常に追われなくなるというのは、実に気の休まる事だ。
誰に追われる訳でも無い。
誰かが殺しに来るということも無い。
誰も自分達を知らない場所にたどり着けたのは、俺とリアスちゃんにとっての最初で最後の
だからこの幸運の居場所だけはなんとしてでも守らなきゃならない。
例えそこが地獄であろうと、何だろうと……あの子を守れるのであるなら、俺は何も要らない。
だから、力は今でも鍛えなければならない。
悪夢みたいな世界で地の底に縫い付けられた俺がたどり着いた俺だけの
それが、あの子が辿り着いた
その為だったら、俺は人を辞めても良い――いや、辞めてやる。
だってそれこそが、あの子の傍に居られる事に繋がるのだから……。
地獄の果てに堕ちても、あの子は私を守ってくれた。
逃げたけど、捕まりそうになっていた私の前に現れた時からずっと。
弱くて、惨めで、未熟過ぎた私を――時には我が儘ばかりだった私の全てを受け入れてくれた。
もう名乗るその意味も無くしたグレモリーのリアスとしてではなく、ただのリアスとして。
だから私は守られるだけではなくて、あの子を支えられる事を望んだ。
そしてあの子が他の誰も知らない
私はもう悪魔としてはどうしようもない無能なのかもしれない。
あの男と元・仲間達や肉親が私にそう罵倒した通りなのかもしれないし、それももう否定はしない。
だけど、私のこの自由を――イッセーの傍に居続けられる事を邪魔する者は誰であろうとも許さない。
私にとって、イッセーは――私のすべてだから。
中等部に10才前後の少年が教師としてやって来るという話を、リアスと一緒に行う『掃除』の後に学園長と学園広域指導員の英語教師に教えられてたりする用務員のイッセー。
後日、本当にその子供がやって来て2-Aだかなんだかの担任になったらしいが、イッセーとリアスは特に関わることも無かった。
なぜなら、イッセーは教師ではなくて用務員だし、リアスも非常勤の保険医だからだ。
それこそ、その子供先生が赴任した直後に、何かしらのトラブルによって軽傷を負った時にリアスが少しだけ対応しただけだった。
……もっとも後で聞いたら、その子供先生は魔法使いの卵的存在で、大きな魔力の制御がイマイチらしく、くしゃみをしただけで相手の衣服だけを消し飛ばすという、身に覚えはないのに、デジャビュを感じる特性を持っているとイッセーが聞いた時は、二度とリアスをその子供先生に近づかせまいと密かに誓った。
つまり、イッセーもリアスもその子供先生ことネギ・スプリングフィールドとの関わりは零に近いので、赴任してから妙に学園の備品の破損が増えて仕事も増えたという以外は特にどうでも良い子供だった。
さて、そんな子供教師のクラスの生徒として所属している宮崎のどかは、大体二年くらい前にその存在を知った相手である用務員の事をこのクラスの者達に話した事はない。
話せばこの賑やかなクラスメートの事だから、間違いなく弄られるだろうし、彼もあまり自分の存在を知られたくは無さそうだったからだ。
(この前渡した本、読んでくれたかな……)
周囲に存在を悟られず、ただただ黙々と仕事をしている姿を発見してからというもの、のどかは妙に彼が気になって仕方なかった。
だから死ぬほどの勇気を振り絞って初めて話しかけた時の彼からの『何で話しかけてくんだよ……』的なリアクションには軽く傷ついたし、たまに見かけるため息すら洩れる程の美貌の赤髪の保険医と、仲良さげに腕を組ながら駅前を歩いていた時のショックは計り知れなかった。
いや、本当に何でこんなにショックだったのだろうと自分でもわからなかったけど。
「ねぇ、帰りに本屋寄ってこーよ?」
「補習はクリアした」
さて、そんな宮崎のどかは本が趣味で、同じような趣味を持つ友人にも恵まれている。
それが、今話しかけてきたクラスメートの早乙女ハルナと綾瀬夕映である。
どうやら勉強が嫌いで『その気になれば補習落ちを回避できるくせにやらない』夕映がネギからの補習授業をパスし、ハルナと一緒にのどかを本屋に誘いに来たらしいが……。
「えっと、ごめんね? ちょっと用事があるから今日は良いかな……?」
のどかは二人の友人に内心申し訳ない気持ちを抱きながら、二人からの誘いを断った。
その瞬間、夕映とハルナの顔がギョッとしたものに変わる。
「ちょ、ね、熱でもあるの!?」
「いつもののどかじゃないです……」
その内マジで本と結婚するとか言い出しそうな程度には本好きなのどかが本屋に寄るのを断るというのは、余程夕映とハルナにとって仰天する事だったらしく、揃ってのどかの額に手を当てて熱が無いかと心配している。
「そ、そんなんじゃないよ……! はずせない用事があるだけで……」
「本屋寄るよりはずせない用事って……」
「……」
「ご、ごめんね? だからまた明日……!」
妙に勘の良い二人とこれ以上話していたら、ボロが出そうだと思ったのどかは、若干強引気味に二人に告げると、小走りで教室から出ていく。
「ねぇ、どう思う?」
「何かを隠しているのは間違いない」
「だよねー?」
しかし、あまりにのどかが挙動不審だった為に、ハルナと夕映も直ぐにのどかが何かを隠している事を見抜いてしまう訳で……。
「「……」」
当たり前のように沸き上がる好奇心に従う様に、二人はのどかの尾行を始めるのだった。
さて、ハルナと夕映から何とか離れられた――と、思っているのどかは、事前にリアスから聞いていたイッセーの行動パターンを参照しながら探してみると、聞く前は散々探しても見つからなかったイッセーを簡単に発見できた。
「リアス先生の言ってた通りの所を探したら、本当に居た……」
紺色の作業着と黒のキャップを目深く被った用務員――つまりイッセーの姿を発見できたのどかは、リアスとイッセーの付き合いの長さを嫌でも感じてしまいつつ、少し塗装が剥げていた校舎の壁のペンキ塗りをしていたイッセーに近寄り、挨拶をする。
「こ、こんにちは……」
「………………。またキミか、何でわかるんだ……?」
すでにのどかの気配を察知しつつ、無視していたイッセーは、気だるげに振り向きながらペンキ塗りの刷毛をペンキ缶に入れる。
これでも振り向いて返事をするだけでも、のどかにとってはかなりの前進を感じるらしいのだが、イッセーはただただ一般人の生徒に絡まれるのが鬱陶しいだけでしかない。
「この前押し付けてきた本の感想か何か聞きたいんだろうが、生憎5ページまでしか読んでないから、感想なんぞ言えないからな?」
「そ、そんなに本が苦手なんですか?」
「漫画なら読めるがな」
「じゃ、じゃあ、最近流行りのライトノベルというのは――」
「そんなの読んでる暇があったら、リアスちゃんの事を眺めていた方が余程有意義だね」
しれっとリアスに対する惚気をぶちまけるイッセーに、のどかは困った顔で苦笑する。
自分の趣味がほとんど本を読むくらいしか無く、本の事についてぐらいしか会話が成立させられない。
かといってイッセーの趣味はといえば――
『トレーニングと、リアスちゃんと一緒になんかやる以外どうでもいい』
リアスと云々は別にして、思いきりアウトドア派らしいので、あまり運動が得意とはいえないのどかでは付いていけないのだ。
だから、軽く読めそうな本を読んで貰い、そこから本に嵌まってくれたらな……と思ってイッセーが興味を持ちそうな内容の本を持ってくるのだけど、結果はあまりよろしくない。
ならばと漫画の話を振ってみたら、聞いた事のない漫画のタイトルばかりだったりするし、別に読むのが好きというわけでは無い。
つまるところ、宮崎のどかと兵藤一誠はあきれる程に趣味が合わないのだ。
「その前にキミが渡してきた本ならなんとか読んだが……」
「え!? ほ、本当ですか……!?」
「読み終わってから二時間は変な熱が出たが、何とかね……。
感想としては――主人公の幼馴染みが黒幕だったとは思わなくて割りとしてやられたって気分だったな」
「そ、そうですよね!? 私も読んだ時はびっくりしました……!」
しかし、一誠も一誠なりに律儀なので、一応良かれと思って渡してきたのだからと、リアスとドライグに応援されながらも何とか一冊だけは読破したらしく、その事を言った途端、のどかの表情がこれでもかと嬉しそうだ。
しかも、かなり読み込んだらしく、意外な程その本についての会話が盛り上がっている。
無論、イッセーは壁にペンキを塗りながらだが。
こうして上手いこと会話を成立させられたのどかは、そのままペンキを塗り終えて、道具を片付けて去ろうとするイッセーに付いていく事にも成功する。
その時、『え、何で付いてくるんだよ?』とイッセーに微妙な顔をされたが、リアスに言われた通り、気づかないフリをして乗り切るのも忘れない。
「……。何か飲む?」
「え、良いんですか……?」
「俺だけ飲むのも気が引けるからね」
「で、では頂きます……」
「ん」
しかも今日はイッセーから飲み物まで奢って貰えて、のどかの気分はかなり上機嫌になっていく。
自販機で飲み物を買って貰い、そのまま近くにあったベンチに座るイッセーと一緒になって一服するのどか。
ふとここで、『ひょっとしてこれは軽いアレなのでは……?』と思ったが、口に出したら最後、刹那にイッセーから拒否られると思ったので、のどかは思うだけに留めていると、不意にイッセーが口を開く。
「キミのクラスって確か、子供が担任の先生なんだろ?」
「え、あ、はい……ネギ先生って言って、本当に子供です」
「ふーん? 何かの冗談だと思ってたが、マジだったんだ? ちゃんと教えられるのか?」
「意外な程普通に授業はできてました」
「じゃあ俺より頭良いな……。でさ、キミにひとつ聞きたい事があるんだけど」
「? なんでしょうか?」
「………あそこからずっとこっち見てるのは、キミの友達か何かじゃないの?」
「え――――――え゛っ?」
気だるげにイッセーが指を指した先を見たのどかは固まった。
何故なら、そこには先程誘いを断ってしまった友人二人が、何故か妙にわくわくした顔でこっちを見ていたのだから……。
「な、何であの二人が……?」
「友達みたいだな。
なら俺はここで失礼するよ」
「あ、ま、待っ――」
「精々風邪ひかないように気を付けるんだなー」
あの二人が今の自分の状況を見て、どんな事を考えているのかもそうだが、さっさと帰っていくイッセーともっと話がしたかったのどかは、何とか引き留めようとするのだが、イッセーはそのまま止まることなく去ってしまう。
そしてイッセーが居なくなったタイミングでこっちに近付いてきた夕映とハルナにのどかは色々と白状する他なくなるのだった。
ちなみにこの頃、2-Aの教室でバカレンジャー達の地獄の補習ループがまだ続いていたらしい。
こうして、上手くのどかを撒いたイッセーは用務員室に戻ると、そこにはリアスが居た。
「あら、おかえりイッセー? 宮崎さんとお話してあげた?」
「……。俺の行動パターンをあの子に教えたのはやっぱりリアスちゃんだったんだな? 前より見つかる頻度が高くなって割りと困るんだよ。
頭いたくなる本ばっか渡してくるしよ……」
「ごめんなさい、教えて欲しいって言うからついね……?」
「む……。
その謝りかたはズルいぜ。なんでも許したくなるじゃん」
両手を合わせながら謝られてしまっては、イッセーもこれ以上は言えなかった。
仕方ない、だってリアス馬鹿なのだから。
だから、リアスが座っていたソファの反対側でさっきからイッセーに挨拶してる者が居ても、イッセーには見えてすらない。
「あ、あの……」
「でもそのまま許すのは良くないし、今日の夜はそう簡単に寝かせないぜ?」
「それは良いけど、挨拶をしてくださってるのだから、ちゃんと返してあげなさいよ……」
無駄に爽やかに笑いながらリアスの頬を撫でてるイッセーに向かって、何度も挨拶しているのに、ガン無視されているこの者は、リアスの同僚の教師なのだが、ご覧の通りイッセーにとっては特に何でもない人間だった。
「え? ああ、はいはい……こんちは先生」
「…」
なので、リアスに言われてからやっとその存在に気づいたイッセーは、困った顔になっているその者に一応視線を向けるだけ向けて、いい加減な挨拶を返しておく。
そのあまりの格差というか、扱いの差には、一応それなりに慣れているとはいえ凹むものだった。
「何でここに? 来る理由なんて貴女には無いでしょうに?」
「私が誘ったのよ。
年も近いし、結構話も合うし」
「えっと、やっぱりお邪魔でしたよね……?」
「邪魔と思う程、貴女に印象を持ってないので、別に無いです」
「」
「こ、こらイッセー! ご、ごめんなさいね源先生?」
「い、いいんですよ……。
確かにグレモリー先生と比べたら、私なんてミジンコみたいなものですし……」
「そ、そんな事無いですよ? 先生もスタイルは抜群ですし、お綺麗だし……ね、ねぇイッセー?」
「甘く見積もっても、リアスちゃんの10000分の1だな。
なんつーか……ケバい」
「」
ハッキリ言い過ぎな物言いに、ますます凹む源先生と呼ばれた女教師。
リアスとは年の近さもあって仲良く出来ているのが、その繋がりで知り合う事になったイッセーとは未だに壁があった会話ばかりだ。
お陰で、そこそこネガティブ思考になってしまった彼女を誰が責められようか。
「け、ケバい……そ、そうですよね? 私なんてどうせ……」
「イッセー! 先生に謝りなさい……!」
「謝りはするけど、リアスちゃん以外の女なんて全部押し並べて平等に同じにしか見えなくなっちゃったんだからしょうがないじゃん……」
「む、昔はそうじゃなかったじゃないの……!」
「仕方ない、リアスちゃんが可愛すぎるのがいけない」
しかもリアスから怒られてるというのに、さっきから褒めてばかりでいっこうに謝る気配がない。
そして、何度か言われて漸く謝る気になったかと思えば……。
「すんません、ケバいは言い過ぎたので謝りますし、多分一般的に判断したら先生も美人だとは思いますよ?」
「え、そ、そんな……ありがとうございま――」
「まあ、俺は思いませんけど」
「」
一言一々余計なせいで、ますます凹まされる始末。
「ぅ……ひっく……!」
「「あ」」
「そ、そこまで……い、言わなくても……い、良いじゃないですかぁ……!」
結果、生徒達や教師の間では、実に落ち着いた母性的な先生だという評価をされてる源しずなは、初対面の差時点で明らかに自分に対して、そこら辺に落ちたチョークの欠片でも見るような顔をしていたイッセーのせいで……。
「わ、私……兵藤さんの気に触る真似とかしました……? そ、そんなに私が気に入らないんですか? ど、どこが嫌なんですか……? ぐすっ……ひっく……!」
「ど、どうするのよイッセー? 本当に泣いちゃったじゃない……!」
「だ、だったらどうしてここに連れてくるんだよ? こうなるのわかってたでしょう?」
「だ、だって先生が、アナタと普通にお話しながらお茶してみたいって言うから……」
「ここまで言われてるのにそう思うって、この人もよくわからないな……」
「くすん……」
「あー……わかりました。
全部訂正しますよ先生……。
だからめんどくせーんで泣くのはやめて貰えませんかね?」
「くすん……はい」
結果、源しずなはこうなってしまったし、実はこういう感じの人になってしまったことを多くの生徒や教師は知らない。
だって、普段は普通の源しずななのだから。
終わり
ひっそりと用務員をやって、安定した収入と貯金さえできれば良いという考えのイッセーとは裏腹に、宮崎のどかのせいで徐々に用務員の存在が生徒達にも知られてしまう。
それでも徹底的に姿を隠しながら仕事をすることで、絡まれる事は無かったのだが、のどかの友人達はどうにも例外だった。
お陰で、本ばっか読ませてくるし、読む度に変な熱が出るとわかったら、頼んでもないのにのどかの友人の一人が朗読をすると言い出す始末。
「こうして竜誠はハーレム王になり、毎日ヒロイン達とイチャイチャしながら生活するようになりました……と、ざっとこんな内容です」
「……何故だか拒否感を感じてしまう内容だな、その本。それより一々膝に乗って朗読しなくていいから」
「あ……」
そんなに本を趣味にさせたいのかは知らないが、のどかの友人の一人のごり押し気味な行動に対して、紛いなりにも一般人なので、お断り(物理)が出来ずに困ったり。
「これ、キミが描いた漫画なの?」
「漫画研究会に所属してまして、漫画なら普通に読めると聞いて、お試しにと思って……」
「ふーん……?」
逆に漫画研究会の子から渡された自作漫画は普通に読めたり。
「ただいまー……って、今日も来てたのね? ふふ、モテモテじゃないイッセー?」
「勘弁してくれよ……」
そんなやり取りをほのぼのとリアスは嫉妬の欠片も無く見守ったり、やっぱり雑に扱われる友人教師だったり。
そしてお掃除屋さんとしての仕事では……。
「ざっとこんなものね」
「何時もながら、まるで子供の嫌がらせみたいなものの処理ばかりだぜ」
迅速かつ徹底的にお掃除をしていたら。
「お疲れさまです、グレモリー先生! …………と、ついでに兵藤さん」
一々思い込みの激しい高等部所属の裏事情知りの生徒に絡まれたり――主にリアスが。
「え、ええ……ありがとう」
立派な魔法使いを目指す正義に燃える少女には、リアスも微妙に戸惑うらしく、さっきからグイグイと目まで輝かせながらあれが素晴らしいだとかと誉めちぎってくる少女に対して、困った顔で笑うしかできない。
『リアスが悪魔だと知ったら、この小娘はどんな顔をするだろうな?』
(知らんね。
ただ、掌を返したら、その瞬間に殺してやるよ)
逆に、何故か敵視されてるイッセーはといえば、そんな少女がもし掌返しをした瞬間に明日の朝日は拝ませないと思っていたり。
「実は頼みがあるのじゃが……。中等部の修学旅行にこっそり同行してネギ先生のフォローを――」
「嫌です」
「―――お、おぉう、そんなに嫌そうな顔をされるとは思わなんだ……。理由を聞かせても良いかの?」
「そのネギ先生ってののフォローなんてしたくありませんね。
彼がどうなろうが、知った事じゃありませんし」
「意外と子供の面倒見が良いキミなら上手くやれると思うのだがね?」
「自分ではそう思ってませんから。
寧ろ鬱陶しいとしか思ってませんよ」
「その割には孫の遊び相手になってくれるのにかの?」
「それは学園長が特別ボーナスを出してくれるからですよ。
無かったら普通に断りますよ」
意外と男女関係なく子供のハートを掴めるイッセーが特別任務を言い渡されかけて、断ってたり。
でも結局、特別ボーナスが何時もの三倍と言われてしまい、将来は3LKの家でリアスと暮らす事に憧れるイッセーは、本当に嫌々ながら――保険医としてリアスを同行させることを最重要条件にして引き受けてしまったり。
「ボーナス三倍じゃなかったら絶対に断ってたのに、ちくしょう、あのじーさん、伊達に長生きしてねーな」
『金にホイホイ釣られるお前もどうかと思うぞ……?』
仕方なくこっそりと個人で修学旅行の団体の後をついていったり。
「あ! イッセーくん!?」
「げっ!?」
でも普通にバレてしまったり……。
「どうしてイッセーくんが?」
「……………。孫娘が心配で仕方ないキミの祖父にボーナス三倍を約束に、様子を見てこいって言われたもので……」
「えぇ? おじーちゃんも心配性やなぁ……。
でもそれだったらわざわざ個人で来る事なかったのに……? リアスさんもおるんやし」
「キミの担任に存在を知られたくないんだよ……。
ホントならリアスちゃんに近づけさせたくは無かったけど……」
「ふーん? それよりさっきから本屋ちゃん達が驚いた顔してこっち見とるけど……やっぱし知り合いなん?」
「………………。ちょっとだけ」
いきなり知り合いに見つかってそこそこ前途多難だったり。
それからネギや生徒達に向けて放たれた嫌がらせじみた刺客達を密かに処理していく内に、何とかリアスと合流しようとしたのだが……。
「えーっ!? この二人と知り合いだったん!?」
「このかこそ……!」
「い、いやウチは二人とは小学生の頃から知り合いで、よく遊んで貰ってたから――せっちゃんと」
「そ、そんな……。何で言ってくれなかったんですか……!?」
「知るかよ……」
「別に隠していたつもりも無かっただけだし……」
何故かゾロゾロとリアスについてきた生徒達までやって来て騒がしかったり。
「おい、孫娘さんが心配してるぞ」
「!? し、師匠……!?」
「師匠言うな。
もうちょいガキの頃はデキてるんじゃねーかってくらい仲良かったろ?」
「わ、私にも私なりの理由がありますから……! だ、第一その理由だって知っているでしょう?」
「まあ……。
でもあの図太い神経してる子が、今更キミの正体知った所で態度を変えるとは思えないんだがな……」
「よ、世の中師匠みたいに受け入れてくれるわけではありませんよ……」
「そりゃ確かに」
いじらしい弟子を自称する少女に、珍しくイッセーから絡みに行き、久々に話をしてみたら、微妙に孫娘さんに対してこじらせていたり。
「それより師匠とリアスさんこそ、いつの間に宮崎さん達と知り合いになっていたのですか?」
「………色々あったんだよ、色々とな」
「ふーん?」
「…………。そういう何か言いたげな目をするのは変わらないんだな」
「別に、師匠とリアスさんが誰と仲良くしようが関係ないですから。
中学生になったと同時に師匠が私に他人のフリをした事に全く怒ってませんから!?」
「怒ってるだろ」
子供先生の裏で彼等は集うのだ。
どれかが多分本当で、あとは全部嘘。
補足
一応律儀に読む。
読んだ後、二時間は謎の発熱に襲われるけど。
その2
バレました。
しかし、本人は逃げたつもりの模様。
その3
しずな先生は多分マジギレしても良いと思う。
その4
……全部嘘の可能性もあるよ