理不尽で不条理。
関西呪術協会の過激派にカテゴリーされる者達にとって、一切目だけは笑っていない青年の異質な超暴力の前に為す術も無く破壊された。
『どお~もぉ~ そこいらのチンケなチンピラで~っす』
青年はそう自分を名乗ると同時に、話す舌など無いとばかりに、徹底的な超暴力を解放した。
その力はまさにこの世の悪夢そのものであり、自分達が子供であろうが女であろうが、青年の前では全てが押し並べて平等とばかりに破壊し尽くされた。
それなりに自分の力にたいする自負もろとも、ただの災害のようにその目的もろとも破壊されたのだ。
『どうだ、下水道の水は美味いだろ? もっと飲めよ、俺の奢りだから遠慮すんなや? はははは……!』
彼等に恨みを持っている訳ではない。
ただ鬱陶しいからという理由で捻り潰されてしまった過激派達にとって、まさに龍の帝王は『逃れられない災害』そのものだったのだ。
本日は昨日ネギが生徒達の事を引き受けてくれた代わりに、イッセーが生徒達の面倒を見ることになっている。
イッセーが生徒達をコントロールしている間に、ネギは関西呪術協会の本山に向かい、学園長から渡された親書を届けるという流れであり、既に過激派をイッセーが再起不能にした為、何の妨害も無かったらしい。
別に本日訪れた映画村で一騒動起こる――なんて事も無かった。
「後二日もと思うと……最早学園が恋しくて仕方ないぜ」
「その鬱憤に使われた過激派連中とやらは堪ったものじゃないな。
あれからくだらん妨害も無くなったし、主要な面子は潰せたとみても良いだろう」
シネマ村にて観光を行う生徒達のコントロールをそこそこにこなしながら、無事に総本山に着いたと連絡を受けたイッセーは、早く京都近辺から去りたいとぼやく。
嫌な思い出の理由となる畜生共こそ存在してないが、それでもやはり長居はしたくないらしい。
「こうなったら普通に観光してみたらどうだ?」
「観光より渋谷のギャルナンパしてたほうが楽しい」
生徒達が其々楽しげにシネマ内を見て回っているのを、一歩退いた地点でエヴァンジェリンと共に見つつくっちゃべっている。
結局昨日のゲームとやらで、ネギの部屋に辿り着けた生徒が居たのか居ないのかも興味無しなのでどうでも良かったし、シネマ村に訪れている良い感じのギャルとすれ違っても、ナンパする気にもなれない。
どうせなら、過激派とやらの残りが存在していて、今すぐにでも襲撃してくれた方が余程やる気――もとい殺る気も出るってものだ……と、そこら辺の自販機で買ったサイダーを飲むのだった。
余程の京都が嫌いなのは 、京都に来てからのイッセーの行動遍歴を振り返ればよくわかる。
元々行動と思考回路が0か100かの極端なタイプなのに、ここに来てからのアイツは全部が100なのだ。
「なぁなぁ、退屈そうな顔しとるけどどうしたん?」
「ナンパする気も無くしちゃっかし、さっさと帰って大宮でナンパしたくなっただけさ」
「……。そんなに京都が嫌やったん?」
「良いか悪いかで言ったら、あんまり長居はしたくないな――ああ、別に近衛が嫌いとかいう訳じゃなくてな? どうも苦手なんだよね」
「ふーん……?」
其々好きな箇所を見て回っている他の生徒達が騒ぎを起こさないかを見張りつつ、私と適当に見て回るイッセーの態度はあからさま過ぎたのが、偶々近くに居た近衛にもわかったのだろう、微妙に居心地の悪そうな顔をしながらイッセーに聞いている。
それに対してイッセーは、割りとハッキリと帰りたいと言ってしまうし、言わなければ良いのに近衛に対して曖昧な事をいう。
というのも、コイツの言う好きでも嫌いでも無いは、早い話が『仕事じゃなければおたくと関わる気はゼロでございます』という意味なのだ。
普段こそ、この騒がしい連中のノリに乗っているように見えてるし、実際そういう性格ではあるのだが、結局の所はコイツにとって他人でしかない相手は本当の意味ではその手を差しのべたりはしないのだから。
「イッセー君って、いつもは皆と騒いだりするくせに、時々冷たい顔になる気がするんよ」
「人間だからな。俺だって機嫌が悪いときもあるぜ」
「そうや無くて、なんやろな……ネギ君と違って、本当の意味でウチ等の事を見てないというか……。
ただの仕事として割り切ってる気がするというか……」
「…………」
案外鋭いな。
近衛木乃香の断片的ながらも的は射ている言葉に、私はそう心の中で呟きながらイッセーを見てみる。
「ある意味安心だろその方が」
「うーん……。
それで良いと思う子も居るんやろうけど、そうは思わん子も居るし……」
「そう思わせる奴が居ればそうなるんだろうぜ」
「じゃあ少なくとも、今は居ない……?」
「居たら問題だろ寧ろ? つまりそういう事だ」
寂しがり屋の癖に、土足で自分の中に入ろうとする者を嫌悪するめんどくさい男がイッセーだ。
敵を殺すまで攻撃を止めないその狂暴性が本質。
だからコイツの本質全てを知った上で、尚受け入れられなければ意味が無い。
「そっかー……」
「そんな事より、桜咲の奴がさっきからお前さんを向こうから盗み見てるぜ?」
「え、ホンマ!?」
コイツの傍に居るというのは、異常こそが正常なのだから。
「騒がしい子供だな」
「そんな子供に本質の半分を言い当てられしまっていたみたいだが?」
「別に知られようが関係ねーさ。
知られて嫌悪されようが、俺は俺を変える気は無いし、もう変えられやしないからな」
イッセーに教えられた事で、近衛木乃香に気付かれた桜咲刹那が追いかけられているのを目で追いながら、イッセーは自分をこれからも変える事は無いと言い切る。
「俺は生き続けるさ、どんな手を使ってでも。
それが、アイツ等の生きた証になるんだから……」
親友というべき者達によって生き残ったからこそ、生き続ける事がその者達の生きた証になる……か。
コイツに多少の不満を感じる事があるとするなら、女にだらしなくて間抜けでバカ――等ではなく、こういう所だ。
イッセーのいう親友達こそがイッセーの中で自分の命よりも優先される存在であること。
「私が言うことでは無いが、お前の親友達は今のお前の生き方を見て喜ぶのか?」
「さぁな、ひょっとしたら怒られるかもしれねぇ。
けど、俺はこういう生き方しかできない」
もう居ないというのに、コイツはまだ過去に生きている。
だからある程度の付き合いをした者は嫌でも理解させられてしまう。
「
「それも関係ねーよ。
俺に対しての変な幻想が剥がれたんなら――――まあ、一部そうじゃなさ気なのは居るが、それも時間の問題だぜ」
先程の近衛木乃香や、長瀬楓や古菲が少しずつ気づき始めているように……その親友とやらの者達の前では、私でも後回しにされてしまう。
だからつい私はコイツの前では『闇の福音』に戻ってしまうのだ。
「ところでエヴァ? お前、さっきから何食ってんの?」
「ばかうけせんべいだが? 見ての通り、ばかうけせず、真顔で食ってる」
「……………お前、なんて事してくれてるの!? 世紀の大犯罪じゃねぇか!? そ、それにお前、ばかうけだけじゃなく、その手にあるのは――」
「ああ、サッポロポテトだな。
くくく、見ての通り、私は悪の魔法使いらしく札幌ではなく京都で食ってる」
「お、お前は怖いもの知らずか!?」
「少なくとも、昨日の夜、小娘達が騒いでるのも何のそので、私を枕代わりにして寝てしまったお前よりはマシだな」
こんな私を、良い奴だと言い切れるコイツと居るのはやはり退屈しない。
「そ、それは……! だ、だってマジで寝心地が良かったから……。
何でもっと早く気づかなかったと後悔してるくらいに」
「……。お陰でずっと小娘共が半泣きで面倒な事この上なかったぞ」
「ああ、だから今朝から機嫌悪かったのかあの二人は……?」
「今も向こうから此方を見ているじゃないか」
「んー? ………ああ、確かに見てるな。
てかそれよりエヴァ、今晩も部屋来てくんね? 寝心地良すぎるから今日も頼みたいんだけど……」
「………………。お前、自分が今何を言っているのか自覚しているのか? 私にお前と一緒に寝ろと?」
「頼むよ~! 体型こそ残念だけど、そのちんまさが良い感じだって気付いたんだよ。
後、エヴァって俺的に好きな……うーんと、安心するっての? そんな感じの良い匂いもするし……」
「………………………」
「なぁ、駄目か?」
「……………………。ちっ、とことん世話の焼ける奴め。わかったよ、気が向いたらな……!」
「っしぃ! サンキューエヴァ! やっぱり俺、お前の事結構好きだぜ!」
「はいはい、私も結構好きだからベタベタするな……。
さっきから思春期の小娘共に見られて鬱陶しくて敵わん」
だから、もう少し悪いことをしてやろう。
懐いた犬みたいに、体格差のせいで私を抱き上げながら抱き着く
……というか、さっきから黙ってる茶々丸が不穏なんだが、何をしているんだ?
終わり
補足
ネギきゅんは何の滞りも無く普通に総本山までたどり着いたらしい。
けど、親書を渡した際、副担任の存在について聞かれたので割りとどう答えて良いのか困ったらしい。
その2
普通に観光しました。
邪魔も襲撃も無かったです。
その3
極悪エヴァにゃん、ばかうけせんべいを真顔で食べたし、札幌じゃないのにサッポロポテトを食べたり、おーいと言わずにおーいお茶も飲んだ。
そして、普通にエヴァにゃん枕にドはまりしたイッセーに、自覚せず頼まれて微妙に迷ったけど、取り敢えず引き受けたら抱き抱えられて微妙に困った模様。
……ほんと悪い魔法さんだ。