前回とは関係ないです。
同じ傷を負ったから。
同じ苦しみを押し付けられたから。
自分にとって最も大切だったその全てを奪い取られたから。
生きる為に互いの手を取り合った青年と悪魔の少女は、少しでも共に長く居たいから逃げる事を選んだ。
復讐の炎に燃えたぎった少年は、悪魔の少女を守る為に人を辞め――世界そのものと対峙する覚悟を持った。
自由すらも奪われかけた悪魔の少女は、人を辞めた少年と共に生きたいという想いとその為に自分の全てを棄てる覚悟を持った。
だからこそ、二人は生き延びられたのかもしれない。
生きる為に立ちはだかる存在によって、何度も死にかけても、その執念だけは折らなかったから生き延びられたのかもしれない。
そして、全てがねじ曲げられた悪夢の様な世界から、抜け出せたのかもしれない。
その後、二人がどうなったのかを知るものは存在しない。
生きるという自由と共に生きるという誇りを取り戻す為の終わりが見えなかった果てしなき戦いの先がどうなったのかを知る者も……。
何故なら、少年と悪魔の少女が行き着いた先は――どこでも無かったのだから。
かの学園はかなりの規模を誇っているといえた。
所謂エスカレーター式のマンモス校には普通に通う生徒の他にも、ちょっとした秘密があった。
そんな秘密が秘密裏に夜な夜な処理されていたりするなんて事が実はある麻帆良学園という学校に、ある意味でトップシークレットな秘密を持つ青年と女性が働いていたりする。
一人はひたすら目立たぬ様に学園内の設備の点検や修理なんかを行う用務員として。
一人は、学園の非常勤保険医として。
そして裏の顔として、依頼として学園の侵入者を消す『掃除屋』として……。
麻帆良学園・学園長が抱える懐刀であり、切り札である青年と女性なのだ。
「……………ふぅ」
その日、紺色の作業着と黒のキャップを目深く被った用務員の青年は、どこぞの中等部のばか騒ぎによって少々荒れてしまった教室の窓ガラスの修理を終え、人知れず麻帆良学園校舎の外れに位置する用務員室で一息入れていた。
学園長がわざわざ青年専用として用意してくれた用務員室は自身の寝床でもあり、仕事に使う道具を事務机の上に置いてから椅子に腰掛け、被っていたキャップを外した。
「……」
暗めの茶髪の年若そうな青年は、先程まで行っていた作業の終了を記す日報を作成し、それもやがて終えると、脱力した表情でリモコンに手を伸ばし、学園長から貰った型の古いブラウン管タイプのテレビを点け、ぼーっとした眼差しで見る。
(つまんね……)
しかし色々とチャンネルを変えたが、どれも青年の目を引くような番組はやっておらず、仕方なく可も不可も無い単なるニュース番組で妥協し、垂れ流す形でリモコンを机に置き、頬杖をつきながら暫く視聴する。
すると、視聴開始から二十分程経った頃、不意に用務員室の扉が開く。
「あら、もう終わってたのねイッセー?」
やって来たのは女性だった。
嫌でも目立つ真っ赤な髪を腰まで伸ばし、その容姿は老若男女問わず振り向かせるだろう美貌でありスタイルも文句の付け所がない白衣を着た女性は、青年の名を呼び、それまで退屈そうにテレビを見ていた青年が即座に自分の方を見て、優しげに微笑んでくれた。
「そっちも終わったんだ? ほら、こっち来なよ……リアスちゃん?」
そそくさと椅子から立ち上がり、これまた学園長から貰った黒革製のソファに移動したイッセーと呼ばれし青年が、隣に座ってと促すので、リアスちゃんと呼ばれた女性もまた嬉しそうに微笑みながら彼の隣に座る。
そして座ると同時に、リアスの方からイッセーに甘えるように密着する。
「ふふ、イッセー……♪」
「おっとと……? どうしたよリアスちゃん?」
「別になんでもないわ。
ただ、誰かに追われる事にビクビクすることなく、こうやってアナタと過ごせる事が、5年経った今でも未だに実感が沸かなくて……。
だからあの時みたいに、アナタがこうして居てくれるって確認しないと不安だから……」
そう言いながら、甘えてくるリアスを、イッセーは優しげに微笑みながら肩に手を回し抱き止める。
「ああ、それは俺もだよ……」
互いが互いの存在を確認し合う。
これは出会ってから共に生きると互いに誓い合った時から自然とするようになった、二人だけの営み。
追われる事も無ければ、殺される心配も無くなった現在でも辞めることの無い、二人の繋がりの証。
偶発的にこの世界に迷い込んだ今でも二人の繋がりの強さはあの時と変わらないのだ。
兵藤一誠(無神臓)
備考
リアス馬鹿な最後の赤龍帝。(嘘でもリアスに何かしたら、そいつは死ぬしハーレムなんてどうでも良い)
リアス・グレモリー(正心翔銘)
備考
守られる少女から、支える女性へと進化せし女性悪魔。(甘え癖は変わらない)
これは、流れ着いた世界が『あそこ』ではなくて『ここ』だったらの場合。
「そういえば、例の男の子先生は大丈夫だったかしら? 今日保健室に彼の生徒と一緒に怪我して来たけど……」
「俺はその理由のひとつである窓ガラス修理をしたけど、多分大丈夫だろ」
「あんな小さい子が教師って、この世界の魔法族の試練って別の意味で大変よね」
「まあ、俺は特に関わらないだろうから関係ないけど」
終了
つまりあそこではなくて、ここで用務員と保険医として生存しているイッセーとリアスのお話である。
そして、孤独ルートとなったイッセーとの違いは、まず彼自身が果てしない程のリアス馬鹿なので、ナンパなんて先ずしないし、副担任にもならないし、これまで生徒の目に触れることなく用務員をしてきたので、存在すらあまり知られちゃいないのだ。
別に封印された吸血鬼とも関わりなんてないし、中華娘とも忍者娘とも知り合っちゃい無い。
もっとも、リアスと揃って掃除屋なんて裏稼業を行っているので、そこそこ裏面子とは顔見知りだが、そんな彼や彼女達とチームを組んで仕事をするこもほぼ無かったので、やっぱりかかわり合いは少ない――――――――――――――――――――
――――――――――――筈だった。
(よし、学園長からの依頼、花壇の鉢植え作業も終わったし、早く戻ってリアスちゃんの作った飯でも食うぜ)
『………それは良いが、さっきから物陰からお前を覗き見てるのが居るぞ』
(あ?)
迅速かつそこそこ丁寧な仕事を、黙ってやり続ける姿を見せ続けて早5年。
今では意外な程リアス共々学園長には信頼されるようになったイッセーの姿を、表の生徒達はほぼ知らない。
が、その間に何度か『知られてしまった』案件がある訳で……。
その案件の一人がここ最近、物陰からイッセーの用務員作業を覗き見るようになってしまったのは、何の因果なのか。
自身に宿る最強の相棒である赤い龍ことドライグに教えられて初めて見られている事に気付いたイッセーは、その方向へと視線を向けてみると、確かに慌てて隠れしまった女子生徒が一人……。
「…………」
『あの小娘は確か、前に階段から転げ落ちそうになった所を偶々通りかかったお前に抱えられた小娘だな』
(……。そんな事もあったな。
チッ、かなり怯えられたから、そのまま一生記憶から消してくれると思ってたが、まさか探りをいれてくるとはな――一般人らしいし、助けるべきじゃなかったか?)
慌てて隠れてから、そーっと再び顔を出し、イッセーに見られてると気づいてからまた慌てて隠れる謎の――中等部らしき生徒に、イッセーは当時の事を思い返しながら軽く後悔した。
別に嫌悪してるとかではないし、何なら一週間に二度程は話をするようになってしまったのだけど、こうも毎日覗き見られてるとなると、ちょっと鬱陶しく思ってしまうのだ。リアス馬鹿なので。
「…………」
敵意も向けてないし、害も無いので逆に始末に負えない。
だからイッセーはそんな、女子生徒の隠れている所までスタスタと歩いて近づき――
「………」
「あ……!」
取り敢えず申し訳程度の会釈だけはしてそのまま通りすぎてやった。
何度も言うが、別に嫌悪しているとかではないけど、だからといって無意味に仲良くなる理由もないので、向こうが何かしない限りは基本的にスルーするようにしているのだ。
どうもこの少女はリアスのリサーチによれば、異性が苦手らしく、こうして通りすぎても絡んでくる心配も無い。
だったら何で一応異性である自分の事を探しては覗いてくるのかは不明だが、このまま永遠に他人同士で居た方が一般人である彼女としても幸せに決まっている――と化なんとか思いながら、そのまま歩き去ろうとしたイッセーだったのだが……。
「あ、あ……あの……!」
『おっと、今日は声を掛けてきたな。
意外と速いな……三日振りか?』
(嘘だろ……?)
そんな時に限ってこの女子生徒は、死ぬほど勇気を振り絞りましたな顔しながら話しかけてきちゃうもので、ドライグが少し意外そうな声を出すし、イッセーもちょっと困った。
しかし、周りには誰も居ないし、どう考えても自分に話しかけてきている状況でガン無視するのもどうなのかと……リアス馬鹿で、リアスに害を及ぼす輩に対しては殺戮スイッチが即座にオンに切り替わるイッセーだとしても、出来なかったので、取り敢えず止まって軽く振り向く。
「あ、はい……なにか?」
普段のイッセーなら、ここまで無愛想にはならないし、そこそこ社交的だが、速いとこ戻ってリアスの作った食事にありついてからイチャイチャしたいという予定があるので、手短に終わらせる為に少々無愛想気味の返事になってしまう。
しかし、少女にしてみれば立ち止まって返事をしてくれた用務員の青年の反応が余程嬉しかったのか、前髪で隠れ気味な表情が見るからに明るくなっていく。
「あ、あの……! ひょ、兵藤さんにこの本を読んで貰いたくて、さ、探しました……!」
「…………」
『また本か。
この小娘は余程本が好きらしいな』
そして、持ってた鞄から一冊の――何やら小難しそうで、活字アレルギーのイッセーにとっては最高難易度な気がしてならない本を取り出した少女が、選択した自分の人生の第一歩を今まさに踏み出しました的な勇気を振り絞った様子で、イッセーに差し出してくる。
話しかけてくる時は間違いなく本を渡してくるこの少女は、イッセーがクラスメートのバカレンジャー達以上の活字アレルギーであることを知らない様だが、イッセー自身はそれ以上に気になった事があるので、ちょっと淡々とした声で口をを開く。
「………君がなんで俺の名を? 教えたことは無かった筈だけど」
そう、この少女にイッセーは名も苗字も教えてはなかった。
にも拘わらず、今少女は自分の苗字を呼んだ。
すると少女は恥ずかしそうに目を伏せながら、その理由を告白する。
「リ、リアス先生が教えてくれました……。
用務員さんのお名前……」
「リ、リアスちゃんが……?」
「は、はい……。
用務員さんと仲良さそうに歩いてたのを前に見たので……」
『……。諜報員の才能でもありそうだな、この小娘は』
どうでも良いことを呟いてるドライグはさておき、イッセーはこの少女がリアスに色々と聞いている事を知り、今頃小さくくしゃみを保健室でしていたリアスに対して、なんで喋るのさ……? と思う。
「あ、あの……! 用務員さん――じゃなくて、兵藤さんはリアス先生と……その……!」
「なに?」
「こ、恋人! ……だったりとかしますか?」
「……だとしたら君になんの関係があるんだよ?」
「い、いえ……! リアス先生は『そうだって明確に意識した事はないけど、イッセーは大好きよ』と言ってたので……」
「……? 何か地味に引っ掛かるが、確かに恋人って関係ではないけど、だからって君に何の関係が――」
「じゃ、じゃあ! や、やっぱりこの本を読んでください! この本も私のおすすめなんで!」
「お、おい……!? 俺はこういった小難しそうな本は苦手―――」
「そ、それじゃあまた……!」
「ちょっと待てって……!」
『ほー? 今回な嫌に強引だな? あの小娘の言っていた事が本当なら、リアスの入れ知恵か?』
「何のだよ……? つーかまた訳のわからん小説かよ? せめて漫画にしてくれないと読む気にならないっつーのに」
変な事を聞いてくるし、急にテンションは上がるし、結局イッセーにとってとても時間が掛かりそうな本は渡してくるしで、本当に意味がわからない少女だと、イッセーはペラペラと適当に本のページを捲りながら困った顔をするのだった。
そして――
「や、やりました! リアス先生に言われたとおり、勇気を出してみたらちゃんと渡せました!」
「でしょう? ふふ、それじゃあ次は緊張しないでイッセーとお話できるようにならないとね?」
「は、はい……! で、でもどうして私なんかに手助けを? リアス先生は兵藤さんと……」
「そうね。
でも、純粋にあの子が誰かに好かれるって事が私にとっても嬉しくて、つい……ね?」
「……?」
「さて、それよりも次はあの子が何時も居る用務員室に行ってみましょう? 私がアナタを連れてきたと言えば、あの子も追い出すとかはしないでしょうしね」
「よ、用務員室なんてあったんですね……? 知らなかったな……」
「多分学園長か私か……他教師数名くらいしか知らない場所よ。
それにしても、あの時イッセーが助けた子がアナタだったなんてね……」
「さ、最初は男の人に抱えられてパニックになってしまいましたけど、あの日からずっと頭から離れなくて……」
「あらま……。
イッセーも罪な子ねぇ……」
その少女とリアスが普通に仲良くなってしまっているのだから、暫くイッセーの困り顔は続くのかもしれない。
ちなみにこの頃、とある中等部校舎では、惚れ薬がどうとかで大騒ぎになっているが、この少女やリアスやイッセーは次の日になって知るのだった。
続かない。
「最近放課後になると一人でどこかに行くことが多いです……」
「な、なんの事?」
「……………………怪しいです」
「べ、別になにもしてないよ……」
こんな感じにクラスメートに勘づかれて怪しまれたり……。
「こんは場所を独り占めするなんて、ずるいです」
「だ、だから別にそんなつもりじゃ……」
「それに、男が苦手なのに男の人と居るというのことは――」
「ち、違うってばぁ!」
「………………………………………」
普通に図々しくその少女も押し掛けてくるようになり、普通にリアスと仲良くなってしまうし。
「勉強は嫌いです……補習授業も嫌です、だから暫く匿ってください」
「ここは何時から体の良い避難所になったんだか……」
「す、すいません……あとで言っておきますから…」
「良いよ別に。
それより何か飲むか?」
リアスに懐いていて敵意が無いので、徐々にイッセーの態度も柔らかくなっていったりしたりしても……。
「はは、久々の『掃除』だな?」
「ええ、そうね。
ふふ、久々な事だし、ひとつ教えてあげましょう? ――イッセー!」
「フッ……ああ!」
「す、すごい……あれが二人の秘密なんだね」
「どーんってやって、バーンってしてます」
掃除屋としての姿を見られても……。
「さて、吸血鬼……知り合いに悪戯した礼はさせて貰おうか?」
「ジジィの抱えた奴か……。
残念だが、全盛期に戻っている私に勝ては――」
「ビッグバン――」
「し……な………え、えぇ? なにこれ……?」
「ドラゴン波ァァッーーー!!!!」
「う、うそーん……?」
仇討ちを敢行する程度には仲良くなったからこそ、魔法先生やその協力者でバカレッドと呼ばれてる少女がギョッとしてるのを無視してぶちかまして黒こげにしてやったりしても……。
「…………むむ」
「勉強は嫌いですけど、本は大好きです。
だからイッセーさんも頑張って読めるようになりましょう?」
「この本なら内容も軽いものですし、イッセーさんでも読めますよ……!」
「………………あ、頭がぼーっとしてきた」
本好き達に気づいたら調教され始めたりしても………。
続かない。
補足
ISではなくて、こっちであろうが、基本スタンスは変わらない。
リアスさん馬鹿だし、好かれる時はとことん好かれるし、最初は邪険に扱ってても、根がお人好しなもんだから、その内『知り合い以上認定』するし、『その子達に害が及んだらお礼参りに行く』ようになる。
ただ、圧倒的に関わる相手は限定されてくるけど。
子供先生の活動を完全に外側から見てるだけで。