内容は……アレのそれ
どれ程の理不尽な状況に追い込まれてしまおうとも、決して諦めなかった
何度も死にかけても、一度は仲間であった者達からの殺意に負けそうになっても―――二人でずっとその運命に抗い続けてきた。
そんな二人で一つの最後の龍帝は、何の因果かお伽噺の様な世界へと飛ばされた。
ギリギリの死闘の果てに殺されかけた少年と龍はそんな世界で、自分と同じ理不尽さに押し潰されそうになった少女と出会い、助けられた事で、死闘の果てに失った力を取り戻すのと同時に、運命に抗うお手伝いをした。
けれど、結局少年と龍。そして少女を慕う仲間達が抗っても世界の流れには理不尽という名の運命を少しだけ逸らす事しか出来ず、少女はその名を捨てざるを得なくなってしまった。
その後、世間的には敗死した事になった少女は、彼女を最後まで守ろうとした親友と共に、天の遣いと呼ばれる少年の勢力へと流れる事になった。
その少女達の傍には、例え血達磨になろうとも戦うことを止めず、敵将達に恐怖すら植え付けた殆どの力を失った龍と少年も居た。
奇しくも、少年と龍と同じように、未来から来たと言う天の遣いの計らいによって、少年と龍は少女達の身の安全を完全に保証させる事に成功した。
それから月日は流れ……。
死の運命から逃れる事ができた少女と、龍を宿す少年は、とある晩の一時によってその関係を変えていく事になる。
そして、取り戻す事が出来なかった少年の力が少女との時間によって少しずつ戻っていく事にもなっていったのだった。
戦闘要員として働く事を条件に、二人の少女の身の安全を完全に約束させた龍を宿す少年こと一誠は、董卓の名を捨てる事にやった少女――真名を月と、とある夜を経験してしまった後に、再びの覚醒をする事になった。
「あれだけやっても戻る気配すらしなかった力が日に日に戻ってきている……」
『ああ、俺も驚いているぞ』
閉じられた本来の力を引き出す為の扉が開かれていく様な感覚。
元の時代に居た時の全盛期の力が蘇り始めていく感覚を自身の肉体から感じ取るイッセーに、イッセーに宿る赤い龍――ドライグも同意する。
あれだけ鍛練をしても戻らなかった本来の力が今こうして戻った理由……。
それは結局は救えずに名を棄てさせなければならなくなってしまった月と共に夜を過ごし、そしてある種の契りを交わしたからに他ならない。
『お前の力の源はまさに『心』そのもののあり方にある。
かつては持っていたその心を月のお陰で再び取り戻した事で、無神臓が再び甦ったのだろうな』
「ま、マジでか。
所謂愛のパワーって奴か?」
『陳腐な言い方にはなるが、そうなる。
まぁ、お前らしいっちゃあお前らしい』
「そ、そっかー、月のお陰かぁ……」
月の親友である詠と比較すれば遥かに短いとはいえ、ある意味で苦楽を共にしてきた事が結果的に一誠の力を蘇らせてた事になった訳で、あの日の晩の事を思い返してちょっと照れ気味だ。
『しかし油断はするな。
力は甦っただけに過ぎん。ここから更に先の領域に進まなければ、元の時代に戻った所で瞬く間に敗北するだけだ』
「ああ、わかってる。
これはあくまでもスタートラインでしかないぜ。
ここから俺達はもっと強くなるぜ。それで今度こそ間違いなく守り通す……!」
『その意気だ……!』
小波を思わせる、透き通る様な赤いオーラを全身から放出する一誠に、ドライグはまるで父親の様な気持ちで観ている。
そして何があろうとも相棒である事を改めて決意するのであった。
一誠が最後の赤龍帝としての力を再び甦らせた事を完全に確信していたその頃……。
今は天の遣いである北郷一刀率いる軍に、ただの月として在籍している董卓だった少女は、一誠が普段眠るのに使っている寝室で、一人先日の事を思い出していた。
『俺は相当嫉妬深いんだよ。
多分だけど、月が知らない男に少しでも触れられたらソイツの腕を切り落としてしまいたくなるくらいに。
そんな面倒な男なんだぞ俺は? それでも俺の傍に居てくれるか?』
月の光が照らす夜の空から傷だらけで落ちてきた男の人。
普通の人ではなかった男の人。
一見すればいい加減で、しょっちゅう女性の大きな胸に鼻の下をだらしなく伸ばすスケベな男の人。
力を取り戻す必要がある為に、自分達の仲間になってくれた男の人。
そして……あの戦いに敗けたとはいえ、自分を守る為に力の殆どを失っていたにも拘わらず、血を流しながら前を歩き続けてくれた男の人。
「一誠さん……」
どれも月にとっての一誠はそんな男であり、この場所へと流れ着いてからも、それは変わらなかったし、いつの日か抱いた想いも伝える勇気なんて無かった。
けれど、切欠こそ偶然だし、ちょっとしたギャグめいた理由だったけど、あの日の夜が確かな切っ掛けだったし、先日ついに一誠は自分を受け入れてくれた。
それはもう月にとって幸せであるし、さっきから一誠が使ってる寝具にくるまって悶々としてる程度には早く一誠が戻ってこないかと強く思うくらいだ。
「早く戻って来ないかな……」
我ながら余計に女々しいとは月でも思う。
けれど、優しく抱き締めてくれた感覚や、かなり痛かったけど、幸せだったあの時の交わした繋がりがもう恋しい。
周囲からご主人様と呼ばれてる一刀にはある意味で感謝だ。
そうでなければ、こんな関係には到底なる事なんて無かったのだから。
流石にその晩が明けてから普通に一刀達に何をしていたのか知られた時は顔から火が出るくらい恥ずかしかったけど。
「ふー……」
(あ……)
そんな事を想いながら悶々と待っていた月の耳に、一番聞きたかった声が入る。
どうやら一誠が戻ってきたらしい。
その瞬間、月は頭まで被っていた寝具を吹っ飛ばす勢いで姿を晒す。
「お、おかえりなさい一誠さん……!」
不思議な事に、これまでよりも更に一誠の傍に居たいという気持ちが強くなっていた月の出迎えに、一誠は気を抜いていたのか、ちょっぴり驚いていた。
「ゆ、月? ど、どうしたんだよ?」
「ま、待ってました!」
一刀が用意した給仕の格好――何故か現代的なメイド服っぽい衣装の月の言葉に、一誠はちょっと苦笑い。
「そっか……うん、ただいま月」
そして緊張しているような面持ちで紅潮している月を抱き寄せる。
あの日以降、一誠はあれだけ年上がどうたらとか、人妻がどうたらとか、未亡人おっぱいは最高だぜ! と馬鹿みたいにはしゃいでいたのをキッパリさっぱり止めた。
それは間違いなく月の存在があるからであり、一誠自身も驚くほど、それまで執着気味だった性癖に対する興味が無くなった。
「? 詠はどこに?」
「ご主人様の所に、詠ちゃんが、一誠さんをここで待ってなさいって言ってくれたので……」
「そうなんだ。
めっちゃバレバレなんだな……やっぱ」
暫く抱き合いながらの時を過ごす。
そして徐々にその時間は変わっていき……。
「月……」
「一誠さん……」
日が暮れると同時にその影はひとつとなる。
北郷一刀にとって、同じ未来からこの世界へとやって来たらしい一誠は頼もしい仲間であった。
異質な力を持ち、万を越える大軍を前に血にまみれても最後まで悪鬼のごとき形相で抗い続けた姿を思い返す度に、仲間になってくれて良かったと安堵する。
まあ、そんな感じの男がまさか自分の性癖に正直過ぎる感じの男だとは思わなかったし、意外な程とっつき易かったのには驚かされた訳だけど。
ただ、姓と名を捨てる事で同じように仲間となった月と詠の身の安全を完全に約束させようとする際の一誠の姿は真剣だったのは間違いない。
まあ、自分の仲間達に対して――それも基本的に年上系統の者達を片っ端から原始人でももっとマシだと思いたくなる様な口説き文句ばっか垂れ流していたのはどうかとは思うが……。
そんな年上フェチの一誠が変わった――と、少なくとも一刀は思った。
「フンッ!!」
「っ!?」
「カァッ!!!」
「うぐっ!?」
「しゃあっ!!」
「ぐぺっ!?」
まず、あれだけやってた下手くそなナンパの一切を辞めた。
そして、露骨に訓練なんかの際は黄忠といった一誠的なドストライクな相手には加減しまくってた癖に、人が変わったみたいに手を抜かなくなった。
いや、それどころか……。
「ご主人様、一誠君って前より更に強くなってる気がしない?」
「力もそうですが、動きの無駄が無くなってます」
「だ、だよな? だってさっきから手からビーム出してるし……」
あの戦いの時よりも明らかに強さを増しているのが、一刀から見てもわかった。
もしあの時の戦いに今の一誠が立ちはだかっていたら、此方が全滅させられていたのかもしれない――という程の凄味すら今の一誠からは感じ取れたし、アレだけだらしない顔してナンパしまくっては普通に断られていた黄忠こと紫苑に対してビームで吹っ飛ばしていた。
「っし! 身体が暖まってきたぜ! 次ィ!!」
「「「「…………」」」」
訓練場のど真ん中で、ハイテンション気味に次の相手を希望する一誠の周辺では、軽く黒こげにされてる一刀軍の者達が倒れ伏している。
間違いなく彼女達は軍の中でも上位の力を持つ者達なのだけど、調子が良い一誠には手も足も出せず叩きのめされていた。
その中にはあの呂布こと恋もおり、唯一数合赤い籠手を左腕に纏った一誠を打ち合えたのだが、一段階ギアを上げた途端、為す術も無く叩きのめされてしまったのだ。
「ふーん、結構調子が良さそうじゃない一誠のやつ。
月が何かしたの?」
「うぇ!? べ、別に変な事なんてしてないよ詠ちゃん!? ずっと抱き合ってもないし、何度も接吻した訳じゃないし、そのまま閨に入った訳じゃないからねっ!?」
「……………。それ、全部自白してるじゃないの……」
「あぅ……! は、恥ずかしい……」
なるほど、理由はやっぱり月だったか……。
と、詠に聞かれて要らん事まで自白してしまい、恥ずかしそうに顔を両手で覆っている月を見ながら、一刀達は苦笑いだ。
「ふーん、やっぱしそういう事なんだね?」
「正直、一誠殿らしいというかなんというか……」
「けれど、アレだけ女にだらしない態度だったのが、月との一件以降、人が変わったみたいに辞めるとは思いませんでしたね……」
「多分、一誠は絶対に浮気とかしない奴なんだろうな……」
全身から燃える様な輝く赤きオーラを放出しながら、訓練生を次々となぎ倒していく一誠の変な切り替えの良さに、同じ男としてちょっとした尊敬を感じるとは一刀。
そんな一誠の今は左腕に纏われてる状態で居る龍については……一刀も正直どう言って良いのかはわからないが。
主に今横でソワソワとしてる劉備こと桃香とか、趙雲こと星が、たまに分離して人型になるドライグに対して妙に懐いてる的な意味で。
一誠が力を取り戻し、そこから更なる進化の予兆を見せ始めている事はドライグにとっても喜ばしいことであった。
ついこの前起こった、成金軍共との小競り合いも、それまでは苦戦していたはずなのが、苦も無く単独で撃退もできたし、間違いなく力は取り戻しつつある。
後は月という繋がりを持った一誠がどんな進化をするのか……と、親みたいな気分で楽しみにしているドライグだけど、最近別の事で困った事が出来ていた。
それはここ最近周囲の者達に一誠の中から時間制限付きで分離して人型に変身できる――という事を知られてしまってからが始まりだった。
別にそこまで接点なんて無い筈のとある娘さん達が、分離したドライグの散歩にしょっちゅう付いてくるようになったのだ。
その中には詠も居たりするのだけど、詠が何故か付いてくるのはドライグも若干は理解できる。
何せこの世界に限れば、ある意味で付き合いが長い相手が月と詠なのだから。
だが、何故だか知らないが、一刀の仲間である桃香と星が妙に引っ付いてくるのだけはドライグはさっぱり全く理解ができない。
「わ、わあ……ドライグさんの身体って本当に普通の人と変わらないんだね?」
「しかも、かなり引き締まってる……」
「ちょ、アンタ等! そんなベタベタと触るのはやめなさい!」
「………………」
燃える様な赤い瞳と髪の三十代半ばの男の姿となっているドライグは、只今小娘同然の娘さん達に、ベタベタと顔やら身体やらを触られていた。
何でも、人型に変身するドライグが本当に人と変わらないのかが知りたかったかららしく、ドライグも暫くは勝手にさせていたのだが、一々変な箇所をたまに触れてこようとするので、いい加減鬱陶しくなってきた。
「もう良いだろう? いい加減ベタベタと触るのはよせ。
人型に擬態するのには慣れてないし、触れられる経験も無いから鬱陶しくてかなわん」
詠は殆ど触れては来なかったから良いとしても、桃香と星は少し残念そうな表情だけど、ドライグは無視だ。
「そろそろ一誠の所に戻る。
お前等もさっさと――」
「えーっ!? もう少し居られるんでしょう? だったらもう少し一緒に居ようよ?」
「そうだぞドライグ殿。
女に誘われているのに、それを無下にするのは酷いぞ?」
「あ、アンタ等はドライグにしつこすぎよ!」
「詠の言うとおりだ。
何の意図があるのかは知らんが、そういう事はお前等の主人にでも言え」
番犬みたいにドライグの前に立ち、星と桃香に威嚇する詠に同意するように、しつこいと言い切るドライグ。
そもそもドライグとしては、この二人から懐れる理由も無いと思っているし、そもそも懐く相手を間違えてるとすら思っている。
「ご主人様には愛紗ちゃん達が居るし、私はそもそもそういう事をご主人様に思ったことないし……」
「良い方だとは認めるが、少々若すぎるしな」
「だ、だからってドライグに変な事をしようとする理由にはならないわよ!!」
「ああ、それに俺は人間ですら無いぞ」
「でもこうしてお話もちゃんとできる」
「ああ、人と何ら変わらないぞ貴方は」
「…………」
頑固な程に言うことを聞かない二人に、ドライグはため息を漏らす。
人間の小娘に言い寄られる経験は無いが、こうまでしつこく寄られた経験も無いので、困ってしまうのだ。
「もう良い、勝手にしろ」
「な、ドライグ!?」
「「……!」」
「ここまで言っても聞かないのだから仕方ないだろう。
だが、俺に妙な事を期待するのはやめろ。俺はあくまで一誠の中に存在する龍でしかないし、お前等人間の様な関係にはなれん」
だから予めそれだけはハッキリと明言してから、好きにさせる事にした。
その瞬間、桃香と星はわかりやすい子供みたいに表情を明るくさせ、反対に詠はかなり拗ねた顔になったけど、ドライグはそんな詠の頭を軽く撫でる。
「拗ねるな詠。後で好きなものでも買ってやる」
「ボ、ボクを子供扱いしないでよ……」
「フッ、俺からすれば、大体の人間は餓鬼さ」
「むぅ……」
一誠と共に過ごしてきた中で培われたドライグなりの父性に、詠は表情こそ不満そうだったが、内心は嬉しかった。
なんというか、ドライグとは妙に境遇が似ているし、自分が月に対する気持ちもドライグが一番理解してくれたし、何度も手助けをしてくれたのだ。
確かにドライグの言うとおり、今のドライグの姿は仮の姿で人間ではないのかもしれない。
「しょ、しょうがないから我慢してやるわよ……」
「恩にきる……。ふっ、お前はきっと将来良い女になるぞ詠?」
「ばっ!? と、突然何言ってんのよ!?」
「さぁな、そう思っただけ―――ぬっ!?」
「むー…! やっぱり詠ちゃんには優しいんだねドライグさんは?」
「妙に腹が立つから邪魔してみたくなってしまったぞ……?」
「なっ……!? あ、アンタ等! ドライグになにしてんのよ!? さ、さっさと離れなさいっ!!」
「それは出来ない相談だなぁ? 悔しかったらお前もやってみれば良い。
おっと……出来るほどの自信は無かったかな?」
「ムカッ!? アンタよりはマシよ!!」
「…………おい、誰かは知らんが、乳房が邪魔で呼吸がしにくいんだが」
でも人よりも人らしい。
そんなドライグに詠はちょっとずつながら惹かれていくものを感じるのだ。
……最近ちょっとお邪魔虫が増えて大変だけど。
終わり
そして……。
「ふむ、間違いなくご懐妊ですね」
「ま、マジか……いや、当然かぁ」
「私のお腹に一誠さんとの子供が……」
まあ、そりゃそうなるし……。
「それよりも驚いたのがよ……」
「本当に私のお腹にも子供が居るんだ……ふふっ♪」
「参ったなぁ……いや本当に参ってしまったなぁ……あはは♪」
「ぼ、ボクとドライグの……」
「……………………」
「ドライグ……お前マジで?」
「強烈な酒を飲まされて意識が混濁してからの記憶が定かではない。
人間に擬態したせいで、人間並の欲を感じる様になったせいなのかもしれんが……」
「……………………。なんつーか、頑張れ?」
そうなっちゃうのかもしれない。
嘘です。
補足
恋ちゃまルート並にほぼ完成した関係。
だからこっから一気に女性に対するだらしなさが消えるけど、逆に月ちゃまに対して結構凄い。
てか、今の段階でもうイチャイチャばっかしてる。
その2
ドライグ――いやパパイグは変なモテ期を継続中。
継続しすぎて……………まあ、嘘だけど。
その4
まあ、多分普通にこの子達なら付いてくるでしょうね……