色々なIF集   作:超人類DX

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続き。

このルートの場合、一誠関連では『現実は非情である』となりますが、果たして一夏の場合は……


すれ違い

 『同情の余地があるという意見があるとするなら、その同情をしてくれる者から同情でも何でもされれば良い』

 

 ―――ただし、俺は同情をする気なんて欠片もない。

 

 

 その考え方が例え傲慢であろうとも、頑固な拳骨煎餅よりも固すぎる考え方を改める気が全く無い用務員は、学園祭シーズンが近づき始めた本日も、何時もの通りの仕事をしている。

 

 先日の騒動以降、名前も顔も世間に知られていて、当然ながら学園の生徒達にもその存在を知られてしまっている一誠だけど、本人は全く気にしていないし、他の生徒達に見られる事無く仕事をしているのも変わらない。

 

 そんな用務員を探し当ててやるんだと、息巻いている織斑春人の友人達も中にはいるけど、未だに見つかった事は無かった。

 

 そんなある時だったか、一仕事を終えて、校舎裏の日陰で小休憩をしていた一誠の前に、織斑春人が現れたのは。

 

 

「…………」

 

「………」

 

 

 今はまだ授業中の時間帯の筈だが、どうやらサボって一誠を探していたらしい。

 神から与えられた力ごと破壊された傷は――いや、見た目だけは何とか修復をしたらしい織斑春人を前に、作業着姿の一誠は何を言うでも無く、淡々とした表情で缶ジュースを飲む。

 

 

「お前は……誰なんだ?」

 

 

 いい加減鬱陶しいと一誠が思い始めた頃、散々無言で此方を見ていた春人がそう呟く様に訊ねてきた。

 『知識』を持つ春人にとってすれば、目の前の男は存在しないばかりか、全く別の作品の主人公。

 

 その性格も、その力も、春人自身が記憶する彼とは違いすぎる。

 だからこそ春人にとってのイレギュラーとなる一誠へのその質問に、一誠は半分程まで減ったジュースを引き続き飲みながら、リアスに対して向ける素とは真逆過ぎる冷徹な表情を崩さないまま口を開く。

 

 

「お前みたいな存在に追い出された、単なるはぐれ者」

 

「……………!」

 

 

 お前みたいな者――それはつまり、目の前の男が本来生きていた世界に存在していた転生者によって虐げられて来た結果の兵藤一誠であるという意味だった。

 

 

「じゃ、じゃあ今保険医をしてるリアス・グレモリーは――」

 

「オメーみたいな奴に散々苛め抜かれたから、俺が連れ出した」

 

「っ……!」

 

 

 リアスもまた同じであると知った春人は、逃げた結果この世界に偶々流れ着いたのだと知り、頭を抱えた。

 

 何せ、今の話が本当で……そして一夏と箒がああも変わった理由が全部彼とリアスによるものだという説明がついてしまうからだ。

 

 そして、自分が一夏にしてきた事を確実に彼とリアスは知っているという事も……。

 

 

「だ、だからお前は僕を毛嫌いしているのか? 僕が一夏にした事を……」

 

「ああ。

神とやらによって転生したってだけならどうでも良かったが、テメー等みたいな人種は揃いも揃って、誰かに対して攻撃的になったり、異性に囲まれなきゃ気がすまねぇ様だな?」

 

「………」

 

 

 あっさりと肯定する一誠に、春人は言葉がでない。

 どう足掻いても自分がやって来た事で彼が自分に対する嫌悪感が薄れる事は無いと理解させられたのだから。

 

 

「お、お前だって更識楯無に好意を持たれてる。

僕の事を言えた義理じゃない……!」

 

「俺は少なくとも、テメーみたいに脈も無い相手をどうにかしようと、その相手の身内を利用しようとは考えねーし、神とやらが与えてるうざったい認識能力なんぞも持っちゃいねぇよ」

 

「そ、それは関係ないっ!」

 

 

 身に覚えがあるのか、逆ギレの様に怒鳴る春人。

 

 

「お、お前だって僕と同じだ! なのにどうして僕の邪魔をするんだ!!」

 

 

 一夏と箒が変わったのも、刀奈が自分を見もしなかったのも、全部目の前の男が裏でコソコソやっていたからだと糾弾する春人は、自分の力が壊された事への恨みもあってか、呪う様な目で一誠を睨むが、一誠はここで初めて皮肉気味に笑う。

 

 

「同じね。

ははは、まあ確かに似た様なもんだし、所詮は同じ穴の狢って奴なんだろうさ。

テメーがくだらねぇ理由で一夏と箒を嫌ってるみたいに、俺はテメー等って存在が気に喰わねぇからなぁ? テメーを転生させた神ってのも、是非ぶっ殺してやりたいぐらいだぜ……」

 

 

 少なくとも、自分の『知る』一誠では考えられない嗤い方をする目の前の一誠に、春人はゾッとした顔となる。

 

 

「ただ、ひとつだけ俺が『失敗した』って思う事があるとするなら、テメーの持つ異性を無意味に惹き付ける力ってのだけはそのままにしてやりゃあ良かったな。

それまで壊してしまったせいで、一部が正気に戻ってしまって、面倒な事になってるし」

 

「な、なんだと……?」

 

「特に刀奈の妹はお前に利用されていただけなのが余程ショックだったみたいでな。

俺に何を期待してたんだか、付きまとい始めたんだよ」

 

「! か、簪が……? そんな……簪までお前みたいな――」

 

「ああ、勘違いしてるところ悪いが、俺はテメーや、あのクソ野郎と違って、複数の女と寝る趣味は無いんでね。

お前の脳みそに存在してる『俺』がどんな俺なのかは知らないが……」

 

「ち、違う! お前を陥れた転生者と僕は違う! 僕はただ刀奈が――」

 

「なんだ……? 姉妹仲を修復したいって一夏にほざいてたのも建前だった訳か。

やっぱりテメーも所詮はそんなものか」

 

「ち、違う! 違う違う違う違う違う違う違う違う!!!」

 

 

 子供も駄々の様に否定しようと喚く春人だが、一誠はそんな春人を箒や他人に対する束を思わせる冷たい目で見据えているだけだ。

 

 

「大人しくしてりゃあ、俺だってこんなにしゃしゃり出る事も無かったのに……。

一夏も箒も――そして刀奈も、最早テメーじゃあどうする事もできない。

お得意のお力とやらでも、あの子達はもう潰れやしない」

 

「…………」

 

「一夏は言ってたぞ? 好き勝手に生きれば良いよ、俺達の関係ない所で――ってな? 良かったな、アイツが良い子で?」

 

「………………………」

 

 

 その一夏からの言葉がトドメになったのか、春人はフラフラと何処かへと去っていった。

 結局、一夏から奪ってやったつもりであったその位置は、本人にすれば要らぬ物だった――そんな事実だったのだから。

 

 

「これで大人しくなるか……」

 

『微妙な所だな』

 

 

 それまで持っていた自信を砕かれ、魂の抜けたような丸まった背中で去っていく春人を油断無く見ている一誠は、ここから先、大人しくしなかった場合の事を勿論見据える。

 

 

『箒の姉がまだ残っているが……』

 

「そっちに関しては箒自身がやると言っているから大丈夫さ。

あの子は強い子だからな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確実に力を削ぎ、一夏と箒自身を強くしてくれているという意味では確かに一誠は使える――と、篠ノ之束は思う。

 自分と同じく、とことん他人に対しては非情で、目の前で例え誰かに殺されそうになろうが、助けもしないという考え方も自分に通じる物があるし、箒が一番そんな彼の影響を受け継いでいる点においても、自分の妹なんだと実感できる。

 

 そしてそんな一誠と共に居る赤髪で箒と声が似ている女性であるリアスは、一誠と比べて他人に対して社交的で、そんなリアスの性格を一番に継いでいるのが一夏というのも何となく納得できた。

 

 つまり、束にとって一誠とリアスは複雑ながらも、一応の感謝の念はあるのだ。

 

 千冬に対してとことん一誠が辛辣なのは――少し思うところがあるにせよだ。

 そんな篠ノ之束は、一誠によって春人の力が破壊された事で、漸く少しずつ理性を取り戻していた。

 

 元々ギリギリの瀬戸際まで踏ん張りつつ、それを悟られずにわざと春人側に付いたように振る舞っていたのだけど、それも全ては箒と一夏の為だと彼女なりに考えての事だった。

 

 だが、肝心の――特に一夏は既に束の事を『大好きな親友のお姉さん』ってだけの認識しか持っておらず、その覚悟はしていたつもりだったけど、束はショックを受けて色々と潰れそうだった。

 

 まだ全てが壊される前にあった一夏との一度だけの暖かい記憶すらも否定された気がしたから。

 

 

「……………」

 

 

 そんな束は暗い地下にて、ジーっとモニターを眺めていた。

 そのモニターに映るのは、IS学園の様子であり、今モニターに映し出されているのは――

 

 

『や、やあ一夏。

今ちょうどグレモリー先生とお話をしていてな……』

 

『イッセーが留守と知らないで、用務員室の辺りをウロウロしていたのを見つけてね……』

 

『またですか……? これ以上続けると、本当にイチ兄のスイッチが切り替わりますよ?』

 

『い、いや……。

迷惑を掛けたお詫びにこのきんつばセットをと思ったのだけど、どうやって渡そうかと迷ってしまって……』

 

 

 今更どんな顔をして一夏と話をしていいのかが分からず、目が完全に泳ぎまくってる千冬の様子と、嫌悪でも無ければ、好意でも無い――可も不可も無い態度の一夏と、同じような顔の箒だ。

 

 

「いっくん……」

 

 

 ずっと呼ぶことの出来なかった一夏への愛称を、聞こえる筈の無いモニター越しに呼ぶ束の表情は、もの悲しさを感じさせる。

 

 

『束があれから全く何もして来ないし、連絡すら付かなくなっているのが不可解だし、グレモリー先生に相談してみようと……』

 

『ああ、イチ兄じゃ聞いてくれそうもないからですね?』

 

『ま、まあ……。

私も更識も、彼にこっぴどく言われちゃったもので……』

 

『イチ兄は極端だからなぁ……。箒もだけど』

 

『性分だからな。変える気は無いよ私は』

 

 

 一見リアスと同じく、誰に対しても分け隔て無いように聞こえる一夏の言動。

 しかし、実情は違う、今の一夏は誰に対しても無難な受け答えができるだけであって、その相手に対して本当の意味での関心は持たないのだ。

 

 その証拠に、束の事が話題に上がっても――

 

 

『春人――というか、彼に対して好意を持ち続けているアイツがこの先お前達に何をしてくるか……』

 

『その時は私が終わらせますから、大丈夫ですよ織斑先生……』

 

『出来れば春人と仲良くそのまま生きてくれれば平和的なんすけどねー……? その線ってありませんかね?』

 

『お前達に報復を完了しない限りは難しいかもしれん……』

 

 

 一夏はまさに束を殆ど気にも止めない。

 ただの、春人を囲う者達の一人としてしか見ていない。

 

 千冬がいくら束について忠告しようが、それでも一夏に関心という感情が欠片も見当たらない。

 ある意味、敵意を持っている箒の方がマシに思える程に……。

 

 

『な、なぁ一夏? お前は怒りを感じないのか? 私たちがお前にしてきた事に……?』

 

『怒るってよりは、互いに干渉しなければ平和に行けんじゃないの? って考えですからね。

……まあ、そうは行かなかったですけど』

 

『………。私を恨んでいないのか? でき損ない呼ばわりをする束に何も感じないのか?』

 

『全く無いと言えば流石に嘘になるけど、困った事に殆ど何にも思いませんね。

………だって、事実他人だし』

 

 

 徹底している一誠と箒の方がいっそ本当にマシと思えるほど、一夏は他人に対しての関心が薄かった。

 なまじコミュニケーション能力が無難にあるせいで、余計異質に思えるほどに。

 

 それは束に対しても例外ではない。

 

 

『そもそも、前にも言った気がするけど、箒のお姉さんとは全く関わりなんてありませんでしたからねぇ? 恨むも何もないでしょ?』

 

 

 だからこの一言は、恨みを抱いていると思っていた束をある種の絶望に突き落とす。

 

 

「何でよ? どうして恨んでくれないの? 憎んでくれないの? 殺意を持ってくれないの? あんなに酷いことを言ってきたのに……どうしてよ?」

 

 

 ひとつの壁として立ちはだかっていたつもりが、そうとすら思われていなかった。

 ましてや、束にとっては大切な者の一人で、大切な思い出がある一夏からそう思われている事は、何よりの苦痛だ。

 

 憎悪と共に殺される事を望んでいたからこそ――束は辛かった。

 

 

『そういえば前に、冷めた顔をしていた束が昔お前にガラクタを渡されたと言ってたが……』

 

『んー? 多分、あの時は春人関連で色々と必死だったもので、少しでも嫌われたら終わると思って媚を売りまくってた時期だったからじゃないすかね?』

 

『……………。本当にすまなかった』

 

 

 憎まれはいない。

 

 けれど、関心もない。興味もない。

 そんな一夏の姿が、皮肉にも他人に対して興味を抱かない束の心に悲しみを抱かせるのだ。

 

 

「箒ちゃんと同じ道を辿っていたらって……。

あはは……全部がもう遅いのに、何考えてるんだろうね? …………………っ……うぅ……!」

 

 

 

終わり




補足

正気に戻った者へのアフターケアをする程、彼はもうそこまで優しくはなれません。

優しくする相手はもう決まっているので。


その2
束に関する情報提供で何とか首の皮が繋がってる千冬さんだけど、一夏のコミュ強に見えて他人への無関心さに謝り倒すしかできない。


その3
そんな姿を遠くから見ている束さんはもっと拗れている

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