つまり、◯◯龍帝への軌跡。
外史という世界に突拍子もなく飛ばされてしまった北郷一刀にとっての幸運は、同じように飛ばされて来た年の近い同性の少年と同じ場所で目を覚ました事だろう。
同じ未来から来た者同士というだけで、どれだけ安心する事ができた事か……。
カオスと化している三国世界を生き抜くという意味でもそうだし、何より彼はとても強かった。
普通の人間には無い力を持ち、敵をバッタバッタとなぎ倒すその背中はとても頼もしい。
一刀にとって、同じ一の字を名に持つ少年、一誠はこの世界における友達で間違いはないのだ。
ちょっとスケベ過ぎる所があるけど。
兵藤一誠はこの世界に順応してはいるものの、居着くつもりはあまり無い。
何故なら元の時代でやり残している事があるから。
そのやり残している事を終わらせない限り、本当の意味での人生を歩めない。
だからこの世界においてはそこそこ大人しくしているつもりだし、同じ様に未来から来た力を持たない青年の腕力的な意味での補佐もちゃんとしている。
三国志についてはあまり知らないけど、教科書には載る程度の名のある者が女性だったりする事については確かに驚いた。
関羽が黒髪美人でしたとか。
劉備がほんわかしたピンク髪美人だとか
……まあ、張飛はただの子供だったけど。
そんな滅茶苦茶な世界からどうにかして元の時代へと戻る事を密かに胸に抱きながら、一誠は相棒のドラゴンと共に今日も駆け抜けるのだ。
「そこの綺麗なお姉さん、俺と一発――じゃなかった、俺とお茶でもしませんか?」
「え、えぇ……?」
「あぁ、その困惑した表情も素敵だ……! やはり貴女は俺の運―――め゛い゛っ!?」
「何をしてるのだ一誠兄ちゃん! 知らない人に声をかけちゃダメだって言ってるのに、また約束を破ったのだ!!」
「も、もうしないって約束したのにぃ……」
「ひ、酷いです……!」
「ぐ、こ、腰にタックルはやめろって……!
え、ええぃ離せチビッ子共! 一刀の奴が良い思いしてんのに、俺だけなんも無いなんて嫌なんだよ! だから――あ、ま、待っておねーさん!? おねーさーん!!!? カムバーック!!」
大体懐いてくるチビッ子達に振り回されながら……。
早い話が、精神年齢が幼いのと、死ぬほど分かりやすいくらいのスケベさ……それでいて、子供と判断した者への意外な程の包容力が少女達には心地よいものだった。
だから最初に出会ってから三日後には張飛こと鈴々は一刀よりも一誠に懐いたし、その後出会った鳳統こと雛里、諸葛亮こと朱里なんかも、わざわざ目線を合わせて話をしてくれる一誠に懐いた。
というか、懐きすぎて、胸の大きい女性辺りにデレデレする一誠を見てジェラシーすら抱く程だった。
「はぁ……また失敗かぁ」
それでも一誠はそういった所謂チビッ子達を当たり前だが子供扱いをする。
それが鈴々達を悶々とさせていく事も知らない。
「ふんだ!」
「ど、どうせ邪魔しなくても失敗してたに決まってます」
「だ、だからもう止めてください……」
戦闘専門で、先の戦では敵兵の軍団を単独だ吹き飛ばしながら進軍していった一誠は、ナンパの失敗の原因となっている拗ねた三人小娘に複雑な顔だ。
「結構この前頑張ったぜ? 夢の一夜くらい味合わせて貰っても罰なんて当たんないと思うんだけどな?」
子供に慕われる事自体は其れほど悪い気はしない一誠でもそこそこ苦言を呈したくはなるのだけど、娘さん達も頑固で一歩も退こうとはしない。
「夢の一夜って、ご主人様と愛紗達がしてる事なんでしょう? だったら鈴々とすればいいのだ」
「そ、それか私とか……!」
「い、いえ私と……!」
「…………」
裸一貫からスタートし、虐げられた民を鼓舞し、軍を作り、大規模な賊を退治したりと、今現在は世にその名をそこそこ轟かせている劉備軍。
ようやく最近は一所に居を構えて落ち着ける様になったのだけど、偶々ある日の夜に勢力のまとめ役をしてくれている一刀が関羽こと愛紗といった者達と夜のお仕事をしてしまっているのが聞こえてしまい、困った事にその近くにこの鈴々や雛里や朱里が居合わせていて、しかもわざわざ覗き見までしてしまっていたのだ。
一誠は流石にそんな三人に教育上宜しくないと思ったので、なんとか首根っこを掴まえて連れ出したのだけど、どうにも記憶に焼き付いてしまったらしく、その夜以降、それまで以上に一誠のナンパの邪魔をするようになってしまったのだ。
「子供に言われても微妙にしか思えねぇんだけど……」
「子供じゃないのだ!」
ナンパしようとした女性に逃げられ、仕方ないから娘さん達と集落の外の森で駄弁っている一誠。
子供扱いをすると怒る様にもなってきた三人娘の記憶から、あの日の夜の事を消せるものなら消したいとすら思う。
「この時代じゃ知らんけどね、俺の居た時代でキミ達くらいの子に変な事したら、即刻捕まるんだよ。
つまり犯罪になるの」
「ここでは関係ないのだ」
「きっとご主人様だったら抱いてくれます!」
「いや、いくら彼でも――――や、やべぇ、あんま否定できねぇかも……」
朱里の一言に、当初は否定しようとした一誠だが、微妙に出来ない気がしないことに気づく。
何せ一刀は自分と違ってそれはそれはモテモテだ。
自分と違って特にナンパをした訳ではないのに、不思議なレベルで。
だから確かに朱里の言った通り、もしチビッ子に迫られたら、一刀は拒否はできない気がする……と思うのだ。
「とにかく俺にそんな気は本当に無いからな? 大人になるまではダメだ」
「「「…………」」」
「ま、その時はもう俺なんかいなくなってると思うけどな! はっはっはっ!」
どちらにせよ、一誠にその気は全く無い。
好みではないというのもそうだが、流石に子供に対して変な真似だけはしたくないのだ。
いくらスケベ男と呼ばれようともだ。
ポンポンと三人の頭を優しく撫でながらケタケタと笑う一誠は、気晴らしにと自己鍛練をその場で開始するその背中を、鈴々、朱里、雛里の三人はじーっと見つめ続けるのだった。
北郷一刀は知っていた。
なんで一誠の周囲には女性と呼べる異性が居ないのか。
実はそこそこ一誠が好みそうなタイプの女性に注目されていたりするけど、本人はまるでその事を知らない理由を。
それは謂わずもながら、鈴々達といった見た目チビッ子達が確実に一誠が知る前に叩き折るからだ。
………所謂フラグを。
その事を敢えて一刀達は一誠に教えた事は無い。
鈴々達からの後が怖いから。
雛里や朱里が薬を扱う行商からヤバそうな気配が漂う薬を買っては一誠の食事に仕込んでいる事も一誠には言ってない。
後が怖いから。
「一誠兄ちゃんは今日も限界まで鍛練をしたから、絶対に直ぐ寝ようとする筈なのだ」
「その時にこの『お水』を飲ませれば……」
「きっと効果が出る筈ですっ!」
最早我慢の限界で、ヤバイ事を実行する為の作戦を愛紗や劉備こと桃香といった面々達の目の前で話し合っているのを聞いても、一刀達は一誠には教えない。
だって後が怖いから。
「な、なあ鈴々?」
「……。なに愛紗?」
「その……危なそうな薬を飲ませて一誠殿をその気にさせたとしても、それはそれで違うんじゃないのか? 色々と……」
「それが?」
「そ、それがって……」
「仕方ないじゃないですか。
間違えているのは承知ですけど、何時まで経っても一誠さんは私たちを子供としか見てくれないんですから……」
「もう嫌なんです。
大人の女性ばかりに鼻の下を伸ばす一誠さんを見るのも、私たちには絶対に言わない事を、会ったばかりの女性に言うのを聞かされるのも」
『…………』
一誠に多分落ち度はない。
だって一誠自身は目のハイライトが半分は消えてるチビッ子三人娘に対して冷たい態度ではなく、寧ろ優しいそこら辺の兄ちゃん的な接し方をしているのだから。
「そ、そんなに好きなんだね……一誠君の事」
「一誠殿の対応が間違えてはいなかっただけに、責める事なんてできないし……」
「色々と荒れそうだな……」
どっちの味方にもなれない。
一刀達の立場はそんな所だったりするのだった。
姿は子供なのかもしれない。
背だって小さいのかもしれない。
でも、抱いたこの想いだけは大人と変わりはしない。
鈴々、雛里、朱里の三人が其々抱いた一誠への想いは確かに本物だった。
スケベで、頭も良くはないし、大雑把だし、無神経なのかもしれない。
けど誰よりも前に出て、誰よりも先に共に歩む道を切り開こうとするその背中は逞しくて、頼もしくて……それでいてカッコいい。
そんな一誠の歩く道を共に歩みたい。
叶うなら、永遠に……。
そんな想いを抱いてしまったからこそ、もう子供では居られなくなった三人は、チビッ子軍師コンビの読み通り、限界までの鍛練を終え、湯浴みを終えて部屋に戻ってきた一誠に作戦を悟られぬ様出迎えた。
「おかえり一誠兄ちゃん」
「また俺の部屋に居たのか? 別に良いけど……ふわぁーぁ」
「大分お疲れですか?」
「まーね、修行は絶対にサボれないし、修行に手は抜けないからねー」
「で、では良いものがありますっ!」
妙にソワソワしてる三人の様子に気づいてない様子の一誠に、朱里が手早く無味無臭な桜色の液体が入った茶器を渡す。
「……なにこれ?」
「つ、疲れが取れる水らしいのだ。
ご主人様が一誠兄ちゃんにって」
「一刀が? ふーん?」
「「………」」
一刀の名を勝手に出したお陰か、一誠は即座に謎の液体を一気に飲んだ。
「…………………何の味もしないけど、本当に効くのか?」
「さ、さぁ?」
「効き目があるまでお時間が掛かると思います」
「と、取り敢えずそれまで私達とお話しませんか?」
「おう、良いぞー」
三人を自分が使ってる寝具の上に座らせ、自分は小さな椅子に座って、他愛の無い話をする。
その間、妙に三人がソワソワしているのが気になったが、全然部屋から出ていく気配もないので、そのまま気にせず三人が満足するまで他愛の無い話をしていたのだけど……。
「んでさ、俺が居た時代には――――っ!?」
「「「!」」」
未来の時代について聞かせていた一誠の声が途中で止まる。
「な、なんだ? 急に身体が熱い……?」
全身が火照ると訴え始めた一誠。
確かに顔が紅潮もしているし、呼吸も荒い。
(き、来たのだ! これも効かないと思ってたけど、本当に効いたのだ!)
(あ、あの行商さんの言った通りでしたねっ!)
(きょ、今日こそは……!)
「つ、疲れてるのかな……? わ、悪いけど今日はもう寝かせてくれないか?」
頭を押さえながら椅子から立ち上がる一誠にドキドキする三人娘は、当たり前だがそのまま帰る気は全くない。
「大丈夫? ほら、横になるのだ」
「無理をし過ぎたんですよきっと……」
「足元も定まってませんし、支えてあげます」
「す、すまねぇな……。しかし急になんだ……? 頭もぼーっとするし……」
体よく寝かせ、ぽけーっとした顔で天井を見上げてる一誠は、飲んだ謎の液体のせいだとはまだ気付いていない。
なのでそのまま目を閉じて眠ろうとするのだが……身体が熱くて全く眠れない。
というか、ふと目を開けてみると、鈴々と朱里と雛里が覗き込む様に見ていて、何故だか知らないけど今まで欠片も感じたことなんて無かった筈のものを三人から感じる。
だから一誠は自然と……殆ど無意識に三人に向かって言った。
「あ、あの……悪いけど、今日はここに居てくれないか? な、なんか帰ってほしくない……」
ただのチビッ子と思ってる筈なのに、何故か今の三人を見てると、色んな意味で離れてほしくないし、何故か欲しいと思ってしまう。
「う、うん……一誠兄ちゃんがそう言うのなら鈴々達はずっと傍にいるのだ」
「手も握ってあげます……」
「頭も撫でてあげますね……?」
(あ、あれ……? や、ヤバイなこれ……ど、どうしてこんな――)
ぼーっとする頭の中に響く三人の声が妙に心地よくて……。
そのまま三人が布団に潜り込んできても抵抗はしなかったし、熱そうだからと服を脱がされても抵抗しなかったし――――
「うー……んっ! 身体がフワフワしてるけど、目覚めはバッチリだな! それにしても昨日のアレは一体――――――」
「えへへ……一誠にーちゃん……♪」
「これからもずっと一緒です……♪」
「大好きです……♪」
朝起きたら、生まれたての姿で引っ付いて眠ってるチビッ子三人娘と、連動するように全裸になってる自分の姿を交互に見て、昨晩の色々を思い出してしまった赤龍帝は――
「う、嘘だろ……? 嘘だろォォッ!?!?」
ロリコン龍帝にジョブチェンジ完了を果たすのだった。
「ん……? ぁ……えへへ、おはよ、一誠兄ちゃん?」
「き、昨日は初めは痛かったけど、とても幸せでした……」
「これからも、してくださいね……?」
「が……ちぇ……!? だ……! ぎっ……!?」
『………。諦めろ、お前は間違いなくその小娘達に手を出してたぞ』
相棒の龍の妙に同情のこもった声が現実であることを嫌でも理解させられてしまう。
こうして一誠は最早ナンパすら不可能になってしまった。
「ぅ……昨日までただの子供に見えてたのに……」
けれど、意外な程生真面目でもあったので、こうなった以上はと一誠なりに責任を果たす事になるし、後日、薬を仕込んだ事を三人に打ち明けられたのだけど……。
「まあ、その……盛られても普通にはね除けられなかった時点で、多分ほんの少しはお前達にそんな感じの事を思ってたんだから良いよ別に。
というか、今更言われた所で、嫌だと言ってもお前らを離す気なんて無いし」
一度完全に受け入れた相手への独占欲が強すぎる彼にとっては関係ない事だったらしい。
一刀達から生暖かい目で見られる事は多くなったけど、完全に受け入れた三人に対しての一誠の態度は完全に変わったのだ。
「ひゃ!? も、もう一誠兄ちゃんは意外と甘えん坊なのだ! ……てへへ♪」
「顔が緩んでますよ鈴々ちゃん? ふふ♪」
「雛里ちゃんもだよ? あはっ♪」
「うーん、三人にひっつくと妙に落ち着くようになっちまった……こりゃヤベェぜ」
『………』
生暖かい目を向ける者達が増えても何のそので……。
終了
補足
仕方ない。チミっ子ホイホイだったせいなんだから。
ビックリなお薬盛るくらいマジにさせたのが悪いんだから。
その2
はい、もう名実共にです。
そして、受け入れる覚悟したもんだから、逆に独占欲までパワーアップしてるからもう言い逃れも無理!
その3
この日から毎日どこかしらでイチャコラするもんだから、もう開き直るもクソもない。
仮に連れて帰還して、かつての顔見知りに『嫁っす』なんて言った日には………ねぇ?