色々なIF集   作:超人類DX

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後日談というかなんというか。

散々展開に迷いましたが……

最後は嘘なんでとだけ言います。


居場所を失う者

 織斑春人に顔を見られた。

 そしてある程度の素性が知られた。

 

 半ば覚悟の上であったし、刀奈の抱えていた煩わしさを取り払う為でもあったので後悔は無い。

 

 しかしながら、やはり中身が何であろうとも『男で世界で最初のIS起動者に重症を負わせた』という事実は、理由がどうであれ事実だし、織斑春人も去ることながら、彼を取り巻く人間達もまた煩わしいものであった様だ。

 

 

「もっと徹底的に先手を打って置くべきだったな。

私の判断ミスだ」

 

 

 織斑春人が無断で学園を抜け出し、帰ってきたかと思えば顔の半分が倍以上に腫れた大ケガをしていた。

 そんな話が夏休みといえども学園全体に広がるのは然して時間は掛からず、広めたのは織斑春人の『友人達』だった。

 

 どうやら広めた本人達は異様に何かに怯えた様子の千冬から聞いたらしく、更に言えば誰が春人に重症を負わせたのかという余計な事までしゃべってくれたらしい。

 

 お陰でそれまで噂程度でしかその存在が確認されなかった謎の用務員――つまりイッセーの事が少しとはいえ他の生徒達にも知られてしまったのだ。

 

 

「アイツ等にバレた所でイチ兄に何も出来やしないのは解りきった話だけどよ……」

 

「ああ、それ以上に問題なのは、私のあの姉だ。

あの人も相当春人に入れ込んでいたからな……間違いなく余計な事をしてくるだろう」

 

「篠ノ之博士かぁ……。

確かにあの博士なら色々と仕返ししてくるかも」

 

 

 ここ数日は学園長に呼び出されて事情聴取を受けていて用務員室に不在なイッセー。

 本人は何時クビにされても構わないと本当に思っているせいか、下手な言い訳もしていない。

 

 今の状況を考えればその方がイッセーとっても、リアスにとっても良いのかもしれない。

 だけどそれは、2年前までならの話だ。

 

 

「あの姉が仕掛けて来るのであれば、私が終わらせる」

 

「ああ、そうだな、その時は俺も動く。その為に覚えてきたんだ」

 

 

 今のイッセーとリアスは繋がりを持ちすぎた。

 箒と一夏に始まり、刀奈、虚、本音、シャルロット、真耶……。

 

 繋がりを持たせてしまったのは自分達である。

 背負わせてしまったのは自分達の責任である。

 

 ならばそのツケは自分達で何とかしなければならない。

 それが『生きる事は逃げない事』という事を教えてくれた二人への恩返しに繋がるのだから。

 

 

 

 

 力を壊された。

 プライドも砕かれた。

 

 刀奈の傍に平然と近づいた知らない男に。

 

 

「…………」

 

「日常生活を送る分には問題はありません。

ですがその……普通ならとっくに引いている筈の顔の半分の腫れは……」

 

「そ、そんな……! 何とかしてください!」

 

 

 結局男が誰なのかは解らなかった。

 神によって手に入れた力もろとも叩き込まれた拳は、男の言った通り、治らなかった。

 千冬があらゆる医療機関を駆けずり回って見せても、殴られた事で破壊された顔の半分は修復が出来ない。

 

 

「顔の半分に器具を埋め込み、無理矢理固定する事でなんとか誤魔化せるかもしれませんが、そうなると顔の半分は麻痺が残って二度と自分では動かせなくなる可能性が……」

 

「そんなバカな! 第一何故治せないんですか!?」

 

「我々にもわかりません……申し訳ありません」

 

 

 絶望に打ちのめされる千冬が何も言葉を発せずに俯く、顔半分を包帯で覆われた春人を心配そうに抱える。

 あの男の言った通り、死ぬまで治らない傷を抱えながら生きなければならない。

 

 持て囃された容姿が徐々に破壊されていく恐怖を常に抱きながら……。

 

 

「どうして春人さんの傷が治らないのですか!?」

 

「私だって知らないわよ!! 春人をあんな目に逢わせた用務員の男……! そいつだけは許さないわ!」

 

「当然だ。だが今報復に動けば学園側の処分は免れないし、教官も今は待てと言っている。

だから我慢するんだ……」

 

「くっ……! ねぇ簪! アンタが抜け駆けして春人をアンタの実家に連れてったからこうなったんでしょう!?」

 

「わ、私は……」

 

「落ち着いてください鈴さん。

それより簪さんはその用務員とやらの男を直接見たのでしょう? どういう男なのか教えて頂きたいのですが」

 

「………」

 

「何故黙る?」

 

「……………」

 

 

 春人の友人達もまた用務員の男に対する恨みを募らせていく。

 あの日直接春人の姿を見てしまった簪だけがほんの少しだけ違うものを感じながら……。

 

 

 

 

 もし鉢合わせしたら確実に襲い掛かかるだろうセシリア、鈴音、ラウラが夏休みの最終日まで保健室とは違う学園の医療施設で過ごす事になり、病室に押し掛け続ける中、簪だけはあの日の春人の刀奈に対する異質的な執着を目の当たりにしてしまったこともあってか、付き添う気分になれずに学園に戻った。

 

 

『キミのガールフレンドはほったらかしで良いのか?』

 

『簪は今関係無い! 良いから勝負しろ! それとも逃げる気か!!』

 

 

 思い出すのは、あの日姉の婚約者候補で、学園の用務員でもあったらしい男の言葉に対して返した春人の言葉。

 まるで刀奈を求める事が理由で自分達の事はどうでも良かったと言われてしまった様な虚無感。

 

 思い出せば自分は刀奈に近づくだけに優しくされてただけだったという不信感だけが簪の精神を揺るがせていく。

 

 

(私は春人が姉に近づく為の道具だったの? なんとも思ってなかったの……?)

 

 

 優しくしてくれた。

 自分のコンプレックスを解ってくれた。

 そう思っていたのに……。

 

 やっと自分というものを手に入れられると思っていたその支柱が崩れていく様な気分に墜ちながら簪は他の女子生徒達とすれ違う度に聞こえる言葉に耳を塞ぎたくなった。

 

 

「見てよあの子、生徒会長の妹よ?」

 

「あの子が弟君を家になんか連れていったから大ケガをしたんでしょう?」

 

「抜け駆けなんてしなければ怪我なんてしなかったのにね」

 

「っ……!」

 

 

 知りもしないのにありもしない事を言われる簪は、とそうじゃないと叫びたかった。

 実家に連れていったのも、姉の事を話した途端春人から強引に持ち掛けられたのだ。

 

 あの時は、断ったら春人に嫌われてしまうという恐怖があったから渋々連れていっただけ。

 全部が全部自分のせいではないと言い切れる事ではないとはいえ、それでも簪はすれ違う度に向けられる悪意に耐えきれずに走り出した。

 

 誰も居ない場所を目指して、ただひたすら走り続けた。

 

 

「なんでこんな事に……。全部私のせいなの……?」

 

 

 どれくらい走ったのだろうか。

 校舎からも寮からも離れ、人工的に作られた木々の生い茂る地帯まで走った簪は、息を切らしながら大木に背を預けて座り込んだ。

 誰もが簪のせいだと悪意を向ける。

 

 最早この学園に自分の居場所が無いと言われているかの様に。

 そして春人は助けてくれない。

 まさに詰みを感じさせる絶望的な状況に簪はその視界を涙で滲ませていく……。

 

 

「…………本音?」

 

 

 そんな時だったか。

 普段は殆ど人が通らないこの場所を歩く本音を見たのは。

 いや、本音だけではない。虚や姉の刀奈――それから春人の兄である一夏やその一夏と常に一緒に居る箒やシャルロットまでもが何やら話し合いながら歩いていた。

 

 

「ここは何も無い筈なのに……。

あっても殆ど使われてない訓練所があるだけ……」

 

 

 一体何なのだろうか? 自分とは違ってとても楽しげにしている本音や笑っている刀奈に対して少しだけどす黒い気持ちを抱きつつも、簪は姿が見えなくなるかならないかの距離を上手く保ちつつ後を追ってみた。

 

 

「………やっぱりここに入ったみたいだけど」

 

 

 そして簪が考えた通り、普段から他の生徒達も校舎から遠いからとまったく使用されてない訓練場に入っていったのを確認する。

 

 一体こんな場所に何の目的で入ったのだろうか……? 今現在、孤独感を感じてしまっていた簪は中に入ってみたくなり、フラフラと入り口の扉に近づこうとしたその時だった。

 

 

「あら、アナタは……」

 

「っ!?」

 

 

 扉に手を伸ばしたその瞬間、背後から女性の声が聞こえ、心臓が飛び出る様な感覚と共に勢いよく振り返ると、そこに居たのは類を見ない美貌の赤い髪の保険医――リアス・グレモリーだった。

 

 一度だけ見たことがあったが、千冬が春人がらみで危機感を剥き出しにしていて、それに関しては同意していた相手とまさかこんな所で鉢合わせして声まで掛けられたせいか、簪は完全に挙動不審になっていた。

 

 

「あ、あの……そ、その……!」

 

「大丈夫だから落ち着いて? ……もしかして泣いていたの?」

 

「っ!?」

 

 

 こっちが千冬に倣って勝手に敵意を向けていた相手だったというのもあり、言葉が見つからずに戸惑っていた簪に優しく落ち着く様促すリアスに目元に涙の跡が残っている事に気付かれてしまい、慌てて眼鏡を外して乱暴に袖で拭こうとする。

 

 

「別に誰にも言わないし、笑わないから大丈夫よ……」

 

「ぅ……」

 

「ほら、そんな乱暴に目を擦っちゃ駄目」

 

 

 そんな簪にリアスは持っていたハンドタオルを渡してあげる。

 まさかの相手に久々に優しくされたというのもあるせいか、簪はただただ戸惑ってしまう中、リアスは微笑む。

 

 

「どうしてここに?」

 

「わ、私の姉がここに入っていくのを見たから……です」

 

 

 優しく訪ねるリアスに、簪は泣いていたのを見抜かれた恥ずかしさからか、少し俯いてもじもじとしながら姉の刀奈がこの場所に友人達と入っていくのを見て気になったからと話す。

 

 

「そう……。えっと、お姉さんが何をしてるのか気になるのね?」

 

「…………」

 

 

 何故だか知らないが、リアスの質問に素直に答えている自分にちょった戸惑いながらも頷く簪は、千冬が春人を近づかせ様としなかった理由がなんとなくわかった気がした。

 

 

「そっか……。

でもその……アナタのお友達の事は良いの?」

 

「……。春人は織斑先生や皆が居ますから。

それに私は、私のせいで春人が大怪我をしたって思われてるから……」

 

「……………」

 

 

 どこにも居場所が無くなった。

 そう吐露する簪に、リアスは『そう……』とだけ言う。

 刀奈達を拒絶し、あの転生者に付いていってしまったら、結局は刀奈に執着を持っていた転生者にほぼ利用されたも同然に扱われ、挙げ句の果てに怪我をした戦犯扱いまでされた。

 

 そう考えるとある意味で簪も憐れな子だ……とリアスは思った。

 

 

「でもアナタはお姉さんに色々と言ってしまったのよね?」

 

「そ、それは……」

 

「私はあの子とよく話しをするから色々と聞いてるの。

肉親に拒絶される辛さはよく解るから……。

アナタに言われた事はあの子にとって深い傷になってい る……それは解る?」

 

「で、でも姉は私に『何もしなくていい』って言った……! 私はその言葉に傷ついたのに……!」

 

「……アナタ達のご実家の事はある程度聞いてる。

確かにあの子にも言葉が少し足らなかったのかもしれたいけど、アナタに家業を継がせずに普通の女の子として生きて貰いたかったからって言ってたわよ?」

 

「そ、それは押し付けです! 私は……!」

 

「ん、アナタの考えにも確かに一理あるわ。

だったら今ならもう一度だけ話し合えるチャンスがある。

ここで引き返すか、それとも話し合ってみるか……どうしたい?」

 

「私は……」

 

 

 親兄弟を完全に見限った自分とは違い、まだギリギリ刀奈と話し合える余地が残っていると見たリアスは、優しく――根はなんだかんだ言っても『悪魔らしい』言葉で簪に尋ねる。

 

 そうとは知らない簪はとても揺れていた。

 もしかしたら、自分が言ってしまった事について……そして言われた事について今一度話し合えるのかもしれないと。

 

 

「…………」

 

 

 決して和解するとかではない。

 ただもう一度、喧嘩になってまでも話してみたい。

 

 だから簪はリアスの差し出すその手を………掴んだ。

 

 

 

 

 

 リアスの差し出した手を掴んだ簪は、そのままリアスに連れられる形で、初めて入る訓練場の中へと入った。

 そしてそこで見たのは……。

 

 

「クビになる前だから、今の内に教えられる事は教えておく」

 

「く、クビになるって決まった訳じゃないじゃないですか……」

 

「い、今までで一番ハードだぜ……」

 

「まだイッセー兄さん達には届かないか……」

 

 

 

 姉の刀奈、本音、虚、一夏、箒、シャルロットといった面々が疲労困憊とばかりにその場に倒れていて、その中心には春人に大怪我をさせたあの男が平気な顔して佇んでいるといった姿だった。

 

 

「あ、あの人は用務員の人……!」

 

「そういえばこの前会ったのよね? イッセーに」

 

「イッセー? それがあの人の名前なんですか……?」

 

「ええ、アナタのお友達に話したければ話しても良いけど……あんまりオススメは出来ないわね。」

 

 

 どうやらリアスは彼を知っているらしく、そのまま手を引かれる形で訓練場に連れていかれる簪は、流石にパニックになった。

 何せあの用務員にそもそもどう思われてるか――いや、確実に良い感情は向けられていないと思っていたので、顔を見られたら何を言われるかが怖かった。

 

 

「イッセー」

 

「ん、リアスちゃんか、遅かったじゃんか。

先に始めてたぜ?」

 

「り、リアスちゃん……?」

 

 

 そんな戦々恐々状態で連れていかれた簪は、リアスの背中に隠れて様子をびくびくしながら伺うと、イッセーという名の男はまるでそっちが素でしたと言わんばかりのフランクさでリアスの姿を見るや否や、子供みたいに笑うのだ。

 

 もっとも、リアスちゃんだなんで呼ぶイッセーに思わず驚いてしまった簪に気付いたその瞬間、真顔になったのだが。

 

 

「………。何でそれが居るんだよ?」

 

「偶々表であったのよ。

刀奈達がここに入るのを見て、何をしているのか気になったみたい」

 

「か、簪……!?」

 

 

 背中に隠れる簪がリアスによって隣に立たされると、疲労困憊で気づくのに遅れた刀奈や本音達がびっくりしている。

 ここ暫く素っ気ない姉の態度しか見てなかったので、この表情は簪にとって久々だったが、言葉が見つからず俯くしかできない。

 

 というより、自分を見た瞬間興味の無いものを見るような顔に変貌するイッセーの露骨な変わり方に軽く心が折れそうになっていた。

 

 

「例の織斑春人が怪我したままじゃない? その原因がこの子にあるからって学園の生徒達に思われてしまって居場所が無いみたいなのよ。

だからつい連れてきちゃったわ」

 

「自業自得だろうそんなものは。

あのガキが勝手に喧嘩吹っ掛けてきて、それに負けたら自分のせいにされて被害者面ってか? ふん、どいつもこいつも都合の良い……」

 

「……………」

 

 

 吐き捨てる様な辛辣な言葉に簪は何も言えなかった。

 確かにもしも母があの時の様子を撮っていた映像を公開していなければ、一方的にイッセーが春人に暴行を加えたと捏造されて広められていた可能性の方が高かったし、現に公開しても尚イッセーが悪いという風評になっているのだ。

 

 

「で、この子の妹が覗く理由は何だ?」

 

「もう一度だけ刀奈とちゃんと話がしたいそうよ。

どうやらあの日以降、少しだけ考え方が変わったみたい」

 

「え、わ、私とですか?」

 

「かんちゃん……」

 

 

 俯く簪の代わりにリアスが代弁する。

 すると刀奈は少し戸惑い、本音はちょっと心配そうな表情に……そしてイッセーは――

 

 

「話をするのは勝手だと思うが……ふん、前に言ってた通りだな。

散々この子に対して拒絶の言葉を吐いておきながら、テメーの都合が悪くなったら今度は話してみたいだァ? これに関しては無関係だけど、個人的に言わせて貰うなら―――俺が刀奈の立場だったら、二度とそんな都合の良い台詞をほざけねぇくらいにぶちのめすぞ」

 

 

 かつてリアスを裏切った者達を捻り潰した時を思わせる程に辛辣だった。

 塩を通り越して最早激辛タバスコ対応だった。

 

 

「イッセー、相手はまだ子供なんだから……」

 

「ガキかもしれないが、テメーが発言した言葉の意味すら理解しない歳じゃないだろ。

わかってると思うけど、仮にどれだけこの子――刀奈の方に落ち度があったとしても、俺は刀奈の肩を持つぞ。そんな俺を大人気ないと言いたきゃ言えば良い。だが、俺は刀奈がこの妹に言われた言葉で泣いた時の事は絶対に忘れない」

 

「…………………」

 

「……。だがまあ、刀奈がもう一度話し合いたいってのなら俺は止めねぇ。

和解できんならすりゃあ良いさ。……それでも俺はその妹を永遠に他人と認識し続けるがな」

 

 

 そう言いきってから背を向けてしまうイッセーに誰も何も言えなかった。

 かつてリアスが両親や友人だった者達に向けられた悪意や敵意にどれだけ傷ついたのかを知っているから。

 

 だからこそ、掌を返す者は総じて嫌いなのだ。

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「は? 俺に謝る理由がわかんねーな?」

 

「だ、だって私が春人に言われるがままに家に連れてきてアナタに会わせてしまったからお仕事もクビになるかもしれないって……」

 

「そんな事はどうでも良いんだよ。

つーか何だお前……? 俺にさっさと要らん謝罪をする前にすることがあんだろ?」

 

「あぅ……!」

 

 

 そもそも簪に謝られる理由も、謝られた所で何も感じないイッセーは、辛辣な言葉を変えない。

 そのせいで簪が泣き出してしまったが、かったるそうに振り向いたイッセーの目は――あの時千冬に向けた者と同じ、完全に見下してる目であった。

 

 

「ご……めんなさぃぃ……!!!」

 

 

 結果、そこら辺に落ちてるタバコの吸い殻以下のなにかを見るような目をするイッセーに耐えきれなくなった簪は、決壊した涙と共に刀奈や本音達に謝った。

 

 それはもう……見てた一夏や箒やシャルロットですらちょっと可哀想に思えてくるくらいに泣きじゃくって……。

 

 

「はぁ……」

 

「お疲れさまイッセー」

 

「……。言っとくがリアスちゃん、俺が言った事は本音だかんな。

別にアレがどうなろうが知らねーし」

 

「はいはい、分かってるわ……ふふっ」

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 凄まじい辛辣さによって大泣きした簪と刀奈達の話し合いがどうなったのかまではイッセーは知らないし、知ろうとも思わなかった。

 

 ただひとつ言えるのは、その日を境にこそこそとついてくる事が多くなったぐらいか。

 

 

「…………」

 

「あ、あの……」

 

「見てわかんないか? 今仕事中だ」

 

「は、はい……」

 

 

 頑固なおっさんのごとく簪に対しては辛辣で無愛想を貫くイッセー

 どうやらその後の刀奈達のやり取りからある程度はその関係を修復した様だが……。

 

 

「チッ、甘い子達だ。

また何時掌を返されるかわからないってのに」

 

『逆にお前は警戒心が強すぎやしないか? どう見ても無害な小娘だろ』

 

「無害だから困るんだ。

少しでも害がありゃ粉々にしてやれるってのに」

 

『………』

 

 

 一度自分が認めた者を裏切った者に対する辛辣さが凄まじいとドライグは過去が過去なだけにそれ以上は何も言えなかった。

 だがしかし、処分が決まる日が迫るある日、事件が起こった。

 

 

『さてと、この天才の束さんの大事なハル君にふざけた真似をした奴はバラバラにするにしても……そんなハル君を裏切った簪って子も許せない』

 

 

 大量の無人機が学園を襲撃した日。

 その元凶たる篠ノ之束は簪の事を、春人を裏切った者と認識し、まとめて消すつもりだった。

 それは束のみならず、セシリアも鈴音もラウラも――

 

 

「あの男についた簪なんて……もう要らない……」

 

 

 春人までも。

 ただ一人、千冬だけはあの日のトラウマがあったせいか消極的だったにせよ、簪まで狙われる事になってしまった。

 

 だが簪は再び見た。

 

 あの日春人が持っていた全てを焼き尽くす刀ごとへし折ったイッセーの腕を覆っていた赤い装甲を……。

 

 

「ひとつ、教えてあげましょうか……イッセー!!」

 

「おうよ!!」

 

 

 そしてリアス・グレモリーと兵藤一誠が生身で大量の無人機を蹴散らすその異質なパワーを。

 

 

「久々にやるかドライグ? 赤龍帝の籠手・禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 

 その全身に赤い装甲を纏った姿を。

 

 

「行くぞ!!」

 

 

 全身から燃える様な輝きを放ち、その輝きを両手に集束させていく姿も。

 

 

「ドラゴン――――

 

 

 

 

 

 

―――――――波ァァァッーー!!!!!

 

 

 

 全てをなぎ倒す赤き閃光を。

 

 

「ひょ、兵藤一誠……リアス・グレモリー……お、思い出した。

何で……どうしてあの二人がっ!?」

 

 

 お伽噺の様な光景を。

 間違いなくイッセーにしてみたら物のついででしか無かったのかもしれないけど、それでも助けてくれたその背中は――

 

 

「………………」

 

「チッ。おい、アレは何で一々こっちを見る? なんとかしろよ? 俺がいくら言っても止めやしない」

 

「い、いやー……あの日以降、妙にイッセーさんの事ばっかり聞いてくる辺り、アレなんじゃないかなって……」

 

「アレってなんだよ? ………いや言うな。ミーハーだったなんてオチなんて聞きたくもねぇ」

 

 

 

 

 

「ねぇかんちゃん……? 本当にやめた方が良いって。

見ての通り、悔しいけどイッセーさんはリアス先生しか見てないし、そもそもそうだと知った上で楯無お嬢様とかやまやんは――」

 

「別にそんなんじゃないよ。

ただちょっと気になるだけ……」

 

(だからそれが駄目なんだってば……はぁ。

かんちゃんの趣味にドストライクだったもんなぁ、あの時のイッセーさん)

 

 

 嘘予告




補足

力も顔半分も二度と治りません。

その内ジャギ様みたいな顔に……まあ、仕方ないね。


その2
春人のファンからめっちゃ叩かれて心をへし折り、リアスさんに優しくされて付いて行ったと思ったら例の男が居て、ボロクソに言われてしまったり。

……そら泣くわ。


その3
嘘だけど結果、裏切り扱いされて命まで狙われてしまったけど、もののついでに助けて貰ったその姿を見てストライク入ったとさ。

……イッセー本人はどこかのモモさんばりに毛嫌いしてる悲しき現実だけど。

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