色々なIF集   作:超人類DX

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ある意味で本当の番外編です。

もっとも、最初の奴はなんとなく書いたやつですが。


番外モード
其々のその日


パターンその1

 

 

 かの深紅の龍は言った。

 

 奴も、奴の中に存在するアレも似非である。

 

 それまでの当たり前が消え去る事になったあの日、小さな子供は全てを教えられた。

 外の世界の存在。

 転生を自在に行使する神の存在。

 

 そして、その神と転生せし者に抗い続けた未来の自分自身のことを。

 

 少年に宿った龍はその未来の自分に宿っていた赤い龍であった。

 そんな龍に当たり前の日々を失った少年は教えられ、抗う事を決意した。

 

 そして遮二無二に強さを追い求めた。

 

 何があろうと奪い取られぬ強さを持つ為に。

 

 そして独りとなった少年は出会う。

 

 赤い龍ですら予想していなかった者達と。

 

 疲弊で倒れていた薄汚い子供を拾ってくれたとある家族との出会いが、10年後には出会う筈である赤い悪魔との運命を変えることになっていく……。

 

 

 

 

 

 レールから外れた少年は、教えられる事で別のレーンに入り、歩き始めた。

 自身に宿る未来から来たドラゴンによって抗う術を身に付ける事で、奪われた個とは違う個性を持った事で復活を果たしたのだ。

 

 しかし未来は不確定である。

 個を持ち直した少年は知らないが、少年に宿る龍にしてみれば、今現在少年が歩む道は自身が知る道とは違うのだ。

 

 何故なら、まず少年は学校には通うことは無かったのだけど、この時代の少年はきちんと通っている。

 

 通える理由は、龍にとっても予想外となったとある家族との出会いが理由だったりするのだが、それ以上に龍にとっての一番の違いは、去年には顔を見たこの時代の赤髪の悪魔とは顔見知り程度の関係でしかないという事である。

 

 未来の時代でなら、バでも頭に付くくらい仲を深める関係となるというのに、少年自身がその赤い悪魔に対してそこまで興味を持っていないのだ。

 

 代わりに未来の少年とほぼ間違いなく同じ気持ちを抱いている相手が、赤い悪魔―――ではなく、赤い悪魔の右腕の少女だった。

 

 

「さっきリアスと話をしていた時、鼻の下が伸びてた」

 

「唐突に何を言い出すんだよ……?」

 

 

 この時代には存在せず、替わりにとばかりに存在する転生者が女であるせいか、直接的な被害が少なかったせいで未来が変わった事によるものなのか……それは龍にもわからなかったが、既に変わり始めた未来への道を進む現在、成長し、力を付けた少年は学生をやっており、何を間違えたらそうなってしまったのか、学園の風紀委員長になんてなってしまっていた。

 

 それもこれも、先代達がいち早く彼の資質に目を付けてあれよあれよと囲い込んだせいであり、その先代達が卒業した事で自動的に一人になってしまった彼が委員長を受け継いだのだ。

 

 そんな一人となった風紀委員会専用の部屋にて、チマチマとお仕事をしていた少年――一誠は、いきなり入ってくるなり怒ってます顔をしている黒髪の少女の言葉にポカンと口を開けていた。

 

 

「だってそう見えた」

 

「み、見てないっての。

話しかけられたから返しただけだし……」

 

 

 彼女の普段を知る者からしたら、かなり驚くだろう程度には妙に子供っぽい声色に、一誠は嘘でもなんでもなく本当の事だと返す。

 

 少女が口にしたリアスという名の赤髪の少女が所属する部の副部長にて、右腕でもある黒髪の少女――姫島朱乃に対して。

 

 

「でも好みなんでしょう? リアスみたいな子が……」

 

「好みかどうかは知らないけど、綺麗な子ではあるとは思うけどよ……」

 

「ほ、ほらやっぱり!」

 

「ち、違うって! 思うだけでそれ以上思うことなんて特には無いよ!」

 

 

 薄汚れた子供となった一誠を助けてくれた家族の一人で、今までずっと共に育った仲である姫島朱乃。

 龍――未来のドライグの記憶の中での彼女は、リアスを裏切った者の一人であり、転生者にのめり込んでしまった者であり、未来の一誠によって破壊された存在。

 

 だがこの時代では、そういう突き抜けた転生者が居なかったのと、リアスよりも先んじて出会ってしまったせいで、ずいぶんと嫉妬深い少女に成長してしまった。

 

 具体的にはちょっとしでも一誠が異性と楽しげに話をしているのを見てるだけで怒り出すか泣き出す程度には。

 

 

「ホントに?」

 

「ホントホント!」

 

「本当にほんとう?」

 

「本当に本当で本当だぜ!」

 

 

 めんどくさい小娘だ。

 リアスはその点、一誠を信用していたのでこういう事は起こらなかったのに……と、過去の事もあってか、姫島朱乃についてあまり良い印象を持っていないドライグは、何度も本当だからと朱乃を説得している一誠を彼の中から見守る。

 

 もっとも、朱乃がこういう素になってしまった原因があるだけに、ドライグも全く朱乃に同情しないということではない。

 

 

「少しは信用してくれよ……」

 

「ごめんなさい、信用しているけど、やっぱり不安で……」

 

「大丈夫だよ。

何があろうと、どんな事が起ころうと、俺は絶対に朱乃ねーちゃんを裏切らないよ。

あの時誓った通りにね」

 

「……うん」

 

 

 歳は一誠よりひとつ上の朱乃を一誠が落ち着かせるように抱き締めて背中を優しく撫でる。

 裏切られ、見捨てられた当初のリアスがこうなった時には、未来の一誠も同じ事をしてやっていたので、こういう面は同じだなとドライグは思いつつ見守る。

 

 そして、大切に思う者を傷つけられた時の莫大な報復心もまた……。

 

 

 

 

 

 

 言ってしまえば兵藤凛は転生者である。

 言ってしまえば兵藤凛は兵藤一誠の従兄弟になる筈だった。

 

 なのに兵藤凛は一誠の双子の姉という位置で神に転生させられた――しかも赤い龍を宿す赤龍帝という、本来一誠がなるべきである力まで持たされて。

 

 別に一誠に対する悪感情は無い。いや寧ろ、一誠の未来のハーレム要因の一人になれたらなと思う程度には一誠に好意を持っていた。

 

 

 だが、皮肉な事に、彼女が一誠に対する好意を抱けば抱くほど、彼女と親しくなる者は例外無く一誠を嫌う。

 まるで呪われているかのように……。

 

 そして何よりも、一誠自身が凛に対して関心をまるで持っていなく、自分がどこからともなく現れた者だという認識までされている。

 

 お陰で本来の実家となる兵藤家に一誠はもう何年も帰らなくなってしまったし、両親達もそんな一誠を最初から存在しなかった様に扱っている。

 

 だから凛は何とかして一誠を家に戻してあげたいと思うのだが、一誠自身はあの姫島朱乃の実家で殆ど育ったも同然に成長してしまい、挙げ句の果てには朱乃にしか優しくする気も無いという、ハーレム王思考から完全に遠ざかった性格になってしまった。

 

 育った環境が違ったからそうなったのか、はたまた朱乃との早すぎた出会いがそうさせたのか……まともに口すら聞いてもらえない凛にはわからなかったけど、今日も所属しているオカルト研究部の部室へ、朱乃に引っ張られるようにしてやって来た一誠に話しかける事自体の難易度がベリーハードな凛は、悶々としながら、甘えてくる朱乃を当たり前のように受け止めてる一誠を眺めるのだった。

 

 

「え、グレモリー先輩が結婚するんですか?」

 

「しないわよ。

ただ、結婚させられるかもしれないって話だけで」

 

「それはまた何故……?」

 

「簡単に言えば勝手に婚約者を宛がわれたのよ。

私はそんな相手と結婚なんてしたくないのだけど、話はどんどん進められちゃってね。

近々、その婚約者とやらがこっちに来て色々と話をする事にはなっているのだけど……」

 

「それはまた難儀っすね……」

 

 

 そんな一誠は風紀委員としての仕事を先代達のスパルタ教育の賜物か、割りと生真面目に一人で終わらせたタイミングで朱乃に呼ばれ、旧校舎のオカルト研究部にやって来て、一応は朱乃の悪魔としての主となるリアス・グレモリーから婚約者についての話をされていた。

 

 このそこそこに薄い反応の時点で、一誠自身に宿る未来のドライグの知るリアスとの関係性は皆無に近いものがあるし、一誠自身もリアスの顔から下――横で一誠の目の動きをジーっと監視している朱乃に匹敵するレベルに育っている果実だけは絶対に見ないようにと努めている。

 もっとも、一誠自身がリアスに対してそんな目で見た事は無いのだけど。

 

 

「仮にだけど、話し合いに失敗して私がその婚約者と完全に結婚する事になったら、この子達も冥界に連れ帰らないといけないのよ」

 

「……。それで?」

 

「その時は朱乃と凛をアナタに託すつもりで――」

 

「お姉さんは別に良いっす。

朱乃ねーちゃんは任せてください」

 

「…………………。あ、そう」

 

 

 リアスもまた一誠にそういう感情は無い。

 まだ幼い頃に朱乃を初めて眷属にした時から一誠は知っているが、正直いって、その時点で一誠は朱乃か朱乃の家族にしか優しくしていないのは知っているし、朱乃が軽く嫉妬していようが、一誠は絶対に朱乃を裏切る真似をしないことも知っている。

 

 何せ、去年一誠の力に頼もしさを感じて誘惑に近い真似をしたけど、一誠は眉ひとつ動かす事なく、呆気なく突っぱねたのだから。

 その冷たさは例え肉親であろうが関係なく、然り気無く兵士である凛の事を言及すれば、一誠は真顔で朱乃だけを守ると言い切ったぐらいだ。

 

 聞いてしまった凛が隅の方でショックで固まっているのを他の眷属達が慰めているのが見える。

 

 

「勿論そうならないように努力はするわ。

問題は、その婚約者がかなりの女好きだから、もしかしたら私の眷属にも――」

 

「大丈夫っすよ。

……………………………―そうなりゃ、アンタ等含めて皆殺しにしてやるだけですから」

 

「…………そこまで朱乃を大切にしているのを見せられると、何だか妬けてきちゃうわ。

はぁ、朱乃よりも早くアナタに出会っていたらと思うと、残念よ」

 

 

 人でありながら異質な力を持つ少年は、意外な程に極端で、周囲が思う程に姫島朱乃を大切にしている。

 彼女の為ならば比喩無しに障害となる存在を皆殺しにすると宣言し、その宣言をするだけの力を持っている事もリアスは知っている。

 

 だからリアスは思うのと同時に朱乃を羨望する。

 

 もし朱乃よりも先に出会っていたら……と。

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 パターン2

 

『ナイトメアモード』

 

 

 もしただ一人だけがリアスを裏切らずに味方であり続けたのなら。

 

 理不尽から逃れる為に共に名を捨てる覚悟を持った親友であったのなら。

 

 逃げ延びた先で復讐を誓う赤き龍帝と共に出会えたのなら。

 

 共にその少年に惹かれたのなら……。

 

 

 その後の三人の未来はまだわからない。

 

 

 

 グレモリー家とシトリー家の子女はどれだけ言っても眷属を決して持とうとはしなかった。

 そればかりか、其々の肉親に対してどこか壁を作った様な――信用はしていないような態度であった。

 

 何故そうなのかは周囲の者達は知らない。

 反抗期なのかと思ったけど、幼少期からそんな態度となれば別の理由があるのだろうけど、誰もその理由を知ることはできない。

 

 だというのに、リアスとソーナという名の悪魔がそんな壁を取り払う相手は肉親でもなければ同族でもない、龍を宿した少年なのだ。

 

 駒による転生すらしていない人間の少年。

 

 それがリアスとソーナが信頼する者の正体。

 

 

 

 

 

 同じ釜の飯を食った者同士でもあり、共に抗うと決めた仲間でもあり、かけがえのない最愛の者でもある。

 それはNIGHTMAREとなった世界からNIGHTMAREへと変質する前の時代に何の因果か戻ってしまったとしても変わらない。

 

 いや、寧ろ以前よりも更に早い段階で再会する事に成功し、密かに切磋琢磨し続けた事で、誰にも切れぬ最高の繋がりへと変わったのは間違いない。

 

 成長し、元の時代と変わらぬ姿へと戻れば、二人の悪魔の少女と一人の人間の少年は、同じ屋根の下で生活しながら、元の時代の様な事だけは起こさぬ様に徹底する。

 

 その他についてはどうなろうが知ったことではない。

 

 かつての眷属達がこの時代でどうなっているかについても、リアスとソーナにとっては関係ないのだ。

 挙ってリアスを見下して、裏切った者達がこの時代ではまだ何もしていなかったとしても、再び眷属にする気には――いや、もう二度と誰かを眷属にする気には二人にはなれなかったのだ。

 

 

「懐かしい。

この場所はこの時代にもちゃんとあったのね……」

 

「ここから私達は始まったのよね」

 

 

 そんなリアスとソーナは人間界においてとある場所を訪れていた。

 そこは寂れた山の中にある小さな洞窟で、リアスとソーナ……そして赤い龍を宿す少年こと一誠にとっての始まりの地であった。

 

 

「そうそう、あまりに夜が寒くて、一枚の毛布に三人でくっつきながら寝たりね?」

 

「色んな意味で俺は辛かったし、マジで寝られなかったぞ……」

 

「結局私とソーナにとっての初めてもここだものね?」

 

「金も無かったからなぁ……当時は」

 

 

 三人にとっての聖地巡礼みたいなものであり、元の時代では完全なる再起が整うまでの間を過ごしてきた場所は大切な思い出だった。

 貧しい食事を分け合った場所でもあるし、寒さを凌ぐ為に互いに密着しながら眠った場所でもあるし……三人が同時に大人になった場所でもあった。

 

 だからこそ三人はこの時代におけるこの場所を訪れ、思い出に浸ってから、今住んでいる決して広くは無く、寧ろ狭いワンルームのアパートに帰っていく。

 

 

「ねえ、一応今の生活能力ならもう少し広い所に住めるんだぜ? 良いのか?」

 

 

 それぞれの実家の力は絶対に使わないと、支援等を全部突っぱねてるリアスとソーナの気持ちを知っている一誠はアルバイトをしながら二人と同じ学校に通っている。

 

 この時代の両親は健在で、リアスとソーナの事もよくしてくれるのだけど、あまり両親の世話になってはいけないものだと思っている一誠はとにかくバイトをしてお金を稼いでいる。

 

 ちなみに、ソーナとリアスも一時期喫茶店でアルバイトをしたのだけど、客や他の店員からセクハラされた事で一誠が物理的にその客や店員を店ごと地図から消してしまって以降、やらなくなった。

 

 というか、一誠が同じ程度かそれ以上にリアスとソーナに対して強めの独占欲をもってしまったので、その分自分が働くからと言って今に至る。

 その言葉通り、一誠はどんなにキツいバイトも平気な顔をしてやり続けたお陰と質素な生活を続けたおかげで、そこそこの貯金に成功した。

 

 その為、今住んでるこの狭いワンルームの部屋を少しはグレードアップさせても問題は無いのではと二人に提案するのだけど、リアスもソーナもスーパーの特売で手に入れた安い紅茶を飲みながら首を横に振った。

 

 

「ここで良いわ」

 

「この狭さが落ち着くのよ。

ほら、この狭さだからこそ一緒に眠れるし?」

 

 

 元々は名のある家のお嬢様だった筈なのに、元の時代で一誠と生きている内にすっかり貧乏性になってしまったらしく、今の家でも十分だと言いながら飲み終わったお茶をゴミ捨て場から拾った角の一部が欠けたテーブルに置くと、其々左右から一誠にひっつく。

 

 

「家が大きくなって部屋も別々になんて事になってしまったら、眠れなくなっちゃうでしょう?」

 

「そうよ、それともいい加減私達が鬱陶しくなっちゃったの……?」

 

 

 そう言って強く密着して離れないリアスとソーナに一誠は嬉しいと素直に思う。

 そしてこれまでもこれからも、この二人は何があっても守り通す事を決意させる。

 

 

「鬱陶しいって思った事なんて一度だってないさ。

あ、でもそろそろ離れては欲しいかな……?

ほら、二人にそうされると色々と辛いんだよやっぱり……」

 

「イッセーになら何をされても良いわ」

 

「それに、辛いなら我慢しないでって毎日言ってるのに……! 我慢してたら身体に毒なんだから……」

 

 

 離れない、離さない。

 三人がお互いにそう思い続けるからこそ到達してしまった関係はより強く進化していく。

 

 眼鏡を外したソーナが熱っぽい表情でリアスと共に一誠を押し、着ている衣服を脱ぎ……そして重なっていく。

 

 

 誰であろうと邪魔されないこの時間もまた三人の幸せのひとつなのだった。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

パターン3

マイナス一誠とシトリーさんの番外

 

 

 互いの顔を剥がし、肉塊となっても互いに抱く愛情が本物であることを再確認した事で、一誠とソーナはこの日より誰もが羨む事の無いカップルになってしまった。

 

 例の兄が何をしてようが最早二人には関係ないし、どうなろうが知ったことではない。

 

 同じような気質を持った者達との出会いがあっても、そこだけは変わらないのだ。

 

 

「あー、センパイ! 好き、大好き……! 絶対にはなしゃないぞ……!」

 

「はいはい、知ってるから大丈夫よ一誠……」

 

 

 そんな一誠とソーナは今おかしな事になっていた。

 切っ掛けは、学級崩壊後の一誠のクラスの担任となったアザゼルが持ってきた酒を間違えて一誠が飲んでしまった事からだった。

 どうやら死ぬほど酒に弱く、その場に卒倒してしまった一誠は完全に泥酔してしまったらしく、起き上がった時からずっとソーナに引っ付いて離れなかった。

 

 それを見て同じように一誠に惹かれたイリナだとかロスヴァイセがちょいと騒いだりもしたけど、それでも一誠は拳骨煎餅の如くソーナから離れなかったし、ソーナもソーナでそんな一誠を優しく――常人が見れば嫌悪で気が狂うだろう笑みで抱き締める。

 

 

「さ、着いたわよ?」

 

「へ? ここ、どこれす?」

 

 

 そして何かを思い付いた様にソーナが一誠を風に当てて来ると言い出して上手いこと連れ出すことに成功し、彼女は今、ベッドがある薄暗い部屋に一誠と共にやって来ていた。

 

 

「酔いが覚めるまで落ち着ける『良い場所』よ? まずはお酒のせいで熱くなった身体を冷ましにいきましょう? ほら脱いで?」

 

「??」

 

 

 その場所は見知らぬ場所で、ちょっと混乱中の一誠に、ソーナはこれでもかと優しく微笑みながら一誠の服を脱がせると、何故か自分も脱ぎ、フラフラした足取りの一誠を部屋の中にあった狭い浴室へと一緒に入る。

 

 

「えっと、センパイ?」

 

「? あら、少し酔いが収まってきたのかしら?」

 

「えっと、多分……センパイの姿見てたら一気に戻った気分っす」

 

 

 一糸纏わぬ姿のソーナの姿を見て、軽く正気に戻った一誠は、それでも優しく微笑みながら背中を洗ってくれるソーナの意図がわからないで困惑するし、先程からナチュラルに背中にソーナの決して大きくは無い胸が当たったりするせいで、本能的なものが刺激されてしまう。

 

 

「はい、背中は終わったわ。次は前を洗ってあげるわ……ふふ♪」

 

「え……あ、いや良いというか……」

 

 

 この時点で一誠はやっとソーナの意図に気づいた。

 ベタなエロ漫画みたいな展開でもやりたかったのだろうと……。

 だから一誠敢えてそれに乗って断るが、地力の差がソーナとはあまりにもありすぎたので、結果的に前を向かされてしまう羽目になり……。

 

 

「……。正直、私の身体では自信なかったけど、安心したわ……」

 

「俺は逆にセンパイにしかこうはならない自信は無駄にありますけど……?」

 

「へー? ……………。じゃあベタな事を言っても良いかしら?」

 

「え……?」

 

 

 

「一誠、私の事、好きにして……?」

 

 

 最初はそのノリに付いていっただけのつもりが、ソーナのその仕草と言葉を向けられた瞬間、一誠はソーナを浴室から連れ出すと、湯冷めなんぞどうでも良いとばかりにソーナを強く抱き締めた。

 

 

「センパイには敵わないよホント……あと凄いズルい。

そんなこと言われたら、センパイの事が大好きなんだから止まらなくなるってわかってるくせに……」

 

「イリナやロスヴァイセさんのせいで最近影が薄くなってきちゃった気がしたからついね……」

 

「あの二人には悪いけど、俺は変わらないですよセンパイ。俺は――」

 

「ストップ……」

 

「?」

 

「今はセンパイじゃなくて、名前で呼んで……?」

 

「……。ほら、やっぱりズルい。

でも、だから大好きだよ………ソーナ」

 

 

 そして互いに堕ち続けるマイナスはあの時から抱いた気持ちをより強めながら唇を重ねるのだった。

 

 

 ちなみにこの日は世間では聖夜の日だったし、手なんか繋いでしれっとした顔で帰ってきた瞬間、アザゼルやイリナやロスヴァイセ……そした意外にもゼノヴィアにも何をしたのかを見抜かれて騒ぎになったらしいのだが、一誠にとって初めてといえる楽しい聖夜だった。

 

 

 

終わり

 

 

 

パターン4

 

鳥さんとこっそりと……。

 

 

 素に戻ろうが劣化コピー状態であろうが、一誠にとって最も大切なのは、幼い頃から共に居てくれたレイヴェル・フェニックスなのである。

 それに関しては例え猫の姉妹であろうが譲れなかったし、この日は珍しく一誠の方がこっそりとレイヴェルを連れ出し、冥界のフェニックス領土の外れの、よく幼い頃修行の場に使っていた場所に訪れていた。

 

 

「よし、ここなら暫くアイツ等にバレる事もない筈だぜ」

 

「急にどうしたのですか一誠様?」

 

「いや……最近レイヴェルに何にもしてやれてないたって思ってさ……」

 

 

 小さな池があり、その畔に腰掛けながら、レイヴェルだけをここに連れ出した理由を話す一誠の言う通り、ここ最近は友になった者達との時間が増えた事で、レイヴェルとの時間が減っていた。

 その事に対して不満が無いかと言われたらレイヴェルとしても嘘にはなるが、だからといって一誠に愛想を尽かす等と言った感情は絶無であった。

 

 

「気にしてくれていた――それだけで私は幸せですから、気にしないでください」

 

 

 一誠の事は知っている。

 誰よりも知っている自負がある。

 

 黒神めだかの劣化コピーを辞めた事で本来の一誠へと戻ったとしても、一誠が自分を常に気にかけてくれていることもレイヴェルはちゃんと知っている。

 

 というか、この素の状態の一誠はある意味自分が向けるものよりも強く自分を思ってくれるのだから。

 

 

「だからこそ悪かったな。

この前のあの変な休憩所では日和っちまった」

 

「まあ、作為的な気配しかしませんでしたし、あの時はあれで良かったと思いますわよ?」

 

「そうだとしてもだよ。

俺もそこまでバカのつもりじゃないから、白音と黒歌が俺をどう思っているのかはわかってるつもりだし、そんな中途半端な状態でお前に手を出したら良くないってさ……」

 

「………」

 

 

 悪い例を知っているのか、そういう関係に対してはかなり潔癖症になっている一誠は、今の状況が果たして本当に良いのかと悩んでいるらしく、落ちていた小石を池に向かって軽く投げながら肩を落とす。

 

 

「ごめんな……? 情けなくてよ」

 

 

 友人達の前では決して見せない素の一誠の弱い面。

 レイヴェルはそんな面の一誠も知っている。

 

 いや、出会った当初の一誠は何時もこんな調子だったし、そんな一誠の背中を叩き続けて鼓舞させてきたのがレイヴェルなのだ。

 

 

「一旦落ち込むと何時もそうねアナタは……」

 

 

 そんな一誠に、レイヴェルはその口調を変えると、一誠の隣に腰かける。

 

 

「先に言っておくと、あの二人がいくらアナタを好いてようが、私がアナタに愛想を尽かすことは無いと知りなさい。

というか、アナタのそういうヘタレな面を含めて私は愛しているのよ? あまり私を見くびらないで欲しいわね?」

 

 

 ダメな面を含めて一誠であると知ってるからこその言葉に一誠はチラッと隣に座ってこちらを見るレイヴェルと目を一瞬だけ合わせ、そして逸らした。

 

 その蒼い目に嘘が無いのは間違いはなかったけど、情けない今の状態でレイヴェルと向かい合える気がしなかった。

 

 

「ホント、良い女になったなレイヴェルは……。

それに引き換え、皮で誤魔化してきた俺は結局あんまり変わらなかったし……」

 

 

 成長し、ますます魅力的な女性へとなろうとする妹分に弱音を吐く一誠。

 運良く人外によってフェニックス家の皆と出会え、レイヴェルとも出会えた事でここまで再起し、最近はやっと過去の清算もできた。

 

 でもそれは周りに恵まれていたからに過ぎず、一人であったら到底できなかったことだ。

 後はレイヴェルにふさわしい男になれれば……と思うが、最近ちょっとそうなれるのか不安だったらしい。

 

 

「アナタ」

 

 

 そんな一誠を見ていたレイヴェルは、呆れるでもなく、落胆するでもなく、怒るでもなく、一誠様とは呼ばず、まるで夫を呼ぶかの様に呼ぶと、俯き加減で此方を向いた一誠の顔を両手で押さえ……一誠と自分の額を重ねる。

 

 

「何の為にアナタの傍に私が居ると思っているの? 何度も言わせないで? 私はアナタのそういうウジウジする所も含めて、愛しているって言ってるのよ? 私の事が信じられないの?」

 

「い、いや……」

 

 

 強く見据えるレイヴェルの表情がまさに目と鼻の先でちょっと戸惑いつつも首を横に振ろうとする一誠に、レイヴェルは自然と軽いキスをしてあげると、そのまま一誠の頭を自分の胸に押し付けながら抱き締める。

 

 

「辛いなら私に全部吐き出しなさい? 私はアナタにどんな事をされても全部受け止めるわ」

 

「レイヴェル……」

 

「………まったく、久々にヘタレ状態の一誠様を見せてくれたのはある意味で安心しましたわよ?

ふふ、大丈夫です……ヘタレて私に手が出せなくても、その寸前まで行けるほど、私を女として見てくれているのはわかってますからね……?」

 

 

 レイヴェルだけが知る一誠の一面。

 レイヴェルだけが慰められる一誠の一面。

 

 誰にも邪魔される事無い一時にレイヴェルは幸せを感じながら、甘えてくる一誠が胸元で寝息をたてても優しく抱き続けるのだった。

 

 

「……まあ、あの場所でお預けをくらった時は身体が熱すぎて大変だったけど。

その分、もう少ししたらちゃんと愛して貰うからね? 私の愛しい一誠さま……♪」

 

「すー……すー」

 

 

終わり




補足

ベリーハード一誠ばりに朱乃さん一筋。

浮気性もなければ、ナンパ癖も一切なし。

ただ、戯れ程度に朱乃さんと嫉妬ごっこはするアホカップルっぷり


その2
597話のもしものベリーハードにおけるその後みたいなもんです。

これもまた三人が三人を大切にしてます。


その3
番外のマイナス一誠とソーたん。

番外なんで思いきりイチャコラして貰ったぜ。


その4
鳥猫さんの番外。

これ、本編に反映するつもりですが、レイヴェルたんの前でのみ素のヘタレさが浮き彫りになるんです。

それをレイヴェルたんは全部知ってる上でですので、一誠は彼女が大好きで一番大切な子だと思って頑張れるのです。






マイナスシリーズと鳥猫シリーズ。

これどっちもある意味目的果たしてるから終わりみたいなもんですけど……。

さてどうすっか。

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