色々なIF集   作:超人類DX

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続き……閲覧注意。

感想で色々書いた方には特に推奨しません。

※可能な限りの修正とポチポチ加筆しました。


恐れられボッチとステルスボッチ

 

 

 昔に言ったっけな……『復讐を否定なんてしない』とか何とかって。

 

 仲間の為に剣を振るう男の姿。

 例えそれが世界の誰しもが否定しようと、俺は否定せず手伝うと言ったっけか。

 

 まぁ、結局復讐もなんも失敗して殺されたけどな……男である俺と元士郎含めてあのクズ野郎によ。

 貫かれ、心臓を握りつぶされ、手足を切り刻まれ――

 

 

『こ、殺してやる……ぶっ殺してやる!!』

 

『ははは、威勢だけは良いなぁ? でもキミの仲間である木場や匙は死んだ。お前を好いてた女の子達は予想外のキャラである安心院なじみを含めて皆俺のモノになった今、最早動けもしないお前に何が出来る? なぁ?』

 

 

 残った俺の目の前で、動けなくなった俺の目の前で転生者は――

 

 

『そう思うだろう? 白音、黒歌、ゼノヴィア……そしてレイヴェル……?』

 

『…………』

 

『っ!? や、やめろォ! レイヴェル達に手を出すな!! ヤロォォォッ!!!』

 

『うるさい馬鹿だな。

だからもうレイヴェルは俺のモノだって言っただろう?』

 

『…………。はい……私の身も心も『最初から』あなた様の為に……』

 

 

 俺の大切な人達を――奪った。

 

 

『っ…………お………ガァァァァァァァァッ!!!!! 殺す! 殺してやる!! 貴様だけは必ず……殺して――』

 

 

 そこからの記憶はもうない。

 怒りにより解放された破壊衝動の赴くままに暴れたのだろうが、気が付いた時には何もかもを失った状態で打ち捨てられていた。

 

 

『おいキミ! どうした! その傷は……っ!?』

 

『う……あぁ……』

 

 

 知らない、誰も俺を知らない世界へと……俺は――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

 忘れたくても忘れられない記憶がある。

 やり直したい人生がある。

 しかるにいくら永遠に進化するスキルと、現実を書き換えるマイナスがあろうとも、失った時は戻せないし戻らない。

 それは別の世界へと強制的に飛ばされてしまった今でも……いや現在(イマ)だからこそ少年の心を蝕み続ける。

 

 

「ま、またあの夢―――ぐっ……うぶっ!?」

 

 

 蝕み、精神を弱らせる。

 失いし少年の心を幻肢痛(ファントムペイン)となって襲い掛かり、満足な睡眠すら与えられないまま5年が経った兵藤一誠の目覚めは何時だって最悪だった。

 

 

「おえぇぇっ!!」

 

 

 悪夢に魘され、悪夢によってまだ寝ていられる明け方に無理矢理意識を覚醒させられ、悪夢によって強烈な吐き気を催され、トイレに駆け込み……全てを吐き出す。

 

 

「っ……う……うぅ……くそ……ったれ……」

 

 

 全ては負けたから。

 あまりにも強大だった転生者によって虫けらのように叩き潰されたが故に……。

 洋式のトイレにもたれ掛かるように脱力した一誠の姿は、人外へと進化したオーラも、大切な人達を守るための信念めいた瞳は無く、ただ吐いた後に残る気分の悪さだけを残してそこからの動こうともしない。

 

 

「…………。一誠……」

 

 

 そんな一誠を、飛び起きた音で起こされた同居人にて一誠の保護者を自称する家主たる平塚静という女性は、悲痛な眼差しでその場にトイレで崩れ落ちてる一誠の名前を小さく口にしながら駆け寄り、カタカタと震えるその背中を擦りだす。

 

 

「し、静ちゃん?

う……へへ……わ、悪い……ねぇ……? 美少女達に口移しでテキーラ飲まされ続ける夢見てたら……ぐ……っ……」

 

「………。そうか、それは災難だったな」

 

 

 嘘を付け……。

 背中を擦る静に対して、痛々しいとしか感じないおどけた態度を見せて軽口を叩こうとする一誠に、静は心の中で呟きながら追求すること無くその震える背を擦り続ける。

 

 

「水だ。ゆっくり飲め」

 

「お、おぉ……ありがと」

 

 

 とある土砂降りの日に、右腕がもがれた血塗れの姿で倒れている一誠を発見し、直後に目の当たりと体感した異常性を見てからもう5年が経つ。

 しかし5年も経った現在でも一誠の精神は5年前の――一誠自身の記憶を追体験した時に知った、全てを喪いし頃から一向に変わっていない。

 

 自分が注いで渡した水を震えながら飲む一誠の姿と、過去の記憶を見せられた時に見た『何処までも昇華しようと頑張っていた』まっすぐな瞳をしていた一誠とはあまりにも違う……あまりにも失い過ぎた。

 

 だからこそ静は、一誠を自分の元に居るように提案し保護者になることを決意した。

 記憶の中の一誠も、今の一誠も確かに人間とは思えない強大な力を持っているのだろう。

 けれど所詮はいくら人の域を超越した存在になろうとも精神は大人になりきれない子供。

 

 だからこそ静は、義理も必要もない他人である筈の一誠を引き取る決心をしたのだ。

 脆く、弱った精神を無理矢理仮面で誤魔化してる……この小さく見える人外を。

 

 

(何が無限に進化するだ、何が現在を簡単に書き換えるだ……)

 

「やっべ、寒くなってきたからお風呂借りるわ……」

 

 

 平塚静はどうしても放って置けなかった。

 ……。そんな静はもしかしたら、割りとダメ男に弱い所があるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 奉仕部に入って暫く経つが、この学校は基本的にサバサバなのか何なのか、あまり悩み事をこの部に持ち込む人間が居ないようだ。

 というのも、静ちゃんに言われて面倒だけど毎日通ってるこの奉仕部でやってることは基本的雪ノ下さんとくっちゃべるのだから。

 

 

「それにしても意外だったわ。

アナタの事だから3日程で面倒と宣って来なくなると思っていたのに、こうして毎日遅れること無くちゃんと来るなんて」

 

「毎日放課後になったらキミが教室前で狩人みたいな目しながらスタンバってんだから逃げようがないだろ。

そりゃあその気になればキミを適当にぶん投げてから悠々と帰れるけど、静ちゃんとの約束だし仕方ない」

 

 

 毎日来る理由について本を読んでた雪ノ下さん改め雪ノ下部長に話を振られ、それをゲームしながら返す。

 それが加入したこの奉仕部とやらでの主な活動内容であり奉仕活動はゼロ。

 まぁ、この学校の人間には悩みごとが無いって事で実に平和と解釈しちゃえば簡単なんだけど……何だかなぁ。

 

 

「キミが部員想いのせいで、俺はすっかりクラスメートから変な目で見られまくって大変なんだよね。

『雪ノ下さんの弱味を握って変なことをしてるんじゃないのか?』とかね」

 

「あら良かったじゃない? お陰でクラスの陰湿男から私みたいな可愛い子と関わりがある人程度にクラスアップして」

 

「そうだね。ギャルゲーをニヤけながらプレイする変質者止まりから、キミの弱味を握って何かしてるクソ野郎にグレードアップしたよ。

いやほんとありがとう、キミのお陰でこれ以上他人と余計な関わりを持たずに済みそうだよ」

 

 

 ……。自分で自分を可愛いとか言う辺りに地雷を感じざるをえないというか、何でそんなドヤ顔なのかわかんねーや。

 まあ、知りたいとも思わないけど――おっ、レア素材ゲッツ。

 

 

 

 

 平塚先生によって連れてこられ、そして入部してから数日。

 結局私はこうして無理矢理繋ぎ止めるしか兵藤くんとまともにお話も出来ないままだ。

 違う種類と思われるピコピコに視線を向けなから言っていた様に、兵藤くんがその気になればあの時の誘拐犯へやったみたいに私を凸ピンか何かで吹き飛ばして二度と関わらないように出来るというのに、平塚先生に頼まれたからという理由だけで此処に居る時点で、彼にとって私はそこら辺に落ちている小石程度の認識でしか無いのだろう……目がそう語ってるわ。

 

 

「ぬ……! チィ、毒爪タックルとは小賢しい真似を……!」

 

 

 兵藤くんが入部してから依頼は無い。

 奉仕部での活動は基本的に依頼依存であるので、何も無い時は私もこうして本を読んでいるつもりなのだけど、やっぱり何故か私は気づけば兵藤くんの動向が気になってしまう。

 だからこうやって本を読むフリをしながら伺い、話し掛けるタイミングを図っている。

 

 

「よっし、尻尾斬り取ったりぃー!」

 

 

 今まで自分に近付く人間の殆どは外見で判断するだけの者ばかりなせいか、こうまで自分に興味ゼロだと示されると新鮮というべきなのか、とにかく逆にムッとなるか。

 

 

「ヌハハハ! 所詮は火竜ごときが俺様に……おらっ!」

 

 

 手入れなんて特にしておらず、セットもしてない薄い茶髪は目元を隠しており、表情はよく見えない。

 でも初めてこの部にやって来た時に見たあの目は今でも忘れられない……。

 全てを諦めた目から、私が部の活動内容について話した時に一瞬だけ見せた――『何かに苦しむ』様なあの目を……。

 

 

「っしぃ! 俺の勝ちアーンド素材狩りの時間だぜ!」

 

 

 それが何なのかが分からない。

 普通なら、そんな目をしたところで気にする事なんて無かった。

 けど私は何故か兵藤くんがする行動の一つ一つが知りたいと思ってしまう。

 平塚先生に対してだけ妙に自然体に見えなくもない態度になるのを見たらモヤモヤとする。

 

 そして……。

 

 

「ジーザス……火竜の天鱗はもう要らんってのに、何でこればっかり出るんだ? バグってんのか?」

 

 

 あの時兵藤くんが目の前で見せた人間技から遠く離れたアレは何だったのか……。

 一人でブツブツ言いながらピコピコとやってる覇気の欠片も無い姿を見ながら、私はただただモヤモヤし続ける気持ちを抱き続けるしか私にはできない。

 

 最大級の理解者になってくれるかもしれない人を……私は知ることが出来ないというのは、これ程までに焦れったい気持ちに苛まれるのか。

 兵藤くん……アナタは意外と酷い人よ。

 

 

 

 

『高校生活を振り返って』

 

 

 そんなレポートを書かされるのは、ボッチにとって色々と難しい。

 というのもだ……ネタが無いんだよ。

 

 リア充はそれなりな事を書いたかもしれないけど、少なくともボッチである俺なんかは何を書けば良いのか分かりゃしない。

 だが書かないと成績に響くだのと、無責任に不安だけを駆り立ててくる教師のせいで書かなくてはならない、けれど書くほどネタは無い。

 

 故に俺は正直に書いたのだ……高校生活を振り返ってを書いたんだ。

 なのに……。

 

 

「さて比企谷よ。この生徒指導室に呼び出された理由は――分かるな?」

 

「はぁ……」

 

 

 俺……比企谷八幡は生徒指導室に呼び出されました。

 

 

「高校生活振り返って……という題材で書いて貰ったこのレポートだが、ふふふ……全く以て面白い内容だったよ。特にこの舐め腐ってる書き方が特にな」

 

「自分なりに必死こいてネタを捻り出した結果なんですが……」

 

 

 寧ろ此処までそれっぽく書けた自分を称賛したい。

 けれど呼び出した先生こと平塚教諭は呆れた様にため息を吐き、額に手を置いていた。

 

 

「まさかアイツとキミ……同じクラスに二人も問題作を提出する輩が出てくるとはな……頭が痛くなる」

 

 

 二人? 何ですか、俺の他に居たの? もしかして俺の後ろの席で最近原因不明の半リアになってる男なのか? そうなのか?

 

 

「なるほど、それなら俺はその人に拍手でも送ってあげたい―――あ、嘘ですすいません冗談ですからその固そうな拳を向けないでください」

 

 

 浮かんでくる人物としては、あのクラスの人間全員をそこら辺に落ちた消ゴムの欠片を見るような目をしてる、俺が座る席の後ろでギャルゲーばっかやってるあの兵藤って奴が出てきており、一年から同じクラスで同じ孤独街道を突っ切ってたと思ってた身としては微妙に裏切られた気分だったが……うーむ、やっぱり培ってきたボッチ人生は裏切らないと言うことなのか……。

 

 

「……。まぁ良いが、このままキミにこのレポートを書き直させるだけでは、アイツと同じで根本的な解決にはならない。

従ってキミにもちょっとした罰則を与えることにする」

 

「え!?」

 

 

 そんはアホな! レポートのネタが気に食わないからって罰則食らわせるなんて職権濫用だぞ! …………。等とは当然言えない俺は驚くリアクションしか出来ず固まる。

 ていうか、アイツも辺り兵藤も罰則受けたのか? いや受けたんだろうな……思い出してみると何故か兵藤は平塚先生にだけ普通にコミュ障じゃ無くなってたし。

 

 いや、というか兵藤ってコミュ障じゃないよな。俺にも用があったら平然と話しかけてくるし、俺なんかの物とか拾ってくれるし。

 

 

「アイツの過去が今の雪ノ下で、アイツの現在が今の比企谷か……」

 

「え?」

 

「何でもない。兎に角罰則だけは受けて貰うぞ比企谷……来い」

 

「ア、ハイ」

 

 

 レポート一つで罰則なんて世の中ってのは世知辛い。

 しかし弱者は所詮その世知辛さに埋もれてしまう運命であり、抗った所でたかが知れている。

 故に俺は言われるがままに平塚先生に連れられ……あんまり足を踏み入れない西館へと連行されるのであった。

 そして連れてこられた先に待ち受けていたのは――

 

 

「友達の定義って何なのかしら?

こうしてアナタと他愛が無くて役にも立たない会話を気軽に出来るのが友達なのかしら?」

 

「さぁな、少なくとも俺はキミを友達だなんて思わないし思いたくない」

 

 

 最近クラスで変な噂になってる元であり、一人は国際教養科にて氷の女王だなんて呼ばれてる女子と、一人は同じクラスであり後ろの席で平然とギャルゲーを大音響でプレイする男……兵藤一誠が居た。

 

 

 

 

 ホントしつこいなこの子。

 俺が雪ノ下部長に対してそんな評価を内心下していた時であった。

 普段なら外部から開けられる事が滅多になかった部室の扉が開かれたかと思いきや、やって来たのは静ちゃんであり、何と一人の男子生徒を連れてきたのだ。

 …………。地味に俺が知ってるな。

 

 

「ふむ、どうやら仲良くやってるようだな?」

 

「は、誰が?」

 

「ええ、今もまた他愛の無い話で盛り上がってました……。

ノックもしないで急に入ってきた平塚先生のせいで台無しですけど」

 

 

 入ってくるや否や、妙に満足そうに笑みを溢して言う静ちゃんに何を言ってんだよと思っていると、食い気味で横から雪ノ下部長が妙に刺々しい声を出す。

 

 

「……。最近の雪ノ下は妙に言葉に刺があるな。

まぁ良い、私が来た理由なのだが……」

 

 

 そんな雪ノ下部長に対して微妙に居心地の悪そうな表情になりながらも、静ちゃんは半歩後ろで突っ立っていた一人の男子生徒を前に出させる。

 

 

「誰ですか? そのぬぼーっとしてる人は?」

 

 

 昔俺を敵意のある目で常に睨んでた紅髪の悪魔女を、色は違えど思い出させるアホ毛と、死んだ魚を思わせるぬぺーっとした目をした黒髪の少年に雪ノ下部長が顰めっ面引っ提げて誰なのかと静ちゃんに問う横で、俺はその少年の出で立ちを見てぼんやりながら思い出した。

 

 

「俺のクラスの子だよな?

つーか俺の前の席の子だろ? ええっと……ひき、ひき……ひ、平目くんだっけ?」

 

 

 前の席の……名前は覚えてない少年の事を。

 

 

「比企谷だ……お前も自分の前の席の人間の名前くらいは覚えろ馬鹿者め」

 

 

 急に警戒心バリバリ出し始めた雪ノ下部長の態度にフォローでもと、同じクラスの人間であることを話そうとしたのだが、如何せん席が前だからという理由でしか彼を知らないので名前が出て来ず、適当に言ってみた所、静ちゃんに半目で睨まれながら怒られてしまった。

 

 そっか……比企谷って言うんだね。ふーん。

 

 

「その比企谷君という人を何故此処に?」

 

「うむ、それは簡単だ。兵藤と同じくこの比企谷も奉仕部に入部して奉仕活動をと思ってな」

 

「はい!?」

 

 

 比企谷って名前だと今初めて知ったところで別にやっぱりどうでも良く、静ちゃんが何故連れてきたのかという理由を聞いてもやはりどうでも良かった。

 まあ、本人は今知りましたってリアクションしてるけどな。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。

俺は部活なんてやりませんというか、やりたくないです」

 

 

 可哀想に……何をしたのか知らないけどこんな所に連れてこられた時点でロクな目に合わん事は確定してるぜ? なんて急に慌て出す比企谷君とやらを内心同情する。

 リアクションを見て分かるけど、連れてこられた比企谷君とやらからすれば堪ったものじゃないし、当然とばかりに俺と似た断りかたをしようと若干力の無い感じで拒否しようとするが……うーん、静ちゃん相手には弱すぎる拒否り方だな。

 

 

「拒否権は存在しないぞ比企谷よ。後悔するならいっせー――あ、違う、兵藤みたいに舐め腐ったレポートを書いた自分を恨むんだな」

 

「な……!?」

 

 

 ほらな、静ちゃんって基本ゴリ押しするからね。

 俺を無理矢理此処に留めようとしてるだけあるからね。

 断りたかったら静ちゃんの弱味に漬け込まんと無理よ比企谷くんとやら。

 

 

「というか平塚先生……? 今兵藤の事を下の名前で――」

 

「な、何の事だ? そんな事より雪ノ下よ、其所で他人事宜しくにゲームをしている兵藤共々、是非キミに比企谷の人格も矯正して貰いたいのだが……」

 

「嫌です。彼の目を見てると身の危険を感じます」

 

 

 あ、もう無理だ。

 とでも悟ったのか、急激に死にかけたゾンビみたいな目となる比企谷くんを他所に静ちゃんと雪ノ下部長による比企谷君とやらの意思は投げ捨てた会話は進んでいく。

 

 

「安心したまえ。

彼が見せるリスクリターンの計算と自己保身に関してだけはなかなかのものだ。

刑事罰に問われるような真似は決してしない。彼の小悪党ぶりには信用してくれていい」

 

「………」

 

 

 しかも何気に静ちゃんも言ってること酷いし。

 比企谷くんって何したわけ? 何をしたからこんな罵倒されてるの? 見ろよあの死にそうな目……てか今気付いたけど、その出で立ちはある意味俺の理想像だぞ比企谷くん。

 

 

「そうだな……一誠をもっと捻くれさせた男がこの比企谷八幡だと解釈すれば身の危険なぞ感じないだろう?」

 

 

 挙げ句の果てに俺まで何か巻き込まれてるというか、静ちゃんってば俺の事普通に名前で呼んでるんですけど。

 

 

「兵藤くんより捻くれた……って、今確実に兵藤くんを下の名前で――」

 

「そ、そうだ! 兵藤は他人に興味ゼロだからこそ雪ノ下には何もしなかっただろう?

比企谷にしてもそれと同じだと保証する!

だから頼む、先生は職員会議に行かなければならんのでこれにてドロン!!」

 

「「「………」」」

 

 

 雪ノ下部長の突っ込みに対して勢いで誤魔化しだした静ちゃんは、何かまた俺の時みたいな誤魔化しで言うだけ言ってさっさと部室から去ってしまった。

 残された比企谷くんは呆然としており……何だか久々に変な同情心が沸いた気がししたのは気のせいなのか。

 

 

「………………。取り敢えず座るか?」

 

「…………。お、おっす」

 

「…………」

 

 

 残された俺達はこの微妙な空気を上手いこと捌かなければならない訳で……帰ったら浴びる程の文句を言ってやると決めた俺は、何故か不機嫌な雪ノ下部長の代わりに今日初めて名前を知った比企谷くんを座らせる事にした。

 いや、流石にこのまま黙ってるとずっと突っ立ってそうだしね。

 

 

 

 

 

 誰か助けてくれ。

 いや誰かじゃなくて小町が良い。お兄ちゃんを助けてくれ。

 何で罰則ごときで部活なんてやらなくちゃならないんだ……何でよりにもよって微妙に変に気になってたけど一度もまともに話した事がない兵藤と、最近その兵藤の所に来ては無理矢理教室の外に連れ去る雪ノ下って女子の近くに居なくちゃならないんだ。

 

 

「…………」

 

「まったく静ちゃんも強引な人だ……っと、次は金銀火竜でも狩るとするか。火竜装備コンプしねーと」

 

 

 氷の女王だなんて呼ばれてる雪ノ下は平塚先生が去った途端、物凄い不機嫌そうに本を読み始めるし、兵藤も兵藤で俺を座るように言ってからは特に何も言わずにゲームし始めてるし。

 てか静ちゃんって……。然り気無く平塚先生を某猫型ロボット漫画に出てくるヒロインみたいな呼び方で呼んでる理由が地味に気になるんですけど。

 

 

「………………………。さっきからチラチラこっちを見ないでくれないかしら?」

 

 

 罰則という理由で連れてこられ、訳がわからないまま平塚先生が言ってた奉仕部という名前らしい部活の部室らしき空間に捨てられた気分のまま、部長らしき雪ノ下からの説明を待っていただけだというのに、その雪ノ下は心底うざそうな眼差しで俺を罵倒するだけで説明なんてしてはくれなかった。

 ……。俺これ泣いても良いのか?

 

 

「いやキミの説明を待ってるんだと思うぞ。

つーか何でキミは急にそんな不機嫌な訳?」

 

 

 しかし意外にも助け船を出してくれたのは金額火竜をハンティング中の兵藤だった。

 訳も分からず連れてこられた挙げ句、放置プレイされ気味だった状況のせいなのか、微妙に救われた気持ちになる辺り俺は余程拗らせてしまっているのか……。

 

 それにしても、兵藤に助けられてる事にちょっとビビるけど、それ以前に彼はやっぱり特定の人物相手だと物凄いフランクに話すんだなと再認識する。

 

 

「恐らく俺が静ちゃんに連行された時と似た理由で連れてこられたんだと思うし、何をそんな怒ってるのかは知らないけど最低限の挨拶ぐらいはするべきじゃねーの? 知らねーけど」

 

「………」

 

 

 ほら、ゲーム画面から目を離さないとはいえあの冷徹女に平然と話し掛けられるのが何よりの証拠だ。

 これこそコミュ障である俺とは別ベクトルのボッチ……いや、体育の時に見るあの人の域を越えまくりな身体能力のせいで恐怖されてるというべきか……?

 現にこの前の体育の授業でサッカーした時も、同じクラスでカースト最上位であるサッカー部の葉山っつーリア充を半笑いでぶち抜いてたからな。

 

 

『一人ドライブタイガーツインシュート(棒)』

 

 

 しかも未だこの目で見ても信じられないのが、自陣のゴールから敵ゴール目掛けて、某有名サッカー漫画に出てくる必殺ツインシュートを一人で……相手のゴールキーパー確実に殺すんじゃないかと思うくらいの威力で自陣のゴールラインから蹴ってバカスカと入れたのを見た時は説明がつかないアレな気分だったっけ。

 

 挙げ句果てに終わった後なんて……。

 

 

『やっぱ俺にはサッカーは合わないや。

軽く適当に蹴るだけで簡単にゴールに入るし、相手チームがヤル気無いのか全然攻めてこないし、これじゃあ運動にならねぇぜ』

 

『…………』

 

 

 国立だか何だかを目指してるサッカー部の葉山を目の前にして半笑いで言い切った辺りは内心スカッとした気がしたが、そのせいで兵藤はますます孤立化していったのは云うまでも無く、カースト最上位陣から見た兵藤はまさに『自分達の立ち位置を平然と笑って踏み潰せる、決して関わってはいけない存在』と認識して腫れ物扱い。

 そりゃそうだ、自分より下だと思い込みたいのに、実際は遥かに自分達が劣っているだなんて現実をカースト最上位を維持したいだろう連中からすれば認めたくも無いだろうしな。

 まさに兵藤一誠は目の上のたん瘤だろうよ。

 加えて学年成績も常時5位圏内というハイスペックっぷりだしな。

 

 

『先生、その公式間違ってますけど』

 

『えっ!? あ、あぁ……本当だ……す、すまん……(プルプル)』

 

 

 そのせいで平塚先生以外の教師までも兵藤を腫れ物扱いしている始末。

 ハッキリ言って俺とは真逆を行くボッチ……それが兵藤一誠という存在なのだ。

 

 

「………」

 

「あ、こりゃダメだわ。

只今部長は原因不明のご機嫌ナナメモードみたい」

 

「は、はぁ……」

 

 

 そして特筆すべきは最近目の当たりにする雪ノ下雪乃との謎の関係性なのだが……なるほど、どうやら兵藤も俺みたいなレポートを書いてこの部に先だってぶちこまれた様で、見る限り地味にコミュ力のある兵藤と上手いことやってる……のか?

 

 

「別に不機嫌では無いし、やっぱり平塚先生がアナタを下の名前で実は呼んでいたんだと知って急にムカムカし始めたなんて面白くもない現実も無いわ」

 

「……だとさ。

一々憎まれ口叩かないと生きられないタイプみたいだから、基本ハイハイと聞いてれば良いと思うよ」

 

「お、おう……そうみたいだな」

 

 

 いや、ここ最近目にする光景のみで察してみる辺り、どうもこの雪ノ下は兵藤に対して変な執着心があると見た。

 でなければわざわざ昼休みだ放課後だにハンターみたいな目付きで出待ちなんてしやしないし、平塚先生が何故か兵藤を下の名前で呼んだ時から不機嫌になって理由も説明がつく。

 つまり兵藤は……ふっ、アレだ、爆発しとけって奴だ。

 

 

「アナタ……比企谷君と言ったかしら?

さっきから知った様な顔で兵藤くんの言うことを鵜呑みにしないでくれる? というかその腐った目をやめてくれないかしら?」

 

「この目は生まれつきなんだよ、悪いな」

 

 

 雪ノ下の扱い方についてのマニュアルを兵藤から説明された俺が頷いたら、それまで不機嫌に本を読んでいた雪ノ下に途端射殺するような目で睨まれてしまった。

 

 

「そうなの、それは失礼したと心から謝るのと同時に平塚先生が何故アナタを連れて来たのかが分かったわ。人格矯正とは言い得て妙ね」

 

「………」

 

 

 いや、お前どうせ今のその様子じゃ説明してくれないだろ……だから兵藤から聞いてるんだよ俺は。

 それなのにいきなり目が腐ってるだ何だと……確かによく妹に言われるけど、他人のお前に言われたくない――と言っても5倍返しの嫌味しか返ってこないんだろうな……この手の人間ってそんなもんだ。

 

 

「自分が不機嫌だからってまだ状況を掴めて無い比企谷君を捕まえて八つ当たりするなよなこの子は……あ、また天鱗かよ……もうカンストしちまったぞ」

 

 

 ……。いや、まだ何とも言えないけど、雪ノ下が不機嫌なのはほぼ間違いなく兵藤も関係あると思うのですがね? ほら、そんなつもりは無いんだろうけど、お前が俺を庇う言動をした途端、雪ノ下の奴が思いきり俺と共々睨んで――

 

 

 

 

「大体兵藤くんも何故先生を静ちゃんと呼んでるのよ。どんな関係よ? 何でこんな平然と人を見下すような目をして他人に興味がないと宣う男と名前で呼び合えてるのよ。意味がわからないし私がそれとなくお互いの名前呼びの事を言ったら兵藤くんは嫌そうな顔して断ったのに どうしたらそんな気安く呼び合えるのよ? どんな手を使ったのよ? 弱味でも握ったのかしら?

あ、でもよく考えたらあの時私を救ったのが兵藤くんだと察してたから考えるとこの高校に入る前からの知り合いということになるのかしら? じゃあ一体何時? 私は私であの時から実は密かに行方を探し続けて結局この学校に入学した時にやっと見付けたというのに平塚先生は既に兵藤くんと知り合い? 腹が立つわ、不愉快だわ……納得がいかないわ許せないわ兵藤くんから鬱陶しがられてるのが嫌だわ」

 

「え、ゆ、雪ノ下さん……?」

 

 

 る……だけど。いや、ですけど。

 

 

「どうしたら良いのか……。もしかしあ私が嫌い? いえ嫌いなら私の強引さを拒絶する筈だからそれは無い? ふふ……それならまだ何とでもなる……絶対に兵藤くんから膝付いて私の手を取りながら『あの台詞』を言わせるのよ……ふふふ、想像しただけでゾクゾクするわ」

 

 

 これは……うん余計な事は決して言わない方が良いのかもしれないかもしれない。

 急にブツブツ言いながらハイライトの消えた目で親指の爪を噛み、やがて頬を赤らめながら何か夢想し始めた雪ノ下雪乃を見て、俺は心底触らぬ神になんとやらを貫こうと決心したのと同時に即日退部をしたくてたまらんかった。

 

 

「お、おい兵藤……くん?

ゆ、雪ノ下さんやばくない? アレこそ犯罪やらかす一歩手前じゃないの?」

 

「え? あーほっとけよ。

人間個人個人色々あるんだろうし、あの子あの子で何かあんだろ? 興味なんてねーけど。

キミだって俺や彼女の人生に興味なんてないだろ比企谷くん?」

 

 

 いや……そりゃそうだけど、雪ノ下に関しては確実にキミのせいじゃないの?

 ……とは言えないし、あんな姿見ても平然とモンハンやってる兵藤はやっぱりボッチなのかよく分からない。

 

 

「で、あの……部活は?」

 

「あぁ、この部活ってどうも困り事を抱える人間から持ち込まれる依頼を解決する手助けをするってコンセプトらしいから、依頼が無いと完全下校時刻まで此所で待機みたいよ。

だから比企谷君も静ちゃんの強引さに巻き込まれたのなら、諦めて明日からは暇潰しの道具を持ってくるべきだぜ」

 

「お、おう……そうする」

 

 

 妖しく笑ってる雪ノ下を一切動じず無視して奉仕部とやらのコンセプトを説明してくれる兵藤に、有り難い反面顔がひきつってるのが自分でも分かる。

 

 というか入るのは確定なのね……。

 この人間的に濃すぎる二人と部活しないといけないと考えるだけで疲れてきた俺は、今すぐにでも帰りたい気持ちのまま家で待つ愛する妹にテレパシーを送るのであった。

 

 助けてくれと……。

 

終わり。

 

 

 

 

 




補足

過去の一誠が雪ノ下さん。
現在なりたい自分が今の比企谷くん。

みたいな。

その2
ヤサグレてるせいなのか、自身の異常性をわりと平然と加減気味とはいえ表に出してます。

そのせいで平塚てんてー以外の人間や雪ノ下さんと……微妙にヒッキー以外からは化け物扱いされて居ない扱いされてますが。


その4
雪ノ下さんは一誠と平塚てんてーのよく解らないけどただ事じゃない仲が非常に気に食わないようです。

理由は不明。

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