そして、説得(物理)
基本的に『友達』と認めた相手の為なら殺人すら平気で実行する程度には漆黒の意思を搭載してます。
ただし、壊滅的に女運はないけど。
当たり前だけど、エヴァンジェリンに掛けられた呪いが完全に解除されるという意味については、少なくともこの世界の裏事情を知る者にとってはとてつもない脅威である。
そんな封印解除に手を貸したともなれば、笑って済まされる問題では無い訳だし、もっといえば、得体の知れない力を持った者が少なくともエヴァンジェリンの肩を持っている事もまた『恐怖心』と『不安』を煽る訳で……。
「まあ、学園に施していたエヴァンジェリンへの封印の結界が破壊された時点で、キミが一枚噛んでいたのは予想していたし、そろそろネギ先生達にもキミの力を知って貰いたいから、見逃していたこちらにも落ち度はある。
しかし、エヴァンジェリンの登校地獄の呪いを根本から消し去る事については、流石に見逃せない案件だ。
だから、兵藤先生――キミをここに呼び出した」
一誠はエヴァンジェリンの呪いをどうにかしてしまった犯人として、学園長に呼び出されタカミチ先生を始めとした裏事情を知る方々から絶賛怒られていた。
「参ったのー……精々結界だけが破壊されると思ってたのが、まさか登校地獄の呪い自体を解くとは……。
一体どうやったのか知りたいものだのぅ?」
「取り敢えず、少しずつアイツに俺の血を取り込ませて、呪いに対する耐性を付けて貰ってましたねー……」
「耐性……? それも龍を宿すキミの特異な肉体の性質なのかい?」
「大まかに言えばそうなります。
もっとも、呪いだなんだってのは専門外だったので、完全に解除するにはやっぱり呪いを掛けた本人――もしくはその血族者の血が少し必要でした。
なので……まあ、流石にネギ先生を半殺しにして拉致るってのは可哀想というか、俺がやりたくなかったので、こう……バトルしました感を演出してから、然り気無く彼の血を数滴程頂いたって感じですね」
「だから変な小芝居をしていたという訳かのぅ……」
「ネギ先生の親父を手っ取り早く九分殺しぐらいにしてから拉致ってエヴァに吸血させちまえばそれで終わりなんですけど、それやると後々面倒になりそうだったので……」
『………』
そこそこ物騒な事を宣う一誠の顔には後悔も反省もしていない様子だった。
この時点で、タカミチと学園長は『やってしまった事は仕方ないか』といった諦めにも近い考えだったのだが、他の者達は当たり前ながら平気な顔をしている一誠を非難する。
「キミは事の重大さを理解しているのか!? 麻帆良に封じていた大悪党の吸血鬼の呪いと結界を破壊した事を!?」
褐色肌の男性ことガンドルフィーニが今にも悪即斬でもしてきそうな怒気を放ち、呑気にお茶まで飲んでる一誠を怒鳴る。
それは、声にこそ出しはしてないものの、他の者もまたガンドルフィーニに同意しており、一誠へ非難の視線と殺気が向く。
「あー……結界ってのを壊しちゃった事については割りとスンマセン。
減給は覚悟してますから……」
「そういう問題では無いし寧ろ懲戒免職物だ!!」
「やっぱりそうなりますよねぇ? 参ったなぁ……バイト探すかぁ」
「き、貴様……! 初めから得体の知れない輩だと思っていたが――」
「これこれガンドルフィーニ君、少しは落ち着かんか。
壊してしまったものは仕方ないのじゃし、今更喚いた所でエヴァンジェリンの呪いはどうにもならんじゃろ?」
「し、しかし学園長――」
「そもそも彼の場合、反省しているのは学園のシステムを破壊した事自体であって、エヴァンジェリンの封印を解除する手助けをした事については反省する気は無いみたいだからね――そうだろ兵藤先生?」
「そりゃまあ」
学園長が宥め、タカミチの指摘に対して一誠はもしゃもしゃと饅頭を頬張りながら、あっけらかんと頷いた。
それが余計にガンドルフィーニ達の癪に触るのだが、一誠は言う。
「別にアイツが俺にとって『何の関係もないただのそこら辺に居る吸血鬼』だったら、封印を解く手伝いなんてしませんでしたよ。
でも、腹へってぶっ倒れてた俺に飯を食わせてくれたのはアイツだし、今の職にありつけるようにしてくれたのもアイツなんで、俺にとってアイツは『恩のあるいい奴』なんです。
だから、例えこの世界で、アイツが過去にどんな真似をしたからやべー奴認識されているのかとか、そういう事は俺には関係無いんですよ」
自分で決めたルールに従ったからこその答えだと語る一誠に、タカミチが口を開く。
「あくまで彼女にある恩を返す為にって事でいいのかな?」
「ええ。だから、力を取り戻したアイツがもし暴れたりしたら、その時は俺がアイツを張り倒して止めます。
学園長さんにも恩がありますからね」
言い方を変えれば、他は地味にどうでも良いとも聞き取れる一誠の言葉に、タカミチは困ったような苦笑いを浮かべる。
「集団行動にはまるで向かない性格だよ、やはりキミは」
「だから俺を教師として再雇用すべきじゃないって言った筈なんすけどねぇ?」
「しかし、現状エヴァンジェリンを真正面から抑え込めるのは兵藤先生だけじゃからのぅ?
あいわかった――――今後エヴァンジェリンについては兵藤先生に一任させよう。
もっとも、この場にいる者達に『納得』して貰う事が条件だがの?」
「それは大丈夫っす。
ガキの頃からの唯一の『取り柄』ですからね……ははは」
明らかに話が勝手に進んでいることに抗議をしようとしているガンドルフィーニ達を『納得』させろと命じた学園長とタカミチ。
それはつまり、学園長とタカミチは認めたという意味であり、最後の饅頭を一口で食べてからお茶を一気飲みした一誠はゆっくりと椅子から立ち上がると、ガンドルフィーニ達に向かって――
「平和に解り合おうぜ? ――――――平和によォ?」
どう見ても平和に解り合おうと歩み寄る様な奴ではない表情で嗤いながら、異質な雰囲気を放ち……指をバキバキと鳴らすのだった。
こうして二時間後には誰しもが何も言わなくなった。
一体どんな『平和的な対話』がなされたのかは、その時現場に居た者にしか解らないし、誰も口を開こうとしない。
ただ、その誰しもが一誠に対して『どうにもならない領域の差』を思い知らされ、すれ違っても視線を逸らすようになった事以外は……。
そして何故学園長が、あんなちゃらんぽらんな青年を雇ったのかをこの日思い知ったのだ。
そしてこの日からエヴァンジェリンは『全盛期以上のパワー』を取り戻したのだ。
「一応お前の封印が解けた事や、再封印させない方向に持っていったんだし、もう少し小遣いを上げて欲しいんだけど。
それが無理なら、欲しいのがあるから買って欲しい」
「全盛期を取り戻した今、再封印されてやる程私は間抜けじゃないし、奴等の戯言なぞ聞き流しても問題にならん――が、まあ、小遣いの値上げぐらいは聞いてやろうじゃないか……五千円くらいな」
「ご、五千円かよ……? 労力に全く見合って無いんだけど……?」
「これでも大分譲歩しているんだ。
何度も言うが、お前に全額渡せばくだらん事に使うに決まってるからな」
「じゃあ、エロゲーやりたいからPC買って……」
「学園に大量にあるだろう? まあ、フィルタリングされているから、そんな低俗なものは出来んがな」
「……………」
「マスター、学園に配備されているPCではスペックが低すぎて、イッセー様のご所望されるゲームは不可能です」
「そうなのか? では諦めてくれ。
そういったものは高いからな」
「………………」
それを盾に小遣いの値上げを要求してくるイッセーには、一応の感謝を込めて五千円だけ値上げしたけど、勿論エロゲーの為のPCは買い与えない。
第一、寝床を貸している以上はそんな低俗なものの音なんぞ聞かされたくもないのだ。
「男って生きにきーな……」
「まだ20になったばかりのガキが何を悟った気になっているのやら……」
「ドライグは逆にお前の事を、『600年程度生きた程度の小娘が何を背伸びしとるのやら』――って言ってたけどな? まあ、見た目が完全にお子様だしなぁ……」
「う、うるさい! 少なくともお前よりは年上だ!」
「体型が残念すぎてお姉さんとは呼べないなぁ……」
その気になれば、エヴァンジェリンを叩きのめして給料全額を取り返す事も可能だが、イッセーはただの一度もエヴァンジェリンに対してそういった理由での暴力を振るった事はない。
恩を持つ者に対して――信頼する者に対しては文字通りなんでもする彼にとって、エヴァンジェリンはまさに恩のある者なのだ。
お子様体型についてをおちょくったりはするけど……。
「チッ、そんな事よりも、そろそろ修学旅行の季節だぞ? 今までは学園から出られなかったが、封印から解放された今回は私も行くぞ」
「情報によると京都ですね」
「えぇ、京都?
……それってネギ君に任せて俺は参加しないって出来ないかな?」
「出来る訳ないだろ。
一応お前は副担任なんだぞ」
「京都に何か嫌な思い出でも?」
「まあ、京都っつーか、京都に蔓延ってた畜生共と昔な……」
そして少なくとも、一誠に宿る龍を介して一誠自身のこれまでの半生を知っている程度にエヴァンジェリンは信用されている。
「お前の元の世界の話か? 余程良い思い出は無いらしいが、少なくともその畜生共はこの時代には居ないし、余計な警戒は要らんだろ。
東と西のエクソシスト共のイザコザが理由でもしかしたら京都ではない可能性もあることだしな……」
「ああ、仲悪いんだっけ? 学園長がぼやいてるのを前にそういや聞いたな」
「詳しくは知らんし興味も無い。
私が興味あるのは京都の観光地だけさ」
その異質な力を利用する価値があるからこそ、当初は飯の面倒を見てきた。
そして目的を果たせた今、一誠には用は無くなった筈だが、エヴァンジェリンは引き続き一誠を傍に置いている。
理由は単純に周囲への抑止力となるのもあるが、それ以上にこのまま放置したらこの男はダメになってしまうのではないのかという、変な危惧を抱いているからだった。
「こうなったら、京都美人でもナンパして忘れられない夜を過ごさないと割りに合わないぜ……!」
「イッセー様が京都でのナンパに成功する確率は0.0000001%と出ています」
「0じゃないのなら俺は諦めねぇ!!」
(…………。ダメだ、やはりコイツの金銭管理は引き続き私がしてやらんと、コイツに金を持たせたら確実に堕落する……)
元から女に対してだらしないし、小遣い制の前は数多くの女に騙されて来たのを呆れながら見てきたエヴァは、その内最悪な女に引っ掛かって多額の借金を背負うのかもしれないと危惧する。
(コイツが誰に騙されて痛い目に逢おうが知ったことではないが、そうすることで私に対する敬意を蔑ろにされては堪らんからな……)
だからエヴァは一誠の生活態度の管理をしている。
全てを失い、孤独に生きてきたその辛さはエヴァも分かるが故に……。
「どうせくだらんナンパなぞ出来る訳もないだろ。
お前に懐いている小娘達が常に邪魔をするとかでな……」
「う……確かにありえるかもしれないぜ。
古韮辺りが特邪魔してきそうだから、今のうちに傾向と対策を……」
「そんな悪足掻きをしたところで、私も邪魔してやるから安心しろ?」
「何でだよ!?」
「良いのか? お前は私の監視をしなければならんのだろう? もしお前が女のナンパに現を抜かしている間に、私が盗んだバイクで走り出したりしたらさぞ大変だろうなぁ?」
「お、脅すつもりか……?」
「それでも構わんなら勝手にナンパでも何でもすれば良い。
お前の監視が無い間に、私はカードダス二枚出しもやるし、ハイパーダッシュモーターのコイル二重巻きもやってやるしコンビニで五時間も立ち読みしてやるぞ?」
「て、テメェ、それは凶悪すぎるだろ!?」
「私を誰だと思っている、真祖の吸血鬼にて闇の福音と呼ばれた者だぞ?」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
自分と同じく、人ならざる者へとなった男を傍に置くのだ。
「そんなに女とデートがしたいのなら、私がしてやっても良いぞ? お前としても光栄――」
「あ、それは良いわ。
何が悲しくて色気の『い』の字もないつるぺた吸血鬼とデートせにゃいけな――いでっ!? いきなり脛を蹴るんじゃねぇよ!?」
「お前に言われると無性に腹が立つ! 誰がつるぺただ!!」
「見たまんまそうだろうが!? 奈良盆地も真っ青だっつーの!」
「そ、そこまで平では無いわっ!! ちょ、ちょっとはある! あるったらある!!」
「………マスターの体型は典型的な子供体型とデータにはあります」
「だ、黙れぽんこつロボ!!」
それに、こういうくだらないやり取りが出来る相手が一人くらい傍に居たって良い。
まな板呼ばわりされた事で我慢の限界を迎えたエヴァンジェリンは、応戦する一誠とで頬の引っ張り合いをしながら小さくそう思うのだった。
補足
既にタカミチさんと妖怪学園長さんは、彼の破天荒っぷりを知ってるし、全盛期のエヴァにゃんを押さえ込めるだろうと思ってるので、やれやれ気味に納得しました。
そして、当たり前だが納得しない方々は『説得(物理)』が発動しました。
ちなみに、こうなると女子供関係なくなります。
というか、『敵』と認識した場合は例え彼のドストライクな女性でも潰しに掛かります。
その2
エヴァにゃんは取り敢えずオカン化が進んでるのと、微妙に一誠に色んな意味で引っ張られてます。
具体的には悪い行動のレベルが……。
そして続かないとだけ……