奴等の存在を知ったのは、父親代わりであった堕天使の男の親友――つまり俺にとって戦いにおける師が不意討ちで殺されたあの時からだ。
確かに師は決して褒められた生き方はしていないのかもしれない。
だが貰い物の力を振りかざすだけであった者に殺される謂れなんて無いし、師はただ強くなる事を生き甲斐にしていただけだったのだ。
………確かに顔は悪人顔なのかもしれないけど。
しかし、ある意味その単純明快な性格であり続けたからこそ、本来ならば堕ちた天使である師とは敵同士の天使である彼女も惹かれたのだと俺は思っているし、あの自由な生き方を目指した。
どんなに強大な壁を目の前にしても、決して諦める事無く挑戦し続けるその背を……。
だからこそ俺達は戦う道へと進んだ。
どれだけ世界があの男の味方になっていたとしても、俺達は戦い続けた。
親友の仇討ちの為に。
想いを寄せた男の仇の為に。
そして俺は師の誇りを取り戻す為に。
その永く続いた戦いは、確かに勝つことは出来なかった。
万物そのものを自在に操る力を持つあの男はどれだけ戦う技術で上回っても殺す事は出来なかった。
妹を失った魔王や力の殆どを奪い取られた人外と結託しても、結局奴を殺す事は出来なかった。
しかし、それでも俺達は勝ったと思っている。
何故なら俺達は其々にとっての親友、想い人、師を取り戻したのだから。
俺が直接殺す事は出来なかったけど、復活した師があの男を絶命寸前まで追い詰めた時点で、俺達は確かに勝ったのだ。
そうなれば最早俺達に不可能な事は無い。
奴によって歪められた世界等、奴にくれてやる。
だから俺達はあの歪み続けた世界から抜け出した。
全くの偶発で起こった事ではあったが、俺達はあの狂った世界から抜け出す事で自由になれた。
そして俺達は、誰も俺達の事を知らない世界に流れ着いた。
会うことは遂に叶わなかった宿敵の赤龍帝が、結託から信頼する仲間へとなった魔王の妹ときっとそうしてように、俺達は新たな世界で静かに余生を過ごす自由を勝ち取った。
だが、勝つ為に鍛え続けた俺達の力は、どうやら平和に余生を過ごさせてはくれなかったらしい。
俺達が流れ着いた世界は、俺達の知るものとは微妙な差違のあるモノや人間を壊す生物が存在する世界だった。
それでも俺達は当初何もしないつもりであった。
だけど、後々長い縁を持つ事になる者達との出会いが、俺達を更なる領域へと到達させる事になったのだから、やはり世の中というものはわからないことばかりだ………。
白き龍を宿す青年の朝は基本的に早い。
数奇な人生と様々な修羅場を潜り抜けて来た結果、もう二度と戻る事は無いだろうと思っていた世界――それも全てが狂わされる前の時代にて今度は徹底的な対策をしながら生きている青年の名はヴァーリ。
人と魔の血を持つハーフである彼は様々な経験を経た上で今を生きている。
そんなヴァーリにとって何よりも大切なのは、肉親ではなく、共に地獄の様な世界に抗い続けた仲間である。
既にこの世界における魔側の肉親とは決別しているのは云うまでもなく、合流した仲間達の下で同じような経験を経て戻ってきたと思われる宿敵の赤龍帝との、遠回りが過ぎた邂逅と、予感させる戦いの為に、更なる進化の為にその身を昇華させる。
それが今のヴァーリの在り方だった。
最新にて最後の白龍皇として。
なによりも、もう二度と負けない為に。
「サーゼクスも言っていたが、やっぱりお前の宿敵となる赤龍帝は並の領域では無い様だ。
先日、サーゼクスの妹に管轄を任せている人間界の街に現れた例の奴を粉々に消滅させたんだとよ」
そんなヴァーリの住む場所は、先んじてこの世界に戻った仲間達が時間を掛けて建設した冥界の地下施設だ。
あらゆる設備や食料を保管しているこの施設の事は、ヴァーリやヴァーリの仲間達しか知らないし、入ることも許されない秘密の場所であり、この場所でなら全力を出した修行をしてもびくともせず、また外部に悟られる心配も無い。
これ程の設備を建設できたのは、基本的に研究者気質であり、ヴァーリにとっては義父でもある―――今はまだ一応堕天使の総督であるアザゼルの凝り性の結果であり、日課であるトレーニングを終えて着替えていた所に、彼はやって来てここ最近確認された事を話している。
「そうみたいだな。
彼だけではなく、サーゼクスの妹のリアス・グレモリーも、以前の時代では見なかった彼女の眷属達も俺達に近い領域に居るとも」
「多分、以前の時代の時点で自力で覚醒させたんだろう。
そして一時的に別の世界で再起を図っていたって所だな。
サーゼクスの妹の眷属達は間違いなく、その世界で繋がりを持った者達で間違いはない」
「……。会ったことはないが、やはり俺達の辿った道と同じだな」
シャワーを浴び、新しい服に袖を通すヴァーリは、自然と不敵な笑みを浮かべている。
その笑みは程度こそ違えど、師であるアイツに似ているな……と、握り拳を作るヴァーリを見てアザゼルは思う。
「アザゼル、俺もやっぱり直接会って話がしてみたい。
そして可能なら戦ってみたい。
自力で俺達と同じ側に辿り着いた赤龍帝とその仲間達と……」
「コカビエルの奴とまんま同じ事を言いやがって。
が、会って話をしてみたいという点は俺も賛成だ。
サーゼクスの奴は妹のリアスに対する負い目があって気は進まないみたいだが、俺達以外でこの世で信用できるのは、奴等だけだ」
「ああ、指名手配されていたリアス・グレモリーが捕らえられた時、単身で冥界に乗り込んで壊滅寸前まで暴れた話は聞いていたからな。
ふふ、全てが奴に荷担していた狂った時代の冥界に、リアス・グレモリーの為だけに死を覚悟で乗り込んで見事に取り戻したくらいだ……。実に俺達好みだよ」
信じた者。愛した者の為なら自分の命を捨てる覚悟を持てる強靭な精神力。
それは自分達と同じであり、また彼等が自分達と同じ領域に到達しているという証。
「俺もそろそろ今の立場を棄てたかった所だし、コカビエルもガブリエルも、サーゼクスも同様だ。
近々、三大勢力間で和解の為の会合が行われるから、そこで俺達は今の立場を捨てる。
そしてその会合には警備を任される筈の赤龍帝達も居るから………後はわかるな?」
「ああ……楽しみになってきたよアザゼル!」
何の因果か、この時代には転生者と深く関わった者達が多くその時の記憶を保持した状態で存在している。
そのほぼ全ては、転生者による補正によって泥沼のようにどっぷりと与していたのだが、それから解放されたせいなのか、その全てが同じような事を宣う。
自分達を見捨てた事への懺悔だの。
今度は二度と裏切らないだの。
………。ヴァーリも、仲間達も既に見限っている為、彼等の言葉を信じる気はまるでない。
そしてもう二度と、永遠に心を許すこともない。
「皮肉な事に、奴から解放されてどうでも良い後悔なんぞしてるせいで、俺達が記憶するよりも早く其々の勢力が同盟を組始めている。
三大勢力の会合もそういう理由なんだろうが……」
「勝手に同盟でもなんでも好きにすれば良いさ。
俺達の関係のないところでな」
「…………そういう事だ。
どう変わろうが、どれだけ自分は正気だと宣おうが、あの時奴等がしてきた事を俺達は忘れやしない。
俺達と奴、そして奴に与した奴等は水と油さ。
赤龍帝とサーゼクスの妹もきっと同じ考えだろう」
何度も転生者による補正で強化した力によって殺されかけた事を忘れやしない。
罵倒や侮辱の言葉を忘れる事はしない。
正気に戻ったから……そんな理由で許せる程、出来た存在ではないのは、全員自覚しているのだから。
「? そういえばガブリエルとコカビエルはどうしたんだ? サーゼクスと安心院なじみとミリキャスは向こうに居るのは知っているけど、二人の姿をまだ見ていないが……」
「ああ、アイツ等なら別の所で仲良くやってるぞ。
いつもの感じでな」
「………ああ、なるほど」
『俺達は神や誰かにとっての都合の良い道具なんかじゃない。
俺はこうやって戦う事でしか自分を表現する事しかできなかったが、いつも、己の意思で戦ってきたつもりだ』
強くなること、強者と戦う事に至上の喜び見出してきてからこそ堕ちた男。
端から見れば、危険に思われても仕方ないのかもしれない。
しかし、ただひたすらに壁を乗り越えて新たな領域へと突き進まんと、『挑戦』する姿はどこまでも純粋で、どこまでも妥協をしない。
そんな姿を見て惹かれていったのが遠い過去のように感じる。
そして何時しか密かに共に切磋琢磨し、互いに高め合っていったあの時間は、今でも全く色褪せない宝物の様な時間だった。
だからこそ、堕ちた天使である彼が殺されたその日から天使である彼女は彼を殺した者――ひいては世界そのものに抗う覚悟をした。
彼を慕う弟子。
そんな彼の不器用さを知っている親友と共に。
その覚悟が彼女を神越領域へと到達させ、永遠に堕ちる事のない最強の天使へと進化させた。
名をガブリエル。
天界最強の力と美貌を持つ彼女は、堕ちた悪人顔の堕天使であるコカビエルに変わらぬ想いを抱き続け、復活した彼や信じられる仲間達と今日を共に生きる。
「よもやお前がここまで強くなってくれたとはな……。
クハハッ! 毎日でも飽きない女だぞお前は……!!」
「ふふ、褒め言葉として受け取らせて貰いますよ……!」
彼女が信じるのはとっくに朽ち果てた神でもなければ、同胞でもない。
寧ろ同胞達なぞとっくの昔に見限っている。
外の神によって与えられた力を振りかざす存在を信仰していた連中は最早同胞等と呼ぶにも値しないし、最早自分は天使では無い。
種族そのものは天使なのかもしれない。
けれどガブリエルはその天使のルールを越えた領域に到達したことで、永遠に堕ちる事はない。
いや、別に堕ちても構わないと思っている。
何故なら彼女が想う者こそが堕ちたかつての同胞であり、今も楽しそうに拳を合わせている彼なのだから。
「おっと、そろそろ時間ですし、今日はここまでにしましょう?」
「もうそんな時間になっていたのか?
フッ、お前程の『良い女』と一緒だと、時が経つのも早く感じる」
コカビエルが復活し、再び共に切磋琢磨する様になっているガブリエルは更なる成長を続け、遂には戦う事や修行ばっかなコカビエルをして『良い女』と称されるまでになった。
その言葉は言い方こそ少々乱暴というか、粗暴だけど、ガブリエルにとっては何よりも嬉しい言葉。
相変わらず鈍い所は多いし、褒め方も不器用だけど、コカビエルの言葉の意味をガブリエルはしっかりと理解しているのだ。
「アザゼルから聞いていると思うが、近々俺達はグリゴリを抜ける事になった。
ガブリエル、お前はどうする?」
「言うまでもありません。
当然私もセラフを脱退します。
元々所属していたのも、彼等の動きを察知する為でしたし、それももう必要なくなりましたから」
別の部屋でトレーニングしていたヴァーリと同じ様に、シャワーを浴びてから寝室に戻って着替えるコカビエルとガブリエルは、お互いが一応何かあるかもしれないからと所属している組織を抜けるという話をしている。
上半身裸のコカビエルが白いワイシャツに袖を通している隣で、当たり前の顔をしながら胸元までを覆っていた大きなタオルを外して、一糸纏わぬ姿になったガブリエルが返答をしながら下着を身に付け、白いレースのブラウスに袖を通す。
「む……胸がまた少しキツくなってきましたね。
サイズが上がったのかしら……? どう思いますかコカビエル?」
「どう思うと言われてもな……。戦いの邪魔にならんのかと思うだけだが」
何かおかしくね? と突っ込みたくなる光景だが、何時の日からかガブリエルの方からこうしてきたものだから、二人や二人を知る者達にとっては通常運転な光景なのである。
「もう! 相変わらずの事しか言わないんだからアナタはっ! そこは『触ってみないとわからん』とか言いながら私を壁際まで追い込んだりすべきでしょう?」
「あ、あぁ……? すまん」
常人が見れば、間違いなく劣情を刺激されるであろうガブリエルの姿を前に、言葉を間違えた事を指摘されて怒られるコカビエルは圧され気味に謝る。
ガブリエルを解釈に微妙な違いがあるとはいえ、間違いなく良い女だと思っているコカビエルだが、こういう所は弱いようだ。
「少しはサーゼクスを見習って欲しいものです」
「アイツはあの顔だから問題ないのだろう? アザゼルやヴァーリにも言える事だが。
仮に俺がサーゼクスやアザゼルが女に言いそうな台詞を吐いたら、それこそホラーだろ。
俺はどちらかといえば色物だしな」
「私はアナタに言われたいですけど?」
「……。それはお前が単に物好きな性格だからだろ」
「物好きなままここまで来ちゃいましたからねっ、ふふっ♪」
互いに互いをよく知っているのもあり、色々とすっ飛ばして長年連れ添う夫婦みたいなやり取りをする堕天使と天使。
質素で動きやすい服装へと着替え終えた頃には、ガブリエルの方からコカビエルの腕と組み、密着しながら寝室のソファに座る。
「お陰でヴァーリもアナタのそういう所ばっかり似てしまって、あの子を慕う子達が苦労しているのよ?」
「……………。アレで苦労してるのか? 俺が見る限り、ヴァーリが上手い具合に小娘達に誘導されてる様にしか見えんぞ」
「そうでもしないと自覚すらしないからと、私があの子達に教えましたからね」
進化していなかったら、秒で堕ちるに決まってそうな台詞をポンポンと言ってスリスリとコカビエルの腕に甘えてくるガブリエルに、コカビエルはなんとも言えない顔だった。
別世界に流れ着いた際に出会った者達の中に、ヴァーリに懐いた、当時まだ幼かった少女達が居た。
その懐きっぷりは相当なもので、成長するに連れてガブリエルの入れ知恵もあってか少々強引なものへとなっていくのをコカビエルはよく知ってるし、アザゼルはケタケタ笑っていたし、ヴァーリ本人は――あんまりわかってなさ気だった。
そういう意味では確かにヴァーリはコカビエルの弟子なのかもしれない。
女性から向けられるアプローチの方法なんかもそっくりだ。
「だからコカビエル。まだ時間もありますから……ね?」
流石にヴァーリ達はまだ大人な事はしちゃいないが、大人であるガブリエルはそうではないらしく。
密着した状態からコカビエルの指と自身の指を絡める様に繋ぐと、頬を染めながら声色を変える。
「今風呂に入ったばかりだろ……」
それが何を意味するのか……は、流石にコカビエルも解っているらしい。
微妙に躊躇いつつも絡めてきた指を握り返しながら、反対の腕をガブリエルの背中に回す。
「ふふ……嬉しい。
アナタにこうして見て貰えるこの時間が一番の幸福です」
「大袈裟な女だな……」
白いコカビエルの腕に抱かれるガブリエルは本当に嬉しそうに……そして子供の様にはにかむ。
死別し、二度と叶わない夢だと思っていたからこそ、追い求めていた夢が叶うこの瞬間がガブリエルにとっての幸福。
そこには、誰の介入であろうが許さない。
例え神であろうが、この瞬間の邪魔をするなら許しはしない。
それが本当の
「これまでも、これからもアナタを愛してます――コカビエル」
「………。フッ、本当にお前は良い女になったよ、ガブリエル」
頬を染めながら、何かを期待するようにそっと目を閉じるガブリエルに、降参したかのようにコカビエルは笑うと、呼応するかの様に部屋の明かりは徐々に落ちていき、二人の影も重なった。
「おはようヴァーリくん! はい!」
「修行も終わったんだよね? だから、はい」
「わかったからちょっと待ってくれ……。しかし、あんまりこういう事は他所様はしないって聞いたのだが……」
「他所は他所! ウチはウチだよヴァーリくん!」
「そうだよ。
第一、私たちはその他所様みたいな浅い関係じゃないじゃないでしょう?」
「……まあそうだが。
えっと、昨日は未来からだったから、今日は響からで良いよな?」
「うんっ! あはは……ヴァーリ君、大好きっ!」
「他の女の人には絶対しちゃ駄目だからね?」
ちょうど、その頃、実は居たりする別の世界出身のとある二人の少女に押し込まれる形で二人に対して日課となる事をしている騙され白龍皇君が居たとか居ないとか。
彼に宿る白い龍はそんな宿主――いや、完全なるパートナーを見て『女というのは恐ろしいな……』と、そのハングリーさに感服していたという。
終わり
補足
アザえもんことアザゼルさんが用意してくれた地下施設でめっちゃ楽しく暮らしてます。
その内、互いに所属してる立場も投げ捨てる予定。
その2
チームD×G(未完成)にて単純な戦闘最強はガブリーさんです。
時点でコカビーかサーゼクスさん。
四次元ポケット枠にアザえもんとなじえもん。
癒し担当ミリキャス。
そして―――――
その3
名前はどうやら響と未来っていうらしい。
凄い無害そうな見た目の少女なんだけど、唄って戦えるし、未完成チームD×Gとの邂逅で当たり前ながら進化しちゃってるとかなんとか。
……誰なんだろうねいったい?