色々なIF集   作:超人類DX

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苦労人ちーちゃんの冒険(嘘)


進路相談(嘘)

 例年通り、IS学園は学園祭を行う事になった。

 

 本来時間軸とは違い、その学園祭を盛り上げる為に一夏が目玉商品になるといった事も無いし、織斑春人がそうなるといった事も無かったし、刀奈が全校集会で煽る事も無かった。

 

 

『怪我や事故の無い、楽しい学園祭にしましょうね?』

 

 

 妹の簪や織斑春人の向けてくる視線に気づきつつも生徒会長として言い切った刀奈は悠然と壇上から降りる。

 

 そして、去年から用務員としてや保険医として働いている一誠とリアスはIS学園の学園祭が大体どんなものなのかを知っている。

 もっとも、知っているだけで参加したといった事は無かったし、今年の学園祭当日も、学園祭後の後片付けに備えるという意味でお休みをするつもりだった。

 

 「えーっ!? 一般のお客さんとして、今年は来てくれるって思ってたのに!?」

 

「去年以上に若干顔が割れてしまってるってのもあるし、行った所で別に何があるって訳じゃないしな。

それだったらその日はリアスちゃんと久々にどこか行こうかってな」

 

「ここに来れば良いじゃないですか! デートなんてズルいですって!」

 

「知らねーよ」

 

 

 それを用務員に集っていた子供達に話したら、嫌だ嫌だと反対されていた。

 特に刀奈なんかはリアスとデートするから来ないと宣うものだから、余計に玩具を買って貰えない子供みたいにわめいていた。

 

 

「えー、リアス先生来てくれないの?」

 

「私は別にここでデートしても良いって言ったのだけど、イッセーが『邪魔されたら俺が嫌だから』って言うし……」

 

「確かに妨害される可能性は高いですね……主にお嬢様とかからは」

 

 

 

 リアスを慕う布仏姉妹も残念そうな表情で、わいわい言ってる刀奈をスルーしてお茶を飲んでる一誠と、その妨害するだろう筆頭主である主を見つめている。

 あそこまでハッキリとリアス以外の女性にどうのこうのする気なんて無いと言われても尚あんな調子な辺り、根性だけは無駄に据わりきってるとしか言い様が無い。

 

 しかも一誠にしてみれば非常に困ったことに、刀奈の両親自体がそれを知ってる上で反対の『は』の字も無いのだ。

 

 この前刀奈の両親とリアスが会って話までしたというのにも拘わらず。

 

 

「一夏くんと箒ちゃんからも何か言ってよ~?」

 

「イッセー兄さんが来ないって言ってしまっている以上は言っても聞いてはくれないでしょうし……」

 

「リアス姉の事にだけは一切妥協しないってのは昔からですし」

 

 

 シャルロットと仲良く駄弁っていた一夏と箒はその点においてはある意味で物分かりが良い。

 まあ、昔からリアスに粗相を働こうとした男が相次いで次の日に行方不明になってしまう原因を幼い頃から散々見てきて知っているせいで、一誠がリアスの事に関しては梃子であろうが動かないのは解りきってしまっているのだ。

 

 とはいえ、一個上の先輩である刀奈があんまりにも捨てられた子犬みたいな顔して説得に協力してくれと言うものだから、無下にも出来ず、一応言うだけは言ってみたが。

 

 

「どうしても来て欲しいみたいだぜ?」

 

「IS学園の学園祭は事前に生徒に一人につきひとつ渡される招待状で入れるようだから、私と一夏の分を二人に渡せば入れる筈だよ?」

 

「いや、一応紛いなりにも俺たちは職員ではあるから招待状とかは要らんけど。

折角のリアスちゃんとのデートが学校の中ってのはなぁ?」

 

「私は構わないけど? 良いじゃないの、去年だって学園祭がどんなのかも見なかったし」

 

「えぇ……?」

 

 

 どうも騒がしいイメージしか小学校すらまともに通えなかった一誠にはないらしく、静かな場所でめっちゃリアスとイチャイチャしたいという、一誠が本来の一誠と唯一共通するだろう欲があるせいが、中々首を縦に振ってくれない。

 

 

「それに、学園祭という色々なガードが緩くなる隙をついてアレコレが何かしてくる可能性だってあるかもしれないでしょう?」

 

「……まあ、確かにそうだけど」

 

「あれから篠ノ之束は出てこないし、ひょっとしたらひょっとするかもしれないというのは確かに私も考えてはいる。

……本当は二人を頼りにすべきではないとは思っているけど、私達はまだまだ未熟なんだ」

 

「情けない話だけど、安心感がやっぱり違うからさ……お願いできないか?」

 

「……。あーもう! わかったわかりましたぁ! ったく、揃いも揃って……!」

 

 

 こうまで一誠にとっての『身内』に言われてしまえば、流石の一誠も断れなくなる。

 結果、リアスや一夏や箒の援護もあって一誠は学園祭に一応の『一般客』として行く事になった。

 

 刀奈や一夏達が一誠の言葉に全員でハイタッチをしているのを見て渋い顔をする中、苦笑いをしていたリアスが一誠の肩に触れて小さく謝る。

 

 

「ごめんなさいね……? 多分イッセーの事だから、お店とか予約しちゃったのでしょう?」

 

「まあね……。でもそんなものはキャンセルすれば良いだけさ。

ちぇ……久々に甘えモードのリアスちゃんが見れると思ったのにさぁー」

 

「いえ、夜は大体そんな感じだと思うけど……」

 

「会ったばかりの時の方だよ。

あの時のリアスちゃんって凄かったじゃん? 毎日ホント色々と辛かったんだぜ?」

 

「あー……。それって重いって意味かしら?」

 

「違う違う、すっげー密着されてて制御するのが辛かったって意味。

ホント、あのカス野郎はなんでリアスちゃんを毛嫌いしてたんだろうね? やっぱ目玉が腐ってたとしか思えねぇわ」

 

「仮に気に入られてたらそれはそれで地獄だわ」

 

 

 子供達がわいわいやっているのを二人で眺めながら、自分達が一夏達くらいの年の頃を思い返して笑う。

 なんだかんだ、共に生きる為に戦いを放棄した現在――二人は幸せだったりする。

 

 

 

 

 

 一夏と箒――そして刀奈も、最早どうする事も出来ない場所に居る。

 自身の力を破壊した一誠に宣言された春人はもう、刀奈に近づく事すら出来なくなった。

 しかも、一誠の言った通り、千冬と簪があの日以降、確かによそよそしくなっており、特に千冬に関しては周囲の者達が寧ろ『何があった?』と思うレベルで大人しくなっていた。

 セシリア、鈴音、ラウラといった者達は依然として春人の味方なのだけど、変わった千冬に対しては『寧ろ好都合』だと気にも止めない。

 

 

「教官もやっと弟離れをしてくれたという事なのかもしれんな」

 

「でしたら今がチャンスですわね」

 

「ええ、今の内に春人を……」

 

 

 未だに影も形も掴めない用務員の事を取り敢えず横に置いておいての話し合いに春人は何も言えない。

 

 

(アイツだって同じだ……同じなんだよ……!)

 

 

 一誠こそ自分以上に酷い奴だ……なんて思いながら。

 

 

 

 

 右に行きたくは無いけど、左側からは拒否られてしまっていて、まさに右も左も行けない状態である織斑千冬は、今まさに『非現実的な光景』を目の当たりにして絶句している。

 

 

「ははははっ! 良いぜリアスちゃん! また『壁』を越えてくれたんだな!? やっぱリアスちゃんは最高だぜぇっ!!!」

 

 

 冷徹な顔しか見たことの無い用務員が、心底楽しげに笑いながら、左腕にISではないらしい何かを纏い、全身から赤く輝くオーラの様なものを放出させながら、赤髪の保険医であるリアスと、そこかしこを壊しながら戦っている。

 

 

「ずっとアナタと一緒に生きると決めた時から、疎かにはしなかったからねっ!!」

 

 

 そのリアスも、一誠と同じ色のオーラを放出させ、両手から輝く光弾を生成しては投げつけたり、接近戦を仕掛けてくる一誠に対応し、しなやかな動きで捌いていく。

 

 

「こ、これは本当に現実なのか……?」

 

 

 先日束のけしかけて来た無人機によって破壊されたまの訓練場にて、千冬はポツリと目の前の光景に対して無力感にも近い心境で呟く。

 

 

「二人とも、また進化したな……」

 

「ああ、気合いを入れ直さないと、二人に置いていかれてしまうぞ?」

 

 

 そんな千冬の横には、見慣れている様な態度で――されど真剣な眼差しで二人の鍛練というには殆ど殺し合いにしか見えない戦いを見ている。

 

 それは一夏と箒だけではなく、刀奈や虚や本音――――

 

 

「あ……リアス先生が勝負を仕掛けましたね?」

 

 

 そして、普通に二人のぶつかり合いが見えてますなコメントをしている後輩の山田真耶までもが……。

 

 

「な、なあ山田先生?」

 

「はい、何でしょうか織斑先生?」

 

 

 ドジでおっちょこちょい………な筈の真耶が一誠とリアスの戦いから目を離さないまま、千冬に返事をする。

 そんな真耶にちょっと戸惑いながらも、千冬は訊ねる。

 

 

「私には二人がぶつかっては消え、一瞬だけ姿を捉えたと思ったらまた消えてる様にしか見えないのだが、山田先生はその……見えるのか?」

 

「最初は殆ど見えませんでしたけど、今は何とか見えるようには……」

 

「…………」

 

 

 嘘だろ? と千冬はいつの間にか後輩ポジの副担任が、人外の領域に到達していたという現実に、なんとも言えない顔になるしかなかった。

 

 

(あの二人に一夏は……。

はは、なるほどな――じゃあ私なんてもうどうでも良いと思うよな)

 

 

 しかし、だからこそ悟った。

 世界最強だなんて呼ばれている自分では足元にすら届かない遥かなる領域に、一夏は既に到達していて、最早自分なんて他の人間と同じなんだとしか見なされていた。

 

 故に、今更何をしようが一夏にとっては『関係ない事』だと思われても仕方ないのだと……。

 

 

「っ……!? 肩に一撃貰っちまった……俺の敗けだなリアスちゃん?」

 

「はぁ……ふぅ……。

私が相手だから、一誠は本気になれなかったのでしょう?」

 

「それだけキミが強くなったって事だよ。

ふふ、俺は嬉しいよ……」

 

 

 

 何時までも続くと思った模擬戦は、リアスの放った消滅の魔力の一撃を防ぎきれずに肩に貰ってしまった一誠が自ら敗北を認める事で終わる。

 

 

「というか、私の魔力を受けておいてちょっとの擦り傷で済ませられる辺りはさすがよ?」

 

「咄嗟に俺も消滅の魔力で相殺したつもりだったんだけど、相殺しきれなかったんだよ。

リアスちゃんから貰った力だし、本元のリアスちゃんには質では敵わないぜ」

 

 

 

 長年連れ添った様なやり取りをしながら肩から流れる少量の血を押さえながら立ち上がる一誠は、リアスと共に一夏達のもとへと戻る。

 

 

「いやー、負けた負けた!」

 

「でも二人共さっきの試合でまた壁を越えただろ?」

 

「ええ、何回越えてもいい気持ちだわ……コレは」

 

 

 肩から出血していた傷が、ヘラヘラ笑いながら一夏達と話をしている内に、塞がっている。

 既に一誠に話しかける事はできなくなっているからこそ、すぐに気づいた千冬は、自分と一夏の出生を思い出してしまう。

 

 創られたという出生を……。

 多分一夏もまだ知らない出生を……。

 

 

「今日はここまでね」

 

 

 結局一誠とは一言も会話が無ければ、目すら合わせて貰えないまま、一夏達も参加する鍛練風景を見ていた千冬は、やがて鍛練を終えて訓練場から出ていくのを――――一誠から『消え失せろ』とは言われていなかったので、黙ってついて行った。

 

 

「じゃあお先に貰うわね?」

 

「おーう」

 

「ごゆっくりー」

 

「………………」

 

 

 そして用務員室へと入ると、先にシャワーを浴びに用務員室に備えらている浴室へと女性陣達が行くのを見送る一誠と一夏―――と、取り敢えずまだ居る千冬。

 

 

「んで? リアス姉はどうだったんだよ?」

 

「さっきも言った通り、マジでまた強くなった。

先月までの俺を越えてるくらいにな」

 

「すっげーなリアス姉……」

 

「元々あの子の兄貴は、最強格の魔王になれる逸材だったしな。

同じ魔力を持つあの子もちゃんとその才能はあったんだよ。

しかも、魔力の総量に至っては、その魔王を越えてるくらいだしよ」

 

(ま、魔王ってなんだ?)

 

 

  汚れたジャージをその場で脱いで、軽装に着替え始める一誠と一夏に、慌てて背を背ける千冬。

 どうも、千冬が居ても居なくても相手にはしないつもりなのだが、二人の会話がファンタジーなものだから、千冬にしてみたら変な興味が沸いてしまう。

 

 

「本当は俺がもっと強ければ、リアスちゃんに付き合わせる事も無かったんだけどな……」

 

「でもリアス姉は、イチ兄と同じ領域になり続けたいって言ってたぜ? 守られるだけなのも嫌だって」

 

「そこなんだよなぁ……。はは、だから俺はリアスちゃんが大好きなんだよ。

実際、あの子は俺と同じ領域まで来てくれたしな? ふふ、ホントに俺は、あの子と出会えたってだけでこれまでのクソみたいな人生を逆転させられたって思えるよ」

 

「…………」

 

 

 言葉の節々から、リアスが好きすぎてしょうがありませんな一誠に、独り身の千冬は恥ずかしくなってもじもじし始めてる。

 

 

「あう……」

 

「……………。まあ、イチ兄がそう思う以上にリアス姉も思ってるだろうぜ? 俺達もそうだしな」

 

 

 それに一夏は一応気付いたのだけど…………そっとしといてあげることにした。

 

 

『ぐぬぬ……! リアス先生のおっぱいにはまだ及ばないのは納得するけど、山田先生と箒ちゃんにまで負けてるなんて……! ギリギリで虚ちゃんにも負けてるし、唯一拮抗するのがシャルロットちゃんと本音ちゃんかぁ……』

 

『わ、分かったからそんなに揉まないで……!』

 

『さっきからお嬢様ばっかしずるいよー! 私にもリアス先生のおっぱい触らせてよー!』

 

『本音っ!! やめなさい! ……あ、でも本当に柔らかい……』

 

『な、何で私まで……』

 

『と、というか全員して触りっこ状態なんだけど……』

 

『や、やめてください~!』

 

 

 浴室から、女性陣の艶かしい感じの声が聞こえるし。

 

 

 

「声が丸聞こえなんだけどイチ兄……」

 

「そっとしとけ……。ただ言える事は、リアスちゃんがナンバーワンだ」

 

「いや、箒もすげーんだぞ?」

 

「ふん、まだまだひよっこだっつーの。

そもそも、お前等くらいの時からリアスちゃんはパーフェクトだったぜ?」

 

「それは聞き捨てならないぜイチ兄!!」

 

「んだと? やるか一夏!?」

 

 

 こっちはこっちで推しにしてる相手の胸談義がヒートアップしてるし。

 

 

(私って本当に……欠片も関心を持たれてないんだな)

 

 

 右側には最早戻りたくない。

 されど左側の筆頭からは『失せろ』と言われてしまっている。

 千冬は小さくなりながら、自分のやってしまったことを後悔するのであった。

 

 

 

 

 

 

 話し掛ければごく普通の返答だけはしてくれる一夏。

 話しかけたところで何も返さないが基本な一誠。

 

 つまり、千冬的にはどうにもならない二人とは逆に、女性陣達からは同性のよしみというのもあるのか、会話等は普通に可能だった。

 

 

「ここに居ても、あの二人は私には目もくれなかった。

……当たり前だけど」

 

 

 入れ替わりでシャワーを浴びに浴室へと消えていった一誠と一夏と何があったのかを肩を落として暗く話す千冬に、リアス達は察したような顔だった。

 

 

「昔の一誠だったらもう少しフレンドリーな対応だったのでしょうけど……。

ニコニコしながら叩きのめすって感じで……」

 

「そっちの方が今より恐ろしいじゃないですか……。

いや、一夏が今まさにそういう方向なのかもしれませんけど……」

 

「一夏は関わり合いたくないだけだと思います。

余計な事に巻き込まれたくないんですよ」

 

「そう思わせたのは私たちのせいなんだよな? …………ハァ」

 

 

 ブリュンヒルデ……と呼ばれている覇気は今の千冬には皆無で、ただただ過去の事を悔やむ一人の若者でしかなかった。

 

 

「更識もあれから近づきもせず、孤立してしまったみたいだし……」

 

「ウチの両親が、近々普通の公立高校に転校するかって話を簪にしてみるみたいです」

 

「そ、そうなのか? ………いや、彼女にとってその方がいいのかもしれん。

結局『奴』はお前に近づく為に妹の方を利用していただけだったみたいだしな……。

それにある意味で気づかせてくれた彼にすがろうにも、彼自身はああだし……」

 

「一誠さん曰く、『俺に近寄らなければ何をしてようが

関係ないだろ』とは言っていましたけど、それってつまりはどこまでいっても他人と見なされてるって事ですもんね……」

 

「…………」

 

 

 生徒としてもそうだけど、ある意味自分と同じ境遇である簪を個人的に心配する千冬。

 織斑春人以外がどうなろうが関係ないという考えにまで到達しかけていた頃を思えば、確かに今の千冬は正気だった。

 

 

「簪が一誠さんに『ヒーローみたいだった』って言った時、本気で激怒しましたからね」

 

「一誠は自分の事を『ヒーローなんて気取れる人間じゃないし、エゴで動いてるだけ』って昔から言ってたわ。

その一誠曰くのエゴに私は助けられたのだけどね……?」

 

「要するに、一誠兄さんはアナタや更識が陥った境遇に対して全く同情はしないとは言わないけど、助けろと言われても助ける気には到底なれないって事ですよ」

 

「…………」

 

 

 箒のハッキリとして言い方に、千冬はリアスに入れて貰った紅茶を一口飲みながら、背中を丸める。

 

 

「それが例え傲慢だと言われようともね。

まあ、流石に目の前で誰かに殺されそうになっているとなれば、話はまた変わっては来るでしょうが……」

 

「え……? だ、だが彼はこの前言ってたぞ? 『アンタ等がどこの誰かに拐われかけてるのを見たとことで知った事じゃない』って……」

 

「そう言いはしますが、本当に何もしない事はないですよ。

まあ、ブツブツと『自分の甘さに反吐が出るぜ』と悪態はつくでしょうがね……」

 

「ず、随分と篠ノ之は彼の事を理解(ワカ)っているのだな?」

 

「一誠兄さんの生き方を私は目指していますから。

それに、元から考え方は似てますよ。

アナタの友人である篠ノ之束の……まあ、妹ではありましたから」

 

「な、なるほどな……」

 

 

 束の妹であると言葉にしている時の箒の表情はどこか嫌そうなものであったと千冬は思ったが、それに対して何かを言う勇気はなかった。

 

 

「今でも私は忘れませんよ。

あの姉が、アナタ達が一夏に向けたあの目を――絶対に」

 

「………………」

 

 

 必死に嫌われまいとしていた一夏を見下し、嘲笑うような目を向けていた事を生涯忘れないと言い切る箒に、千冬は何も言えなかった。

 何故なら、それは嘘でもなんでもない………本当の事であったのだから。

 

 

「だから一誠兄さんも、刀奈先輩が更識から向けられた言葉や嫌悪の感情を無かった事にしたくはないのでしょう。

織斑春人に何を言われたのかは知りませんし、興味もありませんが、奴に誘導されて自分の意思ではなかった――というのは言い訳にはなりませんからね。

言われた本人のトラウマが無くなる訳じゃないんだから……」

 

『………』

 

「それを許さないから酷い奴だと思いたければ勝手にすれば良い。

視野の狭い……器量の無い餓鬼と言いたければ好きに言えば良い。

私も兄さんもそういう狭い人間で結構だと思っているからな」

 

 

 最も一誠の力を受け継いでいる箒の言葉が千冬に突き刺さる。

 その言葉通り、一夏はもはや元に戻る気は無いのだから。

 

 

 

 そんなお通夜ムードになっていた用務員室だけど、一夏と一誠が戻ってきた頃には、少しだけながらも緩和していた。

 

 

「アナタの事が少なからず世間に広まった事で、恐らく各国の諜報員がアナタに接触しようとする筈だ。

既に日本政府からの接触を受けたと聞いたが……」

 

「ああ、世界の未来の為に力を貸してほしいだなんだと、札束入ったケースを差し出しながら言われたな。

まあ、興味も無いんで断ったし、その話を刀奈がリークしたのもあって、刀奈の両親が政府に圧力かけて黙らせてくれたお陰で無くなったが……」

 

「なるほど、では更識家がある限り、日本政府からは手出しはされないと思って構わない訳ですね? となると、やはり他の国――もしくは組織といった者達からか……」

 

「……………。つーか、何でアンタがそんな話をしてるんだ?」

 

「え!? あ、い、いや……だ、大丈夫なのかなって思ってつい……」

 

「アンタにそんな要らん心配をされる謂われは無いんだがな……」

 

「そ、そうかもしれないけど……い、一応と思って……」

 

 

 シラーっとした目になっている一誠に、千冬は追い出されると思ったのか、アタフタと一夏を始めとした周囲の子達のなんともいえない視線を受けながら、必死に自分の持っている情報を提供しようとしている。

 

 

「他人の事を心配している暇があるなら、自分のこれからでも考えろよ? 言っておくが、俺に何かを期待した所で――」

 

「そ、そんな事はとっくに――嫌というほどわかってる!! な、何度も言わないでくれ! ハッキリ言われるのが辛いんだよ!! それにこれはアナタだけではなく一夏の事でもあるんだ!」

 

「は、俺すか?」

 

「そ、そうだ! お前は世界で二番目のISの起動者。

つまり一番目に何かあった時にと見られているスペアなんだ。

だから世間的には注目度も一番目よりも低く、そこを利用してお前の身柄を押さえようとする輩も少なくは無い現に――」

 

 

 何故そんなに必死になっているのかも、自分でもわからないまま、一夏も狙われていると力説する千冬。

 しかし……。

 

 

「あー、だからかぁ。

いや、この前の休みの時、イチ兄と靴を買いに街に行った時、変な人に絡まれたんだよな?」

 

「は? な、なんだって?」

 

「だよなイチ兄?」

 

「あー、高額の給料を払うから、ウチで働かないかって、半分機械が仕込まれてる身体の女と、目付きの悪い女だったか……」

 

 

 昨日二人でキャッチボールしたんだぜ的な軽い感じのノリで言われた千冬は絶句する。

 というか、機械が仕込まれてる身体の女とか、どう考えても黒であるし、刀奈なんかも初めて聞いたらしいのか、普通に驚いている。

 

 

「ま、待ってくださいよ? その二人組って自分達をどこの企業だって言ってました?」

 

「確か………ファンタジータクスだっけ?」

 

「いや、タイラントタクスだった気がするぜ?」

 

『………』

 

 

 刀奈の質問に、本当に聞き流してたのか、覚えていない様子である一夏と一誠。

 どうやらその勧誘自体も得体が知れない理由で普通にお断りした模様ではあるらしいのだが。

 

 

「無視して帰ろうとしたら、茶髪の女がISか何かを起動して襲いかかってきたのだけは覚えてるぞ」

 

「な、なんですって!? な、なんでその日の内に私達に言わなかったんですか!?」

 

「なんでって……。イチ兄がそのままその人の蜘蛛みたいなISをその人の顔ごと粉砕しつつ、泣きながら止めてと言ってもイチ兄はやめないで殴り続けるもんだから、もう一人がドン引きしながら逃げようとしたのを俺が足をひっかけて転ばせたってだけの事だしな。

その後、スイッチが完全に入ったイチ兄がヘドロ満載の下水道に軟体動物化したその二人を頭から叩き落として以降は生きてるのかも知らんし」

 

『…………うわぁ』

 

 

 普通に断ったら武力行使で来ようとしたので、半殺しにして下水道に叩き落としてやった――と一夏が染々とした顔して語り、一誠もお茶を飲みながらコクコクとうなずいている。

 

 つまり、その勧誘というか、一誠と一夏をあわよくば拉致ろうとしたらしい、勇気があるのか馬鹿なのかよくわからない者達は引く程に撃退されたと見て間違いはない。

 

 

「か、顔は覚えてないのですか?」

 

「あー、多分世間的な見解だと美人だったんじゃないスかねぇ? 残念ながら、俺もイチ兄も目が肥え過ぎて普通の人にしか見えませんでしたけど……」

 

「しょうがない、リアスちゃんがパーフェクト過ぎるからな!」

 

『…………』

 

 

 其々が箒バカとリアス馬鹿なせいで、特徴がそこら辺に歩いてそうな外人っぽい女という特徴しかわからなかった。

 仕方ない、だって二人にとって完璧なのがリアスと箒なのだし、仲良くなった者達も文句なしの美少女や美女なのが悪いのだ。

 

 

「箒やリアス姉は当然としても、知り合う女性が皆美人過ぎるからなぁ、もうなんか関係ない女の人の特徴なんて皆同じにしか見えなくてさー? なぁイチ兄?」

 

「まーな。

だから、奴にも『自分と同じだ!』なんて言われちまってさ。

正直、言われて初めてそういえばと思ったけど、反論は出来なかったぜ」

 

『…………』

 

 

 シレッと仲良くさせて貰ってる事と、美人であることを肯定された刀奈や真耶達は軽く照れてしまう。

 

 

「あ、あのー……それってつまり、私は……?」

 

 

 そんな中、何を思ったのか、自分も含まれてるのかと思わず千冬が二人に訊ねてしまい……。

 

 

「は?」

 

「なんですって?」

 

「」

 

 

 一夏も一誠も、千冬に対して急に真顔になったせいで、千冬のハートに痛恨の一撃が突き刺さるのであった。

 

 

「一誠も一夏も流石に酷いわよ……?」

 

 

 そのあんまりな塩対応を見かねたリアスが二人に怒るのだけど……。

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「な、なんだ……?」

 

「なあ一夏、どう思う?」

 

「造形は良いと思うぞ? 多分だけど……」

 

「そうか? ………うーむ」

 

 

 だったらとばかりに一夏と一誠が無遠慮に千冬の顔を間近でジーっと観察し始めるせいで、千冬はドキマギだ。

 …………言われてる事は普通に酷いが。

 

 

「けどリアスちゃんに比べたらなぁ……?」

 

「うん、箒が完璧過ぎるからなぁ?」

 

「お、おい……普通に傷つくからそれ以上は――」

 

「わかった、じゃあスタイルはどうだ?」

 

「普通じゃね?」

 

「ふ、ふつー……って、そんな――」

 

「だよな? …………うん、織斑先生は普通の人って事で良いよな?」

 

「うん、それで良いと思う。お姉さん、アナタは普通の女の人だ」

 

「」

 

 

 結果的に、ただの普通の人呼ばわりされてしまい、千冬は色々な意味での自信まで粉々にされてしまい、ホロリと泣いたそうな。

 そして、あんまりなこの二人の言い方に、リアス達も流石に怒って二人にお説教をしたとの事だった。

 




補足

現状、リアスはほぼ一誠と横並びです。

そして、互いの精神(ココロ)が繋がっているので、互いに無いものを補い合い続けている事でまだまだ進化し続ける。



その2
実家に戻った時の一幕に、寝ぼけてる一誠から『胸、しぼんだ?』と言われたせいで、小さくないのに豊胸に余念がないたっちゃん。

やまやんとリーアたんが強すぎるのがいけない。

あと一誠があんな事言ったのがいけない。


その3
どうやら勧誘された模様。

でも断ったら武力行使して来たので、ズタズタにしてからの下水道コースにしてやった模様。

この人達の再登場は不明。


その4
ちーちゃん、普通の人認定される。

…でもちーちゃんは泣いたらしい。

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