色々なIF集   作:超人類DX

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473話の、記憶の消えた執事がママンと……の話の続き。

あんま要らねぇかなぁとは思ったけども、思い出したので……


ちょっとだけ編の続き

 自分が一体誰であるのかがほんの一瞬の間だけ解らなくなる時がある。

 

 まるでねむってしまったかの様な感覚というべきなのであろうか……。

 まるで自分では無い自分に乗っ取られてしまったかのような……。

 

 気のせいであるのか、そうではないのか――それすらもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘によって精神が高揚し、ある一定のラインを越えると、ヴェネラナさんの言う『元の人格の一誠』が甦る

 その時のアイツは、私に対する物怖じのない気安い態度が豹変し、どこまでも冷たくて鋭い殺気を帯びたものへと変わってしまう。

 

 その人格が甦る時は前後の記憶が無くなるのか、私達の事を覚えていないらしく、容赦の無い殺意を放つ。

 

 今回の時もそうであったが、私は以前にも二度ほど元の人格である一誠と向かい合った事があった。

 自らが認めた者以外に決して心を開く事なく、常になにかを貪欲に求めている様な孤高の男。

 

 ヴェネラナさんはそんな人格の一誠もまた根は優しいと言っているが、私は不安だ。

 何時かアイツが元の人格としての全ての能力を取り戻した時、私達は他人になってしまうのではないのかと。

 バカで、スケベで、私を大魔王だ行き遅れ確定女などと失礼な事を言うやつだけど、私や私達にとってのアイツとはそういう奴だと思っているから……。

 

 マザコンで、年上好きで、私や束に物怖じせず普通の者と同じように接してくる。

 だから私達はアイツに対して少々理不尽な事を言ってしまう――要は甘えられる。

 

 それに、学校の花壇から引っこ抜いてきた花を渡してきた時の事はアイツが忘れろと言っても忘れない……。

 

 

 

 

 見事なまでに惨敗してしまった二番目起動者という体になっている一誠はクラス代表の座から落ちた訳だが、元からその気は無かったのでそこは問題にもしちゃいない様子。

 

 紆余曲折で一夏がクラス代表になったことも、一夏本人は心底解せてない様子ではあるものの問題ではない。

 一誠にとって懸念していたのは、負けたら小間使いというやり取りを交わしてしまった相手であるセシリア・オルコットの事である。

 

 一夏から聞くまでまったく知らなかったし、全く覚えていないのだが、どうやら自分はセシリアを結構追い込んでいたらしい。

 そうなのかと本人に聞けば、謝り倒されながら肯定してきたので、セシリアの性格を考えてみればその通りなのだろうとは思う。

 とはいえ敗けは敗けだし、セシリア本人はあれは勢いから出てしまったから別に良いとも言ってくれた。

 

 というか、その話をつい千冬にしたら、急速に不機嫌になってしまい、セシリアと何やら話し込んだお陰で有耶無耶になってしまった。

 戻ってきたセシリアに再び謝り倒された時は、大魔王千冬がまたなんかしたんだなと、逆にセシリアに優しくなれる気持ちになったのは記憶に新しい。

 

 

「千冬姉に何を言われたのかは知らないけど、セシリアの顔が死人みたいなものになっちまったぞ……」

 

「あー……俺のせいだわ。

いやさ、小間使いって普段アンタにやってる感じで良いの? って聞いてみちゃったからなぁ……」

 

「そりゃ確かに一誠は普段から千冬姉の小間使いみたいなもんだけどさ、千冬姉に聞くべきじゃなかったな……」

 

「俺としてはオルコットさんの方が無茶振りとかしないと思ってラッキーって感覚だったんだよなー」

 

 

 一誠を小間使いにできるのは、大魔王千冬くらい。

 何を言われたのかは定かではないが、セシリア・オルコットは骨身に刻まれるかの如くそう認識し、以降、一夏と一誠の一の字コンビに対する態度は急速に軟化していくのであったとか。

 

 

「? てかオルコットさんをファーストネームで呼んでんだな一夏は?」

 

「ああ、セシリアがそうしてくれって……」

 

「………またかお前。

だから箒さんが機嫌悪かったのか」

 

「それがわからないんだよ。なんで箒の機嫌が悪くなったんだろうか……」

 

「………」

 

 

 一夏は相変わらず一夏たらしめることを早速やってしまってる様で……。

 こうしてモテ男の一夏はクラス代表と共に箒とセシリアの間に挟まれて大変そうな学生生活へとシフトしていく事になり、一誠は当然年上にしか興味ないし、そもそもモテモテな訳もない。

 

 例えるのであれば、ギャルゲーの親友枠――まあつまり三枚目役として、一夏を巡る女子の牽制バトルを見ながら、大魔王千冬のお世話をしていくだけの、青春の『せ』の字も無い生活だ。

 

 とはいえ、千冬が直接同行するという条件が付くものの、約束通り週に一度は母であるヴェネラナと会えてはいた。

 

 

「学校はどう? お友だちはできた?」

 

「普通……かな? 一夏以外全員女子だから、あんまり上手くはいかないや」

 

「性癖を一々口に出す以外は、今のところ特に問題は起こしていません。

まあ、私が見てますから」

 

「あら! やっぱり頼りになるわ千冬ちゃんは。

一誠も迷惑は掛けちゃダメよ?」

 

「寧ろ掛けられてるんだけどな……」

 

 

 元の人格ならばまずこんな会話はしないであろう、あまりにも普通な会話。

 元々潜在的な意味でもヴェネラナに対して軽いマザコンが入っていたが、それを決して表には出さなかったのが執事としての一誠であり、今の全てを失っている状態の一誠はその気持ちを十全隠す事なくヴェネラナという、血の繋がりは無い母に向けている状態だ。

 

 

「母さんの方こそ大丈夫なのか?」

 

「私は大丈夫よ。

最近は束ちゃんの助手って形で働いているし」

 

 

 反抗期が無くなってる今の一誠も勿論ヴェネラナにすれば大事だし、リアスやサーゼクスと変わること無い我が子同然の子だ。

 しかしヴェネラナは願っている。

 

 

『この人に少しでも……触れたらっ……! 神であろうが殺してやる……!』

 

『元々俺はとっくにのたれ死んでいた筈だった。

だが、悪魔の癖にどいつもこいつも物好きなものだからここまで生きることが出来た。

だから……コイツ等には必ずその借りを返す。その為にここまで来たんだ……!!』

 

 

 血に染まりながら、傷だらけになりながらも自分や家族達を守ってくれたあの時の一誠を。

 長男であるサーゼクスに勝つ為に積み上げてきた全てのスキルを全て失うと承知の上で、何の躊躇いも葛藤も無く助けてくれた一誠を……。

 

 

『そんなもの、また鍛えれば良い。

今ババァ達に死なれた方が目覚めが悪いし、アンタの自慢の息子(サーゼクス)を目の前でぶちめのしてやるのを見せつけてやりたい――それだけだ』

 

 

 最期まで言い方こそあんまり素直じゃなかったけど、そう言ってくれた一誠を……。

 

 

「私が何時お前に迷惑を掛けた?」

 

「家事スキルが死んでるせいで、部屋がしっちゃかめっちゃかになってたのを片付けてやったのは誰だってんだ。

………だから彼氏の一人もできねぇんだよ。その内処女拗らせる未来しか見えねぇ――ぐぇっ!?」

 

「そうなったらお前が何とかしろよ? そもそも、学園の一般学習に付いていけないお前に付きっきりで面倒見てやってるのは誰だ?」

 

「そ、それとこれとは話が別―――ぐぇぇっ!? ち、千冬様でございますぅ!」

 

 

 

 

 

(学校で一度だけ戻ったみたいだけど、戻ると何時もあの時の直後の記憶で戻るみたいね……)

 

 

 自分の積み重ねた全てを投げ捨ててまで守り、この世界へと逃げ延びる事が出来た代償は一誠の精神と肉体の退行。

 一誠が持っていた才はその人格と精神によって構成されていたものであり、そのどちらも喪っている今は、少し他人より運動神経が良いだけの普通(ノーマル)でしかない。

 無論、ヴェネラナとしては例えこの先一誠が記憶を完全に取り戻しても、永久にそのスキルを失ってしまったとしても接し方を変える気はない。

 

 元々一誠のスキルが異質だから引き取った訳ではないし、それはヴェネラナのみならず、一誠を知る者達全員がそう思っている。

 

 

(セラフォルーちゃんは間違いなく変わらないでしょうしねぇ……)

 

 

 どうであろうと一誠は一誠。

 力を失おうともそれは変わらない。

 

 だが本音を言うなら……。

 

 

(人格が戻っても、千冬ちゃん達を拒絶しないで欲しい……)

 

 

 全てを取り戻しても千冬達に対する気持ちは変わらないで欲しい。

 ヴェネラナの願いはただそれだけだった。

 

 

「こ、この怪力ゴリラ女め……」

 

「そんな言葉を吐けるのはお前だけだ。

一夏すら私にそんな口は聞かんぞ」

 

 

 そんなこんなで、世の中で唯一千冬を怪力ゴリラ女呼ばわり出来るだろう一誠の学生生活のルーティンは大体こんな感じである。

 やはり一般勉学の平均レベルも高いIS学園において、付いていくのがやっとである一誠は基本的に毎日千冬にしごかれてひーひー言っている日々は、セシリア・オルコットの態度が軟化しても変わらない。

 

 

「くっそ、難しすぎるぞIS……」

 

「千冬姉に教えて貰ってるんじゃないのか?」

 

「基本的な事はな……」

 

 

 既に使い込み過ぎて少しくたびれてるISの教本を前に机に突っ伏している一誠は、毎晩千冬の『お優しい』個人レッスンのせいか、普段はあまり弱音を吐くタイプでは無いのに、珍しいまでに弱気だった。

 余計な事を言えば、自分も千冬レッスンに巻き込まれるかもしれないと、一夏はそれなりに気に掛けた言葉を送っておくものの、決して千冬に友達が大変だからと抗議する気は無い。

 

 

「そんなに大変なのか……?」

 

 

 そのあまりの疲れた様子に、既に何も無くとも一夏の近くに居るようになった箒が恐る恐る訊ねてみる。

 

 

「一問間違えると、痛くない加減で頭をペシペシしてきながら、『これは昨日教えただろう? お前の脳はミジンコ以下か? え?』と満面の笑顔で言われたりするからな……」

 

「お、おう……」

 

「千冬姉は反抗しようとする一誠を虐めるのが昔か好きだからなぁ……」

 

「反抗しなければ宜しいのでは……?」

 

「それじゃあ俺が敗けを認めたみたいで嫌だ」

 

 

 どうやら相当なスパルタ教育だったらしいと、箒も軽く同情を覚える。

 同じく近くで聞いていたセシリアが千冬に反抗しなければと言うが、返ってきた言葉は元の人格から根付いていた負けず嫌いの一誠らしいものであった。

 

 

「なあ、よかったら実践訓練は一緒にやらないか? 一誠の場合って、理論で考えるより直接動いて覚える方が早いじゃん?」

 

「そうですわ。

あの時のような凄味がアレばきっと…」

 

「? あの時?」

 

「っ!?」

 

 

 

 そんな一誠のタイプを知っているからこそ、一夏は気分転換と、最近ちょいちょい喧嘩っぽい事をするセシリアと箒に挟まれたくはないからという本音も交えた提案をする。

 意外にもセシリアも箒も同情しているのもあってか、同じように一誠を誘ってくれるし、特にセシリアはあの試合の最後に見た一誠の人が変わったような豹変さが地味に気になっていたのだ。

 

 

「そ、そういえば朝クラスの女子が言ってたのを聞いたんだけど、隣のクラスに転校生が来るらしんだぜ?」

 

 

 尤も、本人は全く覚えてないし、その話をしようとした瞬間、一夏の顔色が変わり、慌てた様子で話題を切り替えてしまったので深く聞くことは出来なかったのだが。

 

 

「転校生? すげー半端な時期だなオイ」

 

「だ、だよな? だからちょっと気になってよ?」

 

「む、なんだ一夏? そんなに気になるのか?」

 

「まあ、まだ入学してすぐなのに転校生だからさ……」

 

「それは、このわたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転校かしら?」

 

 

 上手いこと話題の矛先を逸らせてホッとしたのも束の間、何故か箒の機嫌が悪くなってしまって別の意味でハラハラしなければならなくなってしまった一夏だが、鈍いせいでそういう事には気づいてない様子。

 

 

「お前は代表になったんだぞ? 転校生を気にするよりも月末に行われるクラス対抗戦に集中すべきだろ」

 

「確かにですわね。一夏さんは専用機をお持ちではありますが、まだまだ実戦的な経験が足りませんわ。

ですから同じく専用機を持つ一誠さんやこの私と一緒に訓練をすべきなのですわ!」

 

「む……」

 

 

 何気に除け者にしてくる言い方のセシリアに箒の顔がムッとなる。

 まさに見えない視線の火花が両者の間で飛び交う中、クラスメートの一人が口を開く。

 

 

「でも専用機持ちがいるのって私たちのクラスだけなんでしょう? なら余裕じゃない?」

 

 

 と、結構楽観的に言う女子だったが、その時だった。

 

 

「その情報古いよ!」

 

 

 教室の扉のとこからハツラツとした声がしたので、一夏達は一斉にそちらをみる。

 するとそこには、見慣れない黄色のイヤリングを揺らすツインテールで小柄な少女が立っていた。

 

 

「今日から二組も専用機持ちが代表になったのよ。それで宣戦布告に来たってわけ」

 

 

 そう言う少女は二組らしく、話の内容を読み取ると、どうやら彼女が噂の転校生らしい。

 突然の来訪者にちょっと面を食らう女子達はフンスとちょっと寂しさを感じる胸を張る少女を見ている中、一夏と突っ伏していた一誠はその聞き覚えのある声……そして顔に驚いていた。

 

 

「「ち、ちみっこの鈴!!?」」

 

 

 ちょうど一年くらい前に別れた友人

 背はそれなりに伸びたが、どこがとは言わないが成長の兆しもなさそうな少女。

 

 故に思わず一誠と一夏は声を揃えて少女を呼んだが……。

 

 

「んが!? だ、誰がちみっこよ! 今では中国の代表候補生で二組のクラス代表の凰鈴音! 久しぶりね一誠、一夏!」

 

 

 こける様なリアクションと共に『うがー』と憤慨しつつ、ご丁寧に自己紹介までしてくれた。

 鈴音なる少女のリアクションや二人を名前で呼んでいる辺り、知り合いであるのはすぐにセシリアと箒は理解したが、だからといって飲み込むには彼女達はまだ若いので、どういう事なんだと揃って一夏に詰め寄ろうとしたのだが、一夏も一誠も久しぶりの友人のまさかの再会にテンションが上がってしまっているのか、そんな二人をスルーしながら、鈴音に近づく。

 

 

「何気取ってんだよ? 全然似合わねぇっての」

 

「そうそう、つーかちょっとだけ背が伸びただけで全然変わってねーのな! ほーら」

 

「にゃっ!? な、なにすんのよ一誠!! や、やめなさい!」

 

 

 HA☆HA☆HA☆と、久しぶりに会った姪っ子でも見るような態度でひょいと持ち上げる一誠に、鈴音は恥ずかしいのか、途端に顔を真っ赤にして暴れるも、体格の差であまり通じてない。

 

 

「い、良いから降ろしてっての!」

 

「はいよー……」

 

「ま、まったく、アンタは相変わらずね……!」

 

「んー……なんでか自然とそうしたくなるんだよなぁ、お前見てっと」

 

「アタシは子供かっ!!」

 

 

 ケタケタと笑う一誠に、鈴音は如何にも憤慨してますといった様子だが、付き合いのある者からすれば、そこまで嫌がってはないことは解っていた。

 なので一夏はすぐに見抜いていた。

 

 

「で、お前転校生で代表候補生ってマジ? いつの間にそんな出世コース歩いてたんかよ?」

 

「アタシとしては、一夏と揃ってISを起動したってのに驚いたわよ。

で、代表は一誠と一夏どっち――」

 

 

 そのまま周囲を放置して、一夏と一緒に思い出話に花でも咲きそうになりそうな時だったか……。

 

 

「おい」

 

 

 大魔王が降臨したのは……。

 

 

「いで!?」

 

「いたっ!?」

 

「ぐえっ!?」

 

 

 大魔王千冬の降臨により当然話は中断を余儀なくされ、三人揃って仲良く千冬にどつかれてしまう。

 

 

「ち、千冬さ――いだい!?」 

 

「織斑先生だ。もうとっくにHRの時間だ、クラスに戻れ」

 

 

 大魔王の命令には逆らえないと、鈴音は引き下がる。

 

 

 

「は、はい! 一夏に一誠! 逃げるんじゃないわよ!」

 

 

 そう言ってそそくさと去っていった鈴音。

 その逃げっぷりは相変わらずだなぁと一夏と一誠は互いに苦笑しつつ席に戻ったのだが……。

 

 

「い、一夏、今のは誰だ? ずいぶん親しそうだったな」

 

「一夏さん、あの方とはどういう関係ですの?」

 

 

 今度はセシリアと箒が今聞かないとモヤモヤして授業どころじゃありませんとばかりに一夏に詰め寄ったのだけど……。

 

 

「席につかんかバカ共め」

 

 

 当然大魔王が許す筈もなく、仲良くしばかれるのであった。

 そして……。

 

 

「次、P28を兵藤……答えてみろ」

 

「はぁ!? ま、また俺かよ!? し、しかもこの範囲は今日先生が授業するところじゃ……」

 

「予習や復習は当然しているだろう? それともなんだ? 基礎ができればそれで全てを学んだ気でいるのかお前は? え?」

 

「だ、だってわからない……」

 

「わからない? そうか……わからないかー……? へー? ふーん? 女子にセクハラする余裕のあるお前なら余裕だと思ったのだがなぁ?」

 

「な、なに怒ってんだよ……」

 

 

 妙に機嫌の悪い大魔王は、どれだけ世間で名が通っても変わらず逆らう弟の親友を狙い撃ちするのであったとか。

 

 

「や、やべぇな、千冬姉のスイッチが……」

 

「い、いつにも増して凄いですね……」

 

「思い出した……。確か姉さんもたまにああなってたかも……。

主にアイツが子持ちの人妻に下手くそなナンパをした時とか……」

 

 

 そんな大魔王を他の生徒達は、一誠の尊い犠牲によって矛先が向かってこない事を心底感謝するのであったとか。

 

 

 

 大魔王による狙い撃ちですっかり気落ちしてしまった一誠――かと思いきや、割りとケロッとしていた。

 

 

「あの怪力ゴリラ女め、何時かめっちゃ擽ってヒーヒー言わせてやるぜ」

 

「あれだけやられて、仕返しを考えられるだけやっぱ一誠はすげーわ……」

 

「普通なら折れますわよ」

 

「メンタルがおかしいんだよ一誠は」

 

 

 仕返しを本気で考えながら食堂に移動する一誠を見て、おかしなメンタルだと一夏達は苦笑いする。

 セシリアも箒もそんな一誠を見たせいで、鈴音との関係性を一夏に問いただす気も無くしてしまった様だ。

 

 そしてそのままブツクサ言ってる一誠と共に食堂へと到着すると、そこには鈴音が待ち構えていた。

 

 

「待ってたわよ一誠に一夏!」

 

 

 朝と同じく、堂々と仁王立ちしている鈴音だが、悲しいかな直ぐに退かされた……一誠に。

 

 

「券が買えねぇ」

 

 

 それはもう、慣れた感じに鈴音をひょいと抱える一誠のせいで、他の生徒達からの注目が凄い事になっているが、本人は平気な顔して鈴音を抱えたまんま一夏達と券を買い、出てきた料理を持って席に付く。

 

 

「その抱えるのやめなさいよ! 凄い見られたじゃないの!」

 

「じゃあ退けって言ったら素直に退くのか?」

 

「ど、退くわよ……!」

 

「へ、嘘言え、一回言ったらテコでも動かねぇちみっこなのは俺も一夏と知ってらぁ」

 

「そうそう、ちみっこなのに頑固だからな鈴は」

 

「ぐ、ぐぬぬ……! そ、揃って子供扱いして……!」

 

 

 悔しげに唸りながらも食べてる鈴音。

 

 

「それにしても久し振りだな。確か一年くらいか? 元気にしてたか?」 

 

「見ての通りよ、あんた等こそ、たまには怪我とかしなさいよ?」 

 

「なんじゃそら? てかいつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生なんかなったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。二人してなんでIS動かしてるのよ。テレビでみて飲んでた水吹き出すかと思ったわよ」

 

「あー……一夏はともかく、俺の場合はちと特殊なんだけどね」

 

「特殊? ……まあなんでも良いけど、ヴェネラナさんは元気なの?」

 

「ん、母さんは元気だよ。

来週会う予定だけど、鈴も会うか?」

 

「ホントっ!? 行く行く!」

 

「千冬姉が同行するけどな」

 

「げっ!? そ、そうなの? まあでもそうよね……うん、それでも会いたいから行くわ」

 

 

 とまあ、セシリアと箒が置き去りになる程度に会話が三人で盛り上がっている。

 どうやら鈴音もヴェネラナと知り合いで、しかも慕っているらしい。

 

 その余りの盛り上がり方が面白くない箒とセシリアは、わざとらしく咳払いをして会話に割って入ろうとする。

 

 

「ごほん! 二人とも、そろそろどういう関係か教えてくれてもいいのではないか?」

 

「そうですわ! まさか一夏さんか一誠はこの方と付き合ってますの!?」

 

 

 そう、セシリアと箒は気になっていたのだ。

 この親しさからして友人以上の関係性は察する事は出来る。

 だからこそ聞きたいのだ。特に一夏とそんな関係だったらと思うと辛くてしょうがない。

 

 一誠だったら……まあ、別に良いが。

 

 

「は? だ、誰と誰が付き合ってるって? 別に違うわよ……」

 

「そうだぞ、俺に恋人なんかいるわけないじゃねぇか。鈴はただの幼馴染みだよ」

 

「そうそう、それに恋人にするなら30越えたお姉さんじゃないとなぁ……」

 

 

 ちょっと動揺する鈴音とは逆に、鈍い一夏は平然と、一誠はわざわざ性癖まで一々教えながらニヤニヤと妄想混じりに否定した。

 ホッとなるセシリアだが、箒は逆に一夏の口にした幼馴染みという言葉に反応する。

 

 

「幼馴染み……?」

 

「ほら、箒が引っ越してったのは小4の終わりだったろ?

この鈴がこっち来たの小5の頭でさ。で、中2の終わりに中国に戻ってったって訳」

 

「まあ、そういう事。

あの時は別れるまで狂ったみてーに毎日遊んでたよなー」

 

「…………」

 

 

 そう懐かしむ様に言う一夏と一誠に箒はちょっとた嫉妬を鈴に覚えた。

 何せ自分も一夏と一誠の幼馴染みではあるのだから。

 

 

「鈴、こっちが箒とセシリア。箒は前に話した道場の娘さん」

 

「ふーん、そうなんだ?」

 

「ああ、これからよろしく」

 

「うん……」

 

 

 そう言葉こそ穏やかだが、妙な火花がまた飛んでいる様な気がした……と、一誠はチビチビとご飯を食べながら思ったそうな。

 

 

(あーあ、モテ男の性って奴かねぇ……)

 

 

 別に同世代か年下に好意を向けられても何とも思わないというか、自分の性癖ストライク以外の異性からの好意となると、途端に一夏並の鈍さになる一誠は他人事のように思っていた。

 

 

「んで、一誠は千冬さんとどうなの?」

 

「ん? ああ、相変わらずだな。

大魔王は大魔王だわ」

 

「部屋まで一緒にされちまってるからなぁ一誠は……」

 

「はぁっ!?」

 

「おわっ!? ど、どうした?」

 

「い、一誠! あ、アンタ一夏と同室じゃないの!?」

 

「んぁ? ああ、俺達も最初はそうだと思ったんだけど、俺がやらかさない様に監視するって勝手に決められたんだよ……。

やらかす訳ねーってのによー? あ、ちなみに一夏は箒ちゃんと同室な」

 

「…………」

 

 

 しかし鈴音のリアクションに妙な違和感を直ぐに覚えたのは、皮肉にも箒だった。

 

 

(まさか………)

 

 

 ふと鈴音を最初に見た時から今までを思い返す箒。

 一誠に抱っこされて口ではギャーギャー言ってたものの、本気で拒絶するような事はしてない。

 

 近況を聞きたがる割合が一誠の方がちょっと多い。

 なにより千冬と一誠が同室と聞いたその瞬間のこの様子で、箒の脳内に電流が走った。

 

 

「あ、アンタ、部屋で何してるの?」

 

「主に勉強を見てもらってる。

まあ……炊事洗濯掃除、飲み物のお酌まで――変わらずのパシりだな」

 

「な、なんで嫌がらないのよ? 昔からそうだけど……」

 

「しょうがない、束さんもそうだが、母さんの助けになってくれる人だからね。

そりゃあまぁ理不尽な事も言われるけど、あの人なりの期待だってなんとなく解るし」

 

「だから千冬姉も頼りするんだよな一誠の事……」

 

「い、意外にも信頼関係が強固ですわね」

 

「ま、一応美人だからね。しゃーないと思ってるさ」

 

 

(……ふむ)

 

 

 これはひょっとしたら……。

 あからさまに千冬の名前が一誠から出る度に凹んでる鈴音を見て思った箒は今一度鈴音を呼ぶ。

 

 

「凰鈴音と言ったな……」

 

「え……な、なに?」

 

「いや、お前とは良い協力関係でもと思ってな……ほら」

 

「え?」

 

 

 いきなり笑みを浮かべながら手を差し出してくる箒が微妙に不気味で怪訝な顔をする鈴音だが、チラッと一誠に目線を何度か向ける事で、鈴音も何が言いたいのか理解する。

 

 

「ああ……なるほど、それは確かにそうかも」

 

「だろう?」

 

「うん、わかった。よろしくね箒?」

 

 

 ガッチリと握手を交わし、互いに笑みを溢す。

 

 

「なんだなんだ? 急に仲良くなってないか?」

 

「女は時々わかんねーからなぁ……」

 

「な、何故だか私だけ置いてけぼりにされた気分ですわ」

 

 

 こうして一夏と一誠の預り知らぬ所で変な同盟が組まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どーしてちーちゃんはそうやっていじわるしちゃうのさ?』

 

「……。しょうがないだろう、アイツが軽すぎるんだ」

 

『そんな事言ったって、いーちゃんが軽いだけで実際本当に手を出すことが無いヘタレ君なのはよく知ってるじゃん。

その中国の子に先越されても知らないからね?」』

 

「……別に先を越された所で何とも思わんよ私は」

 

『あ、そう。

じゃあ今からいーちゃんに連絡して、イチャイチャしようぜって誘ってもちーちゃんは邪魔しないんだね? わかった、じゃあ早速――』

 

「ふざけるなそれは許さん!

くっ、ヴェネラナ先生の話が本当なら、お前は若干ながらセラフォルーとかいう女に雰囲気が似てるせいで、アイツはお前に甘すぎるところがある!」

 

『そんなの知らないよ。

ていうか、別にいーちゃんとしても私とそのセラフォルーとかいう馬の骨女と重ねてる訳じゃないし……。

というかさ、そのセラフォルーってのだけじゃなくて、本来の人格のいーちゃんには色々居るんでしょ? なんだっけ、リアスとかソーナってのも……』

 

「ぐぐっ、本来の人格があんな感じなのに、なんで一夏みたいに……」

 

『だからそういう所が似てるんでしょ、いっくんといーちゃんは』

 

 

 そして大人組もまた……。

 

 

『前にヴェネラナ先生にこっそり本来の人格だった頃のいーちゃんやその周りの写真を見せてもらったけどさぁ……』

 

「ああ、絶望的なレベルだったな……。

あんなタイプの異性達に囲まれていたら、本来の人格のアイツの目は相当肥えていたに違いない」

 

『加えて私以上に他人と認識している相手に対しては冷徹だからねぇ……。

これは本来の人格に戻ってしまう前に、何とかあの連中と同等の認識をして貰わないと、本当にまずいよ?』

 

「わかってはいるが……」

 

『多分だけど、本来の人格のいーちゃんが一番異性として意識してたかもしれないのが、セラフォルーってのだね。

聞けば間違ってお酒飲んじゃって泥酔した時に一番最初にキスしたのがその女らしいし……』

 

「……………つまりアレか! あ、あんな恥ずかしい魔法少女衣装を着てみろってことか!?」

 

『……………本末転倒になるだけだってば。

ちーちゃんっていーちゃん関連だと本当にぽんこつになるよねー

そうじゃなくて、そいつ等には被らない様にいーちゃんに認識して貰わないと意味無いって事。

勿論、自分をその為に変えちゃ駄目だけどね』

 

「……う、うむ」

 

『本来の人格と、今の失ってる状態のいーちゃんの共通して好んでる人は、『自分を曲げない強い意思を持つ人』だからね。だから自分は変えちゃダメ』

 

「ああ、わかってる……」

 

『大丈夫だって! 私もちーちゃんも、おっぱいに関してはクリアしてるしさっ! この前寝ぼけたいーちゃんに揉まれたんでしょ?』

 

「ま、まあ……」

 

 

 結構……意外と、一誠もそんなんだった。

 

 

 




補足

記憶と人格退行によりほぼノーマルと変わらなくなってるが、トラウマも忘れてるのでほぼ原作に近い状態。

違いは年上フェチなのとかなりのマザコン。


その2
そして執事としての人格の頃は、どうやらそこそこ魔王少女を意識し始めてたらしい。

しょうがない……思い返せば最初から気になる女の子をいじめたくなる男の子みたいな事してたし、泥酔した後の初めてのアレも彼女だったし……。


その3
大魔王と天災さんは知ってる上で接してます。
しょうがない、ずっと変わらない態度で接してくれるんだから。
そしてちみっこさんもそんな感じに……


その4
以上の事から、もしかしたら銀髪眼帯っ娘さんからは一夏以上に嫉妬されてるかも……。




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