何時だかの世界とは微妙に違う話です
その背中に憧れた。
その揺るがなさに惹かれた。
だから追い求め続けた。
例え彼に愛する者が居ても、諦めなかった。
先に立つ彼の背中に追い付き、その隣に立ちたいから。
諦めるべきであると周囲に言われても変わらない不滅の気持ち。
きっとあの人にとっては迷惑でしかなかったのかもしれないけど、それでも私は変えることは出来ない。
どれだけの年月を重ねようとも……
俺には姉と兄が居る。
血の繋がりはないけど、肉親よりも強い繋がりがある姉と兄。
そんな二人の背中に俺と――ずっと味方で居てくれた幼馴染みは憧れて、何時かあの二人の様になりたいと追い掛けてきた。
遺伝的には確かに肉親である姉と……多分だけど弟となる男の手の届かない場所へと到達する事が俺達の目標。
その願いは叶ったといえば叶ったと思う。
俺がその肉親を越えた様に、幼馴染みが天才と呼ばれた姉を越えた時から、俺達は自由になれたのだから。
私には血の繋がらない姉と兄が居る。
どちらも私にとって目指すべき目標である事に変わりはない。
しかし、私が最も目指した背は、兄であった。
この世の全てを敵に回してでも愛する人を守ろうとする強靭な意思。
それは実の姉や――今となってはそうでは無かったらしい弟に蔑ろにされて来た幼馴染みを守りたいと思い続けた私の心の支柱となった。
だから私はよく姉や幼馴染み達に言われる。
血の繋がりこそ無いが、お前は兄に似ていると。
世界の全てが幼馴染みの存在を否定して排除しようとしても、私は幼馴染みのアイツを守る。
理由は兄と同じ――ただ大好きだから。
害であろうが、悪と言われようが知ったことではない。
私はアイツが大好き……それ以外に理由は一切ない。
どれだけの時が流れ様と、世界を飛び越えた先に立とうとも……。
異質なまでの団結力。
年若き若者でありながら、強大なチーム。
二十歳となったリアス・グレモリーは、己自身の持つ力もさることながら、自身が抱える眷属達までもが強靭な力と団結力を誇る若手悪魔の最先端であった。
もっとも、リアス・グレモリーは自身の種族の栄光の為に力を注ぐといった真似は一切せず、あくまでも自身が持つ眷属のみにその慈愛の心を示すだけであり、同族はおろか、肉親達にすら本心を語る事はしなかった。
現在の魔王を輩出したグレモリー家の長女でありながら、グレモリー家から離れて人間界に住み、まだ学生である眷属達と共に質素な生活を送る。
多くの悪魔達は優れた才を持つリアス・グレモリーを人間界に留めて燻らせるのは勿体ないという声が出るが、その全ての声に対してリアスは真っ向から否定し続けた。
『自身の種族に誇りを持った事なんてただの一度も無い。同族の為に培った技術を注ぐつもりもない。全ては自分が愛する者の為だけに生きる』
異端の悪魔。
それがリアス・グレモリーなのである。
多くの悪魔達が手を伸ばそうとも届かぬ領域に到達した彼女を縛ることは例え魔王であろうとも不可能。
縛ろうものなら、彼女が最も愛する青年が、瞬く間に破壊するのだから。
無論、彼女を慕う眷属達もまた……。
「結構貯金も貯まってるし、もうちょい大きい家の方が良いんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、今の家では皆と一緒に住めない訳ではないし、こういう手狭さが良いのよ」
「私も不満は無いです」
常に進化する者達。
それがリアス・グレモリーとその眷属達の現在なのである。
今年で21歳となったリアスは、人間界の家に住み、今年20歳となる青年と、今年19歳となった眼鏡をかけた緑髪の女性と共に、曰く微妙に手狭な一軒家でまだ学生である残りの眷属達の帰りを待ちながら呑気にお茶を飲んでいる。
「まさか戻るとは思わなかった……」
「ええ、しかも私とイッセーだけではなく、あの子達まで巻き込んでしまったわ」
「そうは言いますけど、私を含めて皆さん全員が良かったと思ってますよ? 何より私たちにとっての元の世界では色々とありすぎましたし……」
リアスにイッセーと呼ばれた茶髪の青年の言葉は、意味を知らない者にしてみれな不可解な言葉であった。
だが今この場には誰もその言葉を不可解に思う者は居ない。
「出来る限りの先手は打ったから、前の様な事は防げたもののだけどさ。
やっぱり消してしまった方が良かったんじゃないかと思うんだよね……あのボケ共は?」
「それに関しては私の落ち度だったわ。
まさか彼女達が私達の時代の記憶を持ってたなんて思わなくて。
前と違って、私とイッセーの生まれた時期が微妙に前倒しされてたし……」
「一夏君達は今日も絡まれてるのでしょうかね……?」
他人に意味を教える気は更々無い秘密を共有する者達は、今日も普通に生きる。
それが彼等の生きる上での目的であるのだから。
しかし、そんな彼等の邪魔となる者が少なからず居るのもまた事実な訳で……。
心配そうに呟く緑髪の童顔の女性――真耶と呼ばれた女性に、イッセーとリアスは微妙な顔をするのであった。
駒王学園と呼ばれた高校がある。
その高校は数年前まで女子高だった名残がまだ残っている為に、全体的に女子の比率が高めであった。
そんな高校に『とにかく高卒程度の学歴だけは持った方が良い』からと、慕う姉と兄に窘められる形で在籍している黒髪で整った顔の少年――織斑一夏は、最良にて大好きなパートナーである篠ノ之箒や、親友よりも深い繋がりとなる友人達と共にうんざりした顔をしていた。
「あー……あのさ、俺達これから家に帰るんだわ。
通せんぼされても――その、困るんだよね」
「……………」
まだあどけなさが残る容姿の一夏の少しうんざりした様子の声が昇降口に居る他の生徒達の声に溶けていく。
しかし目の前の存在にはちゃんと聞こえていた様で、白髪で小柄な同学年で他クラスの女子生徒はどこか悔しげな目付きで一夏――その隣に立ち、血の繋がらない兄譲りの心底冷めた表情と目をして見据える箒や、のほほんとしてるようでめんどくさそうな顔になってる布仏本音という女子や、早く帰りたそうな様子のシャルロットという名の女子に其々視線を向けてから口を開く。
「部長に会わせてください……」
まるで『どうしてお前らなんだ』と言わんばかりの声で、部長と呼ぶ何者かと会わせろと言う少女に、代表して一夏が困った様な顔をする。
「部長って誰の事だよ?」
「惚けないでください、リアス部長です……!」
「いや、惚けるもなにも、リアス姉が部長なんて位置に付いた事なんてねーしよ。それに会わせろ言われても、リアス姉は今忙しいだろうしなぁ……」
「………っ」
とっくに卒業して年代が違う筈のリアスの事を部長と呼び続ける白髪の少女に、一夏は無理だと返しながら自分の靴が入れてある下駄箱まで移動し、上履きから外履きに履き替える。
「毎度毎度、同じ様な事をキミを含めてお仲間の人達も言うけど、いい加減諦めたら? この箒もそうだけど、そろそろまたイチ兄がキレるぞ?」
「…………」
既に卒業した兄の名を出した途端、過去に何かあったのだろうか、震えだす白髪の少女。
「あと、兵士の匙先輩の事を相当蔑ろにしてるみたいだけど、そういうのもリアス姉が嫌う所だからな?」
「違うな一夏。
姉さんは関心が無いのさ……この連中にな」
「……っ!」
一夏の言葉に対して、それまで黙っていた箒がスイッチの入ったイッセーを彷彿とさせる辛辣な言葉を放つ。
結局少女はそれ以上呼び止める事も出来ず、楽しげに話をしながら帰っていく一夏達を恨む様な視線で睨む事しか出来なかったのであった。
「ったく、もう何回目なんだろ?」
「数えるのも馬鹿らしい回数だろ」
「今更リアス
「しかも覚えてなかったらしい元士郎先輩を眷属にして奴隷みたいに扱ってる時点であり得ないよ」
「だよなー? 刀奈先輩も虚先輩も絡まれてるし、マジでめんどくせーよ」
かつて特にリアスと因縁のあった者達と同世代である一夏達は、学校に居る間は隙あらば絡んできてリアスに会わせろと喧しい―――かつてリアスの眷属であり友人達であった者達に対して、思ってた以上に露骨に絡んでくる状況に愚痴り合う。
「なんだっけ? 正気に戻ったからやり直したいだっけ? イチ兄の地雷のど真ん中だっつーの」
過去の眷属と今の眷属が同じ時代にて邂逅してしまった世界。
それが今の一夏達の生きる世界なのだ。
全てを終わらせた後の世界。終了
それは誰にも崩せない繋がり。
「またシトリーの所からだわ……」
「よし、もう消すか!」
「付き合うぞイッセー兄さん」
過去からの因縁を吹っ切り……。
「夜だというのに、誰も居ない公園のベンチで一人で座ってたのでつい……」
「匙君……だったわね。
良いわ、上がって貰いなさい」
「だってさ元士郎先輩! ほら!」
「い、いや俺シトリー眷属だし、迷惑に……」
「先輩がされてる事を考えたら、ひと括りにはできないっすよ」
覚えてないという理由だけでどん底に押し込められた兵士の少年と対話したり。
「や、やめろ俺に優しくするな! な、泣きそうになる、から……!」
「なら泣いても良いよ。
僕も、皆も笑うなんてしないんだから……」
自分の過去を見ている気がしたからと、優しくなるシャルロットの胸を借りてさめざめと泣く元士郎くんだったり。
「私の兵士! の匙がお世話になったみたいですから、ぜ、是非お礼を……!!」
『……………』
「や、やめてください! 俺はそんなつもりじゃなかったんだ!!」
それを利用してまで近づこうとする過去からの因縁達だったり。
「これよりリアス・グレモリーとソーナ・シトリーによるレーティングゲームを行う。
尚このゲームは公式戦では無いが、両者同意の下、勝者は敗者の持つ駒を交換する権利を与える」
「ごめんなさいお姉ちゃん……。僕の我が儘を聞いてくれて……」
「構わないわ。
私もそろそろ本当の意味で終わりにしてやりたかったしね」
「全員、開始と同時に徹底的かつ全開で潰すぞ」
結果、殺る気満々となったり。
「お、俺がリアス・グレモリー様の眷属に……」
「もう大丈夫だよ元士郎先輩。
今度は僕達皆と一緒だよ?」
「お、おう……」
潰されていた進化の芽が漸く花開く日が訪れたり。
「……なにこれ?」
「手紙みたいだな……一夏に」
「ふむふむ……えーっと、『突然この様なお手紙を出して申し訳ありません。
三年前に貴方がただ一人で対戦相手を降していく姿を見た時から、ずっと忘れられません。
つきましてはお会いしてお話をしたいと思ってこのようなお手紙を―――』………だってさ?」
「あ、これ知ってるわ。昔散々私がイッセーさんに出しまくってはスルーされたラブレターと同じよ!」
「ラブレター? それが本当なら普通に断りの返事だろ。
無い無い、大体誰なのかもわかないしさ。なぁ箒?」
「え? あー……相手にもよるんじゃないか? 何故か知らないが、お前が嫌悪ではなく好意的に誰かに見られてると知ると嬉しい気がしてしまって……」
ラブレターを貰っても断る気満々の一夏と、逆にイッセーという例を知っていたせいか、あまり嫉妬といった感情がなかったりする箒だったり。
「差出人は……シーグヴァイラ・アガレス? ………誰?」
正直全然知らない相手だったり。
「ど、どうしよう……。悪魔だし年下の男の子なのに、助けられてしまったばかりか……! あうあう……!」
「もしもーし……? どうしたのこの人?」
「まずいわ、一夏くんがここに来てモテ期に突入してしまった様よ」
「あの頃のイッセー兄さんだなまるで……」
どこぞの100均ヴァルキリーを物のついでで助けただけの筈がこうなってしまったり。
「今になってリアス姉さんの気持ちがわかったよ。
なんだろうな、自分が大好きな者が好意的に見られると、嫉妬よりも嬉しくなる」
「でしょう? まあ、それ以上に信用しているからというのが大きいんでしょうけど」
「や、辞めたァ!? 何故!?」
「あのままでもクビにされてしまうのは時間の問題でしたので、いっそ自分から辞表を叩きつけてやりました! セクハラにもうんざりしてましたので!」
「わかっています。
箒さんしか見ていない事も全部わかっています。でもやはりそれでも諦めきれません……!」
「そ、そんなの知りませんよ! ちょ、イチ兄助けてよ!」
「………。多分無理だと思う。
俺が無理だったし……」
今度は一夏が困った事になったりと……。
本来ある体質が皮肉な事にこの世界にて開花してしまった一夏は果たしてイッセーとは別の道へと進めるのか? それはまだわからない。
「大変だなアイツも……」
「ひょっとして羨ましいって思ってる……?」
「いいや、元主があんなんだったせいで、未だに女に対するトラウマがあるから……」
「……そっか。僕の事も苦手……かな?」
「どうだろ。シャルも含めて、皆良い奴ってのはわかってるから微妙に違うと思いたいけど――――って、なんだよ?」
「ん、わからないけど元士郎先輩にはこうしてあげたいかなーって……迷惑だった?」
「……別に良いけど」
「そっか、ふふふ……♪」
その傍で、覚醒した母性で女性に強烈なトラウマを残す暗黒騎士と呼ばれるまでに進化した男子にだけ向ける金髪少女が居たり。
続かない
補足
本来の時空軸との違いは、イッセーとリアスの年齢が原作開始時点で既に成人年齢である事。
かつての裏切って今は掌クルクル連中は二度ほど叩きのめした。
逆に同じなのは――匙きゅんがとても悲惨な状況。
その2
もうほぼ諦めたというか、根負けしちゃった結果……なっちゃんのやまやんは『そう』なりました。
やったね!
その3
代わりに本来の体質がここにきて蘇ってしまった一夏が今度は大変な事になりましたとさ。
彼は果たしてイッセーとは違うエンディングに到達できるのか!
その4
どうもこのシリーズでは金髪になにかと縁のある匙きゅん。
……もっとも、後輩女子からめっさ母性向けられて困惑してるし、この匙きゅんは、原作イッセー以上に女性に対するトラウマが強すぎて踏み出せなくなってしまってますが……。