く笑っていた。
「しかし、あの様子ではまた訪ねて来るのではないでしょうか?」
「でしょうね。
簡単に諦めてくれる程聞き分けの良い連中にも見えなかったし」
「では次現れた時は、私めが追い払いましょう! 良いだろう一誠!?」
そんな秋蘭の姉で、華琳親衛隊みたいなポジションに居る一人、春蘭は威勢よく一誠に聞くも、一誠は静かに首を横に振る。
「いや、俺がやるよ。
変な逆恨みでもされちゃ堪らんし、華琳達に変な真似をするってんなら、確実に消さないと」
「今の私なら、あの連中に遅れは取らないと思いたいけど、頼りにしても良いのかしら?」
「任せろ。何時も通りだぜ」
ニッと笑いながら約束する一誠に華琳は満足気に笑みを溢す。
しょっちゅう子供じみた取っ組み合いの喧嘩ばっかりだけど、確かな深い繋がり。
「いっそ、私も身軽になれたし、本格的にしてみようかしら?」
「? 何が?」
「子作りを」
「え……」
「何驚いてるのよ? まさか、酔っていたとはいえ初めてをアナタが取り、合戦前と後も閨に入った癖に逃げる気じゃないでしょうね?」
「そ、そんなんじゃねぇよ!」
「それに、こっちで再会した夜だって、アナタは子供みたいに私に――」
「あーあー!! 言うなっての!! 仕方ねーだろ!? 二度と会えないって思ってたんだからよ!」
「私たちもよ。
まあ、だからあの夜は幸せだったわ?」
「っ!? お、おぅ……そ、そりゃ良かったぜ」
「ふふ、ホント何時まで経っても私に素直になられると弱いわね? そんなアナタを今更あんな連中にはくれてやらないわ……!」
誰にも切れぬ繋がり。
終わり
補足
赤壁でそれはもう覚悟入れた三馬鹿が大暴れしまくったせいで、結果的に恋姫世界がめっちゃくちゃになってしまった模様。
しかもその過程で華琳様達が三馬鹿達の領域に入り込んだせいで、誰も太刀打ち不可能になる。
当初の目論みが全部裏目ったマッチョマンは、そんな華琳様達を強引に帰還した三馬鹿達のもとへと飛ばす。
その事自体は本人達も再会できたので良いのだが、取り敢えずそのマッチョマンとその仲間連中はその内『お礼』をする事にする。
そして、過去の清算によって三馬鹿達は一部英雄視され始めたらしいが、そんな自覚はゼロだし、過去に関わりがあった者達がすり寄ってきたりもする。
でも華琳様達とアザゼルさんが追っ払うので無問題。
そして華琳様は特に一誠との繋がりによって進化し、見聞色の覇気みたいな――それも高次元レベルの未来予知の異常性に覚醒している。
無論、覇王色の覇気的なそれも体得している模様。
続かない