ねじ曲げられたからこそ抱いた心がある。
奪い取られたからこその出会いがある。
どんな手を使ってでも生き続けると誓い合ったからこその
そして少しの遠回りがあったからこそ、この繋がりがある。
これまでも……そしてこれからも変える気は無いし、誰であろうと変えさせる気も無い。
それが例え悪であると言われようとも……。
俺の――いや、俺達の生き方は俺達で決める。
誰かの決めた正しさなどには
だから俺は絶対に守る。
何があろうとも、どんな手を使おうとも俺は―――
兵藤一誠。
一度は全てを奪い取られた青年は、同じく自由を奪わた悪魔の少女との出会いによって、取り憑かれた様に抱いていた復讐心から、彼女と共に少しでも長く生きたいという願いを抱いた。
その気持ちを彼女と共有する事で互いに引き上げ合い続けた事で、更なる成長を果たすことになったりもした。
復讐相手に己の生存を知られたばかりか、彼女と共に居る事も知られ、彼女を奪われた事もあった。
その時だろう。少しずつ抱いていた彼女への愛情が復讐よりも勝ったのは。
結果一誠は、復讐するよりも彼女を救う事を選び、形振り構わず戦いを挑んだ。
彼女を救う為だけに全力を出し、彼女を裏切った者達を粉砕し、復讐相手である男を一時的に行動不能にさせるまでに追い込んだ時の一誠は確かに進化という壁を乗り越え、限界突破をしたといえるだろう。
結果的に慰み物にされかけていた彼女を寸前で連れ出す事に成功した一誠は、戦う事よりも彼女と生きる事を選んだ。
殺された肉親の仇は確かに討ち取れなかったけど、それ以上に彼女の存在が一誠の中で大きくなったからこそ、共に生き続ける事を選んだのだ。
そして、その決意と共に一誠と彼女――リアスは既に混沌と化していた世界から抜け出し、全く違う世界へと流れ着いた。
誰も自分達を知らず、誰も追っては来ない世界。
それは二人にとって幸福であり、例え貧しくても苦にもならない充実した日々だった。
けれど、自分達と同じような立場に追い込まれた幼き少年と少女との出会いが、戦う事を放棄した二人の運命を再び変えていく事になる。
非力な子供達に互いに高め合うことで培ってきた術を教えた。
職種は違えど、同じ職場で仕事にありつけて、安定した収入を手にすることができた。
一誠的にはそんな事を思われる謂れは無いと思っているけど、何故か懐いてくる者達と出会えた。
成長した少年と少女達が更なる壁を乗り越えていくのを見守った。
少年の少女の存在を煙たがり、陥れようとした存在を徹底的に潰した。
その異質な力に目をつけてきた輩達を派手に捻り潰してやったりもした。
その後、一誠とリアスの周囲にはその少年と少女から始まった繋がりを持った者達が常に傍に居るようになった。
子供達が大人になってもずっと……。
そして二人は再び元の世界へと戻った。
もっとも、完全に元の世界ではない――混沌と化す前の世界に。
そこにはリアスを裏切った者達が居た。
けれど今度は繋がりを持った少年と・少女達がこの世界に流れ着いていた。
だからリアスは其々バラバラにされていた皆を一誠と共に探し、これまでと変わらぬ繋がりを再び持った。
残念ながら、一誠の両親は殺されたではなく、本当に事故で他界してしまったけど、リアスも皆もそんな一誠の傍を決して離れなかった。
謝るだ、やり直したいだと頼んでもないのに迫ってくる連中が居たけど、余りにもしつこすぎたので、徹底的に一誠と一誠の精神に最も似たリアスと声がそっくりな声の少女と共に叩き潰してやったりもした。
接点ゼロなのに、リアスにちょっかいを掛けてきた貴族の三男を、殺意全開になってた一誠を必死に宥めながら、最もリアスの精神を受け継いだ少年が全タテして黙らせた。
その結果、その少年の在り方に、当時貴族の三男の眷属で妹でもある少女がホの字になってしまい、少年が頭を抱える程度にはアタックされまくるというオマケがついてきちゃったけど、既に自立化しているリアス達の生き方をねじ曲げられる事は無い。
決して誰もリアスを裏切らないという、鋼を越えた揺るがぬ精神を持つチーム。
それが一誠とリアスの今なのである。
この日、リアスは一応血縁上は従兄弟となる青年とレーティングゲームをした。
一応というのは、この世界では面識もほぼ無いし、軽い挨拶を過去に何度かした程度の薄い関係でしかないからというのもあるし、何より基本的にリアスはこの世界の者達が悪い訳ではないと十分に自覚はしているものの、極一部を除いた同族達にたいしては警戒心がどうしても出てしまうのだ。
それは血の繋がった肉親達であろうともだ。
そんな一応従兄弟となる青年悪魔ことサイラオーグ・バアルとのレーティングゲームだが……結果だけを言えば完勝は確実であった。
「………」
ただ一人。両目を爬虫類を思わせる縦長に開いた瞳孔に変化している赤く輝く『戦車』の青年一人によって開始間も無く王を除いた全てを潰したという状況で。
「はぁ……はぁ……!」
黒髪の悪魔青年ことサイラオーグバアルは、従姉妹のリアスが最初に眷属にしたと言われている戦車の青年を前で膝をついている。
所々には傷があり、右肩からは鮮血が滲んで服を染めている。
(つ、強い……! 既に知っていた事だが、これ程までとは……!)
自身の信じる眷属達は彼一人に退けられ、今まさに自分も手も足も出せずに転生悪魔の青年一人に潰されかけている。
しかし当然サイラオーグ・バアルにリザインという文字は存在せず、どれだけ傷が増えようとも諦める事なく立ち上がる。
「…………………」
そんなサイラオーグを前に、青年――一誠は感嘆でも無ければ落胆でもない、云うなれば『無』の表情でわずかに目を細めると、真っ直ぐサイラオーグに向かって肉薄する。
「は、速――!?」
ジェット機を思わせる勢いで突進してきた一誠に面を喰らったサイラオーグは反射的に身を守ろうと両腕でガードの体勢をする。
が、何時まで経っても衝撃が襲い掛かる事は無く、恐る恐る両腕を下げてみると――――一誠が居ない。
「な、なに……! どこに―――っ!?」
一誠の姿が忽然と消えて焦るサイラオーグは辺りを見渡すと、自身から伸びた影が巨大化している事に気づき、勢いよく背後を振り向く。
「……………」
そこにはサイラオーグに背を向けて腕を組ながら立っている一誠が居た。
「ウ………ォォォッ!!」
完全に遊ばれているのは誰が見ても明らかだった。
故にサイラオーグは、激昂とは違う感情の爆発と共に渾身の力を込めた拳を一誠の背中へと放つ。
「……………」
「なっ……!?」
だが一誠は微動だにしなかった。
とてつもなく固い鋼鉄を殴っているかの様な……地球の核まで根を張る巨木の様に効果が無いとばかりに佇む一誠に、サイラオーグはこれまでの努力を否定された様な気がした。
「グォォォッ!!!!」
だからサイラオーグは力一杯その巨木を砕こうと一誠の背を殴り続けた。
自身の抱いた目標も何もかもを忘れてひたすらに、子供の駄々のように……。
その時だったか……目を閉じ、腕を組んで微動にしていなかった一誠が小さく口を開いたのは。
「茶番はおしまいだ」
その声がサイラオーグに届く事はなかったが、組んでいた腕をゆっくりと解いたと同時に顔面に突き刺さった肘打ちがサイラオーグをよろめかせる。
「がふっ!?」
そして続けざまに振り向いた一誠の拳がサイラオーグの顔面を打ち抜き、彼の身体は地を抉りながら数百メートルは吹き飛ばされる。
「ぅ……ぁ……」
まったくの子供扱い。
転生悪魔の……それもただ一人によって若手悪魔達の代表格と称されたサイラオーグはボロボロに叩きのめされている光景に、観戦していた多くの悪魔達は――既に先日のシトリーの次女とのゲームの光景が記憶に新しいのもあって、感心すべきなのか、異常だと思うべきか微妙にわからなくて、変な顔になってしまう。
「ドライグ」
『わかっている』
何せ容赦が無い。
軽い戯れ程度の加減をすることにはするのだが、一度攻撃に転じれば、例え女子供であろうが容赦なく潰すのだ。
こう、エンタメ性に欠けるのだ。
その証拠に、ゲーム会場である古城の瓦礫の山に叩きつけられているサイラオーグに向かって、一誠は一度両手を大きく広げてから前に突き出すと、赤く輝く巨大なエネルギーを貯める……。
「ビッグバン……!」
リアス眷属の戦車にて赤龍帝としての
先日、シトリーの次女と眷属達をまとめて吹き飛ばした強大な力の放出。
「ドラゴン波!!」
敵を粉砕する龍帝の赤き閃光の一撃は、サイラオーグを呆気なく飲み込むのだった。
リアスがプレイヤーとしてゲームを行うと、基本的に少数の駒で勝つ。
一応それなりにゲーム性を考えて指示を与える場合もあるにはあるが、一人一人の戦力が王のリアスを含めて異質な為に、一人で事足りてしまうのだ。
それは一見すれば気弱そうな童顔巨乳戦車の山田真耶であろうと、蓋を開けたら一番危険だったりする更識簪であったり、一番バランスの良い実力であるシャルロットであろうともだ。
そしてリアスの右腕と呼ばれている女王の更識刀奈もまたシトリーの次女にいちゃもんを付けられる程に卓越した水流系統の魔力を扱い、敵を翻弄しながらも迅速に始末する。
「す、すげぇ……」
そんな異質過ぎてそこそこ敬遠されつつあるチームのゲーム終了までを他の悪魔達に混ざって観戦していたのは、一応はまだシトリー眷属の兵士である匙元士郎だ。
若手最強格と称されていたサイラオーグ・バアル本人と眷属を駒ひとつで完勝するという光景は、散々シトリー眷属達のパシりに使われていた元士郎にとってとても刺激的な光景であった。
今回は
「お、俺もあんな風になれたら……」
知っているからこそ、元士郎は渇望する。
これまでの情けなかった自分から脱却したい。
こんな情けない自分にたいして――リアスに迷惑をかけた片棒を担いでいた自分を何故か慕ってくれる後輩達からちょっとは頼りになる所を見せたい。
悪魔のお偉方達の称賛の言葉の数々を上手い具合に流しながら、悠々と会場を後にするリアス達の様な……。
何よりも、よわっちぃ自分を何故か気にかけてくれるシャルロットにこれ以上ダサい姿を見られたくない為に。
「俺も……!」
去っていくリアス達の後を追うように、元士郎は走り出すのだった。
あんまり関わりたくは無い者の一人であるサイラオーグとのゲームを手早く済ませたリアスは、両親達からの食事の誘いも断り、グレモリー領土の外れの森の中にあるツリーハウスにて、漸く肩の力を抜いていた。
「はぁ……。
シトリーさん達とのゲーム以降、色々な集まりに出席しなければならなくなるのはある程度覚悟はしていたけど、やっぱり私の性に合わないわ」
ソファに座りながらため息を溢すリアスに、女王の刀奈が苦笑いを浮かべながら日本茶を出す。
「いーちゃんと箒ちゃんのスイッチが入っちゃいましたからねぇ……。
てっきり顰蹙でも買うかなって思っていたら、意外と世間的には好感的だったみたいですし」
「俺としてはまだ足りなかったけどな。
どうせなら二度と何もできないように、全員の手足をぶっ壊してやりたかったし」
「同じく。
半端にしてしまった結果、リアス姉さんに要らない苦労をかけてしまったのだから、反省しなければならないよ」
「でも歯はへし折って、あの人達全員が二度とステーキが食えなくはなったじゃん?」
「それでも足りねぇ。
あのクソ共がリアスちゃんの入浴シーンの盗撮までしてたんだからよ……。
殺しても足りねぇぜ……」
刀奈が全員にお茶を入れる中、今回の一応のMVPである一誠は箒と共に相変わらずな事を言っている。
「ええ、全くもって同意します」
「流石に止められちゃったからね……。
いやホント……何ならリアス先生の裸を見たその目も無くしてあげたいよ」
普段なら宥める側である僧侶姉妹である虚と本音までも一誠の言葉に深くうなずきながら、何気なく座ってるリアスの隣に移動し、本音はそのままリアスの膝に甘えだしている。
「えへへ、やっぱり先生の膝が一番~」
「5分で交代よ本音」
「ふふ、そろそろ飽きるんじゃないの?」
「んーん、ぜんぜーん!」
「………」
昔からそんな光景を見て一誠が何度かイラッとしていた筈だが、彼女達もまたリアスに対する親愛度が一切ブレなかったので、今ではある程度一誠も許容しているらしい。
「で、例の従兄弟さんについてはどうなのさリアス姉?」
「この時代の彼には特に思うことは無いけど、やっぱり前の頃の事がどうしても思い出しちゃうし、今度も関わりたくは無いわ。
というより、お互いにその方が良いでしょうし」
甘えてくる本音の頭を優しく撫でながら、リアスは今後とも深く関わる事は避けると明言する。
「兄が現在も『結婚していない』のも不可解だけど、下手な好奇心のせいで厄介な事になっても嫌だし」
「そういえばそうだったな。
まあどっちにしても―――」
「「せーのっ!」」
それに一誠も頷こうとした瞬間、猫の様に狙っていた刀奈と簪が同時に一誠に飛び掛かる。
「―――仮に絡んできて因縁つけてくるなら、今度は確実にゲーム関係なしに消し飛ばしてやるさ」
だが寸前で立ち上がって避けた一誠のせいで、刀奈と簪はお互いの頭をぶつけて悶絶している。
「い、いたい……!」
「ま、前よりも更に隙が減った……。
流石だね一誠先輩……?」
「そう何度も同じ手をくらって堪るかよ」
結局何を言ってもその信念を曲げなかった刀奈。
異次元生物化した更に違う世界の白音の細胞と無限の龍神の因子を宿した事で、一誠に危険な事を平気で思っている簪に対して鼻で笑って一蹴する。
今も昔も一誠が異性として大好きなのはリアスなのだ。
「うぅ……いけずなんだから」
「でも……それが良い……!」
それをとっくの昔から知っている上でも尚曲げない気持ちは一誠も若干ながら呆れながらも『強い』と――特に刀奈を認めているが、それとこれとは別だ。
例え油断してたら素っ裸で突撃されたり、リアスと寝てた筈なのに起きたら全裸でベッドの中に入られたとか、リアスまで協力してまさに四方から胸で圧迫されたりとかされてもだ。
「奴等は二年前を最後に現れては無い。
けど、もう出ないという保証が無い以上、やっぱり直接の元凶を確実に消し……っと!?」
そして、例え悶絶している姉妹から離れた場所に座り直そうと移動した時、うっかり自分で履いていたスリッパを逆の足で踏んでしまってバランスを崩してしまい、倒れたりしても……。
「……………」
「い、一誠さん……。
う、嬉しいけど恥ずかしいです……」
倒れた先にちょうど真耶が座っていて、リアスに匹敵するか、下手したらそれ以上のメロンに顔から突っ込みつつ押し倒しちゃったりしても……。
「あらあら、今日は真耶が良いの? 妬けるわねぇ……ふふ」
「ち、違うっての! ていうか今日はってなんだよ!? そんな事があった日なんてないじゃん!?」
「「………」」
「あうっ……! い、一誠さん……そ、そんな強くしないでぇ……!」
「なんもやってねーだろうが!?」
ドタバタしてても一誠はリアスなのだ。
とはいえ、そもそもリアスが少なくとも刀奈と真耶と簪だったら別に構わない的なスタンスなので、寧ろリアスまでもが彼女達と結託したりした日には一誠をして逃げるのは容易ではなくなる。
「うーん、相変わらずだなイチ兄は」
「ああ……まあ、一夏も他人事ではいかなくなるかもしれないが」
「…………え?」
そんな光景を見慣れている一夏達は笑って見ているのだが、箒の妙に優しげな表情による言葉のせいで一夏がギョッとなるのだった。
リアスが少し触れた通り、この世界におけるリアスの兄であるサーゼクス・グレモリーは独身である。
理由はこの世界の兄とは年が離れているを理由にそこまで仲が良いという訳でもなく、サーゼクス自身も何故かリアス達に必要以上には関わろうとはしなかった。
全てが壊れる前の世界におけるサーゼクスは、ウザい程度にはシスコンだったにも拘わらずだ。
その理由は少なくともリアス達にはわからない。
この世界のサーゼクスがどんな理由があって本来ならば女王であり妻でもある筈であったグレイフィア・ルキフグスと結婚をしていないのか。
寧ろ周囲に色々と言われたにも拘わらず、徹底的にグレイフィアとは関わろうとしなかった理由も……。
逆にグレイフィア自身がなにかに焦るかの如くサーゼクスに対して色々とアプローチをしてるけど、尽く冷めた顔で突っぱねられていたりすることもリアスは知らない。
だって特にグレイフィアともリアスは関わりたくないのだから。
「以前の時点で確信はしていたけど、やはり彼等ならリアスを任せられる……」
そんなこの世界のサーゼクス・グレモリー――現ルシファーは、サイラオーグ・バアル達を叩きのめして去っていったリアス達を見送った後、兵士として本当に嫌々眷属にしたグレイフィアからの相も変わらずのしつこいアプローチを蹴って、秘密の地下室にて寛いでいた。
「それで? 記憶を持っているグレイフィアちゃんとはよりは戻さないの?」
眷属はおろか、親族達にも秘密にして作り上げた地下室は、そこで生活する事も可能な程に設備も整えられており、椅子に座り、お茶を飲んで一服しているサーゼクスは、傍にある寝具に当たり前のように腰掛けている長い白髪の美少女の言葉にムッとした顔になる。
「死んでも戻さないよ。
知ってる癖にわざと聞くなんて、キミも人が悪いな?」
まるで昔からの知り合いの様な話し方をするサーゼクスの、少しふて腐れた声に、白髪の美少女は笑みを崩さない。
「いやいや、人が悪いんじゃなくて、僕はただの人でなしだよん。
それに、あまりにもグレイフィアちゃんが必死なもんだから、少しは揺れたのかなって思っただけ」
「微動だにすらしないさ。
リアスをストーカーしてた連中みたいなものだ」
「あれま……慈愛のグレモリーにしては随分とドライになっちゃったもんだ」
「慈愛のグレモリーなんて僕自身、一度も思った事は無いさ。
僕は、僕が大切思う相手以外がどうなろうが関係ないと思ってるからね」
そう淡々と話すサーゼクスの視線が、白髪の美少女の顔から少し下へと向けられる。
するとそこに居るのは、サーゼクスに良く似た赤髪の少女で、白髪の美少女に膝枕をされながらスヤスヤと眠っている。
「リアスもきっと同じ事を思っていて、あの子にとって大切に思うのが彼等だ。
だから、助ける事すらできなかった僕が今更あの子の兄を名乗る資格はない」
「ふーん……?」
眠っている赤髪の少女を撫でながら、白髪の美少女はサーゼクスをじっと見つめている。
「僕にとって大切なのは、友と呼べる
そして、なじみ――キミさ」
ハッキリとサーゼクスが何故グレイフィアと本来の世界とは違って結婚していない理由である白髪の美少女――なじみと呼ばれた彼女に言うと、少し温くなったお茶を一気に飲み干す。
「キミにはミリキャスの事も含めてずっと世話になりっぱなしだったよ。
あの狂った世界でミリキャスを守れてきたのも、彼等と引き逢わせてくれたのも、キミが居てくれたらからさ。
意思さえちゃんと持っていればはね除けられたのに、あっさりとあの男に流れたあの女に今更思うことなんてこれっぽっちだって僕には無い。これまでも――そしてこれからもね」
狂った世界で狂わなかった者。
そしてリアスも知らない――抗った者の一人にて、リアス達と同じくこの世界を生き直す者。
それがサーゼクスの正体であり、真実だった。
だからこそ、簡単に自分と娘を裏切ったグレイフィアを―――ましてや記憶まで持っている癖に図々しくやり直したいと宣う相手とは決してやり直さないし、ミリキャスの事も絶対に教えない。
「キミの意思はそうだろうけど、ミリキャスちゃんはどうするの? この子にはまだ母親が必要なんだぜ?」
そんなサーゼクスの頑固っぷりを知っている上でなじみと呼ばれし少女は言ってみる。
だが彼女は知っている……彼がこの後なんて返すのかを。
サーゼクスがじっと彼女の目を見ながら次になんて言うのかを……。
「ミリキャスはグレイフィアを母親とは思っていないし、トラウマにすらなっている。
寧ろ母親と同等以上にキミを慕っているんだ。そこに血の繋がりなんて関係ないだろう? キミが居てくれる……それだけで僕達は十分だよ」
「………」
予想した通りの言葉に、かつて平等なだけの人外だった安心院なじみは、込み上げてくる嬉しさを誤魔化すかのようにやれやれと首を横に振る。
「スキルも殆ど奴等に消されて、今もこんな状態の僕を頼られても、貸し出しもできないぜ?」
「はは、最初から僕たちはそういう関係じゃないだろう?」
「まーね、少しでも取り戻す為に利用し合う関係だったし」
「……………。キミも案外素直じゃないね?」
「うっさいなー? キミとこの子に愛情があるなんて恥ずかしくて言いたくないってくらい察しろよなー?」
「当然知ってるよ。
ありがとう……そしてこれからも頼む」
「…………。はいはい。取り戻すのも殆ど無理だろうし、ここから先は精々キミとこの子の傍でのんびりさせて貰うよ。
今のポンコツな僕にはちょうど良いさ」
完全状態なら平等に見ていただろうサーゼクスとミリキャスという父娘。
だが封印ではなくスキルの大半を奪い取られて封印よりも酷い状態のまま長い事生存していたせいか、完全状態とは違う意味で彼とミリキャスを好いている。
「それじゃあ仲良く川の字で寝よっか? あ、なんならミリキャスちゃんと一緒に僕に甘えても良いぜ? 所謂サービスさ」
「うん、じゃあそうするよ」
「………………。グレイフィアちゃんより胸はないけど、そこは我慢してよ?」
「だからあの女はもう関係ないってば。
……キミは以外と不安がりだよね?」
「最近ちょっと思うようになっちゃったんだよ……。
ホントにちょっとだけど」
だから彼女は父娘に対しては平等とか関係なしに愛情を向ける。
利用する筈だった相手が当初あまりにもグレイフィアの件で腑抜け過ぎてたその尻をひっぱたいてなんとか再起させたりと、面倒を見続けている内に……。
補足
基本的に冥界に対してはドライです。
特に一誠とリアスはあんまり関わりたくはないと思ってます。
下手な真似されると一誠のスイッチがオンになるので。
その2
サイラオーグとはただの親戚で、殆ど面識も無かったまんまでした。
なので余興でセッティングされたゲームも一誠がさっさと終わらせました。
その3
リアス一筋をぶち抜いてるけど、そのリアスが手を貸すので、最近結構逃げにくいとのこと。
その4
なんと、ほぼゴールしてるサーゼクスさん。
メンタルも隙ないし、しかも抗ってきていたので力に関しても壁を乗り越えてる模様。
『友人達』の協力により、殆ど豪邸と呼べる快適な秘密の地下施設で、ほぼ再婚相手となる彼女や娘と楽しくやってる模様。