なんだけど、単なるおさらい話
その後の始まり
全てが狂った元凶は、他作品の主人公とヒロインであったと気付いたところで全てが後の祭りでしかなかった。
薄れている知識には無い力によって、力と顔を破壊されてしまった織斑春人は急速にその化けの皮が剥がれている。
そんな化けの皮が剥がれても尚、盲目的に彼を独り占めしたい者達は確かに居るは居る。
しかし皮肉な事に彼自身が求めた者は最初から彼等眼中に無く、その他作品の主人公――知識では最低と思える程の変態男を好いて居る。
その事が単純なまでの嫉妬に繋がるのだけど、既に一度敗北した彼が何を思おうが、知識には無い冷徹さを持つ他作品の主人公には届かない。
そればかりか、何人かは自分を疑い始めている始末。
とどのつまり………織斑春人は詰みに追い込まれているのだ。
篠ノ之束の襲撃から数日後。
破壊された秘密の訓練場の修正工事が始まった事で、暫くそこでの秘密特訓が儘ならなくなってしまった訳だけど、だからといって集まらないかと云われたらそうでは無い。
一応授業復帰した織斑春人が怨念の如く一夏に対して恨みを拗らせたとしても、それに連動して彼に盲目的となる者達をも一夏達に敵意を向け始めようとも、一夏達のやることは変わらない。
「うちのお姉さんの演技が露骨に下手だから、ひやひやさせられっぱなしでさぁ」
「イッセー兄さんに全部を教えられた今、今まで通りとはいかないのだろう。
そこに関しては私も仕方ないとは思っているよ」
「まぁな……。
刀奈先輩の妹の方は突き抜けて壊れてる感があるけど……」
「彼女の場合は私もなんとも言えないな。
兄さんは毛嫌いしているというのにあんな調子だし」
束を追い払ってからの二人はイッセーとリアスに教えられてきた技術をより一層磨く事に集中するようになっている。
もっと先の先へ、リアスとイッセーが立つ場所へと必ず到達する為に。
家族ではないけど、家族以上の繋がりを与えてくれた二人ともっと強い繋がりを。
それが一夏と箒の夢なのだから。
「けど、この前の事で刀奈先輩の両親がイチ兄の事を認めちゃったんだよな?」
「ああ、ひきつった顔をしながらイッセー兄さんが困っていたから間違いない」
「刀奈先輩自身が飛び上がるくらい喜んでたせいで、イチ兄も微妙に強く言えなかったみたいしよ……」
「リアス姉さんが何も言わないし、良いんじゃないのかとは思うがな……」
文字通り、グレモリーとしてのリアスではなく、リアスという一個人を愛し、地獄の底に堕ちても傍に居てくれたばかりか、ずっと守ってくれた。
ボロボロになった自分を助け、何のメリットも無いのに一緒に暮らし、やがて惹かれ合った事で到達した今の仲のままもう十年以上経つが、リアスは迷い無く今でも一誠を愛しているし、一誠もリアスを愛している。
それはこれまでも変わらないし、これからも変わらない。
だからこそ余計に、リアスはそんな一誠に惹かれている同性の者の気持ちが解ってしまう。
元々一誠は元の世界では間違いなく他人に嫌われやすかった。
多分あの転生者の存在が一誠に対する嫌悪感を助長させていたのだろう。
なので、自分と同じような気持ちを一誠に抱く者には嫉妬よりも嬉しさが勝ってしまう。
無論、一誠の上部だけに好意を抱かれるのは嫌だけど、その中身の全てを知っても好いてくれる者には、リアス自身がそうなので同類意識が芽生えてしまうのだ。
「私はイッセーの半分程度の出力だけど、イッセーの力も扱えるのよ。
逆にイッセーは私の宿した『消滅の魔力』を扱えるわ」
「それはお互いのスキルがお互いに引き上げ合っているからですか?」
「大半はそうね。
イッセーと出会った時から今にして思えば『引力』みたいに惹かれ合ってたんだと思う」
「まさに運命の出会いですね。
良いなぁ……」
「ふふ……そうね。
まあ、そういう理由の他に、肉体的な繋がりを持ったからお互いの力を分け与え合えたのだと私は思ってるわ」
「肉体的?」
「ええ……あの時の私は、唯一傍に居てくれるイッセーを失う恐怖やイッセーの暖かさの心地よさから、毎日の様に求めてたからね」
「え、そ、それってつまり……!?」
だからついついリアスは一誠の中身を知っても尚意識する同性の友人達に教えてしまう。
力の扱い方から……一誠が好きなものだとかを。
「今でも時間さえあれば毎日よ? 流石にこの学園の中ではやらないけどね?」
「あわわわ……!」
「じ、実際どんな感じなんですか? そ、その……最初はかなり痛いみたいですけど……」
「うん、最初は確かに痛かったし、こう……終わった後でもお腹の中に異物感が残る感覚があったけど、イッセーが優しくしてくれたから苦痛は全く無かったわ」
「そ、そーなんだ……へー……?」
「きょ、興味が出てきますねー……?」
「………………。揃って俺を見るな。リアスちゃんもそんな話を二人にするなよ……」
空色の髪の少女と緑髪の後輩女性が、部屋の隅っこで知らんフリで新聞を読んでいる一誠に何かを求める様な目を向けるのを微妙な顔して嫌がる。
そんな光景をリアスは見ながら微笑むのだ。
「ふふ……普通なら嫉妬のひとつでもするべきなのでしょうけど、どうしても思えないのよね。
アナタの全部を知ってる上でだからかしら?」
「そりゃ光栄だけど。俺は浮気はしない主義だし、ハーレムなんぞに興味無いぞ」
「……………まあ、あの光景を見てしまえばそう思ってしまっても仕方ないとは思うけど……。
私も危うくライザー・フェニックスの女の一人にさせられかけたし」
「ホント、あの時ぶっ殺しておいて良かったよ……」
色々とあった。
何度も死にかけた。
「実は一度だけ実家に無理矢理連れ帰られた事もあったわ。
純血を存続する道具として犯されかけた事もあってね……」
「え……」
「そ、そんな酷い……」
「でもイッセーが助けてくれたの。
全部を敵に回してでも尚私の為に……」
「あの時点でキミ以外がどうなろうがどうでも良かったしな。
死ぬ覚悟……というか、相討ち覚悟で全力で暴れて冥界の殆どをぶっ壊してやったよ。
服を引き裂かれてたリアスちゃんを見た瞬間、完全にプッツンして理性が吹き飛んだからね」
実は一度イッセーから引き剥がされ、犯されかけた事もあった。
でもイッセーは助けてくれた。そして例えどれだけ汚されたとしてもイッセーは変わらずにリアスを愛してくれる。
「結局奴を殺し損ねて逃げた訳だが、そこからだよ。
リアスちゃんを失うくらいならこのままリアスちゃんを連れて誰も知らない所に逃げてやるって決めたのは」
『………』
もしも転生者が居ないまま何事も無く生きていたら決して到達しなかっただろうこの繋がりはリアスにとっての全てであり、何物にも替えがたい宝物。
「だから俺は何度でも言うぞ。
こんな俺をどう思うことに対してはもう否定はしない。
だが、俺はその想いってのに応える気は無いよ。
こんな俺に付いてきてくれるリアスちゃん以外はね……」
「む……」
「今更言われても、アナタ以上の人なんて居ないのに……」
「頑固ねぇ……」
永遠に輝き続けるリアスの宝物……。
『こんな俺をどう思うことに対してはもう否定はしない。
だが、俺はその想いってのに応える気は無いよ。
こんな俺に付いてきてくれるリアスちゃん以外はな』
こうまで言われた以上、普通ならさっさと諦めるべきなのは頭では解っている。
けれど山田真耶にはどうしてもそれが出来なかった。
「はぁ……」
「お、どうしたのやまやん? ため息なんてついちゃって?」
「まさか恋のお悩みかなぁ?」
「………………。まあ、そんな所ですよ……はぁ」
『……………え』
千冬が正気(?)に戻っても真耶は一組の担任に昇格したままである。
無論このため息は授業ではない時間帯によるものであり、彼女に対して友達感覚で接してくるクラスの生徒達の冗談半分で発した筈の言葉に素で答えてしまった真耶はまだ気づいていないが、今の返答のせいで事情を知らない女子生徒達の大半が固まっていた。
「……? どうかしましたか皆さん?」
その静寂化したリアクションに気づいて真耶がきょとんとした顔をする。
そして自分の返答を思い出した瞬間『し、しまった!』と口を押さえた真耶だけど、全てが後の祭であり、真耶は暫く苦笑いしている一夏達が見ている中、女子生徒達から大いに質問攻めをされるのであった。
「だ、誰に恋したの!? 幼馴染み!? まさかの合コン!?」
「ち、違いますよ!!? で、出会ったのは去年ですけど……」
「去年から!? その相手って誰!? 手とか繋いだ!?」
「あ、相手は言えないですし、手も繋いだ事なんて…………無いです」
「何で!? やまやんのこの我儘ボディなら一発で落とせるのに!」
「わ、我が儘ボディって言われても………」
矢継ぎ早にあれこれ聞いてくる女子生徒の言葉に困る真耶。
何せその相手には基本的に異性としては全く相手にされてないばかりか、既に恋人とかいった概念を超越してる繋がりがある異性……それもスタイルや容姿に勝ち目が無さすぎる女性が居るのだ。
しかもここ最近は情報が漏れる形で存在を生徒達にもバレ始めてる用務員の人と非常勤保険医なのだから、言える訳もない。
ましてや現生徒会長もその用務員に恋してるなんて知られたら大騒ぎでは済まされないのだ。
主に顔の半分が痛々しく覆われてる一夏の弟(?)辺りが。
「この我が儘ボディで密着すれば一発よ! やってみなさいやまや!」
「押して押して押しまくるのよ!」
「あ、あははは……」
『いや、それしても無表情か、最悪【リアスちゃん以外の女が全裸で闊歩してようが反応しない自信しか俺には無いですね】と言われて余計凹まされるだけなんだけどな……』と心の中で思いながらも取り敢えず笑って誤魔化す真耶。
そう、実際問題この気持ちは諦めるのが正解なのは真耶だってわかってはいるのだ。
けれど自分と同じ気持ちを持つ刀奈の諦めない根性を見ていると、やはりこの気持ちを諦めきれない。
ドジで教師をやれる自信が無かった自分の悩みをなんだかんだ聞いてくれたり、自分の知らなかった『世界』を教えてくれた彼の事は……。
その真耶が思ってる通り、更識刀奈に『諦める』という文字は存在しない。
彼がリアス一筋なのは最初から知っている。
実際にどれだけの事をしても彼が無反応なのも理解している。
しかしそれでも更識楯無としてではなく、ただの刀奈として一誠というリアス以外には不器用な男性に惚れ込んでしまっているのだから。
そういう意味ではきっと自分は織斑春人に惚れ込んでいる者達と何ら変わらないのだと思ってもいる。
違いがあるとするなら、春人と違い、一誠は毅然とした態度で突っぱねてくるという所と、取り合いだなんだと彼に好意を抱く者達と喧嘩をすることが無いといった所だろう。
何故ならその一誠から愛されている女性――刀奈にとっては目指すべき壁であるリアスが刀奈や真耶を認めているからだ。
だから喧嘩なんてしないし、寧ろリアスから色々な事を教えて貰っている。
だからこそ刀奈は諦めたくは無いのだ。
出会いから始まり、ほんの小さな交流を重ねていく内に抱いた………あの日胸の中に抱き、やがては大きくなっていったこの気持ちを。
織斑春人の件で用務員・兵藤一誠の存在は知られてしまった。
春人側の印象操作によって、ネガティブな印象をまだ多く持たれているのは事実だ。
けれどそんな事は刀奈には関係ない。
自分のせいで一誠が周りからそう思われてしまった事に対する申し訳無さですら、一誠は『気にするな』の一言で許してくれたし、春人からのストーカーじみた真似をされた時は本気で守ってくれた。
かつてリアスが一誠に全力で守られて来た様に。
無愛想かもしれない。
リアス一筋過ぎて基本的にぶっきらぼうなのかもしれない。
でも刀奈はちゃんと知っている。
認めた相手に対する優しさを……そして命を掛けても見捨てはしないという覚悟と包容力を。
だから好き。
暗部の当主となるべく、情を抑えながら生きてきた身としては、きっと失格なのかもしれない。
でもこの気持ちだけは捨てたくはない。
最初で最後――そして永遠に消える事は無いこの恋心だけは捨てない。
だから刀奈は決して諦めない。
リアスの様な女性になる――無論ただの模倣には決してならず、自分らしくリアスに並ぶ女になって一誠を振り向かせる。
これが刀奈の抱いた
今も尚リアスが持ち続ける
―――――――――
その気持ちにより遂に到達した刀奈にとって、最早春人は相手にもならないし触れることも叶わない。
「……………」
「ど、どうしよう……。用務員室に来てみたらイッセーさんがソファーで寝てるからつい出来心でやっちゃったけど、成功しちゃった……」
春人の欲がどうであれ、刀奈は今絶賛テンパっているのだから。
主に寝ていたイッセーにバレずに膝枕をしてあげることに成功してしまったという意味で。
「すー……すー……」
「ぅ……改めてみると、寝てる時のイッセーさんの顔ってちょっと子供っぽくてかわいい……。
この前の時は酔っぱらってたせいで苦しそうだったし……」
「んぅ……」
「っ!? あ、危ない危ない……こんな事は滅多に無いのだから、起こしちゃったら勿体無いわ……」
普段ならここまで近付いたら即座に感知されるのだけど、色々あって疲れてるせいか、起きる事もなく刀奈の膝に頭を乗せて穏やかに寝ている。
しかも刀奈にとって運の良いことに、今この用務員室には自分と一誠しか居らず、実質的に二人きり。
暫くすれば一夏達が来る事を考えたら、ギリギリまでこの状況を楽しみたい……そう考えた刀奈は寝顔を晒している一誠の前髪に触れる。
「……………」
触れていく内に頭を撫でてみたり、頬を指でつついてみたりと普段できないような事をしていく刀奈は、ほんの出来心が出てしまい……そっと静かに寝息を立てる一誠の額を自身の唇で触れてみる。
「や、やっちゃった。
ふ、ふふん……やってやったわ……! ……えへへ」
幸せとはこういう事なのだろうと、今さっき自身の唇に触れた感触を思い返しながらニヨニヨと頬を緩ませていると、突然一誠が少し寝苦しそうな声と共に軽い寝返りを打った。
「ぁ………」
「んん……」
ゴロンと身体を傾けた一誠の顔がちょうど刀奈の腹部に埋まる様な体勢となり、びっくりして固まってしまう刀奈は自身の心臓が早鐘し、全身が熱くなっていく。
「ど、どうしよ……?
ちょっと恥ずかしいけど、起こしたら悪いし……」
そう呟きながら刀奈は頬を紅潮させる訳だが、一誠の顔面が下腹部付近に向けられてるともなれば仕方ない事である。
暫く寝てなかったせいか、全く起きる事無く眠っている一誠の姿は女子高生にセクハラしてるそれでしかないし、起きた本人が知ったら以前みたいに『俺を殺せぇ!』とでも言いそうな程度には……確かにアレではあった。
「リアス先生なら慌てない筈だわ……。
ええ、私だって慌ててる場合じゃない……」
けれど刀奈は早鐘する心臓と熱を帯びる身体に渇を入れる様に何度か首を横に振って雑念を飛ばすと、ポンポンと優しく一誠の頭を抱く様に撫でる。
リアスなら受け入れるし、絶対にこうする筈。
ならば自分だって……。
「どれだけ言われても、私は絶対に諦めませんからね……一誠さん?」
「ん……」
「ぁ……! も、もう……! この前もそうだけど、意識が無いと意外とエッチなんだから……! ふふ……でも嬉しいですよ?」
その後、結局自力で起きるまでこのままだった一誠が、ニコニコしてる刀奈と暫く目が合わせられなかったのは云うまでもない。
空色の花嫁修行編・開始?
補足
リアスさんが基本的にこのお二人なら構わないスタンスなので、メキメキと成長しちゃってる。
対して一誠は未だブレが無い。
その2
歩刀不屈
不撓不屈という言葉通り、決して諦めない気持ちとリアスに追い付くという気持ちにより到達したなっちゃんのスキル。
一言で言うならリアスの様な――めだかちゃんみたいなオールラウンダーなのですが、一定条件に到達した時のみ――――某ACT4の様な『絶対』の概念が追加される。
その4
何時も通りに……『頑張れなっちゃん!』