色々なIF集   作:超人類DX

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反転して束ちゃまが白過ぎてるせいで、かなり平和に時が進むしかないのだ


自由を求めて

 生き残る者と死ぬ者を分けるものは何なのか、それは今でも解らない。

 

 世界そのものすらも取り込んだ男に復讐を果たした筈が、今度はそんな男に近い存在となってしまっているこの皮肉の意味も。

 

 だけど死は誰にでも訪れるものなのだ。

 

 世界に反逆したあの時に俺も一緒に逝っていた筈だったのに俺は生き残ってしまった。

 

 あの時俺も一緒に死ねたらどれだけ楽だったか……。

 

 死んだ者の借りは帳消しになる……そしてその借りのあと継ぐのは生き残った者だ。

 

 種族も、年齢も、生まれも関係無く集った『チーム』の最後の生き残り……すなわち俺が継がなければならないんだ。

 

 そして守らなければならない。

 

 かつての俺とリアスちゃん―――いや、リアスが見せられた地獄を見せようとする輩から守る為に……。

 

 それがどんなに間違えであったとしても――

 

 この世界にとってアイツ等が(ヴィラン)だったとしても……。

 死ぬことも出来ない怪物(オレ)の後を付いてこようとするアイツ等が独り立ちするまでは決して……。

 

 

 そうだ、俺の道は俺が決める。

 誰かの決めた正しさとやらには興味は無い。

 近い未来に俺が不必要となり、排除されるその時まで、俺はまだ皆の所には逝けない――

 

 だからもう少しだけ寄り道する俺を待っててくれ―――リアス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凰鈴音にとって、織斑一夏と篠ノ之箒はとても大切な親友であり、互いの感性を高め合う良い好敵手でもあった。

 

 出会いは小4の春。

 

 本来ならば小5の頃に箒と入れ替わる形で一夏と出会い、共に過ごしていく内に惹かれていくのだが、彼女の場合は違う。

 いや、確かに一夏に惹かれていくのは変わらない。

 そういう意味では箒は最大のライバルと云える。

 

 しかし鈴音と箒が本来の世界と違うのは、自分の感情をコントロールすることが出来ているという所だろう。

 

 鈍い一夏についカッとなる事は無い。

 

 気付いてくれない一夏が悪いのでなくて、気付いてくれるだけの魅力的な女になってやる。

 

 それが二人の一夏には内緒にしている決意。

 

 だから鈴音は一夏と箒との仲は一時的な別れがあっても変わらない。

 

 というか、離れても週に何回かは一夏の保護者となる一誠によって会えていた。

 まあ、流石に一夏がISを起動した事によるバタバタが落ち着くまでの期間は会えなかったものの、中国の代表候補生となっていたのが役に立ったお陰でなんとかIS学園に転入する事が出来た。

 

 

「えー!? 箒と一夏は二天龍モデルの機体を作って貰ったの!? 良いなー……」

 

「オリジナルより相当劣るぞ? あくまで基礎能力のみだよ」

 

「姉さん自身もまだまだと言ってたし、別に既存のISよりも性能が上回っている訳ではないぞ。

というか、使用者の身体能力に完全依存するから、ある意味ISとしては欠陥品だともな」

 

「それでもよ。良いな~」

 

 

 小学生の頃に何度か見たことのあるタイプの男が居る様なので、勿論気は抜かない。

 鈴音もその昔、そんな様な存在に付きまとわれた事があるし、一夏や箒がそんな手合いに色々とされていた事も勿論知っている。

 

 今のところ此方を値踏みするような視線を寄越すだけで何もしては来ないが、仕掛けてきたら即座に対応できる準備だけは怠らない。

 

 

「アタシが教えて貰った事は心構えとか、龍拳くらいだもんなぁ……」

 

「いやいや十分だろ。

寧ろあの龍拳を教えられて使えるようになったのって鈴だけだし」

 

「あれ程悔しい思いをした事はなかったぞ? 千冬さんと束姉さんもな」

 

「そうなんだけどさぁ~? まあ、今後はイッセー兄さんに鍛え直して貰うから別に良いかな?」

 

 

 一夏や箒達と共に同じ道を歩く。

 それが凰鈴音の気持ちなのだから。

 

 

 

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒにとって千冬の保護者らしい男は当初かなり気に入らなかった。

 

 千冬がある理由があってドイツの――しかもラウラが所属する部隊で教官をした事で、それまで劣等生だったラウラがその才を覚醒させる事ができたという意味では、当初のラウラは千冬だけを尊敬していた。

 

 だがそんな千冬は言うのだ。

 

 

『今の私ではあの人に触る事すら出来ずに殺されるだろう。

……まあ、あの人はそんな事はしないけど』

 

 

 少し寂しげに語る千冬の言葉が信じられなかった。

 世界最強と呼ばれた織斑千冬が、あのブリュンヒルデがハッキリと自分は勝てないと言い切る相手があんな――千冬の弟や友人達……それからどこかで見た気がする女性とドイツ観光ばっかりしてるだけの男だなんてラウラは思えなかったし、否定したかった。

 

 だからラウラは敵愾心を彼に――常に腑抜けた顔の青年ことイッセーに剥き出しにした。

 

 教官が何を言おうが、お前なんぞ認めてやるものかと云わんばかりの態度を常に示してきた。

 しかしイッセーはそんなラウラを全く相手にしていなかった。

 いや………興味の無い石ころでも見ているような対応だったというべきか。

 

 それが余計にラウラの激情を刺激し、遂には発足されたばかりの部隊のレクリエーションというお題目でイッセーに戦いを挑んだ。

 

 その時もイッセーは『眠いからパス』と煙に巻こうとしたけど、ラウラは無理矢理にでも向かい合わせた。

 

 同部隊の者達が心配そうな眼差しでイッセーを見ている中、逆に千冬達はといえばラウラの方を見てやれやれと苦笑いまでしている。

 まるで自分なんかでは話にならないとばかりの――

 

 叩き潰す!! ラウラは千冬の開始の合図と同時に訓練用の機体を使ってヌボーっと突っ立ってるイッセーに特攻した。

 流石に生身相手にISで叩き潰したら死んじゃうので、ギリギリ攻撃を掠めて脅すつもりだったのだが、現実はラウラ……そして彼女の仲間達をあり得ぬ光景へと導いた。

 

 

『気は済んだか?』

 

 

 本当に掠める程度に済ませる為に振るった訓練用の機体の基礎武装であるブレードにわざと首を差し出す様に傾けたイッセーの首にその刃が入ってしまったのだ。

 

 けれどその首は撥ね飛ばされる事は無く、逆に武装のブレードが中程からへし折れてしまった。

 

 

『そ、そんな馬鹿な……』

 

『ところがどっこい、これが現実です。

生憎なお嬢ちゃん……これで死ねたら苦労しない程度には人間越えちゃったまんまなんだよ――俺は』

 

 

 

 宙を舞った折れた刃がラウラの足元に金属音と共に転がり、ラウラ自身も仲間達も言葉を失う中、自嘲する様に一瞬笑いながら喋ったイッセーは―――

 

 

『けど、売られた喧嘩はとりあえず買うわ。

コカビエルのおっさんなら買うだろうしな……』

 

 

 直後に獰猛な笑みを浮かべ、ブラウン色だった筈のその瞳を赤く、猛禽類の様に輝かせるとゆっくりと開いていた左手に拳を作ると……。

 

 

『あぎゃん!?』

 

 

 ゴチンとラウラの頭に振り下ろした。

 鋭い激痛と衝撃がラウラの脳天を襲い、そのままラウラは勢いよく顔面から地面に叩きつけられると……そのままピクピクと痙攣しながら立ち上がる事も出来ずに意識を失った。

 

 これがラウラの知った最初のイッセー。

 

 

 誇張でもなんでもなく、千冬が語っていた、ISを真正面から生身で叩き潰せる人外領域。

 

 眉唾は話だと思い込んでいたラウラや仲間達に刻まれた―――『強者の領域』。

 

 仲間の一人が、ナチュラルSである彼にドハマリしてしまったり、千冬に頼まれて嫌々ながら教えてくれた『生身で生き残る術』によって到達したり。

 

 刺激された事によってラウラに仕込まれたものが暴走してしまい、それを生身で制圧し、助けてまでくれたイッセーの中身を知ってしまったり……。

 

 強くならなければ生きることさえ出来なかったその過去を知ってしまった時、ラウラは抱いたのだ。

 

 追い付くだけでは意味が無いという事を。

 

 

 

『クラリッサから色々と聞いた結果、どうやら私はお前に恋をしてしまったらしい』

 

『あっそー…………………………………………………………………………………………………………あ゛っ?』

 

『『!?』』

 

『あら……』

 

『イッセー兄の顔が面白い事になってるわ』

 

『こ、これが所謂修羅場という奴なのか? 姉さんと千冬さんの顔がえらいことに……!』

 

 

 

 強がりで、かつての仲間や恋人が居なければ脆くなるだけの心を千冬達にすら『大人』だからと覆い隠そうとするイッセーが弱音を少しでも吐ける相手が一人くらい居ても良い。

 

 

『けどお前が誰を今でも愛してるのかは知ってる。

正直、私程度では勝てる気だってしない。

お前はきっと私の言った事を迷惑に思うってことも理解してる。

でもな、独りで寂しそうにこっそりと鍛練をしてる姿を見ていると、ほんの少しでも良いからその寂しい気持ちを和らげてあげたい……そんな事を最近思うんだ。

そう! クラリッサ曰く、お前を嫁にしたいという気持ちがな!』

 

『……………………あの小娘はどこだ? 捻り潰して――』

 

『こ、ここに居ますよイッセー教官! ど、どう捻り潰すのですか!? 蹴るのですか!? 人間ロケットの刑ですか!? 関節バキバキの刑でしょうか!? どれでも私は構いません!!』

 

『…………………………』

 

 

 そんな想いを……。

 

 

 

 

 

 あまりにも何も無さすぎた。

 

 クラス対抗戦も、無人機が侵入して騒ぎになって中止になることなく普通に終わるし、その後転校してきたシャルロットとラウラ――特にラウラの性格が最初から柔らかく、一夏に敵愾心を示さず、寧ろ馴染み深そうに挨拶までしていたし、その後行われたタッグトーナメントもラウラが暴走するでもなく普通に行われて終わったしと、あまりにも何も無さすぎる日々に転生者も流石に一夏を疑い始めていた。

 

 しかし疑った所で、一夏と自分はただのクラスメートという関係のままだったし、一人の時に話しかけようとしても、一夏には常に箒やら鈴音やらラウラが居るせいで話しかけられもしない。

 

 シャルロットの件に関しては自身の知識通りだったので何とかして、生徒会の人達と仲良くなって貰えたので良いのだが、とにもかくにもあまりにもこれまでが平和過ぎた。

 

 一応幼い頃からの仲となる生徒会の者達にも協力して貰いたいのだが、困った事に彼女達はあまり一夏に興味もないし、あまり調べる価値が無いと思ってしまっているらしい。

 

 でしゃばられたら面倒だと思っていたが、こうまでおとなしくされるとそれはそれで違和感を感じるらしい男は今日も普通に楽しげに教室を出ていく一夏を視線で追うだけしか出来ないのだった。

 

 

 

 さて、今日もひっそりと学生をやってきた一夏達は、無論徹底的に目撃されないように気をつけながら、すっかり秘密基地みたいになってしまった用務員室に―――

 

 

「……? イチ兄が誰かと話してる?」

 

 

 扉の前まで来て中に居るらしいイッセーが誰かと話してるような声が聞こえたので、その場で止まり、耳をすませる。

 

 

「気配からして束姉さんではないみたいだが」

 

「聞こえ辛いが、聞いたことの無い女の声だ……」

 

「この場所を知るものは学園長以外では私達だけですし、学園長なのでは?」

 

「いえ、学園長の声とも違うわ……」

 

「では私達の知らない誰かとなる訳か……。むむ、ちょっと処ではなく気になるんだが……」

 

 

 全員して仲良くドアに耳を当てながら、部屋の中の声を盗み聞きする姿は、見られてないもののかなりシュールだし、さっきから鈴やら箒の胸が低い位置で聞き耳を立ててる一夏に当たりまくっているのだけど、今更そんな事を気にする関係ではないのか、平気な顔だったり、ラウラはちょっとモヤモヤした表情だ。

 

 もっとも、ラウラもまたイッセーが誰を愛し続けているかも、一切それがブレてないのも知っているので、変な誤解は皆無なのだが……。

 

 

『おい、来てんのは分かってるんだ。んな所で盗み聞きしてないで入ってこい』

 

 

 結局気配を察知されててバレバレだったらしく、イッセーに中から呼ばれた一夏達は誤魔化す様にヘラヘラ笑いながら扉を開けると、そこに居たのは一夏達の予想通り――本当に知らない女子生徒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーが用務員としてこの学園で働き始めてから経った時間は実は結構長い。

 その間彼は徹底的に在籍している生徒や教師に姿を見られる事無く仕事をこなし続けており、今のところ表向きの学園長や真の学園長……それから千冬等といった者達以外にバレた事は無かった。

 

 だからつまるところ、イッセーはミスを犯してしまったのだ。

 彼等以外に素で見られてしまったという意味で。

 

 

「しきりにアイツが姉達に織斑君達について言ってるみたいで……」

 

「何を?」

 

「……怪しいとかなんとかって。

私もあんまり近づきたくはないから深くは聞けなかったけど」

 

「…………なるほどね」

 

 

 しかしながら同時に運が良かったのかもしれないとイッセーは思った。

 何故ならバレた相手は例の輩と深い所に居る者達の身内だったのだ。

 

 それを知った当初は別に利用する気も無く、適当に脳ミソでもシェイクさせて記憶を吹っ飛ばしてやろうかと考えていたのだが、どうやらこの身内の少女は例の輩やそれと親しい者達とは相当に距離を置きたがっている様だったのだ。

 

 まあ、それでも当初はどうでも良かったし、特にソイツ等に喋らなければ放置してやるつもりだったのだけど、思っていた以上に自分の家から抜け出したいという気持ちが強いというか、自立したい気持ちがあったのか、イッセーの用務員としてのスキルを覚えたいと言い出したのだ。

 

 それも最初は断るつもりだったし、何ならやっぱり脳ミソでもシェイクして記憶を消し飛ばしてやろうかと考えていたのだけど、あまりにも頼み込んでくるのもあったのと、少女の手先が思いの外器用で教えたらすぐに物に出来てしまえてたので、ついつい教えてしまい、気づけばこんな感じになった。

 

 少女の声がどうも過去に粉々にしてやったとある龍に似ていてやりづらかったけど、言われた事は律儀に守ろうとするその性格はちょっと好ましかったので、時間が合えばこうして情報交換をする様になっていった。

 

 

「昔から私と姉の関係に口出ししてきて、和解するように仕向けてくるのが気に入らないから、どうしても好きになれなくて……」

 

「くだらない善意って奴の押し売りでもして、好かれたいんだろうよキミに」

 

「そうだとしたら本当にやめて欲しい。

だってこの前、本音とか虚さんとか姉とかと……」

 

「あー、やめろ。俺もその先はマジで聞きたくねぇ」

 

 

 少女が嫌そうに言おうとした事を遮るように阻止したイッセーは、気分が悪そうに水を飲む。

 

 

「別に誰と何人と何をしてようがどうでも良いし何とも思わないんだが、どうもね。

てか、キミにもそうなって欲しいんじゃないの? 知らねーけど」

 

「……………………」

 

「いや、知らねーけどな? そんな顔すんなよ……」

 

「私も別に姉とかと何をしてようがどうでも良いけど、巻き込まれるのだけは勘弁して欲しいって思ったから……」

 

「そりゃそうだわな……」

 

「それより先生は、織斑先生や織斑君達とは前からの知り合いなんだよね? それってつまり……皆も先生と同じものを持ってるの? 心の力的な奴」

 

「まあ、一応な」

 

「……そっか。織斑君達が羨ましいな」

 

 

 別に先生じゃないのに先生と呼んでくる少女の心底羨む様な眼差しに、イッセーは目を逸らした。

 つまりこの少女は欲しているのだ……恐らく自分で生きていけるだけの心を。

 

 それはかつて千冬達に直接教えたものと同じものを……。

 

 

「私に才能が無いのは私が一番よく知ってる。

うん、きっと寧ろ姉の方が切欠さえあれば先生達みたいになれるのかもしれない。

だからかな……才能が無いって言われて諦められたあの時と違って羨ましいって思えちゃうのは。

だってわかるもん……。

先生って口では知らないだの俺には関係無いだなんて他人事を装ってるけど、織斑君達に何かあったら何がなんでも手を差し伸べてるって……」

 

「どうかな。単純に引っ掻き回してるだけかもしれないぜ?」

 

「そうかもしれない。

でも織斑君達は先生が本当に大好きだってのがよくわかる。

それは先生がずっと何を言うでもなく守ってきたからだと思うよ?」

 

「……………子供に言われてもな」

 

「あはは、それもそうだね。

でもこれは私も同じだよ? だって先生、顔こそ嫌々のそれだったけど、今まで私に教えてくれることに手を抜いた事なんて無いもん。

なんていうか―――ツンデレさん?」

 

「史上最低に需要もクソも無いなそれは」

 

「あるよ、少なくとも織斑君達や……私とか」

 

 

 そう言って微笑む少女に、自分はこんな子供と何を喋ってるのやら……と目を逸らしながら、扉の向こうに一夏達が居ることに気づく。

 そう、確かにこの少女には少女の実家が望んでいそうな才能は無い。

 

 無いからこそ少女は自分自身で道を切り開ける力を求めている。

 かつての自分やリアスの様に。

 

 

 だからなのだろう、イッセーはこの少女を放ってはおけなかった。

 きっと実家で例の輩ばかりを賛美する肉親達を見て孤独になっていく少女が。

 

 かつてリアスがその結果、自由すらも奪われてしまった様に。

 

 

「……。キミの実家って金持ちなんだよな?」

 

「うーん、多分平均以上ではあるかな」

 

「それはつまり……なんだ、許嫁とか勝手に決められる感じか?」

 

「そんな話は聞いたことは無いけど、多分その内あるかもしれない。

あの姉は決まってるっぽいから無いだろうし、そうなると自動的に余り物というか、居ても居なくても関係無いだろう私が使われるかも……」

 

「……………。大丈夫なのか?」

 

 

 無意識に少女を気にかけるイッセーの言葉に、少女は嬉しく想いながらも頷く。

 

 

「先生から教えられた技術があれば、卒業と同時に実家を出ていけるから大丈夫。

雲隠れした私を一々探してくれる訳でもないだろうし……」

 

「………」

 

「えっと、ひょっとして心配してくれてるの?」

 

「まぁな……仮にも知らない相手じゃないし」

 

 

 地味にリアスの境遇に近そうな気がしてならなく、思わず心配してしまっているイッセーが素直に頷くので、少女は暫しイッセーを見つめ――やがてクスクスと笑う。

 

 

「……なんだよ?」

 

「ふふっ……! ごめんなさい。ただ……やっぱり確信したよ先生。

何で先生の事を織斑君達が大好きなのかがよく……。

なんだろうね? ボーデヴィッヒさんの気持ちが凄くわかったかも」

 

「はぁ?」

 

 

 クスクスと笑い続ける少女の言ってる意味が解らずに首を傾げるイッセー。

 

 

「それより外で待ってる織斑君達を中に入れてあげた方が良いよ先生。

私もそろそろ出ていくしね……?」

 

「あ? あぁ………おい、来てんのは分かってるんだ。んな所で盗み聞きしてないで入ってこい』

 

 

 自分なんかより強いのもわかる。

 才能のある姉が――いや、才能の在る無しなんておしなべて平等に同じになってしまう程の人智の外に君臨しているのもよく解る。

 

 しかし何故だか知らないけど、年上なのにどこか子供っぽい先生と呼ぶ青年に少女は常々こっそりと見ていたラウラの気持ちが何となくわかった気がした事に気付きながら、訝しげな顔で此方を見る一夏達に挨拶をするのだった。

 

 

「会うのは初めてだね。

私は更識簪……お察しの通り、あの生徒会長の妹なんだけど――――ああ、大丈夫、そんな怖い顔しないで良い。

苗字こそ同じだし、確かに姉妹だけど、私は彼女達とは殆ど関わりが無いの。

……気付いたら蚊帳の外に出されたというべきなのか……今思えばそれで良かったなんて思ってる程度にはイッセー先生に色々と教えて貰った関係だよ?」

 

 

 誰も知らない領域を知った普通の少女……更識簪が。

 

 

 

終了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスと共に逃れられた世界では、姉の方がそうだった。

 しかし反転しているこの世界ではそうではなかったのと、更識簪の自立したいという渇望の強さがそうなった。

 

 

「今更私には何もできないよ。

確かに私は姉さんに酷いことを言ってしまったかもしれないから、それは謝る。

でも、本当の意味で仲直りはできない」

 

「なんでだ……! 刀奈だって簪と仲良りしたいって……」

 

「姉さんは暗部の当主になる人。

私はその支えにもなれない半端者。

私の才能が無いのがいけなかったの。

でもアナタや本音達が居る限り姉さんは大丈夫でしょう?」

 

 

 無理矢理埋め込まれた様に感じる才能を持つ男にきっぱりとそう言う簪は確かに姉達との確執に関して吹っ切ったものがあった。

 

 彼女が求めるものは、ただの自由。

 

 どうであれその自由への道の機会を与えてくれた姉に感謝の気持ちが確かにある。

 

 しかしだからこそ和解はできない。

 

 そうでなければ姉の覚悟を踏みにじるだけだから。

 

 そして何より、この目の前の男の言葉とは裏腹に感じる目が何よりも簪は気にくわなかった。

 

 姉も、友達も、その姉もそんな男に惹かれたのだとしたら、自分とは最早永遠に価値観は合わない。

 だからこそ離れるべきなのだと簪は覚悟を決めたのだ。

 

 

「お、織斑ァ!! お、お前がっ! お前が簪に何かを吹き込んだんだろう!?」

 

「な、何だよ藪から棒に!? そ、そりゃ確かに簪とは最近共通する趣味があったって知ってからは仲良くなったけど、だからってキミに胸ぐら掴まれる様な事なんてしてないぜ!」

 

「黙れ! そうとしか考えられないんだよ!! せっかく俺が刀奈との仲を修復させようと何年もやってきたのに! それをお前が――」

 

「おい、いい加減にしろ。

さっきから黙って聞いていれば、全てお前の想像だろう?」

 

「そういうのを言い掛かりって言うのよ。

さっさとその手を離しなさい。大好きな友達がそんな目に合わされてるのを見せられて黙ってられる程、私達な大人じゃないのよ?」

 

 

 その覚悟が男を取り乱させたけど、一夏関連だとスイッチが切り替わる少女達に阻まれる。

 

 

「随分と大胆に言ってくれたな……」

 

「えっと、ダメだった……?」

 

「何を言おうがキミの自由だから構いやしないけど……はぁ、一夏がなぜか恨まれる羽目になってしまったからな」

 

「ご、ごめんなさい。まさか織斑君にあんな真似をするとは思わなくてというか……意味不明な程織斑君のせいにするなんて……」

 

「理由なんて結局何でも良かったんだろうよ……奴にとってはな。

まあ良い、一夏達だって奴の言い掛かりにされるがままになる程ひ弱じゃない。

問題はキミの姉達も面倒な事になってるって事だ」

 

「…………」

 

「そんな顔するな。

乗り掛かってしまった船から降りる気は無いぜ」

 

 

 余計な事をし過ぎてしまったのかと肩を落とす簪の背中を軽く叩きながら、元気付けようとするイッセー

 それは奇しくも、リアスと共に生きた世界で刀奈にした事と同じだった。

 

 

「む……教官や博士の懸念した通りになってしまったか。

しかしまあ良い……イッセーは一筋縄ではいかないが、その覚悟はあるのか?」

 

「……あるよ。

うん、先生が誰でもない誰かの事を考えてる事なんてとっくに知ってるもん」

 

 

 同じく、姉が惹かれた様に……。

 

 

終わり




補足

ドラゴン波と同等であるこのシリーズの一誠と必殺技である龍拳をなんと鈴ちゃまは、時間こそかかるものの放てるらしい。

その2
ラウラたそー

そう、それはまるでお母さんの様な包容力を持っているらしい。

何をされても彼女は受け止めてくれる……。


その4
反転世界だからこうなった。

地味に境遇がリアスさんに近いせいなのもあってか、結構どころじゃなく親身になってしまっている。

結果、ラウラたそーとコンビ組んで子供オカン同盟が―――知らんけど。

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