色々なIF集   作:超人類DX

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これも番外編です。

中身は―――執事系統のそれ


番外その2

 パターン1 ToLOVE――りたくない執事。

 

 

 ヴェネラナ・グレモリーと共に全くの異世界へと迷い混んでしまい、未だ元の世界へと帰還出来る方法が見つからないまま月日は流れ、コミュ障執事はこの世界での最大の協力者の一人である御門涼子の住まいに相変わらずヴェネラナと共に世話になっている。

 

 二度も留年した不良学生という変な肩書きのまんま学校に通わされ、歓迎はあまりしたくはない様々な出会いを経て、ほんの少しずつながら心を成長させていくコミュ障執事こと一誠はこの日、通算何度目かもわからぬ些細な小競り合いを、ヴェネラナとヴェネラナに肩入れする御門涼子とした。

 

 結果、普通に勝てなかった執事は、これも通算がわからない家出をした。

 

 理由は他人が聞けば他愛のないものではあるのだけど、一誠本人にとっては家出敢行を決意させる程のものであり、まさに着の身着のまま寂れた公園のブランコに座り、リストラサラリーマンを思わせるどんよりとしたオーラを醸し出していた。

 

 

「…………ハァ」

 

 

 着の身着のままだったこともあり、ある意味でこの一誠にとっての戦闘服となる燕尾服姿で黄昏ている姿は、一見せずともかなりシュールな絵面である。

 それもこれもヴェネラナと涼子が一々結託してアレコレとしてくるせいであると一誠は思うのだけど、報復しようと思えず、ただただボーッとした眼差しで空を見上げるのであった。

 

 

 

 

 

 その少女が彼の存在を最初に知ったのは、とある理由で兄に好意を持つようになった宇宙人の少女を家に住まわせてから少し経った後だった。

 

 彼は兄のクラスメートなのだが、その年齢は兄よりも年上で、何でも色々あって留年をしてしまっていたらしい。

 その色々というのが、兄曰く、ヤンキーだったから………と聞いていたので、最初は怖い人なのだろうと思ったし、まさかそんなヤンキー疑惑のある人を兄が家に連れてくるとは思わなかった訳で……。

 

 しかしながら、紆余曲折の内に、そのヤンキー疑惑のある――そもそも一切声を出そうとしない変な男の人は、確かにちょっぴり血の気が多い面があるのかもしれなかったけど、基本的に悪い人ではない―――というのがわかったのと、ある日そんな彼に助けられる事で初めてまともに会話が出来た事で、彼がヤンキーというよりは只のコミュ障なだけであったとわかった。

 

 それがわかってからの少女は、ヤンキーではなくて執事であったらしいその青年とちょくちょく会話を成立させていく内に、そこそこ親しくなり、家事や料理なんかを教えてもらうようになった。

 

 そして、彼が手先という意味でなくて、他人に対して不器用なんだという事を知ってからは、結構面白い人なんだと――気付いたら兄と同じくらいには懐いた。

 

 その青年が、どうやら血の繋がりはない母からちょっと間違えてやしないかと思う程度の愛情に困ってたり、何故か同居している青年と兄の通う学校の保険医からも最近同じような真似をされて本気で困っていると聞いた時は妙にムッとした気分になるし、兄のクラスメートの一部の女子達から変な絡まれ方をされていると聞いた時も、何だか面白くない気分だった。

 

 とはいえ、滅多な事では他人を褒めたりは決してない程度には極度の負けず嫌いでもある青年から、かなり褒められたりするという点に於いては他の面々に勝っている思うと同時に、ちょっとした優越感もある。

 

 

 

「なにしてるのよ一誠さん?」

 

「あぇ?」

 

 

 

 だから少女は、寂れた公園のブランコに座ってぼーっと空を見上げていた燕尾服状態の青年を発見し、事情を聞いた時は、取り敢えず青年を自宅に招待することに躊躇いは無かった。

 

 

「実は……」

 

「また……? 相変わらずというかなんというか……」

 

 

 

 何故なら、その程度には少女――結城美柑は不器用執事の日之影一誠に懐いているのだから。

 

 

「取り敢えずウチに来なよ?」

 

「……」

 

 

 ちなみに、そういう理由を聞いてから彼を家に連れていった回数は既に12回目である。

 

 

 

 

 妙に機嫌良く妹の美柑が帰ってきたなと兄であり、純情ボーイでもあり、リアルハーレム王である結城リトは、妹の後に続いて家に入ってきた青年こと一誠を見て瞬時に納得と理解をした。

 

 

「まさかまたですか?」

 

「………。すぐに察せちゃう辺り、キミ達兄妹は勘が鋭いな……」

 

「いや、先輩が家に来る理由は間違いなくソレが原因ですし……」

 

「そういやそうだったね……。ハァ、情けない」

 

 

 戦闘服こと、燕尾服姿の一誠に麦茶の入ったコップを出しながら、リトは頼りになるけど意外な弱点も持っている年上のクラスメートのため息に苦笑いだ。

 

 無口で、無表情で、声なんて殆ど学校では発する事のない一誠が、自分の義母と世話になってる保険医に圧されて逃走までするだなんて、よっぽどあの二人は強いんだろうと、御門涼子とヴェネラナ・グレモリーの二人と顔見知りであるリトは思う。

 

 

「少しは二人に強く言った方が良いんじゃないの?」

 

「言ったその直後に風呂入ったら、揃って全裸で突撃された事もあったし、何をされるかわかんない恐怖で言えないんだよ……」

 

「それは怖いっすね……」

 

 

 

 とはいえ、リトとしては実の所歓迎する話ではあったりする。

 何せ、取っ付きにくいと思っていた相手とこうして普通に会話が出来るし、その苦悩はリト自身にもよーくわかる話なのだし、何よりも一誠が家に来ると、美柑や同居人となった一部の子の機嫌が頗る良くなるのだ。

 

 

「ほとぼりが冷めるまで家に居れば?」

 

「………。何時もすまん」

 

「ふふ、別に良いよ。

取り敢えずその燕尾服も着替えなよ? 今家に置いてある一誠さんの服用意するから」

 

「………おう」

 

 

 いつの間にか少ないとはいえ、一誠の私服が結城家に保管されていて、イソイソとその着替えを取りに部屋から出ていく美柑を一誠とリトは見送る。

 

 

「美柑が何時でも先輩がここに避難できるようにって、何着か預かってますからね」

 

「ああ、キミや妹さんには足向けて寝れないよホント……」

 

「俺としては、美柑が楽しそうで良かったと思ってますから気にしないでください」

 

 

 着替えを一誠宅から預かったその日の夜、魔が差したかの如く美柑が羽織っているのを見てしまい、フライパンを投げつけられた事は勿論一誠には秘密だ。

 

 こうして美柑とリトの好意に甘えるという、日之影一誠を知る者達にしてみればひっくり返るだろう状況となった一誠は、美柑に持ってきて貰った服に着替えると、そのまま美柑の家事を手伝いながら過ごしていると、結城家の同居人である宇宙人の少女達がやって来た。

 

 

「あれ、イッセーだ?」

 

「………ウッス」

 

「いつの間に来てたのかよ?」

 

「…………ッス」

 

 

 実の所、結城家の同居人達とはそこまで親しくはない。

 最初に住むようになったララとは、平行世界を渡る装置や方法の有無について話し合った事はあったが、友達なのかと言われたらそうでもない。ララの方がどう思っているかは別にしても。

 

 そしてその妹の一人であるナナとはもっと関わりが薄い。

 それは互いにそこまで興味が無いのと、話す理由がこれまでに一度も無かったから訳であり、だからといって互いに嫌っている訳ではない。

 

 一誠から見たナナの印象は、呪いレベルでやらかすリトに巻き込まれる者の一人で、それが起こると大体キレてリトを追いかけ回してる騒がしい奴的なイメージだけだ。

 とどのつまり、ララとナナに対しては未だコミュ障が出てしまってまともに喋ることはできずにペコペコとヤンキーみたいな挨拶をしてしまう。

 

 ちなみに、リトの命を狙ってると宣いつつ、しょっちゅう喧嘩を売ってくる金色のヤミなる少女も居たりするのだが、金髪がそこそこ嫌いだったりする一誠は未だに彼女の通り名すら覚えない始末だったりする。

 

 ほんの少しながらこの世界で生きている内に、コミュ障自体は少しずつ改善され始めているのは確かなことだけど、それはリトや美柑といった者に対してだけであって、基本的に他の者に対しては依然こんな調子である。

 

 

「あら、イッセーさん。

もしかしてまたヴェネラナさんとドクターとなにかありましたか?」

 

 

 そんなコミュ障改善中の一誠に対しての例外は美柑やリトが当てはまるのだけど、不思議な例外が何故か他にも居る。

 それがまた不可思議な事に、ララやナナの姉妹であるデビルークの三女ことモモだった。

 

 

「………………。まあ、色々とな」

 

 

 不思議だし、一体いつの間にか喋れる様になったのかについては意外と周囲は知らない。

 だが、それまでララやナナに対してはコミュ障全開な返答しかしてなかったというのに、モモからの問い掛けには少なくとも美柑やリトと同じ程度の返答をしているのだ。

 

 

「あらら、その色々についてはお察ししますけど、暫くは此方に?」

 

「ほとぼりが冷めるまでは」

 

「! ではこの前教えてくれた編み物をまた教えてくれませんか? イッセーさんに教えて貰ったおかげでちょっと凝ってしまいましたので」

 

「あ、うん……」

 

「む……」

 

 

 そして微妙に距離が近い。

 てっきりリトに好意でも持っているのかと思えば、そうでは無いらしく、嬉しそうに微笑みながらイッセーの手を握っている。

 

 

「むむ……」

 

 

 それを見て美柑が面白くなさそうな表情をしているのに気付いたのは、兄のリトだけだった。

 

 

 

 

 

 ありきたりといえばありきたりなのが、モモ・ベリア・デビルークの抱いたものだった。

 

 文明レベルも力も低ランクと聞いていた地球人相手に大ケガを負わされたと、妙に楽しげな顔をして語っていた父の話に出てくる二人の地球人。

 

 一人は尊敬する姉のララが惚れたとされる結城リト。

 

 そしてもう一人は、父であるギドと完全体ではないとはいえ互角に戦い抜いた日之影イッセー

 

 当初はどちらにも――いや、どちらかといえばララが惚れたとされる結城リトの方に興味を持っていたモモは、双子の姉であるナナと一緒に地球に行ってみたのが最初だった。

 

 結果だけをいえば、リトに関してはララが惚れるだけの優しさを持った男性というのがわかって満足だったし、モモ自身もちょっと良いなと感じもした。

 

 だが、イッセーに関しては―――異質で異常な地球人という意味で忘れたくても忘れられない男性だった。

 

 まず当たり前の様にデビルーク星の戦士であるザスティンを労せず叩きのめした場面を見せられた時は、地球人である事を疑ったし、はっきり云って血の繋がりが本当にあるのかと疑いたくなってしまうほどの美貌――それこそ母のセフィに若干近いでもない女性であるヴェネラナも怪しかった。

 

 なので寧ろ最初はイッセーに対してかなりの警戒心をモモは抱いていたのだけど、結局の所、イッセーは他人とのコミュニケーションがド下手で、ヴェネラナの事をババァ等と呼ぶ割りには、彼女に少しでも何か狼藉を働こうとすふる輩に対して、ドン引きするくらい徹底的に捻り潰したり、リトの妹である美柑に時折ヴェネラナやヴェネラナと同じような事を一誠にしている御門涼子から守られてたり……なんて姿を見ている内に、モモは一誠に対して、単純にただただ不器用なだけの人なのだと理解していった。

 

 そして完全なる切っ掛けとなったのが、ちょっとした事件でモモが色々な意味でピンチになった時に、普通に何を言うでもなく助けて、本当に何も言うでもなく普通に去っていった背中を見たあの瞬間から、モモの中での興味の度合いがリトよりも大きくなったのだ。

 

 そして、地球に何故か来た母のセフィの天然のせいで大騒ぎとなり、母の姿と素顔を間近で見ても眉ひとつ動かすこと無かった一誠のコミュ障の癖に強靭な精神力。

 

 その後、母とヴェネラナが何故かそこから喧嘩を開始した際に一誠と止めるのに苦労した事。

 

 その後、互いの母の事で互いに謝り倒した等々の積み重ねによって、モモは一誠と会話が可能である程度の認識を持たれるようになったのだ。

 

 そこからは簡単だった。

 一誠とヴェネラナがどこから来た存在なのか。

 帰る為の方法を模索している事とか。

 

 二人にとっての元の世界の地球には、色々な種族が存在しているだとか。

 ヴェネラナから一誠は元の世界ではそこそこモテてると聞かされ、写真を見せてもらい、その美女・美少女さに軽く凹んだりとか。

 

 でも誰に対してもそんな感情を今のところ一誠は持ってないと聞いて美柑と立ち直ったりとか。

 

 本当に、劇的な切っ掛けなんてものは特には無かったけど、気付いた時にはモモは不器用な生き方をしている日之影イッセーに少しずつ惹かれていったのである。

 

 

「待て、その通し方だと編み目が不揃いになる。

そこは上から通すんだ」

 

「えーっと……こうですか?」

 

「違う、こうだ」

 

 

 そんな訳で、意外にも編み物すら出来るイッセーからここ最近教えて貰っているモモは、上手いこと部屋に連れ込むと、マンツーマンで教えてられていた。

 

 律儀な事に、教える事には一切手を抜かないおかげで、最近のモモは編み物が割りと得意になっていたのだけど、イッセーから教えられてる時のモモは何時も下手になってしまう。

 

 それが意図してなのか、それとも別の理由があるのかはモモにしかわからないのだけど……。

 

 

「ここは、こう……。

それで、下から通して上へ……」

 

「……………………」

 

「それから輪に通して――って、ちゃんと聞いてるのか?」

 

「………ぇ? あ、は、はい……! も、勿論聞いてますよ? あ、あははは……」

 

「?」

 

 

 ただ、ミスをすれば後ろに回って文字通り手取り足取り教えてくれるというのだけは間違いなく、見ようによっては後ろから抱き締められてる様な密着度になっているこの状況が、モモにはとても満たされた気分になるのだ。

 

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

「さ、先程からイッセーさんの手が動く度に私の胸に当たってて……」

 

「…………! わ、悪い、わざとじゃな――」

 

「わ、わかってますよ? 寧ろちょっと嬉しいかな……って、な、何言ってるんでしょうね私ったら……?」

 

「……………」

 

 

 そして、何時ものペースが崩れてしまうのも、モモは悪くないと思ってしまうのだった。

 

 

「ご、ごめんなさい。変な意味で言った訳じゃないんですよ?」

 

「いや、それはわかってる。

ただ、キミみたいなタイプは居なかったから、微妙に戸惑ってるんだよ。

俺の知ってる女は大体気が強いというか、女を捨ててる感が凄いというか……」

 

「私もイッセーさんの仰る様な捨ててるタイプな筈なんですけどね……。

最近ちょっとそういうことをイッセーさんに見られるのが恥ずかしいって思うようになっちゃって……」

 

「いやその……ホント悪い。

こんな時、どんな顔したら良いのかよくわかんねぇ……」

 

 

 どこかの世界ならあり得ぬ平和的な光景がそこにはあった。

 

 

終わり




補足

別の世界ならば、死ぬほど毛嫌いされてるというのに、なんたる奇跡。

やっぱりファーストコンタクトって大事だね。


その2
つまり、このモモたそーの場合は、上手いことヴェネラナのママン達を観察して学習したのが大きかったのと、当初は興味の対象がリト神様にあったのが逆に良かったのです。

そして、お互いのママンが喧嘩勃発になった際に二人して其々協力して止めたのもいい塩梅になりました。


その3
結果、意外と年相応になってしまうようになったとさ。

………そして別に続かない

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