色々なIF集   作:超人類DX

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タイトル通りです。
そして閲覧注意とちょっと突き抜け修正しました。


休日 ※閲覧注意

 休みは実に良い。

 何せやることさえやってればダラダラしてても文句を言われないのだ。

 静ちゃんの家に厄介になってる身ではあるが、基本的に静ちゃんって人は放任主義というか、きちんとやるべき事さえやってれば文句を言わずに好きにさせてくれる。

 

 だからこそ俺は静ちゃんに厄介になってる訳なんだが……。

 

 

「チッ、美容室ってのは何故ああも高いんだ。

髪なんざそこら辺の1000YENカットで十分だっつーのに、静ちゃんめ……」

 

 

 俺は来たくも近付きたくも無い、割りと賑やかな繁華街をフラフラと歩き、放置していた髪をバッサリと切った姿で家に帰ろうとしていた。

 

 この世界に来てから俺は髪を切らず、ある程度の長さを幻実逃否(リアリティーエスケープ)を応用してキープしてたんだが、急に朝の食卓(俺が作った)で静ちゃんが……。

 

 

『お金を渡すからその適当にしている髪を何とかしろ。

ほら、店なら昨日私が予約しておいたから』

 

『は?』

 

 

 なんて味噌汁飲みながら言われた挙げ句、無理矢理家を追い出されてしまったんだ。

 確かにこの世界にぶち込まれた時からは髪なぞ一切の手入れせず、切りに行くもの怠いし、そもそも髪はガキの頃からエシルねーさんと、わざわざヘアカット技術を体得したレイヴェルのどっちかに手入れして貰ってたので、わざわざ金払ってまで他人に切って貰う事に抵抗があったのだ。

 

 が、静ちゃん的には目元が完全に隠れたボサボサヘアーが見苦しかったらしく、こうしてチャラチャラしてそうな男が店長やってる小洒落た店で適当言って適当に切って貰ったり何だりとして貰った訳だ。

 

 

『わ……今の人かっこよくない?』

 

『うんうん! モデルさんみたいで……!』

 

 

「…………」

 

 

『一人かなぁ? 声とか掛けみようかな……?』

 

『いやいや、絶対誰かと待ち合わせだって……』

 

 

「………………」

 

 

『チッ、イケメン死ね』

 

『キャーキャー言われてハシャいでんじゃねーよタココラ』

 

 

「……。(チッ、ジロジロと鬱陶しい。だから顔を全部出したくなかったんだよ)」

 

 

 無駄金にしか思えない金を、静ちゃんの顔立ての為だからと押して髪を切って久々に昔と同じ髪型に戻してみたが、何故たったそれだけの事でこんなジロジロ見られなきゃならんのか不思議で仕方ない。

 珍しい顔でも何でもない筈なのに……あー恥ずかしい。

 

 

「早く帰ろ……」

 

 

 この分じゃ明日の学校でも似たようなリアクションをクラスの連中にされそうな気がしてなら無いと思うと、自然とかったるい気分になり、さっさと家帰ってダラダラとくだらんバラエティー番組を垂れ流しながら安ポテチでも食って気を紛らわしたくなる。

 

 周囲からの敵意だ何だのクソどうでも良くてクソくだらねー視線を受け流しながら、俺は自然と足早に繁華街の出ようと歩くのであった。

 

 

「おうおう、おねーちゃんよー? オレたちに付き合ってくれねーかな?」

「大丈夫大丈夫、悪いようにはしねーからさ」

 

「寧ろキモチイイ事かもな……ケッケッケッ!」

 

「…………………」

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 でも、そういう時に限って見てしまうんだよな。

 こういうクソ解りやすくてクソくだらねー絵面を。

 ハァ……。

 

 

 

 

 

 その日は一人。

 ただ何と無く……ただそう思ったから。

 そんな理由で一人街に繰り出した訳だが……。

 

 

「悪いけどキミ達と遊んでる暇とか無いんだよね~?」

 

 

 歩いてみれば出てくるのは明らかに頭の悪い装飾品で塗り固めたゲスな男。

 見る価値すらなく、ゴミに等しき、同じ人間だとも思いたくないレベルの連中。

 

 故にゲス共の申し出なぞ当然お断りだ。

 

 

「そんな事言わずにさぁ~」

 

 

 しかし相手は馬鹿なのか、ハッキリ断ってるにも拘わらず引こうとはせずニヤニヤしながら2~3人で自分を囲って逃がさないつもりでいる。

 いい加減にして欲しい……。

 チャラチャラした男達に囲まれ続けていい加減にして鬱陶しくなってきた女は、『何時もの』の姿を一時的に引っ込め、冷徹な表情で『とっとと消え失せろ』と口を開こうとした――

 

 

「でっ!?」

 

 

 その時だった。

 

 

「あ、すんません」

 

 

 誰もが自分を見てみぬフリをする中、突如現れた一人の少年が、一人のチャラチャラ男を後ろか突き飛ばす勢いでわざとらしくぶつかり、一言軽く謝ってからその場を去ろうとした。

 

 

「ってて……オイコラ待てや」

 

「すんませんで済むと思ってるのか~?」

 

「慰謝料出せや慰謝料!」

 

 

 が、当然それを安いプライドを踏みにじられたと思ってる男達が見逃すわけもなく、去ろうとした少年の肩を掴んで止め、此方に振り向かせた。

 

 

「「「っ……!?」」」

 

「……」

 

 

 が、振り向いた少年の顔を見た瞬間、並み以下である男達は固まり、ナンパされていた女性も内心『ふーん?』と少年の容姿に対して評価を下す。

 

 

「………。なんすか? アンタ等が一人の女に対して無駄な事してるせいで邪魔でぶつかっただけだろ?」

 

 

 取り分けスゴい! という訳ではないが、それでも十二分に見映えのよい容姿を持つ少年は、まるで見下した様な目で狼狽えた男達を見据えながらハッキリと言う。

 

 すると此処で再び安いプライドを傷つけられた一人の男が顔を怒りに歪めながら少年の胸ぐらを掴みだす。

 

 

「んだとテメェ!!」

 

「…………」

 

 

 しかし少年は変わらずのシラケた目で見据えており、それにより怒りを更に増幅させた三人は一斉に袋叩きにしてやろうと、まずは胸ぐらを掴んだ男が少年の顔面を思いきり殴った。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 

 

 が、殴った途端悲鳴をあげたのは男の方だった。

 泣き叫ぶ様な悲鳴は繁華街を響かせ、見てみぬフリをしていたギャラリーも何事かと集まり……そしてこれまた一斉に口を押さえた。

 

 

「手……! 俺の手がぁぁぁっ!?!?!?」

 

「お、おい!」

 

「よ、よっちゃん!? て、手の甲から骨が!」

 

 

 理由は簡単だ。

 少年の顔面を殴った筈のチャラ男の拳が破壊され、手の甲から出ては行けない物が皮膚を貫いて飛び出てしまったのだ。

 これには流石のナンパされていた女も顔を歪ませ、ひぃひぃと泣き喚くチャラ男を見つめる。

 

 

「んー? 大丈夫? 病院行かないとそれヤバイと思うんだけど」

 

「ひ、ひぃ!?」

 

 

 そしてこの惨劇を生み出した……のかは微妙だが、少なくとも騒動の中心となった茶髪の少年は、こんな状況にも拘わらず、変わらずの実に冷めきった目で痛みに悶絶する男と、恐怖に顔を染め上げた残りの二人に対して抑揚の無い声で言う。

 全くの無傷な顔で……。

 

 

「ひ、ひぃぃぃっ!!」

 

「ま、待て! 置いてくなよー!!」

 

「わぁぁぁっ!!!」

 

 

 それが引き金となり、男達はただ目の前に現れた人間とは思えない何かから全力で逃げ出した。

 ギャラリー達を必死に掻き分け、ただただ逃げた。

 

 

「……………。もうちょいマシなパンチ出せよな……つーか脆すぎだっつーのハァ……」

 

「…………」

 

『…………』

 

 

 逃げた男達を追わず、ただそれだけを言った少年に、被害者である女性を含めたその場に居た全員は声すら出せず、ただただ死んだ魚みたいな目になってフラフラと歩き出した少年に道を譲りながら見ているだけしか出来なかった。

 ただ……異常な事をしでかしただろう少年を。

 

 

「………」

 

 

 いや、少なくとも少年の姿が見えなくなった瞬間ハッとなった被害者の女性だけは、途端に目付きを鋭くさせながら少年が歩いていった方向へと走り出した訳だが。

 

 

 

 

 

 コイントス。

 つまりコイントスして裏が出たらそれとなく助ける。表が出たらそのままスルーする。

 

 何処にでも居そうなチャラ男にナンパされて困ってたっぽい……姿とかあんま見てない女の人の運を確かめるって意味でやってみたんだが、結果は……裏。

 つまり女の人は多分運が悪かったって訳だ。

 だってわざわざ見る必要の無いグロシーンを見せ付けられたんだからな。

 あ、でもその時含めて女の人の姿とかリアクションとか見てないしどうでも良いか。

 

 んな事よりさっさと帰って静ちゃんお気に入りの特撮DVDでも見るとしようかね……。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってー!!」

 

「しっかし最近の小僧共は軟弱だな。テメーから小突いておきながら自爆するとか、どんだけ鍛えてねーんだよ。

前の世界の一般人より弱いだろ絶対……」

 

「ま、待ってってば~!」

 

 

 まあ、見た感じ頭とか悪そうだしサツに通報しようも、テメーで殴ったら自爆しましたなんて言えるわけもないし心配しなくてもいいか。

 んな事より今日の晩飯は何作ろうかな。

 昨日はトンカツだったし、今日はヘルシーに野菜料理でも――

 

 

「ちょっと……待ってよってばっ!!!」

 

 

 チッ、さっきからうるせぇな。

 こちとら今晩の晩飯の献立考えてるってのに、後ろからピーコラとクソ喧しい。

 声からして女だが一体誰だ? と、さっきから誰に対してなのか待て待てとクソ喧しい声に思わず振り向いてみると……。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……あ、歩くの……は、早い……!」

 

「あ?」

 

 

 どっかで見覚え―――――は無い黒髪の女が俺の目の前で肩で息を切らせているではないか……。

 はて……てことはさっきから喧しかった理由は俺を呼び止めようとしたからなのか? …………え、なんで?

 

 

「さ、さっきの……はぁ……はぁ……た、助けて……くれ……ひぃひぃ……」

 

 

 え、助け? ……ん? あぁ、さっきナンパされてた人なのか? 全然興味なくて顔すら見ずにスルーしてたから被害者の人とは思わなかったというか、わざわざ来たのか?

 

 

「何か用すか?」

 

「ちょ、ちょっと待って……」

 

 

 チッ、わざわざトラウマ植え付けるようにしてやったのに、予定外にも追って来やがった。

 やっぱ他人なんか助けるべきじゃねーよな……あーめんどくせーな。なんて思いながら膝か抱えて息切れする黒髪の女をジーッとどうでも良く見てる俺に、漸く回復でもしたのかその女は顔を上げた。

 

 

「い、いやー……見ず知らずの人に借りを作るのは性分じゃないものだから……さ……ふぅ……」

 

 

 そして露になった女の顔立ちに俺は、何と無く見覚えがあると感じた。

 あれはそう……あ、そうそう雪ノ下部長に似てなくもない気がしないでもないな……的な。

 

 

「あ、そっすか……。なら借りと思う必要は無いんで俺はこれで」

 

 

 まあとは言うものの、体型が全然違うし雰囲気も真逆なんで他人の空似として処理して、俺はさっさと帰ろうと背を向ける。

 貸しとか借りとかどうでも良いし、コイントスで裏が出たから勝手にやったことだし、通り道の邪魔だったからああしただけなのだ。

 こんなどこの誰とも知らん女に礼を言われても何の感慨も達成感も感じるわけがない。

 

 

「ま、待ってよ。あはは、意外にクールだね」

 

 

 が、この女はどうも一言言って黙る様なタイプでは無いらしく、胡散臭さ1000倍の作り顔で笑みなんざ浮かべながら去ろうとする俺の腕を掴んできた。

 

 

「ちょっとしたお礼がしたいというか、あんな不思議極まりない現象を見せられたらおねーさんは夜も満足に眠れなくなっちゃうんだ? だから……少しで良いから、ね?」

 

「結構です。礼がされたいからしたわけじゃないんで」

 

「うーん、あくまでそのスタンスを貫こうとする所……おねーさん嫌いじゃないなぁ?」

 

 

 ……………。チッ、どうやら地雷を踏んでしまったようだ。

 ドン引き処か興味を持たれるとはな……。

 何故かこの女が雪ノ下部長を彷彿とさせるのは気のせいなのか。

 

 

「だから要りませんと言ってますよね? 俺暇じゃないんで」

 

「えー? じゃあキミにデート申し込むからさ」

 

 

 何が『じゃあ』なんだ?

 この女……そうやって人の良さそうな笑顔振り撒いてれば誰しもが頷くとでも思ってるのか? くだらねーな……実にくだらん。

 

 

「っ……」

 

 

 そもそもだ……名前すら聞くにならんほどに興味がねー女。

 さっきからベタベタとうぜーんだよ。

 

 

「消え失せろ」

 

「へ?」

 

 

 一々距離の近い女を突き飛ばし、ただ一言消えろと言い放ってやると、女はキョトンとした表情を浮かべていた。

 多分こんな事言われたこと無く、自分が何を言われたのか解ってない……そんな顔だ。

 

 

「何を考えてるのか興味も無いが、そうやって生きれば世の中の人間が上手いこと動くとは思わないことだなおねーさん?」

 

「……………」

 

 

 胡散臭い笑顔はあのクソ野郎みたいでイライラする。

 まぁ、この女はそんなタイプじゃなく、もっと別の意味で張り付けた顔してるんだろうが、とにかく俺にとってのこの女はそこら辺で死のうが何されようが興味はねぇ。

 今回は偶然に偶然が重なっただけ……只それだけしか無いんだよ。

 

 

「……。どういう意味かな?」

 

「その台詞は自分で鏡でも見て考えるんだな。

わざわざ教えてやる義理も貸しも俺には無いね」

 

 

 つーか身に覚えがあるから急にそんか冷徹な顔付きになってるんだろうし、教える必要もないだろ。

 全く……くだらん事はしない方が良いと決めたのに、俺もまだまだ馬鹿だな。

 

 

「そういう訳なんで、これっきりの対面になることを互いに願いましょうや。

んじゃ…………『またいつかとか。』」

 

 

 そう言って俺は無表情となった女から背を向け、今度こそ家に帰ろうと――

 

 

「待って」

 

 

 出来……ない。

 

 

「知りもしない私を、随分と見透かした様な言い方で偉そうにしたけど、これは違う意味でキミを引き留めたくなっちゃったなぁ……」

 

 

 帰ろうとする俺の前に立ちはだかり、さっきの胡散臭さを全部引っ込めた低い声と能面のような無表情で俺を見る女は、どうやら俺をこのままタダで帰させたくなくなったようだ。

 

 …………。なるほど、図星突かれて勝手にキレたとかか? はっはっはっ――――

 

 

「引き留めてみろよ……できるもんならな」

 

「うっ!?」

 

 

 無理だよ……無理。

 他人のカスが俺に指図なんざ出来ねーんだよ。

 

 

 

 

 その目は全てを『見下している』様に見えた。

 その表情は何かを『諦めている』ように見えた。

 

 その出で立ちは人間だけど……人間とは思えない何かを感じさせた。

 チンピラを何もせず自爆させた時に見た彼に、だから私は興味本意で近付いた。

 その結果……彼は見ただけで私を見透かした様な言動を取り、私の誘いをくだらないと一蹴した。

 

 それがただ何と無く……無性に悔しく、ムカついたので彼を何としてでも縫い付けてやろうと笑顔も愛想も忘れて前に立った瞬間……。

 

 

「引き留めてみろよ……できるもんならな」

 

「うっ!?」

 

 

 私は膝を付いていた。

 なんというか、見えないナニかに上から思いきり押さえつけられているというか、言葉に出来ない重圧感に襲われたのだ。

 それは当然、目の前の男の子から発せられてる殺気? というべきか……。

 

 

「おいおい、ちょっと脅しただけで死にそうな顔じゃんか……。出来もしねー喧嘩なんて売るなよ」

 

「うぐ……!」

 

 

 私は見誤っていた。

 目の前の少年は決して人間じゃない……人間の皮を被った――

 

 

「チッ、なんだよ……後味の悪い。

ほら、今のは冗談だから立ってよおねーさん」

 

 

 かい……ぶつ……?

 

 

「う……うぅ……?」

 

 

 でもその内面は……何と無く……ほんの少しだけ解る所がある気がする。

 

 誰にも理解されない。

 でもだからと言って理解して欲しいとは思わない。

 

 

「ハァ……ハァァァァ~

どうしてこうしちまうのやら……。マジでこんな自分(テメー)に吐き気がしやがる」

 

 

 きっとこの子は『私と同じく』多くの人に『挫折』を味合わせて来たのかな?

 そして私が知り得ない『何かを』知って『諦めて』しまったのだろうか?

 いや、どちらにせよ生まれて初めて私はある種の挫折を味あわされた……いや、実在したんだとたった数分で嫌と云うほど思い知らされた。

 

 

「勝算なんて無いくせに喧嘩を売る輩程相手にすんのが怠いものは無いな……おら立てよ」

 

 

 生まれの良さ、半端な才能、良い地位に居る程度の人間を鼻で笑って踏み潰す様な、誰よりも高い場所から見下ろす人間が居ることを……私はめんどくさそうに私の腕を掴んで立たせようとする男の子を見て理解した。

 

 名前も聞いてない男の子からの威圧感が消え、気付けば私は力の入らない身体を男の子の手を借りて立たされた私は、まださっき受けた極悪な威圧のせいで膝が笑って上手く立てずに居た。

 

 

「ぅ……」

 

 

 だから故意じゃなく本当に……私は男の子にもたれ掛かってしまった。

 

 

「っと……あーぁ、余計な事なんてするんじゃなかったな。マジでめんどくせーぞ」

 

 

 そんな私を嫌々といった声を出しつつ受け止めてくれた男の子。

 見た感じで細身なのかなと思ってたけど、その見た目にはそぐわないガッシリした感触が伝わり、ちょっとビックリし、思わず突き飛ばしそうなったけど、身体に全然力が入らないので……何か……その……抱き合ってるみたいなアレに……。

 

 

「なぁオイ、もう一人で歩けんだろ? ……ったく、なんで俺がこんな餓鬼のお守りみたいな真似を……」

 

「ちょ、ちょっと待って……ま、まだ力が……。というかこれキミのせいなんだからね?」

 

「知るかよ。此方は早く帰りたいのに……」

 

 

 大抵の人間なら皆優しくしてくれるというのに、この男の子の方は心底嫌そうな顔をしていて、ある意味私にとっては新鮮だった。

 こう……この男の子にはどんな真似をしても真正面からニヤニヤと笑って私を叩き潰す……そんな巨大な何かを持った人なんだと思うと、初対面なのに変な安心感が……。

 

 だからかな……ホントはしがない『おねーさん』を名乗るつもりだけだったのに……。

 

 

「あの……私……雪ノ下陽乃という名前で……」

 

 

 名前を言ってみたんだ。

 何かを期待するかの様に……。

 

 

「ゆき……何だと? 雪ノ下だぁ? …………………………なるほど、だからなのか。

これで違和感に対して納得したぜ……ケッ、更にダリィ」

 

 

 その際、これもほぼ初めてだけど露骨な舌打ちをされちゃったよ。

 あはははは……新鮮だな。

 

 

「で、あの……キミの名前は?」

 

「…………………………………………………………………。比企谷……えっと八幡」

 

 

 その流れに乗って名前を聞いてみようと、彼にもたれ掛かりながら聞いてみたところ、物凄い間を置かれた挙げ句死ぬほど嫌そうな顔つきで明らかに今思い付いた様な偽名を言われてしまった。

 

 あ、あは……こんな露骨に嫌がられるのもまた新鮮だなぁ……あははは。

 

 

 

 

 クソが……。

 何か引っかかると思ったら雪ノ下ってあの『雪ノ下』だよな?

 しかも何だっけ? 雪ノ下陽乃って……わっかりやすいなオイ。

 

 

「そっかぁ……比企谷くんって言うんだー? へー? …………………………。そんなにおねーさんに本名教えるの嫌?」

 

 

 取り敢えず雪ノ下部長の身内っぽい女……雪ノ下陽乃はあらゆる意味で怠い。

 あの女王様の身内だけあって、この程度の小嘘が小嘘だと見抜いてきやがる。

 

 くそ……馬鹿であるなら適当こいて捨て置いてやったものを……。

 しかもこの女、さっき脅しくれてやったっつーのに――

 

 

「待ってよ。動けないよ……こんな所で放置されたら私騒いじゃうよ? 『比企谷八幡くんに捨てられたよー!!』って大きな声で。

そうなったらキミじゃない比企谷八幡くんは謂われない冤罪を被っちゃうね?」

 

「……………」

 

 

 笑いながら逆に脅しくれて来やがったのだ。

 正直、そんな事をこんな状況でほざいた事に関しては地味に強かな奴だと関心したが、このまま無視したらマジで関係ない比企谷くんに在らぬ疑いを吹っ掛けられてしまう。

 

 

「……」

 

「本名を教えてよ? 悪いようには絶対に――いやしようにもリスクを考えたら出来ないしさ」

 

 

 それは流石に今の俺でも躊躇してしまう。

 だって比企谷くんマジで全然無関係だし……。

 よーし……こんな時はぱっぱと幻実逃否だな。

 

 この雪ノ下陽乃の持つ俺に関する記憶の全てを否定し、記憶すらしてない現実にしてしまえば全て解決。

 全て終わり。

 

 

「そっか……じゃあアンタは俺の存在を知らなかった方が良いな。オーケーオーケー……」

 

「え、な、な――わっ!?」

 

 

 そうと決まればこの女に対して躊躇なんてしねぇ。

 成り行き上、肩を貸してた雪ノ下陽乃を軽く突き飛ばし、尻餅を付いて驚いてるその眼前に手を翳した俺は、負け犬となっても尚無限にマイナス成長し続けるコレを発動させた。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)……貴様が持つ俺に関する全ての記憶を持つ現実を否定し、顔すら知らない何も知らない幻想へ……逃げる」

 

「!?」

 

 

 この言葉の意味なぞこの女が解るわけがない。

 解った所で次の瞬間には俺に関する記憶は全て否定されて消える。

 故にどうでも良い、故に終わり。

 このくだらん茶番も何もかも全て終了―――

 

 

「………。兵藤……一誠……?」

 

 

 そう思っていた。

 少なくとも瞳孔を開いた目で譫言の様に教えてもない俺の名前を辿々しく口に出したその瞬間(トキ)までは。

 

 

「っ!?」

 

 

 このスキルとも長い付き合いだ。

 制御をミスするなんてポカは絶対にやらん自負がある。

 しかし今俺は自身の性質から生まれたこのスキルに違和感を覚えた。

 例えるなら……そう……アクセルとクラッチを思いきり間違えた様な……そんな基礎的な大ミスをやってしまった様な――

 

 

「え……? これって……なに? 頭の中に次々と……? これ、は……兵藤くん……?」

 

「な、何言ってんだ? ま、まさか記憶じゃなくて人格を否定してしまった……いやそんな訳は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生徒会長……? 悪魔? 天使? 堕天使? 転生者…………悪平等……?」

 

「な、なぁっ!?」

 

 

 こ、コイツ! な、何でその名前を知ってる? 何で呟いてる!?

 俺は間違い無く自分のマイナスをこの女に使って俺に関する記憶のみを否定して消した筈だ!

 なのに、どうして他人でしかこの女が俺の……俺の……!

 

 

「転生者に奪われて…………あ、あは、あははははは♪ そっか……只の人間じゃないと思ったら……あはははは♪ あははははははは! キミって子は……そんな事があったんだね!」

 

「くっ……て、テメェ……! 俺に触れるな!!」

 

 

 誰がこんな事を予想する。

 静ちゃんの時は俺が死にかけてたからそうなったのに、この女に関しては俺自身がスキルを発動しただけなのに。

 

 結果はどうだ……この女は俺の記憶を消してないばかりか、俺の正体に密接に関わる箇所を……制御が出来なくなったスキルを介して俺の記憶を読み取りやがった。

 

 

「否定……否定! 否定否定否定否定否定!! この女の記憶から俺の全てを消せぇぇぇっ!!!!」

 

 

 朝から変な予感はしていた。

 何か面倒な事が起きそうな気はしてた。

 だが……こんな……こんな……! 消えろ……! 消えちまえ!!

 

 そうなれば狂った計算は全て元に――――

 

 

 

 

 

 

「漫画みたいな世界から、キミは追い出されたんだね? だから全部を諦めてるんだね? そっか……静ちゃんに続いて私がキミを知っちゃったんだ……ふふふ♪」

 

「ぐっ!?」

 

 

 も、戻ら……ない……?

 雪ノ下陽乃という女は、何も知らない馬鹿なら騙されそうな笑みを静に浮かべて立ち上がり、狼狽えて声が上手く出せない俺をじっと見ながらゆっくり距離を縮める。

 

 

「く、来るな……殺すぞ!」

 

「どうぞ? でもそれでキミは果たして満足できるの? 言って置くけど私、実のところキミの保護者である平塚静と知り合いなんだよねー?」

 

「っ!?」

 

 

 そ、そこまで俺の記憶が逆流したのか……!?

 く、クソ……応用の効き過ぎるスキルだったのが初めて此処まで裏目に……!

 

 

「世の中って不思議だね? さっきまで私がキミに圧倒されたのに、今度はキミが私に圧倒されている」

 

「き、貴様……!」

 

「あは、その口調と目は私の頭に入ってきた『生徒会長』だった時のだね?」

 

「黙れ!! 何も知らない赤の他人が知ったような口を……!」

 

 

 一歩一歩近づいていくる雪ノ下陽乃に合わせて後ずさってしまう理由は、俺自身がこんなちっぽけな女を怖がっているからなのか? 胡散臭さを感じる笑顔に恐怖を感じているからなのか?

 

 

「知らないよ?

だって今出会ったんだもん。でもある意味でこの世で二番目に……妹の雪乃ちゃんよりもキミを知ってる。それは否定できないよね?」

 

「……!? や、やっぱりあの部長の身内……」

 

「まぁね……死ぬほど嫌われてるけど、そういうこと。

いやー……世の中って狭いよねー?」

 

 

 物理でぶっ殺すべきか? いや、理由は知らないけど幻実逃否が制御不能になってる今やるべきじゃない。

 だがこの女に知られた現実をこのままにしたら――

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、改めて言うけどさ」

 

 

 殺すべきか否か。

 久々にある意味で命の危機を感じるのと似た気持ちで焦燥しきる俺は、気付けば繁華街を過ぎた人気の無い小路の壁際まで追い込まれ、雪ノ下陽乃にされたくもない密着をされ、今すぐぶっ壊してやりたい笑顔で言われた。

 

 

「さっきのお礼がしたいから、おねーさんと『デート』してくれない?」

 

「う……うぅ……!」

 

 

 断る事が出来るような言い方。

 あくまでも主導権は貴方にありますよと言わんばかりのわざとらしさでそう切り出した雪ノ下陽乃に俺は――俺は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、る……せぇぇぇぇ!! この豚がァァァァ!!!」

 

「え―――ぴぎゃあ!?!?」

 

 

 伝家の宝刀……逆ギレをしてやった。

 

 

「ふ、ふぇ……?」

 

「……………」

 

 

 考えなくてもこの女は俺にとって最大の脅威なのかもしれない。

 が、だが……だ。考えてみればこの女は只の女だ。

 つまり――今俺が殺すわけにはいかないので死ぬほど手加減したビンタかまして吹っ飛び、うつ伏せのくの字でひっくり返った雪ノ下陽乃に対して、幻実逃否が使えない今すべき事は一つ……。

 

 

「おい、勘違いしてる所悪いけど、テメーの口を封じる手なんざ殺す意外にもあるんだよ?」

 

「え、えっと……それってつま――りひぃ!?」

 

「……。俺の名前や姿が頭に出てきた瞬間吐く位のトラウマを作る……だぜぇぇぇえ!!!」

 

 

 俺の事を一秒たりとも思い出したくなくなるレベルの何かを植え付ければ良い。それだけだ。

 だから俺は急に冷や汗を流して恐る恐る聞いてきた雪ノ下陽乃を――

 

 

「俺……昔から強気な女をメタメタにするのが好きな気があるみたいでな? なに心配するな……数時間で貴様の見てる世界を螺変えてやる。

さぁて、止め役のレイヴェルや白音も居ないし……クックックッ……貴様の悩み事を解決するためにお望み通り

の『デート』をしてやろうじゃないか――いや、こう言うべきか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元・駒王学園生徒会長・兵藤一誠! 雪ノ下陽乃の依頼を受け、生徒会を執行する!!!」

 

 

 ……。ちょっとだけ改造してやる事にした。

 うん、殺さないだけ平和じゃないか……あっはっはっは。

 

 

「ちょ、ちょっと待って! おねーさんはそんな趣味嗜好はにゃい!?」

 

「無いなら作れ。よく言うじゃないか、『何事も挑戦』ってな。

大丈夫だ……何も貴様を此処で素っ裸にひん剥き、首輪と鎖のリード使って繁華街をお散歩させる真似は『まだ』やらんよ……ククッ」

 

「な、な、なにその変態プレイ!? というか一誠くん……で、良いの? さっきから生徒会長だった頃の口ty――あへぇ!?」

 

「おっと? こんな所に生意気な雌猫が一匹……。ふむ、人様に危害を加えんように俺が何とかするか? 何とか……な!!」

 

「ひぃ!? ま、待って、さ、さっきまで狼狽えてたの――あひゅ!? そ、そこ踏まな――ひぃん!?」

 

「ふ、ふふ……ふはははははは!!!!!!!」

 

 

 

 この日、兵藤一誠と雪ノ下陽乃はある意味で変化した。

 その理由は――――お察しである。

 

 

終わり。




補足

どっかのシリーズみたいにマゾねーちゃん化はしないさ。

………うん。

だって、この人なら絶対に報復するでしょうし……えぇ。

その2

スキルが暴走する流入ついて。

簡単な話、両スキルによって身体能力やらスキル自体は無限進化をしてますが、肝心な制御者である一誠自身の精神がヤサグレテ『成長した所で無駄なだけ』と思ってるせいで、進化だけはし続けるものの制御が出来なくなる箇所が浮き彫りになってる訳です。

凄い適当な例えにすると……『運転免許取り立ての人間が、F1カーを運転する』的な。

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