色々なIF集   作:超人類DX

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前々々回の続き……なのだろうか?


やばいな……風邪が直らねぇ。


兵藤一誠(身なりだけ復活)※閲覧注意

 不安だけが残る最低な休日は、帰るなり静ちゃんが髪を切った俺を見て変に感心するリアクションを半無視しながら眠ることで終わり、見たくもないクソ夢にまた魘されながら月曜日を迎えた。

 

 昨日みたいなリアクションを学校の連中共にされると思うとうんざりする気持ちのまま学校に来てみると……。

 

 

「え、だ、誰?」

 

「兵藤……だと……?」

 

 

「……………………」

 

 

 ほら……。大それたイメチェンをするだけで何でこんなリアクションを一々されなきゃならんのだ。

 たかだかほったらしにしてた髪を切って揃えただけなのに、それの何が不思議なんだ……くだらねぇ。

 

 

「随分とシュッとしたなお前……」

 

「……。何だキミも連中と同じリアクションかよ?」

 

「いやそうじゃないが……。

先週末の兵藤と今の兵藤のビフォーアフターが極端というか……」

 

「凄まじくくだらないね。

普段は『居ない者』として扱ってる癖に、こういう時は都合良く取っ払うものなのか?」

 

 

 奉仕部繋がりで先週末辺りからかなり会話の回数が増えた比企谷くんですら驚きつつ、奴等の見せる茶番も良いところなリアクションの理由(ワケ)を教えてもらった訳だが、聞いたところで思うのは『くだらない』の一文字である。

 

 確かに、かなりバッサリ切って目元が隠れないようにしたギャップはそれなりにあると思うが、昔の髪型に戻しただけなのだ所詮は。

 それを寄って集って『誰じゃ貴様は』みたいな顔してヒソヒソしながら見られてもうざいだけなのだ。

 

 まあ、こんな程度の出来事なぞ半日もすれば慣れるし、慣れたらまた居ない者扱いするに決まってるので相手にしない方が良い。

 相手にしてやれるほど俺は連中と親しくなんか無いしな。

 

 

 

 髪型を変えれば印象が変わるとは良く聞くけど、それがまさか兵藤君にも適応されるとは正直な所想像がつかなった。

 目元まで隠れたボサボサした髪は鋤かれ、時折りしか見えなかった目元が完全に見えるだけでも偉く印象が違って見えたのはどうやら私だけじゃないみたいで、普段は絶対に関わろうとも見ようともしない葉山君達が唖然としながらノソノソと席に座ってゲームをし始める兵藤君を見ていた。

 

 正直……あの怖い雰囲気を知らないままだったら素直に今の兵藤君の姿は格好いいとは思う。

 けれど先週の件からヒッキーと良く話すようになり、今も私達と同じくちょっと驚いてるヒッキーと話をしている兵藤君が口にする私達に対するグサリと刺さる言葉のせいで全部台無しになってしまってる。

 

 というのも、今日のお昼休み――つまり今さっき勃発しちゃったお話なんだけど……。

 

 

「結衣最近ちょっと付き合い悪くない?」

 

「あ、ええっと……それは何というか、やむにやまれぬというか、私事で恐縮です、というか――」

 

「それじゃわかんないからちゃんと言ってよ。あーしら友達じゃん?」

 

「う……ご、ごめん」

 

「だーから、ごめんじゃなくって、なんか言いたいことあんでしょ?」

 

 

 お昼休みは優美子達と一緒なのが通例なんだけど、先週の一件でゆきのん……つまり雪ノ下さんとも仲良くなりたいなぁ……とか思って今日のお昼を一緒に食べようって約束したんだ。

 けれどほら……ここ最近になってゆきのんが兵藤君を誘うために此処まで来る様になってから優美子は機嫌をよく悪くしてしまうようになっており、それを直接聞かずとも何と無く分かってしまってる私には『雪ノ下さんとお昼を食べるから』なんて言えず、曖昧な態度をしてしまってるせいでますます優美子の機嫌が悪くなっちゃって……。

 

 そのせいで――

 

 

「ガタガタとうっせーな。

飯ぐらい黙って食えねーのかカスが」

 

『(ビクッ!?)』

 

 

 自分のお弁当を開けず、腕を組ながら座ってた兵藤君の先週の時――までとは言わないものの『若干鬱陶しくてイラついてます』な声で小さく呟いた瞬間、水を打ったように教室内にあった物音がピタリと止んでしまった。

 

 

「な、何よ……!」

 

「ゆ、優美子……!」

 

 

 何時もならこの時点で何も言わずに居る優美子なんだけど、見た目の印象が不審人物から普通の男子高校生変わったせいなのか、席を立った兵藤くんをおっかなびっくりで睨む。

 それを葉山くんがマズイと判断して止めようとしたんだけど……。

 

 

「キミ等が横でピーコラうっせーから嫌でも聞こえてたんだが、何だ?『友達』ってのは主張してれば他人の事情に土足でズカズカ踏み込んでも良いのか? え?」

 

 

 兵藤君は先週私に見せた『全部を真上から見下してる』様な薄ら笑いと瞳で怖じ気づいている優美子と葉山くんに嫌味っぽく問いかけた。

 

 

「なっ……!? あ、アンタにはかんけーないし……!」

 

「…………」

 

「あぁ、全然関係ないな。

けど昼休みという貴重な時間をテメー等のくだらん言い争いをBGMにして飯なんざ食いたかねーんだよ」

 

 

 よく見ればヒッキーが自分の席で『俺は何も知りません』と顔を逸らしているのが見える。

 いや……まあ兵藤君が出張っちゃった時点で止めるなんて雪ノ下さん以外無理だと思うし私も責めるつもりは無い。

 

 

「それにしても友達ってのは良いなぁ? 友達って言葉を盾に他人の事情を聞けるもんなぁ? その事情に人手の必要な面倒な事があっても『あっそ、じゃあ頑張って』で済ませられるもんなぁ?」

 

「なっ……なっ……!?」

 

「ひょ、兵藤君……! 別に俺達はそんなつもりなんて……」

 

「あっそう? ならこの――――ええっと、誰だかわかんねーこのピンク頭に一々事情なんざ聞かずに『用事があるから』って言葉を深く聞かずに気持ちよく送り出してやれば? 『友達』であるキミ等ならできるだろ?」

 

 

 ピンク頭って……それ私の事だよね。

 もしかして名前を忘れてる―――いや、まさかわざと他人フリをしてるとか? ゆきのんから話を聞いているかもしれないし。

 

 

「…………。い、言われてみれば確かに……」

 

「ちょっと隼人!?」

 

 

 何気に初めて兵藤君から優美子達に向けての会話は、騒動の発端だった私を置いてけぼりに進んでいき、優美子と同じく兵藤君を恐れている葉山君が『早く終わりにしたい』といった必死さを感じる様子で納得した態度を取る。

 すると葉山君とは違って負けん気が強い優美子はショックを受けた顔をしながら葉山を見てから、怒りで恐怖を忘れた様子で兵藤君に食って掛かり出す。

 

 

「ていうかあーし等の話をアンタ盗み聞きしてたワケ!? キモいし!」

 

「おいおい同じ事を二度も言わせるなよ。

聞きたくなくても喧しくて聞こえたんだよ―――――チッ、犬に芸を教え込むより理解させることが難しいとはな」

 

「優美子!」

 

 

 食って掛かる優美子を見下すような目で見据えて言う兵藤君に葉山君が割って入る。

 その表情はかなり切羽詰まった様子に私は見えた。

 

 

「………。確かに友達だからって何でもかんでも聞いて良い訳じゃない……。

結衣だって何か事情があって一緒になれないのは聞いてて皆分かってただろ? だったらこんな問い詰める様な真似は止めるべきだと思う」

 

「うっ……」

 

 

 これ以上兵藤君と関わると何をされるか解らない。

 一度でも兵藤君が残す人間とは思えない結果を目の当たりにしてしまってる私達だからこそ、これ以上波風立てるのは得策じゃない。

 そんな気持ちが表情に出しながら必死になって優美子達を説得する葉山君は、私を見るなり『此処は俺が何とかするから早く行け』と目線で訴えられたので私は……。

 

 

「あ、あの……ホントの事言うとお昼を一緒に食べようって約束した子が実は居て、だからその……」

 

「だ、だったら初めからそう言えば良いじゃん……」

 

「う、うん……ごめん」

 

「あ、謝るなし……。

あーしもちょっと頭に血が昇ってたから……ごめん」

 

 

 優美子に謝ってお弁当を持った後、無表情の兵藤君を一瞥して教室から出て行った。

 ……………。なんか、不安しか無いけど大丈夫……だよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 お、おいおい……。

 髪型変えたからなのか? いや、それとも先週の件があったからなのか? 兵藤が葉山グループに喧嘩越しで特攻したこの空気感が物凄い悪くてヤバイんだけど。

 

 

「てか、あのピンク頭もそれくらいの事すら言えねーのかよ」

 

 

 由比ヶ浜を気遣ってるのか、全然知らない風を装って呟く兵藤の言葉に葉山と……誰だったっけ? あぁ、そうだ三浦って女子が睨む様に兵藤を見据える。

 

 

「結衣を悪く言うなし」

 

「あ?」

 

 

 ………………。まさかとは思うが、もしかして元々学校での評判が悪かったのを逆手に取って兵藤は由比ヶ浜を逃がしたのか? だとするならやはり何処か俺に通じるものがあるというか……。

 さっきまで由比ヶ浜に威圧的だった三浦が、兵藤に対する恐怖を押し通してメンチを切ってるのを見てると、由比ヶ浜に向いていた不信感を自分に向けた様にしか見えない。

 

 

「結衣……というとあのピンク頭の事か? へっ、別に悪く言ったつもりは無いが?」

 

「アンタみたいな意味不明男が言うと全部悪口に聞こえるのよ」

 

「ほっほーぅ?

普段は勝手に化物扱いして居ない者扱いしてる癖に、今日はヤケに食い下がるな? 俺から絡んだからか?」

 

 

 巨悪を前に前のボスキャラと共闘する展開――とはちょっと違うかもしれないが、似てると言えば似てる状況である。

 現に三浦を筆頭にあれだけ恐れてたクラスの連中の視線が一気に敵意の籠ったものになってなくも――――いや、三浦のグループだけだな。

 他は『絶対に関わりたくない』ってスタンスで盗み聞きしてるだけだ……俺と同じくな。

 

 

「前からあーしはアンタが気にくわない」

 

「ちょ、やべーって!」

 

 

 とはいえ、兵藤がマジで説明の付かない奴だってのは皆解ってる事なので、葉山含めたカースト上位グループがハラハラしながら再びヒートアップする三浦を止めようとしたのだが……。

 

 

「どうでも良い存在に気に食わないと言われてもねぇ。

ミジンコに嫌われてもどうでも良いのと一緒な心境だわ」

 

「な……!?」

 

 

 兵藤は一切相手にせず、見下しきった兵藤で三浦を見据えてそう言い切ると、周囲の視線を気にせず席に戻って弁当を食べ始めるのだった。

 …………。由比ヶ浜を逃がすためとはいえこれで兵藤の評判は完全にはマイナスゾーンを突き抜けてしまったのは云うまでもなく、昼の直前までは俺に話し掛けてきたのに、それ以降は他人の様に振る舞って俺に話し掛けることも無くなった。

 

 

 

 

 

 兵藤君が髪型を変えたという話を聞いた私は、放課後を楽しみにしていた。

 そして待ちに待った放課後となり、部室に来た兵藤君の髪型は――あの時私を助けてくれた時と同じ髪型でちょっとだけ不覚にもドキっとしてしまった。

 

 

「あ、あのー……兵藤君。お昼休みの時は色々とご迷惑を……」

 

「何が?」

 

「いやいや、昼休みにカースト上位陣に対して突撃をかまして由比ヶ浜を逃がすためにあんな行動に出た事だよ」

 

「……………? だからそれが?」

 

「え……も、もしかして素で優美子達に絡んだの?」

 

「いや、それ以外に何があるのか? 誰だって飯時に喧しかったら文句の一つや二つ言いたくもなるだろ?」

 

「え……い、いや……帰って来た時も優美子から特に何も言わる事も無かったし、兵藤君の事ばかり怒って言ってたから。

私はてっきり兵藤君がが悪役になって庇ってくれたのかと……」

 

「はぁ、何だそれ? そんな真似をわざわざするような奴に見えるのか?」

 

「す、素でやってたのかよ……?」

 

「当たり前だろ。

猿山のボス気取りの声が喧しいからそう言ったまでであって、別に由比ヶ浜さんは関係ないね。ものの次いでだよ次いで」

 

 

「………………」

 

 

 やはり兵藤君ね。

 やっと私の知ってる外見の兵藤君と再会できたというべきかしら。

 これでやっと――

 

 

「あ、そうだ。雪ノ下部長に一つ聞くが、雪ノ下陽乃ってキミの姉で間違いないのか?」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 

 やっとあの時の過ちを正せると思っていた矢先、私の耳に入ってきたのは『兵藤君の口から出てくる筈が無い。兵藤君の声で聞きたくなかった』あの人の名前だった。

 その現実はボーッとしていた私の思考を無理矢理引き戻し、胸の奥から黒い感情が沸いて出てきた。

 

 

「え、雪ノ下陽乃?」

 

「誰その人?」

 

「いや、昨日保護者に言われて髪を切りに行った帰りに偶々チャラ男か何かのグループに一人ナンパされてる女が居てよ。

まあ本当はスルーするつもりだったんだけど、何を思ったのかコイントスして裏が出たら適当に追っ払ってやろうと思ってよ。

で、裏が出たから適当に追っ払ってやったらその女が割りと雪ノ下部長に似てる女で――みたいな」

 

「ほぇ~……何だか漫画みたいだね」

 

「というかお前、ナンパしてる所を助けるとかラノベの主人公かよ……」

 

「別にそんなんじゃねーやい。

俺だってあんなしつこい性格してる女だって解ってたら最初(ハナ)っから横槍入れる真似なんてしなかったさ。

あの女のお陰で半日も時間を無駄にしたしな……ったく」

 

 

 何故、兵藤君の口からあの人の名前が出て来たのか? それは言った通り直接会ったからに他ならず、聞いてみればあの人を『助けた』らしい。

 ふ……ふふ……どうしましょう? 『レイヴェル』という女についてもまだ聞けずに居たというのに……此処に来てまたあの人の幻影が邪魔を……。

 

 

「おい雪ノ下部長? 大丈夫か? 殺し屋みたいな顔してるけど」

 

「っ……な、何でもないわ。

お察しの通り雪ノ下陽乃は私の姉よ……」

 

「あ、そう。その顔付きからして複雑なご事情があるのはマジだったみたいだな」

 

 

 姉さん。

 ……………。また貴女が出てきますか。

 また……また……貴女が……!

 

 

「……。おいおい何を勘違いしてるか知らんが、別にキミの姉ちゃんを口説こうとは考えてねーからな? 正直俺はあの手の女は好かん」

 

「っ……!? ど、どうかしら……?

姉さんは誰からも好かれる人だしアナタだって――」

 

「腹に一物抱えて勝者面してる『カス』なんぞ興味はねぇよ――――――ま、ちょっとだけその性質を『螺子曲げて』やったがな」

 

 

 ふんとどうでも良さそうに鼻を鳴らす兵藤君はハッキリそう言ったけど……私はやっぱり不安しか残らない。

 しかし姉さんですら『カス』呼ばわりなんて……ふふ、やっぱりアナタって傲慢ね。

 いえ、傲慢にならざるを得ないといった所かしら。

 

 

「……。むむ、何かまた変な空気に……」

 

「最早固有結界とも言えるな……てか由比ヶ浜は何で此処に居るんだ? 依頼なら先週解決したんだろ?」

 

「……あ、そ、そうだ。

えっとね休みの時に自分なりに勉強して作ってみたんだけど……はい」

 

「ん? この包みは……クッキーか?」

 

「そ、そう……その……依頼を受けてくれたお礼と言いますか……三人の為に作ったんだけどヒッキーにはそれ以外の意味があってと言いますか……」

 

「はい???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 強すぎる故に孤独。

 人間とは思えない異常さを持つがゆえに孤独。

 かつての一誠くんにはその孤独を埋められるだけの同等の人達が何時だって居たけど、この世界にはそんな人達は一人たりとも居ない。

 

 優秀過ぎる面を見せれば恐怖され。

 異常過ぎる結果を残せば嫌悪され。

 誰からも理解されずにただ一人ぼっち。

 

 

「……………………………。アホらし。やっぱりやーめた」

 

「え?」

 

 

 偶然……只の偶然でそんな人が存在すると知り、考えもせず近付けばどうなるか。

 彼に比べずとも所詮は凡人である私は呆気なく捻り潰される筈……だったんだけど。

 

 

「もう良いや、帰れよアンタ。

考えてみたら知られた所でどうって事なんかねーし」

 

 

 彼は私を……呆気なく見逃そうとさっきまでケタケタと悪魔じみた顔で笑っていたのが嘘の様にシラケた顔で言い放った。

 

 

「な……え……? えぇ?」

 

「何間抜け顔晒してんだ。とっとと失せろって言ってんだよ」

 

 

 興味が無い。

 いっそ清々しいまでに私を見下した顔で言い切る一誠くんに、変態プレイを無理矢理されると思っていた私は表現できない気持ちだ。

 

 

「さ、さっきまであんなに大笑いしてたのに……な、何でまたそんな急にクールに……?」

 

「別に。人格を螺子曲げる時間の方が無駄になると思っただけだ。

そもそもアンタって個体がどう足掻いた所で俺の不利になる事は無いしな」

 

「…………」

 

 

 絶対的な自信。

 私がどんな小細工を弄した所で無駄だとハッキリ宣言する一誠くんに私は何も言い返せなかった。

 

 

「故に何もしない。言い触らしたければどうぞご自由に。

尤も……こんな非現実的な話を馬鹿正直に信じる輩がこの世に何人居るかは知らんけど」

 

「…………」

 

 

 確かにそうだ。

 私だってあんな超上現象を体験した今でもちょっとまだ受け入れがたいし、そもそもこの事実を他人に話して何になるのか? メリットもデメリットも無い。

 でも……。

 

 

「じゃ、じゃあもし……私個人がキミに興味が沸いたと言ったら?」

 

「持たれた所で俺はアンタに興味が無いな。

静ちゃんみたいな保護者力も無い中途半端な貴様なんぞに興味を持とうと努力しても無理だ」

 

「ぅ……こ、此処までハッキリ言われたの初めてかも」

 

 

 同じ土俵に立った筈なのに静ちゃんの方が一誠くん的にはウケが良いみたいで若干ショックというか……。

 

 

「雪ノ下部長のねーちゃんだってのには若干驚いたが、所詮それだけだ。

どっちかと言えば俺の正体を知ったアンタの人生より、あの子の人生に若干の興味はあるね……………比べたらの話だが」

 

 

 ゆ、雪乃ちゃんの方がウケが良いみたい。

 それはそれで喜ぶべきなんだろうけど、どうしよ……初めてかもしれない。

 こんなに雪乃ちゃんに悔しさを感じるのは。

 

 ホント……どうしちゃったんだろ私……こんな初めて会う男の子にムキになって……。

 

 

「解った……解ったよ。おねーさんの負け。

キミには到底勝てる気がしないや……あははは」

 

「俺は最初(ハナ)っから勝負なんてしてるつもりは無かったが?

いや、納得したのならそれで良い。それならもう二度と互いに会うことが無いように祈りながらお別れと行こう――」

 

「いや、それは無理だよ」

 

「あ?」

 

 

 何だろうな、この小学生みたいな気分。

 気になる子につい強気になっちゃうというか……。

 

 

「今決めた。

近い内にキミから私に『陽乃さんの親友にしてください』って膝付かせてやる」

 

「………はぁ?」

 

 

 多分だけど……1度目に全てを奪われた時に這い上がった彼に惹き付けられた人達の抱いた気持ちはこんな感じなんだろうと思う。

 それがいくらヤサグレちゃったとしても、感じ取れる人には感じ取れてしまうんだと思う。

 

 身も心も傷だらけになっていた姿を見て助けたいと奮闘した静ちゃんみたいに。

 

 かつて助けられた雪乃ちゃんみたいに。

 

 そして……圧倒的な差を見せ付けられた私みたいに。

 

 

 一誠くんの記憶の中の人達とは行かないけど、解る人には解る。

 それを教えないと彼は――

 

 

「……。随分と強気だな? 膝付かせるとは何時ぞやの部長を思い出すが……貴様に出来るとでも思っているのか? だとしたらとんだ馬鹿女だな」

 

「むむ……。これでも一応それなりにこれまでの人生を上手く渡ってきたつもり。

だからキミの親友になることだって不可能じゃないもん」

 

「不可能じゃないもんって、何そこで可愛い子ぶってんだよ不細工が」

 

 

 本当の一人になってしまう。

 そうなったらこの世界は簡単に壊れてしまう。

 だから私はこの子の――と思ったんだけど。

 

 

「うぐっ……そ、そんな真正面で言われたのも初めてだよ一誠くん。

キミの判断基準は可笑しいんじゃないの?」

 

「知らんな。

まあ、目が肥えてしまってる感は否めんが、少なくとも貴様程度の顔の女なぞ見飽きてる。

それとも何だ? 自分は優れた容姿でチヤホヤされるのが当たり前だから俺からも認められるとでも思ったか? おいおいおいおい……姉妹揃って笑えるな?」

 

「うぐ……!」

 

「それに何だかなぁ。

一物抱えてる女は総じてビッチっぽいというか……………あぁ、でなけりゃ初対面の小僧相手に嘘っぽい顔でデートしようなんて言うわけねーか。

そっかそっか……貴様はビッチだな。よし、これから貴様をビッチと呼んでやるよ……………おら喜べビッチ」

 

「なっ!? ビッチじゃないよ!? な、何でそんな評価なのさ!」

 

「人の身体にベタベタすり寄ろうとする辺りがまさにそうだろ? さっきまで貴様を無能の雑魚だと思ってたが、ククク、それは訂正してやる。

貴様は情婦の才能がピカ一だぜ……ビィィィィッチ!!」

 

「……………。い、一誠くん……キミ……楽しんで罵倒してるよね私を」

 

「それ以外に貴様と会話する理由があるのか? それに事実だろ?」

 

「ち、違うよ……! というか何故かキミに言われると凄く悲しくなるからこれ以上は止めて欲しい……」

 

 

 ある程度言うことを聞かせてる静ちゃんを初めて凄いと思ったのは秘密だ。

 

 

 

 

 

「――――――的な事が昨日あってな。

ウザいんで取り敢えず思った事を全部突き付けてやったら、終いには大泣きしやがったんだ」

 

「ひ、酷い……!」

 

「お前……その人に何の恨みがあったんだよ?」

 

「別に無い。

強いて言うならしつこい奴は嫌われると身を以て教えただけだよ」

 

「ね、姉さんにそんな事が……」

 

 

終わり




補足


攻略対象・兵藤一誠。

 基本的に言動が辛辣なので、それに折れない心と聖母の様な優しき心で接しましょう。
そうなればごく稀にデレるかもしれない。

 彼の目の前ですぐ諦める言動はNG
その時点で心を完全にはへし折られ、最悪は不登校endになるよ。

 理想としては、彼を押さえ付けられる身体能力……もしくは能力保持者(スキルホルダー)に覚醒さえすれば一気に距離は縮まるが、その解放条件が鬼畜な上に常人ではまず死ねる。


ちなみに彼の理想のタイプは『自分を納得させる程の精神力と強さを持ち、包容力がある人』。

これは、かつてエシル・フェニックスによる我が子と変わらない愛情を貰って育ったが故、それを失ってしまって余計に愛情に飢えているせいである。

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