進化の代償と呪い
かの青年は確かにその一瞬だけ到達したのかもしれない。
世界を越える力。
勝つための力。
全てを壊す力を……。
その代償が愛する者達との永遠の別れとなったあの時、青年は確かにその瞬間だけは最強だった。
共に逝く事のできぬ絶望の代償を払う事で青年はその誇りを取り戻せた。
けれど、失ったものもまた余りにも大きすぎた。
ただ独りとなった青年がその後どうなったのかさえ誰も知らない。
世界という概念そのものを壊して勝利した青年死んでいるのか生きているのかさえ、誰にもわからない……。
生き残る者と死ぬ者を分けるものは何なのか、それは今でも解らない。
世界そのものすらも取り込んだ男に復讐を果たした筈が、今度はそんな男に近い存在となってしまっているこの皮肉の意味も。
だけど死は誰にでも訪れるものなのだ。
世界に反逆したあの時に俺も一緒に逝っていた筈だったのに、俺だけが生き残ってしまった。
あの時俺も一緒に死ねたらどれだけ楽だったか……。
死んだ者の借りは帳消しになる……。
そしてその借りの後を継ぐのは生き残った者だ。
種族も、年齢も、生まれも関係無く集った『チーム』の最後の生き残り……すなわち俺が継がなければならない。
何もかもが違ったこの世界で……ただ一人になったとしても。
どんなに力を付けたとしても、あの人には最後まで見て貰う事は叶わなかった。
あの人に見て貰う為には何でもした。
あの人以外の全てを滅ぼしてやったりもした。
あの人がムカついたと思った存在全てを壊してやったりもした。
あの人に色目を使う虫けらは全部しゃくしゃくしてやった。
でも結局あの人は私を受け入れる事はしなかった。
それは最初の時点で私があの人にしてはならない事をしてしまったから。
その時から私はあの人にとって殺すべき対象になって変わらなかった。
そう……全ては自業自得。
あの人と同じ領域に到達してもダメだった私への罰。
だから私は願う。叶うなら全てが始まる前のあの時に戻れたらと……。
もし戻れたらあの人を利用しようとする輩では無く、あの人と共に抗う者になりたい……。
まだ全てに憎悪する前のあの人の隣に……。
これが、私であって、私ではない私の夢を見るようになってからの願い。
彼を初めて見た時、本当の意味での同類は存在するものなのだと理解した。
けれど彼は私を初めて見た時から『かなり嫌そうな顔』をする。
それがわからないから聞いてみると、嫌悪にまみれた顔で……『好きだった子を虐めてたカス共の一人に似てるから』……なんて言われた。
なんて酷い話だと思ったと同時に、彼に好きな人が居た事にショックを覚えたその瞬間、私は思った。
あ、私はどうやら彼に一目惚れをしてしまった様だと。
何時か夢の中で見た私よりも最低な男子学生に言われた通り、私はどうやらそこそこ惚れっぽかったみたいだった。
……もっとも、そんな彼の周りをうろついてる女が何人か居るので、まずはそっちをどうにかしないと始まらないみたいだけど。
孤高の戦士……というのは多分大袈裟なのだろうけど、彼を初めて見た時、私はすぐに理解した。
彼が幼い頃何度も夢の中で見た青年なのだと。
地の底に堕ち、そこからはい戻り、全てを取り戻した男性。
あらゆる逆境を友と共にはね除け、例え世界そのものが相手でも諦めること無く抗い続けた青年。
そして……夢の中ではあるが、私の事を愛してくれた青年。
勿論これは夢の中での話でしかない。
現実の彼がそんな青年である保証はどこにもないし、実際彼は少し違った。
まず寧ろ私に対してかなり嫌そうな顔をしているし、どう考えても彼が気にしている女性は別の方であるし、そんな彼の周りをうろうろしてる女達が私に近しい感じだったし。
つまり夢の中の彼とは違って、現実の彼は基本的に私達の扱いが雑で厳しい。
それでいて、彼が気にかける相手が何も知らないでいることにも腹が立つし、その気にかける相手に対してはいつも彼が空回りしているのを見てると色々と辛い。
曰く、昔好きだった女の子に似てて、お前らはその子を虐めてたカス共にかなり似てる……。
ああ、全く以て腹立たしい。
その虐めてた事で彼の心象を悪くさせたバカ共が特に。
少なくとも私達に言えるのは、そんな奴等とは違うし、そうなりはしないというのに……。
あの時に比べたら平和なのかもしれない。
兵藤一誠は確かにそう思っていた。
しかし平和ということは自分の出る幕なんてありはしないし、もっと云えば兵藤一誠は存在しているのだ。
ならやることなんてある訳もない。
守る必要も無い。関わる必要もない。何故なら自分達の人生を壊しに来る転生者は今のところ出現していないのだから。
だというのに、兵藤一誠であった彼は存在している。
中身こそ彼そのものだけど、その顔も名前も違う者として。
そしてその名と容姿はかつて別世界で自立するまで面倒を見てきた少年と同じ顔と名前で……。
ならばすべき事は無い。
この時代の自分では到底太刀打ち出来ないであろう奴等が出現した時は自分が隠れて処理すれば良い。
この時代の自分がある程度成長するまでは自分が……。
そう思ってリスクを覚悟でこの時代の自分――そしてかつて愛し続けた彼女が通う高校に、この時代の自分の一学年後輩として入学する事になった訳だけと、それ以前に彼はうんざりする事が多くありすぎた。
かつて自分が敵と認定した者達の一部に何故か目を付けられてしまっているという、皮肉にもならないこの状況を……。
「…………」
何度も彼は思うが、この世界は実に平和だ。
自分が生きた世界に比べたら、例え三大勢力が冷戦状態であろうとも、どこぞのテロ組織が台頭してようが、どこぞの勢力がなんかやってようが、平和に感じてしまう。
つまり何でそんな世界に自分だけが自分ではない姿と名となって存在しているのかがわからない―――と、彼の通う学校である駒王学園の屋上の手摺に身体を預けながら、見下ろした先の――また何かやらかしたのだろう男子生徒三人組が女子達に追いかけ回されてる姿を見ながら、深くため息を吐く。
『やんちゃな小僧そのものだな、この世界の――普通に育ったお前自身は』
(良いことじゃねーか……。
ますます俺の存在意義が無くてな)
漆黒の黒髪に比較的整った容姿の少年は、誰にも聞こえない渋い声の主と黄昏ながら自嘲の笑みを溢す。
一誠としての元の声や姿では無くなった今の彼の事を知っている者からすればこう呼ぶだろう―――織斑一夏と。
『一夏の小僧と名前ばかりか姿まで瓜二つとなった時は驚いたというか、小僧がこの事を知ったらさぞ喜んだに違いない』
(最後まで兄呼ばわりしたからなアイツ等は……)
女子集団に捕まり、ボコボコにされているこの時代の自分自身を見ながら、一誠――否、一夏は皮肉っぽく笑う。
全てを失い、尚も生き残った自分がその時だけは過去を忘れる事が出来た者達との触れ合いが今の自分の姿となったのかはわからない。
けれど一誠から一夏へとなってまで生き続けなければならないこの呪いじみた宿命からは未だに抜け出せる事はできなかった。
『この時代のお前の中に宿る俺が果たしてどこまで到達できるか……。
俺にはどう考えてもお前程には為り得ないと思っているのだが……』
(それでも生きていけるならそれで良いじゃねーか。
多分俺たちが特殊過ぎただけなんだろ? この世界には信じられないくらいにカス野郎はいないし……)
『ああ、だからこそ却って不気味だ』
最近悪魔に転生し、オカルト研究部に入部したらしい兵藤一誠はまだ何も奪われてはいない。
両親は健在のまま育っているので、自分の様な攻撃性も少ない。
代わりに相当のドスケベに育ったみたいだが、それも平和な証拠だと一夏自身は、自分自身の可能性だからと結構甘めの判定をしている。
後は彼がその部員――特に部長であるリアス・グレモリーと上手く仲を深めてくれさえすれば何の問題もなく自分は去れると考えている。
『小さなイレギュラーは発生している……』
「………」
唯一どの時代においても共に居てくれた、両親を幼い頃に殺された事で失った一夏にとっては親に近い気持ちを持つ赤い龍――ドライグが言うように懸念すべき事は確かにある。
『噂をすれば……だ』
「……………」
その1
この時代のまだ悪魔のお嬢様として生きているリアスの眷属には一夏の記憶に無い者が眷属をやっている代わりに本来居た筈の眷属が入れ替わるように居ない。
それだけなら特に思うことは無い話なのだけど、一夏には無視できない理由がある。
何故ならドライグが呟いた通り、屋上から校舎に戻る扉からそれは当たり前のような顔をしながら現れるのだから。
「授業が終わった途端、一人で居なくなっちゃったから慌てて探しちゃいましたよ―――先輩?」
かつて一誠であった頃の報復対象の一人。
リアスを裏切り、転生者に全てを明け渡した者の一人……白音と呼ばれた少女。
「またここから兵藤先輩やグレモリー先輩を眺めてたんですか? まったく妬けちゃうなぁ……?」
「……………」
「あら、スルーですか?」
「……何度も言うが、俺はお前の先輩じゃねぇ。
どうであれ今は同い年なんだよ」
「おっと、でも人前ではちゃんとわ弁えてますから、勘弁してよ………一夏くん?」
「…………………」
この少女を知ったのは意外にもかなり前の事。
一誠では無くなった自分の前にどこからともなく現れ、向かい合うなり『見つけた、夢に見た私の先輩』と電波丸出しな事を宣い、それ以降ずっとつきまとって来たのだ。
一夏としても、かつてリアスを裏切った面子の一人という事もあって、当初は怒りを爆発させて彼女を抹殺しようと――全力を出したのだが、この白音がリアスを裏切った彼女との最大の違いをすぐに理解させられただけで、殺すことは今日までできなかった。
「でもどうやら私が一番乗りみたいでラッキーかな? ね、くっついても……あれ?」
「気安く懐くんじゃねぇ。鬱陶しい」
「ちぇ、やっぱりダメか……。
そんなにグレモリー先輩が恋しいの? …………いっくんにとっては違うグレモリー先輩なの―――っ!?」
「それ以上嘗めた事をほざくんじゃねぇ………ぶち殺すぞ」
「ごめんごめん、でもあまりにも素っ気ない日が続くから、こうでもしないと見てくれないでしょう?
ふふ、ほら……現に今の先輩は私だけに殺意を向けてくれてる……あはは♪ 心地良いなぁ……」
「……………」
『……。何があってこうなったんだこのガキは? 現れた当初からこうだった気がするが……』
メンタルが悪い意味で振り切れてしまっているのもそうだが、彼女は一夏が知る白音と違い、はっきりと此方側の領域に入っている者なのだ。
しかもかなり危険で世界をも滅ぼせるレベルの精神の力を……。
リアスの事でからかわれたせいで反射的に白音の首を締め上げていた一夏は、そんな事をされても本当に嬉しそうに微笑む白音に対して目を逸らしながら舌打ちをすると、乱暴に降ろす。
「む、
「それをお前にしたところで、無意味なのは知ってんだよ。黙ってろマゾ猫が」
曰く一夏にも身に覚えの無い自分自身の人生を夢の中で物心がつくかつかないかの時に見てから、ずっと探していたらしい。
その行動力のせいで、本来はリアスの戦車である筈の白音の位置には……彼女の姉となる者がなっているらしい。
そこら辺についてのゴチャゴチャとした事情は一夏自身には興味なんてないが、少なくとも今の自分よりはこの世界の自分とリアスとは顔見知りの関係ではあるらしく、頼んでもないのにその姉から仕入れた情報や近況を教えてくる。
その意味では今の一夏にも微妙な利用価値があるものだから、始末にも終えない。
しかもそれだけならまだしも……どうやら電波女はまだ居たらしく……。
「チッ、雌猫さんに先を越されるとは、一生の不覚だわ……」
「まあまあ、そういう不運に対しては怒るよりもヘラヘラ笑いながら受け入れる方が精神的にとても『健全』よ?」
『……………。おい、全員来たぞ』
「チッ……」
白音の次に現れたのは、悔しそうに唸る金髪碧眼の少女と、黒髪にアメジスト色の瞳をした眼鏡をかけた少女。
「またアナタが余計な事でも言ったのかしら? 一誠様が不機嫌ではありませんか」
「兵藤君がリアスの部活に入ったと聞いた時はそこそこ機嫌が良かったのに……。
あ、もしかして兵藤君がリアスともうイチャイチャしてるのを見ちゃったからとか? やっぱり男の子ね一誠?」
「………」
どちらもかつて自分達の敵であった者であり、リアスと同じ純血の悪魔。
そしてよりにもよって、その敵であった者の癖に此方側の性質を既に持つ者達。
白音と同じく、身に覚えの無い自分の事を夢で見た事で、わざわざ探し当てて来た者達。
そう、一夏――いや、かつての一誠にとっては絶大なる皮肉の権化。
「自分のトロさを人のせいにするもんじゃないと思うよレイヴェル?」
「お黙りなさい! 第一遅れたのはソーナさんが『ヒロインは遅れて登場した方が、格好ならぬ括弧が付く』ただなんて言うからですわ!」
「私のせいにされても困るわよ。
だってその通りだと思っているし、私は『悪くない。』」
『…………………悪夢だな』
「ああ……どいつもこいつも全力で殺してもゾンビみたいに復活しやがる」
悪夢みたいな者達。
それが織斑一夏という、かつて育てた少年と瓜二つの少年のなった一誠の今である。
織斑一夏 (兵藤一誠)
元・赤龍帝(完全共生状態)
無神臓(極限)
あらゆる環境や状況に対して即時適応し、糧として進化し続ける。
生きる意味。
この世界の自分とリアスを悟られる事無く外敵となる存在から……成長するまで守る。
塔城白音
あらゆる概念を喰う事で糧とする。
生きる意味。
夢の中の自分の二の舞だけは踏まず、彼の傍に居続ける事。
その為なら比喩無しに何でもやる。
ソーナ・シトリー
あらゆる意思や動作を零に戻し続ける。
あらゆる現実を否定し、自分の描いた夢へと強制的にねじ曲げる。
生きる意味。
自分自身の存在が居る事で存在意義を失いかけても尚、中身が別物であることを知った上でリアスを守ろうとする彼が役割を終えるのを傍で見て、その後意気消沈するだろう頃になったら――――――死ぬまで甘やかしてあげたい。
レイヴェル・フェニックス
意思と行動を『必ず』実現させる。
生きる意味。
夢で見た彼とは違うが、意思や行動の根が同じ故に何がなんでも傍に居たい。
それにとやかく言ってくる者が居るなら、例え親でも殺す。
リアス・グレモリー
スキル無し
備考・本当にただの平和に生きているリアス・グレモリー。
一夏への印象。
今まで陰ながら一夏に助けられた事も知らないし、知ってる事といえば、自身の戦車の妹やら幼馴染みやら、ギリギリなんとか解消させられた元婚約者の妹という、リアスが見た中でも間違いなく変人属する三人に追いかけ回されてる子……という認識のみ。
兵藤一誠
赤龍帝(覚醒直後)
スキル無し
備考・ハーレム王に、俺はなる!!
一夏への印象。
ナチュラルイケメンで、未来のハーレム要因になれたら良いなぁとか思ってる戦車さんの妹さんやら、例のフェニックスの妹やらなんかヤバイ気がしないでもない生徒会長という美少女達が常に彼の傍にいるのに、本人はマジで嫌そうな顔をしてる嫌味な後輩という認識しかしてない。
続かない
補足
つまりベリーハードからの精々(?)シリーズ。D×Sシリーズ。マイナスシトリーさんシリーズ。鳥猫さんの内輪クロスみたいなもんです。
皮肉な事に、一誠(一夏)にとっては全員がリアスさんを裏切った者だったので、悪夢でしかない。
しかも、全力で殺しにかかっても全員平然と復帰してくる程度にはぶち抜けてるので始末にも終えないし、全員敵意ではなく好意をド正面に向けてくるので、どうしたら良いのか訳がわからない。
その2
ネオ白音の記憶が電波受信したせいで、過激さこそマイルドですが、それでもやり方は思いきってます。
身動きとれるように、姉をリアスの戦車にするように仕向けて利用したりしても何の罪悪感もありません。
そして殴られるだの敵意だの殺意だのを彼に向けられる事すらも愛情に変換してるので、どうにもならない。
その3
ソーたんは一見一番理知的に見えますが、二人が勝手に自爆したら然り気無くかっさらうタイプです。
そして一番ある意味では彼の精神的な弱点を熟知しているので、弱った所に付け入れる気満々。
しかもジンクスよろしくにお胸の戦闘力に反比例してるものを抱えてるので、ある意味クマー先輩よろしくに相手をマイナスに引きずり落とすという……。
その3
レイヴェルたんの場合は、何もかんもストレートに行くタイプなのですが、その障害となる存在には漆黒の意思が即時に発動し、徹底的に排除にかかります。
それはもう、絶対殺すマン宜しくに。
その4
別に続けはしない……。
要らんっしょ?