色々なIF集   作:超人類DX

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精々シリーズの更新と共にこれは消すつもりです。

つまりただの悪ふざけなのだ。


※師匠と弟子

 師匠と弟子

 

 

 余計な事をしたから、全てが拗れた。

 

 だからもう、誰にも教える事はしない。

 

 

 そう決めた青年は何の因果なのか、正真正銘この世界の人間として生を受けた者として、ただ静かに――そして誰にもその培った技術を教える事無く孤独に生きるつもりであった。

 

 かつて自分の持つ技術を教えた者達は、今ではただの他人。

 自分を父の様に慕った姉弟も、その特殊な出生が故に少し心配であったが、自分が居なくても、技術を持たなくても、きっと生きていける筈と信じ、一切の接触もしなかった。

 

 そして信じた通り、普通に育った姉弟は無事に今日までを生きていた。

 IS界隈で世界最強と呼ばれるだけの普通の姉と、世界で最初に男でISを起動した普通の弟。

 

 その無事な姿を見届ける事ができた青年は、これからも姉弟の前に姿を見せる事無く、見知らぬ他人として生きていく――つもりだった。

 

 

 けれど運命は――いや、彼が好む好まざる関係なしにかつてその『技術』と『生き方』を見て『記憶』する者は、ひっそりと青年が生きる事を許さなかった。

 

 二度と姉弟に技術を教えない事を条件に……そして何より技術を知らずに育った姉弟を影から守らせる為に――

 

 かつて、何をしても越えられなかった青年への狂気と執念によって到達した天才に見つかってしまってその日から、青年は再び……そして今度は初対面の他人同士として姉弟の前に姿を現す事になる。

 

 天才の裏工作によってISを起動させられ、姉弟が居る学園に――二人目の男性起動者として。

 

 そして、青年は再会するのだ。

 

 師と仰ぐ――記憶し、青年が今も宿し続ける相棒の龍の力をその身に宿した銀髪の少女と。

 

 

 この再会が、ただの影として生きる青年の中で止まり続けていた時間を蘇らせる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男性としては世界で最初のIS起動者であるが故にIS学園に通う織斑一夏は、当初女子だらけで肩身の狭い思いを幾度と無く感じてきたが、漸くそんな学園生活にも慣れ始めた。

 

 それは、幼馴染みの少女や少々の喧嘩を経て友達となった者達が居たからなのが大きいし、何より世界で二番目に男でISを起動したこの学園内では唯一無二といえる同性のクラスメートの存在があったからに他ならない。

 

 女子や幼馴染みにはちょっと聞きにくい事でも、彼になら気兼ね無く聞けるし、ちょっとした相談事なんかもできる。

 

 こういった環境に置かれたからこそ、一夏は改めて同性のクラスメートの存在のありがたみを噛み締める事が出来た訳で……。

 

 だが、そのクラスメートは会話こそ気軽にできるのだが、どこか壁を感じる事が多かった。

 いや、自分に対して遠慮をしているというべきなのか……。

 

 とにかく、唯一の同性クラスメートとして行動を共にしようとしても、彼はやんわりと断って単独行動をするし、昼ご飯の時間になったら誘う前にどこかへと消えてしまう。

 

 だから一夏は中々二番目の起動者――兵藤一誠と仲良くなれずに居たまま今日までを迎える事になったのだが、そんな一誠が、どういう訳か先日やって来た二人の転校生の片割れに対して、それまで見たこともない――なんというか、忠犬を思わせる懐きっぷりを見せた時は心底驚いた。

 

 聞けば担任であり、姉である千冬が教官を勤めたドイツのIS部隊に所属していたらしいのだが、そんな少女と一誠に接点なんてありそうもないと一夏は思うのだが……。

 

 

「では今日はここまでにして、今から昼休みに――」

 

「っし! ラウラ師匠! 飯行きましょう! 飯!!」

 

「うむ」

 

『…………』

 

 

 休み時間となれば、真っ先にその転校生の片割れであるラウラ・ボーデヴィッヒの席へと飛び付き、犬の耳と尻尾でも幻視できちゃう程の懐きっぷりを示している。

 

 

 一夏と比べたら、顔のレベルは落ちるし、別に専用機を持っている訳じゃないし、微妙に取っ付きにくいというか、壁を感じる態度をしていただけに、ラウラに対しては飼い犬のような態度である一誠の態度には、一夏を含めたクラスメート達も驚き半分だし、千冬も教官時代から妙に落ち着いた態度であったラウラが、一誠に対して呆れつつも優しげな表情を浮かべていることに驚いている。

 

 

「まるでボーデヴィッヒさんの飼い犬みたいですわね、兵藤さんは……」

 

「今まで二人目の起動者というのを忘れるくらい影が薄かったのに、ボーデヴィッヒが転校してからはかなり目立つようになってるぞ」

 

「仲良いんだな……」

 

 

 仲良く手まで繋ぎながら、教室を出ていく姿を、果たして単に仲が良いだけなのかという疑問は残るが、とにもかくにも、ラウラが転校してからの一誠は、それまで押さえ込んでたものを解放しているかの如く活発だし、よく笑うようにもなった。

 

 それは、まるで今の彼の姿こそが素であったかのように……。

 

 

 

 

 

 

「私が転校した途端、お前の態度が露骨に変わってると、織斑教官や弟やその友人達から怪しまれているんだが……」

 

 

 そんなラウラは、師匠師匠と犬みたいについて来る一誠を連れて、食堂の券売機で買ったパンと飲み物を持って屋上―――だと一夏達と鉢合わせするかもしれないので、校舎裏の軽い人工森林地帯にて昼食を取っていた。

 

 ラウラが転校して以降――正確に云うと、三年振りの再会以降、目に見えて一誠の態度が昔のそれに戻っている事自体は良いとしても、その前の一誠は、事前にクラスメート達に聞いた限りでは、居るのか居ないのかわからないくらいに一夏と比べる真でもなく影が薄いし、喋ってもどこか壁を感じるものだった……らしい。

 

 それが、ラウラが転校してからは今までが嘘みたいによく喋るし、よく笑うものだから、クラスメート達はただただ困惑するし、そうさせるラウラとの関係は何なのかと興味を持たれてしまう始末だ。

 

 特に一時的にかつてと同じくラウラの部隊の教官をしていた千冬は、一応世界で二番目に起動した男子と知り合いばかりか、犬みたいに懐かれてる事に驚いてるし、いったい何時知り合ったのかと疑問に思われてる様だし……。

 

 

「ラウラ師匠が来るのを糧に今日までこの学園の生徒やってたもんからね。

それに、あの子達に深く関わる訳にはいかないだろ? また人生を滅茶苦茶にしてしまうかもしれないし……。

だから出来るだけ関わらない様にやってきたんだ」

 

「だろうな。

お前にあれだけ執着していた教官や織斑一夏が、今はあんな感じだし。

何より、あの織斑一夏が篠ノ之箒と仲良くやれている事に私は驚きだよ。

……まあ、若干振り回されてる感じではあるが」

 

「うん、だから余計に思ったよ。俺が関わらなければ、イチ坊も普通に友達が作れる子だったんだって」

 

「……」

 

 

 ははは、と苦笑いする一誠の心中に『後悔』しているといったものを感じたラウラは、チビチビと菓子パンを頬張る。

 

 

「だからまさか三年前に師匠が俺の前に現れた時はビックリしたし、正直本当に嬉しかったよ。

あの子の他に俺を知ってる子が居たんだって……」

 

「あの子……『彼女』の事か。彼女は今?」

 

「自由にやってるみたいだよ?」

 

「お前をここに通わせるように仕組んだのは彼女だろう? お前への当て付けにしか思えないんだがな」

 

「そうかな? 俺は師匠の弟子として大手を振ってまたなれる様にお膳立てしてくれたって思ってるけど」

 

「お前の身体の一部を食いちぎって、自分で付けた傷口に移植してまでお前の領域に近づこうとする執念だらけの女が、そんな優しい真似をするとは到底思えないがな……。

かつての織斑一夏と同等に、お前が私を師匠と呼んで寄って来る度に、殺意を見せてたし」

 

 

 『彼女』について苦い表情で語るラウラ。

 自身以外で一誠を知る唯一の人物であり、屈折し過ぎたものを一誠に抱き続ける執念の塊の様な人物――というのがラウラの認識であり、それはほぼ間違いはない。

 

 ただ、その執念を向けられてる一誠だけが呑気に構えているのだが。

 

 

「直接会うとするなら、夏頃になるか……」

 

「多分そうかも」

 

「………。今度はそう簡単にお前は渡さない様にしなければな」

 

「え、あの子結構ほったらかすタイプだぜ?」

 

「……………。お前に限ってそうならないんだよ」

 

 かつての頃から何度も衝突してきた、一夏と並んで厄介だった存在との近い再会を前に、気を引き締めるラウラは、相変わらず彼女を――今は年齢すら逆転しているのに子供認識している一誠にため息を洩らす。

 

 そんなだから余計に執念を持たれるんだ――内心呟きながら。

 

 

「ところで、例の生徒会長やその妹はどうなんだ?」

 

「さぁ……? この時代のたっちゃんとかんちゃんとも一切関わりなんて持ってないし……」

 

「そうか……。あの生徒会長はお前に懐いてたから、気になってな」

 

「はは、そうだったね。

あの子達に余計な事をしちゃったばかりに、従者の子達に迷惑かけちゃったし、この先も関わらないつもりだよ俺は」

 

「……それが本当に正解かは知らないが、そのつもりなら私も合わせるよ」

 

 

 自身で思う過去の過ちに対する罪悪感なのか、罰の悪そうな顔で言う一誠に、ラウラは静かに一誠の背中を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 アイツは――一誠は、かつて行った自分の行動を『間違いだった』と思っている。

 だから一誠は、この時代においては自分の技術を教える事はしていない。

 

 彼女からそう釘を刺されているというのもあるのだろうけど、一誠自身も教えるべきではないと思っているのだろう。

 

 だから教官やあの狂暴だった弟とも一切関わらないし、生徒会長とその妹とも関わってはいない。

 それが果たして良いのか悪いのかはわからないけど、織斑一夏は普通の男子として周りと仲良くやれているのを見ると、少し複雑だ。

 

 

「タッグマッチか……。

今回私は出ないつもりだが」

 

「え、どうして? ボーデヴィッヒさんって専用機を持ってるのに?」

 

「転校したばかりだから、まずはこの学園の生徒の技術がどれ程か見てみたいんだ」

 

「なるほどー

ボーデヴィッヒさんって冷静よね?」

 

「……。そうでもないさ」

 

 

 だが、一誠がそのつもりなら私も付き合おう。

 普通に育った教官や織斑一夏がこの先どう生きていくのかを見守り、時には外敵から影ながら守り、一誠を絶対に独りにはさせない……。

 アイツから貰ったこの力をもっと磨き、アイツの隣に――いや、一歩だけで良いから先に立つ。

 

 そしてアイツの手を取って先の道を歩んだ。

 

 

「てっきり兵藤くんと組んで出場するかなって思ったんだけどねー?」

 

「一誠と?」

 

「うん、だって凄く仲良さそうだし、今まで凄い影が薄かったあの兵藤くんが、犬みたいにボーデヴィッヒさんの後ろをついていくから、そう思ったのよ」

 

「次の機会があればそうなるかもしれないが……」

 

「あ、やっぱり? ねぇねぇ、兵藤くんとはどんな関係なの? 初対面って感じが全くしなかったし」

 

「どんな……か。一言で言うなら師と弟子みたいな関係ではあるが」

 

「あるが……?」

 

「ふふっ、まあそんな安い関係ではないといった所だな……!」

 

 

 

 だって私は、一誠の師匠なんだからな。

 

 

 

 終わり

 

 

 

 

 

オマケ

 

師匠と弟子の放課後

 

 

 実はそれまで寮のお部屋は一人部屋であった一誠だが、二人の転校生によって本日より相部屋となった。

 

 その相手は勿論……。

 

 

「あの時も思ったけど、何でこの学園は二人だけ居る男子を別部屋同士にさせるんだろう?」

 

「ある意味好都合だろう? 今織斑一夏と同部屋になったら困るんじゃないか?」

 

「そりゃそうだけど……」

 

 

 ラウラ師匠だった。

 ちなみに箒と同部屋だった一夏は、まだ男装中のシャルロットと同室になり、その際箒とひと悶着あった模様。

 

 

「私とてお前と同室の方が都合が良い。

訓練の時間なんかもここでなら周りに気を使うこと無く決められるしな」

 

「俺もラウラ師匠となら何の文句もないっすけどね」

 

 

 そうとは知らず、師と弟子関係のラウラと一誠はのほほんと寛いでいた。

 ここでなら、互いに秘めた気質を交えた訓練も出来るし、一誠の中に宿る龍とも気兼ね無くお喋りができる。

 どこかで誰かさんに観られてる気はしないでもないが、それでも気楽なのは変わりないのだ。

 

 

「さてと……」

 

 

 それにラウラはやっと再び可能になったのだ。

 

 

「明日も早いし、今日はこのまま休むぞ一誠」

 

「おっす。

けど師匠……? なんで両手を広げて俺を見るんですか?」

 

「決まってるだろう? お前が()()()の悪い奴なのはとっくに知っているんだ。

だから、よく眠れるようにしてやるのも、師である私の努めだ。

だから遠慮なんてするな?」

 

 

 最早遥かな過去の事になったとはいえ、誰も知らない過去を抱え続けた一誠を師として受け止められる事が。

 眼帯を外して露になる金色の左目と赤き右目で優しく見据えるラウラに、一誠は照れ臭そうに目を逸らす。

 

 

「ホント、昔から思ってたけど、師匠がもしあの時点で俺と同年代だったら、間違いなく口説いてたぜ」

 

「今は同年代だろ? 口説かれた記憶なんて無いんだがな?」

 

「嫌がられたら立ち直れそうもないと思ってさ……」

 

 

 ゆっくりとベッドに腰掛けるラウラの前に膝をつく一誠を、ラウラは引き寄せるように抱き止めると、そのままベッドへと共に横になる。

 

 

「そういう不安がりな所は変わってないなお前は……。

師である私を信じてないのか?」

 

「違う……昔から失敗ばかりしてきた俺だからと思って――」

 

「同じ間違いを起こさせないのが師である私の務めだ。

それに、これはお前が弟子だからやってやってる訳じゃない――――お前にしかやらないし、お前だからこうしたいんだよ一誠?」

 

 

 自分をこの世界の癌と自虐し続けてきた青年を、例えその通りだったとしてもラウラだけはその存在を認め続けるし、師であり続ける。

 

 一誠の抱え続ける全てを受け止める覚悟はとっくの昔から決めているラウラは、成長の足りない身体でしっかりと受け止め、物足りない胸元に顔を埋める一誠の頭を優しく撫でる。

 

 

「お前の居場所が無いのなら、私その居場所になってやる。

お前が弱さをさらけ出せる場所に――だからもっと私に頼れ――だって私はお前の師匠なんだから……」

 

「っ……ははは……。

ホントにどんどん好きになる様な事をポンポン言うんだから」

 

「ふふ、それはお互い様だ……」

 

 

 ただ優しい、師弟だけの時間はこうして過ぎていくのだ。

 

 

「ラウラ師匠の匂いって、安心するから俺好きだよ」

 

「まったく、赤龍帝の癖に、これじゃまるで犬だぞ? ふふふっ……♪」

 

 

終了




補足

ラウラ師匠に対して忠犬よろしくに懐いてる。

理由は、『赤龍帝ストラトス』時代において自分の過去を知ってもちっとも態度を変えなかったのと、当時から一誠が『同年代だったら絶対全力で口説いてたくらいは好きかも』と、ラウラ師匠に対しての好感度が高すぎたのもある。


その2
設定としては、一切自分の技術を教えずに、関わる事も避けてきたので、かつては親しかった者達とも殆ど他人です。

唯一記憶と技術を引き継いでたラウラ師匠と『彼女』だけが一誠としての自分をさらけ出せる相手です。


その3

ラウラたそー……!


続かんよ。……要らんだろうし

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