※一番胸糞注意
コカビエル達を殺したのは誰なのか。
転生者の男には解らなかったが、予測は出来た。
(俺以外の転生者が居たとしたら、それならば納得ができる。目的は何なのかは分からないし、味方であるかもわからないが……)
己と同じ別の世界から転生した者。
コカビエルを遠くから始末出来るという事を考えれば、自分と同じように力を与えられた誰だという線が濃い。
だが問題は、仮に予想通りの存在が居たとするなら、果たして目的が何なのか……。敵であるのか味方なのか。
例えこの予想が外れているとしても、転生者の男は今回の元凶を探して捕らえなければならない。
邪魔になるのなら始末する……という意味で。
「気配は全く感じないけど……嫌な感じがする」
「俺もだ」
折角ここまでの人生を楽しく生きてこれたのだ。
かつてその為に、本当の主人公を消してしまった今、突き進むしかないのだ……。
本来はリアスの戦車ではなかった筈の黒歌と共に不気味な程無音な校舎内を歩きながら、転生者の男は誰にも言えない事を改めて誓うのだった。
「……! 待て黒歌……向こうに光る何かが落ちてる」
「うん、私も見えた……懐中電灯だと思うけど」
何かあれば即座に生徒会室に待機させているリアス達に知らせる手はずは整えている状態で黒歌と探索すること数分後。
屋上へと続く階段の途中に点灯したまま落ちている懐中電灯を発見し、拾って調べてみる。
「…………。多分、ゼノヴィアかイリナの物だと思う」
「それがどうしてここに落ちてるの? まさか……」
ゼノヴィアとイリナを先に探す事も考えていた矢先に発見した懐中電灯を拾い上げた転生者の言葉に、黒歌は嫌な予感を抱く。
それは懐中電灯を落としている事にも気づかない程の何かがここで起こったからか……。
落ちていた場所の周辺を二人で念入りに調べてみれば、それはすぐに『当たっている』と気付かされるのだ。
「…………ここに血痕が」
壁のほんの一部に付着している何者かの血痕がそこにあった。
誰の……とは転生者の男も黒歌も口には出さなかったが、状況を考えればこの血痕はイリナかゼノヴィアのどちらかのものであるという考えに行き着くのは自然な事であった。
「今すぐ部長達に連絡するんだ……! どうやら笑えない敵らしいからな」
少なくともこの時点で味方ではないと判断した転生者の男は、直ぐ様黒歌に、生徒会室で待機させているリアス達に連絡をしようと頼む。
黒歌も反対する理由は無く、頷くと同時に持たされていた携帯を取り出そうとしたその瞬間だった――
「うっ……!?」
「! 黒歌!」
「大丈夫……! けど向こうから何かを投げられたわ!」
拳程の大きさの固い石が飛来し、黒歌の手から携帯が弾き飛ばされたのだ。
石が廊下の床に落ちると同時に携帯も落ちて、画面が割れ、黒歌は痺れる手を抑えながら飛んで来た方向を睨む。
転生者の男も同じように真っ暗で見えない方向を睨むと、革靴の底に打った金の音を立てた足音が聞こえ、徐々に何かがこちらに近づいてくる。
「「………」」
その時点で黒歌も転生者の男も戦闘体制に入る。
どちらも相手が分からないが故の緊張感に少し呑まれている中、窓に射す月明かりによってその姿は足元から始まり……やがてその全貌が露になる。
「今度も二人か……くくく!」
上から下まで真っ黒なスーツに黒いネクタイ。
それはまるで喪服であり、カチッ、カチッ、と黒い革靴の底の音をさせながらやって来た者は青年だった。
年は転生者の男達と変わらなそうな青年で、深めの茶髪。顔立ちはそこそこ――と、格好以外はそこら辺に居そうな一般人に思えた。
だが、その目と表情は『悪意』という概念を表現したかのように邪悪に歪んでおり、転生者の男と黒歌の二人も、目の前の男が『善人では絶対ない』と直ぐに理解した。
「誰……? この学園の生徒じゃないみたいだけど」
完全に警戒する黒歌が問い掛ければ、男は――いや、イッセーはニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべたまま口を開く。
「それは隣に居る彼に聞いたらどうだ?」
「は?」
ニヤニヤニヤニヤと、生理的な嫌悪すら感じる嫌らしい笑みを浮かべるイッセーの言葉に、キョトンとなった黒歌が隣に居る転生者の男を見る。
しかし彼もまた目の前の男が誰なのかが分からず、怪しげな物を見るような表情だ。
「いや、俺も知らないぞ」
「そう言ってるけど?」
確かにこんな男の知り合いになった事は無い転生者の男は首を横に振り、黒歌も再びニヤニヤしているイッセーを睨む。
するとイッセーは大袈裟なリアクションで残念そうにとても思えない胡散臭い表情を浮かべる。
「マジかよ~? 俺はある意味忘れてねーってのに、キミは忘れちまってるとは寂しいなオイ?」
「知らないものは知らない。
それよりお前、こんな所に居るということは―――」
「忘れたのか? この俺を、兵藤一誠を?」
「―――――――――っ!?!?」
ペースに飲まれてはならないと主導権を奪おうとする転生者の男の顔が驚愕と共に真っ青に染まる。
「兵藤一誠……?」
当然黒歌は名を名乗られても知らない。
だが転生者の男は明らかにその名前に対して過剰な反応を示していた。
当たり前だ。
何故ならその名前は転生者の男にとって過去のものであり、存在しない筈のものであるのだから。
「う、嘘だ……! そ、そんなバカな! お前が兵藤一誠な筈が無い!!」
明らかに狼狽えながらも否定する転生者の男。
それに対して、イッセーはニヤニヤとした顔に再び戻る。
「その狼狽えっぷりからして、思い出したみたいだなァ? くくく、死んだ筈――いーや、テメーがぶっ殺した筈の野郎が生きてた事がそんなに不思議か? 言っとくが幽霊じゃねーぜ?」
「殺し……た……?」
「で、デタラメを言うな! 黒歌! コイツは俺たちを惑わす為に言ってる戯言だ!」
「おやおや? お仲間には人殺しをやった事は話して無いのか? 良い子ちゃんに思われたいってかァ?」
「黙れ!!」
見下した様な笑みで煽られ続けた転生者の男が激昂し、イッセーに襲い掛かる。
普通なら黒歌も共に連携をする為に並走するのだが、イッセーの言葉と、転生者の男の狼狽え方のせいか、立ち尽くしていた。
「お前がコカビエル達を殺したのだろう!? ゼノヴィアとイリナをどうした!!」
転生者の男は本物にせよ偽物にせよ、早急に目の前の男を消さなければいけないと、全身から光を放ちながら突撃する。
与えられた力を鍛えてきた自信なのか、負ける気は毛頭無いと……。
しかし対するイッセーは近づいてきた転生者の男を前に構えといった動作も無く、ただニヤニヤと嗤っていた。
そう『避ける必要が全くない』と云わんばかりに。
「喰らえ――――」
「クククッ……」
何故なら、確かな殺意を込めた一撃がイッセーに向けられたその瞬間―――
シャクッ!!!
「っ!?」
「ははは、バーカ」
同じく最狂の相棒が全てを喰らい尽くすのだから。
「ぐはっ!?」
何かが横から転生者の男を殴り、男は壁を派手に壊しながら倒れる。
(な、何かが俺を……!)
しかしダメージは少なく、直ぐに立ち上がれた男は、一体何者なのだと頭を振りながらイッセーと名乗る男を見て―――――
「し、白……音……?」
立ち尽くしていた黒歌が茫然とした表情と共に呼んだその名前の通りの白く、小さな少女に愕然とした。
「…………。一応、久し振りと言うべきなのかな、黒歌姉さん。
……平穏無事に生きてるみたいで安心したよホント」
「ほ、本当に白音なの!?」
(ば、バカな……確かに記憶で見た白音そのものだけど、なら何で奴と一緒に居るんだ……!?)
ニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべたイッセーの横に立つ白髪で小柄な少女は間違いなく白音本人だった。
それは長年探していた黒歌にもすぐ解ったし、解ったからこそ、やっと再会出来た妹――いや、生きていてくれた妹に黒歌は涙を浮かべていた。
「生きていて、くれたんだね……? 良かった……良かった……!」
「……………」
「黒歌、この子がお前の妹なのか……?」
「う、うん……! 間違いないにゃん、本物の白音よ……!」
涙を流しながら喜ぶ黒歌の言うことだから確かに白音本人で間違いは無さそうだが、転生者の男はイッセーと名乗る男と共に居る事が引っ掛かってしまう。
「し、白音……! これまでどうやって――いえ、そんな事はどうでもいいわ! 私は今リアス・グレモリーの眷属なのよ、奴等とは違ってリアス・グレモリーは信用できる! アナタの事もきっと受け入れてくれる、だからまた一緒になりましょう!?」
「……………………また、黒歌姉様と一緒に暮らせるの?」
「そうよ! 必ず私が交渉してみせる! だからこっちに……!!」
「………………」
ゆっくりと言葉を受けて黒歌のもとへと歩く白音がフッと表情を緩めていく。
「また黒歌姉様と一緒……」
「白音……!」
(な、何故だ、兵藤一誠を名乗るあの男はさっきからニヤニヤとふざけた顔をしてるだけで口を挟まないんだ? ひょっとして黒歌と再会させるつもりでこんな事を……?)
表情を緩ませながら黒歌の前に立ち、両手を広げる白音を……ずーっとニヤニヤしながら見てるだけのイッセーの事がずっと引っかかる転生者の男は嫌な予感が払拭できないまま、嬉しそうに涙を流して妹を抱こうと手を伸ばした黒歌を見て―――――
「また一緒に――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――……………………………………なんてよくほざけたなァ、このクソボケがァ……!」
表情を緩めていた白音が、憎悪の形相に変貌していく様を見てしまった。
「え……」
突然の変化に思考が追い付かない表情の黒歌がそう短く声を発したその直後……。
「嬉しいよホント……この手でぶち殺せるんだから、笑ってしまうに決まってるだろ? え?」
黒歌の身体は白音の細いその腕に貫かれた。
「く、黒歌ァ!!!」
目の前の光景が信じられずに叫ぶ転生者の男が飛び掛かろうとする……。
だが……。
「おいおい、地獄に行ってもこんな面白い殺戮ショーは見られねぇと思うぜ? だから邪魔すんなよ? 今めっちゃ良いとこなんだからさァ?」
「ギィッ!?」
それまでニヤニヤと見ていたイッセーが転生者の男の頭を掴み、床に叩きつけたのだ。
「ぐあっ!?」
「大事なカキタレが殺られそうだからって助けるってか? 実にテメーらしい動機だぜ?」
「は、離せ! 離せぇぇぇっ!!!」
「ガキの頃、そうやって命乞いした俺達をテメーは無視したよなァ? つまりテメーの言うことを聞かなくても俺は『悪くない。』
なぁに、心配するなよ? 白音が殺したくて仕方なかったあの無駄乳姉をぶち殺した後、テメーも同じ所に送ってやるからさぁ? ククククッ!!」
(こ、コイツ……! イカれてやがる……!!)
腕を取り、背中に乗って頭を踏みつけられる転生者の男は、狂った形相で嗤うイッセーに、寒気を覚える恐怖を抱く。
だからこそここで確実に消さなければならないと判断した男は、その力を完全に解放しようとするのだが…………
「……!?」
力が使えない。
それどころか力が抜けていく感覚に今始めて男は錯乱する。
「力が……で、出ない……」
呼吸をするように扱えた力が全く使えない状況に、男はそれでも引き出そうとするが……使えない。
それを頭を踏みつけていたイッセーはニヤニヤして口を開く。
「ご自慢のお力は使えないみてーだな? くく、白音に喰われた時点でオメーは終わってんだよ」
「く、喰われただと……!?」
「白音はあらゆる概念『喰って進化』する。
……そしてアイツに喰われた全ては二度と治ることは無い。
あの姉が幸福に生きている事への憎悪によって生み出したアイツだけの力は俺以上に凶悪なのさ。
ああ、つまりテメーはただのボンクラに戻ったって訳だ」
ニヤニヤしながら力を奪い取られたと説明された転生者の男は無理矢理血を吐きながら『絶望』の眼差しを白音に向けている黒歌の姿を見せられる。
「や、やめろ……!」
「おいおい、テメーのお気に入りのカキタレが実の妹に殺されるという、最高の光景を前に見ないは無しだぜ? ちゃんと見ろよ? んー?」
「やめろ! やめろォ!!」
「叫んでも下の悪魔共には聞こえねぇし、そんなに叫びたいなら叫びながら見な? おっと、この光景をちゃんとビデオに撮っておかないとなァ? ククク」
無理矢理視界を固定され、更にはビデオカメラでニヤニヤしながら白音に貫かれて大量の血に染まる黒歌の姿を撮影し始めるイッセー。
転生者の男はこの時点で悟った、恐らく彼は確かに本当のイッセーであり、自分のせいで精神を壊してしまったのだと。
「お、俺が悪かった……! だから黒歌は……!」
今更……本当に今更になって後悔した男の口から自然とその言葉が出てしまう。
だがカメラのファインダーを覗いているイッセーは言う。
「心配しなくてもお前は今殺さねぇよ。
お前の殺し方はもう決めてるからねぇ?」
「………………」
聞く耳持たぬとはまさにこの事だろう。
愉快でしかたないといった声で嗤うイッセーはもう罪悪感という名の精神のブレーキを破壊してしまったサイコパスなのだから。
「し、しろ……ね……! ど、どうし……て……?」
「どうしてと良く聞けるなアンタ? ゴミを漁りながらしか生きていけなかった私とは反対に、アンタは他の悪魔に取り入って安全な生活をのうのうとしてた時点で殺したくもなるだろう?」
「ち、違……! そ、それは白音の為……に……!」
「ほほー? 私の為? そう言えば全部許されると考えてたのなら、おめでたい脳みそしてるよね。
まあ、感謝はしてるよある意味。アンタがのうのうと生きてくれたお陰で、私は『自分の本質』も知れたし、イッセー先輩と出会えた。
ふふ、あの人は本当に最高だよ……アンタと違って私の傍にずっと居てくれたし、力の使い方も教えてくれた。
それはこれまでも変わらない。アンタのお気に入りの竿野郎と違って、あの人は私だけしか抱かない。
私だけしか見ない………アンタは私を取り込んでそこの竿野郎のモノの一人にさせようとか思ってたみたいだけど――――――ねーよボケ」
そして白音もまた精神のブレーキを壊してしまった者。
「アンタを殺せば、私の過去は清算される。
そんなに妹が大事に思うんだったらさぁ? ………死んでよ?」
「ぁ……」
絶望に染まる姉の身体をそのまま引き裂き、血に染まる白い猫もまた……。
「ふふ、ふふふふっ! あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははァ!!
やった! やっと私の過去の全てを壊せた! やりましたよイッセー先輩! えへへ、ほら! 完全に殺してやりました!」
「よ~し! よしよしよしよしよしよし! 立派だったぞ白音!」
「そ、そんな……」
吐き気を催す邪悪に染まりきっていたのだから。
「ど、どうして……自分の姉を……」
「まーだ善人面してるのですかこのバカは?」
「お気に入りのカキタレがぶっ殺されてショックなんだろうよ? まあ、すぐにでも後を追わせてやるんだから、俺達って良い奴だよなぁ?」
「ホントですよ。取り敢えず残りはどうします?」
「奴等は後だ。まずは奴等にこいつ等がくたばった事を親切に教えてやろう……。
コイツを連れて行くぞ」
数日後、運良く後回しにされたリアス・グレモリー達は、行方不明になった眷属達を心配して精神的に弱っていた所に差出人不明の小包が大量に届いた。
小包の中身は妙な物が入った額縁で当初は解らなかった。
しかし、よく見てみるとそれは人体の一部であることに気付き、その額縁を外して並べてみると…………………
『ひぃぃっ!?』
ホルマリン漬けにされた輪切りの転生者の男が完成した。
絶望と苦痛に歪んだ形相で、足の先から頭の先まで鋭利な物で生きたまま細切れにされたのだろう。
…………そのあまりの悲惨な仲間の死を知ったリアス達は、その日以降、学園を辞めて冥界の実家に引きこもり、精神を病んだのは仕方の無いことだろう。
「はぁ……♪ ねぇ先輩、身体も進化したし、今の私でも子供が産めると思うんですよね?」
「ガキなんか作ったら身動きが取れなくなるだろ」
「うーん、そう言われたら確かにそうですね。
先輩がもし子供にばっかり構ったしたら、思わず子供を殺しちゃうかも?」
「俺もお前も人の親にはなれないって事だな……」
「でも先輩に愛して貰える事はできます。
ふふ、私は先輩専用ですから……」
その元凶は呑気にイチャイチャやってるという、救い様の無いゲスさだった。
補足
輪切りのソルベさんにされましたとさ。
そして黒歌さんまでも……。
その2
しかも宅急便で二人の『飼い主』に送りつけるというソルベさんムーブをしておきながら、家でイチャイチャやってるゲスっぷり。
その3
やっぱ暴因暴喰の凶悪さはやべーっすね。
シャクシャクするだけで相手の力を喰い壊して二度と治させないし、食った分無尽蔵に進化するし。
このネオ白音たんの場合、一誠の血液の殺人ウィルスですら取り込んで糧にしてるから尚更危険なんですよね。
つーか、戦闘力のみでいえば一誠より上ですし。