例年通り、IS学園は学園祭を行う事になった。
本来の時間軸とは違い、その学園祭を盛り上げる為に一夏が目玉商品になるといった事も無いし、織斑春人がそうなるといった事も無かったし、刀奈が全校集会で煽る事も無かった。
そして、去年から用務員としてや保険医として働いている一誠とリアスはIS学園の学園祭が大体どんなものなのかを知っている。
もっとも、知っているだけで参加したといった事は無かったし、今年の学園祭当日も、学園祭後の後片付けに備えるという意味でお休みをするつもりだった。
「えーっ!? 一般客として今年は来てくれるって思ってたのに!?」
「去年以上に若干顔が割れてしまってるってのもあるし、行った所で別に何があるって訳じゃないしな。
それだったらその日はリアスちゃんと久々にどこか行こうかってな」
「ここに来れば良いじゃないですか! デートなんてズルいですって!」
「知らねーよ」
それを用務員に集っていた子供達に話したら、嫌だ嫌だと反対されていた。
特に刀奈なんかはリアスとデートするから来ないと宣うものだから、余計に玩具を買って貰えない子供みたいにわめいていた。
「えー、リアス先生来てくれないの?」
「私は別にここでデートしても良いって言ったのだけど、イッセーが『邪魔されたら俺が嫌だから』って言うし……」
「確かに妨害される可能性は高いですね……主にお嬢様とかからは」
リアスを慕う布仏姉妹も残念そうな表情で、わいわい言ってる刀奈をスルーしてお茶を飲んでる一誠と、その妨害するだろう筆頭主である主を見つめている。
あそこまでハッキリとリアス以外の女性にどうのこうのする気なんて無いと言われても尚あんな調子な辺り、根性だけは無駄に据わりきってるとしか言い様が無い。
しかも一誠にしてみれば非常に困ったことに、刀奈の両親自体がそれを知ってる上で反対の『は』の字も無いのだ。
この前刀奈の両親とリアスが会って話までしたというのにも拘わらず。
「一夏くんと箒ちゃんからも何か言ってよ~?」
「イッセー兄さんが来ないって言ってしまっている以上は言っても聞いてはくれないでしょうし……」
「リアス姉の事にだけは一切妥協しないってのは昔からですし」
シャルロットと仲良く駄弁っていた一夏と箒はその点においてはある意味で物分かりが良い。
まあ、昔からリアスに粗相を働こうとした男が相次いで次の日に行方不明になってしまう原因を幼い頃から散々見てきて知っているせいで、一誠がリアスの事に関しては梃子であろうが動かないのは解りきってしまっているのだ。
とはいえ、一個上の先輩である刀奈があんまりにも捨てられた子犬みたいな顔して説得に協力してくれと言うものだから、無下にも出来ず、一応言うだけは言ってみたが。
「どうしても来て欲しいみたいだぜ?」
「IS学園の学園祭は事前に生徒に一人につきひとつ渡される招待状で入れるようだから、私と一夏の分を二人に渡せば入れる筈だよ?」
「いや、一応紛いなりにも俺たちは職員ではあるから招待状とかは要らんけど。
折角のリアスちゃんとのデートが学校の中ってのはなぁ?」
「私は構わないけど? 良いじゃないの、去年だって学園祭がどんなのかも見なかったし」
「えぇ……?」
どうも騒がしいイメージしか小学校すらまともに通えなかった一誠にはないらしく、静かな場所でめっちゃリアスとイチャイチャしたいという、一誠が本来の一誠と唯一共通するだろう欲があるせいが、中々首を縦に振ってくれない。
「それに、学園祭という色々なガードが緩くなる隙をついてアレコレが何かしてくる可能性だってあるかもしれないでしょう?」
「……まあ、確かにそうだけど」
「あれから篠ノ之束は出てこないし、ひょっとしたらひょっとするかもしれないというのは確かに私も考えてはいる。
……本当は二人を頼りにすべきではないとは思っているけど、私達はまだまだ未熟なんだ」
「情けない話だけど、安心感がやっぱり違うからさ……お願いできないか?」
「……。あーもう! わかったわかりましたぁ! ったく、揃いも揃って……!」
こうまで一誠にとっての『身内』に言われてしまえば、流石の一誠も断れなくなる。
結果、リアスや一夏や箒の援護もあって一誠は学園祭に一応の『一般客』として行く事になった。
刀奈や一夏達が一誠の言葉に全員でハイタッチをしているのを見て渋い顔をする中、苦笑いをしていたリアスが一誠の肩に触れて小さく謝る。
「ごめんなさいね……? 多分イッセーの事だから、お店とか予約しちゃったのでしょう?」
「まあね……。でもそんなものはキャンセルすれば良いだけさ。
ちぇ……久々に甘えモードのリアスちゃんが見れると思ったのにさぁー」
「いえ、夜は大体そんな感じだと思うけど……」
「会ったばかりの時の方だよ。
あの時のリアスちゃんって凄かったじゃん? 毎日ホント色々と辛かったんだぜ?」
「あー……重いって意味かしら?」
「違う違う……すっげー密着されてて制御するのが辛かったって意味。
ホント、あのカス野郎はなんでリアスちゃんを毛嫌いしてたんだろうね? やっぱ目玉が腐ってたとしか思えねぇわ」
「仮に気に入られてたらそれはそれで地獄だわ」
子供達がわいわいやっているのを二人で眺めながら、自分達が一夏達くらいの年の頃を思い返して笑う。
なんだかんだ、共に生きる為に戦いを放棄した現在――二人は幸せだったりする。
そんなこんなの結果、学園祭に行く事になってしまった一誠は、当日は絶対にリアスと楽しむんだと切り替えた訳だけど、それに平行して浮上している問題は残ったままである。
例えば学園祭に行くと聞いた真耶からあわあわされながら何か言われたり。
刀奈は何時もの通りだったし。
織斑春人は右半身が余計大変な事になってるみたいだし――――は、一誠にはどうでも良い。
問題なのは、その余計大変な事になった理由となる存在である。
「聞いたわよ! アンタ、春人の事を……!」
「何故ですの! 答えなさい!」
「いや答えるだけではない! それ相応の報いを受けろ!」
その日、彼女はアリーナに呼び出された。
先日織斑春人をぶちのめしたという件で春人に好意を持つ者達から。
筆頭は各国の代表候補生である鈴音やセシリアやラウラであり、殺意すら向けているし、何ならISまでも展開させている。
「………」
だが彼女はそんな者達の殺意を向けられても平気な顔をして水羊羹丸々一本に齧りついていた。
「聞いているの!? あんまりふざけているといくらアンタでも……!」
「そんな大きな声を出さなくても聞こえてるって。
えーっと何だっけ? アレをぶっ飛ばした理由? そんなの簡単だよ。――――先輩じゃない蠅の分際で私に触れてきたからだけど?」
「は、蠅ですって!? 春人さんになんてことを!?」
「お前……何があったんだ? 春人の事をそんな風に呼ぶなど」
殺気立つ三人は各々ISの武装を生身の彼女に向ける。
織斑春人の害となるものは例えそれまで仲間であったとしても許せるものではなく、ましてや罵倒の言葉さえ放つとなれば、最早ただの敵なのだ。
「いやー、その点においては無知だったなんて言い訳にすらならない程に私も馬鹿だったよ。
そもそもアレってウチの姉と【自主規制】をしたいっぽいし、キミ達はただの――なんだろ、お飾りとしか思ってないんじゃないの? 現に私はその為にアレに利用されてたわけだしさ? あー、腹立つ」
「な、なに言ってるのよ! 春人はアンタとあの生徒会長の仲を戻そうと頑張ってたのよ!?」
「それを邪魔したのがあの兵藤とかいう用務員なんだ!」
「あまつさえ暴力まで春人さんに……! 何故それがわかりませんの!?」
水羊羹を租借する際、『しゃくしゃく』という独特の音が鳴り響く中、三人は言うが、彼女は鼻で笑う。
「頑張った結果、よしんば私が姉との仲を戻した後はどうなってたんだろうね? ああ、アレかな? 所謂姉妹丼って奴でも期待してたんじゃないかな? うーん、顔はああなのに中身はきちんと男っぽいじゃん?」
そう言ってケタケタと笑う彼女に、三人は明らかに彼女自身が変わっている事に違和感を覚えていたが、やはり織斑春人に対する事への怒りが強い。
「いい加減にしなさい! いいから春人に謝――」
これ以上なにを言っても無駄だと感じたのか、鈴音が武装の切っ先を目の前に突き立てながら最終通告をしようとしたその時だった。
最後の一口を食べた彼女の瞳が金色に輝いたのは。
「ガタガタとうっせーなァー!!! そんなに好きならさっさと抱かれて来いよカス共がよォ!!」
そしてやはりどこかで聞いた様なチンピラ丸出しの口調で、ギョッとする三人に啖呵を切る。
「ったく、叶うなら今すぐにでもブチ殺してやりてぇってのに、まだ『馴染んで』ないせいでできねーんだよこっちは。
それをギャーギャーギャーギャーとガラクタ持ってるだけで強くなった気になってるカス共がよ……」
それまでの大人しい見た目と言動だった彼女とは別人と錯覚させられるようなチンピラ口調に三人は怒りを越えてただ困惑していると、少女の頭部に獣の耳が生えている事に気づいた。
それはそう……まるで猫の耳のような―――
「まあ、良いか。
今の時点でどこまで『馴染んで』いるか丁度試したかったし、アンタ等は見た通りクソ不味そうだけど――――――――――
そしてニヤリと歪んだ笑みを浮かべた彼女は。
――――――しゃくしゃくさせてよ?」
生身でISで武装した三人に襲いかかった。
その瞬間、アリーナの中から恐怖におののく悲鳴が鳴り響き、やがて何も聞こえなくなった。
「思ってた通りに不味かったな……」
不気味な程無音となったアリーナから一人出てきた彼女――更識簪な、口の中に残る不快感に顔をしかめながらテクテクと一人歩いていた。
「でもある程度しゃくしゃく出来たし、少ずつ馴染んでは居るんだよね? ふふ……あの人達と同じ
織斑春人に盲目的になっていた筈の彼女は、彼の欲を知ってしまったが為に自分を完全に見失い、一時は一誠という力の象徴にすがろうとした。
けれどそれまでの行いが祟り、彼からはこっぴどく拒絶されてしまい、最早簪の中の支柱は消えていくのみであった。
だからこそなのだろう……その拒絶のされっぷりから何からが同じだったが故に『彼女』と夢の中でリンクしてしまった。
「ふふ、ねぇ白音……? 今の私ってどれくらいかな?」
別世界において到達してしまった最強最悪の
それは簪にとって目が覚める出会いであり、そして何よりも彼女の考えはとても共感できてしまった。
だからこそ仲良くなれてしまった。
そして……。
『まだまだだよ。
今のレベルじゃあまだ私の力を全部引き出せないし、引き出した所で身体が粉々になっちゃうだろうね』
「そっか。
それにしても、あの人はあんまり白音ちゃんの事を覚えてないみたいだったけど?」
『あのリアス部長をあんなに愛している時点で私からしたら信じられないからね。
多分だけど、向こうの私はあっけなく先輩に殺されたんだと思うし――聞いてる限りじゃ死んでくれて清々する程度にはカスだったっぽいし』
簪の中にその猫は宿っていた。
それはまるで神器の様に―――――いや、一誠とドライグが進化の果てに到達した『細胞レベルの共生状態』として白音は存在していた。
『手っ取り早いのは、先輩の大切にしている者達を全員しゃくしゃくしてやったら―――先輩はきっと私達だけに
「それやって白音ちゃんは結局先輩のモノにはなれなかったんでしょう? わかってるよ……その失敗は繰り返さない。
まあ、先輩本人とは少し違うけど、きっと同じくらい美味しい筈だから……もう少し待っててよ白音ちゃん?」
『へぇ? 声はオーフィスにそっくりだけど、オーフィスよりも気が合うって思うよ?』
「私も思う。
だってさ、この前初めて私……いや、私達にだけに向けたあの人の罵倒は凄かったもん。
何処が――なんてのは白音ちゃんは当然知ってるから言わないけど、凄くびしょびしょになっちゃったし、止まらなかったもん……ふふ♪」
『でしょう!? 感覚が殆ど一心同体だから私も久々に気持ちよかったもん……。
ああ、直接先輩のを食べたいなぁ……』
この世でもっとも危険な生物と化した白い猫との共生。
それが更識簪の進んでしまった領域の正体なのだ。
更識簪
無限の龍神因子
備考
白猫と細胞レベルで一体化し、思想から何から染められまくってる。
お陰でキレるとチンピラ化する。
戦闘モードになると、白音モードみたいに猫耳と尻尾が出現する模様。
補足
死んではいません、シャクシャクされた結果、ISのコアの成長分の力が食われて無くなってリセットされただけだし、その際の記憶も消し飛ばされてるので問題はないぜ。
その2
一誠とドライグの様に、神器という枠を越えて共生状態になってます。
さながら、簪たんに宿る神器――いや、グルメ細胞の悪魔というべきか。
ちなみに、本家ネオの弱点である怒りすら意味をなさず、寧ろ一誠からの殺意と怒りに関しては全部愛情と変換する筋金入りよ。
その3
この時点での簪たんのレベルは刀奈さんよりは下回っていて、こっそり一誠に鍛えてもらってるやまやんと同レベルです。
……お胸は完敗してますけど。