そして、このシリーズだけは後日整理しようと思います
精々頑張ってシリーズ『水色の花嫁編』
8月に入っても用務員の仕事はきちんとある。
設備点検。必要なら補強や軽い清掃等々。
リアスと出会う以前から、年齢を誤魔化して様々な日雇いの仕事をしてきた経験が上手いこと作用してくれているお陰で、一誠の仕事はとても早く、それでいて生徒の少ない時間の合間に終わらせてしまうので、勤務開始から一年が経った今でも、殆どの教師や生徒に存在を知られてすら居ない。
「よし、点検完了っと」
そんな訳で今日も手早く仕事を終わらせた一誠は、帽子を目深く被りながら、訓練場の照明器具のメンテナンスに使用していた仕事道具を片付ける。
「そろそろ時間だな」
身につけている安物の腕時計で時間を確認しつつ、人気の少ない道を敢えて選びながら用務員室を目指して歩くイッセーのルーティンは大体こんな感じだった。
しかし今回のお話はイッセーがメインでは無い。
場所は変わり、IS学園の寮の一室こと更識楯無のお部屋では、覚悟を決める事で一歩一歩進み始めたいた彼女が、珍しく『困って』いた。
「何時かはこういう話が来るとは思ってたけど……。
これは本気で困ったわ」
現在ルームメイトが不在中である部屋で一人ため息を洩らす更識楯無こと刀奈の手には一枚の便箋が握られており、どうやらどこからの手紙であり、その内容について困っているらしい。
一体何の手紙で、何に困ってしまっているのか? どうやら彼女にとっては自分だけではどうにもならない程度には困るものらしく、刀奈の足は自然と『いつもの場所』へと赴くのであった。
「今朝、実家から連絡を受けたのですけど……その、とても困った事になりました」
「困った事?」
用務員室を訪ねた刀奈だったが、中にはリアスしか居なかった。
どうやら主であるイッセーは用務員としての勤務中だったらしいのだが、逆に刀奈としては同性となるリアスの方が相談しやすいと考え、早速話をしてみることにした。
「その、実家が実家といいますか、一応私って当主としての名の楯無を継いでいるじゃないですか?」
「そうね」
「それでその、当主となったからにはやっぱり将来私を
引き継ぐ者が必要になる訳でありまして……」
実家から送られた手紙の内容について説明する刀奈は何時に無く歯切れの悪い言い方をしていた。
しかし、言葉の端をつまんでみれば、どうやら刀奈の困りごとはかつてのリアス自身がそうなりかけたものと酷似していると、経験者故にすぐ理解した。
「つまり、ゆくゆくは貴女の後を継ぐ世継ぎが要るから……えーっと、婚約者的な者が要るって事?」
「……………はい」
物凄く困り顔で頷く刀奈に、リアスはかつての自分がそうなりかけていた事を思い出し、神妙な面持ちだった。
「それは確かに困ったわね。
貴女のご実家の人達は……まさか既に婚約者に相当する人物を用意しちゃってる?」
「ある程度相応しそうな人物に目を付けて、まるでお見合い写真の様に送っては来てます」
「…………。それはマズい展開ね。
いえ、私もアナタくらいの年の頃に同じような事があったから、物凄くわかるのよその気持ちが」
もっとも、リアスの場合は、周囲から見下されたあげく、純血悪魔としての血を絶やさない為だけの道具と見なされて、よりにもよってな相手と無理矢理結婚させられそうになった訳で、刀奈の実家の人達がそんなつもりではない筈だと思っている。
とはいえ、いくら貴族の娘であろうが、暗部女当主であろうが、やはりこの先を共に生きる相手は自分で決めたいという気持ちは同じだ。
ましてや刀奈の場合、既にほぼ事実婚の様な関係の女性――まあつまりリアスが居るとわかってても好きになってしまったという、中々に複雑過ぎて、反対必至な状況なので尚更だ。
「自分のパートナーは自分で決めると返答してみる訳にはいかない?」
「そのパートナーがイッセーさんで、仮に紹介したら間違いなく反対されるかなって……」
「年齢差はギリギリ……どうなのかしらね人間基準だと?」
「ギリギリ大丈夫だと思いたいですけど。
ほら、芸能人はお爺ちゃんみたいな年の人が、孫みたいな年の人と結婚する事なんて珍しくないですし……」
ギリギリセーフであって欲しいといった願望が入り交じった言い方に、リアスも一緒になって悩む。
二十歳前から今まで一切容姿が変わらないという意味では、見た目だけなら確かに問題は無いと思う。
ただ問題はイッセー自身がリアスしか異性としての感情を抱いていないという点なのだ。
相談を受けているリアスも刀奈が本気の本気でイッセーにそういった感情を持っていることを知っているだけに、なんとかしてあげたい気持ちが強い。
「ちなみに写真はあるの? 相手の」
「一応持っては来ましたけどなんでしょうね、顔立ちが良い悪い以前に、イッセーさん以外の異性の顔に何も思えなくなってる自分が居ることに気付いちゃっただけでした」
「……。本当にそういう所を含めて私にそっくりよ刀奈は」
見せて貰った候補者の写真を見てみると、確かに顔立ちも育ちも良い。
だが刀奈の言った通り、良いと思うだけでそれ以上の感想がどうにも抱けない―――つまり、興味が持てなかった。
「経歴を見てみると、暗部系の家系の人ばかりね。
あら? この人は政府のお偉いさんの息子さんじゃないの?」
「ええ……。
でも困った事になんの魅力も感じないんですけど」
「私もそうね。
貴族の息子を宛がわれそうになった時はまだイッセーとは出会ってなかったけど、それでも嫌だったし、出会ってからは最早他の異性に興味が持てなくなったもの」
相手には悪いが、そんな気持ちで婚約を結んで何れは結婚となっても苦痛しかない。
だから、今回も含めて今後こういう手の話はどうやって回避すべきなのかを悩んでいると、仕事道具を片手にイッセーが用務員室へと帰還する。
「あ、イッセーさん……」
「おかえりなさいイッセー」
「……? 二人してどうかしたの?」
戻ってきて小型冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し、グビグビ飲むイッセーを二人してジーっと見ていると、視線に気付いたのか、イッセーはキョトンとした表情だ。
「はぁ? キミに見合い話ィ?」
取り敢えずリアスと一緒になって話をしてみると、冷凍庫から持ってきた氷アイスを片手に、イッセーは微妙に驚いた顔をしていた。
「まだ10代なのに、何でそんな事になってんだよ?」
「実家が実家なので……」
「リアスちゃんと似た理由か。
金持ちってのは、つくづく大変だな」
「でも刀奈本人はそういう誰かが決めた相手とは結婚なんてしたくないのよ。
だからどうしたものかと思って……。ほら、私と違ってこの子の両親は道具みたいに扱ってるわけじゃないみたいだし……」
「ああ、だから困ってたって訳か……」
送られた見合い写真的なものを一応流し読み感覚で見ながら、イッセーは困っていた理由を納得する。
リアスがかつてそうなりかけていた事を知ってるだけに、イッセーもイッセーなりに彼女の悩みをなんとかしてやりたい気持ちにはなっているらしい。
これが仮に刀奈の両親がリアスの両親と同等に娘を道具扱いさえしていれば、物理的な意味で消し飛ばしてやれたのだが、別に彼女の両親にそういった悪意は無い。
……無いからこそ確かに困った案件だった。
「やべぇ、こりゃ確かに困ったな……」
「でしょう? でもこの子の気持ちが解るからこそ、なんとか上手いこと行くようにしてあげたいのよ」
「だな。うーん……」
気付けばイッセーも一緒になってこの局面の乗り切り方を考えていると、刀奈がソロ~っと彼女らしからぬ遠慮がちな様子で手を挙げた。
「あのー……私今思ったのですけど」
「ん?」
「何か閃いたの刀奈?」
本当に何時もの刀奈らしからぬ遠慮がちな上目遣いに、イッセーとリアスが刀奈を見る。
「要はその、こういう事をして貰わなくても、もう居るんだって実家に伝えて納得して貰えれば良いと思うんです。
それでその……えと……」
「? なんだよ、ハッキリ言ってみなよ?」
「あ……そういう事ね」
「は? リアスちゃんはこの子の言おうとしてることがわかったの?」
「ええ、わかったわ。良いわよ刀奈、私に遠慮しないで言ってみなさい?」
チラチラとリアスの顔色を窺うような態度の刀奈の言いたいことを察したらしく、リアスが大丈夫だからと笑みを浮かべて促す。
「た、例えばですよ? 『既に好きな相手が居る』って証明する証拠と一緒に説明するんです。
それで、その相手にイッセーさんとか……」
「……………は?」
「や! で、ですからフリですよフリ! も、勿論イッセーさんが私にそんな事思ってる訳ないのだって百も承知だし、フリでもイッセーさんにしたら私みたいな小娘なんて嫌なのもわかってますよ!? で、でも嘘でも良いからそうすれば実家への時間稼ぎにも……な……なる……からぁ……! グスッ! あ、あぅ……!」
別にただポカンとした顔をしただけなのに、刀奈には本気で嫌がられたと思えたらしく、あたふたしながら最初こそ理由を説明していったのだが、段々自分で言ってて本気で悲しくなってきまのか、最後の方はポロポロと涙を流してしまっていた。
「グスッ……ヒック……うー……!」
「だ、大丈夫刀奈? ………泣かせてどうするのよイッセー」
「お、俺のせい!? 別に何も言ってないんだけど……」
よしよしと刀奈を抱いて背中を撫でるリアスに言われて困惑するだけのイッセー。
つまり、恋人か何かのフリをして誤魔化してしまえという刀奈の提案は時間稼ぎという意味では上手くいけば稼げるだろう。
確かに言われたその瞬間は『何で俺が?』といった気分にはなったが、まさか泣き出すとは思わなかったので、軽く罪悪感だ。
「時間稼ぎになるってんなら、別に良いけどよ。具体的にはどうしたら良いんだ? 俺がキミの両親宛に手紙かなんか書けば良いの? この子の恋人やってます的な」
「え、や、やってくれるんですか?」
「まあ……こういった事を相談できる相手なんて本当に限られてるしね」
「………………………」
「……今度は何だよ?」
「! ぁ……い、いいえ! な、何でも無いです!」
また泣かれるのかと軽く身構えてるイッセーに、涙を拭きながら何でもないと返す刀奈……を、妙ににこやかに見てるリアス。
こうして実家への返事の為に偽恋人作戦―――略してニセコイ作戦がひっそりと開始させるのであった。
……何故か急激にノリノリとなったリアスの先導で。
作戦その1・分かりやすい写真作戦。
「中途半端では駄目よ! という事でイッセー、刀奈をお姫様抱っこしなさい!」
「う、うん……」
「あ、あわわわわ……! イッセーさんに私……!」
屋上で妙に熱いリアスに言われるがままに刀奈をお姫様抱っこするイッセーはシャッターをこらでもかと切られまれて、すさまじく微妙な気分だ。
「お嬢様が過去最大にポンコツ化してしまっています……」
「リアス先生も変なノリになってるし……」
「意外とああいうの好きだからなリアス姉は……」
「イッセー兄さんは逆に顔がひきつってるが」
「……………」
「山田先生、これはあくまでもフリですから……ね?」
「だ、大丈夫ですよ私は。わかってますし……」
一夏や箒達にも事情を説明した上で協力をして貰い、目をグルグルと回しながら真っ赤な顔で横抱きに抱えられてる刀奈とひきつってた顔のイッセーを変なノリに目覚めて激写しまくりなリアスを見ている。
そして作戦は第二段階へ……。
作戦その2・映像にしてみよう。
「イッセー、刀奈と手を繋いでお散歩しなさい! あ、勿論私と同じ繋ぎ方でよ!」
「わ、わかったけど、何でそんなテンションが高いのさ……?」
「グレモリー先生にこんなスイッチがあったなんて知らなかった……」
わざわざ学園の外まで出て適当な公園にやって来たイッセー達は、リアスの指示を受けて行動する。
「こ、この繋ぎ方ってもしかして恋人繋ぎという奴じゃ……」
「え、この繋ぎ方に名称なんてあったの? リアスちゃんと繋ぐ時って自然とこうなってたからよ」
「そ、そうなんですか……。でも嘘でも嬉しいです……えへへ」
「……」
互いの指と指を絡めた繋ぎ方でそこら辺をテクテク歩くイッセーと刀奈。
例え嘘でも質素なデートっぽい状況に、刀奈はとても年相応な笑顔になっていく。
こうしてフリをした写真や映像を返事と共に実家へと返したのだが、その三日後。
「………。実家から呼び出しをくらいました。
イッセーさんと直で話がしたいって……」
「………………………」
「ご、ごめんなさい! この前の私はどうかしていたのよ!」
フリだとバレたら刀奈の両親に八つ裂きにされそうな状況に何故かイッセーが追い込まれてしまうのだった。
「今更アレはただの冗談でしたなんてキミの両親に説明したら、ぶっ殺されても俺は文句も言えねーよ」
「そ、そんな事はさせませんから! そ、それにどうやら他の婚約者候補の人達も同時に呼び出すみたいですし……」
「何でわざわざ……」
「えーっと、私と肩を並べられるだけの実力がある者が相応しく、競わせるとか……」
フェイクの映像や写真が嘘だと見抜かれている訳ではないが、何故か代わりに他の婚約者候補と結婚を賭けて戦わなくてはならなくなってしまったイッセー。
横でひたすらリアスが謝り続けるので、そこは大丈夫だと落ち着かせつつイッセーは、もじもじと上目遣い気味に見てくる刀奈を見ながらため息を溢す。
「だ、駄目ですか……?」
「ここまで来たらやるだけやるけど、マジでどうなっても知らないからな……」
「! だ、大丈夫ですっ! フリだったけど、イッセーさんが好きなのは本当ですからっ!」
「そういう問題じゃないんだってば……。
学歴が中卒以下の得体も知れない野郎なんぞ認める認めない以前に、俺がキミの親だったらそいつを殺してでも遠ざけるよ」
親にはまだなってないが、自分が親の立場だったらと思うと、自分の様な存在はまずあり得ないと考えるイッセーは、巻き込まれたとはいえ、腹を括る事にした。
「じゃ、じゃあ逆に! 逆に私の両親がイッセーさんを認めたら……! 先生という女性が既に居ると知った上でも両親が認めたら、私を貰ってくれますか……?」
「そんな仮定の話をしなくても、キミのご両親は死ぬほど反対するからあり得ねーな」
「こ、答えてくださいよ……! ほ、本当に反対しなかったら……」
「はいはいわかったわかった、ご両親が反対しなかったら考えるよー(棒)」
「!!!? 今言いましたよね!? 皆も今イッセーさんの言葉を聞いてたわね!?」
あんまり袖は通さないが、一応持っていた小綺麗なスーツを用意しながら、あしらう感覚で棒読み気味に返答してしまったイッセー。
「わ、私も良いですか!? 良いですよねっ!?」
「はいはいはいはい! もう何でも良いっすよ!
―――ったく、そんな展開になるわけねーっての」
……この適当な返事が数日後、イッセー自身を後悔させてしまうことになるとは知らずに。
「せ、先生……そ、その……ごめんなさいといいますか」
「あら、私は平気よ。
あの子に本気で惹かれるその気持ちがわかるからね?」
「う、や、やっぱりグレモリー先生が一番の難敵なんだよなぁ」
水色の花嫁編・プロローグ――終了。
事実婚をしている青年は、少女の実家に何故か行った。
「写真と映像を見たが……そもそもキミはIS学園の生徒ではないだろう? 一体どこで娘と知り合ったのかね?」
「学園で用務員をしてます。
娘さんとはその関係で知り合いました」
「ふむ、年齢は28歳ですが、随分と若々しく見えますね?」
「よく言われます」
横に刀奈を置きながらの両親との四者面談。
「しかしこの子が真名まで教えるとは……。余程キミを好いているというのも理解はした」
「お尋ねしますが、娘のどういう所に好意を?」
「……………。この子は普段はこの家の当主らしく振る舞おうと努めてますが、その実は年相応に傷つきやすくて繊細な面もあります。
……………。でもそれを抱える覚悟を持ち、もう一人の娘さんの為に己が覚悟を決めて継いだ――そんな芯が強い所ですかね」
「……………イッセーさん」
「なるほど……随分と娘の事を見ているようだ」
割りとクソ真面目に話すイッセーの台詞に、横で初めて聞いた刀奈が余計ときめいてしまったり。
「無神臓・光化静翔パート」
「! これは……!」
「なんという力……!」
他の婚約者候補とのバトルを制していき……。
「あの……勝手に勝っておきながらと重々承知した上で言います。
俺は……俺には既に愛してる人が居るんです。この前の映像やら写真も全部嘘です。
ここに来た理由は、この子が自分で好きになった相手を自分で探せるようにして欲しいと嘆願する為です」
「ご、ごめんなさい! で、でも私は本当に私の意思で、彼が既に愛してる相手が居るってわかってても彼が好きになったの! だ、だから――」
「「……………」」
八つ裂きにされる覚悟で全てを打ち明けて―――
「………………。婿殿ってマジでなんだよ。
おい、キミの両親はおかしいんじゃないか?」
「や、やった! やったー!! 後はイッセーさんをその気にさせさえすれば良いって言ってくれたわ!!」
「……聞いてねーし。ゲス野郎か俺は」
「グレモリー先生にも負けない! いや、益々負けられないわ!」
「……………。発現までしたし。はぁ……」
少女はその背に見えない翼と共に飛翔する。
赤色の花婿嘘予告……壊滅。
補足
……。えっと、暫くマジで読まなくなったからわからんけど、たっちゃんの両親って原作で出てるんですかね? ……いや、適当にキャラ変させちまえば何とかならんでもないけど。
その2
リアスさん、意外とこういうの好き。
そしてノリノリになりすぎて余計厄介な展開に……。
その3
ま、嘘だしね。
嘘だからな? いやホントに……だって要らんしょこんな展開。