とか言いつつ投稿だけは無駄にしとく
精々頑張って…………?
何かがほんのひとつだけ違えば、拗れる事もなかったのかもしれない。
その出会いがほんの少しだけ違えば、何も起こらなかったのかもしれない。
これはそんな感じの『精々頑張ってくださいな』――である。
かの青年は確かにその一瞬だけ到達したのかもしれない。
世界を越える力。
勝つための力。
全てを壊す力を……。
その代償が愛する者達との永遠の別れとなったあの時、青年は確かにその瞬間だけは最強だった。
共に逝く事のできぬ絶望の代償を払う事で青年はその誇りを取り戻せた。
けれど、失ったものもまた余りにも大きすぎた。
ただ独りとなった青年がその後どうなったのかさえ誰も知らない。
世界という概念そのものを壊して勝利した青年死んでいるのか生きているのかさえ、誰にもわからない……。
小さな少女から大人の女性へと成長していき、やがて一度は世界の頂点へと到達した者はブリュンヒルデ等と呼ばれた。
けれど彼女にしてみれば、その呼び名はまさに名前負けしていると自嘲する。
何故なら彼女は知っているのだ――本当の最強を。
今尚成長し続ける龍の帝王を。
『まるでSF映画だな……。それに腹が減って動けないときたか……。
ハァ……見ず知らずの餓鬼共に構ってる暇も気力も無いというのに……』
そんな龍の帝王となる青年と出会い、拾われる形で面倒を見てもらった自分と弟は恐らく世界で一番の幸運だと思う。
『良いか、バイト出来る年齢に達してない場合は、死ぬ気で空き瓶と空き缶をかき集めろ。
上手く行けば、その日のパン代くらいにはなる。集められなかったら適当な地面を掘り起こして虫の幼虫でも焼いて食え』
心の軸を失ってしまって腑抜けてしまったけど、それでも子供だった自分達の面倒だけは見てくれた。
親の愛情を知ることが不可能な自分達に、彼は彼なりの愛情を与えてくれた。
『覚えておけ、世間は同情こそするかもしれないけど、助けてなんてくれない。
……まあ、なめ腐った大人を知ってるお前には言うまでも無い事だろうがな。
だから、この先も生きたければ死に物狂いで生きられる力を持て。
そうすれば、俺みたいに夕飯にステーキだって食える』
何よりも、生きる為に必要な
それはたとえ血の繋がりが無くても――いや、そんな繋がり等を消し飛ばす程の深い繋がりとなっていく。
『…………チッ、わかったよ!! お子さまランチくらいなら食わせてやらぁ! ったく、捨て犬みたいな目で見やがって……。
そこの赤ん坊――お前の弟はまだ食えないだろうから離乳食を――あーめんどくせー、今の時間やってる薬局ってどこだよ……』
誇りを取り戻す為に人でありながら、人でなしとなった青年の背中を見て、追いかけながら育った者の一人として――大人の女へとなった織斑千冬は、今日も青年の歩く道を追いかけるのだ。
………最近は、そんな青年に惹かれる女性がチラホラ増えたので、そっちの意味での警戒は無論怠る事無く。
もっとも、今も昔も彼が愛するのはただ一人なので、モヤモヤさせられる人数が増えただけなのだけど。
IS学園の用務室は、実は密かに働いている用務員専用の部屋である。
その部屋には赤髪の非常勤保険医の女性や、用務員の彼を知った者達が集まる秘密の場所――だったのかもしれないけど、この物語にその赤髪の悪魔は居ない。
何故なら彼女は居ないのだから。
居るのは用務員の彼独りなのだから……。
「ほぼ出来レースの気配しかしませんが、一夏がISを起動させてしまいましたので、今年度よりこの学園に入学しないとなりません」
「ニュースで散々見たよ。
なんでも一般高校の入試先に行ったら、ISが置いてあって、何となく触れたら起動できた――だっけ?」
「私は十中八九は束が仕込んだと思ってますが……」
そんな用務員室に訪れる者はほぼ居ない。
一般生徒や教師がこの用務員の存在を知らないからというのもあるし、この場所は本校舎から大きく離れた場所にある部屋なので、理由がなければこの周辺に来る事が無いのだ。
だからここに訪れるのは彼と部屋の存在を知る極一部の者であり、IS学園の教師である織斑千冬はその極一部なのだ。
「私としては、一夏に何かあれば直ぐに動ける場所に居てくれるという意味では好都合ではありますがね」
「そういう意味もあって、あの子もそうしたんだろうぜ。
他にも理由はあんだろうけどな」
「ええ、それで相談なのですが……」
「一夏が入学したらここを教えても良いかって言いたいのか? 別に良いぞ。ただし、ベラベラと他の者達に教えないのを条件にするけど」
「わかっています、私としても騒ぎになるのは避けたい」
作業着を着た深めの茶髪の――年齢は10代後半から二十代前半と思われる青年に千冬は安心した様に頬を緩める。
目の前の青年には今敬語で話してはいるが、実際彼との付き合いは弟の一夏共々かなり長い。
……いや、言ってしまえば彼こそが自分達の義理の父親に当たる人物なのだ。
とっくに三十路を迎えているというのに、出会った当時と全く変わらない若々しい容姿であるその理由も千冬は知っているし、その中身も深い意味で知っている。
本当の織斑千冬として、甘える事が出来る唯一の大人――それが彼なのだ。
「でもひとつだけ引っ掛かる事があって……」
「………?」
そんな彼にだけは打ち明けられると信用する千冬が、先程までの畏まった口調から、幾分砕けたものへと変わるのを青年はすぐに理解する。
どうやらそこそこ厄介そうな話をされそうだ……という意味で。
「一夏に適正があると報道されてからは、他にも男の人で起動出来る者が居ないかって調べたりしていたらしくて……」
随分と普段の千冬らしからぬ――言ってしまえばそこそこ女性らしい口調で話しているのを、青年は当たり前の様に聞き、彼女が言いたいことを読んでいるかの如く口を開く。
「………………。居たのか? 一夏の他に」
「………」
少しだけ低くなる青年の声に、千冬はうなずく。
IS……という、簡単に言えばパワードスーツの様なものであり、今現在はそのパワードスーツが世界のパワーバランスを支配している様なものである。
だが誰にでも扱えるという訳ではなく、何よりもこのISは男性には起動すらさせられないという特色があるのだ。
だから男でありながらISを起動したという事実は世界的にも驚く事であるし、その者の価値は一気に高まるのだ。
つまり、一夏は世界的にも希少価値のある存在という事になり、そんな一夏に続いて男で起動させられたとするなら、それはある意味で一夏よりも不可解な存在なのである。
「あの子はなんて?」
「いっくんとは違って完璧なイレギュラーって言ってた。
そして恐らくは
「…………チッ、暫く出て無いと思ってたのに、どこからともなくウジ虫みたいに沸きやがる」
苦々しげな顔で悪態をつく青年の心境を察しながら千冬は彼に貰った飲み物に口をつける。
数年前にも出会した不可思議な人間。
異質な力を持つ――青年曰く外の世界から転生した人間。
青年はそんな者の一人に人生を滅茶苦茶にされ、復讐を果たした者であり、言ってしまえば彼もまた外の世界の人間だった。
そういう意味では俺も奴等と同じ穴の狢――そう皮肉気に青年は言うけど、別に自分の力を振りかざして誰にしたいのかわからないアピールをするでも無いし、気に入らない者を貶めたりもしない。
一夏が数年前にその手の者に虐めに近い仕打ちを受けた時、この青年はスイッチが切り替わったかの様にその者を徹底的に叩きのめし、この世から消した――ぐらいしかしていない。
千冬の時も、千冬の友人である束の時も、束の妹の箒の時も同じように、そういった手合いの人間を確実に消す――それが青年の今の生き方なのだ。
「身元はわかってるのか?」
「束にも調べて貰ったから一応。
私としては、一夏達に何もしないのなら放っておきたいし、あまり関わりたくはないけど……」
「そうなればな……。
ただ、もしお前らに余計な真似をするなんなら、確実に明日の朝日は拝めなくしてやるから安心しろ」
自分のような人生だけは送らせたくない。
かつての自分や、愛した悪魔の少女と同じように、どういう訳かその外の連中から嫌われやすい少年や少女達を出来る限り守ろうとする青年の言葉に躊躇いの感情さまるでない。
千冬はそんな青年の頼もしさに嬉しくも思うが、同時に物悲しくも感じる。
守る対象ではなくて、一緒に抗う者としては見てくれない……かつての青年のかけがえのない仲間達と同じようには見てくれない青年に。
「俺とリアスちゃんが昔そうだったように、どうにもあのクソ共はお前達がお気に召さないみたいだからな。
………だったらあの世に行って貰った方が奴等にとっても都合が良い筈だろう? 心配するな……お前達にはなにもさせないぜ」
「……………」
パキパキと指の関節を鳴らしながら不敵に笑う青年に、千冬はドキリとする。
大人になるにつれて惹かれていく彼の在り方やその表情のひとつだけど、彼が口にしたリアスという女性を想う時の優しげな表情が千冬は複雑だけど一番好きだった。
「最初の方はその人の事でかなり荒れてたけど、今でもその人の事は忘れられないんだね……」
「そりゃあ死ぬまで忘れる事はできないよ。
俺にとってあの子は――いやまあ年上だったけど、あの子はすべてだったからね」
「……………」
誰に好意を向けられても彼はハッキリと断る。
それはある意味安心する事なのだけど、同時に最大の壁でもある。
少なくとも、千冬にとってリアスという女性は会った事はないし、会う事も出来ないけど、己の人生に立ちはだかる最強の壁なのだから。
「あれからもう10年以上経つのか……。
はは、何時になったらリアスちゃんの所に逝けるのやらな……」
生き延びてしまった青年の儚げな表情に複雑ながら惹かれていく千冬なのだ。
終了
結局の所、かつての自分とリアスの様にそういった手合いに嫌われやすい一夏と箒が学んだ事は、徹底的にそういった者とは関わらないという事であった。
「挨拶はそこそこに済ませたから大丈夫だとは思いたいんだけど……」
「不安しか無いぞ。
女子受けが異常に良いしな」
キャーキャー言われてる二番目の起動者の視界になるべく入らない様に、教室の隅でひっそりと過ごす織斑一夏と篠ノ之箒は、その二番目の起動者がこの後イギリスだかどこかの国の代表候補生と一悶着発生させてるのを見て、その不安をどうしても拭えない気分にさせられる。
勿論それは担任である千冬も同じであり、その二番目の起動者には専用機を受理させ、一夏には与えないという方向で注目の矛先をその男に押し付ける作戦を展開させていた。
「ふぅ、千冬姉のお陰で俺の影も早くも薄くなれたぜ」
「ああ、あの男がその話になった時に一夏には無いのかと言い出した時は少し焦ったが、千冬さんがそれらしいことを言って煙に巻いてくれた」
ある意味で厄介な事を押し付けられる存在という意味では実に便利な男だと箒は姉の束に似て冷徹な事を言っている。
この姉妹は自分の認めた者以外が死のうがどうでも良いと真面目な顔で言い切れるタイプらしく、その気質は姉妹達に生きる為の術を叩き込んだ青年にもあるものだった。
だからなのか、一歩間違えれば同属嫌悪になりえたものの、馬は合っている。
お伽噺のような世界に生まれ、全てを奪われ、復讐の為に生きる過程で出会った女性や同志達の為に世界を敵に回した彼の生き方を尊敬すらしている。
だから大人への階段を一歩ずつ歩む少年と少女達は最後の龍の帝王となる彼の背中を追い続けるのだ。
「それで何時もの通りこっそり遊びに来た訳だけど……」
「当然の様に姉さんが居るな……」
もしもリアスと共に存命していたらの世界でもそうだったように、彼等はあの用務員室に入学してからずっと入り浸る。
その場所には一夏の姉である千冬も居るし、世間的には指名手配宜しくに追われている筈の箒の姉である束も居る。
「や! いっくんと箒ちゃん!」
「ども」
「何故ここに――とは今更だし予想はついてますので聞きませんよ」
「何か飲むか?」
仕事の道具の整備をチマチマとしている青年の傍に座っていた束と千冬が、弟と妹の来訪をまるで自宅のリビングから出迎えるかの如く軽い調子で迎え入れる。
ブリュンヒルデと呼ばれ、教師モードの際はとても厳しい態度である千冬も、ISの生みの親である天才の束も世間で抱かれているイメージとは違い、随分と柔らかい様子なのは、ここに居る者達にとっては当たり前なので誰も驚かない。
「例の奴に何かされたとかは無い? 大丈夫?」
「今のところは」
「あまり関わらない様に且、怪しまれない程度に距離を置いてますから」
「そっかそっか。
さっきちーちゃんにも同じことを聞いたんだけど、やっぱり直接聞かないと安心できなくてさー?」
共通の大敵という分かりやすい存在のおかげなのか、箒と束の仲は概ね良好だったりする様だ。
「それで、ちーちゃんとこの知らん顔して仕事道具のメンテしてるいーちゃんとも話してたんだけど、例の奴はアレなんでしょう? もう専用機を持ってるって言ってたんだよね? なんでも自作したとか」
「本人はそう言ってましたね」
「どこまで本当かわかりませんけどね。『ある人達の手伝いもあったけど』とも言ってました」
「なるほどね。
一応、そのある人達も含めて調べてはみたよ。その人達とやらからもとても優秀と思われてて、信頼もされてるみたいだ。
でもさ、正直自作云々の話もどうでも良いんだよね。
所詮ISなんて私達の目的の副産物でしかないし」
世界中の人間が聞いたら驚愕しそうな事をニコニコとしながら話す束の視線が、仕事道具のメンテナンスを終えて一息吐いている青年に向けられ、千冬や一夏や箒も続く様に青年へと視線が向けられる。
「どうするんだよ? 消すんだったら今夜にでも跡形も無く消してやるぞ?」
「誰もいーちゃんを便利な始末屋なんて思ってないし、あの時と違って束さん達だって対抗くらいは出来るよ」
対転生者特攻300%はありそうな青年の、コンビニにでも行くような感覚の言い方に束も苦笑いだ。
この言動も自分達の為を思って言ってくれていると想うと確かに嬉しいが、何時までも守る対象としてしか見られていないと同義だし、実際自分達の知識や力量ではこの人から人でなしとなった人外には到底及ばないし、まだその領域に達していない。
「わざわざ連中にいーちゃんの事を教えたくはないしね」
「…………」
だからこそ追い付きたい。
限界突破と進化の体現者である彼にもっと近づきたい。
それが彼女達だけが共有する目標なのだ。
その為には一々未来とやらの知識があるらしい転生者なる存在に手こずってる場合ではない。
どういう訳かこれまで出会した転生者共は自分達を大分嫌っていたようだが、別にそれならそれで構わない。
こちらとしては連中を良い実戦相手にしてより高みへと到達するだけなのだから。
「ところで、姉さんは今日はこれからどうするのですか?」
「んー、多分このままここに泊まるかな。
別に良いでしょいーちゃん?」
「ああ」
「………ナチュラルに出し抜くんじゃない束」
「出し抜くだなんで嫌な言い方だなぁちーちゃん? いーちゃんが良いって言うんだから仕方ないじゃない? ね、いーちゃん?」
「一々まとわりつくなよ、鬱陶しいから」
「またまたぁ? 本当はピチピチした女の子に密着されて嬉しいんじゃないの~?」
「………………………は?」
「う、何時もながら本当に無反応過ぎる……。リアスって人とそんな変わらない体型になった筈なのに」
「嘗めんなよ小娘? リアスちゃんはもっとやわっこいし、何より――」
「わ、わかったよぅ! それ以上ハッキリ言われたらかなり落ち込んじゃうからヤメテ!」
「だから言ったのに……」
「うーん、相変わらずの鉄壁っぷり」
「初めて知った時から本当に変わらないからな。
姉さん達も難儀というかなんというか……」
「冷たいだけならああもならなかったんだろうけど、イチ兄の包容力はスゲーからなぁ」
到達せし最強最後の赤龍帝・兵藤一誠
リーダースキル
『赤き龍の系譜カテゴリ』の気力+4 HP ATK DEF170%UP
または『チームD×Sカテゴリ』の気力+5 HP ATK DEF200%UP
パッシブスキル『生き残った者の宿命』
ターン開始時に自身のATK DEFを230%UP、味方全員の気力+2 ATK DEF100%UP
アクティブスキル『無神臓』
攻撃参加中のメンバーにリアス・グレモリーが居る時のみ発動可能
効果・覚醒する。
補足
リアスというブレーキ役兼スイッチ姫役が居ないので、やることが凄まじく極端となってる。
しかしお人好しさは残ってしまってるので、ツンデレなオッサンになってる模様。
その2
対イレギュラーという意味では束とは馬が合うのと、気質的に篠ノ之姉妹自体がイッセー気質な為、揃ってすくすくと成長したらしい。
反対に織斑姉弟はリアスやサーゼクスさんやミリキャスタイプ――つまりヒロインタイプらしい。
……まあ、ある意味サーゼクスさんはヒロインみたいな感じでしたからね、あそこでは。
その3
あまりにブレなさ過ぎるから、却ってお姉ちゃん達は惹かれたらしい。
つまりお姉ちゃん達にとっての最大の目標がリアスさんだとか……。